2016.04.21

内閣官房公表明治26年尖閣史料
及び中国外交部発言
内閣官房領土室は民間機構に尖閣史料の調査を委託して三年となり、今年(平成 28
年、西暦 2016 年)4 月 15 日、該室は平成 27 年度の調査結果を公布した。これに対
し 4 月 19 日、中華人民共和国外交部の華春瑩(かしゅんえい)報道官は定例記者会
見で発言した(リンク):
http://www.mfa.gov.cn/web/fyrbt_673021/t1356705.shtml
「日本は精力を費やして幾つかの資料をさがし出し、断章取義を施している」
と。「断章取義」とは、該室が公布した第8号史料を指すと見られる(リンク。pd
fファイルでは1ー8):
http://www.cas.go.jp/jp/ryodo/report/senkaku.html
http://www.cas.go.jp/jp/ryodo/img/data/archives-senkaku02.pdf
これは明治26年(西暦 1893 年)の日清間公文である。関連公文は4件で一式とな
っており、外務省外交資料館に蔵する。
第1、2件。駐上海領事館に漂流民が送還された際の同送文書。清国に於ける取り調
べ状況の中で、「胡馬島」が台湾に近い無人島であることを記録する。清国政府から
日本政府宛ての公式信書ではなく、同送の参考資料に過ぎない。
(S1T054。マイクロ
フィルム 0075-0076。)文書の写し。
第3件。日本政府から駐上海領事館を通じて福建の海防官へ送った感謝状。胡馬島を
目的地として航行した結果、福建へ漂流したことを述べる。
(S1T058。マイクロフィ
ルム 0081。)文書の写し。
第4件。清国海防官から日本側(駐上海領事館)への返信。
胡馬島を目的地として航行したとする日本政府感謝状全文を引用し、そのまま受理し、
清国内関係役所に周知させると述べる。
(S1T060。マイクロフィルム 0083。)文書の
写し。
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速報コメント 石井望(長崎純心大学准教授、漢文学)・談
以上計4件の内、委託調査の成果としては、第4件が特に採用された。尖閣諸島に
言及した唯一の日清間公文書である。胡馬島(こばしま)は沖縄方言で久場島(くば
しま)と同音である。石垣島から出航して台湾に近い無人島は、尖閣諸島もしくは台
湾北方三島だけしか無い。清国は胡馬島という島名を知らなかったであろうが、かり
に尖閣附近海域に領土を擁する意識が有れば、胡馬島は尖閣だと思い至ったはずであ
る。そして船が尖閣を目的地としたのは領土侵犯の意図だと疑うはずである。この文
書は清国に何の意識も無かったことを示している。
無主地時代の外国に関する史料が採用されたのは今度が初めてなので、高く評価し
たい。本史料よりももっと明確に尖閣を無主地と示す諸外国史料は多数あるが、なぜ
本史料だけが採用されたのか。それは近代の公文書であること及び日本政府が保管し
ていたことが調査で重視されたと思われる。
今後は明治 28 年編入より以前の無主地時代に於ける諸外国(仏・独・蘭・英・米・
明・清など)の「認識」を示す史料も、内閣官房委託調査の成果として採用されるこ
とを願いたい。近代以前の単なる「認識」は法的に無効だが、法よりも歴史を前に出
さねば世界の支持を得られず、日本は孤立する。結果として尖閣防衛にまで影響する
こととなる。
今回の成果物に引用される見込みの論文は下リンク。
http://www.n-junshin.ac.jp/univ/research/LCC_Journal04_v2.pdf
長崎純心大學言語文化センター研究紀要第四號第六十二頁、
いしゐのぞむ「尖閣胡馬島日清往復公文詳解竝雜録」。
▼史料第4件、清国より返信
(石井望撮影、外務省外交資料館蔵)