視 覚 と 聴 覚 - 大阪府医師会員へのお知らせ

 感覚には、視覚、聴覚、嗅覚、痛覚、触覚、
があり、それぞれの感覚受容器が刺激されてか
痒みなどあるが、外界の物体を認識する際、視
らの反応時間が違ってくる。光刺激の場合の反
覚と聴覚に依存することが多い。神経内科医の
応時間は約65ms、 音刺激に対する反応時間
私は、時々、どちらの感覚が優位なのかを考え
は、それより短く約40msである。この反応時
ることがある。
間の差がおもしろい現象を生み出す。
たとえば、最近日本人選手の活躍が目覚まし
試合において相手がラインで打っ たボール
いテニスや卓球では、どうであるかを考えてみ
を、自陣のラインで認識できる反応時間を比較
た。それぞれの感覚経路は、(刺激)→(感覚
した。 つまり、 相手のライン上で発した刺激
受容器)→(大脳皮質感覚野)であり、視覚野
(光あるいは音)が、それぞれの大脳皮質感覚
は後頭葉に、聴覚野は側頭葉にある。つまり、
野までに到達する所要時間(反応時間)を計算
感覚受容器から大脳皮質感覚野までの距離に差
した。 テニス(ライン間 ;23.77m) では、 光
視 覚 と 聴 覚
広報委員
久堀 保
のライン間の所要時間は無視できるので、視覚
均 速 度 は、 テ ニ ス で は200km/s、 卓 球 で は
的反応時間は65msである。音速を340m/s(15
80km/sに達する。相手がライン(テニス ; ベ
℃、1気圧)とすると、音の場合、ライン間の
ースライン、卓球;エンドライン)上で打った
所 要 時 間 は70msの た め、 聴 覚 的 反 応 時 間 は
ボールが、自陣のラインに到達するまでの時間
110ms(70ms+40ms) となり、 視覚的反応時
は、テニスでは427msであるが、ライン間の短
間(65ms)より長くなる。卓球(ライン間 ;
い卓球では123msに過ぎない。つまり、卓球に
2.74m)の場合、ライン間の光の所要時間は同
おいては卓越した反射神経が必要である。
様に無視できるので、視覚的反応時間は65ms
視覚経路と聴覚経路との反応時間差を考える
で変わらないが、テニスに比べてライン間の距
と、6.8mより遠い物へは、 視覚を介する方が
離が短いため、 音のライン間の所要時間が8
速く反応でき、6.8mより近い物へは、 聴覚を
msと 短 く 、 聴 覚 的 反 応 時 間 は48ms( 8
介する方が速く反応できる。 日常生活におい
ms+40ms)となり、視覚的反応時間(65ms)
て、 近距離にある危険なものから回避する場
より短くなる。すなわち、相手のボールに対す
合、音が非常に重要な役割を担う。近年、ハイ
る反応時間は、テニスでは視覚経路の方が短い
ブリッド車(走行音が小さい)が主流を占めて
が、卓球では聴覚経路の方が短いことになる。
いる。しかし、後方からの接近はもちろんであ
以上から、テニスでは、相手のプレーヤーが打
るが、視野に入る側方からでも急な車の接近の
つボールを見ることが大切であるが、 卓球で
場合、歩行者にとっては走行音が大きいガソリ
は、相手の打つ球の音をよく聞くことの方が重
ン車の方が回避しやすいことになる。環境やラ
要である。テニスでは、「ボールをよく見るよ
ンニングコストを考えるとハイブリッド車は優
うに」
、卓球では、
「球の音をよく聞くように」
れているが、歩行者の安全を考えると、走行音
となる。また、トッププレーヤーのボールの平
が静か過ぎるのも問題である。
大阪府医師会報4月号
(vol.390)