柳田民俗学の継承と普及に向けて

柳田民俗学の継承と普及に向けて
兵庫県立福崎高等学校
主幹教諭 難 波 正 司
1 取組の内容・方法
(1)常民学舎の活動
昭 和 6 2年 よ り 地 元 福 崎 町 の 偉 人 で あ る 柳 田 國 男 の 遺 志 を 継 承 す る た め に 、常 民 学 舎 が 結
成 さ れ た 。 本 会 は 、 播 磨 地 域 に お い て 教 員 や 郷 土 史 家 ら 柳 田 民 俗 学 に 関 心 を 持 つ 2 00 人 余
の会員を有している。主な取組は埋もれた各地域の生活文化や民俗の発掘を行うために
「 石 造 物 と 民 俗 」 「 庭 と 民 俗 」 「 花 と 民 俗 」 の 三 つ の 野 外 講 座 (年 6回 ) の 実 施 、 歴 史 民 俗
誌 「 SAL A( サ ー ラ )」 (年 2回 、 現 在 5 5号 )の 発 行 等 を 通 し て 播 磨 の 民 俗 を 調 査 ・ 研 究 し て い
る文化団体である。
(2)本校での取組
兵 庫 県 学 校 設 定 科 目 「日 本 の 文 化 」 の分 担 執 筆 者 と し て (和 歌 と 俳 諧 ~ 世 界 一 短 い 文 学 )
の項を担当した。また、総合的な学習の時間においては「福崎の民俗文化」や「福崎学」
を 開 講 し 、授 業 で は ふ る さ と の 先 人 が 様 々 な 困 難 を 乗 り 越 え 残 し て き た 思 い や 願 い に 共 感
さ せ 、「 ふ る さ と へ の 愛 着 や 誇 り 」を 持 た せ る と と も に 、ふ る さ と の 抱 え る 今 後 の 課 題 や
展望についても指導している。
下 記 は 、 総 合 的 な 学 習 の 時 間 ( 3年 文 系 、 1単 位 )に 実 施 し た 「 福 崎 の 民 俗 文 化 」 に つ い て
の年間指導計画である。
学
1 柳田民俗学への扉
人の一生
学 福崎の年中行事
民間信仰
期 福崎の衣食住
習
内
容
民俗学って何?
柳田國男の業績紹介
通 過 儀 礼 (人 生 儀 礼 )~ 誕 生 か ら 葬 送 ま で ~
正月の行事、盆と夏行事、秋・冬の行事
庚申信仰と山岳信仰など
衣食住の変遷~食生活・住居・仕事着
2 福 崎 の民 俗探 訪〈 テー マ別 〉 福 崎 の 生 活 文 化 に つ い て テ ー マ 別 に 掘 り 下 げ る
子どもの遊び
学 成人式いまむかし
俳諧~庶民文芸
期 神社の絵馬
戦後の昭和時代の子どもの遊び
元服と成人式の変遷
世界一短い文学
絵馬の種類と祈り
3 福 崎 在 住 の 古 老 へ の 聞 き 書 近 隣 の 古 老 へ の 聞 き 書 き 調 査 (昭 和 初 期 の 生 活 )で
学 き調査
は、生徒に連絡を取らせ、「聞き書き調査カード」
期 班別発表
を使用し、調査した内容を班別に発表させる。
下 記 は 古 老 へ の 聞 き 書 き 調 査 カ ー ド で あ る 。生 徒 各 人 に は 休 日 に 隣 保 の 古 老 を 訪 ね さ せ 、
「昭和初期の生活」について聞き書きをさせた。
資料1
【聞き書き調査カード】
調査地
立地 山村・農村・その他
調査項目
・
・
・
・
談話者氏名
調査年月日
男・女
年齢
歳
職業
調査者氏名
(3)地域社会での取組
近 隣 の 様 々 な 研 究 雑 誌 に 民 俗 や 庶 民 文 化 に 関 す る 調 査 記 録 や 論 文 を 執 筆 し て い る 。以 下 、
幾つかの例を列挙したい。
「 近 世 播 磨 俳 諧 史 の 一 断 面 ~ 姫 路 風 羅 堂 の 成 立 と そ の 展 開 」 『 播 磨 学 紀 要 』 20 00年
「 香 寺 ・ 福 崎 の 近 世 俳 人 ~ 俳 書 ・ 俳 額 調 査 を 中 心 と し て 」 『 香 寺 町 史 年 報 』 20 06年
「 播 磨 に お け る 近 世 の 俳 諧 史 跡 調 査 」 『 関 西 学 院 大 学 教 職 研 究 セ ン タ ー 紀 要 』 20 06年
「 和 歌 と 俳 諧 ~ 世 界 一 短 い 文 学 」 兵 庫 県 県 立 高 校 学 校 設 定 科 目 『 日 本 の 文 化 』 20 07年
「 盲 目 の 俳 人 武 内 玄 玄 一 ~ 生 誕 地 と そ の 家 族 に つ い て 」 『 播 磨 郷 土 研 究 』 20 10年
「 牛 の 神 さ ん ~ 相 坂 西 ノ 奥 の 大 日 さ ん 」 歴 史 民 俗 誌 『 SAL A』 2 0 13年
「 近 世 加 古 川 の 俳 聖 瀧 瓢 水 」 歴 史 民 俗 誌 『 SAL A』 2 0 14年
また 、近隣の市町においては住民に民俗学への理解とその普及のため、小・中学校での
講 演 、姫 路 ・ 加 西 ・ 福 崎 な ど の 自 治 体 で の 講 演 会 や 民 俗 学 講 座 等 を 通 し て 、地 域 住 民 へ の
民 俗 学 へ の 興 味 ・ 関 心 を 高 め て い る 。こ れ ま で に 実 施 し た 主 な 講 演 ・ 講 義 テ ー マ は「 庶 民
文 芸 ~ 近 世 播 磨 の 俳 諧 」(姫 路 文 学 館 )、「 わ れ わ れ は ど こ か ら 来 た か 」(福 崎 町 立 図 書 館 )、
「 福 崎 の む か し の 生 活 文 化 」 ( 福 崎 町 福 田 )、 「 神 社 奉 納 の 絵 馬 あ れ こ れ 」 (加 西 市 加 西 公
民 館 )、 「 ち ょ っ と む か し の 香 寺 」 (香 呂 小 学 校 )等 で あ る 。
2 取組の成果
(1)本校においては、ふるさとへの愛着や誇りを持たせるために、総合的な学習の時間
に お い て 約 10年 前 よ り 「 福 崎 の 民 俗 文 化 」 や 「 福 崎 学 」 の 授 業 を 実 施 し て き た 。 授 業
を通して生徒の地元の民俗への興味・関心は徐々に高まり、一人ひとりが地元に伝わ
る民俗について積極的に学習する雰囲気が出てきた。特に、地元在住の古老への「聞
き 書 き 調 査 」で は 古 老 と 生 徒 た ち と の 温 か い 地 域 交 流 の 場 と な る こ と が 多 か っ た 。こ
れ ら の 生 徒 た ち が 将 来 、地 域 の リ ー ダ ー と し て 地 域 振 興 に 関 わ っ て く れ る こ と を 期 待 し
ている。
( 2 ) 地 域 社 会 に お い て は 、 地 元 福 崎 町 よ り 平 成 24年 度 に 「 福 崎 町 文 化 功 績 賞 」 を 受 賞
した。受賞理由は「長年にわたり播磨の歴史・民俗学及び俳諧・俳句史を研究され、
地域文化の高揚に努めた」であった。また、地元での幾度もの講演・講義で住民の民
俗学への興味・関心も少しずつ高まりつつある。また、神戸新聞に掲載された下記の
「 柳 田 國 男 没 後 五 十 年 イ ン タ ビ ュ ー 」や コ ラ ム「 見 る 思 う 」に は 大 き な 反 響 が あ っ た 。
資料2(神戸新聞平成24年7月31日付)
資 料 3 ( 神 戸 新 聞 平 成 2 5年 4月 2 9日 付 )
3 課題及び今後の取組の方向
( 1 )民 俗 学 は 常 民 (生 活 文 化 や 慣 習 を 代 々 に わ た り 継 承 し て き た 庶 民 )の 生 活 を 解 明 し て い
く 学 問 で あ る 。学 校 教 育 で は 近 接 の 科 目 に 日 本 史 や 世 界 史 が あ る が 、そ れ は や や も す れ
ば 政 治 や 経 済 等 の 分 野 で 活 躍 し た 人 々 の 歴 史 で あ り 、庶 民 の 日 常 生 活 に さ か れ た 頁 は 少
な い 。普 通 の 庶 民 の 生 活 ぶ り を 解 明 す る こ と は 大 切 な こ と で あ る 。そ こ に は 人 が よ り よ
く 生 き る ヒ ン ト が あ り 、民 俗 学 を 学 ぶ 意 義 は そ こ に あ る と 信 じ て い る 。こ れ ま で 週 1時
間 で 授 業 を 実 施 し て き た が 、駆 け 足 の 授 業 で あ り 充 分 に 生 徒 に 民 俗 学 の 大 切 さ を 伝 え て
い る と は 思 え な い 。週 2時 間 で 授 業 を で き れ ば と 思 う 。ま た 、近 隣 の 古 老 の 話 を 聞 く 時
間を作りたかった。
(2)今後の取組の方向は、柳田民俗学の継承と普及のために地元に根を張って今後も精
力的に取り組んでいきたい。柳田國男は「美しき村」という文で「村は住む人のほん
の僅かな気持ちから、美しくも不味くもなるものだ」と。良い村にしようという住民
が増えれば、村が美しくなる。そのために地産地消は大事な視点であり、身の回りの
ものを宝物として再評価することを地産とし特産品として売り出す。福崎町の「もち
むぎ麺」はその成功例の一つだろう。柳田民俗学の功績は受け身では決して広がらな
い。そのためには「福崎の民俗文化」の授業をより充実したものにし、町内在住の歴
史や民俗研究者を講師に招き生徒たちに刺激を与えたい。「日本民俗学の父」柳田國
男はすでに没後五十年を越えた。過去の偉人とせず、現在に生かす努力を地元で今後
も続けていきたい。
(3)地元福崎町に残る数多くの民俗行事を映像化し、多くの町民に知らせるとともに
後世にも残していきたい。
(4)近隣の柳田國男記念館、日本玩具博物館、神崎郡歴史民俗資料館等とも連携して館
員に出前授業をお願いできたらと考えている。
( 5 )本 校 の 所 在 地 で あ る 福 崎 町 福 田 地 区 に お い て 、『 福 田 の 民 俗 と 文 化 』 (仮 称 )を 地 区
の 歴 史 ・ 民 俗 研 究 者 や 関 心 の あ る 地 域 住 民 と と も に 3年 後 を メ ド に 出 版 し よ う と 計 画
中である。