Open Access: Evident Rewards,Ongoing Challenges

REUTERS/DENIS BALIBOUSE
オープンアクセス:
Open
Access:
メリットと課題
Evident
Rewards,
Ongoing Challenges
Open Access: Evident Rewards,Ongoing Challenges
背景にあるアイデアはシンプルです。学術的研究からの研究成果とデータを
商業的障壁や制約なく、無料かつオープンに、あらゆる人々がアクセスできる
ようにすることです。
もちろん、現実の世界では、無料に利用できる情報と
複製、配布、印刷、検索、リンク付け、検索用インデッ
いう理想的な概念は、出版社やその他の商業的ステー
クスに登録するためのクロール、データとしてソフトウェ
クホルダーの利益と相反するものであり、オープンアク
アでの加工、およびいかなる合法的目的のための利用
セス(OA)の普及はそれほど単純なことではありません。 をも可能にするもの」です。この定義では、著作権に関
それでも、現在、OA の原則と慣行は学術的コミュニケー
して唯一考慮すべきことは、著作全体に関する権利は
ションにおいて定着しており、研究の普及と共有のあり
著者に帰属するということ、またそれが適切に認識され、
方を変え続けています。
引用されるべきであることとされています。
ハーバード大 学バークマン・センター(The Berkman
研究へのプラス効果
Center for Internet & Society)の Peter Suber 氏はそ
の著書 Open Access のなかで、OA を「利用料金や 使
Suber 氏やその他の OA 擁護者は、OA は研究に計り知
用許可といった障壁をなくして、研究文献をオンライン
したと考えています。言うまでもなく、講読料や収蔵本
れない恩恵をもたらし、数々の研究機関に利点をもたら
で閲覧できるようにすること」と簡潔に定義しています。 の制限の必要性などの問題がなくなり、図書館にとって
の利点は明らかです。しかし、他の立場でも利点は大き
ここでも非常に単純なアイデアが示されていますが、こ
く、例えば著者にとっては自身の著作をより多くの人々
れは 1 世紀から 2 世紀にもおよぶ出版のしきたりとは正
に公開できるというメリットがあります。教職者や学生
反対にあるものです。ごく最近まで、学術出版の標準
にとっても自身の仕事に役立てたり継続的に学ぶために、
的なプロセスはほとんど変わることがありませんでし
重要な研究にアクセスできる機会が得られます。出版
た。研究者が原稿を学術雑誌の出版社に送り、出版社は、 社や学会にとっても、出版物がより多くの人の目にふれ、
専門家による査読から印刷、完成した論文を有料の購
より大きな影響力を持つという利点に加え、一部のコ
読者へ郵送するまでの業務を行っていました。限られた
ンテンツを OA にすることで、購読者を獲得・維持し宣
読者への物理的な配送を要する印刷物による制約により、 伝基盤を構築する能力を得るというメリットがあります。
そのコミュニケーションの輪は比較的小さなものでした。
研究が広く知れ渡ることで、従来互いの研究について知
最終的に、2 つの大きな力が OA への移行を促すに到り
らないままであった可能性のある研究者や研究機関同
ました。インフレ率をはるかに上回り、特に発展途上国
士のコラボレーションや協力の可能性も高まります。
において学術機関の予算を圧迫しつつある雑誌購読価
格の高騰と、デジタルメディアとインターネットの普及です。 いくつかの調査では、OA の論文は実際に、他の著者か
らの定量化できる引用において、
「有料アクセス」に限ら
2000 年代初期の 3 つの宣言が OA の主な定義と目標を
れた雑誌への出版の場合と比べて、より大きな影響力
明確に示しています。すなわち、ブダペスト・オープンア
を及ぼしていることが示唆されています。
クセス・イニシアティブ(2002 )、オープンアクセス出版
関するベセスダ声明(2003 )、自然科学および人文科
検 索 エ ンジ ン Google Scholar は、OA 資 料 を 特 定し
学における知識へのオープンアクセスに関するベルリン
て全 文バージョンを見つけるために広く利用されてい
宣言(2003 )です。Suber 氏が言うように、ブダペスト
ま す。2015 年 発 表 の 研 究(H.R. Jamili, M. Nabavi,
宣言は同氏が「BBB」定義と呼ぶものを具体的に現して
Scientometrics, [105]: 1635-51, 2015 )において、著者
います。つまり、OA は、情報と「それが公共のインター
らは Google Scholar 上で広く一連の検索を実行し、検
ネット上で無料で利用可能であることを条件としており、 索結果として得られた論文の 61 %について、検索エン
インターネットに接続するという行為そのものに関わる
ジンを介して全文を取得できることを明らかにしています。
制約以外には、金銭的、法的、技術的障壁なしに、任
中でも、テキスト入手率が最も高かったのはライフサイ
意のユーザーがこれらの論文全文を閲覧、ダウンロード、 エンス分野でした。
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オープンアクセス:メリットと課題
OA の原則と慣行は科学
分野のコミュニケーショ
ンにおいて定着し、研究
の普及と共有のあり方を
変え続けています。
REUTERS/NACHO DOCE
開かれるサイエンス
OA 化の動きが勢いを増すなか、その精神は、関連するトレンドである「オープンサイエンス」に向かう推進力にも見られます。
ここでも OA と同様に、透明性とアクセス性が指針となり、様々なかたちで現れています。例えば一部のウェブサイトで
は、研究者に自身の作成中の研究ノートを掲載する機会を提供しており、科学がうまれるありのままのプロセスを紹介
しています。
その他のイニシアティブとして、一般の人にデータの収集や分析に参加する機会を提供する「シチズンサイエンス」が実
践されています。よく知られているものとしてはスローン・デジタル・スカイサーベイがあり、ここでは、2007 年に「Galaxy
Zoo」が立ち上げられ、アマチュア天文学者の協力を得て、専用の光学望遠鏡によって天体についての調査を実施して
います。このプロジェクトは Zooniverse として知られるものに発展しました。このシチズンサイエンスのプロジェクトに
は現在 100 万人以上の有志が登録していると言われ、天文学だけでなく野生生物の観察や歴史的文書や資料の構文解
析などのプロジェクトに参加しています。
その他、一般の人が科学に関与する手段としてはクラウドファンディングがあります。これは研究者が一般大衆から直接
資金を調達するものであり、政府による資金援助が著しく不足するなか、一部の科学者にとって必要性が高まっています。
experiment.com や walacea などのサイトは支援を求めている研究プロジェクトについての情報を提供しています。
市場でいかに OA が受け入れられつつあるかを示すひ
一部の学術誌は「ハイブリッド」モードを実施しており、
と つ の 例 として、Web of Science® は、 現 在 Google
購読料を請求しますが、一部のコンテンツを無料で提
Scholar と シ ー ム レ ス に 接 続 し て い ま す。Google
Scholar の検索結果の一覧から、Web of Science Core
Collection の購読者は引用論文のリストにリンクするこ
とができます。Web of Science 内では、
「全文を検索」
ボタンにより Google Scholar で論文のフルテキストを
供しています。
検索するオプションが表示されています。
オープンアクセスの種類
一般的に OA は「ゴールド」と「グリーン」の 2 種類に分
Suber 氏による造語に倣い、以下のような用語を用い
る人もいます。
「gratis」は無 料を意味し、閲覧のため
の料金は支払いませんが、その後の資料の利用につい
ては制約を設ける可能性が維持されます。これに対して
「Libre」OA は、料金の障壁の排除に加え、再版、デー
タマイニング、ならびにその他の行為を含めてその後の
利用についての制約がないことを示します。
類されます。ゴールド OA とは、論文や他の雑誌コンテ
ンツが出版社のウェブサイト上で、即座に永久アクセス
OA が査読のプロセスを回避または改革しようとする
として無料で一般に提供されることを意味します。これ
試 みだという主 張 もよく見ら れ ま す。 しかし 実 際 は、
は「cover to cover access」とも呼ばれます。出版社は
Suber 氏が述べるように「OA は最も伝統的で保守的な
通常 OA のために費用を請求します。これは著者が支払
ものから最もネットワーク化がすすみ革新的なものにい
うこともありますが、より一般的には著者の所属する研
たるまであらゆるタイプの査読と両立する。OA はアク
究機関や他の資金提供源が支払います。これとは対照
セス方法の一種であり、編集方針ではない」のです。
的にグリーン OA に属する雑誌では、著者は出版費用を
支払わず、自身の論文のテキスト(通常リポジトリや著
者自身のウェブサイトにアーカイブ保存されている)へ
の無料アクセスを一般に提供できますが、出版社はエン
バーゴ期間を設定することができ、この期間はアーカイ
ブ保存されているバージョンへのアクセスが制限されます。
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オープンアクセス:メリットと課題
紙面を超えて
ひとつ 例を挙げれば、 Open Access Scholarly
OA は、個々の論文のコンテンツへのアクセス以上のも
Information Sourcebook では、リポジトリの役割を定
のを示唆します。自分の研究を進めるうえで、研究者は
義することやデータの収集、管理、アクセスについての
最終的に雑誌に出版されるもの以外にも、生データ、画像、 正式な方針を策定するための手順を紹介しています。ま
音声、ビデオ、アニメーションなど補助的な資料を大量
たある専門家は、大学でのリポジトリ構築については、
に作成します。これらのデータはとどまるところを知ら
システムやテクノロジーに集中するのではなくアウトリー
ず増え続け、合わせて数兆ギガバイトにも上ります。
チ活動に重点を置くことを助言しています。教員や学生
にとっては、データリポジトリのメリットや価値は自明
この豊富な資料は、現在世界中に何千と存在するデー
のものではなく、初めは資料をアップロードするよう奨
タリポジトリに散らばって存在します。例えば Registry
励しなければならない可能性もあります。
of Research Data Repositories には、現時点でこのよ
うなコレクションが 1,400 件リストされています。
OA の未来
商業的および学術的環境がすでに変容しており、OA
こうした、保存された情報の増殖と同時に、リポジト
が知識の保存および普及にさらなる変化をもたらすこ
リにあ る豊富 な資 料 へ のアクセスを提 供 するために
とは確実です。これまで以上のスピードで研究の成果
様々なソリューションが生まれています。例えば Web
が蓄積され続けることから、リポジトリ自体も学術的コ
of Science で利用できる Data Citation Index は、国、 ミュニケーションの原動力となります。ノースカロライ
ナ大学の Jason Priem 氏が Nature 誌で述べているよ
機関、分野の境界を超えた数百ものリポジトリへのアク
うに、リポジトリやその他の OA によるコミュニケーショ
セスを可能にします。ここに収録されるためには、リポ
SM
ジトリの安定性や保存されるデータの内容、またデータ
ンが台頭し続けるなか、研究を伝達する主要な媒介と
セットとそれを作成するために使われた文献、またその
しての個々の論文の役割は薄れつつあります。
「学術誌
データを再利用した文献等との明確な関連性といった、 が単一の正式な成果物(論文)について行っていたことを、
様々な基準を満たさなければなりません。
ウェブはあらゆる範囲の学術的成果に対して行っていま
す。論文は、学術的プロセスの一部を凍結し、表示す
リポジトリの構築を計画する研究機関は、現在様々なリ
るために固定するものでした。ウェブは研究室の窓を開き、
ソースやガイドラインを利用することができます。
学術的知識は生まれると同時に広まるようになり、プロ
助成金:OA でなければ No Way
助成金を提供する機関は、その支援から直接得られる研究結果を一般に無料で公開することを条件として定めるように
なりつつあります。例えば、ビル & メリンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)は、2015 年 1 月に OA 方
針を制定し、オープンアクセスを確保するために必要な費用すべてを支払うことを誓約しています。出版社が最大 12 ヶ月
のエンバーゴ期間を適用することが認められる 2 年間の移行期間を経た後、2017 年 1 月以降は、ゲイツ財団が助成する
研究に対するエンバーゴ期間は許容されず、出版と同時にすべての論文およびデータセットを利用できるようになります。
同財団グローバルヘルス部門の所長である Trevor Mundel 氏の言葉を借りれば「グローバルな医療関連コミュニティが
研究データと情報の共有を強化することにより、感染性疾病への対処、妊産婦死亡率と小児死亡率の減少、世界の最
貧地域での栄養失調の減少のための新しい解決策を開発する速度を早めることができます」。
ゲイツ財団は、ウェルカム・トラスト(The Wellcome Trust)、リサーチカウンシル UK(Research Councils UK)、アメ
リカ国立衛生研究所(US National Institutes of Health)など、研究結果の OA 公開を求める助成機関の仲間入りをし
ました。このような機関は増えており、2013 年、バラク・オバマ大統領は政府が助成する研究から生まれるデータすべ
てに対するアクセスの公開を義務付けました。
オープンアクセス:メリットと課題
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研究が広く知れ渡ることで、
従来互いの研究について知
らないままであった可能性
のある研究者や研究機関
同士のコラボレーションや
協力の可能性も高まります。
REUTERS/MAXIM SHEMETOV
OA に便乗する「ハゲタカ」ジャーナル
おそらくオンライン活動におけるあらゆる領域と同様に、よからぬプレーヤーたちも新しい出版モデルから利益を得よ
うと OA の世界に侵入しています。なかでも、新しいオンライン「ジャーナル」が登場し、研究者、特にキャリアを築くこ
とを望むキャリアの浅い科学者や新興国の科学者たちから論文の投稿と、そして当然のように関連費用を求めています。
一部では、論文が「受理された」後になって、請求書で経費について知るというケースも見られます。
2011 年以来、コロラド大学の図書館員 Jeffrey Beall 氏は「ハゲタカ出版社(Predatory Publishers)」のリストを公表し
ており、この原稿の執筆時点で 900 以上の出版社、800 以上の学術誌が該当しています。
様々な悪質行為のなかでも、ハゲタカ出版社は雑誌の影響力に関する偽の指標を使ってそれらのタイトルを宣伝しています。
さらに悪質な行為としては、サイバー犯罪者が定評のある学術雑誌を「ハイジャック」し、似たようなウェブサイトを作成して、
論文の投稿と関連費用を集めています。こうした雑誌では論文の受理率は奇跡的に高く、また適切な査読がなされてい
ません。善意でまっとうな成果物を提出した(そして、その後自分の研究が見掛け倒しの学術誌に関連していることを発
見することになる)著者は損をし、逆に、これ以外では出版するチャンスのない研究者が得をするということになります。
後者はジャンクサイエンスや疑似科学のまん延をもたらし、非常にいかがわしい研究に偽の正当性を与え、さらに悪いこ
とには、研究結果にアクセスする、真の科学と偽の科学との区別ができない一般読者に影響を与えている可能性があります。
いずれにせよ、この問題は後を絶ちそうにありません。例えば、2015 年の報告書ではハゲタカジャーナルの掲載論文
を調査し、2010 年には 53,000 件であったものが、2014 年には 420,000 件にまで増加していることが明らかにされて
います(C. Shen, B. Bjork, BMC Medicine, 13: 230, 2015 )。
防衛手段の一つに、Web of Science 収録ジャーナルの選定プロセスに見られるような、第三者による注意深い審査が
あります。ここに掲載されるまでには、候補となる学術誌に対して入念な調査が行われ、編集手順や出版基準など様々
なテストを通過しなければなりません。
セスと成果物の間に人為的に作られていた区別がなくなっ
この原稿の執筆時点で、 Directory of Open Access
ていくのです」
(495: 437–40, 2013 )。
その他の見識者は、図書館自体もデータリポジトリの増
Journals は、11,000 件以上のタイトルをリスト化しており、
年間掲載数は 2000 年から 2009 年の間に 500 %増加
したと伝えています。OA 化は明らかに後戻りすること
加に伴い、購読ベースのコンテンツを保有する容器とし
のない動きです。継続的な課題は、もちろん、自由なア
ての役割から、コンテンツを実際に生み出す側へと移行
クセスがもたらす利点と営利企業のバランスをとること
することになると推測しています。分野によっては、図
です。
書館が教員と連携し、資金を学術誌の購入からインフ
ラへの投資に回すことで、実質的に商業出版社を通さず、
著者の経済的負担なしに、図書館のコンソーシアムや協
議会等が OA 出版プラットフォームの開発を担うことに
なるかもしれません。
(F.A Chadwell, S.C. Sutton, New Library World, 115:
(5/6), 225-36, 2014 )。
オープンアクセス:メリットと課題
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オープンデータ対ビッグデータ
この 2 つの言葉は互いに取り替え可能に見えますが、
「オープンデータ」と「ビッグデータ」の間には重要な区別があります。
確かにゲノミクス、物理学、その他の科学分野における大規模なデータベースは「ビッグデータ」と言えます。しかしながら、
科学的・学術的研究から生まれるデータセットやアクセス可能な資産、すなわちユーザーが自分の思い通りに精査、分析、
活用できる情報と比べると、ビッグデータの多くは部外者が立ち入ることのできない情報です。小売店、銀行、その他
の会社が収集する顧客情報、またはアメリカ国家安全保障局などの政府機関が市民に対する監視を通して内密に集める
情報がこのカテゴリーに入ります。
ニューヨーク大学の Joel Gurin 氏が The Guardian 紙で指摘するように、オープンでないビッグデータは民主的ではあ
りません。政府や大企業の場合には、この種のビッグデータはこれを保有するものにとって権力と優位性を与えますが、
それ以外のすべての人々を無力にします。政府がビッグデータを無料でアクセス可能で再利用できるオープンデータに変
えるとき、これは強力な経済刺激剤となり、ここからスタートアップ企業がビジネスを立ち上げることが可能になります。
Gurin 氏が結論付けるように、ビッグデータとオープンデータの統合は政府、ビジネス、そして社会全体を有益に変容さ
せる可能性を持っています。
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