2015年メガトレンド

2015年メガトレンド
変わり続ける世界に対する洞察
目次
発刊にあたって
1
イントロダクション
2
エグゼクティブサマリー
4
1. デジタル化
6
デジタル技術があらゆる産業にかつてない
影響を及ぼし、多くの事業機会と同時に
課題を生み出している
2. 起業家精神の発露
14
世界は企業家精神に満ちており、それを
支援するエコシステムが必要になっている
3. グローバル市場の拡大
22
経済の重心が東と南にシフトし続け、
新しいパターンの貿易や投資が生まれている
4. 都市化
30
効果的なインフラ投資を行い、健全な政策を
立てれば、都市の競争力が高まり、
しなやかさ(レジリエンス)のある都市となる
5. 資源豊かな地球
38
需要増大と供給環境の変化により、
資源・エネルギー分野での革新が進む
6. ヘルスケア・ビジネスの再構築
技術革新と人口構成が相まって、
かつてないような変化を促している
44
発刊にあたって
EY ではメガトレンドを、ビジネス、経済、産業、社会、個人に広範な影響を及ぼし、未来を
形作る大きな力を持った、世界の変化の潮流と定義付けています。
私たちの住む世界は絶え間なく変化しています。ヒト(労働力)
・モノ(財)
・カネ(資本)
はかつてない速さで世界を動いており、その流れ方も今までとは異なります。デジタル化
をはじめとする技術革新により、すべての産業の在り方が変わり、日常の生活様式も一変
しました。変化は加速度的に進む、ということが、この世の中で数少ない変わらないこと
の一つであるといえるでしょう。
EY は、デジタル化、起業家精神の発露、グローバル市場の拡大、都市化、資源豊かな地球、
ヘルスケア・ビジネスの再構築という 6つのメガトレンドを特定しました。そのいずれも
が、現在そして将来にわたって、思いもよらない形で私たちの住む世界の既存の秩序を破
壊し再構築する力を持っていると見ています。
本レポートでは、各メガトレンドの最も重要で興味深いと思われる事項について、各種の
調査結果とそこから得られた考察を述べています。それらを総合すると、各メガトレンド
の今後の展開について現在の視点から「確からしい推測」を行うことができます。
こうした推測を行うときはいつもそうですが、未来を透視できるわけではありません。た
だ、現時点においてこれらのメガトレンドが示唆することをじっくり考えるとともに、新
たな展開の兆しを読み解くことは非常に重要であると考えます。EY にとって、メガトレン
」と
ドを理解するプロセスは、
「より良い社会の構築(Building a better working world)
いう私たちの使命に資する洞察を得る重要な方法の一つです。このプロセスを経ること
で、皆様の目の前にある対処すべき課題と、次の成長機会について理解を深めることがで
き、それによって皆様のニーズの変化に的確に対応することができるようになります。
本レポートをご一読の上、各メガトレンドが皆様のビジネスや皆様の取引先企業、顧客
にどう影響し得るのかをご検討いただければと存じます。本レポートが、短期そして長
期にわたる変化への適応と、成長そして成功を実現していただくための一助となれば幸
いです。
Uschi Schreiber
EY マーケット部門グローバルバイスチェア(Global Vice Chair - Markets)兼
グローバル・アカウント・コミッティー委員長(Chair, Global Accounts Committee)
@uschischreiber [email protected]
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
1
イントロダクション
変わり続ける
世界に対する洞察
メガトレンドとは、地球上のあらゆる人々
場合によっては、あるメガトレンドでの成
に大きな影響を及ぼす世界の変化の潮流
果が別のメガトレンドの動向と関係して
を意味します。EY は、ビジネス、社会、文
いることがあります。世界の都市化が進
化、経済、個人に広範な影響を及ぼし未来
行し 2030年までに世界の GDP の 61% が
を形作る力を持った 6つのメガトレンド
750の都市に集中するようになると、都市
を特定しました。
メガトレンドはそれぞれが独立していま
すが、明らかに相互関係があります。例
えば、
「デジタル化」は、他の 5つのメガト
レンドで予想される変化と密接に関連し
合っています。ビッグデータ解析と多様
な機器に内蔵された多くのセンサー、ソー
部には、資源を最適化し、リスクを低減し、
すべての市民が快適に暮らせるための持
続可能でしなやかなソリューションが必
要になります。グローバル市場が拡大す
る中、経済成長は、新興都市を含む世界の
都市への大規模なインフラ投資とそれに
関連する資金調達に懸かっています。
シャルアプリケーションを組み合わせる
メガトレンドは激動する世界を浮き彫り
ことは健康管理の在り方を見直す上で重
にします。経済の重心は東にシフトし続
要な役割を担うでしょう。また、各種のデ
けており、新しい市場と新しい貿易関係が
ジタル技術は未来の「インテリジェントシ
出現しています。産業の境界は曖昧にな
ティ」実現の後押しとなるはずです。デジ
りつつあり、デジタルネイティブ(デジタ
タル「油田」は資源・エネルギーの産出量
ル技術の申し子)の新規参入者が既存のビ
増加と効率の改善に役立てられ、
「スマー
ジネスモデルを覆そうとしています。あ
トグリッド」は世界中の電力の発送電と使
る分野(例えばテクノロジー)の事業者が、
用環境を一変させるでしょう。デジタル
別の分野(例えばヘルスケア・ビジネス)
化したビジネスモデルにより参入障壁が
に新しい大胆な顧客価値の提案を持って
引き下げられ、世界中の起業家が革新的な
参入しています。急激な速さで 2030年へ
新しいベンチャー事業を立ち上げやすく
と向かっている今、これら 6つのメガトレ
なりました。
ンドにおける動向とそれらの相互作用か
ら目が離せないことは確かです。
2
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
各メガトレンドはそれぞれ個別に
重要である、そして相互に密接な
関連性もある。
1
デジタル化
6
2
ヘルスケア・
ビジネスの
再構築
起業家精神の
発露
5
3
資源豊かな
地球
グローバル
市場の拡大
4
都市化
相互関係が強い
相互関係が弱い
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
3
エグゼクティブサマリー
未来を形作る力
デジタル化
「ソーシャル」
、
「モバイル」
、
「クラウド」
、
「ビッグデータ」といった言葉に代表されるサー
ビスや機器、技術の融合と、いつでもどこでも情報にアクセスできる環境を求める声の高
まりに押され、デジタル技術が、産業・企業のあらゆる分野で破壊的変化を起こしていま
す。この変化はあらゆる産業、あらゆる地域で見られます。企業が「モノのインターネッ
)
」に対応した機器を利用して、膨大な情報の入手、新
ト(Internet of Things、以下「IoT」
たな市場への参入、従来製品のリニューアル、新事業の展開や流通体制の再構築といった
絶好のチャンスが生まれています。しかし、デジタル技術を駆使した事業展開は、新たな
競争、顧客との関係性やビジネスモデルの変化、かつてないような透明性、プライバシー
問題、サイバーセキュリティへの脅威など、大きな課題も生み出しています。
技術革新によって人々の働き方も変わりつつあり、機械とソフトウェアが人間に代替す
る分野が増えてきています。デジタル技術の進歩によって生まれる事業機会をつかめた
企業や個人は大きな利益を手にし、つかめなかった者はすべてを失うかもしれません。
起業家精神の発露
新興国であれ、成熟国であれ、経済の成長と繁栄は、今もなお起業家精神の発露に大きく
依存しています。起業家は経済成長の活力源です。自身の仕事場と生活基盤だけでなく、
他者の雇用も創出し、革新的で新しい製品やサービスを生み出し、バリューチェーンの上
流と下流の経済を活性化します。世界各地の起業の一部は、依然として必要に迫られて生
まれていますが、かつてはほとんど成熟国にしか見られなかった「インパクトのある」起
業家の活動が、今や急成長する新興国の経済成長に欠かせない原動力となっています。こ
うしたインパクトのある起業家が、現地のニーズを吸い上げ、革新的で将来性のある企業
を興し、次世代の起業家にとってのロールモデルになっています。
起業家の顔触れも変わってきており、世界中で若い起業家や女性の起業家が増えていま
す。こうした新しい起業家の多くは、生まれたときからデジタル技術に慣れ親しんできた
デジタルネイティブです。どの市場の起業家にとっても資金調達が最大の障害であるこ
とは変わりません。官民それぞれが、資金調達はもちろん、起業の成功に向けての推進力
となる起業家エコシステムの構築においても重要な役割を担っています。
グローバル市場の
拡大
主な新興国において見られる高い経済成長と理想的な人口構成は、今後 10年あるいはそ
れ以上にわたって一つの特徴となるでしょう。成熟国と新興国の格差は縮まる一方です。
中産階級の台頭により成長を遂げた新興国の新たな顔ぶれが世界の注目を集めると思わ
れます。拡大する市場で技術革新が起こり、
アジアが一大中心地として台頭するでしょう。
グローバル市場では、人材獲得競争が激化し、競争優位を確保するために従業員の多様化
を図る必要が出てきます。世界経済は、貿易、投資、金融システムのつながりを通じて互
いに強く依存しているため、国家間のグローバルな政策の擦り合わせが必要です。こうし
た環境で事業を展開する企業が変化に対応できるような、しなやかなサプライチェーン
の構築の必要性が一段と高まります。同時に、一国の戦略とグローバルな協調体制との、
4
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
利害対立はなくならないと思われます。政治、経済、文化の面で、グローバルな協調体制
に対する抵抗と反発が、さまざまな形で現れます。具体的には、貿易や通貨の保護主義政
策、政治目的を実現するための制裁の発動、グローバル化に抗う主張の他、世界各地での
国粋主義的、宗教的、民族的な運動が高まるでしょう。
都市化
新興国における急激な都市化と、成熟国における持続的な都市化によって、世界各地で都
市の数と規模は増大し続けています。国連の報告によると、現在、世界の人口の 54% は都
市に住んでいますが、2050年にはこの比率が 66% に上昇します。
都市化の経済的メリットを生かすには、鉄道、高速道路、橋、港湾、空港、水道、電力、エネ
ルギー、通信その他の社会基盤整備について、官民が効率的な事業計画を立てて、継続的
な投資を呼び込まなければなりません。将来の都市に競争力、持続性、しなやかさ(レジ
リエンス)を持たせるには、気候変動や貧困などの都市が抱える課題に対処する効率的な
政策が不可欠になります。
資源豊かな地球
人口増加、経済発展、中産階級の増加によって、再生可能か不可能かを問わず天然資源に
対する世界的な需要が増大します。世界の天然資源の供給には限りがありますが、新たな
技術によって従来技術では採掘できなかった希少な石油やガス、戦略的鉱物の利用が可
能となり、供給の将来像に変化が生まれています。新しい技術の導入と供給環境の変化に
より、多くの産業でビジネスモデルの修正と革新が進むとともに、地政学的なパワーバラ
ンスも影響を受けます。
同時に、特に環境への影響の観点から、天然資源のより効果的な管理が必要になります。
環境の破壊や、戦略的資源から水や食料などの日常物資に至る資源の確保に対する懸念
の高まりは、地球環境の保護と修復が将来の重大な責務であることを示しています。政
府、社会、企業が連携し、天然資源を利用しつつ経済成長を実現するための、より持続可能
な手段を考案しなければなりません。
ヘルスケア・
ビジネスの再構築
ヘルスケア・ビジネス(ヘルスケアにかかわる産業規模は、すでに世界の GDP の 10% を
占めている)において、かつてないような変化が始まっています。医療制度と医療従事者
は医療費削減の重圧にさらされており、価値創造に重きを置いたインセンティブ制度、よ
り持続可能なヘルスケア制度の確立が急務になっています。人口構成の変化、新興市場に
おける所得増加、慢性疾患のまん延により、医療費削減の圧力はより強くなっています。
ビッグデータ解析とウエアラブルデバイス等を利用した情報通信技術の急速な普及に
よって、生体情報をリアルタイムで計測、分析することが可能になりました。従来ヘルス
ケアとは無関係とされていた企業が競争に参入し始め、新たな競争と協業が生まれてい
ます。
こうした流れを受けて、医療行為の提供(従来のヘルスケア関連企業が従来の方法で提供
する、つまり「治療」
)から健康管理(多様なサービス提供者が、健康的な生活習慣の確立、
治療ではなく予防に、そしてリアルタイムでの対応に、より重点を置いて健康を管理する
こと)へと焦点が移りつつあり、根本的に異なるアプローチが登場し始めています。つま
り、成功するには健康へのアプローチを見直す必要があるのです。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
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6
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
1
デジタル化
「ソーシャル」
、
「モバイル」
、
「クラウド」
、
「ビッ
グデータ」といった言葉に代表されるサービス
や機器、技術の融合と、いつでもどこでも情報
にアクセスできる環境を求める声の高まりに押
され、デジタル技術が、産業・企業のあらゆる
分野で破壊的変化を起こしています。この変化
はあらゆる産業、あらゆる地域で見られます。
企業が IoT に対応した機器を利用して膨大な量
の情報の入手、新たな市場への参入、従来製品
のリニューアル、新事業の展開や流通体制の再
構築といった絶好のチャンスが生まれていま
す。しかし、デジタル技術を駆使した事業展開
は、新たな競争を生み、顧客との関係の再構築
が必要になりビジネスモデルが変化し、かつて
ないような透明性、プライバシー問題、サイバー
セキュリティへの脅威など、大きな課題も生み
出しています。
技術革新によって人々の働き方も変わりつつ
あり、機械とソフトウェアが人間に代替する分
野が増えてきています。デジタル技術の進歩に
よって生まれる事業機会をつかめた企業や個人
は大きな利益を手にし、つかめなかった者はす
べてを失うかもしれません。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
7
デジタル化
デジタル技術があらゆる産業に
かつてない影響を及ぼし、
多くの事業機会と同時に課題を
生み出している
1. デジタル化は、あらゆるビジネスモデルを変化させる
(売上計上の仕組みも含む)
クラウドコンピューティング、ネットワーク接続機器、携帯端末、ソーシャ
ルメディア、データ解析技術の急速な進歩に伴い、どのような製品やサー
ビスを販売すべきか、製品やサービスの提供方式はどうするのか、それら
を実現するためにどのような組織作りをすべきかなど、事業構造を根本的
に見直す企業が増えています。デジタル技術によって新しい製品やサービ
スの投入が容易になり、また、販売後もその顧客から継続的に収益を獲得
するための新たな方法が生まれています。英エコノミスト誌が最近行った
調査によると、企業の 80% 近くは顧客が製品やサービスにアクセスする
方法が変化していると感じ、51% 以上は、製品やサービスの価格設定方法
と提供方式の変更に取り組んでいます 1。定額方式の収益モデルの人気が
上昇していますが、
「フリーミアム(freemium: 基本的な製品やサービス
は無料で提供し、高度な機能や特別の機能の利用には課金を行う方式)
」の
ような少額決済方式や、情報を利用するごとに課金するような方式(Pay-
per-use)も普及してきています。
製品開発や営業活動にデジタル技術を取り入れる場合、価格設定方針、販
企業の80%近くが、顧客が製品やサービスにアクセスする方法が
変化していると回答している。そのうちの51%以上が、価格設定方
法と提供方式を変えつつある。
売プロセス、流通構造の修正を迫られます。デジタル製品やデジタルサー
ビスの販売はさまざまな別のスキルを必要とし、従来とは異なるサイク
ルで進むため、関連業務を管理するために新しい組織構造が必要になり
ます。
また、クラウドなどのデジタルネットワークを通じた商品やサービスの販
出典 : Supply on demand:Adapting to change in consumption and delivery
models , Economist Intelligence Unit, 2013.
売には、収益認識や顧客の個人情報に関して解決しなければならない重要
な問題があります。今後顧客に対応していくには、山積するこうした課題
に対処できなければなりません。
8
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2. パソコンに代わって携帯端末の使用が増えたことにより
「モバイルファースト」が広がる
産業の発展段階を中抜きして次の段階に直接
進むことがあります。ブロードバンド通信の場
合、多くの国、特に新興市場においては、固定回
線が普及する前にモバイル機器が普及しまし
た。
”mobiForge” によれば、8カ国で、パソコン
よりも携帯電話からの Web ページ閲覧が多く
2014年
なっています 2。
2018年
現在のモバイル・ブロード・バンド加入契約数
は 20億件ですが、エリクソンはこれが 2019年
2,040億米ドル
には 80億件弱に拡大すると予測しています 3。
6,260億米ドル
ユーザーは、今や日常生活の中心であるクラウ
ド、携帯機器、ソーシャルテクノロジーを利用
したサービスに期待し、求めています。有名企
48カ国で、パソコンよりも携帯電話からの
業のサイトにアクセスするにもパソコンより
Webページ閲覧が多くなっている。
携帯端末の方がよく使用され、買い物もパソコ
デスクトップ パソコンからのアクセス
ンより携帯端末から行われることの方が多く
は、依然として世界の Web ページ閲覧の
携帯端末は、仕事やコミュニケーションのツー
65%を占めるが、携帯電話からのアクセ
スの比率が上昇しており、2013年には
17%であったものが2014年には29%
ルとしても好まれるようになってきています。
近くに上昇している。
なっています。
携帯端末経由の消費支出は、2014年
の 2,040 億米ドル から2018 年
には6,260億米ドルに増加する。
イーコマースの売上げの半分近くが携
帯端末を利用した取引によるもの
になる。
「自分の携帯端末を業務に使用する(BYOD)」
従業員が増えていることから、企業は自社で動
作確認をした推奨端末だけでなく、従業員が持
ち込む最新の携帯端末に対応する必要があり
ます。こうした変化はすべて、
「モバイルファー
出典 : “Mobile Web has now overtyaken PC in 40
nations, including India, Nigeria and Bangladseh,”
mobiForge website, 19 Septemner 2014,
mobiforge. com/news-comment/mobile-web-hasnow-overtaken- pc-40-nations-including-indianigeria-and-bangladesh, accessed 7 January 2015.
出典 : Bill Siwicki, “Mobile commerce will be nearly
half of e-commerce by 2018,” Internet Retailer
website, 10 March 2014, www.internetretailer.
com/2014/03/10/ mobile-commerce-will-benearly-half-e-commerce-2018, accessed 8 January
2015.
スト」に対応していない従来型の情報通信イン
フラしか持たない多くの企業に大きな課題を
突き付けます。こうした状況を改善するには、
多額の投資と大規模な構造改革が必要です。市
場力学の変化に対応するために、テクノロジー
企業はアプリケーション開発時の優先順位
を変えています。対応できる企業は、PC 用や
Web ブラウザ上で作動するアプリケーション
を開発してから、携帯端末用のアプリケーショ
ンにリメイクするのではなく、最初に携帯端末
向けのアプリケーションとインターフェース
を開発するようになっています。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
9
デジタル化
3. デジタル化とデータ量の急増により、企業と顧客の関係が
根本から変わりつつある
企業は、顧客の要求や嗜好、行動様式を把握す
ソーシャルメディアによって増幅される顧客
るまたとないチャンスに恵まれています。ソー
の声は、企業にメリットとリスクの両方をもた
シャルメディア、イーコマースの利用や携帯端
らします。個々の「プロシューマー(訳者注 : 生
末の位置情報をはじめとする「ビッグデータ」
産者 < プロデューサー > と消費者 < コンシュー
から得られる顧客データの量と種類は、急速に
マ > を併せた造語、自ら欲しいものは自分で
拡大しています。しかし、この豊富で多彩な情
作ろうとする消費者のことで、アルビン E トフ
報を読み解くことは容易ではありません。
ラーの「第三の波」で初出)
」はブランドや製品
データ解析技術を用いてこうした情報から価
値を引き出すことができる企業は、大きな利益
を手にするでしょう。このような企業は顧客
属性をより正確に把握することができ、製品や
サービスを個人のレベルに合わせてカスタマ
イズできます。すなわち、顧客にはるかに豊か
な満足を提供できるのです。これは消費者の高
まる期待に応える上で、
重要な意味を持ちます。
より多くの選択肢と、それを自ら主体的に選択
する自由度、透明性、いつでもどこでも情報に
アクセスできる状況を顧客は求めています。ま
た、消費者は常に自分の考えが反映されること
を望んでいますが、デジタル技術のおかげで、
顧客の声を聞き、ニーズを理解することが極め
て容易になっているのです。
の強力な
「宣伝大使」
になる可能性があり、
また、
インターネットコミュニティは、製品を投入し
テストしたり、あるいは重要なメッセージを伝
えたりする際の、重要な「場」を提供してくれ
ます。他方、企業は、この新しい環境下で、自社
についての情報をコントロールするのに苦労
しています。ソーシャルメディアを通じてタイ
ミングよく適切な形で顧客との関係を築けな
かった場合や、不適切なメッセージを発信した
場合に、企業ブランドはたちまち大きなダメー
ジを受ける恐れがあるのです。ある企業や、そ
のサプライチェーンの取引先企業による失策
や、ネットの住人によって失策とみなされた事
態は、ソーシャルメディアなどによって何の前
触れもなく一気に広まって悪影響を与えます。
このような状況では、
透明性を高めると同時に、
消費者が製品やサービスについてフィード
利害関係者や顧客との関係を積極的に構築し、
バックしたいという欲求に応え、企業は消費者
コントロールする必要があります。
個人やネットワークを通して集められた消費
者情報を蓄積し、次の製品やサービスの開発の
参考にしているのです。
10
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
企業は、現在生成されている
顧客データの約80%を利用
していない。
出典 : Beth Schultz, “IDC: Tons of Customer Data
Going to Waste,” AllAnalytics website, 19 December
2013, www.allanalytics.com/author.asp?section_
id=1411&doc_id=270622&_mc=MP_IW_EDT_
STUB, accessed 8 January 2015.
4. 破壊的な革新性を持ったデジタル技術が、ほとんどの
業界の市場構造、競争環境を変えていく
2018年
2018年までに、大半の業界で上位20社
の3分の1が、それぞれの業界特有のデー
タプラットフォームによって、大きな構造
変化を経験する。
出典 : Perspectives: TCS Consulting Journal,
Vol. 05: The Digital Enterprise: A Framework for
Transformation. Tata Consultancy Services, 2013.
デジタル技術を含む情報通信技術はもはや単
このような業種ごとに特化した新たなデジタ
なる一つの産業分野ではなく、ほぼすべての
ル技術によるソリューションと、既存のテクノ
産業に絶えず影響を与える大きな技術基盤に
ロジー企業がすでに提供しているデジタル技
なっています。情報通信産業以外の企業が(独
術によるソリューションの普及によって、デジ
自に、あるいは企業買収や、
「既存の」情報通信
タル・エコ・システムの拡大が可能になり、市
産業企業との提携を通じて)自社のデジタル
場の競争力学も変化を遂げつつあります。業種
戦略とソリューションを構築することによっ
別のソリューションを提案する企業は、自前主
て、新しいデジタル技術が普及し、その影響力
義でバリューチェーンのすべてを保有してい
によって、産業間の境界が曖昧になりつつあり
るとは限らず、問題解決の提案に当たっては、
ます。従来はテクノロジー企業とはみなされ
そうしたエコシステムを利用して技術を持っ
なかった多くの企業が、自前のデジタルプラッ
た協業企業に頼ることが少なくありません 4。
トフォームを持ち、顧客や取引先企業の独自の
ニーズに応える革新的なソリューションを提
供することで、市場に確固たる地位を築いてい
ます。製品の価格設定とデリバリーを、サービ
スと同じようにクラウドを通じて行っている
企業が増えています。こうした企業が自社に最
適なプラットフォームを構築し、自社の専有技
術を商品化し、それを同業他社に販売している
ケースもあります。
このエコシステムが一般化すると、企業はそう
したデジタル技術を競合相手から調達し利用
する一方で、似たようなバーティカルソリュー
ション(特定の市場にフォーカスしたソリュー
ション)を提供しているデジタル技術を持った
協業企業とも、時に競争することもあります。
この状況では、企業と企業の関係が非常に流動
的になり、あるプロジェクトでは協力者であっ
た企業が、別のプロジェクトでは競争相手にな
ります 5。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
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デジタル化
5. サイバー脅威が増大し、データ、知的財産、
個人情報の保護が難しくなる
データ漏えいは規模、頻度ともに拡大の一途を
たどっており、これまでの大規模データ漏えい
年間3,750億∼5,750億米ドル
事件の 10件中 5件は直近の 2013年と 2014年
6
に発生しています 。データ盗難その他のサイ
バー犯罪は、
大きな経済的損害をもたらします。
米国の戦略国際問題研究所(The Center for
Strategic and International Studies)は、デ
ジタル犯罪と知的財産(intellectual property、
以 下「IP」
)盗 難 に よ る 被 害 額 は 直 近 で 年 間
3,750億∼ 5,750億米ドルに上ると推定して
いますが、これは大多数の国の年間 GDP を上
7
回っています 。
世界でデジタル化が進行し、人々や機器、政府
過去最大規模のデータ漏えいの10件中5件
は 2013 年と 2014 年に発生しており、
2013年にはサイバー攻撃によって
8億件以上の情報が流出した。
デジタル犯罪とIP 盗難による被害
額は現在、年間 3,750億∼5,750 億
米ドル に上っており、これは大多数の
国の年間GDPを上回っている。
や企業などの組織がネットワークにアクセス
するようになったことで、サイバー犯罪の標的
となる新たな脆弱(ぜいじゃく)性が生まれて
います。インターネット、スマートフォン、タブ
レット端末の使用が増え、BYOD(従業員が自
己所有の機器を業務に使用すること)という考
え方の普及とも相まって企業データへのアク
セスが容易になり、データセキュリティの脆弱
性が増しています。企業と個人とのデジタルに
よる結びつきが強まるにつれて、企業データと
個人情報に対するアクセスポイントも増えて
います。
クラウドベースのサービス、外部業者による
データ管理やストレージなどの新サービスも、
サイバー犯罪が発生する新たな機会となりま
す 8。サイバーリスクが急速に高まる中、企業と
政府はデジタル資産を守り、機密情報を保護す
るために協力して長期的な取組みを進める必
要があります。
12
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
出典 : Dave Smith, “Chart of the Day: The Worst
Company Data Breaches Ever,” Business Insider
website, 6 August 2014, www.businessinsider.
com/chart-of-the- day-the-worst-organizationaldata-breaches-ever-2014- 8#ixzz3IDdEeF4y,
accessed 7 January 2015; Special report: Cybersecurity: Defending the digital frontier , The
Economist, July 2014, www.economist.com/sites/
default/files/20140712_cyber-security.pdf. ,
accessed 8 January 2015.
出典 : Net Losses: Estimating the Global Cost of
Cybercrime , Center for Strategic and International
Studies and McAfee, June 2014.
6. デジタル化した世界では、ワークスタイルと雇用形態の
多様化が進む
2020年には、ジェネレーションYと
ジェネレーションZが労働人口の半数
以上を占める。これらの世代は、ネット
ワークにつながって共同で作業したり、
モバイル端末を操作することに慣れ親し
んだ世代である。
鉱業や製造業など一部の業界では、労働者は今
高い自由度を備えた柔軟なワークスタイルの
でも時間と場所に縛られていますが、今後より
普及には、雇用する側にもそれに見合う新しい
多くの産業分野では、時間や場所を選ばず、ど
人材活用スタイルが必要です。テクノロジーの
の端末でも仕事をすることができるバーチャル
進歩により、
企業はインターネットを通じた
「ク
労働者が一般化していくと思われます。モバイ
ラウドソーシング」やフリーランスプラット
ル端末と、ソーシャルネットワーク、クラウド
フォーム(訳者注 : インターネットを使ったフ
技術と、Wi-Fi やブロードバンド接続の普及に
リーランスの人材を紹介するサービス)を通じ
よって、自分の好きな時間に好きな場所で仕事
て組織に属さない人材のネットワークを利用
をすることができる従業員が増えています。オ
できるようになりました。
フィスはなくなりませんが、その形態はより柔
軟になり、実際に顔を突き合わせてより高度な
共同作業を行うための場所になります。こうし
たことはすべて若い世代の従業員にとっては、
受け入れやすいものです 9。2020年には、ミレ
出典 : Jakob Morgan, “Five Trends Shaping the
Future of Work,” Forbes website, 20 June 2013,
www.forbes. com/sites/jacobmorgan/2013/06/20/
Õve-trends- shaping-the-future-of-work, accessed 7
January 2015.
ニアル世代(訳者注 : 英国で、1970年代後半か
ら 1980年代に生まれた世代のことを指すこと
が多い。米国で 1980年から 1995年までに生
まれた世代を指すジェネレーションYと重な
る)とジェネレーション Z(米国で 1995年以降
に生まれた世代)が労働人口の半数以上を占め
ます。これらの世代は、
ネットワークにつながっ
て共同で作業したり、モバイル端末の操作に慣
れ親しんでいるため、彼らの態度や意欲が仕事
こうしたモデルを活用する企業は、基本的に
「ネットワークオーケストレーション型企業」
であり、スキルを持った人材を正規雇用するの
ではなく、必要に応じてネットワークを通じて
スキルを持つ人材や、そのスキルを利用するの
です 11。しかし、こうした状況は管理職に新た
な課題を突き付けます。あちこちに散らばる仕
事に携わる人々の士気を常に高め、生産性を上
げ、満足させなければなりません 12。オフィス
にはいないその場限りの人材を管理するため
に、従来とは異なるスキルが必要になるだけで
はなく、現在の企業風土を維持するのも以前よ
り難しくなるでしょう。
のやり方に大きく影響すると考えられます 10。
7. デジタル技術とロボット技術は労働力の補強となるが、
職を奪われる人も増える
47%
先進国の労働者の業務の
は、今後20年間に機械化・自動化
される「 可能性が高い」
出典 : Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne,
“The Future of Employment: How Susceptible are
Jobs to Computerisation?” Oxford Martin School,
17 September 2013.
機械化・自動化は、長らく人員を削減し危険な
しかし、新しい技術がもたらす影響が労働市場
作業を減らす要因となってきましたが、今後
に有害なものばかりだとは言い切れません。次
10年間は、さらに加速、拡大すると見られます。
世代のソフトウェアや装置を開発し、提供、運
そもそも、機械化・自動化を積極的に推進した
用する新たな事業機会が生まれます。鉱山の採
のは反復型の定型作業を必要とする業務分野
掘現場のトラックの運転手の場合は、多数の無
でしたが、技術的な制約と設備コストの問題か
人トラックを遠隔制御する技術者がとって代
ら、対象となる業務は限られていました。しか
わるでしょう。こうした技術職には高度なスキ
し、こうした状況は一変しています。技術の進
ルが必要です。高度なスキルを備えた一握りの
歩により、従来は関係ないとみなされていた一
人々は大きな利益を手にしますが、そうでない
部の業務を含め、新たな業務の機械化が可能に
大多数の人々は、機械化が容易ではない低スキ
なっています。人工知能と機械学習における技
ルのサービス業に追いやられるか、解雇されま
術革新、コンピューターの処理能力の飛躍的な
す。この状況は、政府と社会制度に対する大き
向上、持ち運びできる高度なロボットの登場と
な圧力となります。新しい環境に労働者が適応
いったすべてが、機械化・自動化を加速させて
できるように再教育する、強固で柔軟性に富ん
います。機械化・自動化は従来、ブルーカラー
だ教育システムが必要になると思われます。
の仕事に影響してきましたし、今後もそれは続
くと思われますが、ホワイトカラーの仕事も
徐々に対象になってきています 13。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
13
14
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2
起業家精神の
発露
新興国であれ、成熟国であれ、その経済の成長
と繁栄は、今もなお起業家精神の発露に大きく
依存しています。起業家は経済成長の活力源で
す。自身の仕事場と生活基盤だけでなく、他者
の雇用も創出し、革新的で新しい製品やサービ
スを生み出し、バリューチェーンの上流と下流
の経済を活性化します。世界各地の起業の一
部は依然として必要に迫られて生まれていま
すが、かつてはほとんど成熟国にしか見られな
かった「インパクトのある」起業家の活動が、今
や急成長する新興国の経済成長に欠かせない原
動力となっています。こうしたインパクトのあ
る起業家が、現地のニーズを吸い上げ、革新的
で将来性のある企業を興し、次世代の起業家に
とってのロールモデルになっています。
起業家の顔触れも変わってきており、世界中で
若い起業家や女性の起業家が増えています。こ
うした新しい起業家の多くは、生まれたときか
らデジタル技術に慣れ親しんできたデジタルネ
イティブです。どの市場の起業家にとっても資
金調達が最大の障害であることは変わりませ
ん。官民はそれぞれが、資金調達はもちろん、起
業の成功に向けての推進力となる起業家エコシ
ステムの構築においても重要な役割を担ってい
ます。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
15
起業家精神の発露
世界は起業家精神に満ちており、
それを支援するエコシステムが
必要になっている
1. 急拡大する市場における起業の動機は、
必要に迫られたものから、積極的な事業機会の獲得へと
シフトしている
急拡大する市場では以前から起業が活発でした。このことは、18歳から
2013年の平均「総合起業活動指数」
64歳までの成人人口に占める、起業準備中、またはすでに起業して新事
業を展開している人の比率を示す総合起業活動指数(Total Early Stage
Entrepreneurial Activity Index、以下「TEA」、訳者注 : 1999年に日本を
含む 10カ国での調査から始まった Global Entrepreneurship Monitor
(GEM)による企業活動が国家経済に及ぼす影響調査の国際研究)から分
かります。
新興国経済圏での TEA が成熟国経済圏でのそれよりもはるかに高い値を
示すことは珍しくありません。それは、新興国では、貧困や月例給などの
北米
賃金制度に基づく雇用機会に恵まれていないため、必要に迫られて起業す
11%
るためです。例えば、サブ ・ サハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ
地域)では必要に迫られて起業したことを示す TEA は 31% ですが、北米
EU
8%
中南米
19%
サブ・サハラ・
アフリカ
では 19%、EU では 23% となっています(いずれも金融危機を受けて上昇
アジア太平洋
12%
27%
したため、正規雇用が大幅に回復すれば再び下がると考えられます)1。将
来に目を向けると、新興国で革新的なスタートアップ企業が増加すると予
想されます。革新的な起業家精神とは、
(必要に迫られた起業とは対照的
に)大きな事業機会となる製品やサービス、プロセスを生み出すことだと
いえるかもしれません。
出典 : José Ernesto Amorós and Niels Bosma, Global Entrepreneurship Monitor:
2013 Global Report , Babson College, Universidad del Desarrollo, and Universiti
Tun Abdul Razak, 2014.
16
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2. インパクトのある起業家は、新興国でも成熟国でも
革新的な事業を興し続ける
成熟国では、優れたアイデアを持ったスター
い現地市場のニーズに合わせた低コストの製
トアップ企業の多くがビジネスを成功させて
品やサービスを提供することができればビジ
おり、大きな影響を与えています。場合によっ
ネスチャンスになるということにあります。実
ては、こうした新興企業が既存の業界秩序を
際にコードを書くというプログラミング教育
破壊し、新たな産業分野を作り出しています。
の普及により、革新的なベンチャーを立ち上げ
Google、Facebook、Twitter、ヴァージンアト
ランティック航空、GoPro などがそのいい例で
る際のハードルが下がっているだけでなく、デ
す。新興市場でも、インパクトのある起業家が
に急拡大させることも容易になっています。新
多数現れています。例えば、EY ワールド・ア
興企業がそのビジネスモデルを他の急成長市
ントレプレナー・オブ・ザ・イヤー TM(World
場でも展開する絶好のチャンスです。中国やイ
「WEOY」
)の最近
Entrepreneur Of The Year、
ンドなどが、自国の生え抜き企業を育てるため
の受賞者は、インド(コタック・マヒンドラ銀
に、資金調達環境の整備に積極的に取り組んで
行)
、
ケニア
(エクイティ銀行)
、
シンガポール
(ハ
いることから、将来的にはより多くの革新的な
イフラックス)
、中国(フーヤオガラス)の企業
ベンチャー企業が新興市場において現れると
です 2。新興国で好調な新興企業が増えた一因
思われます。しかし、今注目を集めているのは、
は、
こうした地域の消費が拡大していることや、
こうしたインパクトのある起業家が世界各地
ささやかなテクノロジーでも、満たされていな
で営利事業として成功を収めていることです。
ジタル技術により新事業を低コストで短期間
EYのUSアントレプレナー・オブ・
ザ・イヤー TM(Entreprenuer Of The
Year 、以下「 EOY 」)の 600 の候補企業
は、2012年に平均総資産利益率でS&P500
とラッセ ル 2000 の 企 業 を 上 回 っ た
(EOYの候補企業が16.8%であるの
に対し、S&P500は7.1%、ラッセル2000
は1.6%)。
出典 : The Bold Ones ̶ High-Impact Entrepreneurs
Who Transform Industries , World Economic Forum,
September 2014.
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
17
起業家精神の発露
3. 起業家の若年化が進んでいる
G20諸 国 の ほ と ん ど で 若 年 層 の 失 業 率 が 危
ユニバーサム社が 42カ国 1万 6,000人のミレ
機 的 な 水 準 に 達 し て い ま す。国 際 労 働 機 関
ニアル世代を対象に行った調査では、回答者の
(International Labour Organization、
「ILO」
)
70% が自身を起業家とみなしていました 4。こ
の 報 告 に よ る と、全 世 界 で 若 年 層 の 13% 弱
の流れを助長するもう一つの要因は起業家教
(7,500万人近く)が失業しています 3。実際の
育ブームです。
カウフマン財団の報告によると、
数字はこれより高い可能性があります。こうし
基づいた雇用機会を得ることが容易ではない
1975年当時米国に 100あった起業家養成講座
は現在、5,000以上に増加しています 5。こうし
た教育と併せて、G20の若い起業家は、資金調
地域で、起業に走る若者が増えています。
達方法の多様化、メンター制度など先行者によ
た状況を受けて、特に月例給などの賃金制度に
成熟国ではリーマンショックとそれに続く不
況による失業、使用者と従業員との間にあった
労働慣行の崩壊、職業やライフスタイルの好み
る指導・助言、税優遇措置、形式的な手続きの
削減など、起業と事業拡大のために支援をさら
に必要としています 6。
の変化を受けて、ミレニアル世代が望む進路と
して起業が浮上しています。
世界の起業家の半数近くは
25∼44歳である。
起業家の割合が最も多いのは
25∼34歳である。
中国の起業家の57%は
25∼34歳である。
出典 : José Ernesto Amorós and Niels Bosma, Global
Entrepreneurship Monitor : 2013 Global Report,
Babson College, Universidad del Desarrollo, and
Universiti Tun Abdul Razak, 2014.
18
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
4. 女性起業家が増えている
現在、世界 67 カ国 で約
世界中で何百万人もの女性が、起業したり新事
後 5年間に少なくとも 6人の従業員を雇用して
業を展開したりしており、その多くは必要性に
事業を拡大しようとしています 9。特に金融市
迫られてではなく事業機会を動機としていま
場の発展が遅れている国では、資金調達が依然
1億2,600万人の女性
す(p.16を参照)
。女性によって起業された企
として女性起業家にとって起業の障害になっ
業も、新たな雇用機会として重要になりつつあ
ていますが、高度な起業支援制度がある国でも
が起業したり、新事業を展
開したりしている。
ります。
同様です。2011年から 2013年にかけて、ベン
世界銀行の報告によると、中小企業の場合、米
国では女性をトップとする企業は他のあらゆ
る企業の 2倍の速度で拡大し、米国経済の 16兆
米ドルのうち 3兆米ドル(19%)を占め、2,300
万人分の雇用(全雇用の 16%)を直接創出して
います 7。新興国でも、女性が経営する中小企業
現在、4,800 万人以上
の女性起業家 と 6,400
万人以上の女性経営者が、
1人以上の従業員を雇
用している。
が増えています。世界全体では、経営幹部の 1
人以上が女性である中小企業はおよそ 800万
∼ 1,000万社に上ります 8。女性起業家も、も
ちろん事業の拡大を図っています。推定 700万
チャーキャピタルから出資を受けた米国企業
のうち、経営幹部に女性がいたところはわずか
15% でした。これは 1999年から 10ポイント
の上昇ですが、2013年においても、経営幹部に
女性が含まれる企業よりも、幹部全員が男性の
企業の方が 4倍以上もベンチャーキャピタルか
ら出資を受けやすいという結果になっていま
す 10。政策立案当局その他の利害関係者は、世
界中の女性起業家が活躍しやすい環境を整え
ることをさらに求められるでしょう。
人の女性起業家と 500万人の女性経営者が、今
出典 : Global Entrepreneurship Monitor: 2012
Women’ s Report , Babson College Universidad del
Desarrollo, Universiti Tun Abdul Razak, and london
Business School 2013.
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
19
起業家精神の発露
5. 支援環境が充実し、起業の拡大を下支えしている
2013年、
14億米ドル
インドでは 、以下の規制緩和
により、 2006 年に 6 億 米ド ル
だった ベンチャーキャピタ
各国における起業家精神を育む
全体的な風潮
6億米ドル
ル投資が2012年には14億米ド
ルへと2倍以上増加した。
キャピタルゲイン課税の
撤廃
海外からの直接投資を
妨げる規制の緩和
上位国はすべて成熟国だった。
下位10カ国中9カ国は
新興国だった。
出典 : The Power of Three: The EY G20
Entrepreneurship Barometer , EY, 2013.
出典 : Adapting and evolving: Global venture capital insights and trends 2014 , EY, 2014.
起業の成功には、支援環境がますます欠かせな
資金調達の選択肢に幅があり充実しているこ
ンチャーと中小企業を対象にした規制・税制
いものとなっており、世界中でこうした環境の
と、教育制度が整備されていること、税制と規
の改善に向けた重点的な取組みを開始してい
整備が進んでいます。理想的な起業の環境の
制が整備され安定していること、起業家精神を
ます 12。
5つの要素は、
(1)資金調達のしやすさ(2)起
業家精神を育む文化(3)支援的な規制と税制
(4)起業家的な発想を支援する教育制度(5)
育む文化が根づいていることなどの点で先進
官民と非営利機関が連携する協調的アプロー
チです 11。G20各国においても、起業家を支援
するための喫緊の課題は、まだ多く残されてい
ます。
20
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
国は新興国に対して先行しています。
新興市場の多くで、起業に向けた活動を活性化
させる多くの有望なプロジェクトも進んでい
しかし、新興国は、上述の 5つの要素が示す課
ます。2014年、アフリカには 90以上のテクノ
題に取り組み始めています。中国商務部の最
ロジーハブ(技術集積拠点)があり、その多くが
近の発表によると、現在、年間新規創出雇用者
インキュベーターやアクセラレーターを提供
数の 75% と輸出の 68% を、ベンチャー企業が
しています 13。
占めているとしており、同国商務部は新規ベ
6. 資金調達は依然として最大の障害になっており、
調達方法の多様化が不可欠である
新興国向けのクラウドファンディング
市場(2013年は50億米ドル)は、2025
年には960億米ドルに拡大する可能性があ
る。それは、新興国の3億4,400万世帯が、
グローバルマイクロファイナンス
市場は、今後5年間に年間19%拡大し、
2014年の57億米ドルから2019年
には140 億米ドル 弱に増加する見通
地域社会に投資するためのクラウドファン
ディングに向けて、出資を行う余裕が生まれ
るためである。
しである。
50億米ドル
2012
140億米ドル
960億米ドル
2025
G20の起業家を対象に行われたEYの調査
57億米
2019
ドル
2014
結果から、起業を促す最も効果的な方法は
資金調達の改善 であることが明らかに
なった。70%は自国での資金調達が難しい
と報告している。
出典 : The Power of Three: The EY G20
Entrepreneurship Barometer , EY, 2013.
出典 : Crowdfunding’ s Potential for the Developing
World , The World Bank, 2013.
新規事業の立上げの際にも、その事業の拡大の
チャー・キャピタル・ファンドの設立や、税制
多 く の 国 に お い て は、銀 行 は 信 用 保 証 制 度
際にも、問題になるのは資金不足であり、この
優遇などを通じて民間の投資資金をスタート
「CGS」
)を 利 用
(credit guarantee schemes、
状況の改善こそが最優先であるべきだと起業
アップ企業に向けさせようとしています。クラ
しています。多くの場合、国からの補助がある
家は指摘しています。世界で起きている事業撤
ウドファンディングやマイクロファイナンス
この制度は、中小企業が資金調達の際に受ける
退の最大の理由として、
黒字化の失敗とともに、
などの金融工学に基づく新しい資金調達の仕
制約を緩和するためのものです。政府の起業援
資金不足が挙げられています 14。
組みは、シードステージやアーリーステージに
助プログラムは、最も有益な支援の一つとなっ
ある企業にとって有力な資金調達手段になり
ています。公的資金は、特に民間の資金と連携
つつありますが、その適用拡大には規制当局の
して提供される場合、
強力な起爆剤になります。
支援が必要です。グローバルマイクロファイナ
コーポレート・ベンチャー・キャピタル(企業
ンス市場により、
小規模企業が、
アングラマネー
が自社にベンチャーキャピタルの機能を持つ
起業したビジネスが成長、拡大すると、頼る資
金調達先が変わります。既存のベンチャーキャ
ピタル業界はグローバル化を続けていますが、
こうした動きに積極的に対応する国の政府は
こうしたニーズの変化に合わせた資金調達の
選択肢を提供する多様なメカニズムと制度を
出典 : Micro finance Market Outlook 2015: Growth
driven by vast market potential , responsability,
November 2014.
に頼ることなく「表の」経済の一員として、納税
こと)も増え続けており(世界で約 1,000件)
、
者になる可能性をもたらしています 15。
特に新興国で増加しています 16。
作っています。例えば、投資対象を絞ったベン
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
21
22
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
3
グローバル市場
の拡大
主な新興国において見られる高い経済成長と理
想的な人口構成は、今後 10年あるいはそれ以
上にわたって一つの特徴となるでしょう。成熟
国と新興国の格差は縮まる一方です。中産階級
の台頭により成長を遂げた新興国の新たな顔ぶ
れが、世界の注目を集めると思われます。拡大
する市場で技術革新が起こり、アジアが一大中
心地として台頭するでしょう。グローバル市場
では、人材獲得競争が激化し、競争優位を確保
するために従業員の多様化を図る必要が出てき
ます。
世界経済は、貿易、投資、金融システムのつな
がりを通じて互いに強く依存しているため、国
家間のグローバルな政策の擦り合わせが必要
です。また、こうした環境で事業を展開する企
業が変化に対応できるような、しなやかなサプ
ライチェーン構築の必要性が一段と高まりま
す。同時に、一国の戦略とグローバルな協調体
制との利害対立はなくならないと思われます。
経済、政治、文化の面で、グローバルな協調体制
に対する抵抗と反発が、さまざまな形で現れま
す。具体的には、貿易や通貨の保護主義政策、政
治目的を実現するための制裁の発動、グローバ
ル化に抗う主張の他、世界各地での国粋主義的、
宗教的、民族的な運動が高まるでしょう。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
23
グローバル市場の拡大
経済の重心が
東と南にシフトし続け、
新しいパターンの貿易や投資が
生まれている
1. 世界の経済の重心は新興国に移りつつある
新興国の経済成長のスピードは今後、やや鈍
化すると予想されますが、それでもなお、非
2030年 2014年
世界全体のGDPに占める新興国の割合
38
63%
常に健全であると見込まれます。2014年か
ら 2030年 に か け て の 予 想 成 長 率 は、中 国
%
223兆米ドル
(+5.9%)や イ ン ド(+6.7%)の よ う な 主 要 国
世界上位企業の数
中国
インド
ブラジル
米国
英国
ドイツ
の他、サハラ砂漠以南のアフリカ(+5.8%)や
2000年
2014年
18
1
3
179
38
37
95
4
4
128
28
28
中 東・ 北 ア フ リ カ(Middle East and North
(+4.9%)などの急成長
Africa、以下「MENA」)
が続く地域で高く、世界経済の重心が東と南に
シフトする傾向は続くでしょう 1。
経済成長と、都市への人口流入、従属人口指数
の低下、理想的な人口構成、所得水準の上昇な
どの社会経済情勢のおかげで、新興国はますま
すグローバルビジネスを展開するのに適した
場所になります。グローバルな展開を望む企業
2030年には、世界全体のGDPに占める新興国の比率は現在の38%から63%に上昇し、
223兆米ドルに達する。
は、多国籍企業も新興国企業もすべて、この世
界経済の重心の移動によって、事業戦略の大幅
な修正を迫られることになります。
出典 : “The super-cycle lives: emerging markets growth is key,” Standard Chartered, November 2013, www.
sc.com/en/news-and-media/news/global/2013-11-06-super-cycle-EM-growth-is-key.html; and EY Analysis of
2000 and 2014 Global Fortune 500 lists, November 2014.
24
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2. 貿易取引のパターンは継続的に変化する
8.7兆米ドル
世界貿易に占める「新興国間取引」
の割合が2020年には3分1にまで
拡大する。
1995年当時は10%に
すぎなかった。
1.6兆
米ドル
2012年
2035年
サービス貿易額は、2012年の1.6
兆米ドル 弱から2035 年 には5 倍の
8.7兆米ドル弱に増加する。
出典 : “Lamy says Europe needs a good compass
to sail through crisis,” World Trade Organization
website, www.wto.org/english/news_e/sppl_e/
sppl275_e.htm, accessed 17 October 2014.
出典 : World Trade Report 2013 , World Trade
Organization, July 2013.
世界の貿易額は 2030年まで年率 8% 増加する
全体としては、世界貿易の一体化が進むと見込
と予想されますが、これは世界の GDP の成長率
まれます。アジアが将来の世界貿易構造の基軸
を上回ります 2。
になる可能性があり、また、世界で高成長してい
中国はすでに世界最大の財貨の貿易取引国で
すが、世界貿易においてその地位を今後さらに
固めていくと思われます。インドやベトナムな
どの他の新興国も、今後 7年間に輸出が年率 2
桁の伸びを示すと予想されます 3。貿易で新興
国が果たす役割が拡大していることと、情報通
信技術が急速に進歩していることが重なって、
サプライチェーンの細分化がさらに進みます。
世界貿易機関は、1990年代には 20%、2012年
には 40% だった輸出額に占める輸入財貨の再
輸出額の比率が 2030年には 60% に上昇する
と見積もっています 4。
る貿易ルート(アジアと MENA、アジアと中南
米、アジアとアフリカなど)の中心であり続ける
でしょう 5。中東とアフリカは、アジアとの経済
の一体化、欧州への近さ、生産コストの低さ、国
内市場の成長を受けて、新たな貿易における結
節点になります。貿易拡大の大きなブレーキと
なるのは、保護貿易主義者からの反発でしょう。
どこにでも存在する多様な保護貿易主義に対処
しながらも、世界経済は貿易と金融システムの
つながりを通じて互いに強く依存しています。
そのため、国家間のグローバルな政策の擦り合
わせや、こうした環境で事業を展開する企業が
変化に対応できるような、しなやかなサプライ
チェーンの構築の必要性が一段と高まります。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
25
グローバル市場の拡大
3. 資本移動に占める新興国の比率が増える
世界の資本移動に占める新興国の比率
は、2010 年の 23% から 2030 年には
47%に上昇する。
世界銀行によると、世界の総資本流入・流出(海
直接投資を行うようにもなっています。メキシ
外直接投資、株式および債券等金融資産への投
コでの産業構造改革、アルゼンチンでのシェー
資、銀行融資その他の投資を含む)に占める新
ルガス開発、ブラジルやメキシコでの自動車生
興国の比率は今後、急速に拡大する見込みで
産拡大の見通しなどが、今後も中南米への投資
す。世界の総資本流入に占める新興国の比率は、
を呼び込む活力となるでしょう。
2010年 の 23% か ら 2030年 に は 47% に 上 昇
するでしょう。政治制度が成熟し、世界規模、地
域規模で金融市場の一体化が進むために、新興
国が魅力的な資金の出し手になると同時に投資
先になっています。こうした動向を受けて、新
興国が今後、世界的な資本移動の仲介役として
活躍する可能性も高くなります。2013年の海
中国とインドが
外直接投資(foreign direct investment)の流
世界最大の資本提供国に
なる。
は 54%、成熟市場は 39%、フロンティアまたは
出典 : Capital for the Future: Saving and Investment
in an Interdependent World , World Bank, 2013.
26
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
れを見ると、投資総額に占める新興市場の比率
過渡的市場は 7% となっています。
新興国における資源開発事業に向けた海外直接
投資の割合は、徐々に低下しているようです。
2013年には、製造業およびサービス業へのグ
リーンフィールド投資(訳者注 : 新規に会社を
設立するなどの投資を指します。既存企業を買
収・合併するブラウンフィールド投資との対比
で用いられる言葉です)が、アフリカ向け海外
直接投資の 90% を占めました 6。こうした変化
を受けて、各国の政策立案当局は、新興国にお
いても事業開発に即した投資環境を整備しなけ
れば遅れを取る状況に置かれています。また、
投資パターンの変化が明らかになっています。
政情不安などがあれば、新興国への海外直接投
アフリカ諸国の海外直接投資は 4% 増加しまし
資が進まない可能性があります。ウクライナで
たが、アフリカ域内での資本移動の占める割合
は紛争後、ロシア向け海外直接投資は大幅に減
が上がっています。世界最大の海外直接投資
少しましたし、エボラ出血熱の流行を受けて、
先は依然としてアジアの新興国であり(全体の
西アフリカへの投資意欲は少なくとも一時的に
30%)、中国は、特に中南米と東南アジアに海外
減退しました。
4. 世界の中産階級が増加し、魅力的な新市場が現れる
主だった新興国では、若年人口の急速な増加と
2030年
63兆米ドル
目覚ましい経済成長が相まって、中間所得層
2014年
12兆米ドル
トック全体に占める新興国の比率は、2010年
が急増しています。世界銀行は、世界の資本ス
の 33% から 2030年には 50% に拡大すると予
測しており、これは世界の富の分配がシフトす
ることを意味しています 7。この傾向が最も顕
新興国合計の
年間消費
支出総額
著に見られるのはアジア太平洋地域です。
さらに、アジアの新興中産階級のうち相当な割
合は、中間所得層のトップに位置し、大きな購買
力を持ちます。中産階級の人口が急増するとい
うことは、消費支出が急増するということです。
世界の中産階級 のうちアジア太平
洋 地 域 に 居 住 す る 人 の割合は、
2009年の3分の1弱から2030年には
3分の2に拡大する。
その結果、こうした新興国はグローバル企業や
国内企業にとって最優先の市場になり、競争が
新興国合計の年間消費支出総額は、2014年
の12兆米ドルから2030年には5倍近く増加
して63兆米ドルに達する。
激化しています。多くの競合企業が参入するこ
うした市場で、購買力を持った多様な顧客層の
ニーズに対応するためには、企業は自社のブラ
ンディングや製品ラインナップの設定を慎重
出典 : Hitting the Sweet Spot: The Growth of the
出典 : Tassos Stassopoulos, “Growing Older in
Middle Class in Emerging Markets , EY and Skolkovo
Institute for Emerging Market Studies, 2013.
Emerging Markets,” AllianceBernstein website,
19 September 2014, blog.alliancebernstein.
com/index. php/2014/09/19/growing-older-inemerging-markets.
に行わなければなりません。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
27
グローバル市場の拡大
5. アジアを核とする「知識の新世界秩序」が生まれつつある
知識生産がアジア、特に中国に移っています。
この知識開発の重心の東への移動で予想され
これまでは、米国、日本、英国、ドイツなどの国
る結果の一つは、新興国における自国発の技術
が研究や教育への投資を主導してきましたが、
革新の増加と、裕福になった新興国における、
新興国、特にアジアの新興国は、学問や研究の
役務のアウトソーシング機会の拡大です。
現在、
成果を着実に増やしています。
裕福になった新興国は、かつては西側先進国の
中国の教育への重点投資が実を結び、理工学分
野での博士号取得者数が米国を上回っていま
す 8。現在、中国の研究者と学者は約 160万人
で、3,000万人以上が高等教育機関に入学して
9
います 。中国は 2011年以降、特許出願件数で
も世界最大を誇っています 10。2022年には、中
国が研究開発投資において米国を超えて世界
11
1位になる見込みです 。主要先進国は今後も
非常に高い教育研究力を維持しますが、世界経
済の重心が東にシフトすることと連動して、知
識開発においても西から東へと重心が移りつ
つあります。
28
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
製造業とシェアードサービスの最高のアウト
世界の研究開発投資
ソーシング先でした。しかし、知識開発の重心
に占めるアジア諸国 の
比率は、過去5年間に33%
から40%に上昇した。
のシフトと軌を一にして、西に比べて人件費が
安いという強みを失いつつあり、付加価値の低
い役務を、自国と比べて人件費の安い新興国に
外注するようになっています。中国の企業は、
人件費が上昇したため、製造をアフリカ、南米、
中東に外注し始めました 12。
東南アジアが世界最大の研究投資地域に
なっており、2010年代末までこの傾向が
続くと思われる。
出典 : 2014 Global R&D Funding Forecast , Battelle
and R&D(rdmag.com), December 2013.
6. 人材獲得競争が激化し、競争優位を確保するには
従業員を多様化する必要がある
優秀な人材をめぐる世界的な競争は、リーマン
多くの組織で労働者の「世代」が広がり、祖父母
ショック以前から極めて激しくなっています 13。
と親、子、孫の世代が一緒に仕事をするように
ヘイズ・グローバル・スキル・インデックスの
なります 17。企業が事業地域を拡大し、現地の
対象 31カ国の大多数で、2013年よりも 2014
人材を活用するにつれて、多様な文化を持つ従
年の方が人材確保の難しさが増しています 14。
業員で構成されるようになります。
この状況が特に深刻なのは、情報通信、理工学、
数学の分野で高度なスキルを持つ人材を探そ
うとする場合です。
優秀な人材の獲得が最も難しいのは成熟国で
す。ブラジル、メキシコ、インドなどの新興国で
は、教育への投資もあって状況が多少、和らい
でいます 15。多数の新興国で、国内の大学卒業
者数が急速に増加しています。
2025年には、先進国ではなく新興国が世界経
2015年には、
新規雇用の60%に
必要とされるスキルを
持った人は全体の
わずか20%になる。
労働者の流動化と、
情報通信技術の進歩により、
国境を越えた連携が可能になり、それによって
多様な経歴の労働者が集まるようになってい
ます。
出典 : Talent Acquisition Forecast 2015 , Qualigence,
2014.
労働者の男女比もバランスが取れてきていま
す。女性は、多くの国の労働市場で長らく大き
な存在ではありましたが、今日になってこれま
では女性労働者の少なかった地域
(特に新興国)
の職場にも多く進出しています。
済に多数の優秀な技術者を提供するようにな
る可能性があります 16。企業がグローバル化を
進め、また、人材の確保が難しくなるにつれて、
54%
60%
雇用する従業員が多様化します。
現在、大学卒業生 の 54% を 主要新
興国が占め、10年後にはそれが60%に
上昇する。
出典 : Global Talent 2021: How the new geography
of talent will transform human resources strategies,
Oxford Economics, 2012.
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
29
30
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
4
都市化
新興国における急激な都市化と、成熟国におけ
る持続的な都市化によって、世界各地で都市の
数と規模は増大し続けています。国連の報告に
よると、現在、世界の人口の 54% は都市に住ん
でいますが、2050年にはこの比率が 66% に上
昇します。
都市化の経済的メリットを生かすには、鉄道、
高速道路、橋、港湾、空港、水道、電力、エネル
ギー、通信その他の社会基盤整備について、官
民が効率的な事業計画を立てて、継続的な投資
を呼び込まなければなりません。将来の都市に
競争力、持続性、しなやかさを持たせるには、気
候変動や貧困などの都市が抱える課題に対処す
る効率的な政策が不可欠になります。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
31
都市化
効果的なインフラ投資を行い、
健全な政策を立てれば、
都市の競争力が高まり、
しなやかさのある都市となる
1. 世界の都市は経済力が増し、豊かになる
オックスフォードエコノミクスと EY が 2014
2億2,000万人の
年に行った調査によると、世界的な都市化現象
消費者
は、迅速に拡大しており、中でもアジアとアフ
リカが最も速いペースで都市化すると見込ま
れます。急速な都市化が、世界の経済成長の原
世界のGDP成長率
2030年 2014年
動力となります。
その影響は、購買力が都市部に集中することに
表れます。
都市住民の豊かさを反映するように、世界の大都
市における必需品ではない財貨の消費拡大が、必
750 の
大都市
需品の消費の伸びを上回るようになります。
世界のGDPの57%を上位750都市で
2030年には、世界の上位750都市で中産
階級が2億2,000万人 増加し、世界
の総消費支出の60%を占め、非必需品
ドルに近づく。
への支出は88%拡大する。
占めている。2030年にはこの数字が61%
に上昇し、
( 2012 年の物価で)80 兆米
出典 : Future Trends and Market Opportunities in the World’ s Largest 750 Cities, Oxford Economics, 2014.
32
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2. 若年層が多い人口構成が、世界各地で都市の発展を
加速する
0∼14歳の90%
人口構成の観点から、都市は「年老いた」都市と
2030
「若い」都市に二分化されます。いずれの都市に
もリスクがあります。若い都市においては、若
年人口は生産的で大きな労働力をもたらしま
すが、不完全雇用やその他の社会悪によって、
社会的に不安定です。年老いた都市では、高齢
者が退職した後、代わりになる若者の数が足り
ず、成長が鈍化し、公的なサポートが不可欠に
なります。
中国の上位 150都市中 30都市の人口は減少が
予想されますが、その他(北京、天津、上海、広
都市の若者が最も増加する のは
アフリカで、ラゴス、アブジャ、ダル
エスサラーム、ルアンダなどの都市で若
年 人 口 が 爆 発 的 に 増 加 す る 。実 際 、
2030 年には上位 750 都市に住む 0 ∼
14歳の人口の90%が、アフリカの
都市に住んでいると見られる。
州など)では、ビジネスチャンスに引き寄せら
それに対し、上位750都市中122都市は、
れる労働力人口が増えるために人口が増加し
高齢化などによって2030年までに人口が
ます。中東の都市でも労働力人口が増加する見
減少すると予想される。これらの大半は、
東欧、ドイツ、イタリア、日本、韓国、中
国の都市である。
通しです。高齢化が進むために都市の人口が減
少すると予想されるのは、中南米(サンパウロ
やメキシコシティなど)
とアジアの他の地域
(ム
ンバイやジャカルタなど)です 2。
出典 : Future Trends and Market Opportunities in the World’ s Largest 750 Cities, Oxford Economics, 2014.
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
33
都市化
3. 都市の経済力の序列が東で高くなる
都市の経済力の重心が東にシフトし、特に中国
に向かいます。
中国のGDP
は中規模都市です。1人当たりの所得が増加し
始めると、中規模都市は潜在的な新市場として
グローバル企業の目に留まるようになります。
例えば、スーラト(インド)
、ルアンダ(アンゴ
ラ)
、ホーチミン・シティ(ベトナム)
、プノンペ
2030年 2014年
さらに、今後 15年間で最も急速に成長するの
8兆米ドル
25兆米ドル
ン(カンボジア)
、ヤンゴン(ミャンマー)
、ダッ
カ(バングラデシュ)などです。もちろん、アジ
アや中南米で新しい大都市や中規模都市が成
長を続けているとはいえ、成熟国の大都市が、
世界最大級、かつ最も需要が高いことに変わり
はありません 3。
2030年には、実質GDPで世界の上位50
都市の40%は中国が占める。
2030年には、中国の上位150都市のGDP
合計は、現在の8兆米ドルから3倍増の25
兆米ドルになると予想される。
2030年の世界の上位6都市中5都市は、
新興国の大都市ではなく伝統的なビジ
ネス・商業中心地 ̶ 東京、ニュー
ヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、パリ
である。
出典 : Future Trends and Market Opportunities in the World’ s Largest 750 Cities, Oxford Economics, 2014.
4. 都市化によって産業構造の変化が進む
これから 2030年にかけて、都市化の進展によ
製造業は特に、十分な成長余地がある新興国の
北京、ラゴス、ムンバイはいずれも、2013年か
り産業構造が変化し、雇用の担い手も変わりま
都市で拡大すると予測されます。その一例は中
ら 2030年の間に金融サービス業の雇用をロ
す。アフリカでは、産業構造が農業主体から製
国の重慶で、中国では産業立地が、地価が高騰
ンドンよりも多く創出する見通しです。ただ
造業主体へ変化すると同時に、急速な都市化を
し人件費が上昇した沿海部の都市からさらに
し、世界の金融センターがニューヨーク、ロン
受けて新たなサービス産業が生まれます。アジ
内陸の都市に移動しています。ジャカルタや
ドン、香港であることに変わりはありません。
アの都市では、引き続き工業での雇用の増大が
ホーチミン・シティなど、中国の製造業集積地
金融・ビジネスサービス業の雇用が増加する
主ですが、アジアの中でも、東京、大阪、ソウル、
に近い周辺国の沿岸都市でも、工業での雇用が
と不動産業も活気づくことになります。新興都
台北など成熟国の都市では、地価と人件費の高
大幅に増加すると予想されます。デリーやハノ
市ではインフラの新設、成熟国の都市ではイン
騰によって工業での雇用は減少すると見られ
イのような都市部は引き続き、比較的安価な人
フラの更新が必要になることから、建設業とそ
ます。
件費の恩恵を受け、ソフトウェア開発などを含
の関連産業は今後も成長を続けるでしょう 4。
む、製造業やアウトソーシング・サービス業の
立地として魅力的な場所です。
34
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
5. 都市化が進んだ世界では大規模なインフラ投資が
必要になるが、予算獲得が課題として残る
G20諸国に対する
B20インフラ・
2012年
投資タスクフォース
2030年
の6つの提言に従うと
60兆米ドル 70兆米ドル
2030年までにインフラが
さらに8兆米ドル相当
拡充される
企業は毎年、さらに
1.6兆米ドルを投資する
急速な都市化には、2012∼ 30 年に60
兆米ドルから70 兆米ドルの投資が必要
である。しかし、予算の獲得が容易では
なく、現状では45兆米ドルしか獲得
できる見込みがない。
今後5年間でさらに2%
成長というG20の目標に
最大1%貢献する
出典 : B20 Infrastructure and investment Taskforce: Policy Summary , B20 Australia 2014, July 2014.
ほぼすべての都市が共通の成長目標を掲げて
た長期の資金調達手法を整備することなどが
います。それは、良質なインフラを整備するこ
含まれています。
とで、機能的で経済成長を促進する都市を作る
ことです。それによって、新たな住民を呼び込
むとともに住民の流出を防ぐのです。多数の
新興国は、新しい都市インフラをゼロから構築
するという課題に直面する一方で、多くの先進
国はインフラの老朽化という問題を抱えてい
ます。
G20が講じるべき措置について B20インフラ・
投資タスクフォース(B20 Infrastructure and
Investment Taskforce)が行った 6つの提言の
中には、国家の成長戦略の中でインフラ整備に
関する具体的な目標を設定する、
「グローバル・
インフラストラクチャー・ハブ(GIH)
(訳者注 :
2014年のブリスベンでの G20首脳会議で設立
が合意された機関)の設立と、投資拡大に向け
世界中で政府予算が伸び悩む中、多くは、官民
「PPP」
)モ
連 携(public-private partnership、
デルに現地のニーズに応じた新たな「特色」を
プラスしながら、インフラプロジェクトへの資
金の確保を続けていくことになるでしょう。
投資家がポートフォリオの分散やより高い収
益機会を狙って、既存の株や債券に代わる代替
投資の対象としてインフラに注目が集まって
いることから、インフラに投資をする金融商品
や年金基金がインフラ向け投資を拡大すると
予想されます。今後、都市の経済成長を享受す
るのは、インフラを整備するための効率的な資
金調達手法を開発し、都市化を推し進める国で
しょう。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
35
都市化
6. 持続可能でしなやかさのある都市の構築が
世界にとって明るい展望となる
都市化によってビジネスチャンスが生まれま
すが、大きな資源リスクももたらされます。急
速な都市化は世界的な資源枯渇の一因になっ
ている一方で、気候変動の影響のいくつか(沿
岸都市周辺での海面上昇や異常気象による被
害など)は都市に大打撃を与えます。世界保
健 機 関(World Health Organization、以 下
「WHO」)は、2012年には 700万人が大気汚染
によって死亡したと報告しています(世界の
死者全体の 8人に 1人)。この大部分は都市部
の住民です 5。調査対象の都市人口(世界の都
一次エネルギー消費の70%と
地球温暖化ガス排出の
80%は・・・
市人口全体のわずか 12%)の約 50% の人々は、
WHO の勧告レベルの 2.5倍以上の大気汚染に
さらされています 6。
地方自治体や国レベルの政策立案当局および
その他の主要な利害関係者は、
密接に連携して、
都市が占め、年間1,000億米ドルの
気候変動適応コストの最大80%は
都市部で発生する。
より持続可能な都市を計画し、建設し、統治す
る必要があります。
「グリーン」や「スマート」と
情報通信技術を駆使することによって、
温室効果ガスを2020年までに推定年間
91億トン削減する可能性がある。
これは、2020 年の予想温室効果ガ
ス全体の16.5%に相当する。
いったキーワードが、持続可能で競争力の高い
都市の重要な特徴になります。グリーンシティ
にはエネルギー効率の良い建物が建ち、ごみは
減量化され、再生可能エネルギーとエネルギー
効率の良い交通システムを中心にした社会に
なります。さらに、デジタル技術を導入した競
争力の高い「スマート」な都市は、最新の情報通
信技術を利用して、スマート・モビリティ・シ
ステム、スマートグリッド、その他のソリュー
ションを提供していきます。
36
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
出典 : “Global Dialogue on Climate Resilient Cities,”
World Bank Climate Change Practice, May 2011.
出典 : GeSI SMARTer: The Role of ICT in Driving a
Sustainable Future , Global e-Sustainability Initiative
and Boston Consulting Group, December 2012.
7. 真に持続可能な都市となるためには、都市の貧困や競争から取り残された
人々への対応にも取り組まなければならない
都市部はマクロ的に見るとより豊かになると予
想されますが、ミクロ的には大きな社会問題に
も直面します。すなわち、すべての住民が都市
化のプラス面の恩恵だけを受けるわけではない
ということです。急速な都市化の負の副産物は、
計画を越えた規模の拡大です。自治体は、スラ
ム街や不法占拠地区(その多くは新興国の都市
にあります)に食料と水、医療、雨露をしのぐた
現在、10億人弱が
スラム街に住んでいる
 サハラ砂漠以南のアフリカの62%
 南アジアの43%
 東アジアの37%
 中南米・カリブ海地域の27%
めの家屋など必要最低限のものを提供しようと
努力しています。
現在、世界のスラム街に 10億人弱が住み、その
大半は新興国にあります。しかし、都市の貧困
は新興国だけに見られるものではありません。
今後15年間に大幅な改善がなければ、世界
米国の国勢調査によると、上位 100の大都市圏
に達すると予想される。
70% が存在しているとされています 7。
のスラム街人口は倍増して20億人
に、同国の国勢調査による「経済的貧困地区」の
都市部の貧困層は、交通渋滞、大気汚染、犯罪、
危険な食料や水の供給という問題の影響をまと
出典 : United Nations.
出典 : Naison Mutizwa-Mangiza, Sustainable
Urbanization in the Post-2015 UN Development
Agenda , Experts Group meeting on the Post-2015
UN Development Agenda, UN Habitat, 27–29
February, 2012.
もに受けています。世界のスラム街人口が今後
15年間に倍増する可能性があることは、この問
題への対処が必要であることを如実に物語って
います。真に持続可能な都市は、都市の貧困に
取り組み、その解決のために、効果的な計画、政
策立案、雇用創出、制度確立、投資、ガバナンス
などを行わなければなりません。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
37
38
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
5
資源豊かな地球
人口増加、経済発展、中産階級の増加によって、
再生可能か不可能かを問わず天然資源に対する
世界的な需要が増大します。世界の天然資源の
供給には限りがありますが、新たな技術によっ
て従来技術では採掘できなかった希少な石油や
ガス、戦略的鉱物の利用が可能となり、供給の
将来像に変化が生まれています。新しい技術の
導入と供給環境の変化により多くの産業でビジ
ネスモデルの修正と革新が進むとともに、地政
学的なパワーバランスも影響を受けます。
同時に、特に環境への影響の観点から、天然資
源のより効果的な管理が必要になります。環境
の破壊や、戦略的資源から水や食料などの日常
物資に至る資源の確保に対する懸念の高まり
は、地球環境の保護と修復が将来の重大な責務
であることを示しています。政府、社会、企業が
連携し、天然資源を利用しつつ経済成長を実現
するための、より持続可能な手段を考案しなけ
ればなりません。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
39
資源豊かな地球
需要増大と供給環境の変化により、
資源・エネルギー分野での
革新が進む
1. 限られた資源をめぐる競争が激化する
える
2030年まで
2035年まで
人増
に
12億
口が
の人
界
世
33%
4,200億米ドル
に増加する
世界のエネ
ルギー需要
需要の大部分を、中国、
インド、中東が占める。
2035年までにエネルギー効率
向上に必要な年間支出
出典 : “World Population Prospects: The 2012
Revision ” , United Nations, esa.un.org/wpp,
accessed 12 January 2015.
出典 : “The United Nations World Water
Development Report 2014: Water and Energy” Volume 1 , UN Water, 2014.
出典 : “World Energy Investment Outlook 2014 ” ,
2030年までに世界の人口がさらに 12億人増
鉱脈等の発見と利用は今後ますます難しくな
者、企業、国家レベルでエネルギーや資源の利
加するために(特に新興国で)、エネルギー、日
り、コストが掛かるようになります 1。天然資
用効率の向上を図る動きが活発化します。国際
常の食品や水の需要が大幅に増大します 1。技
源の戦略的価値が上昇し、天然資源をめぐる競
エネルギー機関は、エネルギー効率向上への年
術進歩のおかげで、従来は採掘が非現実的また
争が激化すると、政府は税や規制をかけて資源
間支出は、現在の 1,300億米ドルから 2035年
は不可能と思われていた資源の利用が可能に
の安全保障を図ります。これを受けて、資源を
には 5,500億米ドルに増加すると予測してい
なり、こうした資源の有限性についての考え方
確保するために保護貿易主義や市民レベルの
ます 2。
が変わっています。しかし、新たな天然資源の
運動が台頭します。こうした流れの中で、消費
40
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
International Energy Agency, 2014.
2. 非在来型エネルギーと再生可能エネルギーの供給が
今後20年間に
増加し、世界のエネルギーミックスが変わる
非在来型資源を発見する最近の技術進歩を考
門知識を身に付け、技術移転契約を結び、非在
えると、まだしばらくの間は化石燃料が、主た
来型資源の開発におけるコスト効率の高い方
るエネルギー源であり続けるでしょう。シェー
法を開発する必要があります。
ルガス開発においては、水平掘削と水圧破砕の
非 在 来 型 石 油 は石 油 供 給 増 加 の
70%を占め、非在来型天然ガスは世界の
天然ガス生産増加の50%弱を占める。
技術導入によって、シェール層から天然ガスを
取り出すことが可能になりました。
採掘企業は、
天然ガスと共に、硬質地層から石油を生産する
高度な掘削および仕上げプロセスも開発しま
した。
出典 : BP Energy Outlook 2030, BP, January 2013;
and World Energy Outlook 2012 , International
Energy Agency, 2012.
一 方、超 深 海 掘 削 リ グ の 数 は 2012年 以 降、
低下する見通しで、再生可能エネルギーが急速
に普及します。全世界で、新たに追加される発
電能力の 2メガワット中 1メガワットは再生可
需要と供給は相互に影響するため、非在来型エ
ネルギーの供給増加は、エネルギー価格に影響
を与え、また、輸入国と輸出国にさまざまな形
出典 : “The People’ s Climate,” Project Syndicate
リサイクル、リユース、リデュース、スマートグ
リッドなどの技術を総称した言葉)のコストが
能エネルギーによるものです 4。
なパワーバランスが変わる可能性があります。
がある。
境問題の解決に向けた、再生可能エネルギーや
界のエネルギー生産拠点は従来のユーラシア
フリカに移り始めており、貿易構造や地政学的
2030年には、再生可能エネルギー
による発電の割合が50%に達する可能性
して、クリーンテクノロジー(訳者注 : 地球環
22% 増加しています 3。こうした進歩により、世
や中東から北米、オーストラリア、ブラジル、ア
全世界で見ると、すでに新たに開発された
発電能力の2メガワット中1メガワットを
再生可能エネルギーが占めている。
非在来型エネルギー資源の供給の増加と平行
で影響を与えます。石油やガスの開発企業は、
市況に合わせた需要調整を行い、設備投資計画
を変更します。
屋根に太陽光発電装置を設置するなど、クリー
ンな分散型発電システムを導入することで、消
費者が自分で何らかの対策に取り組むように
なっています。エネルギーミックスが変化し、
また、消費者の交渉力が高まることで、官民か
らのインフラ需要が高まります。それには、銀
行や資本市場から資金調達をする新しい仕組
みと資金の出し手が必要です。投資家は、炭素
排出問題と投資リスクに敏感になり、効果的で
非在来型エネルギー源が新たに発見された場
透明性の高い二酸化炭素の排出量削減や、エネ
合、または新たに採掘可能になった場合、政府
ルギー効率改善プログラムを実施している企
予算、エネルギー政策、石油・ガスの供給契約
業を好むようになります。
等を見直す必要があります。多くの国では、専
website, 24 September 2014, www.projectsyndicate.org/commentary/monica-araya-andhans-verolme-say-that-the-people-s-climate-marchwas-just-the-start-of-popular-pressure-on-worldleaders, accessed 12 January 2015.
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
41
資源豊かな地球
3. 水不足によって食料とエネルギーの確保が難しくなる
国連は、2030年には水の需要が供給
を40%上回り、水不足が世界人口の50%
弱に影響を与える可能性があると予測し
ている。
出典 : The United Nations World Water Development
Report 2014: Water and Energy ̶ Volume 1 , UN
Water, 2014.
2030年には、淡水不足によって穀物
生産が30%減少する可能性がある。
世界のエネルギー生産の90%は
水に依存している。
出典 : Global Risks 2014: Ninth Edition , World
出典 : World Water Development Report 2014 ,
Economic Forum, 2014.
United Nations, 2014.
前世紀、水の使用量は人口増加率の 2倍以上の
(
「水・食料・エネルギーの連鎖」
)
。世界全体で
需要だけが多くなり、エネルギー生産や個人消
ペースで増加しました。国連は、2030年には
は、淡水を最も利用するのは農業で、水利用全
費への水の配分が減少する中で、こうした水に
水の需要が供給を 40% 上回り、水不足が世界人
体の約 70% を占めます。推定 8億 7,000万人が
アクセスすることはますます困難になります。
口の 50% 弱に影響を与え、世界人口の半分近
現在、食料自給の不足や食料の調達方法が乏し
食料、エネルギー、水は大きく相互依存してい
くが水不足に直面する可能性があると推定し
いことによって栄養不良になっていますが、こ
ますから、これら三つ全部に対応する取組みが
ています 5。この状況は特に新興国で顕著に見
の状況は悪化する恐れがあります 7。
必要です。技術革新を促し、供給側のリスクに
られるようになります。2025年には、水の利
用が新興国で 50%、先進国で 18% 増加すると
予想されています 6。この状況を考えると、水の
利用をめぐる緊張は高まり、それがエネルギー
や食料の生産に与える影響は大きくなります
42
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
(増加する人口に食料を供給するために必要
な)食料生産ニーズと、国内の消費や産業用途
での消費ニーズの折り合いをつける必要性が
高まります。
対処するには、政府と企業の連携を強める必要
があります。
4. 気候変動と異常気象への対応力やしなやかさが
2050年
特に求められている
新興国が気候変動に適
応するコ ス ト は、
2050年まで年 間
700億∼1,000億
米ドルになる。
1950∼ 2010年 に、地 球 の 平 均 地 表 温 度 は
1890∼ 1950年のそれより 6倍速いペースで
上昇しました 8。国連は、台風や地震、洪水にさ
らされる大都市の人口は、21世紀前半に 2倍以
上増加すると予想しています 9。
2014年
出典 : “Economics of Adaptation to Climate Change,”
World Bank, 6 June 2011, www.worldbank.org/en/
news/ feature/2011/06/06/economics-adaptationclimate- change, accessed 12 January 2015.
インフラを整備するための対策が必要になり
ます。とりわけ新興国の都市ではそうです。
先進国で旧来のインフラを強化して異常気象
による災害から守ることも急務になります。各
国は、気候変動に柔軟に対応できるインフラを
気候変動と異常気象による災害の増加は、膨大
構築(し、改良)するのに必要となる原資のため
な経済的損害をもたらし、一部の地域に安全保
の新たな資金調達手法がこれまで以上に必要
障上、
深刻な問題をもたらす可能性があります。
になります。政府と民間事業者は、ダウンサイ
最近のある報告書では、気候変動の影響はすで
ドリスクを特定してそれに備えるだけではな
に世界の「脆弱な地域」
(訳者注 : 社会問題や地
く、問題に対処するための直接的な行動も取っ
政学問題、政情不安などを抱える地域)の不安
ています。多くの政府は、炭素税や排出権取引
定性を加速させており、紛争のきっかけとなっ
制度などの政策手段を通じて、より二酸化炭素
ていると結論付けています 10。気候変動や天災
排出量の少ない経済への移行に取り組んでい
による影響は、世界各地の成長しつつある都市
ます。大手企業は、二酸化炭素の排出コストな
で特に深刻になります。こうした問題を抱えな
どの多様な不確定要素を意思決定プロセスに
がら都市人口が拡大しているため、災害に強い
織り込むようになっています。
5. グローバル・サプライ・チェーンの透明性と安全性が
不可欠になる
世界経済フォーラムが最近行った調査では、
サプライチェーンの効率と安全性を改善する
回答者の 90% 以上が、この 5年間に組織内で
ために、製品自体とサプライチェーンの各プロ
のサプライチェーンと輸送のリスクマネジメ
セスの技術革新を起こすことで、ライバルと差
ントの優先度が高くなったと答えています 11。
別化することができます。透明性もそうです。
Allianz Risk Barometer for 2014は、すべて
の被保険損失の約 50∼ 70% を事業中断とサプ
今日のように情報通信技術が発達し、ネット
ライチェーンの機能不全が占めていると述べ
れているようなものです。
規制機関と、
ソーシャ
ています 12。環境的、地政学的、経済的、技術的
ルメディアによって力を持った賢い消費者は、
な要因によって、今後もグローバル・サプライ・
原材料のトレーサビリティと調達手段の透明
チェーンに機能不全がもたらされます。
企業は、
性を厳しく追求するでしょう。社会的貢献や環
垂直統合や供給業者との共同開発によって原
境貢献が標準以下の企業は、企業イメージが瞬
材料のコントロールを強化しようとします。
時に著しく傷付く恐れがあります。関心を持つ
共同物流などが進む可能性があり、資源の効率
的利用とリサイクルが議題として取り上げら
れます。
ワーク化が進んだ世界では、企業は衆人監視さ
利害関係者が多様化し、
また、
より強力なコミュ
ニケーション手段が登場するにつれて、すべて
の組織にとって透明性がいっそう重要な訴求
ポイントになります。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
43
44
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
6
ヘルスケア・
ビジネスの
再構築
ヘルスケア・ビジネス(ヘルスケアにかかわる
産業規模は、すでに世界の GDP の 10% を占め
ている)において、かつてないような変化が始
まっています。医療制度と医療従事者は医療費
削減の重圧にさらされており、価値創造に重き
をおいたインセンティブ制度、より持続可能な
ヘルスケア制度の確立が急務になっています。
人口構成の変化、新興市場における所得増加、
慢性疾患のまん延により、医療費削減の圧力は
より強くなっています。ビッグデータ解析とウ
エアラブルデバイス等を利用した情報通信技術
の急速な普及によって、生体情報をリアルタイ
ムで計測、分析することが可能になりました。
従来ヘルスケアとは無関係とされていた企業が
競争に参入し始め、新たな競争と協業が生まれ
ています。
こうした流れを受けて、医療行為の提供(従来の
ヘルスケア関連企業が従来の方法で提供する、
つまり「治療」
)から健康管理(多様なサービス
提供者が、健康的な生活習慣の確立、治療ではな
く予防に、そしてリアルタイムでの対応に、より
重点を置いて健康を管理すること)へと焦点が
移りつつあり、根本的に異なるアプローチが登
場し始めています。つまり、成功するには健康
へのアプローチを見直す必要があるのです。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
45
ヘルスケア・ビジネスの再構築
技術革新と人口構成が相まって、
かつてないような変化を促している
1. ヘルスケアに掛かる費用と、その品質、普及といった課題
がヘルスケア改革の取組みに拍車を掛ける
世界各地のヘルスケア制度は、拡大する費用負
ビスを提供する側は、現行制度の効率性を
担の抑制、ヘルスケアの品質と健康転帰の改
高めようと努力しており、治療等の内容で
善、ヘルスケアそのものの普及拡大という三つ
はなく転帰とその価値に基づいた、新しい
の目標を掲げ、その実現に取り組んでいます。
サービス提供と費用支払いの仕組みを試み
この三つの課題は、互いに矛盾することを
求 め て い ま す。そ の た め、多 く の 国 で 検 討
され、積極的に導入されている改革プログ
ラムは、基本的に、この三すくみを調和しよ
ヘルスケアコストは、
世界中で以前にも
まして喫緊の課題に
なっている。
ています。また、品質、価格その他の評価尺
度に関する情報の透明性を高め、患者や周り
の人々が適切な判断を下せるようにしてい
ます。
うとするものです。費用を支払う側とサー
米国 ̶ GDPに占めるヘルスケア
費用の割合は、2012年の17%から
2023年には23%に上昇する。
欧州 ̶ フランスの成人の13%と
英国の成人の6%は、医療費の支払い
で深刻な問題を抱えている。
インド ̶ ヘルスケア関連の負担が
貧困の主因である。
出典 : “NHE Fact Sheet,” Centers for Medicare &
Medicaid Services website, September 2014,
www.cms. gov/Research-Statistics-Data-andSystems/Statistics- Trends-and-Reports/
NationalHealthExpendData/NHE-Fact-Sheet.
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46
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2. 慢性疾患の発生率が急激に上昇し、生活習慣改善の
必要性に迫られる
47兆米ドル
非伝染性疾患は医療費の75%を占め、
世界中で慢性疾患がまん延し始めています。こ
定着で、世界全体の慢性疾患の患者数が今後急
の慢性疾患の負担は、欧米、日本、中国での高齢
増します。現在、慢性疾患による死亡の 80% を
化もあって、今後、劇的に増加すると予想され
低所得国と中所得国が占めていますが、1990
ます。これらの国では、2010年から 2030年の
年には 40% 弱にすぎませんでした 2。慢性疾患
間に 60歳以上の人口が 2倍以上増加します 1。
は徐々に進行し、かつ生活習慣の影響が大きい
慢性疾患は、かつては主に比較的豊かな国に見
2030年には世界のGDPの47兆米ドル
られましたが、新興国の所得増加、食生活の変
がこの疾患のために失われる。
化、体を動かすことが少ないライフスタイルの
ことから、生活習慣改善の新しい取組みが必要
です。
その対象には、
喫煙、
アルコール摂取過多、
運動不足、貧しい食生活などがあります。
出典 : The Global Economic Burden of Non-
communicable Diseases, Harvard School of Public
Health and World Economic Forum, September
2011.
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
47
ヘルスケア・ビジネスの再構築
3. ウエアラブルデバイスの普及やソーシャルメディアの利用拡大で、
ヘルスケアが日常生活に取り入れられる
2020年には
2万以上の
現在
2013年
その数は今後も増える。
ペタバイト
現在は
ヘルスケア用スマート
フォンアプリがあり、
25,000
2018年
+40
%
世界のウエアラブル端末などの携帯
型の健康管理フィットネスセンサー市場
は、2013年から2018 年にかけて年平均
40%の伸び率で拡大する。
50ペタ
バイト
ソーシャルメディアによって膨大なヘルス
ケア関連データが生成され、現在の50ペ
タ バ イト か ら 2 0 2 0 年 に は 2 万
5,000ペタバイトに増加する。
出典 : Robert J. Szcerba, Why Mobile Health
Technologies Haven’t Taken Off(Yet), Forbes
website, 16 July 2014, www.forbes.com/sites/
robertszczerba/2014/07/16/why- mobile-healthtechnologies-havent-taken-off-yet, accessed 12
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出典 : Infiniti Research Limited report , HIT
Consultant, September 2014.
出典 : Care customization: applying big data to
clinical analytics and life sciences , Healthcare IT
News, October 2013.
ウエアラブル端末などの携帯型の健康管理
ソーシャルメディアも、ますます重要な役割を
ウェアラブルセンサーや埋込型センサーとい
フィットネスセンシング技術の急速な進歩に
果たすようになっています。患者とヘルスケア
う新しい技術の登場により、携帯型の生体活動
より、患者はより直截的な情報にアクセスし、
サービスの提供者をつなぎ、両者がサイト上の
センシング技術が日常生活にスムーズに溶け
自分の健康管理に積極的にかかわれるように
交流を通じてお互いに新たな関係を構築する
込むことは確実です。こうした技術は「医療行
なりました。スマートフォンのアプリとワイヤ
ことが可能になっています。
為」
(主に病院や医院で提供される)を「健康管
レスで接続された医療機器によって、リアルタ
理」
(患者がどこにいても管理する)に変えつつ
イムで生体情報を取得し、リアルタイムで処置
あります。
を行うことが可能になっているのです。
4. ビッグデータの時代に突入したヘルスケア
電子カルテ、医療費請求書、投薬履歴、携帯型の
ています。ビッグデータの活用は、創薬におけ
生体活動センシング技術などから得られる大
る生産性を改善するでしょう。ビッグデータ解
量の情報があれば、ヘルスケア・サービスにお
析によって、開発における問題点をいち早く見
いて、
「ビッグデータ」解析技術を活用すること
つけ、無駄の少ない臨床試験を実施し、新薬の
が可能になります。スタートアップ企業から大
発見と承認を早めることができます。遺伝子、
企業まで、多数の参入企業が、積極的に上述の
表現型、処方、健康転帰、人口その他に関する大
ようなさまざまな情報源から集めたデータを
規模なデータベースを構築し、
分析することは、
集積し分析、創薬からヘルスケア・ビジネス連
ヘルスケアにおける予測と、予防の双方の究極
携まであらゆる面での効率改善を図ろうとし
的の姿にとって不可欠になります。
+23.7%
2012
2017
世界の医療分析市場は、2012 年から
2017年にかけて年平均23.7%の
伸び率で拡大する。
出典 : Denise Amrich, “Healthcare analytics market
to exceed $10bn by 2017,” ZDNet, 31 March 2013,
www. zdnet.com/healthcare-analytics-market-toexceed-10b- by-2017-7000013322, accessed 12
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48
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
5. 遺伝子やゲノム情報の登場で創薬が変わりつつある
遺伝子やゲノムの情報(薬理遺伝学とゲノム薬
象となり、有望な新薬発見プログラムに役立っ
薬候補の特定が著しく効率化されます。薬理遺
理学)が登場したことで、新しい治療法の開発
ています。遺伝子発現プロファイリングを行
伝学のおかげで、臨床試験で失敗する新しい創
が劇的に変化しています。特定の発病メカニ
うと、細胞がその治療にどう反応するかが分か
薬分子の数も減り、従って薬剤開発コストも低
ズムに関与していると思われる遺伝子と遺伝
り、薬物・疾患相互作用についての新たな理解
下します。
子産物(タンパク質など)が新たな治療研究対
に役立ちます。こうした手法を併用すれば、新
6. 個別医療の時代が到来する
臨床レベルでは、
待望の個別医療(personalized
2018年
個人ゲノム解読の
コストは
1,000米ドル
以下に低下した ̶ これは
本格的に普及する前触れで
ある。
medicine)がついに実現します。個人ゲノム
解読のコストが大幅に低下したことを受けて、
(製薬などの)医療関連メーカーは個別医療に
力を入れています。
標的治療は高額であるために患者にとっては
2013年
個別医療診断市場は、2013年から2018
年の間に2桁の年平均伸び率で拡大する。
負担が重くなりますが、ゲノムデータの増加が
予想されることは、このデータを得て解明しよ
うとする企業に新たな事業機会を与え、挑戦を
もたらします。個別医療診断市場は、2013年
から 2018年の間に 2桁の年平均伸び率で拡大
出典 : “Personalized Medicine Diagnostics Market and Forecast,” RnRMarketResearch.com, July 2014.
する見込みです 3。
7. 伝統的なヘルスケア企業と他の業界からの新規参入企業
との競争が激化する
以前はヘルスケアとはまったく縁のなかった分
タ解析の分野で競争に加わっています。小売会
たアプローチは、分野横断的な連携の新たな事
野の企業が、ヘルスビジネスに参入しています。
社と食品メーカーは、より健康に配慮した食品
業機会をもたらします。他方、成熟産業である
テレコム業界の企業は、患者が自分の健康を管
の開発に取り組んでおり、健康的な生活習慣を
既存のヘルスケア企業は、既存の業界構造が破
理できる技術を開発しています。IT 企業は、デー
啓発する一翼を担う可能性があります。こうし
壊されるのではないかと懸念しています。
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
49
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2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
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2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
2015年メガトレンド 変わり続ける世界に対する洞察
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EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
EY について
EY は、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーなどの分野に
おける世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質なサービスは、世界中の資
本市場や経済活動に信頼をもたらします。私たちはさまざまなステークホルダーの期
待に応えるチームを率いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、
クライアント、そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。
EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネットワークであ
り、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。
アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サー
ビスは提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。
EY FSO(日本エリア)について
EY フィナンシャル・サービス・オフィス(FSO)は、競争激化と規制強化の流れの中
で様々な要望に応えることが求められている銀行業、証券業、保険業、アセットマネジ
メントなどの金融サービス業に特化するため、それぞれの業務に精通した職業的専門
家をグローバルに有しています。また、各業界の規制動向を予測し、潜在的な課題に
対する見解を提示するため、業種別にグローバル・ナレッジ・センターを設け、規制
動向の収集や業界分析を行っています。EY FSO(日本エリア)は、グローバル・ネッ
トワークと連携して、金融サービス業に精通した職業的専門家が一貫して高品質な
サービスを提供しています。
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All Rights Reserved.
本書は EYG no. EX0253の翻訳版です。
ED None
本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務およびその他の専門的な
アドバイスを行うものではありません。新日本有限責任監査法人および他の EY メンバーファームは、
皆様が本書を利用したことにより被ったいかなる損害についても、一切の責任を負いません。具体
的なアドバイスが必要な場合は、個別に専門家にご相談ください。
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