Apr 19, 2016 No.2016-017 伊藤忠経済研究所 Economic Monitor 主席研究員 武田 淳 主任研究員 須賀 昭一 03-3497-3676 03-3497-3678 [email protected] [email protected] 需給が一旦改善し底堅さを増す中国経済(1~3 月期 GDP) 1~3 月期の実質 GDP 成長率は大方の予想通り前年同期比 6.7%となり、中国経済が緩やかに減 速していることが示された。PMI や生産者物価など一部の指標からは、在庫調整が進展し、需給 状況が改善しつつあることが確認され、工業生産や都市のインフラ整備を中心とした固定資産投 資も持ち直している。ただし、製造業の過剰設備や固定資産投資を支える不動産の在庫の解消に はまだ時間がかかり、景気の下押し圧力は残っている。中国経済は短期的には底堅さを増してい るものの、楽観はできない状況が続こう。 1~3 月期の成長率は予想通り緩やかに減速 今月 15 日に発表された 2016 年 1~3 月期の実質 GDP 成長率 1 実質GDP(産業別)の推移(前年同期比、%) は、大方の予想通り前年同期比+6.7% となった。前の期 16 (2015 年 10~12 月期)の前年同期比+6.8%から伸びが鈍 14 GDP全体 2次産業 工業生産 12 化し、中国経済は緩やかに減速していることが示された。産 10 業別の動きを見ると、第三次産業は、前年同期比+7.6%(10 8 ~12 月期+8.2%) 、第二次産業は、+5.8%(+6.1%)と、 6 それぞれ伸びが低下した。 1次産業 3次産業 4 2 第三次産業は、不動産業が前年同期比+9.1%と、10~12 月 期の+4.1%から大きく伸びた一方で、2015 年の株価上昇に 0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 よる業績押し上げ効果がはく落した金融業(10~12 月期+12.9%→1~3 月期+8.1%)の減速が寄与し、全体 では伸び率が低下した。 第二次産業については、内訳を見ると、インフラや不動産建設の持ち直しにより建設業(10~12 月期+7.3% →1~3 月期+7.8%)は伸びがやや高まった一方で、製造業を主とする工業(+5.8%→+5.5%)は伸びが低下 した。工業生産統計(右上グラフ中の工業生産)を見ても、1~3 月期は前年同期比+5.8%と、2015 年 10~ 12 月期の+5.9%から伸びは鈍化した。 ただし、 3 月単月では、 電力消費の推移(前年同月比、%) 前年同月比+6.8%と、1~2 月累計の+5.4%より伸びは高ま 25 った2。主な業種を見ると、コンピューター・通信機器(1~2 20 全体 15 工業 月+8.8%→3 月+8.4%)はやや伸びが低下したものの、電気 機械(+8.2%→+9.4%) 、一般機器(+3.9%→+6.0%)、化 学製品(+8.6%→+8.9%)などは在庫調整の進展を背景にそ れぞれ伸びが高まるなど、工業生産は持ち直しつつある。 10 5 0 ▲5 ▲ 10 ▲ 15 なお、工業生産の動きと相関が強い工業用の電力消費量も 3 月は 6 カ月ぶりにプラスに転じている(1~2 月▲1.8%→3 月 ▲ 20 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 (注)1~2月は累積 Bloomberg 社エコノミスト調査中央値も前年同期比 6.7%。 工業生産、固定資産投資、社会商品小売総額、電力消費は、春節の影響を考慮して、1~2 月は累計のみ公表される。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 1 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 +4.3%) 。 在庫調整が進む中で需給は改善へ 製造業の業況回復の背景について、まず、景況感を表す製造 PMI(担当者購買指数)の推移(中立=50) 業 PMI(担当購買者指数)を見ると、3 月は 8 ヶ月ぶりに好 60 不況の分かれ目である 50 を回復し、50.2 となった(2 月 58 49.0) 。内訳を見ると、新規受注(2 月 48.6→3 月 51.4)3が 56 3 ヶ月ぶり、新規輸出受注(47.4→50.2)が 18 ヶ月ぶりに 54 それぞれ 50 を上回るなど、製造業において輸出を中心とし 52 て需要が持ち直しつつあることが示された。また、非製造業 も、引き続き 50 を上回って推移していることに加え、3 月 製造業 新規受注(製造業) 輸出受注(製造業) 非製造業 改善 50 48 悪化 46 は 53.8 と、2 月の 52.7 からさらに上昇した。 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 次に、製品需給のバロメーターである生産者物価を見ると、依然として前年比でマイナスが続いているものの、 マイナス幅は 3 ヶ月連続で縮小した(2 月前年同月比▲4.9%→3 月▲4.3%) 。これは、生産財のマイナス幅が 縮小(2 月▲6.5%→3 月▲5.7%)したことが主な要因であり、その内訳を見ると、鉱産物(2 月▲18.2%→3 月▲16.3%)だけでなく、原材料(2 月▲8.9%→3 月▲8.8%)、加工品(2 月▲4.5%→3 月▲3.6%)もマイナ ス幅の縮小が続くなど、鉱物価格の底入れのみならず、原材料や加工品の需給が引き締まりつつあることが確 認された。 こうした需給改善の背景には、在庫調整の着実な進展がある。製品在庫の伸びは、2014 年 8 月に前年同月比+ 15.6%まで高まった後、 縮小が続いており、 直近 2016 年 2 月には+0.7%まで鈍化した(2015 年 11 月+4.6%) 。 主な品目では、深刻な生産過剰状態にある鉄鋼(11 月▲4.7%→2 月▲18.3%)が、2 月に大きくマイナス幅を 拡大させ、電気通信機器(11 月+13.3%→2 月+1.5%)もスマートフォンの国内販売の拡大一服などから在庫 の伸びが大きく鈍化するなど、需要動向に応じて在庫水準を進めている様子がうかがえる。以上のような生産 者物価と製品在庫の動きは、在庫調整が進み、需給状況が改善しつつあることを示している。 在庫の推移(前年同期比、%) 生産者物価の推移(前年同月比、%) 電気機械 10 8 工業製品 うち生産財 うち消費財 6 4 化学製品 鉄鋼 2014 2015 合計 25 20 15 2 10 0 5 0 ▲2 ▲5 ▲4 ▲ 10 ▲6 ▲ 15 ▲ 20 2011 ▲8 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2012 2013 (出所) 財務省、日本貿易会 (出所)中国国家統計局 (出所)中国国家統計局 3 電子通信機器 30 (注)各四半期は2、5、8、11月の値。 新規輸出受注も改善した(2 月 47.4→3 月 50.2) 。 2 2016 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 固定資産投資は持ち直しの動き 需要動向を見ると、固定資産投資は持ち直しつつある。3 月 単月の固定資産投資は、前年同月比+11.2%(1~2 月前年 同期比+10.2%)となり、四半期で見ても、1~3 月期は前 年同期比+10.7%(2015 年 10~12 月期+9.3%)と、伸び 固定資産投資の推移(前年同期比、%) 50 インフラ投資 不動産業 製造業 固定資産投資全体 40 30 が高まった。主な内訳を見ると、製造業(10~12 月期+7.3% →1~3 月期+6.4%)の伸びは低下した一方で、インフラ投 資 4 と不動産業の伸びが高まっている(インフラ投資:+ 20 10 12.8%→+20.5%、不動産業:▲1.2%→+8.2%)5。インフ 0 ラ投資の内訳をさらに見てみると、鉄道輸送業(10~12 月 ▲ 10 期▲17.4%→1~3 月期▲6.7%)はマイナスの伸びが続き、 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 道路運送業(+12.9%→+10.1%)は伸びが低下している一方で、都市や環境衛生インフラの整備6などを主と した水利・環境・公共施設管理業の伸びが高まっている(+20.4%→+30.5%)。また、住宅取引活発化によっ て、不動産業における固定資産投資が持ち直しつつある。 住宅取引の状況について、主要 70 都市の新築住宅価格の動 きを見ると、3 月は前月と比べて価格が上昇した都市数は大 幅に増加した(2 月 47 都市→3 月 62 都市) 。前月比で見る と、引き続き北京、上海、シンセン等の一線都市のみならず、 地方の中小都市である二線及び三線都市でも伸びが高まる など、住宅市場は全体として価格が上昇している(一線都市: 2 月+2.1%→3 月+3.1%、二線都市:+0.5%→+1.1%、 三線都市:+0.1%→+0.3%)。不動産市場の回復は、鉄鋼 やセメントの需要回復など、関連産業の生産持ち直しにつな がっていると見られる7。ただし、3 月 18 日付の Economic Monitor でも指摘した通り、一線都市の価格上昇率は過熱気 主要70都市の新築住宅価格の推移(前月比、%) 3.5 一線都市 二線都市 三線以下都市 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 ▲ 0.5 ▲ 1.0 ▲ 1.5 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 (注)一線都市は北京、上海、シンセン等の直轄市等の大都市、二線都市はその他省都等 の主要都市、三線都市はその他比較的発展している中小都市 味であるとともに、小規模な二線及び三線都市では住宅在庫が大きく積み上がっているなど、不動産市場は少 なからず不安定要素もはらんでいる。 都市規模の違いによって見られる需給不均衡の是正は、すでにいくつかの都市で実施されているように、価格 が過熱気味の一線都市では購入抑制策、在庫の積み上がりが深刻な二線及び三線以下の都市では購入促進策や 農民の都市戸籍取得促進など、個別の都市の状況に応じた不動産市場安定化政策が着実に実施されていくかに よるところが大きい。一線都市については、これまでの実績8を見ても、政策的措置によって需要を抑制するこ とはある程度可能であるが、二線及び三線以下の都市での大幅な需要喚起には戸籍制度などの構造的な制度改 4 鉄道輸送業、道路輸送業、水利・環境・公共施設管理業の合計。 固定資産投資のうち、製造業は 32.7%、不動産業は 23.0%、インフラ投資は 16.7%を占める(2015 年) 。 6 「政府活動報告(2016 年) 」においても、今年は都市計画・整備を強力に進めることが規定されている。 7 数量ベースで、鋼材(1~2 月前年同期比▲2.1%→3 月前年同月比+3.3%) 、セメント(▲8.2%→+24.0%)の生産はともに伸 びは高まっている。 8 2013 年初め、住宅価格の上昇が著しい都市において、購入時の頭金比率の引上げや不動産売却時のキャピタルゲイン課税強化 など需要抑制政策が実施され、その結果、2013 年末以降、価格は下落ないし伸びは低下した。 3 5 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 革が必要であり、短期的な購入促進策によって早晩に在庫解消することは困難であろう。そのため、不動産市 場をめぐる地域格差は当面継続するものと思われる。 個人消費はやや減速 一方で、内需のもう一方の柱である個人消費はやや減速 した。個人消費の代表的な指標である社会商品小売総額 は、3 月は、名目値で前年同月比+10.3%(1~2 月+ 10.2%) 、実質値で+9.7%(+9.6%)とそれぞれ伸びは やや高まったが、1~3 月期は、名目値で+10.3%(2015 年 10~12 月期+11.1%) 、実質値で+9.6%(+10.9%) と、伸びは低下した。1~3 月期の伸び率低下は、10~12 月期に乗用車販売9が大きく伸びたことの反動である。 社会商品小売総額の推移(前年同期比、%) 19 18 名目 実質 17 16 15 14 13 12 11 10 9 2010 実際に、3 月の乗用車販売台数は前年同月比+9.9%と、1 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国国家統計局 ~2 月累積の+5.0%から伸びは高まったが、1~3 月期は 自動車販売台数の推移(季節調整値、年率、万台) 前年同期比+6.7%と、自動車購入税引き下げ実施(10 月 2,800 1 日)直後に大幅に販売台数が増加した 2015 年 10~12 2,600 月期の+18.6%より伸びは低下した。 2,400 自動車販売台数 うち乗用車 2,200 ただし、当研究所試算の季節調整値で見ても乗用車販売 2,000 台数(年率)は減少したものの(10~12 月期 2,403 万台 1,800 →1~3 月期 2,147 万台) 、自動車購入税引下げ実施以前か 1,600 らの傾向を見ると、おおむねトレンド上にあることから 1,400 1,200 (右図) 、1~3 月期の減速は 10~12 月期の反動であり、 (出所)中国汽車工業協会 (注)当社試算の季節調整値 今後は拡大基調に戻ることが見込まれる。 輸出は一部で明るい兆しが見られるものの弱い動きが続く 輸出は、PMI の新規輸出受注指数が改善したことなど、一 6,500 3 月の通関輸出は、米ドルベースで 9 ヶ月ぶりに前年比で 1,000 6,000 800 5,500 600 5,000 400 4,500 伸びがプラスに転じたものの(1~2 月前年同期比▲17.9% →3 月前年同月比+11.5%) 、1~3 月期では▲9.7%と依然 としてマイナスであった(2015 年 10~12 月期▲5.2%)。 当研究所試算の前期比(季節調整値)で見ても、1~3 月 期は▲1.8%と、10~12 月期+0.3%から伸びはマイナスに 200 転じており、1~2 月の落ち込みを取り戻していない。仕 0 向地別に見ると、日本及び米国向けは前期比の伸びがプラ 9 日本 EU 輸出全体(右軸) 米国 アセアン 4,000 3,500 2010 2011 2012 (出所)中国海関総署 (注)当社試算の季節調整値。 個人消費(社会商品小売総額)のおおむね 1 割程度を占めている(2015 年) 。 4 2013 2014 2015 2016 百 仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル) 部で明るい兆しが見られるものの、弱い動きが続いている。1,200 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 スに転じたものの(日本向け:10~12 月期▲1.5%→1~3 月期+1.2%、米国向け:▲2.4%→+0.1%) 、持ち 直しつつあった EU、ASEAN 向けは減少に転じている(EU 向け:+1.8%→▲4.8%、ASEAN 向け:+0.6% →▲5.9%) 。3 月の前年比の伸びが高まった要因としては、2015 年は春節が 2 月後半10であったことから一部 の企業では 3 月の稼働日が例年よりも少なかった可能性が指摘できる11。このように、1~3 月期で見れば輸出 は弱く、PMI 指数から受ける印象ほど輸出は改善していない。 人民元安が落ち着き、海外への資金流出にも歯止め 人民元相場の落ち着きが示す通り、海外への資金流出には歯止めがかかりつつある。中国の景気底入れ期待、 米国の早期利上げ観測の後退、資金流出の一巡などを背景に、人民元安圧力は緩和され、人民元の対ドルレー トは、3 月以降おおむね元高傾向が続いている。そのため、人民銀行による為替介入が減少したと見られ、2015 年 11 月以降、毎月約 1,000 億ドルのペースで減少していた外貨準備高は、2 月には減少ペースが鈍化し、3 月 には増加に転じた(2 月▲286 億ドル→3 月+103 億ドル)。 人民元相場の推移(元/米ドル) 外貨準備高の推移(左軸:兆元、右軸:億元) 4.0 1,500 6.90 人民元 安 6.80 3.0 1,000 6.70 500 6.60 2.0 1.0 6.50 0.0 0 ▲ 1.0 ▲ 500 ▲ 2.0 ▲ 1,000 ▲ 3.0 前月差(右軸) 外貨準備高 ▲ 4.0 ▲ 1,500 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国人民銀行 6.40 6.30 6.20 6.10 6.00 2010 人民元 高 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (出所)中国銀行 中国経済は底堅さを増しているが楽観はできず 以上のように、1~3 月期の GDP は、中国経済が緩やかな減速を続けていることを示したが、直近 3 月の PMI や生産者物価などの指標からは、在庫調整が進展して需給が改善しつつあること、さらに工業生産や都市のイ ンフラ整備を中心とした固定資産投資も持ち直していることが確認されるなど、中国経済は短期的には底堅さ を増しているように見える。ただし、製造業の過剰設備や固定資産投資を支える不動産在庫の解消にはまだ時 間がかかると見られるなど、中期的には景気の下押し圧力は依然として存在しており、楽観はできない状況と 言えよう。 10 11 法定休暇は 2 月 18 日から 24 日であったが、一部の輸出関連企業では 3 月上旬まで休暇や操業を停止していたと考えられる。 4 月 13 日、海関総署の黄頌平スポークスマンの発言。 5
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