金利水没、日本は2/3水没、世界で残る1/3は

リサーチ TODAY
2016 年 4 月 19 日
金利水没、日本は2/3水没、世界で残る1/3は米国に
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2016年度に入り、多くの投資家は新たな運用戦略に着手した。一方で現実では、TODAYでこれまで何
度も紹介してきた「世界の金利の『水没』マップ」にあるように、国別・年限別の国債利回りがマイナス(水没)
になるなか、投資家は運用に窮している状況だ。筆者は昨年来、金利「水没」(マイナス金利)のなかで資
産運用を行うには、「LED戦略」と称する「①長く(Long)、②海外の(External)、③多様な(Diversify)リスク」
の3分野しか選択肢はないとした。そこで、世界の債券市場でどの程度が「水没」しているかを把握する必
要がある。下記の図表は、現存しかつ時価評価できる国債の水没比率を示す。日本では66%、およそ2/3
が水没した状況にある。同様に、ドイツでは60%が水没し、次いで欧州のフランス、スウェーデン、デンマー
クでは40%程度が水没している。世界全体では20%が水没状態であり、予想以上に世界の債券市場が水
没状態にあることがわかる。
■図表:利回りがゼロ以下の債券残高と割合
(%)
70
(兆ドル)
20
65.8
60.1
60
利回りがゼロ以下の債券残高(右目盛)
18
利回りがゼロ以下の債券の比率
16
44.6
50
38.2
39.4
40
29.1
30
27.5
12
10
26.2
8
20.2
15.8
20
6
4
10
2
デンマーク
スウェーデン
スペイン
オランダ
英国
イタリア
フランス
ドイツ
日本
全世界
0
14
0
(注)国債と社債の合計。2016 年 3 月 28 日現在。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
ここで、運用者は、水没していないフロンティアの地域を探す必要に迫られる。具体的にLEDを説明する
と、「L」長期化については、金利を確保する以上は長期化を進めざるをえない。日本では10年までが水没
しているので、20年債中心の運用にならざるをえないだろう。長期債へのニーズが増すため、発行側として
は超長期の債券市場の一層の拡大が課題になる。また、運用者は少しでもスプレッドがついたクレジット商
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2016 年 4 月 19 日
品に投資対象を拡大することになる。また、その延長線上でハイイールド債、バンクローン等の商品も対象
になりやすい。さらにインフラ投資のように安定したものにも関心が向かいやすいだろう。
「E」海外については、まだ水没していない国を探して、投資せざるをえない。これを示したのが下記の図
表である。利回りがプラスで残るフロンティアの大層(およそ1/3以上)は米国である。次は中国になるが、資
本規制があるなかでは実務上、中国で運用するのは容易ではない。その他では、日本、英国、カナダ、イ
タリア、フランス等を投資対象に含めていくという流れになるだろう。この図表の債券は国債と社債の合計を
示している。国債投資に限定することなく、クレジット市場にも視野を拡大し投資対象を広げる必要があるこ
とは言うまでもない。ただし、図表からデットの世界で運用を行うとなれば、米国を中心に考えざるをえない
というのが、今日の運用環境の現実だ。
■図表:利回りがプラスの債券残高(国別)
25
(兆ドル)
20
15
10
5
ケイマン諸島
スウェーデン
メキシコ
国際機関
オーストラリア
スペイン
オランダ
ドイツ
ブラジル
インド
韓国
フランス
イタリア
カナダ
英国
日本
中国
米国
0
(注)国債と社債の合計。2016 年 3 月 28 日現在。
(資料)Bloomberg より、みずほ総合研究所作成
同時に、「D」多様な対象にも視野を広げる必要もある。いずれにしても、フロンティアを探す必要があると
いう現実を運用者は認識せざるをえない。今日、貸出金利に一段の低下圧力が加わっている。従来から日
本の貸出金利は低水準で貸出競争が激化していたが、最近のように市場金利が一層低下する状況おい
ては、プライベート・エクイティ・ファンドのように、企業に対し出資の機能を強めることも選択肢になるのでは
ないか。金融機関のもつ目利き力を活かしてプライベート・エクイティ・ファンドのように「ヒト、モノ、カネ」の
全面から企業をサポートし育成する金融仲介の原点に返ることも重要な選択肢といえる。日本の金融機関
の貸出は単なるデットでなく、「疑似エクイティ」と言われているようにエクイティ性を帯びたものだ。今後は、
運用の対象のなかに、エクイティとデットの両方の性格を併せ持つハイブリッド商品を組み入れることも重要
となろう。
結局、今日では、運用対象を待っているのではなく、経済活動の源にある動きを川上に遡って運用対象
をつかみにいかないと良い運用ができない。それは、運用そのものが事業を行うことにつながるという姿勢、
すなわち、実物投資にも類似した発想に転換することにもつながる。「金利水没」は運用に新たな発想を迫
るものになる。
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