アリス失踪!

■連載翻訳『アリス失踪!』
第
アリス失踪!
第六回 子豚とコショウ!
回■
Lewis Carroll hoshi takahiro
ルイス・キャロル著 星隆弘訳
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
あのさ、1分か2分くらいかな、わた
し 足 を 止 め て お う ち の 様 子 見 な が ら、
さてどうしましょって作戦を練ってい
たんだけど、そこにいきなり制服姿の
召使さんが森から走り出てきてさ。(制
服姿だったから召使さんだろうと思っ
たけど、顔だけ見たとしたらおさかな
が飛び出してきたって言ったと思う
な)
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Alice
その人がこぶしでドアをガンガン叩くと、開けて出てきたのがまた制服姿の召使
さん、こっちはまん丸の顔で、目がおっきくてカエルみたい。でもね、気づいた、
ふたりとも髪の毛がくるくるのもじゃもじゃで白粉ふったみたいな、おそろいの
髪型なの。
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Alice
超気になる、なにしに来たんだろ。わたしこっそり木かげから抜け出て、盗み聞
1
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きしちゃった。
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Alice
まずさかな顏の召使さんが脇の下からでっかい手紙を取り出して、召使さんの全
身がほとんど隠れちゃうくらいのやつね、
それをカエル顔の召使さんに手渡して、
かたくるしいあいさつをひとつ。
「公爵夫人殿へ。女王陛下よりクロッケー試合への招待状でございます」
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Alice
それをカエル顏の召使さんが同じようにかたくるしく繰り返すの、セリフの前後
をちょっと入れ 替 え て た け ど 。
「女王陛下より。公爵夫人殿へクロッケー試合への招待状でございますな」
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Alice
そんでふたりとも深々とお辞儀するもんだからさ、おたがいの髪の毛がもじゃも
じゃ絡まっちゃ っ て さ ー !
わたしそれ見て爆笑しちゃって、ダッシュで森に逃げたんだ、もう聞かれたかと
思ってひやひや し た ー 。
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Alice
もう一回のぞきに行ったら、さかな顏のほうは帰っちゃったみたい。カエル顔の
ほうだけがドアの前の地面にへたりこんで、ぼーっとお空を見上げてた。だから
わたしもドアの前までおそるおそる近づいていって、ノックしてみたんだ。
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Alice
そしたら召使さ ん が 言 う の 。
「ノックをしてもむだです。理由はふたつ、ひとつは私めがあなた様と同じくド
アのこちら側にいるため。もうひとつは、家人があのように騒がしくしておりま
@ALICEs_wndrland
すので、あなた様のノックが耳に入るはずもないのでございます、ええ」
♡
Alice
2
たしかにね、家の中はうるさいなんて
もんじゃなかった。ずーっとびーびー
泣きわめく声とくしゃみを連発する音
が止まらなくて、しかもガッシャーン
って、お皿かやかんが粉々に壊れたみ
たいな音もちょいちょい聞こえるし。
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Alice
「 え ー と、 じ ゃ あ 入 る に は ど う し た ら
いいですか?」って聞いてみたんだけ
ど、召使さんは「ノックするのに意味
がないこともないかもしれない」ってぶつぶつ言って、
わたしに見向きもしない。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「私めとあなた様がドアを挟んでおります場合、たとえばあなた様が家の中にお
られて、ノックをした、それならば私めが外にお出しすることもできたわけです
な、ええ」
だって。そうやってぶつぶつ言いながらずーっとお空を見上げてるわけ、失礼も
いいとこでしょ ?
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Alice
でもわたし自分に言い聞かせたの。しかたないんだよ、だって目がほとんど頭の
てっぺんについてるんだもん・・・でもさ、それにしたって質問されたら答える
ぐらいできるよ ね 。
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Alice
「入るにはどうしたらいいですか?」
もう一度、ちゃんと聞こえるように言ったら、召使さんはこう答えるの。
@ALICEs_wndrland
「私めはここに座って控えておりますが」
♡
Alice
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「それも明日までになるか・・・」
そう言いかけたとき、バタンとドアが開いて、中からおっきなお皿がビューンて
飛んできてね、召使さんの頭めがけて一直線で。ちょうど鼻の先をぎりぎりかす
めていってさ、その向こうの森の木にぶつかって粉々に割れちゃったんだけど。
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Alice
なのに召使さん「明後日になるかもしれませんな」とか平然と続けてて、なんな
の、今なにも起こらなかったっていうの?
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「で、入るにはどうしたらいいんですか?」こりずに、もっと大きな声で聞いて
みた。
「その前に、招かれておいでで?」って召使さん。
「入る入らないの前にそこをお伺いしませんと、ええ」
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Alice
それは、まあそうだけど。いやそうなんだけどね、でもそんなふうに言われるの
はイヤなんだよ ね 。
「ひどくない?」わたしだってぶつぶつ言っちゃうよ。
「どいつもこいつも揚げ足
取りばっかり、こんなんじゃこっちの頭がおかしくなっちゃう!」
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
召使さんは、ここぞとばかりに、また自分で言ったことを繰り返すし。もちろん
ちょっと変えて る ん だ け ど 。
「私めはここに座って控えておりますが、いる日もあればいない日もあるでしょ
うな」
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Alice
「じゃあわたしはどうしたらいいですか?」
「どうでもお気に 召 す ま ま に 」
で、この人口笛吹き出したんだからね。
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♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「 な ん な の も う、 こ ん な や つ と し ゃ べ
ってることがむだじゃん!」さすがに
ウ ン ザ リ し た。「 バ カ じ ゃ な い の、 マ
ジで!」
で、わたしもうかまわずにドアを開け
て入っていった の 。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
ドアを開けるとさーっと光が差し込ん
でね、大きなキッチンを照らし出すと、
部屋中隙間なく煙がもわーって充満し
てた。部屋の真ん中で三本足のスツールに座ってたのが公爵夫人で、赤ちゃんを
あやしてた。火につきっきりでおっきな鍋をかき混ぜてるのは料理番かな、鍋い
っぱいにスープを作ってるみたい。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「いくら、なんでも、コショウ、入れすぎ!」そうつぶやいて、くしゃみしそう
なのをなんとかガマンした。ほんとにコショウがもわもわ舞い上がってたんだ。
ほら、公爵夫人だってくしゃみしてるし、赤ちゃんなんか泣いてくしゃみしてま
た泣いてで、一瞬も落ち着かないんですけど。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
でもキッチンにいるふたりは全然くしゃみしないの。ひとりは料理番ね、もうひ
とりっていうか一匹は大きな猫で、炉ばたにごろんとして、耳まで口を広げてに
やぁって笑って る 。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「すみません、聞いてもいいですか?」わたしから話しかけてみたんだけど、ち
ょっとおどおどしちゃった、勝手に話しかけたらお行儀悪いかもしれないと思っ
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たからさ。
「おたくの猫さんはどうしてあんなにニヤニヤしてるんですか?」
♡
Alice
@ALICEs_wndrland
そしたら公爵夫人がね「チェシャ猫ですもの、当たり前でしょ・
・・このブタっ!」
って、最後いきなりキレるから、わたし飛び上がっちゃった。でもそれ赤ちゃん
に向けて言ってて、わたしに怒鳴ったわけじゃないのがすぐにわかったからさ、
気を取り直して 話 を 続 け た の 。
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Alice
「チェシャ猫がいつもニヤニヤしてるなんて知らなかったです。っていうか猫が
ニヤニヤできるのもはじめて知りました」
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「みんなできますとも。大抵ニヤニヤしてますわね」って公爵夫人。
「わたしの知ってる猫にはそういう子はいませんでしたので」わたしも失礼のな
いように気をつけて答えた。けっこう嬉しかったんだよね、ちゃんと会話ができ
てたからさ。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「物を知らない子ね、あなた。自覚なさい」
でもこういう言い方されるのはほんとイヤなんだ、だからちょっと話題を変えた
ほうがいいと思 っ て 。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
で、なんの話をしたらいいか考えてたらさ、料理番がスープの鍋を火からおろし
たんだけど、突然手あたりしだいになんでもかんでもぶん投げてくるの、公爵夫
人と赤ちゃんめがけてだよ。最初に火箸が飛んできたと思ったら片手鍋とか大皿
@ALICEs_wndrland
と小皿とかが雨あられに飛んでくるわけ。
♡
Alice
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なのに公爵夫人はちっとも気にしてない、物ぶつかってんのに。赤ちゃんははじ
めからびーびー泣きまくってるから、ぶつかったのが痛いのかどうかもわかんな
いしさ。
「ちょっと何してんのかわかってんの!」わたしはあっちこっち逃げ回って、も
うこわくてしょ ー が な か っ た 。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「だめ!大事な鼻が!」って叫んだときには、ありえないくらいでっかい鍋が赤
ちゃんの鼻のぎりぎりのところをかすめていって、あと少しで鼻をはじき飛ばし
ちゃうとこだっ た ん だ か ら 。
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Alice
「だれもが自分のするべきことをよくわかっておるならば」公爵夫人はガサガサ
な声でぶつぶつ言ってた。「世界は今よりずっと速く回りますわね」
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「 そ れ も 困 り も の じ ゃ な い で す か?」 わ た し も 言 い 返 し て み た。 せ っ か く だ し、
わたしの物知りなとこをちょっと披露しちゃおうかなと思って。
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Alice
「 考 え て み て く だ さ い よ、 そ ん な こ と に な っ た ら 昼 と 夜 が ど う な っ ち ゃ う と 思 い
時間かかります、地軸って
ます?ご存知のとおり、地球は1回転
するのに
のに忙しくて聞いてなかったみたい。
ら見たんだけど、スープをかき混ぜる
なのかなって、料理番のほうをちらち
わたしぎくっとして、ほんとにやる気
て公爵夫人。「小娘の首をはねよ!」
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Alice
「 手 斧 が あ り ま し て、 で す っ て?」 っ
のがありまして ・ ・ ・ 」
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♡ @ALICEs_wndrland
Alice
だから話を続けることにしたんだけど。
「 時間かかりますよね、たしか。あれ、でも 時間かな?えっと・・・」
そしたら公爵夫人がね「もうやめて!」って。
「数字にはガマンがなりませんの!」だって。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
歌が二番に入ったら今度は赤ちゃんのこと乱暴にポンポン放り投げるし。かわい
おー!おー! お ー !
イライラさせようとしてるわけ
サビ(ここは料理番も赤ちゃんもいっしょ歌うんだ)
くしゃみをし た ら ひ っ ぱ た け
嫌がらせに決ま っ て い る も の
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Alice
小さい子にはガ ミ ガ ミ 言 う の
たびに赤ちゃんをめちゃくちゃ揺さぶるんだよね。
る子守唄なのかな、なんか歌って聴かせてるんだけど、ワンフレーズ歌い終わる
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Alice
それだけ言って、公爵夫人は赤ちゃんをあやし始めたんだけどね、いつも歌って
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そうな赤ちゃんはずっと泣きわめいてる、おかげで歌詞がほとんど聞き取れない
くらい。
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Alice
わらわもこどもはきびしくしつけ
くしゃみをしたらひっぱたくの
だってこの子ときたら好きなだけ
コショウを味わえるんですもの
サビ
おー!おー! お ー !
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♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「ほれ!あやしたければ少しあやさせてやってもよくってよ」公爵夫人、わたし
に赤ちゃんを放 り 投 げ て き た 。
「こうしちゃいられませんの、女王陛下とのクロッケー試合の支度をせねば」
そう言って部屋を飛び出して行った。料理番がその背中めがけてフライパンを投
げつけたけど当 た ん な か っ た 。
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Alice
赤ちゃんを抱きとめるのはちょっと大変だった、だってこの子ちっちゃいのにヘ
ンな格好してるんだもん。手と足を四方八方にぐーんと突き出してるから、なん
かヒトデみたいだなって思った。
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Alice
かわいそうな赤ちゃん、抱きとめると蒸気機関みたいにシューシュー鼻息立てて
さ、体をぎゅうぎゅう折り曲げたりまたぐーんと伸び上がったりするから、もう
ほんと、最初の1分か2分くらいは抱っこしてるのもやっとなの。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
まあでも、ただしいあやし方を見つけたからさ(ひもを結ぶ感じで体をぐるっと
ねじりあげるの、あとは右耳と左足をぎゅっとつかんでおくとほどけないからい
いよ)赤ちゃんを家の外まで連れ出してあげた。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
もし置き去りにしたら、この子きっと今日明日にでもあの人たちに殺されちゃう
と思って。そしたら見捨てるのも人殺しするのも同じでしょ?
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
そうやって、最後のほうなんかはぶつぶつつぶやいてたんだけどさ、すると赤ち
ゃんはぶうぶう言い返してくる(もうさすがにくしゃみは止まってた)。
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♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「 ぶ う ぶ う 言 わ な い で よ。 言 い た い こ と が あ る な ら 言 い か た っ て も ん が あ る で し
ょ」
でも赤ちゃんはまたぶうぶう言う。わたしなんかすごく不安になって、赤ちゃん
の顔を覗き込んでみたの、どうしたのかなって。そしたらなんか鼻が超つり上が
ってるっていうか、ほとんど豚の鼻みたい、人間の鼻じゃなくて。
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Alice
あと目もさ、赤ちゃんにしてはちっちゃすぎるしさ。よーするにこの子、わたし
は全然かわいいと思えなくって。
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Alice
でもほら、泣いてばっかりいるからかもしれないし。そう思い直して、また目を
覗き込んでみた、泣いてるんだよねって。
うそ、涙一粒流 し て な い 。
♡
Alice
@ALICEs_wndrland
「きみさ、もし豚に変身しようとしてるんだとしたらさ」
真剣に語りかけるわたし。
「わたしはもうかまってられないからね、わかった!?」
そしたらこのみじめな赤ちゃん、またぐずぐず泣き出しちゃって(いや、ぶうぶ
う鳴き出したのかな、もうどっちが正しいのかわかんない)
。
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Alice
だからもう、しばらく何も言わずにとぼとぼ歩いたの。
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Alice
わたしは今後のことをあれこれ考えてた、だってどうすんのこの子、うちまで連
れてくのはいい け ど さ ぁ 。
そのときまた赤ちゃんがぶうぶう鳴き出したんだけど、すごい大声だから、びっ
くりして顔を覗き込んだらさ、今度はもうまちがいない。豚なの、それ以上でも
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以下でもない、 子 豚 な の 。
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Alice
さすがにばかばかしくなっちゃって、なんでわたし豚を抱っこしてんだろ。
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Alice
そこで子豚ちゃんを地面に下ろしてあげたら、おとなしくトコトコ歩いて森に入
っていっちゃったから、もうほんとにほっとした。
「あの子があのまま成長したら」って思わずひとりごと。
「人間の子どもとしては
ものすごいブサイクになっただろうけど、
子豚としてはイケメンになったりして」
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Alice
それから顔見知りの子たちのことを思い出した、あの子たちも豚としてなら全然
ありだしね。
「だれか変身させるいい方法だけでも知らないかなあ」
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Alice
またそんなひとりごとしかけたところで、ぎくっとした、だってあの家のチェシ
ャ猫さんが木の枝に座ってたんだもの、ほんの数メートル先のとこ。
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Alice
こっち見てもニヤニヤしてるだけだから、わるいやつではなさそう。でも爪はす
ごく伸びてるし歯もぎっしりはえてるし、これは失礼な真似はできないって気が
した。
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Alice
「チェシャーのにゃんこさーん」おそるおそる話しかけてみた、だってこんな呼
び方じゃ気にさわるかもしれないしと思って。でも猫さんはもっと口を広げてに
んまり笑うだけ。よかった、いまのとこ機嫌良さそう、そう思ってつづけて聞い
てみた。
「あのー、すみません、ここからはどっちに行くのがいいですか?」
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Alice
「そればっかりはどこに行きたいのかによるねえ」と猫さん。
「どこでもいいっちゃいいんですけど・・・」とわたし。
「じゃあどっちに行こうとかまやしないだろ」と猫さん。
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Alice
わたしが「それでどこかに着くならね」って言い足すと、猫さんは「ああ、どこ
かにゃ着くから安心しろい、とにかく歩き続けりゃあな」だって。
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Alice
そりゃまあそうだけど。だから質問を変えてみた。
「このあたりに住んでいるのはどんな人たちですか?」
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Alice
「 あ っ ち の 方 に ゃ」 っ て 猫 さ ん は 右 前
足 を く る く る 回 す の。「 帽 子 屋 が 住 ん
でる」
「 で も っ て、 あ っ ち の 方 に ゃ 」 今 度 は
左 足 で。「 三 月 ウ サ ギ が 住 ん で る よ。
好きなほうを訪ねたらいい、どっちに
したってアタマ 狂 っ て ら あ ね 」
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Alice
「 え ー で も、 ア タ マ 狂 っ て る 人 た ち に
会うのはちょっと・・・」ってわたしが言うとさ、
「はは、そりゃ無理だ」って
猫さん。
「ここらじゃみんなアタマ狂ってんだ、おれも、お嬢ちゃんもな」
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Alice
「わたしも?どうしてわかるんです?」と、わたし。
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「狂ってねえとさ」って、猫さん。
「こんなとこには来られんよ」
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Alice
そんなの全然説明になってないって思ったけどさ、とりあえず先を続けたの。
「でも、じゃあ、あなたもアタマが狂ってるっていうのは?」
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Alice
「その前に」と、猫さんが返した。
「犬のアタマは狂っちゃいねえ。こいつは認め
るね?」
「そう思いますけど」わたしも答えた。
♡
Alice
@ALICEs_wndrland
「それなら、だ」と猫さんは続ける。
「犬は怒るとワウゥーと唸るもんだな、で、
嬉しいときには尻尾振りやがるな。おれっちは嬉しいとグルルゥと唸る、腹が立
つときにゃ尻尾を振るのさ、ってことはつまり、おれのアタマが狂ってるわけだ」
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「それは、のどをゴロゴロ鳴らしてるって言うんです、唸ってるんじゃなくて」
「言い方なんざ人の勝手さ。ところでお嬢ちゃん、今日は女王とクロッケーをや
んのかい?」
「できたら光栄ですけど、招待されてないですし」
「じゃあまたそん と き に 」
って言って、猫さんは消えちゃった。
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Alice
でもね、そんなに驚かなかった、もうすっかりアリエナイ事に慣れちゃったのか
な。
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Alice
そのまましばらく猫さんがいたところを見つめてたら、またいきなり現れたの、
猫さん。
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Alice
「ところで、あの赤ん坊はどうなった?聞き忘れちまうとこだった」
「豚になっちゃいました」わたしも、猫さんがふつうに引き返してきたみたいな
感じで、平然と 答 え た 。
「だと思った」そう言って、猫さんはまた消えちゃった。
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Alice
また出てくるかもって半分期待してちょっと待ってたのに、猫さん今度は現れな
かった。だから1分か2分待ったところで、三月ウサギが住んでるっていうほう
へと歩き出した ん だ 。
♡
Alice
@ALICEs_wndrland
「帽子屋さんなら見たことあるし」またひとりごと。
「三月ウサギのほうが断然お
もしろそうだし、それにもう5月だし、いうほど狂いまくってるってこともない
でしょ。最悪でも3月よりはマシなはず・・・」
ひとりごとしながらふと見上げたらまた猫さん登場、こんどは小枝につかまって
た。
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Alice
「さっきの、『豚』だっけ?それとも『服』だっけ?」
そんなこと聞きにきたんだ、わたし
「豚です」
って答えてから言ってやったの。「お
願いですから、そんなふうに突然出たり消えたりしないでください、こっちは頭
がくらくらしちゃいますから!」って。
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Alice
「はいよ、そんじ ゃ 」
そう言って、今度は猫さんゆっくりと消え始めたんだけど、まず尻尾の先からは
じまって、ニヤニヤ笑いが最後まで残ってたんだけど、そのニヤニヤは体が全部
消えちゃってもしばらく残ってたの。
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Alice
なにそれ!ニヤニヤしない猫ならたくさんいるけど、ニヤニヤしてるのに猫がい
ない!こんなヘンなの、いままで見たことない!
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Alice
三月ウサギのおうちはそんなに遠くなかった。おうちが見えた瞬間まちがいない
と思った。だって煙突が2本ウサギの耳みたいに立ってて、屋根も毛皮でできて
るんだもん。けっこう大きいおうちだし、へたに近づく前に、左手のきのこをも
う少しかじって身長 センチくらいまで伸ばしとかないと。
♡ @ALICEs_wndrland
Alice
「やばいくらい狂った人だったらどうしよう!帽子屋さんにしとけばよかったか
なあ!」
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そんなふうにぶつぶつ言いながら、
わたしはついにおうちへと近づいていったの、
かなりびびって た け ど 。
(第 回 了)
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