ブラジルの最大の経済対策はルセフ大統領交代

リサーチ TODAY
2016 年 4 月 15 日
現地報告:ブラジルの最大の経済対策はルセフ大統領交代
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
ブラジル経済は低迷を続けている。ルセフ大統領の弾劾を巡る政治の混乱は、経済政策運営に悪影響
を及ぼしており、景気回復は2018年以降までずれ込む可能性が高い。みずほ総合研究所は、3月のブラ
ジルへの現地視察を踏まえて、ブラジル経済・政治の混迷に関するリポートを発表している1。ブラジルにと
って大統領辞任は景気回復を早める効果をもつが、政治の機能不全を克服することは容易ではなく、期待
の剥落に伴う反動には注意を要する。現地ヒアリングでも、「誰が後任になっても、現大統領よりも景気悪化
はない」がコンセンサスであるというのは驚きだ。景気低迷の長期化や財政再建の遅れを要因に、主要格
付け機関は国債格付けを投機的な水準に引き下げ、企業の格下げも急増中である。ブラジル経済は、下
記の図表にあるように、内需の落ち込みに拍車が掛かかっている状況にある。失業率上昇、インフレ高騰
による実質賃金の減少、増税、金利上昇による債務返済の負担増大から家計の購買力は低下している。さ
らに、汚職疑惑を背景に政治不信も消費者マインドを押し下げている。一方、生産活動の停滞、原油・鉄
鉱石など資源価格の下落、金利上昇や株安による資金調達環境の悪化による企業マインド低迷が投資を
抑制している。ブラジルは、「4重苦」(経済、政治、倫理、これらにジカ・ウィルスが加わる)に悩む最悪の状
況だ。
■図表:ブラジルの消費者・企業マインド推移
130
(DI)
(2001=100)
80
120
70
110
60
100
50
消費者信頼感
鉱工業信頼感(右目盛)
90
40
80
08
2008
09
10
11
12
13
14
15
30
16 (年)
(注)鉱工業信頼感は DI。50 が景況感の分岐点。
(資料)ブラジル工業連盟(CNI)よりみずほ総合研究所作成
景気後退からの出口を一層見えにくくしているのが政治の混乱だ。次ページの図表はルセフ大統領辞
任を巡る動きを示したものだ。ルセフ大統領に対しては2015年12月に違法な予算執行を理由に弾劾手続
きが開始されている。また、弾劾手続きとは別に、2014年の大統領選挙での違法献金疑惑が浮上している。
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2016 年 4 月 15 日
このシナリオのなかで、ルセフ大統領の辞任によりテメル副大統領の昇格や、正副大統領の辞任の可能性
もある。今日、ブラジル国内では、経済の低迷を打破するには大統領の交代しかないという刹那的な見方
が一般的だ。ただし、たとえ大統領が辞任しても政治の機能不全を克服するのは容易でなく、汚職問題に
よる議会審議の停滞が継続するのではないかとの不安が続くだろう。
■図表:ルセフ大統領辞任を巡る動き
2014年大統領選挙
違法献金疑惑
大統領
弾劾手続き
成立
不成立
シナリオ①
テメル副大統領昇格
(ブラジル民主運動党)
有罪
無罪
シナリオ②
ルセフ大統領続投
(労働者党)
シナリオ③
正副大統領辞任
90日以内に再選挙
(注)1.大統領弾劾手続きは 2015 年 12 月開始。2014 年予算の不正執行が弾劾理由。
テメル副大統領に対しても、別途弾劾請求が提出されている。
2.2014 年大統領選挙での違法献金問題は、選挙高等裁判所で審理中。
(資料)各種報道等よりみずほ総合研究所作成
さらなる問題は厳しさを増す企業の資金調達環境だ。ブラジル国債格付けが引き下げられたことに加え
て、景気低迷に伴う業績悪化から企業の格下げも相次いでいる。主要格付け機関3社による格下げ件数
は、2016年1~3月累計で239件となり、2006年以降で最大となった2015年の451件の半分に達する勢いだ。
格下げによる資金調達環境の悪化は、政府のみならず民間部門にも深刻な影響をもたらす。金融危機後
のブラジルの民間部門は、先進国の金融緩和を背景とした環境好転を受け、債務を急拡大させていた。ブ
ラジル国債は大半が自国通貨建てだが、ブラジルは経常収支の赤字国であるため、非居住者保有比率が
約19%と高く、なかでも短期債務の比率が4割程度と逃げ足が速い点には留意が必要だ。
■図表:主要格付け機関の格付け変更件数推移
500
(件)
450
格上げ
400
格下げ
350
300
250
200
150
100
50
0
2006
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16 (年)
(注)S&P、ムーディーズ、フィッチ 3 社の合計。2016 年は 1-3 月累計。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
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新形 敦、西川珠子 「混迷が続くブラジル経済・政治」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 3 月 30 日)
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