資料2-3 海外調査報告 (スペイン) 平成28年4月15日 経済状況 ○ 実質GDP成長率は2000年代前半に高い水準で推移したのち、リーマンショックによって2009年にマイナス に落ち込んだ。その後、2014年にプラスに転じ、2015年には3.1%と高い伸びが見込まれる。 ○ 失業率は足元では21.8%と高い水準にあるものの、近年は低下傾向。 ○ 長らくマイナスだった経常収支は、原油価格の下落等を背景に、2013年以降プラスに転じている。 リーマン・ショック (2008年9月) (%) 10 ギリシャ危機 (2009年10月) 10年物国債金利:1.8% (2015年12月末) 8 EUの金融支援 (2012年6月) 30 失業率: 21.8%(2015年) 25 6 4 20 2 0 15 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 10 -4 -6 5 経常収支対GDP比: 0.9%(2015年) -8 -10 1 2015 (年) -2 実質GDP成長率: 3.1%(2015年) 1996.5-2004.4 2004.4-2011.12 2011.12- アスナール首相 サパテロ首相 ラホイ首相 民衆党政権 社会労働者党政権 民衆党政権 (出典)10年物国債金利についてBloomberg。2015年の実質GDP成長率についてINE。その他についてIMF「World Economic Outlook」。 0 スペインへの金融支援と最近の経済・金融状況 ○ リーマンショックの影響により、2012年6月に政府は金融機関の資本増強のための支援を要請し、EFSF、E SMを通じて、スペインのGDPの10%に相当する1,000億ユーロの「金融支援プログラム」(金融仲介機能の 回復、不動産部門の再建、危機対処メカニズムの向上等)が実施された。 ○ 当該プログラムは2014年1月に終了し、スペイン経済はその後回復基調にある。他方、改善傾向にあるもの の、銀行の不良債権や対外債務、失業率の問題などが残る。 <金融危機以降のスペインの主な経済指標> 不良債権は、建設、不動 産業を中心に依然として 高い水準(2015年11月: 12.7 % ) に あ る も の の 、 2014年以降低下傾向に ある。 失業率は、2015年に大き く 低 下 ( 2015 年 第 4 四 半 期▲2.8%)したが、若者 の失業率は50%程度と 依然として高水準にある。 銀行貸出残高は、依然と して対前年の伸びはマイ ナスであるが、法人向け の新たな貸出は増加 (2015年下半期:+13%) しており、残高の低下幅 は縮小。 対 外 純 債 務 は、 足下 の 経常収支の黒字化を背 景にしても100%程度ま で悪化しており、外的 ショックに対するエクス ポージャーが依然として 高い。 (出典)EU”Country Report Spain 2016” 2 財政状況 ○ リーマンショック後の2009年に財政収支対GDP比が大幅に悪化し、2012年に再度下降。他方、2012年以降 厳しい財政健全化を行い、財政収支は着実に改善。 ○ 債務残高対GDP比は増加傾向にあるものの、伸びは緩やかになっている。 リーマン・ショック (2008年9月) (%) 12 9 EUの金融支援 (2012年6月) (%) 135 120 PB対GDP比 (左軸) 実質成長率 (左軸) 6 ギリシャ危機 (2009年10月) 97.7 98.6 92.1 3 90 84.4 0 105 75 69.2 ▲3 ▲6 54.2 60 財政収支対GDP比 (左軸) 51.3 47.6 45.3 60.1 52.7 38.9 ▲9 45 39.4 42.3 35.5 30 債務残高 対GDP比 (右軸) ▲ 12 15 ▲ 15 0 2001 3 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 1996.5-2004.4 2004.4-2011.12 2011.12- アスナール首相 サパテロ首相 ラホイ首相 民衆党政権 社会労働者党政権 民衆党政権 (出典)IMF「World Economic Outlook」。 2015 憲法改正と財政規律条項の追加 ○ 2011年に、リーマンショック後の財政の急激な悪化を背景として、金融市場に対する財政の信頼性を示す観 点から、憲法改正を実施。 ○ 憲法改正はフランコ独裁終結以降2回目ながら、二大政党を含む圧倒的多数の賛成により、わずか2週間 で早期成立。 <改正の趣旨と主な改正条項> ○ 経済金融のグローバル化が進む中で、国家がその役割を果たす能 力を維持し、憲法1条1項が定める社会国家を発展させ、さらに現在と 将来の国民の繁栄を導くため、財政の安定性は重要な課題である。 ○ 金融危機の影響を大きく受けた現下の状況において、スペイン経済 の中長期的な安定性に対する信用を得るためには、憲法に基準とな る原則を追加する必要がある。 <改正の流れ> 8月16日 独仏緊急首脳会談 ※ 憲法等に均衡予算原則を規定するようユーロ諸 国に提言。 8月26日 憲法改正案 下院提出 8月30日 下院本会議で憲法改正案を審議対象に決定 9月 2日 下院本会議で憲法改正案可決 (賛成316 反対5) ・ 国内総生産に関連して考えた場合の公行政機関全体としての公債 発行額は、欧州連合運営条約に定める参照値を超えるものであって はならない。(135条3項) ・ 国及び自治州は、欧州連合が加盟諸国に対して定める許容限度を 超える構造的財政赤字を発生させることができない。・・・地方自治体 は、予算上の均衡を達成しなければならない。(135条2項) ・ 各自治憲章に従い、かつ、本条で規定する上限の範囲内で、自治州 は、その規則及び予算上の決定において安定性の原則を効果的に 実施することに資する措置を講じなければならない。(135条6項) ・ ・・・公債の利子及び元金を支払うという借入契約については、・・・そ の返済には絶対的な優先度が与えられなければならない。(135条2 項) 9月 3日 憲法改正案 上院送付 9月 6日 上院憲法委員会 9月 7日 上院本会議で憲法改正案可決・成立 (賛成233 反対3) ※ いずれかの院の総定数の10分の1以上の議員の要求があ れば、国民投票に付する必要があるが、上記を満たす要求 はなく、実施されなかった。 国 会 提 出 か ら 成 立 ま で 約 2 週 間 9月27日 国王の裁可 ⇒ 施行 9月26日 議会解散 11月20日 総選挙 4 財政金融安定化基本法 ○ 新憲法135条の規程を具体化するため、2012年に「財政金融安定化基本法」が成立。財政健全化目標を具 体化するとともに、地方政府も含めた健全化の進捗状況に係る監視機能を強化。 <主な法律内容> ・ 政府(地方含む)による財政収支均衡又は構造収支黒字の維持 (構造調整による一時的な乖離(構造収支▲0.4%)、自然災害など不測の事態による一時的な乖離を認める)。 ・ 債務残高対GDP比の上限60%の設定(国:44%、州:13%、市町村:3%) ・ 政府(地方含む)の歳出伸び率(利払い費等除く)の中長期経済成長率以下への抑制 ・ 地方の財政健全化パスからの乖離が予測される場合の調整措置の導入 (起債制限、財政健全化に向けた「経済財政計画」の提出、国の職員の派遣、預託金制度等) <各自治州の財政健全化目標の設定と予算編成の流れ> 4月1日まで 以降 財政行政省は各州の財政安定化目標を提案 ⇒CPFFの報告の後、閣議において各州の当該目標を決定 前年度 当年度 5 財政行政省は財政安定化目標を提案 ⇒国と自治州の財政当局から構成される「財政金融政策評議会(CPFF)」の報告の後、閣議において決定 ⇒国会での審議後、予算編成に反映 8月1日まで 10月1日まで 各州は議会で承認された歳出上限をCPFFに提出 各州は予算フレームを財政行政省へ提出 ⇒ 安定化目標との整合性を審査 各州において予算審議 4月1日まで 10月1日まで 財政行政省は当初予算の目標に係るレポート作成 財政行政省は前年度の目標の達成状況及び当年度の進捗状況に係るレポート作成 ○各州は支出状況について月次レポートを作成。 ○目標の進捗状況にリスクがある場合は調整措置。 財政健全化に向けた取組 ○ 2011年の財政収支の悪化を受け、2012年・2013年に集中的に財政健全化の取組みを推進。 ○ 各年の予算を見ると、歳出面では人件費、インフラ投資を減額する一方で、経済関係予算を伸ばす等、経 済再生への一定の配慮も見られる。 <財政健全化の規模(対GDP比)> 2012年の取組 ○ 2012年予算では、 -歳出抑制 : 失業給付、インフラ投資の抑制、公務員賞与の停止等。 -歳入増加 : 所得税の時限的引上げ、所得税・法人税の各種控除の見直し、 付加価値税率の引上げ(18→21%)等。 0.0 1.0 2012 2.0 2.5 3.0 4.0 5.0 (%) 1.7 2013年の取組 ○ 財政健全化と構造改革に関する「2013年-2014年予算計画」を策定(2012年)。2014年の財 政収支対GDP比▲2.8%の目標設定(2013年安定化プログラムにおいて、財政収支対GDP 比▲3.0%目標の達成は2016年に延期)。 2013 1.4 1.7 ○ 2013年予算では、 -歳出抑制 : 人件費(人員等)、失業給付、インフラ投資の抑制等 -歳入増加 : 法人税の各種控除の見直し、地方税の増税(自治州)等 歳出 歳入 2014年の取組 ○ 2014年予算では、 -歳出抑制 : 一般行政サービス、インフラ投資の抑制等 -歳入増加 : 環境関連税制の導入等 ○ 他方、雇用、交通・運輸、産業、エネルギー等について増額を行うなど、経済再生も意識。 2014 0.40.4 (出典)Draft Budgetary Plan 6 社会保障改革の取組 ○ 年金、医療、失業給付について、給付を合理化する改革を実施。年金については支給開始年齢の引上げ や給付抑制につながる改革を短期間に実施。 これまでの主な取組 (2)医療 18.8% 18 16 14 12 10.0% 10 8 6 4 2050 2048 2046 2044 2042 2040 2038 2036 2034 2032 2030 2028 2026 2024 2022 0 2020 2 2018 ②2013年改革 - 毎年の総給付額、受給者数等に給付改定率を連動(0.25%(下限)~ CPI+0.5%(上限))させる仕組みを導入(2013年改革) - 「サステナビリティファクター」(平均余命の変化を年金額に反映する 要素)を2019年から導入(2013年改革) 20 2016 ①2011年改革 - 支給開始年齢:65歳→67歳への段階的な引上げ(38.5年以上保険料 を拠出した者については、65歳時点で満額支給) - 額の計算に必要な賃金の算出に当たり参照する期間の延長(直近 15→25年) (%) 2014 (1)年金 【サステナビリティファクターによる 年金の減額率(対2014年比)】 (年) (出典)CSIS「Blog Envejecimiento [en-red]Compartiendo experiencias innovadoras sobre envejecimiento y personas mayores」 ○ 医薬品に係る自己負担の見直し(2012年) ※所得、年齢、疾病の観点から自己負担割合を設定。例えば、収入に応じて現役世代は40~60%、年金世代は10~60%(上 限額あり)の自己負担割合となっている一方、失業者等は0%。重大疾病の患者は10%(上限額あり)。 ○ その他、ジェネリック医薬品の活用や適切な服用量処方に向けた取組、医薬品の一括購入の推進など医療機関の効率 化の推進 等 7 (3)失業 ○ 失業給付額の減額(基本額の60%→50%)(2012年)。なお、別途の労働市場改革を実施。 労働市場改革 ○ リーマンショック以後、労働市場改革を強力に推進。単位労働コストは低水準で推移し、国際競争力の回復 に貢献。また、高止まりする失業率を背景に雇用促進策も実施。 スペインの労働市場改革は、金融危機以前に同国や他のEU諸国ではほとんど見られなかった方法で集団交渉の柔軟性を向上させた。OECD雇 用保護法制指数(EPL)を見ると、今回の改革は、解雇規制の硬直性を劇的に打破している。他方、今回の改革で正当な理由のない解雇の手当を大 幅に引き下げたが、正規雇用の退職金は依然としてOECD諸国の中で最も高い水準にある。 (出所)OECD “The 2012 Labour Market Reform in Spain” (2013) 労働市場改革法(2012年) ○ 労働条件の変更の柔軟化 - 経済的理由等による労働条件の調整項目に「給与額」が追加され労使間の合意なしに 変更が可能 - 地域・業種別の労働協約に対する企業内協約の自由度の拡大 ○ 正規・非正規間の格差是正 - - 正規雇用契約の不当解雇補償金の引下げ 正規雇用契約の客観的解雇要件の具体化 【単位労働コストの推移】 115 105 100 95 90 (出典)OECD 85 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 ○ 失業者対策 - 小企業等を対象とした解雇補償金が支払われない試用期間1年の正規フルタイム契約 形態の新設 - 若年失業者等を雇用した場合の税額控除・社会保険料減免 - 低スキル若年失業者に係る見習い雇用契約の適用拡大 安定雇用・就業機会促進法(2014年) ○ 残業時間の上限拡大、残業事前予告期間の短縮などによるパートタイム雇用の促進 ○ 社会保険料の減免、職業訓練の充実など若年者雇用の促進 (2010年=100) 110 【財・サービス輸出の推移】 125 120 (2010年=100) 115 110 105 100 95 90 85 (出典)Eurostat 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 8 2015年総選挙後の政治情勢と今後の財政 ○ 2015年の総選挙では新興左派ポデモスが第3党に躍進。与党・民衆党(PP)は過半数割れし、単独で政権 を担うことは不可能。総選挙後の連立が成立せず、各党において連立政権を模索しているが混迷し、暫定政 権状態が継続。 ○ 財政運営スタンスは各党派で相異。二大政党はEUの財政ルールを遵守する方向だが、今回躍進した左 派ポデモスは拡張的な財政政策を主張。 <2015年総選挙の結果> 社会労働者党 (PSOE) 90 <政党別財政運営の予測(民間シンクタンク)> 民衆党(PP)、社会労働者党(PSOE)と比べ、ポデ モスの財政運営では財政赤字対GDP比の低下ペー スは遅い。慎重シナリオでは、2019年まで財政 赤字対GDP比は現状から改善していない。 ポデモス 69 シウダダノス 40 民衆党(PP) 123 その他 28 【財政赤字対GDP比】 ポデモス (慎重シナリオ) (%) 定数:350 <各政党の公約(財政関係)> 政党 9 ポデモス 公約 民衆党(PP) 引き続き財政健全化に努める。 社会労働者党 (PSOE) 赤字削減目標の遵守を目指しつつ、最大限柔軟な規則 運用。 ポデモス 赤字削減目標の緩和。政府債務の再編。 シウダダノス 財政赤字は経済成長を通じて解消。 (出典)JETRO通商弘報「総選挙で左派ポデモスが第3党に、2大政党は大敗」(平成27年12月22日) PP PSOE (出典)Analistas Financieros Internacionales 今後の経済・財政に関する見通しと当面の財政課題 ○ 経済成長率はEU平均と比較して高水準で推移する見通しであるものの、財政収支対GDP比▲3.0%達成 を2016年としている安定化プログラムの見通しは、直近の各種経済予測と乖離。 ○ 経済成長率の高さの一方で、財政課題は複数存在。今後の財政運営には、2015年総選挙の結果による新 政権の影響も想定される。 今後の経済・財政に関する見通し ○ 直近の各機関の経済予測では、2016年以降、実質GDP成長率はやや減速の見通しで、2015年安定化プログラムと乖離。 【安定化プログラムと各機関の経済予測における実質GDP成長率】 3.5 (%) 3 2.5 2 安定化プログラム(2015.4) EU(2016.2) OECD(2015.11) IMF(2015.10) 2015 2016 2017 (年) 当面の財政課題 ○ 財政収支対GDP比が着実に改善する一方、景気回復による改善の効果が大きいこともあり、構造的な財政赤字の縮減に 向け、引き続き健全化措置に取り組むことが課題。 ○ 債務残高対GDP比の増加は緩やかになっているものの100%に迫る高い水準。対外債務が大きいことも踏まえれば、その 縮減も課題。 ○ これまで二大政党(民衆党(PP)、社会労働者党(PSOE))がEUの財政規律を尊重しつつ健全化努力を推進。他方、2015年総 選挙において、反緊縮を掲げるポデモスが躍進。先行きは不透明(2016年3月時点)。 10 ポイント ○ 2009年に▲11.0%まで悪化した財政収支対GDP比は、2015年には▲4.4%となる 見通し。2016年には、▲2.7%と、EU基準(▲3.0%)を達成する予定。 ○ 危機後には、憲法改正など財政運営を規律するルールを整備するとともに、歳 出・歳入両面からなる財政再建を集中的に実施。当時は実質成長率がマイナスを記 録するなど景気後退にあったものの、財政赤字の縮小が進展するとともにその後経 済に回復の兆しが見られるようになった。 ○ 社会保障のうち年金制度については、支給開始年齢の引上げのほか、支給額を 平均余命の伸びに応じて調整する仕組みを導入するなど、収支の改善に向けた取 組を推進。 ○ 地方分権が進んだスペインでは、憲法改正・財政金融安定化法の策定により、地 方レベルの予算の監視機能が向上。 ○ リーマンショック以後、継続的に労働市場改革を実施しており、単位労働コストは 低水準で推移。2013年以降、輸出は増加し、2015年の実質成長率は3.1%と見込ま れている。 11
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