NTTデータによるDell ITサービス事業統合の影響

Publication Date: 11 April 2016
ID Number: SOR-16-17
NTTデータによるDell ITサービス事業統合の影響
T. Ebina, A. Nakao
DellのITサービス事業の経営統合により、NTTデータの海外売上比率は、これまでの約34%か
ら約50%になるとガートナーでは推計する。特に北米市場の事業が強化される一方、国内IT
サービス市場への当面の影響は限定的と分析している。
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ニュース・アナリシス
概要
2016年3月28日、NTTはDellから、Dell製品の保守サービスを除くITサービス事業 (以下、Dell Services)
を譲り受けることに合意した。今後数カ月以内に関連会社の株式譲渡や事業受け渡しを完了する見込
みであるが、現時点で詳細は未定である。NTTデータはこれまでの経営統合においても、統合後はブ
ランド名を「NTTデータ」に一本化する方針を取ってきた。今回の統合においても、この方針は変わ
らない見込みである。
分析
経営統合の目的
NTTデータは、以前からグローバル・ビジネスを成長戦略の中心に掲げてきたが、今回の統合により、
同社の売り上げ構造におけるグローバルへの変換が一層明確になったとガートナーではみている。
NTTデータは、これまでもSAP関連サービスに強いプロバイダーをはじめ、世界各地で経営統合を
行ってきた。今回は金額規模が過去の買収より大きいだけではなく、インフラストラクチャ関連に強
いベンダー (根拠1参照) の買収である点が過去の傾向と異なる。
また、Dell Servicesは北米においてヘルスケア業界向けサービスを提供してきた実績がある。同産業の
ノウハウが加わる点も、過去の買収と比べて特徴的である。
経営統合後のビジネス規模
2015年のNTTデータとDellのグローバル市場におけるITサービス・ビジネスの状況について、ガート
ナーでは次のように推計している。
NTTデータ:

グローバルITサービス市場でのランキング:第10位

主なサービス・セグメント:コンサルティング/導入、ITアウトソーシング (ITサービス売上に占
める割合:55.9%、37.5%)

主なサービス展開先:金融、製造、公共 (ITサービス売上に占める割合:32.1%、24.0%、16.8%)

主なサービス展開地域:日本 (66.2%)、北米 (15.5%)、西欧 (15.4%)
Dell:

グローバルITサービス市場でのランキング:第20位

主なサービス・セグメント:製品保守サポート、ITアウトソーシング (ITサービス売上に占める割
合:53.1%、30.0%)

主なサービス展開先:ヘルスケア、公共、金融 (ITサービス売上に占める割合:18.6%、15.2%、
14.4%)

主なサービス展開地域:北米 (70.3%)、西欧 (16.6%)、アジア (7.3%)
「製品保守サポート」を除くDell Servicesの売り上げが加わった場合、ガートナーが推計する2015年の
グローバルITサービス市場の売り上げランキングにおいて、NTTデータは第6位に相当する。これを日
系ベンダー最大手の富士通と比較すると、以下のとおりとなる。
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ITサービス売上:
NTTデータ:1兆9,600億円
富士通:2兆1,000億円
海外売上比率:
NTTデータ:49.9%
富士通:33.3%
売上規模で、富士通との差が大きく縮まるだけではなく、海外売上比率では同社を大きく上回ること
になる (図1、根拠2参照)。
図1. NTTデータの国内/海外売上比率とシェア・ランキングの推移
(単位:億円)
25,000
1
3
20,000
49.9%
5
15,000
10,000
33.8%
31.9%
24.4%
5,000
68.1%
66.2%
7
9
10位
9位
75.6%
6位
50.1%
11
11位
0
13
2013年
2014年
国内
海外
2015年
統合後
グローバルのシェア・ランキング
出典:ガートナー (2016年4月)
経営統合後のNTTデータの機会と課題
経営統合後のNTTデータの機会と課題を、ガートナーでは以下のように分析している。
機会
海外の既存顧客へのクロスセル/アップセル
Dell Servicesは製品保守以外にも、クラウド基盤のインテグレーション・サービスやデータセンターの
マネージド・サービスを手掛けてきた。特に北米市場で、Dell Servicesはこれらのサービスの「リー
ダー」に位置付けられるとガートナーでは評価している (根拠1参照)。
Dell Servicesの主要顧客には、ヘルスケア産業以外にも、金融、公共、製造、サービスが含まれる。こ
れら4つの産業は、NTTデータにとっての主要顧客でもあり、国内外で、アプリケーション開発を中心
に実績を重ねてきた。NTTデータはこれまでも、統合前の各社が単独ではカバーできなかったサービ
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スを、それぞれの顧客へのクロスセル/アップセルを通じて対応してきており、北米を中心に事例も
広がりつつある。今回の事業統合でも同じ機会があろう。
北米のヘルスケア産業向けのサービス拡大
ガートナーでは、病院や医療関連の研究施設などを含む「ヘルスケア」(根拠3参照) 産業向けITサービ
スの北米市場の規模を約1兆9,000億円と推計している。Dell Servicesは、地域医療機関向けのITインフ
ラストラクチャの開発や運用で実績を上げており、同市場でトップ・シェアを持つと分析している (根
拠4参照)。Dellのサービス事業をグループ下に置くことによって、NTTデータの北米市場における顧客
基盤や売り上げの向上に寄与する効果は大きいとみている。
課題
国内の既存顧客に対する事業統合方針とその効果の明示
NTTデータではこれまで「Global One」のコンセプトで、統合した各社のノウハウを集めたソリュー
ションを開発してきた。ただし、一部の国内企業からは、「買収など海外での投資が、国内市場向け
サービスにどのようなメリットをもたらすかが明確ではない」といった声も聞かれる。今回の統合で
海外売上比率がこれまでにない水準へと高まるため、こうした声はさらに強くなる可能性がある。統
合効果について、国内の既存顧客に対してこれまで以上に詳細な説明が求められよう。
NTTグループ内の他の関連会社との役割の整理
インフラストラクチャ関連サービスについては、NTTグループ内のNTTコミュニケーションズや
Dimension Dataも強みとしており、国内外で顧客基盤を形成している。NTTデータに加わるDellのイン
フラストラクチャ関連サービスと、他のNTTグループ企業の関連サービスとの間で、人材/資産の活
用方針に関する整合性を確保することは、今後のNTTデータの効率的なビジネス拡大に向けた条件と
なる。
グローバル大手の競合他社との差別化
Dell Servicesの事業統合後も、NTTデータのITサービスは、売上規模では、IBMやAccentureなどのグ
ローバル最大手のITサービス・プロバイダーに追いつくことが難しい。サービス・ラインが広がる一方
で、特定のセグメントでは、事業内容において他の大手プロバイダーとの決定的な差別化点を見いだ
しにくい。海外では、俊敏性や短期プロジェクトといった点で差別化を図っているものの、グローバ
ル大手プロバイダーとの差別化を、より訴求する必要がある。
推奨事項
ITサービス・プロバイダーへの推奨事項

国内ITサービス市場では当面影響はない。ただし、北米市場では、NTTデータのリソース力や
サービスの幅が広がるため、同地域でビジネスを展開するプロバイダーは、今後のNTTデー
タとDellの統合化の方向を注視する。
ユーザー企業への推奨事項

特に国内でのみNTTデータのサービスを利用する企業は、海外と国内のNTTデータの成長戦略
やそれぞれの連携に関するロードマップを確認し、必要に応じて同社に説明を求める。
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推奨リサーチ
「Market Share IT Services, 2015」
「Forecast: IT Services,2014-2020, 1Q16 Update」
「Magic Quadrant for Data Center Outsourcing and Infrastructure Utility Services, North America」
根拠
1.
ガートナーが2015年7月に発表した「Magic Quadrant for Data Center Outsourcing and Infrastructure
Utility Services, North America」において、Dellの同分野のサービスは「リーダー」に位置付けら
れている。
2. 「Market Share: IT Services 2015」では、国内大手プロバイダー4社の海外ITサービス売上比率は、
富士通 (33.3%)、NTTデータ (33.8%)、日立製作所 (29.1%)、NEC (13.2%) であった。Dell Services
を統合後のNTTデータの海外売上比率は49.9%となり、大手4社の中で突出した割合になる。
3.
ヘルスケア市場には、病院事業、医療業および歯科医療業、保健衛生業、在宅ケア・サービス事
業 (居住介護、ケア・サービス業) のほか、医療サービスの研究施設といった関連施設向けのサー
ビスなどが含まれる。
4.
Dellは、北米地域のヘルスケア市場で約7%のシェアを占め、1位を獲得している。製品保守サポー
トを除いた同市場では、ランキングは下がるものの、5位となっている。
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