上流工程の大切さと それに向き合う姿勢について

【資料1-5】第1回システム構築上流工程強化部会
上流工程の大切さと
それに向き合う姿勢について
2016. 3. 16
日本取引所グループ 常務執行役 CIO
澁谷裕以 (しぶや ひろゆき)
目次
1. 東京海上の「アプリケーション・オーナー制度」について
2. 日新火災での経験
3. システム開発という仕事、大切にすべきこと
4. 上流工程の問題に向き合う姿勢について
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1.東京海上のアプリケーションオーナー制度について
 90年代後半~、代理店オンラインの普及と金融・保険の自由化
が相まって、システム開発を伴う商品開発競争の時代が到来。そ
れまでとはレベルの違うシステム開発のボリュームに。・・・
 しかしながら、システムトラブルが多く、第一線・代理店から「これ
では仕事にならない!」との怒りの声が。
 システムの信頼化向上・品質向上は、経営上の大問題に
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問題の殆どは上流工程に
 コンサルタントを入れて分析してみると、以下のような実態が判明。
 大規模トラブルの6割
が上流工程に起因
 開発規模が大きいものに絞
ると8割が上流工程に起因
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 コンサルタントにより、上流工程の実態として以下のような改善課題が
指摘された。

ビジネス側の要件の確定が遅い。(期日までに決めなくてはい
けないというマインドが乏しい。)

要件の変更が多い。

要件を最終的に文書で確認していない。
システム開発における
オーナー部門の関わり方を根底から
変えないといけない
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アプリケーション・オーナー制度 : 責任と役割分担
 上記を踏まえて、「アプリケーション・オーナー制度」を確立。
 ポイントはオーナー部門のコミットメントと、UATへの参画(手で責任を取る)。
お
客
様
・
代
理
店
・
第
一
線
の
社
員
アプリケーション・オーナー
システム化要望の提示
With 目的&期待効果
対話による要件の具体化
システム部門
目的を
共有した
協力関係、
フランクな
対話
要件定義の最終決定
・・・目的・効果に照らして
受入テストケース策定
・テスト実行
発見された問題への対処
教育・マニュアル作成
健全な
緊張
関係
技術的&コストの観点
からの選択肢の提示
対話による費用対効果の高
いソリューションへのリード
工程をしっかり管理して
期限までに品質の良い
システムを作る
外
部
ヴ
ェ
ン
ダ
ー
発見された問題への対処
パフォーマンス・テスト、
インフラセットアップ等
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アプリオーナー制度の創設と同時に劇的な効果が
 当初は、「他人に自分の仕事を押し付けるな」と非難される。
 しかし、導入直後から劇的な効果が出て、翌年からトラブルが8割削減された。
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7
2.日新火災での経験


日新火災では、2012年4月から、2つのプロジェクトでアプリ
オーナー制度の試行を行った。
試行結果の効果測定は以下のとおり。
<同じ自動車保険のシステム改定でのトラブル発生件数>
 ・ 試行前(2011年4月改定)
・・・17件
 ・ 施行後(2012年10月改定) ・・・ 1件 (6%)

試行の成功を踏まえて2013年度から全面展開した。2013年度
のトラブル発生件数は前年度の4割減となった。
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日新火災:商品部(アプリオーナー)の反応

それまでは、「保険料算出方法書」を渡して、“この通り作っ
ておいて“

初めてシステム部門が作った仕様書をチェックして愕然とす
る。


“こんなにも判ってもらっていなかったのか!こんなにも
誤解されるものなのか!”
仕様書を丁寧に添削するなかで、どんどんダイアローグが
活性化する。

“これは楽しい仕事。どうしてうちのシステム部門は、こ
れまでこれをやらせてくれなかったのか?”
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日新火災:IT部門の反応

これまでは、自分たちに閉じた仕事

UATのテストケースは、システムサイドが作ったテストケースを
見て作ることが判った途端、“こんないい加減なテストをやって
いたのか!”と言われたくない。


システムサイドのテストケースの精緻化に必死に取り組む
健全な緊張感は品質を高める。
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3. システム開発という仕事、
大切にすべきこと
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システム開発と建築
 システム開発と建築はよく似ている。どちらも、「思いを形にする」
仕事。より正確に言うと、「思いを人に形にしてもらう」仕事。システム
開発も建築も自分ひとりでできる仕事ではない。
 そこで大事なことは、いかに人に思いを共有してもらえるか?自分
の思いをいかに人に正確に伝えることができるか?建築もシステム
開発も、コミュニケーションの仕事。
 しかしながら、建築においては、これから作ろうとするものが学校
なのか、オフィスなのか、コンサートホールなのか、個人の家なのか、
それを間違えることはない。しかも、柱が真っ直ぐか、床がフラットか
は誰でも見れば直ぐに判る。
 システム開発は、ITの活用によって初めてできる新しいビジネス
プロセスをつくる仕事。そこに価値がある。でも、建築のようにパ
ターン化された先例がなく、目に見えない。当然のように思い違い
が起きる。
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当然のように起きる「思い違い」
ビジネス部門
システム部門
A
伝えたつもりの要件
B
C
受け取った要件
人が相手が言ったことをどう理解するかは、その人の知識、
過去の経験、トラウマなどに大きく左右される
“A”を”B”に、”C”を”B”にするためには、
深い対話を繰り返し行うことがとても大切
これは、オーナーとシステムの間だけではなく、
システム部門内でも同じ
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 繰り返し深い対話を行える条件

「自分ごと化」・・・プロジェクトに関わる人全てがプロジェクトの
目的、リスクを自分の腹に落として自分の言葉で理解し、責任を
もって行動している

「互いの尊重」・・・チームメンバー間に上も下もない、内も外も
ない、お互いを信頼し合い、リスペクトし合い、深いレベルで共感
し合っている
 このような「良いチーム」では、双方に様々な発見や気付きがあり、
最初の構想よりどんどん良いものができる・・・楽しい!
A
B
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C
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繰り返し深い対話が行える態勢
 繰り返し深い対話が行えるためには、会社全体でシステム開発に向き合
う姿勢が必要。それが「態勢」。
 「態勢」という言葉は、「体制+マインドセット」を意味する。
 ex. 非常時態勢、戦時態勢
 経営者や業務部門の人たちが、システム開発を自分ごと化し、コミットし
て初めて「態勢」ができる。
態勢
体制
 こういう態勢ができて、初めて要件ギャップをなくす真の対話が成り立つ。
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「態勢」をつくるもの
経営陣の理解と姿勢
“Tone at the management”
各業務執行役員
株 上 審 清
算
式 場 査
部 機
部 部 門 関
社長
IT担当役員
IT 部門
オーナー部門
ITを自分のこととして
捉えるマインド
透明性・説明責任
IT部門の透明性・説明責任が全体の態勢を動かすドライバー
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4.上流工程の問題に向き合う姿勢について
 メソドロジーやガイドブックだけで上流工程の問題を解決するこ
とはできない。
 その背後にあるシステム開発に向き合う会社全体の「態勢」こそ
が重要。態勢がないところで、方法論を唱えても機能しない。
 さらに、これまでのシステム開発の方法論はシステム工学に閉
じ過ぎている。システム開発は、もっと諸学を統合したものである
べき。特に重要なのは、コミュニケーション学であり、認知心理学、
社会学、経営学の要素だと思う。
 この部会が価値ある成果を生み、日本が真にITを経営の力とす
ることができるようになることを祈っているが、そのためにはもっと
パースペクティブを広げる必要があると考える。
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ありがとうございました
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