中国経済(北京出張報告):底堅さは見られるが過度な期待は禁物

Apr13, 2016
No.2016-016
伊藤忠経済研究所
Economic Monitor
主席研究員 武田
淳
03-3497-3676 [email protected]
中国経済(北京出張報告):底堅さは見られるが過度な期待は禁物
3 月下旬に北京を訪れ、経済情勢についての見方をヒアリングした結果、景気は底入れ程度にと
どまるとの見方が大勢であった。不動産市場は大都市中心に持ち直しの動きが見られるが、地方
都市では過大な在庫が重石となっており、まだら模様が強まっている。製造業でも在庫調整が進
展、景況感が改善するなど明るさがみられるが、これから進められる過剰設備の削減が下押し材
料となろう。インフラ投資も 2016 年に限れば期待ほど盛り上がらない可能性もあり、中国経済
は底堅さを見せるものの、過度な期待は禁物という状況のようである。
景気は底入れ程度にとどまるとの見方が大勢
3 月下旬、北京に出張し、中国政府機関や日系金融機関などを訪問、主に経済情勢についてそれぞれの見
方をヒアリングした。今年の中国経済について概して言えば、景気の全体感は「L 字型」、つまり成長率
は底入れするものの加速までは期待できないという見方が大勢であった。なお、現状については、鉄鋼や
石炭などの過剰供給業種を中心に製造業の不振が続いている一方で、不動産業は持ち直しの動きが見られ、
サービス業などの 3 次産業は堅調な拡大が続いているという評価である。
実際に、北京の街中には、最近市場が急拡大しているネット宅配用の電動三輪車を至る所で見掛けたほか、
配車アプリが普及したせいか夜はホテルといえどもタクシーの確保が難しい場所が少なからずあるなど、
IT を活用した新しいサービスの急成長を実感できた。また、空港は団体旅行客に通路を塞がれ通行が困難
なほどであり、平日にもかかわらず天安門広場は観光客で溢れ、飲食街も人で賑わうなど、旧来型サービ
スも好調なようである。そうした中で、いずれも窓にも明かりが灯っていないマンションが散見されたが、
中国では内装工事を購入後行うため、そういう建物は珍しくなく、少なくとも北京に関しては販売好調だ
とのことであった。
主な都市の住宅価格動向(前年同月比、%)
主な二線都市の住宅価格動向(前月比、%)
3
25
20
北京
上海
15
大連
青島
2
1
10
0
5
▲1
0
▲2
▲5
▲ 10
南京
青島
杭州
大連
▲3
2011
2012
2013
2014
( 出所) 中国国家統計局
2015
2016
2013
2014
2015
2016
( 出所) 中国国家統計局
不動産市場はまだら模様強まる
不動産市場の底堅さは住宅価格の動向も裏付けている。北京の住宅価格指数(新築)は、2015 年 3 月以
降、前月比で上昇が続いており、2016 年 2 月には前年同月比で+12.9%まで伸びを高めた。賃金や名目
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
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なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
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GDP 成長率 1が 10%を下回っていることを基準とすれば、上昇ペースは早過ぎると言えるが、それだけ
需要が旺盛だということでもある。
こうした状況からは住宅バブル再燃が懸念されるが、現地では農村部からの人口流入が今後も継続的に見
込まれることを根拠に合理的な価格形成と評する向きが大勢であった。
住宅市場の問題という意味では、北京や上海など所謂「一線都市」の価格上昇よりも、一部の「二線都市」
や「三線都市」以下の地方都市における過剰在庫の方が懸念されている。主な二線都市の住宅価格動向を
見ると、青島や大連でも持ち直し傾向にあるものの 2016 年時点でも前年同月比ではマイナスである。こ
うした都市でも需要は回復しつつあるが、在庫が過大なため価格の上昇が抑制されているとみられる。な
お、同じ二線都市でも南京や杭州などは住宅価格が大幅に上昇しており、人口動態や在庫の上昇、さらに
は産業構造などによって、住宅価格は都市毎の格差が拡大している。
在庫の推移(前年同期比、%)
製造業PMI指数の推移(50=中立)
25
60
新規輸出受注
58
20
新規受注
全体
56
54
15
52
10
50
48
5
46
※各四半期は2、5、8、11月の値。
0
2010
44
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2010
( 出所) 中国国家統計局
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 中国国家統計局
製造業やインフラ投資は慎重な見方
経済情勢に話を戻すと、北京を見る限り 3 次産業は引き続き好調のようである。製造業についても、マク
ロ統計では、在庫の伸びが 2 月に前年同月比+0.7%まで鈍化し在庫調整が一段と進んでいることが確認
され、3 月の製造業 PMI 指数が 50.2 と 8 ヵ月ぶりに好不調の境目である 50 を上回るなど企業の景況感
にも改善が見られている。PMI 指数の上昇は新規受注の大幅改善(2 月 48.6→3 月 51.4)が示す通り、需
要の持ち直しによるところが大きく、新規輸出受注(2 月 47.4→3 月 50.2)も同様の動きとなっているこ
とから輸出の回復が一因のようである。
しかしながら、現地では、過剰生産能力の削減が関連する製造業への下押し圧力となるほか、昨年来の対
ドルでの人民元安による輸出押し上げ効果は限定的など、慎重な見方が多い。さらに、景気テコ入れ役と
して期待されているインフラ投資についても、反腐敗運動の下で来年に共産党人事を控え、また、交通中
心から民生分野へ投資分野がシフトすることもあり、政府の対応が遅れがちになるとの懸念も浮上してい
る。そのため、2016 年中はインフラ投資に大きな期待はできないとの見方もあり、2016 年の実質 GDP
成長率見通しのコンセンサスは 6%台半ばとなりつつある。当研究所においても、こうした状況や今月 15
日に発表される 1~3 月期 GDP の実績を踏まえ、中国経済の見通しを修正する予定である。
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北京の 2015 年の名目 GDP 成長率は前年比+7.7%。
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