陶磁器用赤色顔料の合成に関する研究 - 名古屋工業大学学術機関

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陶磁器用赤色顔料の合成に関する研究
加藤, 昌宏
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2000
http://repo.lib.nitech.ac.jp/handle/123456789/332
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博士論文
陶磁器用赤色顔料の合成に関する研究
2000年
加藤昌宏
目 次
1.1はじめに‥・・‥・・・‥・・・・・・・・・・・・・・・・・‥・・・‥・・・・・・・・・・‥・・・・・・・・・●●●
1.2 従来の研究…‥.・・・‥・・・‥‥‥‥・‥‥・・・・・・・・‥・・・・・・・‥・・・・‥・・・‥
1 2 9
第1章 緒論
1.3 本研究の目的と内容・・・‥・・・・・・・・・・・・・‥・・・・‥‥‥‥・・‥‥・・・・・・・・・‥
第2章 Crを発色元素としたコランダム型赤色顔料合成における
アルカリの発色におよぼす影響……‥11
2.1緒言・
2.2 実験・
2.2.1試料合成 ………………………………………………13
2.2.2 測定方法 ………………………………………………13
2.2.2.1分光反射率測定・
2.2.2.2 Ⅹ線回折・・・・・・・
2.2.2.3 蛍光Ⅹ線分析・・・
2.3 結果および考察・‥‥・‥
13
13
14
14
2.3.1発色の変化と結晶構造・・・・・・・・・・・・・・‥‥・・・‥・・・・‥・‥・‥‥・‥・‥14
2.3.1.1A120。をCr203で置換したコランダムの発色 …………………・14
16
2.3.1.2A120。をCr203で置換したスピネルの発色・・・…・・・
2.3.1.3 Mg添加コランダム型赤色顔料の発色・・・・・‥‥・・・
2.3.1.4 Mg添加クロムアルミナピンク顔料中のCrの含有量・
2.3.1.5 顔料の結晶構造………………………‥・
2.3.2 Mg添加によるコランダム型赤色顔料の発色変化・‥・・・
20
2.4 まとめ・・・‥‥・・・・・・・・・・・‥・・・・・‥‥・・・‥‥・・・・・・・‥
25
17
18
18
引用文献……………………………………………………‥126
3.1緒言‥・・・‥・・・・・・・・‥・・・・・・・・・・
3.2 実験・・・・‥・‥・‥・・‥・‥・・・・・・・・
3.2.1試料合成・‥‥・・・・・・‥・・・・・‥
3.2.2 測定方法・‥‥・・・・‥・・・・‥・・・
3.2.2.1分光反射率測定・・・・‥・・・・・
3.2.2.2 X線回折・・・‥・・・‥・・・・・・・
3.2.2.3 X線光電子分光分析・・・・‥・
3.3 結果および考察・・・‥・・・・・‥・・‥・・
3.3.1発色の変化と結晶構造・・・・・・・・・
3.3.3.1顔料の発色……………・
3.3.1.2 顔料の結晶構造‥‥・・‥・・・
3.3.2 顔料中のCrイオンの価数と発色・
● ●
3.4 まとめ
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
引用文献
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
7 7 7 7 9 9 9 9 9 9 9 2 5 9 0
2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 4
第3章 Crを発色元素としたルチル型,ベロブスカイト型及び
スフェーン型母結晶顔料の発色変化・
第4章 Crを発色源とした赤色顔料を使用した紬薬の発色…………………‥ 41
4.1緒言・・・‥・・・‥・・・‥・・・・・‥・・・・・・・
41
4.2 実験・・・・・・‥・・・‥・・・・・‥・・・‥・・・・
41
4.2.1試料合成・‥・‥‥・・・・・・・・‥・・‥
41
4.2.1.1顔料合成‥・‥・‥・・・‥・・‥‥
41
4.2.1.2 粕薬調製・・・・・・‥‥・‥‥‥‥
43
4.2.2 測定・・・・・‥‥・・・‥‥・・・・・・・・・・
44
4.2.2.1分光反射率測定・‥・‥‥‥・‥
44
44
4.3結果および考察・‥・‥・・・・・・・・・・・・・‥
44
4.3.1Crを発色源とした赤色顔料の発色・
46
4.3.2 粕薬の発色・・・・・‥・・・・・・・・‥・・・
4.3.2.1Crを発色源としたコランダム型及び
スピネル型母結晶赤色顔料を使用した粕薬の発色…… 46
4.3.2.2 Crを発色源としたルチル型,ベロブスカイト型及び
スフェーン型母結晶赤色顔料を使用した紬薬の発色…・501
4.3.2.3 顔料の混合使用による粕薬の赤色発色……………………… 52
4.4 まとめ……………………………………………………・53
引用文献……………………………………………………… 54
第5章 ジルコン型顔料の混合使用による粕薬の赤色発色…………………‥ 55
5.1緒言・・・・・‥・・・・・・・・‥・・・・・・‥・・・・・‥・・‥‥‥‥‥‥‥・・・・・‥・・
5.2 実験・・・・・‥・‥・‥・・・・・・・‥‥・・・・・・・・・‥・・・・・・・‥・‥・‥・・・・・‥
5.2.1.1顔料合成・・・・・・・・・・・‥・・・・・・‥・・・・・・‥・‥‥‥‥・‥・・‥‥
5.2.1.2 粕薬調製・・・・・・・・・・‥‥・・・・‥‥‥・‥‥‥・‥・‥・・・・・・・・・・
5.2.2 測定方法・・・・‥・・・・・・・・・・・・・‥・・・‥・・・・・・‥・・・・・‥・・・・・・・・・
5.2.2.1分光反射率測定・‥・・・・・・・‥・・‥‥・‥・・・・‥・‥・・・‥・・・・‥
5.2.2.2 Ⅹ線回折………………………………………‥・
5.3 結果及び考察・・・・‥・・・・・・・・・・・・‥・・・・・・・・・‥・・・・‥・・・・・・・・・・・・
5.3.1Mn一ジルコン紫顔料の発色・‥・・・・・・・・・‥・‥‥・‥・‥・・・・‥・・・‥
5 5 6 7 7 7 8 8 8 2 2
5 5 5 5 5 5 5 5 5 6 6
5.2.1試料調製・・・・・・‥・・‥・・・・・・・・‥‥・・・・・‥・・‥・・‥‥・・・・・・・・・
5.3.2 Mn−ジルコン紫顔料を使用した紬薬の発色・・・・・・・・・‥‥・‥・・‥‥
5.3.3 顔料の2種混合使用による粕薬の発色・・・・・‥・‥・・・‥・・・・‥‥・・・
5.3.3.1Mn−ジルコン紫顔料とPr−ジルコン黄顔料との
2種混合使用による粕薬の発色・
5.3.3.2 Mn−ジルコン紫顔料とFe−ジルコンサーモンピンク顔料との
2種混合使用による紬薬の発色…… 63
5.3.4 Mn,Pr及びFe−ジルコン顔料の3種混合使用による紬薬の赤色発色…… 64
5.4 まとめ……………………………………………………・66
引用文献……………………………………………………… 67
第6章 結論……………………………………………………・68
謝辞…………………………………………………………‥ 70
第1章 緒 論
1.1はじめに
人類がはじめて顔料を使用したのは有史以前の狩猟をし,洞窟で暮らしていたころにさか
のぼる.それは天然の無機顔料で金属の酸化物や硫化物であった.
顔料とは水や溶媒に溶けない,有色微粒子状の無機または有機化合物で,展色材(結合
材)と混和して塗膜もしくは成形物に色彩をあたえるものである.これに対して水や溶媒に溶
けるものを染料という.
顔料は大別すれば無機顔料と有機顔料となり,用途としては塗料,印刷インク,プラスチッ
ク,絵具,ゴム,繊維,化粧品,建材,皮革,陶磁器などがある.一般の顔料の用途として塗
料,絵具についてみてみると,色を発色する顔料と,この顔料を結合し,定着させる結合材
からなる.顔料本来の色を発色させるには分散状態,粒子サイズ,粒子形状,結合材の塗
膜形成能などにより決まるもので,顔料の種類によりそれぞれ決まってくる.塗料,絵具に用
いられる顔料は特に色彩,耐光性,隠蔽性が重視され,着色力,耐候性,耐熱性,耐薬品
性,耐油性,易分散性などが要求され,物理的性質としては,屈折率,比重,粒子径,吸油
性,硬度,純度などが要求される.毒性の強い無機顔料,化学的に不安定な無機顔料およ
び耐光性,耐薬品性に弱い有機レーキ顔料など使用に注意する必要があるものもある.結
合材の主なはたらきは顔料を定着させることにあるが,顔料の分散,透明性において重要な
役割を果している.
一方,陶磁器用顔料は,そのすべてが無機顔料で展色材のかわりに紬薬,陶磁器素地
や上絵具用のフリットと混合し700∼1300℃の高温で焼成される.このときに顔料をとりまく
粕薬などとの反応の有無が発色と大きく関係している.また陶磁器用顔料の用途は色素地
用,色粕用,下絵具用,上絵具用などがあるが,素地用では安定であっても色粕用では分
解して変色し,上絵具の色基としては使えても高火度の下絵具としては使えない場合がある.
陶磁器用顔料はいかに軸薬,陶磁器素地やフリット中で安定にかつ多彩に発色させるかが
最も要求されることである.このことが高い温度で熱洗礼を受ける陶磁器用顔料の最も苦心
するところであり,その生い立ちや発達において一般の顔料とは大きく異なる理由のひとつ
である.実際の用途で,一般の顔料は2種類以上の顔料を混合し,発色させることができる
が,陶磁器顔料では難しい.一般の顔料では発色そのもの問題より結合材との分散性など
の物性が問題となり,陶磁器用顔料では粕薬などと混ぜ高温焼成したとき,顔料が粕薬成
分によって分解し本来の発色が得られないなど点が問題となる.
1
顔料全体の種類はおよそ6000種類が製造されていることに比べ,陶磁器用顔料は数10
種類と少なく,重要な色である赤色は,有毒なセレンーカドミウムを用いたものに限られている.
粕薬などの高温使用では,分解し赤色の発色が得られない.セレンーカドミウム系顔料に代
わる陶磁器用赤色顔料は古くから望まれており,環境汚染防止の意味からも有毒なセレンー
カドミウム系の使用は避けるべきである.
1.2 従来の研究
1.2.1陶磁器用顔料製造の歴史的経緯
古くからの陶磁器用顔料は紬薬の着色という陶磁器独特のしかも膨大な数の技術的経験
の積み重ねの結果編み出されたものである.古代ローマのナポリの遺跡のなかですでにつ
かわれていたアンチモン黄,スズ紬に少量のクロムが入ることで濃いワインレッドを呈色する
ことをヒントにつくられたクロムスズピンク,セレンーカドミウムによるセレン赤,酸化鉄を用い
た鉄赤このほか,ビクトリアグリン,黒,茶,緑およびピンクの各スピネル系顔料がある.2)
今世紀になり,ZrSiO。にVが固溶したトルコ青3・4),Prの固溶したプラセオジウム黄5,6),
Feの固溶したサーモンピンク7),Co,Niの固溶したジルコングレー等のジルコン系顔料,
Zr02にVの固溶したバナジウム黄8)のZrO2系顔料,およびSn02にVの固溶したバナジウ
ムスズ黄9),Crの固溶したライラック,Sbの固溶したアンチモンスズグレー,α−Al203にMn
等の固溶したマンガンピンク(陶試紅)10),Ti02にCr,SbあるいはCr,Wの固溶したクロム
チタン黄等がつくられた.これらの新しい顔料は,高温で紬薬に安定な無色の化合物
(ZrSiO。,ZrO2,SnO2,α−A1203など)に遷移元素等の化合物で着色し顔料とする観点から
編み出された.すなわち,一つの固溶体として把握されていた.陶磁器古来の顔料に対し
同様な検討を行った結果,アンチモン黄はPb2Sb07のパイロクロア型化合物に,Fe3十,Al3+,
Sn4十が固溶しており11),クロムスズピンクは,スフェーンCaTiO・Si04のTi4十をSn4’で置換した
スズスフェーンCaSnO・Si04にCrが固溶したものであり12),ビクトリアグリンはウバロバイト
Ca3Cr2(SiO4)。からできていることが確認された13).その結果,陶磁器用顔料は,結晶構造的
にすっきりとした形に整理,分類されるようになり,いずれも単一の固溶体から構成されてい
ることがわかった14).
1.2.2 色による陶磁器用顔料の分類
陶磁器用顔料を色により分類し,表卜2−114)に示す.表中,結晶構造欄では,[]は母格
2
子に固溶する元素を表す.SnO2[sb]はSnO2中にSbが固溶していることを示す.表卜2−1
の各色の顔料ついて説明を加える.
(1)黒
(Cr,Fe)20。を除いて,ほとんどスピネル系顔料である.スピネル系顔料の黒の発色にCo
は不可欠の成分である.一時期酸化コバルトの価格が高騰したとき,Coを含まない黒色顔
料をつくろうと試みられたが,うまくつくれなかった.
(2)グレー
SiO2系とZrSiO4系で占められており,Sn02が高価なため,Zr−Si−Co−Ni系が主流となって
いる.Co,Niの量により青味グレーからグレーにかけての色調が得られる.
(3)黄
PbO−Sb205系の黄は,鉛の多い低火度粕にしか使用できない・ジルコン型のZr−Si−Pr,
ルチル型のSn−V,Sn−Ti−V,単斜晶ジルコニア型のZr−Vなどは,高温で,石灰亜鉛粕,
石灰紬などに使用でき,また他の顔料との混合で,種々の中間色が出せる.Zr−Y−V系のも
のは,Zr02にY203を少量固溶させ,Zr02を単斜晶のまま,さらにVを固溶させオレンジの
発色を得るものである.TトCr−Sbはルチル型のTi02に,同様ルチル型のCrSbO4,Ti−Cr−
Wは,Ti02にやはりルチル型のCr2WO6(三重ルチル型)が固溶したもので,タイルの素地
に直接混ぜ,使用する.アンチモン黄はPbO−Sb205系パイロクロア型の立方格子であるが,
PbOとSb205のモル比は2:1∼3:1とある程度幅があり,他にAl203,Fe20。,Sn02などをか
なり固溶する.
(4)茶
スピネル系顔料が,黒の場合と同様,重要な位置を占めてはいるが,Zr−Ti−V−FeのZrO2
型の茶のほか,Zr−Si−Prの黄と,Zr−Si−Feのサーモンピンクの混合による茶があり,これら
新しい顔料が,茶,樫系の色調をかなり広くカバーしている.
(5)緑
黄味緑のCa−Cr−Si系ビクトリアグリンと,逆に青によったCo−Zn−Al−Cr系のピーコックは,
いずれも石灰紬でだけ鮮明な呈色をす.Zr−Si−Prの黄と,Zr−SトVの青との混合により,青
から黄まで非常に広い範囲で緑の色調をカバーできる.この系の緑は石灰亜鉛紬にも使用
できる.
(6)青
Co−Zn−Al系のスピネル型,あるいはCo−Zn−Si系のウイレマイト型の各顔料があり,4配
3
位Co2十の吸収を示す.しかし,スピネル系では紬で分解し,紫によった呈色をする.Zr−Si−V
のトルコ青は,多少の条件はあるが,各種の粕に対し安定した呈色をする.Co−Siは2CoO・
Si02の組成で,フォルステライトと同じ構造をもち,Co2+配位数は6である.粉末ではピンク色
であるが,紬で分解し青の呈色をする.つまり,この化合物はコバルトをCo2十の状態で保持
している点に意味がある.
(7)ピンク1赤・紫
コランダム型のA卜Mnのマンガンピンク(陶試紅),スピネル型のZn−Al−Crのクロムピンク
のほかに,Ca−Sn−Si−Crのクロムスズピンク,これにさらに少量のCoが固溶したクロムスズラ
イラック,Sn−Cr系の紫,ジルコン型のZr−S卜Feのサーモンピンクがある.Zr−Si−Cd−S−Se
は,従来の陶磁器用顔料では赤の部分をカバーできないため,一般の無機顔料中,代表
的な赤色顔料であるカドミウム赤Cd(S,Se)を,ZrSi04でコーティングし,陶磁器の分野で利
用することを目的として開発された顔料である14,15).
4
表ト2−1色による陶磁器用顔料の分類14)
色
名称
黒
アンチ モ ンスズ グレー
グレー
黄
ジル コングレー
バ ナ ジウムスズ 黄
バ ナ ジウムスズ 黄
バ ナ ジ ウムジル コニ ウム黄
バ ナ ジウムジル コニ ウム黄
バ ナ ジウムジル コニ ウム黄
プラセ オ ジウム黄
クロムチ タン黄
クロムチ タン黄
アンチ モ ン黄
アンチ モン黄
結晶構造
組成
C r−F e
C o −C r−F e
C o −M n−C r−F e
C o −N トC r−F e
C o −N i−A 卜C r−F e
C o −N i−M n −C r−F e
C o −M n−A l−C r−F e
C o−N 卜C r−F e−Si
(
C r,Fe)
20 3 spinel spinel spinel spinel spinel spinel spinel コ ス ス ス ス ス ス ス Sn−Sb
Sn−Sb−V
Zr−Si−C o−N i
Sn−V
Sn−T i−V
Zr−V
Zr−T i−V
Zr−Y −V
Zr−Si−P r
T i−C r−Sb
T 卜C r−W
Pb−Sb−F e
Pb−Sb−A l
Z r−S卜C s−S
SnO 2 [
Sb] SnO 2 [
Sb ,V ] ZrSiO 4 [C o ,N i] ル チ ル 型
ル チ ル 型
ジ ル コ ン 型
Z n−C r−Si
Z n−A トC r−F e
茶
Z n−M n−A トC r−F e
Z r−Si−Pr−F e
ビクトリアグリン
緑
ピー コック
ピー コック
海 碧
コバ ル トブル ー
紺
青
トル コ青
マ ンガンピンク
スピネル ピンク
クロムスズ ピンク
クロムスズライラック
C o−Zn−A l
C o−A l
C o−A トSi
C o−Z n−Si
C o−Si
Zr−Si−V
A l−M n
Z n−A トC r
C a−Sn−Si−C r
C a−Sn−SトC r−C o
クロムスズライラック
サ ー モ ンピンク
ファイヤ ー レッド
Sn−C r
Z r−Si−F e
Z r−Si−C d−S−Se
∃三
円
ピンク
紫
赤
C a−C r−Si
C r−A l
C r−A トSi
C o−Zn −A トC r
C o−C r
Z r−Si−Pr−V
Z r−Si−Sn−V
ラ ン ダ ム ピ ネ ル ピ ネ ル ピ ネ ル ピ ネ ル ピ ネ ル ピ ネ ル ピ ネ ル 型
型
型
型
型
型
型
型
SnO 2 [
V ] ル チ ル 型
SnO 2 [
T i,V ] ル チ ル 型
ZrO 2 [
V ] ジ ル コ ニ ア 型 (単 斜 )
ZrO 2 [
T i,V ] ジ ル コ ニ ア 型 (単 斜 )
ZrO 2 [
Y ,V ] ジ ル コ ニ ア 型 (単 斜 )
ZrSiO 。 (
Pr) ジ ル コ ン 型
T iO 2 [C r,Sb] ル チ ル 型
T iO 2 [C r,W ] ル チ ル 型
Pb 2Sb O 7 [F e] パ イ ロ ク ロ ア 型
P b2Sb O 7 [
A l] パ イ ロ ク ロ ア 型
C dS を Z rSi0 4でコー ト
spinel ス ピ ネ ル 型
spinel ス ピ ネ ル 型
spinel ス ピ ネ ル 型
ZrSiO 。(Pr) +Z rSiO 。(F e)
C a。
C r2(
SiO 4)
3 (
A l,C r)
20 3 (
A l,C r)
20 。+SiO 2 spinel sp inel Z rSiO 。(Pr) +Z rSiO
Z rSiO 。(
V )+SnO 2
sp inel sp inel sp in el (C o ,Z n)
2SiO 4 C o2SiO 。 Z rSiO 。(
V ) ガ ー ネ ッ ト 型
コ ラ ン ダ ム 型
コ ラ ン ダ ム 型
ス ピ ネ ル 型
ス ピ ネ ル 型
4 (V )
(
V)
ス ピ ネ ル 型
ス ピ ネ ル 型
ス ピ ネ ル 型
ウ イ レ マ イ ト 型
カ ン ラ ン 石 型
ジ ル コ ン 型
α−A 120 。[
M n] spinel C aSnO ・SiO 。・
[
C r] C aSnO ・SiO 。 [C r,
C o]
コ ラ ン ダ ム ス ピ ネ ル ス フ ェ ー ン ス フ ェ ー ン 型
型
型
型
SnO 2 [
C r] ル チ ル 型
ZrSiO 。(
F e) ジ ル コ ン 型
Cd (
S,Se)を ZrSi0 4でコー ト
表中[]は母格子に固溶する遷移元素を示す.
5
1.2.3 陶磁器用顔料の主な着色のメカニズム
人間の視覚は波長380∼780nmの光を感じる.この波長領域にある光を可視光という.物
質に照射された可視光が,吸収あるいは散乱されると着色する.可視領域すべてが吸収さ
れると黒色となるが,特定領域だけ吸収されると,吸収されない部分の色として見えるように
なる.この目に見える色は,吸収色の補色であるという.陶磁器用顔料の光の吸収の原因と
しては,以下のようなものがある.
① 遷移金属または希土類のように閉殻でない軌道をもつ原子での,電子エネルギー準位
間の遷移(山武伊による吸収で,ほとんどの陶磁器用顔料の着色はこれによる.
② 一つのイオンから他のイオンへの電子の移動による吸収で,3d電子を持たないV5十に
よる吸収はこれによる.
③ 半導体などで見られる電子がバンド間を遷移することによる吸収で,陶磁器用顔料では,
Cd(S,Se)の固溶体にみられる.
④ 格子欠陥を媒介としての電子エネルギー準位の変化による吸収
があげられる.
陶磁器用顔料の着色に最も多く関係するのは,遷移金属イオンや希土類金属イオンのd
軌道や′軌道の電子準位である.これらの電子の準位は,遷移金属イオンや希土類金属イ
オンの原子価,配位数,陰イオンとの結合の強さによって大きく変化する.このことは配位子
場理論で説明されている.
1.2.4 配位子場理論の概要
電子エネルギー準位間の遷移は陶磁器用顔料の主要な着色原因である.今後の顔料設
計の指針を考える上で重要であるので,このメカニズムについて少し詳しく述べる.また,∂
電子のみならず′電子についても同様の着色メカニズムが考えられるが,本稿では簡単の
ためd電子の配位子場理論を概説する.
遷移金属イオンの∂軌道のうち四つはクローバの葉の形をしており,一つはアレイの形を
しており,その中心あたりを小さいリングが取り巻いている.クローバの葉の形をした軌道のう
ち三つは,4r,屯,屯でそれぞれ旦nズろyZ平面内にあり,それらのプローブは二つの軸の
間に広がっている・この三つをまとめてt2gという・のこりのクローバの葉形の軌道は範ソで,
Ⅳ平面内にあり,ズ事由,γ軸方向に広がっている.アレイ型をした範軌道はZ軸に沿って広
6
がっている.この二つをegと呼ぶ・(図1−2−1)
これらの軌道は周囲の場の力によって歪められ,その間にエネルギーが生じる.光が当た
って,その差の間の電子遷移が可能なとき,差のエネルギーに同等な光のエネルギーが吸
収される.この補色として物質に色が着く.
無機顔料の多くは酸化物である.遷移元素の周りの配位子は酸素で四面体4配位か八面
体6配位をとることが多い.6配位をとった場合,酸素原子は耳JらZ軸上にあるので,範ソ,範
は押し返された軌道になり屯,屯,転は軸間にあるので伸びた軌道になる・その結果エネ
ルギー差を生じる.これを』とよぶ.
4配位では配位子はすべて軸間の空間にあり,分岐エネルギーは配位の場合の4/9』の
値をもつ.直交座標軸方向にひろがった∂軌道43_y2,42は軸間に広がったd軌道残りも,
転よりも配位子より離れている・このため4配位のエネルギー準位は6配位とは逆になる・
(図卜2−1)
丘,−
了’
ヽ●■■雷
■ ヽ ‘■
右}
図卜2−1d軌道の空間配置
7
へ′︼
2
Iq
′
′■
ー
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2
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\\⊥′
′ − ′
′八、、、、⊥′′′一
′′
東湖2 扇、、、
′ − − − ′
克,¢Z
−_____ i
− −
遷移金属イオン
四面体4配位 八面体6配位 テトラゴナル 平面正方形
図卜2−2 配位子の配位状態と∂軌道の結晶場分裂
遷移元素のd軌道が全部充填されないことが多く空きがあるので,外部から光エネルギー
が供給されると』に相当するだけ配位子の影響で結晶場分裂している低エネルギー準位か
ら高エネルギー準位へ電子遷移が行われ光の吸収が起きる.実際の場合4配位,6配位と
いっても遷移元素のまわりにくる配位子との空間は等しい配位子場とは限らないし,平面配
位に近い場合もあり,結晶場分裂はさらにいくつかに起きていると考えるべきである.分光光
度計で可視スペクトルを見たとき,一つの吸収の谷にいくつかの谷が重なって観測されるの
はこのような理由による.
8
1.3 本研究の目的と内容
以上の背景と現状から,本論文では,セレンーカドミウムより毒性の少ない3価および4価の
Crを発色源とし,顔料母結晶の結晶構造,また紬薬使用での発色について検討し,セレ
ンーカドミウム系顔料に代わる陶磁器用赤色顔料の合成を目的とした.
以下,本論文の構成ならびに内容を記す.
第1章 緒 論
本研究の動機と目的ならびに各章の内容を記した.
第2章 Crを発色元素としたコランダム型赤色顔料合成におけるアルカリの発色におよぼ
す影響
Crを発色源とし顔料母結晶にコランダムを用いたCr−アルミナピンク顔料の母結晶組成
にアルカリなどの微量成分を添加し,顔料の赤色発色変化について検討した.
第3章 Crを発色元素としたルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型母結晶顔料の
発色変化
Crを発色源とし顔料母結晶にルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型の顔料合成を
試み,第2章で得られた混合母結晶による発色変化をもとに,同一結晶型の混合母結晶を
生成させることにより,顔料の赤色発色変化について検討した.
第4章 Crを発色源とした赤色顔料を使用した紬薬の発色
第2章及び第3章で合成したCrを発色源とした赤色無機顔料を代表的なアルカリ粕薬
に使用し,紬薬の発色に関して陶磁器用赤色顔料として使用可能か検討した.
第5章 ジルコン型顔料の混合使用による軸薬の赤色発色
顔料母結晶にジルコンを用い,複数のジルコン型顔料を組合わせることにより粕薬の赤色
発色について検討した.
第6章 総 括
本論文の結論をまとめた
9
参考文献
1)色彩工学ハンドブック,朝倉書店(1989)
2)加藤悦三,陶磁器顔料,窯業協会(1978)
3)加藤悦三,名工試報,4,25(1955)
4)T.Demiray,D.K.Nath,andF.A.Hummmel,JAm.Chem.Sbc.,53,1(1970)
5)加藤悦三,高嶋康夫,名工試報,5,41(1955)
6)R.A.Eppler,1hdEngChem.ProdRes.DevelQP.,10,352(1971)
7)R.A.Eppler,JAm.Ceram.Sbc.,62,47(1979)
8)VI.MatkovichandP」M.Crbett,JAm.Ceram.Sbc.,44,182(1962)
9)E.H.Ray,T.D.CamahanandRM.Sullivan,Am.Ceram.Sbc.Bull.,40,13(1961)
10)大塚淳,合志陽一,新田孝之,窯協,軋555(1973)
11)E.Kato,Keram.Z.,13,617(1961)
12)加藤悦三,金岡繁人,名工試報,7,71(1958)
13)加藤悦三,金岡繁人,名工試報,6,50(1957)
14)大塚淳,セラミックス,30,602(1995)
10
第2章 Crを発色元素としたコランダム型赤色顔料合成におけるアルカリの発色にお
よぼす影響
2.1 緒 言
多くの無機顔料は複合酸化物として,または単一の母結晶に遷移金属元素を加え合
成されている.スピネルとしてCoAl20。の青,ZrSi04にPrが固溶した黄,Al203にCr203
が多量に固溶した緑などである2).非セレン非カドミウム系赤色陶磁器用無機顔料では
ルビーの色をヒントにアルミナ(コランダム)や亜鉛−アルミナ(ガーナイト)に少量のCrを
固溶させたクロムアルミナピンク顔料が作られている3).顔料の発色は合成時の微量の
添加物により変化することが知られている3).
本章ではクロムアルミナピンク顔料取り上げ,その発色に対するアルカリ,アルカリ土
類の影響を調べた.これらは酸化クロムとアルミナとの固相反応を促進させる鉱化剤とし
て用いられてきたものであるが,生成する顔料の発色に対する影響は系統的に調べられ
ていなかった.Na,K,Mg,Caのクロムアルミナピンク顔料の発色に及ぼす影響について
調べたところ,Mgを添加することにより,クロムアルミナピンク顔料の赤紫色から赤色に発
色変化することが解った.クロムアルミナピンク顔料に,Mgを添加することにより,(1)
(Al,Cr)203コランダム相(C相)に共存してMg(Al,Cr)204スピネル相(S相)が生成される
こと,(2)Mg添加量の増加につれ発色が赤紫色から赤色に変化することおよび(3)発色
源はCrでその価数が3価であることが知られている4).しかし,クロムアルミナピンク顔
料のS相中のCr3+含有量は調合比から計算したもので,実際の値に関する検討は不充
分である.本章では顔料中の各鉱物のCr3+含有量を定量的に明らかにするため,別途
に(All_XCrx)203コランダム(Ⅹ=0−1)とMg(Al卜xCrx)204スピネル(Ⅹ=0−1)を合成し,これらの
格子定数を精密に測定した.(All_XCrx)20。コランダムとMg(All_XCrx)20。スピネルの格子
定数とMg添加クロムアルミナピンク顔料中のC相およびS相のそれぞれの格子定数を
比較することにより,顔料中のC相およびS相のCr3十含有量を求め,色調変化を検討し
た.
11
2.2 実 験
2.2.1試料合成
表2−2−1に顔料調合比を示す.P−00からP−50のクロムアルミナピンク顔料(P系)で
は,MgO:A1203を0:100から50:100の比にし,それぞれの顔料組成においてAl203を
Cr203で0.1mol置換した.C−00からC−100のコランダム(C系)はAl20。をCr203で
(AlトJCrJ20。」=0,0.05,0.1,0.2,0.4,0・6,0・8,1のように置換した・
Table2−2−1MolarcompositionsofstartingmaterialsforMg−added
(Al,Cr)203Pigments(P−Series),(All_,Cr,)203COrundum
(C−Series)andMg(All_,Crx)204SPinel(S−Series)・
Sample Al203
P−00 90.00
Cr203 MgCO3
P−1 89.01
10.00 0.99
P−5 85.24
10.00 4.76
P−10 80.91
10.00 9.09
P−20 73.33
10.00 16.67
P−30 66.93
10.00 23.07
P−40 61.43
10.00 28.57
P−50 56.67
10.00 33.33
10.00 0.00
C−00 100.00
0.00
−
C−5 95.00
5.00
■−
C−10 90.00
10.00
=
C−20 80.00
20.00
−
C−40 60.00
40.00
−
C−60 40.00
60.00
−
C−80 20.00
80.00
−
C−100 0.00
100.00
−
S−00 50.00
0.00 50.00
S−20 40.00
10.00 50.00
S−40 30.00
20.00 50.00
S−60 20.00
30.00 50.00
S−80 10.00
40.00 50.00
S−100 0.00
50.00 50.00
12
S−00からS−100のアルミニウムマグネシウムスピネル(S系)はA1203をCr203で,
Mg(Al卜xCrx)204,X=0,0.2,0.4,0.6,0.8,1のように置換した・A1203は99・99mass%純度
を用い,Cr203およびMgC03は特級試薬を用いた・
原料粉末はアルミナ製ボールミルにて24時間湿式混合し,乾燥後,アルミナるつぼを
用い大気中1600℃で加熱した.加熱には二珪化モリブデンを発熱体とした炉を用い昇
温速度を毎分2℃とし,1600℃で2時間保持し,その後自然放冷し,所定の顔料を調製
した.焼成顔料を乳鉢で微粉砕したものを分光反射率測定およびX線回折用の試料と
した.
2.2.2 測定方法
2.2.2.1分光反射率測定
試料粉末を印刷メジューム(TNKScreeninks製,T−01)と重量比1:1で混練し,200メ
ッシュのナイロンスクリーンを通して透明フイルムに印刷した.乾燥した印刷フイルムの分
光反射率を分光光度計(東京電色製,Color Analyzer Tc−1800)にて測定した.測定に
はD−65光源を用い,100 視野の条件で400nmから780nmの範囲で測色した.通常の
粉末試料の分光反射率測定では石英セルに粉末を入れ積分球を使って集光し測色す
る.本試験で使用した測定方法と,通常の測定方法では同様の分光反射率曲線が得ら
れた.
2.2.2.2 X線回折
粉末Ⅹ線回折(XRD)により生成した鉱物を同定した.測定条件は Cu Kα 30kvス
キャン速度毎分2.00 走査範囲100から800 で測定した.またWPPF法により生成し
た鉱物の格子定数を算出した5).測定装置にはリガク製Rint−2000を使用した.
13
2.2.2.3 蛍光X線分析
合成した顔料中のCrの含有量を蛍光Ⅹ線分析にて定量した.試料をメタホウ酸リチウ
ムと重量比1:3で混合しガラスタブレット(ピード)を作成し,検量線法にて定量した.測
定には島津製作所製XRF1700を用いた.
2.3 結果および考察
2.3.1発色の変化と結晶構造
2.3.1.1At20。をCr20。で置換したコランダムの発色
図2−3−1に別途合成したA12▼JCrJ03コランダムの反射曲線を示す.反射関数J(励ま分
光反射率斤をもとにJ(用=(卜用2/2斤で表した6).一般にルビーの発色は少量のCr3+が
A1203に固溶することによって生じる.このことは配位子場理論における光の吸収の代表
的な例として用いられ,実験値や計算値から410nmおよび560nmに光の吸収が生じる
ことが報告されている7),8).C−00(A1203)は測定範囲内では吸収が認められず白色であ
った.A1203をCr203で5mol%置換したC−5の場合,410nmおよび560nmに吸収が生じ
その発色は赤紫色であった.Cr203置換量が増加するに従い,吸収は長波長側に移動
し,発色は赤紫色から茶色そして緑色へと変化し既報6),7)とよく一致している.
14
.MON︵JUjく︶lO巴−UasOUu雲UUGむ出TでM.M叫i
∈U、王muの一心>空S
(臼)Ha〇ueqJOSq∀
Oのト ONト ○のり ○寸の 00の ○∽m ONm Oの寸 ○寸寸 00寸
00TUl
Oの・UIY
Oの・U+
○寸・04
ON・U+
OTUIT
の・Ul▼−
〇〇・U⊥Y・・
⊂) の の 卜.(.D uつ 寸 の N
2.3.1.2 A120。をCr20。で置換したスピネルの発色
図2−3−2にMg(All−XCrx)204スピネルの反射曲線を示す.Al203をCr203で置換しな
いS−00(MgAl204)は測定範囲内では吸収が認められず白色であった.S−20は410nm
および560nmに吸収があり発色は赤紫であった.上述の(Al卜xCrx)203コランダムと同様
にCr203置換量が増えるに従い,吸収は長波長側にシフトし,これに伴い赤紫色から茶
色そして緑へと変化した.
0 8 6 4 2
︵∝︶このUuのqJOSq<
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
VVavelength/nm
Fig.2−3−2ReflectancespectraofMg(All●,Cr,)204.
16
2.3.1.3 Mg添加コランダム型赤色顔料の発色
図2−3−3にMg添加クロムアルミナピンク顔料の分光反射率を示す.Mg添加クロムア
ルミナピンク顔料ではMgを20m01%以下までの添加は無添加に比べて,分光反射率の
480nm付近の吸収が増加した.しかし20m01%を超えると,Mg添加量の増加に伴い
480nm付近の吸収は再び減少した.これらの顔料の発色は,Mg添加による480nm付
近の吸収の変化に伴い20m01%以下のMg添加で赤色に発色し,20m01%を超える添加
で再び赤紫色に変化した.
5
4 3
2 1
︵∝︶このOueqJOSq<
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavelength/nm
Fig.2−3−3ReflectancespectraofMg−added(Al,Cr)203・Pigments・
17
2.3.1.4 Mg添加クロムアルミナピンク顔料中のCrの含有量
蛍光X線分析の結果,すべてのMg添加クロムアルミナピンク顔料中のCr含有量は
一定で9.3m01%であった.一般的にCrは1200℃を越えると揮発しやすくなる.本研究
における顔料合成温度は1600℃であった.したがってCrの0.7m01%の減量は顔料合
成時に揮発したものと考えられる.
2.3.1.5 顔料の結晶構造
表2−3−1に(All_XCrx)203コランダムおよびMg(All_XCrx)204スピネルの格子定数を示す.
Cr203置換量の増加に伴いどちらの格子定数も増加した.これはイオン半径の大きい
Cr3+(615pm)8)がイオン半径の小さいA13十と(535pm)8)に置換固溶したためである.Mg
添加クロムアルミナピンク顔料は(Al,Cr)203コランダム相(C相)とMg(Al,Cr)204スピネル
相(S相)からなる4).表3にMg添加クロムアルミナピンク顔料中のC相とS相の割合
およびそれぞれの格子定数を示す.ここでC相とS相の割合は,添加したMgがすべて
S相を生成するとして表2−2−1から計算した.Mg添加量の増加に伴いこの顔料中に生
成されるS相の割合は増加する.Mg添加クロムアルミナピンク顔料中のC相の格子定
数a。,(詔まともにMg添加に伴う変化はなかった.一方,S相の格子定数B。はMg添加
量により変化した.β吊まP−1の場合が最大で,Mg添加量の増加に伴い∂。は減少した.
後述するようにS相の格子定数の変化はS相中に固溶したCr含有量によるものである
と考えられる.
18
Table2−3−1Lattice
constants
of(All_,Cr,)203COrundum
(C−Series)and Mg(Alト,Crx)204 SPinel(S−
Series).
Sample
α0,nm
Co,nm
C−00
O.47652
l.30041
C−5
0.47713
1.30318
C−10
0.47813
1.30529
C−20
0.47991
1.31136
C−40
0.48388
1.32347
C−60
0.48802
1.33558
C−80
0.49199
1.34739
C−100
0.49538
1.35806
S−00
0.80870
S−20
0.81095
S−40
0.81211
S−60
0.81452
S−80
0.81951
S−100
0.82606
19
2.3.2 Mg添加によるコランダム型赤色顔料の発色変化
クロムアルミナピンク顔料の発色と顔料中のC相とS相のCr3+含有量との関係を検討
する.表2−3−2に示すように顔料中のC相の格子定数がMg添加量に依らず一定であ
ることからC相中のCr3+含有量は一定であると考えられる.表2−2−2の別途調製した
(All_XCrx)203コランダムの格子定数とC相の格子定数を比較するとC−10とほぼ同じで
ある.蛍光X線分析の結果と併せC相中のCr3+含有量は9.3m01%(All.814Cr。.18603)と
推定され,その発色はC−10と似た赤紫色であると考えられる.
Table2−3−2Latticeconstantsof(Al,Cr)203COrundumandMg(Al,Cr)204
SPinelcrystallinesinthe Mg−added(Al,Cr)203Pigments(P−
Series).
Sample Corundumphase SpineIphase Molarratioof
α0,nm Co,nm
α0,nm
COrundumtosplnel
Phase(C:S)
100:0
P−00
0.478261.30520
P−1
0.478281.30521
0.82206
99:1
P−5
0.478271.30520
0.81949
95:5
P−10
0.478251.30523
0.81530
90:10
P−20
0.478251.30525
0.81486
80:20
P−30
0.478241.30520
0.81245
70:30
P−40
0.478241.30519
0.80971
60:40
P−50
0.478251.30519
0.80934
50:50
20
一方,顔料中のS相の格子定数はMgの添加量に伴い変化する.顔料中のS相の
格子定数(表2−3−1)を別途調製したMg(All_XCrx)204スピネルの格子定数(表2−3−2)
と比較すればS相に含まれるCr3+含有量を推定することが可能である.図2−3−3に
Mg(All_XCrx)204スピネルのCr203置換量と格子定数の関係を示す・図中●はMg(All一
JCrj204スピネルの格子定数の測定値で,○は顔料中のS相の格子定数をこの直線
上にプロットしたものである.この○のプロットをもとにMg(Al,Cr)204スピネル相のCr3十の
含有量を求めた.
6 2 8
2 2 1
8 8 8
0. 0. 0.
0
1
8
0
∈U、lu空Su0000若付﹂
0.814
●
0.806
MgAl204 20 40 60 80 MgCr204
RatioofMgAl204tOMgCr204/Mole%
Fig.2−3−4LatticeconstantofMg(Al,Cr)204SPinelversusCr3’
content.LatticeconstantsofMg2+added(Al,Cr)20,
21
Duncan9)によれば,複数の顔料を混合する場合,それぞれの顔料の反射関数を加え
合わせることで混合顔料の発色を推定することができ,反射関数は次式で表される.
J(用mix=CIJ(jq)+C2J(jq)+…・+C。_lJ(侃)+CnJ(尺)(1)
ここでCHまノ成分の混合比(mol%),J(のはノ成分の反射関数を表す.この混合則を
用いてMg添加クロムアルミナピンク顔料の反射関数を顔料中のC相とS相の反射関
数を用いて算出する.顔料中のC相の反射関数はC−10の反射関数を用いる.またS
相の反射関数は図2−3−2に示したMg(All_XCrx)204スピネルの反射関数を利用する.実
測されていないCr3’含有量に対する反射関数は,対象となるCr3+含有量を含む区間の
両端の反射関数から算術的に比例計算し推定した.顔料中のC相とS相の割合は表
2−2中のC:Sを用いる.
図2−3−5(1)−(3)にMg添加クロムアルミナピンク顔料の反射関数の計算値と測定値を
示す.図2−3−5(1)でMgの添加量が少ないP−1では反射関数の計算値と測定値にず
れを生じたが,Mgの添加量がP−5より多い場合,計算値と測定値は良い一致をみた.
したがって,Mg添加のクロムアルミナピンク顔料の発色変化は,基本的に顔料中のC
相の発色とS相の発色の重ね合わせによるものと考えられる.
22
400440480520560600640680720760
Wavelength/nm
Fig.2−3−5(1)Calculatedandobservedreflectancespectra
●
OftheplgmentS;P−00,P−landP−5.
4 5
3
■
∝
︶
−
■
●
3 5 2
2
︵
u
U
⊂
q
J
O
S
q
<
5 1 5
1
0
m
400440480520560600640680720760
Wavelength/nm
Fig.2−3−5(2)Calculatedandobservedreflectancespectra
●
OftheplgmentS;P−10andP−20・
23
︵
∝
︶
■
u
O
1
u
2 5
−
■
q
q
1
L
O
S
q
<
400440480520560600640680720760
Wavelength/nm
Fig.2−3−5(3)Calculatedandobservedreflectancespectra
●
OftheplgmentS;P−30andP−50.
24
2.4 まとめ
Mg 添加のクロムアルミナピンク顔料は,(Al,Cr)203コランダム相(C 相)と
Mg(Al,Cr)204スピネル相(S相)から成っている.このクロムアルミナピンク顔料は微量の
Mg添加で赤色を示し,Mg添加量が増加するに従い赤色から赤紫色に変化する.この
クロムアルミナピンク顔料中のC相およびS相に含まれるCr3+含有量を,別途調製した
(Al卜xCrx)203コランダムおよびMg(All_XCrx)204スピネルの格子定数と比較して推定した・
C相とS相の比とCr3+含有量をもとにMg添加クロムアルミナピンク顔料の反射関数を
Duncan式を用いて算出すると,計算値と測定値が良く一致した.以上をまとめると,Mg
添加クロムアルミナピンク顔料が赤色発色することは,顔料中のC相およびS相のCr3+
含有量に起因したそれぞれの発色の混合発色によると結論される.母結晶が複数の相
からなり,それぞれが独立した発色をするとき混合発色により,新たな発色が得られるこ
とがわかった.
25
引用文献
1)伊藤征四郎,“色材工学ハンドブック”,p.227,(1989)朝倉書店
2)大塚 淳,色材,55,690(1982)
3)大塚 淳,セラミックス,30,602(1995)
4)加藤昌宏,高橋 実,鵜沼英郎,鈴木 傑,セラミックス協会学術論文誌,投稿中
5)H.Toraya,J AppL C伽t.,19,440(1986)
6)石田信吾,藤村義和,藤吉加一,金岡繁人,窯業協会誌,91,546−553(1983)
7)高島康夫,“陶磁器粕の科学”,p.227(1994)内田老鶴圃
8)上村 洗,管野 暁,田辺行人,“配位子場理論とその応用”,p.234(1990)裳華
房
9)し.H.Ahrens,Geoch血.EtCosmocjlemLActa2,155(1952)
10)D.R.Duncan,jケoc.用JT.Sbc.,52,390−395(1940)
26
第3章 Crを発色元素としたルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン聖母結晶顔料の発
色変化顔料母結晶の選択による発色変化
3.1緒 言
非セレン非カドミウム系赤色無機顔料は,ルビーの発色をヒントにα−アルミナ(コランダム)
やZnAl204(ガーナイト)に少量のCrイオンを固溶させたクロムアルミナ系ピンク顔料1),アルミ
ナに少量のMnイオンを固溶させたマンガンアルミナピンク顔料2),スズスフェーンに少量の
Crイオンを固溶させたクロムスズピンク顔料3)などがある.
Crイオンを発色源とした赤色無機顔料中で濃厚な赤紫色を発色するクロムスズピンク顔料
ではスズスフェーンに2∼5m01%のCrイオンを固溶させ合成される.また経験的にTiを少量
添加することにより,クロムスズピンク顔料の発色が赤紫色からより赤色に近づくことが知られ
ている.
Crを発色源とする赤色無機顔料では,母結晶は結合の強い酸素6配位を持つ構造のもの
が濃厚な赤色を呈する.酸素6配位を持つ酸化物の構造は,コランダム型,ルチル型,スピネ
ル型,イルメナイト型,ベロブスカイト型,スフェーン型などがある4).crを発色源とする赤色無
機顔料の母結晶はコランダム型,ルチル型,スピネル型,ベロブスカイト型,スフェーン型が
知られている.コランダム型およびスピネル型の発色については既報5)にて報告した.本研究
では,スフェーン型,ベロブスカイト型およびルチル型母結晶顔料を取り上げ,スフェーン型
(CaSnSiO5,CaTiSiO5),ベロブスカイト型(CaSnO。,CaTiO3),ルチル型(SnO2,TiO2)母結晶
に少量のCrイオンを固溶させ顔料を合成した.Crイオンを発色源とし,Snを含む母結晶で
合成された顔料を広義のクロムスズピンク顔料とし,Tiの影響を調べるためSnをTiで置換し
顔料を合成した.酸素6配位を持つ酸化物中ではCrイオンは3価が一般的だが,4価も存在
することが知られている6・7).そこでこれら顔料中のCrイオンの価数に着目し,発色に及ぼす
影響を調べ,赤色発色変化について検討した.
3.2 実 験
3.2.1試料合成
表3.2.1に調合比を示す.母結晶を,スフェーン型CaSn(卜X)TixSiO5,ベロブスカイト型CaSn
(卜X)TixO3,ルチル型Sn(1_X)TixO2それぞれにおいてⅩ=0,0.2,0・4,0・6,0.8,1となるよう調合
した.予備実験の結果Cr203の添加量は2∼5m01%が濃厚な赤色を発色した.添加量が2
27
molより少ないと発色は淡色になり,5m01%より多いと褐色から緑色になった.また,鉱化剤の
添加量もB20。5m01%の場合が最も濃厚な赤色発色を示した.そこで母結晶100molに対し
発色剤としてCr203を2mol,鉱化剤としてB203を5molの比で添加した.CaCO3,SnO2,TiO2,
SiO2,Cr203およびB20。は特級試薬を用いた.
原料粉末はジルコニア製遊星ボールミルにて30分湿式混合し,乾燥後,アルミナるつぼを
用い大気中1250℃で加熱,2時間保持し所定の顔料を調製した.焼成顔料を乳鉢で微粉砕
したものを分光反射率測定,X線回折およびX線光電子分光分析用の試料とした.
1もble3−2−1.StartlngCOmPOSitionsoftheplgmentS・
CrystaHine Components(moIarratio)
Sample No.
StruCture CaO SnO2 TiO2 SiO2 Cr203 B203
100 2 5
100
SST−00
100
SST−20
100
80 20
100 2 5
100
60 40
100 2 5
SST−60
100
40 60
100 2 5
SST−80
100
20 80
100 2 5
SST−100
100
PST−00
100
100
PST−20
100
80 20
2 5
100
60 40
2 5
PST−60
100
40 60
2 5
PST−80
100
20 80
2 5
PST−100
100
SST−40
Sphene
PST−40
100
100 2 5
2 5
Perovskite
100
2 5
RST−00
100
RST−20
80 20
2 5
60 40
2 5
RST−60
40 60
2 5
RST−80
20 80
2 5
RST−40
RutiIe
RST−100
2 5
100
28
2 5
3.2.2 測定方法
3.2.2.1分光反射率測定
試料粉末を印刷メジューム(TNK Screeninks製,T−01)と重量比1:1で混練し,200メッシ
ュのナイロンスクリーンを通して透明フイルムに印刷した.乾燥した印刷フイルムの分光反射率
を分光光度計(東京電色製,ColorAnalyzerTc−1800)にて測定した.測定にはD−65光源を
用い,100 視野の条件で400nmから780nmの範囲で測色した.
3.2.2.2 X線回折
.粉末X線回折(XRD)により生成した鉱物を同定した.測定条件はCu Kα 30kvスキャ
ン速度毎分2.00走査範囲100から800で測定した.またWPPF法8)を用いて格子定数を
測定した.測定にはリガク製Rin卜2000を使用した.
3.2.2.3 X線光電子分光分析
Ⅹ線光電子分光分析(XPS)にて顔料中のCrイオンの価数を測定した.測定で得られた結
合エネルギー値は残留炭素のCIs284.6eVで補正した9).測定にはSSI製のSSX−100を用
いた.
3.3 結果および考察
3.3.1発色の変化と結晶構造
3.3.1.1顔料の発色
表3−2−2に合成した顔料のXYZ表色系およびCIELAB L*a*b*を示す.スフェーン型母
結晶顔料で,SST−00(CaSnSiO5)は赤紫色を発色し,SST−100(CaTiSiO5)は茶色に発色した・
SnをTiで20m01%置換したSST−20およびSnをTiで40m01%置換したSST−40は濃赤を発
色し,Tiの置換量がさらに増えるに従いSST−60は赤茶色,SST−80は茶色に発色した.ベロ
ブスカイト型母結晶顔料で,PST−00(CaSnO3)は赤紫色を発色し,PST−100(CaTiO。)は
茶色に発色した.SnをTiで20m01%置換したPST−20は濃赤を発色し,Tiの置換量が増える
に従いPST−40,PST−60は赤茶色,PST−80は茶色に発色した.ルチル型母結晶顔料では
RST−00(SnO2)は青紫色を発色し,RST−100(TiO2)は黄土色に発色した・SnをTiで20m01%,
40m01%,60m01%置換したRST−20,RST−40,RST−60は茶色を発色し,SnをTiで80m01%
置換したPST−80は黄土色に発色した.
29
●
1もble3−2−2.XYZandCIELABL*a*b*oftheplgmentS.
SampIeNo. X
Y
Z
L* a* b* Color
SST−00
23.58 22.72
25.32 54.78
9.34 −1.54
Redpurpte
SST−20
21.95 20.73
18.99 52.65
11.10 6.09
Purplered
SST−40
21.03 19.48
17.41 51.24
12.82 6.86
Purplered
SST−60
20.13 19.21
17.12 50.93
9.79 6.94
Red brown
SST−80
19.54 18.86
16.23 50.52
8.60 8.14
Brown
SST−100
18.78 18.29
15.07 49.85
7.64 9.58
Brown
PST−00
21.19 20.69 22.50 52.61
7.71 −0.52
Redpurpte
PST−20
21.95 20.73 22.60 52.65
11.10 −0.62
Purplered
PST−40
22.33 21.66 23.12 53.66
8.50 0.22
Red brown
PST−60
23.55 23.66 25.36 55.75
5.05 0.06
Red brown
PST−80
24.36 24.36 26.12 56.45
5.60 0.04
Brown
PST−100
25.64 26.25 27.27 58.27
3.19 1.39
Brown
RST−00 59.89 59.68 70.51 81.66
8.05 −5.48
Lilac
RST−20 41.56 41.89 45.23 70.80
5.70 −0.30
Brown
RST−40
36.26 36.88 39.36 67.19
4.37 0.27
Brown
RST−60
32.55 33.25 33.98 64.36
3.72 2.25
Ocher
RST−80
28.12 28.75 29.11 60.56
3.44 2.54
Ocher
RST−100
25.18 25.81 25.20 57.86
3.05 3.96
Ocher
30
図3−3−1にスフェーン型母結晶顔料の反射曲線を示す.反射関数J(励ま分光反射率斤を
もとにJ(用=(卜用2/2斤で表した10).光源から顔料が吸収した光の補色が顔料の発色となって
現れる.色と光の波長の関係は,青467−488nm,緑498−530nm,赤640−780nmである11).
SST−00は530nm付近に緑の強い吸収と若干弱い青の吸収がある.このため顔料は赤紫色
を発色した.SST−20,SST−40では緑から青にかけての吸収がありSST−00に比べより赤く発
色した.SST−60,SST−80,SST−100では強い青の吸収と若干弱い緑の吸収があり茶色に発
色した.PST系やRST系でも,おおむね同様にTiO2含有量が高くなるにつれ緑から青の吸
収が強くなる傾向が見られた.
一)−X=0(SST−00)
一●−X=0.2(SST−20)
︵監このOuqqLOSq<
」ユーX=0.4(SST−40)
+X=0.6(SST−60)
−◇−X=0.8(SST−80)
◆X=1(SST−100)
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
WaveIength/nm
Fig・3−3−1Reflectance spectra of Cr−doped CaSn(1−X)TixSiO5
PlgmentS・
31
3.3.1.2 顔料の結晶構造
顔料の着色剤としてCr203を用いたが,Crが固溶せず酸化物として粒子表面に存在する
可能性がある.そこで別途,母結晶としてCaSnSiO5,CaTiSiO5,CaSnO3,CaTiO3,SnO2およ
びTi02となるように調製し,Cr203を1,2,5,10および20m01%添加し,顔料を合成した・
合成条件は本研究の顔料と同様とした.表3−3−1に別途調製した顔料の格子定数を示す・
どの母結晶においても2から5m01%の間にCrの固溶限界が存在する.固溶限界以上のCr
は固溶せず酸化物として粒子表面に存在する可能性がある.本研究で合成した顔料はCr2
03を2m01%添加したもので,固溶限界内である・したがってCrは母結晶に固溶していると
考えられる.
図3−3−2にスフェーン型母結晶顔料SST−00,SST−40,SST−80およびSS十100のX線回
折パターンを示す.また表3−3−2に顔料中のCaSnSi05とCaTiSiO5,CaSnO。とCaTiO。およ
びSn02とTi02の格子定数を示す・顔料中のそれぞれの母結晶の格子定数の変化はほとん
ど無かった.これらの結果から,SST−00はCaSnSiO5単一相,SST−100はCaTiSiO5単一相,
SST−40およびSST−80はCaSnSi05とCaTiSi05の混合相であった.ベロブスカイト型母結晶
顔料およびルチル型母結晶顔料も同様に,PST−00はCaSnO3単一相,PST−100はCaTiO。
単一相でPST−20,40,60,80はCaSnO。とCaTi03の混合相,RST−00はSnO2単一相,
RST−100はTiO2単一相でRST−20,40,60,80はSn02とTi02の混合相であった・どの母結
晶系でも単一相もしくは両端の相の混合相でそれ以外の相は合成されなかった・
.⊃.巾;l領Uのlu一
O C aSnSi0 5 Tin−
SPhene
● C aTiSiO 5 Sphene
X=1(SST−100)
X=0.8(SST−80)
X=0.4(SST−40)
X=0(SST−00)
10 20 30 40 50 60
2β/de9
Fig・3−3−2XRDpattemofCr−dopedCaSn(1−X)TixSiO5PlgmentS・
32
\
Tbble3−3−1LatticeconstantsofCr−dopedCaSnSiO5,CaTiSiO5,CaSnO3,CaTiO3,
SnO2andTiO2.
Mothercrystal
DopingofCr Latticeconstant/nm
(molarratio) a−aXis b−aXis c−aXIS
CaSnSiO5
CaTiSiO5
CaSnO3
CaTiO3
SnO2
TiO2
33
0.71456
0.88882
0.66684
0.71444
0.88874
0.66671
0.71427
0.88866
0.66658
0.71420
0.88821
0.66647
0.71421
0.88820
0.66644
0.71420
0.88818
0.66643
0.70656
0.87045
0.65624
0.70644
0.87033
0.65610
0.70629
0.87020
0.65595
0.70621
0.87006
0.65576
0.70600
0.86984
0.65564
0.70580
0.86788
0.65555
0.56627
0.78822
0.55133
0.56617
0.78816
0.55120
0.56602
0.78804
0.55日3
0.56681
0.78789
0.55097
0.56680
0.78790
0.55090
0.56681
0.78788
0.55091
0.54414
0.76412
0.53815
0.54402
0.76398
0.53801
0.54389
0.76389
0.53790
0.54360
0.76460
0.53772
0.54342
0.76450
0.53755
0.54322
0.76442
0.53731
0.47388
0.31875
0.47375
0.31866
0.47366
0.31854
0.47342
0.31833
0.47343
0.31832
0.47341
0.31832
0.45936
0.29586
0.45919
0.29575
0.45909
0.29561
0.45888
0.29548
0.45867
0.29527
0.45846
0.29506
\
1もble3−3−2LatticeconstantsoftheCr−dopedplgmentS・
CaSnSiO5 CaTiSiO5
SampleNo.
a−aXis
b−aXis
c−aXis
a−aXis
b−aXis
c−aXIS
SST−00
0.71425
0.88864
0.66658
SST−20
0.71422
0.88860
0.66658
0.70622
0.87022
0.65591
SST−40
0.71427
0.88858
0.66654
0.70629
0.87023
0.65590
SST−60
0.71421
0.88861
0.66656
0.70622
0.87022
0.65580
SST−80
0.71420
0.88859
0.66655
0.70620
0.87020
0.65589
0.70619
0.87021
0.65586
SST−100
CaSnO3 CaTiO3
SampleNo.
a−aXis
b−aXis
c−aXis
a−aXis
b−aXis
c−aXIS
PST−00
0.56602
0.78800
0.55114
PST−20
0.56606
0.78801
0.55116
0.54390
0.76404
0.53808
PST−40
0.56606
0.78804
0.55116
0.54382
0.76403
0.53806
PST−60
0.56608
0.78808
0.55118
0.54388
0.76399
0.53803
PST−80
0.56611
0.78810
0.55118
0.54382
0.76396
0.53799
0.54380
0.76393
0.53796
PST−100
SnO2 TiO2
SampIeNo.
a−aXis
b−aXis
c−aXis
a−aXis
b−aXis
c−aXIS
RST−00
0.47366
0.31854
RST−20
0.47370
0.31856
0.55919
0.29572
RST−40
0.47372
0.31858
0.55914
0.29569
RST−60
0.47377
0.31858
0.55912
0.29568
RST−80
0.47380
0.31860
0.55912
0.29566
0.55910
0.29561
RST−100
34
ノ
3.3.2 顔料中のCrイオンの価数と発色
図3−3−3にルチル型母結晶顔料RSTpOO,RST−100およびベロブスカイト型母結晶顔料
PST−00,PS十100のX線光電子分光分析(XPS)パターンを示す.RST−00(SnO2)および
PST−00(CaSnO3)ではCr2p3/2のピークが576eVおよび578eV付近に,RST−100(TiO2)およ
びPS十100(CaTiO3)では578eV付近にみられ、Sn系とTi系とでは明らかに異なったピーク
を示した.XPSによりCrイオンをCr3十とCr4十に特定することは困難であるが,Ti02に少量の
Crを固溶させた場合のCrイオンはCr3十とCr4十でかつCr3十が支配的あることが報告されてい
る6).また,Sn02に少量のCrを固溶させた場合のCrイオンはCr4+であることが報告されて
いる7).ルチル型母結晶顔料RST−00,RST−100およびベロブスカイト型母結晶顔料PST−00,
PST−10のXPSピークは,RST−00とPST−00,RST−100とPST−100とが同様なピークを示し
たことからRST−00とPST−00中のCrイオンはCr4+であり,RST−100とPST−100中のCrイ
オンはCr3+とCr4十でかつCr3+が支配的であると考えられる.
.コ.巾;l領ugu一
585
580 575
570
Bindingenergy/eV
Fig.3−3−3Cr2p3/2XPSspectraofCr−dopedSnO2,TiO2,CaSnO3
andCaTiO3PlgmentS.
35
図3−3−4にスフェーン型母結晶顔料SST−00,SST−40,SST−60およびSST−100のⅩ線光電
子分光分析パターンを示す.Sn系のSST−00(CaSnSiO5)ではCr2p3/2のピークはルチル型
およびベロブスカイト型と同様に576eVおよび578eV付近にみられ,Ti系のSST−100
(CaTiSiO5)ではルチル型およびベロブスカイト型と同様にCr2p3/2のピークが578eV付近に
みられた.すべての母結晶型においてXPSピークはSn系とTi系では異なったピークを示し
たが,同一系では似たピークを示した.このことからスフェーン型母結晶顔料においても,
SST−00中のCrイオンはCr4十であり,SST−100中のCrイオンはCr3十とCr4十でかつCr3+が支
配的であると考えられる.SST−40およびSST−60ではCr2p3/2のピークが576eVおよび578
evにみられたが,SST−00に比べ576eVのピークが低くなり,SS十100のピークに近づくこ
とはSST−40およびSST−60がCaSnSi05とCaTiSi05の混合相であることとよく一致している・
.コ.e;l領Uのlu一
580
585
575
570
Bindingenergy/eV
Fig・3−3−4 Cr2p3/2 XPS spectra of Cr−doped CaSnSiO5,
CaSno.4Tio.6SiO5 CaSno.6Tio.4SiO5 and CaTiSiO5
PlgmentS・
36
図5にSST−00,SST−LtOおよびSST−100の反射曲線を示す.SST−00はCaSnSi05の単一
相,SST−100はCaTiSi05の単一相であり,SST−40はCaSl−Si(〕5およびCaTiSi05の混合相
であった.そこでSST−00およびSST−100の反射関数を用いてSST−40の混合吸収を
Duncan式12)を用いて算出した.測定値と計算値はよい一致が得られた.SST−40が赤紫から
赤に発色変化したのは,CaSnSi05による吸収とCaTiSi05による混合吸収により,400nmから
520nmの吸収が大きくなり,全体として400nmから600nmにかけての吸収が起きたためと考
えられる.Ti成分の増加に伴い赤紫一赤一赤茶一茶と発色変化した原因は,顔料中の
CaSnSiO5およびCaTiSi05の比率が変化し,それぞれの混合吸収によるものと考えられる・
ベロブスカイト型母結晶顔料の場合も同様に,Ti成分の増加に伴い赤紫一赤一赤茶一茶
と発色し,PS十20の場合が最も濃厚な赤色に発色した.この発色の変化の原因もスフェー
ン型母結晶顔料と同様に,CaSnO。とCaTi03による混合吸収によるものと考えられる・
ルチル型母結晶顔料ではRST−00がライラック色でありTi成分の増加に伴いTi02の混合
吸収によりライラック色一茶色一黄土色と変化した.RST−00は600nmより長波長側にも吸
収があり,ピンク色よりも青みの強いライラック色を発色する.Ti02の黄土色との混合吸収に
おいても600nmより長波長側の吸収があり,この母結晶系では赤色の発色はみられなかっ
た.
37
一〇一X =0
+
(
S ST −00)
X =0.
4 (
S ST−40)
■ローX =l (
S ST −100)
寧〓$u且訂q青
+ C aJcuJate d
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavelength/nm
Fig.3−3−5 Renectance spectra of the SST−00,SST−40,
SST−100andthecalculatedcurve.
38
3.4.まとめ
Crを発色源とする赤色無機顔料では母結晶により顔料中のCrイオンは3価,3価と4価の
混合および4価であった.Sn系のスフェーン型,ベロブスカイト型およびルチル型母結晶顔
料中のCrイオンの価数は4価であり,これら顔料の発色はCr4十の吸収によるものであった.
Ti系のスフェーン型,ベロブスカイト型およびルチル型母結晶顔料中のCrイオンの価数
は3価および4価であり,3価が支配的であった.これら顔料の発色はCr3十の吸収によるもの
であった.
スフェーン型およびベロブスカイト型母結晶顔料では,SnをTiで置換することで顔料中
のCaTiSiO5およびCaTi03を増加させ,Sn系の赤紫色とTi系の茶色の混合吸収により赤
紫一赤一赤茶一茶の発色が得られた.どちらの母結晶においてもSnをTiで20m01%置換
した場合が最も赤く発色した.ルチル型母結晶顔料の場合SnをTiで置換することで顔料中
のTi02を増加させ,ライラック色一茶色一黄土色と発色変化したが,赤色の発色は得られな
かった.
39
引用文献
1)大塚 淳,セラミックス,30,602−609(1995)
2)大塚 淳,合志陽一,新田孝之,窯業協会誌,81,555−559(1973)
3)R.Stefhni,F.Longo,P.Escribano,E.Cordoncillo andJ.B.Carda,Am.C加m.Sbc.
βェ誹,76,[9]6卜64(1997)
4)安井 至,“セラミックスの化学”,窯業協会,(1982)pp.69−91
5)M.Kato,M.Takahashi,H.Unuma and S.Suzuki,J CbI72m,Sbc.知an,107,
18卜183(1999)
6)S.Ishida,M.Hayashi,Y.Fujimura and K.Fujiyoshi,jl Am.C加m.Sbc.,73,
335卜55(1990)
7)F.Ren,S.Ishida,N.Takeuchiand K.Fujiyoshi,Am.C加m.Sbc.Bu駕71,759−764
(1992)
8)H.Toraya,jl叩〆crYgt.,19,440−47(1986)
9)C.N.R.Rao,D.D.Sarma,S.VausudevanandM.S.Hegde,伽C.ja Sbc.LondA367,
(1979)pp.239−252
10)H.G.HechtandT.S.Johnston,J Cカem.伽.,46,23−34(1967)
11)日置隆一,“色彩科学ハンドブッグ,東京大学出版会(1985)pp.1−9
12)D.R.Duncan,伽C.伽.Sbc.,52,390−395(1940)
40
第4章 Crを発色源とした陶磁器用赤色顔料の粕薬発色について
4.1緒 言
第2章,第3章でCrを発色源とした顔料を報告してきたが,これらの顔料が高温での使用で
最も過酷な条件である陶顧器粕薬用として利用できるかについて検討した.
陶磁器用紬薬はアルカリ成分であるアルカリ,アルカリ土類と中性成分であるアルミナ及び
酸性成分であるシリカを用いて1200∼1300℃で合成される.アルカリ成分,中性成分及び
酸性成分の組合せで透明紬,乳白紬及び結晶紬など様々な紬薬が合成される1).
一般的にアルカリ成分比を固定し,中性成分及び酸性成分の比を変化させることにより透
明紬,乳白紬及び結晶紬と粕の性状が変化することが知られている2).またアルカリ成分を変
化させることにより紬薬の硬さ3)及びぬれ4)などの粕の物性に変化が生じる.石灰マグネシア
紬,石灰粕,石灰ストロンチウム紬,石灰バリウム粕及び石灰亜鉛紬を調製し,Crを発色源
とした赤色無機顔料について,紬薬での発色について検討した.
4.2 実 験
4.2.1試料合成
4.2.1.1顔料合成
表4−2−1に顔料調合比を示す.母結晶を,コランダム型,スピネル型,ルチル型,ベロブス
カイト型及びスフェーン型とし,発色源のCrとしてCr203を用いて調合した.コランダム型,ス
ピネル型混合顔料のP−AM,ルチル型Sn−Ti混合顔料のP−ST,ベロブスカイト型Sn−Ti混合
顔料のPSTC及びスフェーン型Sn−Ti混合顔料のP−STCQは3章により最も濃厚な赤色発
色をした調合比を用いた.原料としてA1203は99.99mass%純度を用い,Crを0。,MgCO3,ZnO,
SnO2,TiO2,CaCO3,SiO2及びB20。は特級試薬を用いた・
予備実験の結果,Cr203の最適添加量はコランダム型及びスピネル型では10m01%とし,ルチ
ル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型では2m01%とした.ルチル型,ベロブスカイト型及び
スフェーン型の合成では最適鉱化剤としてB20。,最適添加量5m01%とした・
原料粉末はジルコニア製遊星ボールミルにて30分湿式混合し,乾燥後,アルミナるつぼを
用いコランダム型では1600℃,スピネル型では1400℃,ルチル型,ベロブスカイト型及びスフ
ェーン型では1250℃で大気中で加熱,2時間保持し所定の顔料を調製した.焼成顔料を乳
鉢で微粉砕したものを分光反射率測定及び紬薬調製の試料とした.
41
Zを
09ZL 9 00L
OOL
Z
O〇⊥−d
OSZL S OO1 0Z O9 00L
Z
O〇⊥S−d
OSZL
Z
O〇S−d
S
OOL
OOL
OOL
09Z1 9 00L OOL
Z 〇⊥−d
OSZI
Z 〇⊥S−d
S
OZ
OSZL
S
OSZL
S
O9 00L
OOL
Z 〇S−d
OOL
OOL
Z ⊥−d
OSZL 9 0Z O9
Z ⊥S−d
0SZL 9 00L
Z − S−d
00ケL
OO9L
OO9L
CoZg
OS
OL
OL
Zo!S
OL
OL
OS
Z∀−d
OOL
MV−d
OOL ∀−d
Zo!⊥ Zous
oe〇 OuZ
O3m
CoZJC) CoZlV
aldues
(0!leJJeIOu)SluauOduo〇
●Sluau軌daqUOSuO印SOduo〇凱Ⅰ叫でlSl−Z−ウ●alq軋
● ●
4.2.1.2 粕薬調製
粕薬は石灰マグネシウム紬,石灰紬,石灰ストロンチウム紬,石灰バリウム軸および石灰
亜鉛紬の5種類のアルカリ粕を調製した.表4−2−2に和式(ゼーゲル式)を示す.
粕薬調製には,工業用特級原料の福島長石,福島珪石及びニュージーランドカオリンと
特級試薬のMgCO3,CaCO3,BaCO3,SrCO。及びZnOを用いた.顔料は紬薬に対し
10mass%添加し,水分量が40mass%となるよう水を加え,自動乳鉢にて混合し,磁器タイルに
施紬して1250℃酸化で焼成した.
1もble4−2−2Segerfomulaoftheglazes.
Se erformula
Glaze
0.35KNaO
O.35CaO
Lime−MagnesiumGlaze(G−LM)
0.5A12034.5SiO2
O.30MgO
0.35KNaO
0.5A12034.5SiO2
LimeGlaze(G−L)
O.65CaO
0.35KNaO
O.35CaO
Lime−StrontiumGlaze(G−LS)
0.5A12034.5SiO2
O.30SrO
O.35KNaO
O.35CaO
Lime−BariumGlaze(G−LB)
0.5A12034.5SiO2
O.30BaO
O.35KNaO
O.35CaO
Lime−ZincGlaze(G−LZ)
O.30ZnO
43
0.5A12034.5SiO2
4.2.2 測 定
4.2.2.1分光反射率測定
試料粉末を印刷メジューム(TNK Screeninks製,T−01)と重量比1:1で混練し,200メッシ
ュのナイロンスクリーンを通して透明フイルムに印刷した.乾燥した印刷フイルムの分光反射率
を分光光度計(東京電色製,Color Analyzer Tc−1800)にて測定した.また粕薬は細面を直
接分光光度計にて測定した.測定にはD−65光源を用い,100 視野の条件で400nmから
780nmの範囲で測色した.
4.3 結果及び考察
4.3.1Crを発色源とした赤色顔料の発色
表4−3−1に合成した顔料のXYZ表色系及びCIELAB L*a*b*を示す.コランダム型及びス
ピネル型のP−Aは赤紫色,P−AMは赤味のかかった赤紫色,P−AZは赤紫色を発色した.ル
チル型のP−Sは青紫色,P−STは赤茶色,P−Tは黄土色を発色した.ベロブスカイト型及びス
フェーン型では,P−SCは濃赤紫色,P−STCは濃赤色,P−TCは茶色,P−SCQは濃赤紫色,
P−STCQは濃赤色,P−TCQは茶色を発色した.これらの顔料中で発色源であるCrはコラン
ダム型及びスピネル型母結晶顔料中ではCr3十であり,ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェ
ーン型母結晶顔料中ではCr4+及びCr3++Cr4十であることを既に報告した.
44
Tbble4−3−l
XYZandCIELABL*a*b*oftheplgmentS.
samp・e 慧慧慧va・enceofCr X Y Z L* A* B* Color
P−A
P−AM
C
C,S
P−AZ
S
P−S
R
P−ST
R
P一丁 R
P−SC
P
P−STC
P
P−TC
P
P−SCQ
SP
Cr3+ 62.90 60.11 70.88 81.90 14.11 −5.38 PurpHshpink
Cr3+ 69.22 63.90 73.33 83.9119.56 −3.88 Reddishpink
Cr3+ 63.22 59.66 71.50 81.65 15.90 −6.30 PurpHshpink
Cr4+ 59−89 59.68 70.51 81.66 8.05 −5.48 LiIac
Cr3+,Cr4+ 36.26 36.88 39.36 67.19 4.37 0.27 Redbrown
Cr3+,Cr4+ 25.18 25.8125.20 57.86 3.05 3.96 Brown
Cr4+ 21.19 20.69 22.50 52.61 7.71 −0.52 ReddishpurpIe
Cr3+,Cr4+ 21.95 20.73 22.60 52.6511.10 −0.62 Purplishred
Cr3+,Cr4+ 25.64 26.25 27.27 58.27 3.19 1.39 Brown
Cr4+ 23.58 22.72 25.32 54.78 9.34 −1.54 Reddishpurple
P−STCQ SP
Cr3+,Cr4+ 21.0319.4817.4151.2412.82 6,86 PurpJishred
P−TCQ
Cr3+,Cr4+ 18.7818.2915.07 49.85 7.64 9.58 Brown
SP
C:Corundumtype,S:SpineItype,R‥Rutiletype,P‥Perovskitetype,Sp‥Sphenetype・
45
4.3.2 粕薬の発色
4.3.2.1Crを発色源としたコランダム型及びスピネル聖母結晶顔料による粕薬の発色
使用した紬薬及び磁器タイルについては,紬薬はどれも顔料を加えない場合は,透明紬
であり,艶消し,乳白,結晶などの粕の性状は現れなかった.また,白度 〝は,金属マグネ
シウムを燃焼して燥着させた標準白板の可視分光反射率を白度100とし,暗箱の可視分光
反射率を白度0すると,次の式で求められる7).
町=100−有00−上)2+(。2+拘P
本研究の施粕に用いた無粕の磁器タイルの白度はエ=83.60 ∂=3.35 庭2.99 レ匝82.99で
あった.
図4−3−2−1にP−AMを添加した5種類の粕薬の分光反射率曲線を示す.石灰マグネシア
紬G−LM,石灰粕及G−L及び石灰ストロンチウム紬G−LSは緑色に発色した.石灰バリウム
G−LBは,薄茶色に発色し,石灰亜鉛粕G−LZは赤紫色に発色した.コランダム型母結晶顔
料のP−Aの場合も同様に,G−LM,GqL及びG−LSでは緑色に発色し,G−LBは,薄茶色,
G−LZは赤紫色に発色した.これは顔料が粕薬中で分解し,MgO・Cr20。やCaO・Cr203など
を生成し緑色に発色したためであると考えられる.G−LB粕中では他のアルカリ粕に比べ,
顔料の一部が分解し赤紫色と緑色の発色が起き茶褐色の発色をしたと思われる.
46
.コ.相、UUu男UO一−む∝
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavelength/nm
Fig.4−3−2−1ReflectancespectraofG−LM,G−L,G−LS,G−LB
andG−LZaddedlOmass%P−AMplgment.
●
二 」
G−LM, G−L G−LZ G−LS, G−LB
47
図く卜3−2−2にP−AZを添加した5種類の粕薬の分光反射率曲線を示す.G−LMは薄茶
色に発色したが,G−し,G−LS,G−LB及びG−LZは赤紫色に発色した.P−AZ顔料は亜鉛ア
ルミナスピネル(ガーナイト)を母結晶とし少量のCrが固溶したものである.P−AZ顔料は
G−LM粕では一部が分解し,MgO・Cr203を生成し,赤紫色と緑色の発色が起き茶褐色の発
色をしたと思われる.他のアルカリ粕,特にG−LZ粕では安定で赤紫色を発色した.このこと
はガーナイトが亜鉛を含む粕薬中で分解されにくいためと考えられる.表4−3−2にコランダ
ム型及びスピネル型母結晶顔料を添加したの粕薬のXYZ表色系及びCIELAB L*a*b*を
示す.
.⊃.巾、心Ou男Uの一−む∝
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
WaveJength/nm
Fig.4−3−2−2ReflectancespectraofG−LM,G−L,G−LS,G−LB
andG−LZaddedlOmass%P−AZplgment.
t
妻 毒
蔓 享
■■ ̄「■ ■  ̄ ■’1■  ̄▼ ▼▼ ̄▼rl ■ ̄
き .. ̄こl ・ ̄ − _.  ̄ t
i
至________________________二
= −
r−亡き’▼ 話1−_! 滝さ、
ト こ、譲二 ■. ̄喜 一− =盲−1−
i−_−−_______
宣選言 ̄」こ一定≡_▼一二をこ.■
吾 妻
ヒ云」 墓室
 ̄∵∴
G−LM, G−L G−LZ G−LS, G−LB
48
1もble4−3−3.XYZ andCIELAB L*a*b*ofthe glaze added corundumand
SPlnelbasedplgmentS・
PigmentNo. GIazeNo. X Y Z L* a* b* Cotor
P−A
P−AM
P−AZ
G−LM
30.11 34.03
33.13 64.99 −7.95 4.47 Lightgreen
G−L
30.56 34.36
33.22 65.25 −7.38 4.80 Lightgreen
G−LS
30.26 34.34
34.18 65.23 −8.44 3.48 Lightgreen
G−LB
37.66 38.00
40.66 68.02 5.39 0.15 Lightbrown
G−LZ
43.99 43.21
47.88 71.70 9.08 −1.6l Purplishpink
G−LM
36.00 40.36
37−00 69.73 −7.44 7.57 Lightgreen
G−L
31.00 35.03
32.99 65.77 −8.01 6.01 Lightgreen
G−LS
30.65 34.66
31.68 65.48 −8.06 7.33 Lightgreen
G−LB
33.89 34.67
35.33 65.49 3.59 2.41Lightbrown
G−LZ
62.21 56.11
66.22 79.68 22.08 −5.30 Reddishpink
G−LM
24.66 25.12
24.56 57.19 3.68 3.86 Lightbrown
G−L
52.45 50.36
60.99 76.29 12.65 −6.54 Purplishpink
G−LS
51.21 50.02
61.88 76.08 10.29 −7.70 Purplishpink
G−LB
52.22 50.23
62.22 76.21 12.40 −7.78 PurpJishpink
G−LZ
52.18 50.30
60.65 76.25 12.11 −6.29 Purplishpink
49
4.3.2.2 Crを発色源としたルテル型,ベロブスカイト型及びスフェーン聖母結晶顔料による
粕薬の発色
表4−3−4にルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型母結晶顔料を添加したの粕薬の
XYZ表色系及びCIELAB L*a*b*を示す.これらの顔料による紬薬の発色は,どのアルカリ
紬においても顔料の発色に近い発色をし,P−S顔料のライラック色,P−ST顔料の赤茶色,
P−T顔料の茶色,P−SC顔料の赤紫色,P−STC顔料の濃赤色,P−TC顔料の茶色,P−SCQ
顔料の赤紫色,P−STCQ顔料の濃赤色及びP−TCQ顔料の茶色の発色であった.どの顔料
に対してもアルカリ紬のアルカリ成分の違いにより,MgくCaくZrくSrくBaの順に濃厚な発色を
した.Znの場合はCaとSrの間の発色であった.紬薬は一種のガラス構造をで,中性成分
であるA120。を多く含む,これが網目形成成分(NWF)になるか網目修飾成分(NWM)になる
かによって紬薬の性状は異なる.アルカリ成分はほとんどが網目修飾成分となり紬薬の性状
に影響する.本研究で使用した紬薬のアルカリ成分のイオン半径はMg2十(66pm)くZn2+
(74pm)くCa2十(99pm)くSr2+(112pm)くBa2+(134pm)であり,これらアルカリが網目修飾イオン
となることにより粕薬のガラス構造は,この順に密から疎となる.粕薬の高温時の粘性や,紬
薬の硬さ及び粕薬のぬれなどに影響し,MgくCaくSrくBaくZnの順に高温時の粘性は低下し,
硬さも小さくなる.またぬれも大きくなる3)4).znはイオン半径からMgとCaとの間の物性を示
すと予想されるが,実際はCaとSrの間の物性であった.紬薬中で顔料は紬薬のガラス構造
が密であるほど分解しやすく,疎であるほど分解しにくくなると考えられる.紬薬のアルカリ成
分の違いにより,Znを順序を除いてMgくCaくZnくSrくBaの順に濃厚な発色をしたこととよく一
致する.
コランダム型及びスピネル型母結晶顔料に比べ,ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェ
ーン型母結晶顔料が安定して発色したことは顔料中のCrの価数によるものと考えられる.コ
ランダム型及びスピネル型母結晶顔料中で着色元素であるCrはCr3十であり,顔料が紬薬中
で分解した場合,MgO・Cr203(緑色)やZnO・Cr20。(赤褐色)を容易に生成する・このため
石灰マグネシウム紬などでは緑色に発色する.石灰亜鉛紬では赤色発色が得られる.また
Cr3十を発色源とする顔料は赤色に限らず使用する紬薬により変色する.例えばCrAlO3緑色
顔料の場合は,石灰亜鉛紬では褐色に変色し,石灰マグネシウム紬などでは緑色に発色す
る.一方,ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型母結晶顔料中ではCr4十であるため
容易にMgO・Cr203やZnO・Cr20。を生成しないと考えられる.そのため使用する粕薬にあま
り影響されず赤色発色が得られると考えられる.
50
1もble.4−3−4XYZandCIELABL*a*b*oftheglazeaddedrutile,PerOVSkite
andsphenebasedplgmentS.
PigmentNo.GIazeNo. X Y Z L* a* b* Color
P−S
P−ST
P−T
P−SC
P−STC
P−TC
G−LM
54.85 54.55
65.00 78.78
8.08 −5.79 Li暮ac
G−L
52.46 52.23
63.11 77.42
7.82 −6.49 Lilac
G−LS
50.56 50.24
61.34 76.22
7.98 −6.98 Lilac
G−LB
40.56 40.33
50.36 69.70
7.33 −7.65 Lilac
G−LZ
51.55 51.23
62.19 76.33
8.02 −6.70 LHac
G−LM
43.16 43.59
46.68 71.95
5.52 0.12 Brown
G−L
40.23 40.67
43.21 69.94
5.27 0.50 Brown
G−LS
38.56 38.89
41.21 68.67
5.49 0.62 Brown
G−LB
34.14 34.68
37.95 65.50
4.43 −0.91 Brown
G−LZ
39.15 39.66
42.15 69.23
4.97 0.48 Brown
G−LM
60.60 61.00
60.66 82.38
6.65 4.26 Lightbrown
G−L
57.56 57.36
57.55 80.38
7.94 3.69 Lightbrown
G−LS
51.23 52.22
52.36 77.41
4.61 3.61Lightbrown
G−LB
51.16 51.90
51.68 77.22
5.25 3.97 Lightbrown
G−LZ
52.36 52.56
52.30 77.61
6.71 4.02 Lightbrown
G−LM
48.30 47.69
50.68 74.63
8.69 0.52ReddishpurpIe
G−L
47.18 47.33
52.57 74.40
6.56 −1.79Reddishpurple
G−LS
38.19 37.69
41.68 67.79
8.09 −1.45ReddishpurpIe
G−LB
36.20 35.66
39.99 66.26
8.17 −2.09Reddishpurple
G−LZ
41.23 40.56
45.21 69.87
8.70 −1.88Reddishpurple
G−LM
55.56 55.37
59.58 79.25
7.84 −0,14 Red brown
G−L
49.95 49.73
55.60 75.90
7.69 −2.17 Red brown
G−LS
47.66 47.68
53.50 74.62
6.94 −2.33 Red brown
G−LB
45.56 45.69
51.56 73.34
6.53 −2.59 Red brown
G−LZ
49.89 49.48
55.54 75.75
8.20 −2.38 Red brown
G−LM
52.21 53.42
54.18 78.12
4.13 3.04 Brown
G−L
47.38 48.23
49.15 74.97
4.67 2.69 Brown
G−LS
45.45 46.17
47.04 73.66
4.87 2.66 Brown
G−LB
42.34 43.02
44.04 71.57
4.73 2.36 Brown
G−LZ
45.99 47.12
48.05 74.27
3.78 2.63 Brown
G−LM
45.61 44.81
49.44 72.77
9.16 −1.41ReddishpurpJe
G−L
44.18 43.56
48.33 71.93
8.61 −1.68Reddishpurple
G−LS
41.56 40.00
45.11 69.47
ll.41 −2.45Reddishpurpfe
G−LB
41.00 40.01
45.45 69.48
9.67 −2.81ReddishpurpJe
G−LZ
42.26 41.99
46.59 70.86
7.52 −1.67ReddishpurpJe
G−LM
45.11 43.45 41.25 71.86 11.63
6.07 Red brown
41.69 40.12
37.87 69.55 11.44
6.18 Red brown
P−STCQ G−LS
38.63 36.48
34.30 66.89 13.41
6.17 Red brown
G−LB
36.78 34.16
32.99 65.09 15.14
4.84 Red brown
G−LZ
41.96 40.12
38.87 69.55 12.26
4.95 Red brown
G−LM
49.78 50.29 47.07 76.25
G−L
47.23 47.00 44.98 74.19
7.61 5.83 Brown
G−LS
42.11 41.98 40.12 70.86
7.10 5.68 Brown
G−LB
36.32 36.01 35.87 66.53
7.41 3.50 Brown
G−LZ
45.22 44.59 43.11 72.62
8.67 5.23 Brown
P−SCQ
G−L
P−TCQ
51
5.75 7.10 Brown
4.3.2.3 顔料の混合使用による粕薬の赤色発色
ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型母結晶顔料でP−ST,P−STC及びP−STCQ
はSn系とTi系の混合合成した顔料で,母結晶はそれぞれSn系結晶とTi系結晶の2相を
形成している.混合系の顔料はそれぞれの発色の混合発色をし,より赤く発色し,粕薬も同
様に赤色発色した.そこでP−ST,P−STC及びP−STCQに対し,P−SとP−T,P−SCとP−TC
及びP−SCQとP−TCQを混合して紬薬に使用し,赤色発色が可能であるかを検討した.図
4−3−3−3にP−STCQ及びP−SCQ,P−TCQ,P−STCQ及びを0.6P−SCQ+0.4P−TCQを
G−LB紬薬に使用した場合の分光反射率曲線を示す.反射関数J(ノ訓ま分光反射率斤をもと
にf(ja=(1−ja2/2Hで表した8).p−STCQと0.6P−SCQ+0.4P−TCQとは非常によく似た発色
をした.他のルチル型,ベロブスカイト型母結晶の場合も同様に,Sn系顔料とTi系顔料を組
合せ紬薬に使用した場合,顔料合成時の組成と同様な比でSn系顔料とTi系顔料を混ぜた
場合,紬薬は,あらかじめ合成されたSn−Ti混合系顔料と同様な発色が得られることがわか
った.
︵監このOu眉LOSq<
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
WaveIength/nm
Fig.4−3−3−3Renectance spectra ofG−LB glaze added P−TCQ,
P:SCQ,P−STCQ and O・6P−SCQ+0・4P−TCQ
PlgmentS・
52
4.4.まとめ
Crを発色源とした陶磁器用赤色顔料は,母結晶の違いによりコランダム型,スピネル型,
ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型顔料が合成される.コランダム型及びスピネル
型顔料中CrはCr3十であり,石灰亜鉛粕では赤紫色に発色したが他のアルカリ紬では分解し
緑色から褐色の発色をした.ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型顔料中ではCrは
Cr4十であり,どの紬薬でも顔料の発色に近い発色をした.
紬薬中で顔料が安定して発色することは,紬薬のアルカリ成分のイオン半径の違いによる
紬薬のガラス構造に関連し,MgくCaくZnくSrくBaの順に濃厚な発色をした.また,顔料中の
Crイオンの価数の違いによりCr3十の場合,どの紬薬に対してもCr4十の場合濃厚に発色した.
Cr4十を発色源とするルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型顔料は,顔料合成時の
Sn−Ti組成と同様な比でSn系顔料とTi系顔料を混ぜ合わせ粕薬に使用した場合,あらかじ
め合成されたSn−Ti混合系顔料と同様な発色が得られることがわかった.
53
引用文献
1)加藤悦三,紬調合の基本,窯技社,(1970)pp.72−87
2)高嶋康夫,実践陶磁器の科学,内田老鶴圃,(1996)pp,83−99
3)加藤昌宏,日本セラミックス協会東海支部学術研究発表会要旨集,(1996)pp,44−45
4)加藤昌宏,日本セラミックス協会東海支部学術研究発表会要旨集,(1995)pp,42−43
5)M.Kato,M.Takahashi,H.Unuma and S.Suzuki,jl Cb闇m,Sbc.Jbpan,107,
181−183(1999)
6)加藤昌宏,鵜沼英郎,鈴木 傑,高橋 実,材料,48.550−553(1999)
7)高嶋康夫,陶磁器紬の科学,内田老鶴圃,(1994)pp,218−219
8)H.G.HechtandT.S.Johnston,J C万em.伽.,46,23−34(1967)
54
第5章 ジルコン型顔料の組合せによる粕薬の赤色発色
5.1緒 占
ジルコン(ZrSiO4)を母結晶とした顔料は比較的新しく作られた顔料で,プラセオジウムを着
色元素としたPr−ジルコ′顔料(黄色)1),バナジウムを着色元素としたV−ジルコン顔料(水
色)2)及び鉄を着色元素としたFe−ジルコン顔料(サーモンピンク色)3)などがある.これらの顔
料は,陶磁器用粕薬に使用した場合,他の顔料に比べて安定した発色が得られる.また異な
る発色のジルコン顔料を混合して軸薬に使用した場合には中間色発色する.例えばPr−ジル
コン顔料とV−ジルコン顔料を混ぜ合せた場合,薄黄緑色の発色が得られる.
予備実験として,ジルコン系顔料で赤色顔料を合成することを目的として着色元素にMn,
Cr,Ni及びFeを用いて合成したが,単一の着色元素では赤色の発色は困難であることがわ
かった.そこでジルコン系顔料の混色使用が可能な点に着目し,混色による紬薬の赤色発色
を試みた.混色による赤色発色は,黄色顔料及びサーモンピンク色顔料と紫色顔料を組合
せることにより可能であることが分光反射率測定の結果から予想される.既存のPr−ジルコン
顔料,Fe−ジルコン顔料と混合して紬薬に使用した場合,粕薬を赤色に発色するジルコン系
紫色顔料を,着色元素にMnを使用して合成した.また,これらの顔料の組合せで,紬薬の赤
色発色を検討した.
5.2 実 験
5.2.1試料調製
5.2.1.1顔料合成
原料はすべて特級試薬を用いて,母結晶原料にZrO2,SiO2着色元素としてMnCO。鉱
化剤としてNaFを使用した.予備実験の結果MnC03の添加量は5m01%が紫色を発色した・
添加量が5m01%より少ないと発色は淡色になり,5m01%より多いと褐色から黒色になった.
また,鉱化剤の添加量もNaF2.5m01%の場合が最も濃厚な紫色発色を示した.表5−2−1に
母結晶のZr−Si比を変化させたMn−ジルコン紫色顔料の調合比を示す.
原料粉末をジルコニア製遊星ボールミルにて30分湿式混合し,110℃で24時間乾燥炉
にて乾燥後,アルミナるつぼを用い大気中1000℃で加熱,2時間保持しての顔料を調製し
た.焼成顔料を乳鉢で微粉砕したものを分光反射率測定及びX線回折の試料とした.
55
1もble5−2−1.Starting composition of the Mn−Zircon
SampleNo.
Components(moIarratio)
ZrO2 SiO2 MnCO3 NaF
ZMS−00
0 100
5 5
ZMS−25
25 75
5 5
ZMS−40
40 60
5 5
ZMS−50
50 50
5 5
ZMS−75
75 25
5 5
100 0
5 5
ZMS−100
5.2.1.2 粕薬調製
粕薬は石灰マグネシウム紬,石灰紬,石灰ストロンチウム紬,石灰バリウム紬及び石灰亜
鉛粕の5種類のアルカリ粕を調製した4).表5−2−2に調製した紬薬の和式(ゼーゲル式)を
示す.
軸薬調製には,工業用特級原料の福島長石,福島珪石及びニュージーランドカオリンと
特級試薬のMgCO3,CaCO3,BaCO。,SrCO3及びZnOを用いた.顔料は粕薬に対し
10mass%添加し,水分量が40mass%となるよう水を加え,自動乳鉢にて混合し,磁器タイルに
施紬して1250℃酸化で焼成した.
56
「hble5−2−2 Segerformulaoftheglazes
Se erformula
Glaze
0.35KNaO
O.35CaO
Lime−MagnesiumGlaze(G−LM)
O.30MgO
0.5A12034.5SiO2
l
0.35KNaO
LimeGlaze(G−L)
O.65CaO
0.5A12034.5SiO2
)
0.35KNaO
O.35CaO
Lime−StrontiumGlaze(G−LS)
O.30SrO
0.5A12034.5SiO2
t
O.35KNaO
0.5A12034.5SiO2
O.35CaO
Lime−BariumGlaze(G−LB)
O.30BaO
t
O.35KNaO
0.5A12034.5SiO2
O.35CaO
Lime−ZincGlaze(G−LZ)
O.30ZnO
t
5.2.2 測定方法
5.2.2.1分光反射率測定
試料粉末を印刷メジューム(TNKScreeninks製,T−01)と重量比1:1で混練し,200メッシ
ュのナイロンスクリーンを通して透明フイルムに印刷した.乾燥した印刷フイルムの分光反射率
を分光光度計(東京電色製,Color Analyzer Tc−1800)にて測定した.また粕薬は細面を直
接分光光度計にて測定した.測定にはD−65光源を用い,100 視野の条件で400nmから
780nmの範囲で測色した.
5.2.2.2 X線回折
粉末X線回折(XRD)により生成した鉱物を同定した.測定条件は Cu Kα 30kvスキャ
ン速度毎分2.00 走査範囲100 から800 で測定した.測定装置にはリガク製Rin卜2000を
使用した.
57
5.3 結果及び考察
5.3.1 Mn−ジルコン紫顔料の発色
顔料母結晶中のZr02とSi02の比を変化させて,最も紫色に発色する組成を検討し,組成
変化と結晶相変化の関係を評価した.図5−3−1に合成した顔料の分光反射率曲線を示す.
反射関数J(励ま分光反射率ガをもとにJ(用=(上月2/2斤で表した6).
顔料母結晶のZr02とSi02の比を変化させたところ,Zr02を含まないZSM−00及びZSM−25
は黒褐色に発色した.ZSM−40及びジルコンの理論組成あるZSM−50は紫色に発色した.
ZSM−75は黒褐色に発色した.Si02を含まないZSM−100は濃灰色を発色した.ジルコンの理
論比であるZSM−50よりもZSM−40が最も紫色に発色した.
図5−3−2に顔料のXRDパターンを示す.ジルコンの理論比よりもSi02が過剰に含まれる
ZSM−25ではトリジマイトが析出した.ジルコンの理論比のZSM−50及びZrO2(単斜)が過剰に
含まれるZSM−75では未反応のZrO2(単斜)が確認できた.ジルコンの理論組成である
ZSM−50よりも若干SiO2成分が多いZSM−40の場合はすべてジルコンが生成された・
Mn−ジルコン顔料が合成される過程を考えると,およそ750℃で顔料組成中のMn02が
Si02と反応してMnSiO。が合成される.次におよそ1000℃でMnSiO。とZr02とが反応してMn
を含むZrSi04が合成される.図5−3−3にZSM−40の750℃及び1000℃のXRDパターンを
示す.余剰のSi02を含むZSM−25はZr02と反応しないMnSi03が存在し,吸収のピークは
ZSM−00と似た発色すると考えられる.また余剰のZr02を含むZSM−75はMnを含むZrSiO。
の発色がZr02によって薄められた発色をすると考えられる.
5.3.2 Mn−ジルコン紫顔料を使用した粕薬の発色
次に紬薬の種類による発色の違いを検討した.図5−3−4に最も紫色に発色したZSM−40
を10mass%添加した5種類の粕薬の分光反射率曲線を示す.石灰バリウム粕,石灰ストロンチ
ウム粕及び石灰亜鉛紬では紫色に発色し石灰紬及び石灰マグネシウム紬では灰色に発色し
た.紫色の発色の度合いは,紬薬中のアルカリ成分の違いにより変化した.アルカリ成分のイ
オン半径はMg2+(66pm)くZn2十(74pm)くCa2+(99pm)くSr2+(112pm)くBa2十(134pm)7)であり,こ
れらアルカリが紬薬ガラス相の網目修飾イオンとなることにより紬薬のガラス構造は,この順に
密から疎となる.また,この順に顔料が紬薬中で分解されにくくなり,紬薬中のアルカリ成分の
イオン半径が大きくなるにつれより濃く紫色に発色した.石灰亜鉛粕薬では石灰マグネシウム
紬と石灰紬の間の発色を予想されたが,実際には石灰紬と石灰ストロンチウム紬の間の発色
をした.
58
上くト ZSM−00
十ト ZSM−25
喜一<ト− ZSM−40
幸一◆一一 ZSM−50
三一{トー ZSM−75
︵gL二心UueqLOSq<
i一一ZSM−100
_ __ ■ − l −1 1 − . ■− − 一・− 一一 一一 ■ − −− −  ̄ ■
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavelength/nm.
Fig・5−3−1ReflectancespectraofMn−Zirconpigments・
59
⇒巾、倉sugu一
10 20 30 40 50 60 70
20/deg.
Fig.5−3−2 XRDspectraoftheMn−Zirconpigments・
60
⇒e;l儒ugu一
」 _.__ __‥__ __.__一m _ −.____・._._.__‖__.____.1___ト_ ___…_________ __._⊥ _ _._._▼川、⊥ ▼__・._−.______、_______⊥__−_、__▼_______▼▼.___ .
10 20 30 40 50 60 70
20/deg.
Fig.5−3−3 XWspectraoftheZSM−40heatedat750℃
andlOO0℃.
−
M g−Lim e glaze
8 6
0. 0.
︵∝︶−\3u遥LOSq<
」コーLim e glaze
一〇一Sr−Lim e glaze
「▲−B a−Lim e glaze
「△−Zn−Lim e glaze
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavelength/nm
Fig.5−3−4 ReflectanCeSPeCtraOftheglazesadded
Mn−Zirconplgment.
61
5.3.3 顔料の2種混合使用による粕薬の発色
5.3.3.1 Mn−ジルコン紫顔料とPr−ジルコン黄顔料との2種混合使用による粕薬の発色
Mn−ジルコン顔料(ZSM−40)の他のジルコン顔料との混合使用について検討した.図
5−3−5にMn−ジルコン顔料と市販のPr−ジルコン顔料を混合し,ZSM−40が最もよい紫色を
発色した石灰バリウム粕を使用した場合の分光反射率曲線を示す.粕薬は,混合顔料を紬
薬に対し10mass%添加した.Mn−ジルコン顔料に対しPr−ジルコン顔料の比率をMn:Pr=4:1,
3:2,2:3,1:4と変化させて測定したところPrの割合が多くなるにつれて発色は紫色,茶色,
橙色,黄色と変化した.
︵∝︶−\SuqqLOSq<
+Pr
−1ユー・Pr:Mn=4:1
−く>−Pr:Mn=3:2
−や一一Pr:Mn=2:3
−4−Pr:Mn=1:4
+Mn
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavelength/nm
Fig.5−3−5 Renectance spectraoftheglazesaddedMn−Zircon
PlgmentandPr−ZirconplgmentS.
62
5.3.3.2 Mn−ジルコン紫顔料とFe−ジルコンサーモンピンク顔料との2種混合使用による粕
薬の発色
図5−3−6にMn−ジルコン顔料と市販のFe−ジルコン顔料を混合して紬薬に使用した場合
の分光反射率曲線を示す.3.3.1のPr−ジルコン顔料との混合の場合と同様にMn−ジルコン
顔料に対しFe−ジルコン顔料の比率をMn:Fe=4:1,3:2,2:3,1:4と変化させて測定したとこ
ろ,Feの割合が多くなるにつれて発色は紫色,茶色,樺色,サーモンピンク色と変化した.
これらのことで合成したマンガンージルコン紫色顔料が他のジルコン系顔料と混合使用
が可能なことが確認できた.
6 5 4 3
︵∝︶−\3uqqLOSq<
・+Mn:Fe=1:4
−〇一Mn:Fe=2:3
−亡トMn:Fe=3:2
−〇一一Mn:Fe=4:1
+Mn
2+Fe
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Wavefength/nm
Fig.5−3−6 Reflectance spectra of the glazes added
Mn−ZirconplgmentandFe−ZirconplgmentS.
63
5.3.4 Mn,Pr及びFe−ジルコン顔料の3種混合使用による軸薬の赤色発色
つぎにMn−ジルコン顔料と市販のPr−ジルコン顔料及びFe−ジルコン顔料とを組合わせて
紬薬の赤色発色を試みた.一般的に分光学的に考えれば紫色と黄色の組合わせで赤色が
発色するはずである.しかし5.3.3.1の結果によりMn−ジルコン顔料とPr−ジルコン顔料との
組合せでは最も赤色に近い発色でも茶色であり,いわゆる赤色とは違った発色を示す.そこ
で更にサーモンピンクに発色するFe−ジルコン顔料を混合することでより赤色に近い発色が
得られるかを試みた.使用した紬薬は石灰バリウム紬で,混合顔料が粕薬に対して10mass%
となるよう調製した.図5−3−7に3種類の顔料を粕薬に混合使用した場合の分光反射率曲
線を示す.また図5−3−8に3種類の顔料を紬薬に混合使用した場合の紬薬の発色を示す.
短波長側の吸収が2種混合の場合よりも大きくなりMn−ジルコシ顔料とPr−ジルコン顔料の
組合せ及びMn−ジルコン顔料とFe−ジルコン顔料の組合せでは得られなかった赤に近い赤
茶色の発色が,Mn−ジルコン顔料:Pr−ジルコン顔料:=8:1:1の場合に得られた.
︵∝︶−\む2月LOSq<
400 440 480 520 560 600 640 680 720 760
Fig.5−3−7 Reflectance spectra of the glazes added
●
Mn−Zircon,Pr−ZirconandFe−ZirconplgmentS.
64
30Pr
Fe30
100Pr
FelOO
Fig.5−3−8ColoroftheglazesaddedMn−Zircon,Pr−Zircon
andFe−ZirconplgmentS.
65
5.4.まとめ
Mn−ジルコン顔料の母結晶の組成比(ZrO2:SiO2)を変化させた結果,ZrSi04の理論組成よ
りわずかにSi02が多い組成で合成した場合が最も紫色に発色することがわかった・また数
種の紬薬について検討した結果,紫発色のためには石灰バリウム粕が最適とわかった.合
成したMn−ジルコン紫色顔料は,陶磁器用紬薬用として他のジルコン系料と混合使用が可
能であった.2種類以上のジルコン系顔料を組合わせることで紬薬の発色数を増やすことが
できた.Mn−ジルコン顔料:Pr−ジルコン顔料:=8:1:1の割合で3種混合することにより,目
的とする赤に近い赤茶色の発色が得られた.
66
引用文献
1)加藤悦三,高嶋康夫,名工試報,5,147−150(1956)
2)T.Demiray,D.K.Nath,andF.A.Hummmel,JAm.Ceram・Sbc・,53,1−4(1970)
3)R.A.Eppler,JAm.Ceram.Sbc.,62,47−49(1979)
4)加藤悦三,軸調合の基本,窯技社,(1970)pp.72−87
5)M.Kato,M.Takahashi,H.Unuma and S.Suzuki,JI C加m,Sbc.Jban,107,
181−183(1999)
6)H.G.HechtandT.S.Johnston,jl.alem・伽・,46,23−34(1967)
7)し.H.Ahrens,Geoch血仇 ccbSmOChemLActa2,155−159(1952)
67
第6章 結 論
本研究は,セレンーカドミウム系赤色顔料に代わる陶磁器用顔料の合成について検討した
ものである.単一の鉱物組成の母結晶に発色源となる遷移金属元素が固溶することで赤色
顔料を合成することは困難であるが,i)母結晶が複数の鉱物の混合相で形成され,ii)それ
ぞれの相が異なった発色をし,iii)その複数の鉱物の混合相が,都合よく目的とする色を発
色することで,目的とする顔料を得ることが出来ることが確認された.本研究の目的である赤
色顔料はCrを発色源としベロブスカイト型母結晶CaSn(Ⅹ_1)Ti(Ⅹ)03,Ⅹ=0・2∼0・4の及びスフ
ェーン型のCaSn(X_1)Ti(Ⅹ)SiO5,Ⅹ=0.2∼0.4母結晶の場合i)ii)iii)の条件としてCaSnO3(赤
紫色),CaTiO3(茶色),CaSnSiO5(赤紫色)及びCaTiSiO5(茶色)で満たし,赤色顔料を合
成できた.
第2章では顔料合成における微量アルカリ成分の影響を検討した.微量成分の添加で顔
料が赤色変化するには,微量成分を母結晶に添加することで,上記i)ii)iii)の条件を満た
す必要がある.Cr−アルミナピンク顔料に少量のMg(<20m01%)を添加した場合,α−アル
ミナ中にMgA1203を生成し,コランダム相とスピネル相を生成する・コランダム相は赤紫色に
発色し,Mg添加(<20m01%)の場合,スピネル相は褐色から緑色を発色する・この場合,
i)ii)iii)の条件を満たし2相の混合によりCrアルミナピンク顔料は赤色発色した.Mgの添
加量が増えるに従い,スピネル相の発色は赤紫色に変化し,iii)の条件を満たさなくなる.
結果,Cr−アルミナピンク顔料は赤色発色は起こらずに,赤紫色に発色することが確認され
●
た.
第3章ではCrを発色源としてルチル型(SnO2,TiO2),ベロブスカイト型(CaSnO。,CaTiO3)
及びスフェーン型(CaSnSiO5,CaTiSiO5)母結晶についてSn系とTi系顔料を合成した・ル
チル型SnO2(青紫色),TiO2(黄土色),ベロブスカイト型CaSnO3(赤紫色),CaTiO。(茶色)
及びスフェーン型CaSnSiO5(赤紫色),CaTiSiO5(茶色)に発色し,Sn系とTi系を組合せ顔
料を合成したところ,ルチル型ではi)ii)の条件を満たしたが,iii)の条件を満たさず赤色の
顔料は得られなかった.ベロブスカイト型及びスフェーン型ではi)ii)iii)の条件を満たし,赤
色顔料を得ることができた.
第4章では,Crを発色源とした赤色無機顔料が粕薬に使用できるかを検討した.5種類の
アルカリ紬薬にコランダム型,スピネル型,ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型赤
色顔料を混合し軸薬の発色を検討したところ,コランダム型は,亜鉛粕をのぞいて紬中で分
解し緑色発色した.スピネル型ではマグネシア紬で分解し褐色を発色した.これらの変色は
68
紬薬中のアルカリ成分と顔料中のCrが,MgCrO。及びZnCr04を生成するこが原因であるこ
とが確認された.また粕薬中のアルカリ成分のイオン半径の小さい紬薬ほど,顔料を分解し
やすく,MgCrO4及びZnCr04の生成が起こりやすいことが分かった・
ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型顔料はどの粕薬に対しても比較的安定で
分解することなくそれぞれの顔料の色を発色した.若干ではあるが軸薬中のアルカリの影響
を受け,紬薬中のアルカリ成分のイオン半径の小さい粕薬ほど,発色は薄い色になった.コ
ランダム型,スピネル型に比べルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型が粕薬中で安
定なことは,発色源であるCrの価数が3価か4価であるかに左右され,4価による発色であ
るルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型は粕薬中でMgCrO4及びZnCrO。を容易に
生成しないことが原因であることが分かった.
ルチル型,ベロブスカイト型及びスフェーン型顔料では,それぞれの母結晶系どうし混合し
て粕薬に使用することで,中間の色を発色することができた.このことは陶磁器用顔料の実
用面で有利な結果であるといえる.
第5章では第4章の混合による粕薬の赤色化を発展させ,陶磁器用顔料として有用なジル
コン型顔料の混合使用で紬薬の赤色発色を検討した.既存のジルコン系顔料や,単一の
発色源では赤色発色は困難であることがわかった.そこで,分光学的に見て紫系の発色を
する顔料を合成し,他のジルコン系黄色,ジルコン系樺色との混合使用を検討した.
発色源にMnを用いることでジルコン系濃紫色の顔料の合成に成功した.このMn−ジルコ
ン顔料とPr−ジルコン(黄色)及びFe−ジルコン(樺色)を組合わせたところ,粕薬の赤色発色
を得ることができた.
Crを発色源とした陶磁器用赤色顔料の合成は,単一の発色源,単一の母結晶では困難
であることが確認できた.しかし複数の母結晶を組合わせることで赤色発色が得られた.この
ことは顔料設計における新たな手法として活用されるだろう.しかしながら本研究の目的であ
るセレンーカドミウム系赤色顔料に取って代わる程の鮮やかな真赤を得ることはできなかった.
新たな顔料研究の指針として,酸素6配位の構造をもつベロブスカイト型母結晶が赤色顔料
の母結晶として有望であることがわかった.ベロブスカイト型結晶の研究が他の目的で多く
報告されていることから,赤色発色をする母結晶が発見される可能性があるといえよう.
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謝 辞
筆者が本研究を終えることができましたのは,恩師である名古屋工業大学セラミックス研
究施設 高橋実教授のご指導とご鞭接の賜物と心から感謝しております.ここに謹んで厚く
お礼申し上げます.
本研究を進めるにあたり数々のご協力とご助言を頂いた名古屋工業大学セラミックス研究
施設 鈴木傑教授,山形大学工学部 鵜沼英郎助教授,名古屋工業大学セラミックス研究
施設 虎谷秀穂教授,名古屋工業大学セラミックス研究施設 太田敏孝教授に深く感謝い
たします.また,本研究をまとめるにあたり有益なご助言を頂いた名古屋工業大学 引地康
夫教授と中京学院大学 大塚淳教授に深く感謝いたします.
本研究の共同研究者として数々のご協力を頂いた山下茂樹氏に深く感謝いたします.ま
た,本研究を進めるにあたり数々のご協力ご助言を頂いた岐阜県セラミックス技術研究所
平井敏夫氏,土岐市立陶磁器試験場大平修氏,磯山博文氏,多治見市陶磁器意匠研究
所網本正哉氏,名古屋工業大学セラミックス研究施設プロセッシング部門加藤真一氏,
斎藤哲也氏,水野敬友氏,牧野辰也氏およびJFCC城野香氏に深く感謝いたします・
本研究を進めるにあたり数々のご協力を頂いた名古屋工業大学工学部高木弘技官,名
古屋工業大学セラミックス研究施設 荒木規技官,日比野寿技官,原孝子事務官,大矢正
代技術補佐員に深く感謝いたします.
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