Case Study: 花王(ISO22716)

システム認証事業本部
花王株式会社
東京工場
外部の厳しい目を通してレベルアップを図るために、
化粧品 GMP「ISO22716」の第三者認証を取得
(東京都墨田区)
http://www.kao.com/
■ ISO9001、そして ISO22716 へ
家庭用洗剤やヘアケア商品の分野で国内トップのシェアを誇る花王。それらの商品と並んで同社の「顔」となっ
ているのが「花王ソフィーナ」をはじめとする化粧品分野だ。
東京都内、亀戸にある東京工場はこの化粧品の生産を担当して
いる。ちなみに同社の国内における化粧品製造拠点は、東京工場と
神奈川の小田原工場だ。
この東京工場が、化粧品に特化した優良製造規範(化粧品
GMP(Good Manufacturing Practice))である「ISO22716」の第三者認証
を取得したのは、2015 年 10 月のことだ。同工場ではそれまでに
「ISO14001」認証を取得した環境マネジメントシステム、そして
「ISO9001」認証を取得した品質マネジメントシステム、及び日本化
粧品工業連合会(粧工連)が自主基準として策定した「化粧品 GMP」
東京工場があるすみだ事業場
に基づく製造及び品質管理が長年にわたり運用されていた。
では、同社が「化粧品 GMP=ISO22716」の第三者認証取得に動いた経緯からみてみよう。
■ 取得の目的は 1 つだけ
ISO22716 のような特定の業界に特化した認証を新たに取得する理由としてよくあるのは、取引先からのリクエ
ストや輸出の拡大だ。しかし同社の場合はそういう外的要因はない。取得を目指した理由は、「ひとえに化粧品
製造のレベルアップを図りたかったから」だと、化粧品プロダクション部門の田中徹課長は言う。
前述したように、同社ではそれまでにすでに ISO9001 認証を取得し、粧工連・自主基準の化粧品 GMP を遵守し
ていた。
ところがこれらを同時並行的に運営するにあたって、社内からは「2 つを効果的に運営するにはどうすれば良い
のか」という疑問が呈されるようになった。
化粧品 GMP は製造管理に関して ISO9001 よりも細部にわたって詳しく規定しているため、ISO9001 ではカバ
ーできない部分がうまれ、その結果、この 2 つに整合性を持たせることが難しく、また併用に意味があるのかとい
う声があがっていたのだ。それが高じて、2014 年に実施した化粧品 GMP 勉強会では、「いっそ ISO9001 認証を
返上してはどうか」という議論も起こったという。
その是非を判断するために品質管理担当部署が調査を行う中で浮上したのが ISO22716 だった。
ISO22716 には化粧品製造に特化した仔細な要求事項があり、同社
の「ワンランクアップしたい」という希望にマッチしていた。そのうえ、当
時問題視されていた ISO9001 と化粧品 GMP の整合性に関して、コ
ネクターとしての機能が期待できた。
さらに ISO22716 の評価を高めたのは、自主規制ではなく第三者認
証の対象ガイドラインである点だ。「ISO 認証の取得そのものは二の
次で、ひとえにレベルアップを望んでいた我々にとっては、第三者の
目による厳しい審査と評価を受けられることが最も大事な要件でした」
化粧品プロダクション部門の田中徹課長
田中課長は言う。
■ 先を見越した認証機関選定
そこで、同社では ISO22716 の認証機関を具体的に探し始めた。候補にあがった 4 つの認証機関を対象に、審査員
数、認証実績、実際に審査をする審査員との面接、費用など 8 つの評価軸で評定が行われた。
その結果、同社が選んだのはビューローベリタスだった。「どの認証機関もそれぞれに優秀でどこにお願いするか迷
ったのですが、ある決定打がありビューローベリタスを選びました」(田中課長)。
その決定打となったのが、「ISO9001 と ISO22716 の統合認証に対応できますか?」という質問に対する答えだった。
YES と即答したのはビューローベリタスだけだったのだ。
そもそも ISO9001 と化粧品 GMP の併用に端を発して ISO22716 認証取得を決定した同社にとって、統合認証は近
い将来必ず検討することになるはずのテーマだ。それに対して「すぐにできます」と答えた認証機関と取り組めば、さ
まざまな面でアドバンテージがある。面接した審査員の評価が高かったこともあり、ビューローベリタスを選択したの
だった。
■ 委託先スタッフも対象に
キックオフは 2014 年の 12 月。そこから取得までの作業を牽引したのは、
プロダクション部門で品質管理を担当し、ISO22716 事務局を務めた笹
竹智彦氏だ。笹竹氏はまず ISO9001 に基づいた品質マニュアルをベー
スに、化粧品製造ならではの細かい点を添わせてマニュアルを整える
作業を行った。その「細かい点」は、製造関係者と共に化粧品GMPを見
直して決定していった。
すでに ISO9001 と化粧品 GMP を運用していたため、ISO22716 のマ
プロダクション部門品質管理担当の笹竹智彦氏
ニュアル作りは「新しく作るというよりは、今あるマニュアルを ISO22716 に基づき見直す作業に近かった」と笹竹氏は
言う。
漏れをなくすため、配合、設備、充填・包装、品質管理の 4 グループから担当者を出して、各分野を重点的に見直すと
いう方法を採用した。
この見直しとマニュアル作成の作業において最も重視したのは、実務面、つまり現場でマニュアルが有効に機能する
かどうかを検討・精査することだった。第一にお客様のご指摘の絶対数を減らすこと。そして次にご指摘の「見える化」
をより進めることが、同社の ISO22716 マニュアルづくりの基準となった。
またもう 1 つの大きな特徴は、委託先のスタッフも対象に含めたことだった。工場に
おいて委託先スタッフを労働安全衛生管理の対象に含めることはよくあるが、品質マ
ネジメントシステムの対象に含めるケースは珍しい。そこに委託先を含めると管理責
任問題などの課題が想定されるからだ。しかし同社では今回あえて委託先も含める
ことにした。その結果、興味深いことが起こった。それまでは労働安全衛生に対して
厳しかった委託先のスタッフの意識が、品質に対しても同様に厳しく向けられるよう
になったのだ。
品質への姿勢を表明したワッペン
このことは純粋にメーカーとしてのレベルアップを目指して ISO22716 を取得した東
京工場にとっては、願ってもない嬉しい兆候だといえるだろう。
ISO 認証は、企業を取り巻く厳しい状況や外圧に対峙するための心強いツールと認識されることが多いが、同社のよ
うにシンプルに品質と消費者に向き合おうとする企業にとっては、副産物をもたらしてくれるようだ。
(2016 年 2 月 1 日取材)
ビューローベリタスのサービス:ISO22716 化粧品 GMP(優良製造規範)