専務理事の春季グローバル政策アジェンダ 断固たる行動、持続的

専務理事の春季グローバル政策アジェンダ
断固たる行動、持続的な成長
2016年4月
世界経済は若干成長しているが、10 月以降見通しは一段と弱まり、リスクは上昇している。世
界経済は、余りにも長い期間にわたる超低成長によりダメージを受けており、この成長率では
生活水準の向上、失業率の低下及び債務水準の減少が見込めるような持続性のある回復は実現
しない可能性がある。ただし、至近のデータには若干の改善が見られ、原油価格がいくばくか
の底堅さをみせ、中国からの資本流出の勢いが低下するとともに、主要中央銀行による措置が
全て、センチメントの改善に寄与してきた。こうした最近の良好な展開を基に、世界経済はよ
り力強くより安全な軌道への回帰が可能だが、それには一段と踏み込んだ政策をとる必要があ
る。加盟国は持続的な世界経済成長へのコミットメントを強化し、一段と効果的な政策ミック
スを採用しなければならない。金融、財政、構造政策から成る三本柱のアプローチは、実際の
成長率と潜在的な成長率を押し上げ、景気後退リスクを回避し、金融の安定性を強化するなど、
三位一体として効果を発揮する可能性がある。国際通貨基金 (IMF)は、各国の余力を見極め、
適切な政策を策定し、こうした政策を実行する能力の構築に取り組む加盟国を支援するととも
に、政策を実施するための強力な金融のバックアップを提供し、新たな課題に直面している加
盟国を支えることで、このコミットメントを後押しする。
最近の情勢
世界経済の見通しは一段と弱まり、リスクが上昇している。
世界経済の回復は弱まっ
ている。
世界経済の回復は続いているものの、弱まっている。世界的に、一次産品価格の
下落の輸入国・地域への好影響は、予想したほどではなく、一次産品輸出国・地
域は、一段と困難な状況で経済を調整しなければならない。しかし、純債権者と
純債務者のポジションの隔たりが引き続き拡大している一方で、交易条件の変化
により世界的不均衡が縮小している。
先進国・地域の回復は控
えめ。
先進国・地域(AE)の回復は、弱い需要及び低潜在成長率により抑制されてい
るが、これは未処理の危機の遺産に加え、成長に不利な人口動態及び低い生産性
の伸びなども反映している。世界経済成長の最近の主要な原動力である米国の成
長率は、ドル高等により横ばいである。ユーロ圏の一部の国の成長は、低調な投
資、高失業率、脆弱なバランスシート、そして最近では新興市場国・地域
(EM)からの需要の低迷によりを圧迫されている。日本では、特に民間消費の
急落を反映して、成長及びインフレが予測を下回っている。
新興市場及び途上国・地
域はさらに鈍化。
危機以降、世界経済の成長の大半に寄与してきた新興市場国・地域の経済活動
は、ブラジル及びロシアでの深刻な景気後退、先進国・地域の緩やかな回復、中
国経済構造の再調整の影響、並びに金融環境のタイト化により、引き続き勢いが
弱くなっている。継続中の経済構造の変化は中国の成長、特に製造業の成長を鈍
化させ続ける一方、それをより持続可能なものにする。インドは、実質所得とコ
ンフィデンスが上昇し内需を押し上げていることから、極めて明るい材料を引き
続き提供している。ASEAN5-インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、
ベトナム-も力強く成長しているが、一方でメキシコやトルコといった国では控
えめなペースでの成長が続いている。途上国の経済活動は、不利な対外環境によ
り引き続き弱い。
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国際金融の安定性にかか
るリスクが上昇。
金融市場のボラティリティとリスク回避が高まり、金融環境がタイト化した。こ
れは、経済、金融、政治的リスク、及び政策効果への信認の低下を反映してい
る。主な試練は、新興市場国・地域における脆弱性の高まり、先進国・地域に未
だに残る負の遺産(不良債権)及びシステミックな市場の流動性の不足などであ
る。こうした背景のなか、国際金融の安定性は、直近数カ月間で一部回復したも
のの、確保されたとは言えない。
持続可能な回復の実現が
難しくなってきた。
危機以前から続く生産性の伸びの長期的な低下に加え、一部加盟国における失業
率の高止まり、巨額の債務、及び低投資が成長の重荷となっている。先進国・地
域では公共投資が過去最低水準にとどまり、新興市場国及び途上国では、かなり
のインフラ・ギャップが存在する。公共投資の効率性にも改善の余地がある。貿
易の伸びは著しく鈍化しており、貿易経路を通じた波及的効果が、世界的に弱い
経済活動をさらに悪化させるリスクがある。地政学的紛争、テロ、難民の波、英
国が欧州連合から離脱する可能性、及び世界に広がる伝染病に起因するショック
が、直接及び間接的に経済に派生的影響を及ぼし、世界の環境を一段と複雑にし
ている。
政策課題及び優先事項
加盟国は、成長へのコミットメントを強化し、政策手段を相互に強化する三本柱から成るアプ
ローチを採用すべきである。
金融政策には支援が必
要。
先進国・地域では、金融政策スタンスは引き続き緩和的で適切である。これは、
需給ギャップがマイナスで、インフレ率が低すぎる国で継続する必要がある。た
だし、需要の下支えには金融政策に加えて他の政策が必要であり、また、金融政
策は成長の構造的なボトルネックには対応できない。非伝統的な金融政策は需要
支援に寄与している一方で、極めて低い(一部ではマイナス)金利は、銀行利益
に直接的な影響を及ぼすかもしれない。新興市場国・地域は、金融政策を用い、
通貨下落のインフレ及び民間部門のバランスシートへの影響に対処しなければな
らない。交易条件ショックの緩和には、可能な限り為替レートの柔軟性を利用す
べきである。
需要を高めるために他の
政策手段が必要。
国内における政策間の連携は非常に重要であり、場合によっては財政政策をより
活用すべきである。一部の加盟国は引き続き、高債務、国債スプレッドの上昇、
公的部門の貯蓄不足に苦しんでおり、財政健全化計画を実施する必要がある。一
方で、財政に余力がある国は、財政政策のさらなる緩和にコミットすべきであ
る。これは、自国を益するのみならず世界の需要も支えることになる。カナダは
直近の予算で、こうした余力を活用した国として際立っている。複数の債権国に
とって、これは世界的な再調整の促進にも役立つかもしれない。財政余地のない
国も含め全加盟国は、一部でインフラ支出を拡大するなど収入と支出を一段と成
長を支える内容にすることで、貢献できる。
構造改革の実施が不可
欠。
財政政策に加え、生産性及び潜在GDPを改善するための構造改革の必要性は広く
認識されている。G20関連を含め、多くのコミットメントが発表されたが、実現
を前倒ししていかなければならない。財政余地のある加盟国は、お互いの効果を
強める需要支援策と構造改革のシナジー効果を活用すべきである。財政刺激が組
み込まれた構造改革-労働税のギャップの削減、研究開発費の増額、労働市場活
性化政策など-は、短期的にプラスの効果をもたらす可能性がある。各国の経済
構造は多様であるため、構造改革は経済の発展段階及び制度の能力の差異を反映
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させた優先順位をつけるべきである。一次産品輸出国及び低所得途上国では、経
済の多様化及び構造の転換を推進する政策が不可欠である。
成長には、十分に機能す
る金融セクターが不可
欠。
また、コルレス銀行との関係も含め、リスク回避傾向の高まりの影響を受けてい
る地域における金融サービスへのアクセスがを不当に阻害されることがないよう
に対策をとる必要がある。加盟国は、民間セクターのバランスシートの修復を加
速させるための措置を更に講じ、金融政策の信用波及経路を弱めかつ不確実性を
高めるレバレッジ解消プロセスの引き伸ばしを避け、また、景気を更に悪化させ
る効果を和らげるべきである。EUの銀行同盟については、銀行システムのリス
ク削減の取り組みとともに、最後の柱である共通預金保険制度を導入しこれを完
了することが不可欠である。影の銀行部門を安定した市場ベースの資金供給源に
転換する政策を含め、国際的な規制改革プロセスを一貫して実施しこれを完了す
ること、そして市場流動性の耐性の強化で一層の進展が必要である。
政策当局は、共同で断固
とした行動を取るべき。
各国は、国内そして世界の成長を押し上げる国際的な改革パッケージに寄与する
一連の政策措置-利用可能な政策余地により決定される-にコミットすべきであ
る。加盟国が協調して金融、財政及び構造の措置を伴う三本柱から成るアプロー
チをとれば、相互に経済活動を強化し安定性リスクを軽減する、効果的な三位一
体として機能し得る。また、国際協調も必要である。例えば、調整と流動性供給
のメカニズムの強化、世界貿易の強化、腐敗への対処、及び規制改革の推進など
が挙げられる。
IMFはどのように加盟国を支援するのか
IMF は機敏で一体化した加盟国を重視した支援を加盟国に提供すべく取り組みを進めてきた。これを基に、
IMF は強化された成長へのコミットメントの遂行に努力する加盟国を支援するために、より多くの貢献を行
う。サーベイランスでは、政策策定に関して率直な助言を行い、加盟国が更に多くを行うための余地がどこ
にあるのかを突き止めるとともに、加盟国が直面している新たな課題に対応することに重点を置いていく。
能力開発では、サーベイランス活動を通じて明らかになった優先順位の高い改革に的を絞っていく。IMF の
財源は、金融の安定性を維持し現在の環境に脆弱な国々を保護するとともに、一段と力強い政策の実行を支
えるために活用する。IMF のマンデート(責務及び権限)の下でこれらをはじめとする諸任務を効果的に遂
行するには、IMF が十分に資金を備えていることが不可欠であろう。
利用可能な政策余地の輪郭を明確にする
政策ミックスのリバラン
スを推し進める。
IMF は、政策余地及び必要な措置をより主体的に明確にしていく。特に、ゼロ金
利制約の緩和の政策金利への影響に関する分析を継続していく。一段と優れた政
策ミックスに移行する必要性を考慮し、IMF は、協調的なアプローチを推進し、
需要を支え構造改革を強化するにあたり財政政策がより大きな役割を果たせるケ
ースを特定していく。IMF は引き続き、構造改革が、成長、雇用、マクロ経済の
安定性に与える影響、及び優先順位を定める原則に関する分析を深めていく。ま
た、資本移動圧力に対処する、加盟国の経験及び政策を検証していく。
効率的なインフラ支出の
促進。
全ての加盟国で、効率的なインフラ投資を支えるため更なる措置が必要である。
新たなインフラ政策支援イニシアティブが、今年試験的に実施される。これは、
インフラ支出拡大に代わるアプローチのマクロ及び財政への影響を特定するとと
もに、制度面のキャパシティを評価しこれを高めるのに役立つだろう。
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一段と健全な民間セクタ
ーのバランスシートを支
える。
IMF は、この問題の規模及び影響を評価し、民間セクターの債務の上昇及び銀行
の未だ処理されていない危機からの負の遺産から生じる、バランスシートへの悪
影響のリスクを軽減するオプションを検証する。国内の金融サイクルの管理及び
高レバレッジ回避に関する加盟国の経験を利用しながら、長期の株式による資金
調達の推進(例えば、借入金を優遇する税のバイアスを解消する)及び金融サイ
クルを通じたレバレッジの危険な増大を回避するためのマクロプルーデンシャル
政策の活用に重点を置いていく。IMF は、加盟国における金融規制改革の導入促
進に貢献していく。
金融支援の実施
堅固で、一貫した国際金
融セーフティネットへの
貢献。
強力な政策及び効果的な IMF サーベイランスは引き続き危機回避の要に位置す
る。しかし、一方では十分な規模をもち、より一貫性のある国際金融セーフティ
適切な政策実施を支え
る。
IMF はその財源を用い、この変動が激しい時代での政策実施を支えるための強力
な金融支援を行い、加盟国の取り組みを支援していく。特に、加盟国の事情に合
わせた政策支援を行う。さらに、一次産品価格の下落で打撃を受けた加盟国(多
くは低所得国)や、エルニーニョの深刻な影響を受けた加盟国の、多角化及び調
整を支えるため金融支援の強化を検討する。長期にわたって激しい変動が続く世
界において、主要国が正常化を進め、中国が再調整を続けるなか、迅速で予測可
能な、信頼性の高い流動性支援が、流動性ショックを受けた適格国を保護し波及
の可能性を抑制するのに役立つだろう。
現在、伝染病あるいは難民危機の渦中にある加盟国は、他の加盟国のために重荷
を背負っている。IMF をはじめとする国際機関を含めた金融支援のための協調的
な国際イニシアティブを立ち上げ、その波及的影響によりリスクにある国が必要
な財源を提供することで、これらの国々を支援することができよう。IMF は、最
も必要としている分野に資金を振り向ける方法を見直すことに助力する。
経済以外の原因から生じ
る波及効果の管理を支
援。
各国の事情に合わせた低
所得国への支援。
ネットが(十分な資金を備えた IMF と共に)特に重要となるだろう。各国間のバ
ランスを欠いたコストがかさむセーフティネット、そして IMF に支援を要請する
際に寄せられる不快感は、克服しなければならない課題のひとつである。そのた
め、IMF は地域金融取極との協力の強化、及び融資手段の見直しなど、様々な改
革を検討してく。概して、協力は、新興市場国・地域及び先進国・地域への政策
シグナルにより促進されるかもしれない。IMF は、SDR のより広範な利用につい
ても調査していく。
IMF はポスト 2015 年開発アジェンダのもとでの成果、及び脆弱国が直面している
特定の問題をまとめ、低所得国を引き続き支援していく。自然災害の影響を受け
た小国において、IMF がどのように最大限成長を支援し耐性を強化することがで
きるのかを評価する、もうひとつのイニシアティブも進行中である。更に、IMF
は予防的金融支援の余地、更には一般資金勘定(GRA)と貧困削減・成長トラス
ト(PRGT)資金を組み合わせる余地を調査する。
引き続き新たな課題に対応する
リスク回避の解決策を提
示。
IMF は、リスク回避の要因、規模、影響に関する見解を固めるため、利害関係者
間の対話の促進で引き続き他の国際機関と協力していく。また、政策助言、基準
評価、資金洗浄及びテロ資金対策(AML/CFT)など国の事情に合わせた能力開発
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を通じて、影響を受けた加盟国を支援していく。この他に、規制が求めるもの、
業界内での解決策、及び公的支援について、各国当局、基準設定当局及び民間の
間での対話を推進していく。
新たな課題に関する政策
助言を強化。
IMF は引き続き、IMF のマンデート内で経済政策により対処可能な新たなマクロ
経済に決定的な重要性をもつ問題に関する専門知識を積み上げていく。IMF は移
民の問題について、これが移民の受入国・その母国で及ぼす、成長、労働市場及
び財政ポジションへの影響を調査していく。また、再分配財政政策が、内需、潜
在成長率及び所得不平等にどのように影響を与えるかを評価するとともに、加盟
国の同意を得て、より多くの国別サーベイランス報告書で、格差及びジェンダー
問題を扱う。また、今後も気候変動のマクロ経済及び金融の安定性への影響を分
析し、この問題に対処するために適切な政策及び制度を制定する加盟国を支援し
ていく。近年潜在成長率が低迷する中、IMF は、人口動態のシフト、ジェンダ
ー、ガバナンス(特に汚職)及びテクノロジーをはじめ、中・長期的な成長に影
響を与える要因を調査していく。IMF の信頼性と実効性にとり、IMF が実施する
分析及び助言の公平性は不可欠である。公平なサーベイランスのための新たな原
則は、どれほど良くサーベイランスが国の状況に合わせて行われているかを評価
する基盤となる。また、報告及び評価メカニズムを通じて、懸念事項を鑑み、今
後の教訓を引き出す手助けをしていく。
能力開発を政策ミックス
に統合する。
IMF は、政策分析及び政策助言を補完するために技術支援・研修を行い、その結
果のモニタリングを強化していく。国際課税の問題での低所得国支援に重点をお
くとともに、世界銀行との連携を通じて国内の財源の確保に向けたこうした国々
の取り組みも重点的に支援する。制度を強化することにより、非合法な資金の流
れに取り組んでいる加盟国を引き続き支援していく。また、政策分析の強化を支
えるため、データ不足問題の解消に取り組んでいく。重要なトピックに関する高
品質な情報をウェブで提供するなど、知識管理を強化していく。
強力な IMF を維持する
十分な資金を確保。
IMF の実効性、信頼性及び正当性を強化するうえで、第 14 次クォータ一般見直
し及び理事会改革修正案の発効が重要な一歩となってきた。強力かつクォータを
基盤とした十分な資金を備えた IMF が重要であることから、IMF は、新しいクォ
ータ計算式を含め、2017 年の年次総会までに第 15 次クォータ一般見直しを完了
することを目指し、引き続き速やかに作業を行っていく。第 15 次レビューの結
果はまだでていないが、IMF の現時点での全体的な融資能力は維持すべきであ
る。機敏で一体化した加盟国を重視した支援を実施するには、十分な資金的、人
的及び技術的資源を必要とする。また、よりダイバーシティに富んだ職員と、理
事会におけるジェンダーダイバーシティが求められる。