30年遅れ、今こそ日本もアセマネの時代に

リサーチ TODAY
2016 年 4 月 8 日
30年遅れ、今こそ日本もアセマネの時代に
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今日、日本では貯蓄から投資へというスローガンのなか資産運用の本格的な「離陸」が期待されている。
みずほ総合研究所は、日本のアセットマネジメントに関する緊急リポートを発表し 1、日本の資産運用業の
新たなビジネスモデルの早期確立の重要性を議論している。日本の家計の金融資産残高は1,700兆円と
過去最高の水準に達するが、この金融資産の構成比を欧米と比較すると、日本では現預金比率が50%を
上回る高さである一方、リスク資産比率が低く、両者の差が顕著である。今回の緊急リポートでは、2020年
を展望し、いくつかの分野において試算を行った。2020年に個人金融資産は今日の1,700兆円から1,800
兆円に拡大。資産運用業の対象となる証券運用額は、足元の1,518兆円から、2020年度には1,657兆円に
増えるとし、資産運用会社の運用額は足元の421兆円から2020年度に500兆円まで拡大すると試算した。
このような資産運用業拡大の背景として、ディスインターミディエーションを進めてきた米国の後を日本が
30年遅れで追っている。下記の図表は、日本の資産運用の発展を米国と比べたものだ。米国においては
1980年代からディスインターミディエーションが進行した。この背景には、同時代に官民一体となった粘り強
い取り組み、即ち一連の制度改革による制度要因とグリーンスパンの「金融にやさしい時代」で資産価格が
上昇していたという市場要因の2つがある。
■図表:日米の資産運用の発展の流れ
(年代)
経済
環境
米国
マネー
フロー
制度
変更
1980
1970
1973年
第1オイルショック
インフレ・高金利
1990
1979年
第2次オイルショック
インフレ・高金利
1995年~
金融緩和
グリーンスパンの「金融にやさしい時代」
1969年
1974年
第2次ディスインター 第3次ディスインター
ミディエーション
ミディエーション
1978年
第4次ディスインター
ミディエーション
1993年
第5次ディスインター
ミディエーション
(預貯金→TB,CP)
(預貯金→TB,CP,MMF)
(預貯金→投信・年金)
1971年
MMF
取扱開始
(預貯金→債券)
1974年
ERISA法成立
(年金基金は合理的運用
方針設定が必要に)
1975年
IRA創設
1981年
401Kの
本格導入
2001年~
1990年代後半~
金融の
デフレ経済
量的緩和
経済
環境
日本
2000
1990-1993年
金融機関の不良債
権処理の本格化
制度
変更
2001年
確定拠出
年金法施行
2012年~
アベノ
ミクス
2014年
NISA
開始
(資料)みずほ証券「Quarterly Special Report No.23」
(1999 年 7 月)等よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表は、日米における資産運用の環境を比較したものである。先述のように、米国は1980年
代以降、制度と市場の要因が両輪となって資産運用ビジネスを拡大させた。それに比べ、日本の場合、制
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2016 年 4 月 8 日
度対応の遅れに加え、資産デフレが加わり、両面での対応ができておらず、資産運用の拡大が米国より30
年遅れることになった。
■図表:日米における資産運用の背景比較
米国(1980年代~)
日本
インフレ傾向の持続
⇒ 預金保有のデメリット
⇔
デフレ環境の継続
⇒ 預金保有のメリット
マーケット
環境
米国株の持続的上昇
⇒ 投資メリットの享受
⇔
バブル崩壊後の20年間日本株低迷
⇒ 投資意欲の減退
年金制度
IRA・401(k)の導入
継続的な制度改革
⇔
日本版401(k)の拡大ペースは
緩やかに留まる
金融機関
チャネル
証券チャネルの発達
⇔
銀行のウェイトが高い
預金選好
環境
物価動向
制度
1980年代からの取り組みを通じた
資産運用ビジネスの成長
資産運用ビジネスの成長は緩やか
足元では金融の潮流が変化する中、
資産運用ビジネスの重要性拡大
(資料)みずほ総合研究所作成
今日の日本の資産運用をみると、米国の30年遅れではあるが、ようやく制度要因が整備され、市場要因
にも改善の兆しが生じていることから、日本でもアセットマネジメントの時代が到来する可能性が高まってい
る。ここでの課題は、米国でグリーンスパンの「金融にやさしい時代」が長期にわたり続いたように、日本に
おいても「市場に優しい」環境が長く続くかである。つまりアベノミクスの課題とは、グリーンスパンが担ったよ
うな「金融にやさしい」環境の再来を実現できるかどうかであるともいえる。日本の場合は、20年以上続いた
資産デフレのなか、特に現預金への「信仰」が根強い。米国において資産シフトが生じたのは、10年以上
にわたる好環境の継続にあった時であることを考慮すると、アベノミクスの課題は好環境を粘り強く継続さ
せることだ。
制度要因については、NISAや確定拠出年金制度が整備され、資産運用の重要性が各方面から重視さ
れる状況にある。金融行政のなかでもフィデューシャリー・デューティーを重視し資産運用を高度化する潮
流が生じている。市場要因については、アベノミクスの最初の3年は良かったが、今年は逆風が吹いている
状況にある。資産デフレ後の3年という短期間でマインドの転換が困難なのは、デフレからの脱却が困難で
あることとも類似する。日本でもようやくアセットマネジメントが飛び立つ環境になってきたが、その定着には
まだ粘り強い努力が必要だ。
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「本格的な『離陸期』入りが期待される日本の資産運用」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 3 月 11 日)
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