マイナス金利がもたらす実物資産相場

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ピクテ・グローバル・マーケット・ウォッチ 2016年4月4日発行
グローバル
Pictet Global Market Watch
マイナス金利がもたらす実物資産相場
萩野 琢英
ピクテ投信投資顧問
想定しない事が突然発生したとき、市場は極端な反応を示すことで投資家を混乱させる一方、新たな胎動を既に始
めていることがある。 2016年1月末に発表された日銀のマイナス金利政策は円高、株安を引き起こしただけでなく、
様々なアセットクラスの価格動向にも変化を促したようだ。 キーワードは“実物資産”と “借り手優位”だ。
マイナス金利がもたらした市場の変化
図表1:国債利回り(3-7年債平均)が
マイナスになっている国の比率
月次、期間:2004年3月~2016年3月
日銀によるマイナス金利政策は多くの先進国の金利
に影響を与えた。 債券投資の中核となる3年から7年
の残存期間の国債利回りを見ると、2016年1月末に先
進国国債の5割*1がマイナス利回りに突入し、この3月
末も約4割もの先進国の国債利回りがマイナスとなって
いる(図表1参照)。
この金融政策は様々なアセットクラスの価格動向に
変化を促しているようだ。
(*1:シティ世界国債(3-7年)指数ベース)
50%
40%
30%
20%
10%
0%
04年3月
07年3月
10年3月
13年3月
16年3月
※シティ世界国債指数構成国のうち3-7年の指数がある国で利回りがマイナ
スになっている国の比率
図表2:世界REIT、対世界株式相対パフォーマンス
REITとゴールドに変化の兆し
ある資産が他の資産に比べ強い動きをしているか否
かを判断する際、我々は指数の相対的な動き、相対パ
フォーマンスに注目する。 その資産の価格動向が他
の資産に比べて強いときには相対パフォーマンスは上
昇し、弱ければ下落する。
この視点からREIT市場を分析すると、世界REITの世
界株式に対する相対パフォーマンスは昨年末から再度
上昇に転じていることが解る。 まだ2011年以降のボッ
クス圏の動きに過ぎないが、上値抵抗線を超えると更
なる上昇波動を形成する可能性がある(図表2参照)。
REIT価格の上昇は借り入れ負担の軽減に市場が素直
に反応した結果といえる。
ゴールド価格の動向も面白い。 ゴールドの世界株式
に対する相対パフォーマンスは年初から上昇し、マイ
ナス金利導入直後にその上昇は加速、2012年以降初
めて2年移動平均線を上回るという反応を示している
(図表3参照)。
2年移動平均線を越えてきたということは、過去2年間
のゴールドのパフォーマンスが世界株式を上回ってき
たことを示している。 アセットアロケーションを行ってい
るポートフォリオ・マネジャーはこの「市場が発するシグ
ナルが何か」を理解しようとしているはずだ。
ここで言えることは、REITもゴールドもその共通点は
実物資産ということだ。
ピクテ投信投資顧問株式会社
60%
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
0.14
0.12
0.10
0.08
0.06
世界REIT/世界株式
1年移動平均線
2年移動平均線
0.04
0.02
0.00
96年3月
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
図表3:ゴールド、対世界株式相対パフォーマンス
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
0.70
ゴールド/世界株式
0.60
1年移動平均線
0.50
2年移動平均線
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
96年3月
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
※世界REIT:S&PグローバルREIT指数(配当込)、世界株式:MSCI世界株価
指数(配当込)、ゴールド:金スポット価格
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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グローバル
新興国株式とバイオ医薬品関連株式の
関係に変化
一方、大きなトレンドに変化がみられるのが、成長株
投資の代表である新興国株式とバイオ医薬品関連株
式の関係である。
新興国株式のバイオ医薬品関連株式に対する相対
パフォーマンスは年初から上昇に転じ、わずかである
が2年移動平均線を上回ってきている(図表4、5参照)。
このことは2008年5月以降の中期下方トレンドの転換、
今後5年から10年単位での上昇トレンドの可能性さえ
示唆している。 新興国企業は資源価格との相関が高
く、これも“実物資産”投資がキーワードになる。
市場の周期性という特性も認識すべきだ。 バイオ医
薬品関連株式が人気化し8年も経過してきたが、周期
性を考慮するとそろそろ新興国の成長に物色先がシフ
トする可能性を否定できない。 なぜなら市場経済が各
産業に与えるその成長の機会は常に一定ではないか
らだ。
ある産業だけが収益を上げすぎれば、新規参入や規
制の強化が促されるなどして成長鈍化の要因を引き起
こす。 その一方、極端な低迷を経験すると非効率企
業の淘汰や新規事業の強化などで将来の成長の芽を
育てる。 その上、投資資金は成長性のある魅力的な
市場を中期的に彷徨うので、同じアセットクラスでも人
気化したり、不人気化したりさせる。 この結果投資価
値のオーバーバリュー、アンダーバリューを生み出す
のだ。 ここ数年の前者の典型がバイオ医薬品企業で
あり後者が新興国の企業であろう。
ファンダメンタルズで混迷を続けているブラジル株式
市場が日銀によるマイナス金利政策の発表直前(1月
28日)からこの3月31日までの約2ヵ月間でおよそ40%
(ボベスパ指数、円ベース)の大幅な上昇を記録してい
る。 市場の転換点で見られる強い動きだ。
実物資産に注目
図表4:新興国株式とバイオ医薬品関連株式のパフォーマンス
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
1,400
1996年3月末=100として指数化
1,200
1,000
新興国株式
バイオ株式
800
600
400
200
0
96年3月
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
図表5:新興国株式、対バイオ医薬品関連株式
相対パフォーマンス
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
1.8
1.6
新興国株式/バイオ株式
1年移動平均線
2年移動平均線
1.4
1.2
8年
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
96年3月
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
図表6:世界実物資産保有株式、対世界無形資産株式
相対パフォーマンス
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
1.00
世界実物資産保有株式/世界無形資産株式
0.90
1年移動平均線
0.80
2年移動平均線
0.70
一方、世界株式の一部のセクター指数を実物資産保
有株式と無形資産株式に分類し、その相対価格動向
を分析すると明らかな変化が見られる。 ここで定義す
る実物資産保有株式とは有形固定資産(建物・設備・
不動産等)を大量に保有し事業を行っている通信、公
益や不動産セクターであり、無形資産株式とはバラン
スシートに占める有形固定資産が相対的に少なく、無
形固定資産(特許やソフトウエアなど)によって収益を
上げているITとヘルスケアセクターである。
実物資産保有株式の無形資産株式に対する相対パ
フォーマンスは2015年12月から上昇に転じ2年移動平
均線を2016年2月以降上回ってきており、ここでも2008
年9月以降の中期下方トレンドの転換を示唆している
(図表6参照)。
ピクテ投信投資顧問株式会社
0.60
0.50
0.40
0.30
96年3月
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
※新興国株式:QR IFC Global Comp指数(2001年5月31日まで)、
S&P/IFCG D Composite指数(2001年5月31日から2002年6月30日まで)、
MSCI新興国株価指数(2002年6月30日以降)(配当込)、バイオ医薬品関連
株式:ナスダック・バイオテック指数、両指数とも1996年3月末=100として指
数化
※世界実物資産保有株式:MSCI世界通信、公益、不動産株価指数(配当
込)を1994年12月末=100として指数化したものを単純平均、世界無形資産
株式:MSCI世界情報技術、ヘルスケア株価指数(配当込)を1994年12月末
=100として指数化したものを単純平均
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
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実物資産と借り手優位がキーワード
図表7:世界公益株式とヘルスケア株式のパフォーマンス
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
700
実物資産保有株式である世界公益株式と無形資産株
式の世界ヘルスケア株式のパフォーマンスを相対比較
すると、更にその動きは明確になる。 世界公益株式は
世界ヘルスケア株式に負け続けていたが、2015年末か
らそのトレンドは反転している。 1月に2年移動平均線
を2008年以降、初めて上回り、直近では260日移動平均
線も上昇に転じてきた。 トレンドとしては相当強い上昇
波動になってきている(図表7、8、9参照)。
大量の借り入れを行いながら発電所や鉄道網などの
巨大なインフラ、つまり有形固定資産を有し、そこから
安定的な営業キャッシュフローを生み出している公益企
業は典型的な実物資産保有企業である。 総資産に対
する負債比率が高いため、金利負担が重いことが事業
ポートフォリオの欠点ともいえた。 それが、今回のマイ
ナス金利によって その負担が低減されただけでなく、貸
し手にとっては重要な優良顧客となった。 いわゆる“借
り手優位“という立場に転じてきている。
公益株式はかつて「資産株」と呼ばれていた。 資産
株とは「資産として長く保有するのに適した株式。業績
が安定していて配当利回りも魅力的で、成長性があり、
しかも株価が投機的な値動きをしないような株式」と
一般に定義されているが、実物資産を保有する企業の
株式として認識される時代が来るかもしれない。
1996年3月末=100として指数
600
500
世界ヘルスケア株式
400
300
200
100
0
96年3月
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
図表8:世界公益株式、対ヘルスケア株式相対パフォーマンス
月次、ドルベース、期間:1996年3月末~2016年3月末
2.00
1.80
1.60
世界公益株式/世界ヘルスケア株式
1年移動平均線
2年移動平均線
1.40
1.20
1.00
0.80
0.60
0.40
96年3月
実物資産への長期投資
世界公益株式
00年3月
04年3月
08年3月
12年3月
16年3月
図表9:世界公益株式、対ヘルスケア株式相対パフォーマンス
日次、ドルベース、期間:2013年6月14日~2016年3月31日
マイナス金利下において信用リスクと流動性リスクを
取らない限り金利物ではリターンは得られない。 株式
やREITに投資するにしてもボラティリティを許容する必
要がある。 バランスポートフォリオを構築するにも債券
のクッション機能は失われてきている。 一方、中央銀
行による通貨インフレ政策は継続されており、資産保全
は容易ではない。
このような投資環境下、「確実にキャッシュフローを生
み出す不動産や資産株などへの実物資産関連投資が
長期投資のコアとして復活する」と考えるのは私だけで
あろうか。
MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、
知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。
またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止す
る権利を有しています。
1.10
1.05
1.00
世界公益株式/世界ヘルスケア株式
260日移動平均線
520日移動平均線
0.95
0.90
0.85
0.80
0.75
0.70
0.65
0.60
13年6月14日
14年6月14日
15年6月14日
※世界公益株式:MSCI世界公益株価指数(配当込)、世界ヘルスケア株
式:MSCI世界ヘルスケア株価指数(配当込)
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
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