平成 28 年 4 月 8 日 筑波研究学園都市記者会 御中 筑波大学附属病院 「発作性心房細動」に対する新たな保険治療 高周波ホットバルーンを用いたカテーテル心筋焼灼術に成功 筑波大学附属病院循環器内科の青沼和隆教授、山崎浩講師らのグループが、4 月 1 日、発作性心房細 動に対する新たなカテーテル治療に、保険治療として国内で初めて成功しました。高周波ホットバルーンは、 葉山ハートセンター副院長の佐竹修太郎医師により国内で開発された日本発の治療機器であり、筑波大学を 含む国内 17 施設で臨床治験が行われ、2015 年 11 月に製造販売承認、2016 年 4 月 1 日に保険収載さ れました。今回、3 名の患者さんに対して、保険収載後初の治療が、佐竹医師の指導のもと、施行されました。 【発作性心房細動とは】 心房細動は、不整脈の一種です。心房が不規則に高い頻度で拍動し、正しい収縮と弛緩ができなくなった 状態を指します。心房細動のうち、発作性心房細動とは、1 分間に 350~600 回の頻度で心房が不規則に興 奮し、突然起こる心房細動です。心房細動は心房内で血栓が形成されやすい病態で、脳梗塞の主な原因の 1 つとされており、重篤な状態に陥らないためにも早めの治療が必要とされています。 【本治療法の特徴】 発作性心房細動に対する治療法としては,すでに高周波カテーテルを用いたカテーテル心筋焼灼術(アブ レーション)が普及しております。しかし、この治療方法は、術者の熟練および長い施術時間を必要とするため に、施設間で治療の有効性および安全性が一定しないことが課題として挙げられてきました。今回施行された 高周波ホットバルーンを用いたカテーテル心筋焼灼術の特徴は、高周波装置を用いてバルーン内の生理食 塩水を 70℃近くまで加温させたバルーンを肺静脈入口部に圧着させることにより、肺静脈入口部を一括で焼 灼することが可能である点です。(図 1、図2) バルーンを用いた治療としては、2014 年 7 月から冷凍凝固バ ルーンを用いた経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼術がすでに保険治療として可能となっていますが、冷凍凝固 を行うことが可能なバルーンのサイズは規定されているために、肺静脈入口部の形状によっては十分な治療を 行うことが困難でした。高周波ホットバルーンカテーテルは、バルーンのサイズ調整が可能であるために、様々 な肺静脈入口部の形状に合わせて治療を行うことが可能となっています。 患者さんに対する具体的なメリットとしては、以下の点が挙げられます。 ・ 体外から血管を穿刺する本数が従来術式(高周波カテーテルアブレーション)より少なくてよい。 ・ 手術時間が従来術式の約 2/3 程度に短縮された。(将来的に手術時間は 1/2 程度に短縮されると期 待される)。入院期間は従来手術と同様で 4 泊 5 日程度。 ・ 手術時間が短いため、より多くの手術施行が可能となり、患者の治療機会が増加する。(ちなみに現在、 筑波大学の心房細動アブレーションの入院待ち期間は 2 か月以上) ・ 医療費に関しては従来法と同様、高額医療の適応となるため患者負担は同じ。 【患者】 発作性心房細動の患者さん合計 3 名(第 1 例の患者さん: 70 歳代男性、牛久市在住。3 月 31 日に入院 し、4 月 5 日に退院)。抗不整脈薬の内服下でも心房細動発作が繰り返し生じていたため、本治療法による心 房細動根治を目指して入院されました。 【経過】 ・局所麻酔下に 4 本のカテーテルを大腿静脈および鎖骨下静脈から挿入。 ・心房細動治療の基本である電気的肺静脈隔離を目的に,バルーンカテーテルを肺静脈入口部に留置。 ・高周波を用いて加温されたバルーンを用いて、4 本の肺静脈隔離術が施行された。 ・3 名の患者さんすべて術後の経過に問題なく、4 日後に退院された。 【今後の展望】 発作性心房細動に対するカテーテル治療の有効性は確立しており、日本国内でも治療件数が急速に増加し ています。従来の高周波カテーテルを用いたアブレーションでは、手術時間が長いことや術者の技術習得に時 間がかかることなどが課題として挙がられていましたが、バルーンを用いたカテーテル治療により、より技術習 得が容易であり短時間に手術が終わることが可能となりました。 このような治療の導入により、発作性心房細 動患者さんの早期発見・早期治療がより多くの施設で可能となり、心房細動の持続性を防ぎ、重大な合併症 である脳梗塞の抑制にもつながることと期待されます。 【問合せ先】 筑波大学附属病院 循環器内科 TEL:029-853-3142 FAX:029-853-3143 【参考図】 図1 本治療法に用いる医療機器 高周波カテーテルを用いた 従来のアブレーション 図2 高周波ホットバルーンカテーテル 高周波ホットバルーンカテーテル を用いたアブレーション
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