マリ共和国における金鉱資源開発と政治経済的安定性

2016/2/29
JIIA「安全保障政策のリアリティ・チェック―新安保法制・ガイドラインと朝鮮半島・中東情勢」
『Radical Islamist Research Report』Vol. 3
マリ共和国における金鉱資源開発と政治経済的安定性
吉田敦(千葉商科大学)
はじめに
2012 年 1 月 、 ト ゥ ア レ グ 族 を 主 導 す る 「 ア ザ ワ ド 解 放 の た め の 国 民 運 動
( Mouvement National de la Libération d’Azawad : MNLA)」 は 、 マ リ 北 部 地 域
の独立ないしは自治権を要求して武装蜂起し、マリ軍との全面的な戦闘に突
入 し た 。 MNLA は 、 イ ス ラ ー ム ・ マ グ レ ブ 諸 国 の ア ル カ ー イ ダ ( Al-Qaïda au
Maghreb islamique: AQMI) や ア ン サ ー ル ・ デ ィ ー ン ( Ansar Dine) 等 の イ ス
ラム過激派と共闘して、北地地域の占拠に成功した。マリ軍内部でのクーデ
ターの発生や国家行政機能の停滞により、北部の主要都市からの国軍の撤退
を 余 儀 な く さ れ た が 、翌 2013 年 1 月 に は フ ラ ン ス 軍 の 軍 事 介 入 に よ る 北 部 地
域の解放、イスラム武装勢力の掃討作戦が展開されることとなった。この作
戦によって、フランス軍とマリ軍の連合軍はイスラム武装勢力の撤退に成功
し 、 モ プ テ ィ 北 部 コ ン ナ ( Konna) ま で の 国 土 の 回 復 を 実 現 し た 。 さ ら に マ
リ軍は、フランス軍の支援を受けて、ガオ、トンブクトゥ、キダルの北部主
要 都 市 の 再 度 奪 回 に 成 功 し た 。2015 年 6 月 に は 、北 部 地 域 に お け る 和 平 合 意
が 、政 府 と 武 装 勢 力 間 で 締 結 さ れ る に 至 っ て い る が 、2015 年 11 月 20 日 に は 、
首 都 バ マ コ に お い て 武 装 勢 力 に よ る 高 級 ホ テ ル ( Radisson Blu Hotel) へ の 襲
撃事件が発生するなど、北部のみならず中部に位置する首都においても散発
的なイスラム武装勢力による暴力が報告され、マリ治安情勢の悪化が懸念さ
れ る 状 況 が 続 い て い る 1。
本報告では依然として治安回復途上にあるマリ共和国の経済の現況を概観
したうえで、将来においてイスラム武装勢力による直接的な暴力行使の可能
性も排除できないマリの南部地域で進めらられている金の採掘部門の開発状
況について確認していきたい。
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1.マリ共和国のマクロ経済状況
(1) 経 済 成 長 率
マ リ 共 和 国 の 経 済 成 長 率 は 、 20
000 年 代 以 降 、 比 較 的 順 調 に 推 移 し 、 GD
DP
成 長 率 は 年 率 平 均 4.9% ( 2000 年 ~ 2010 年 ) を 記 録 し て い た ( 図 1 )。 図 に
示 さ れ る 通 り 、 サ ヘ ル地 域 で の 旱 魃 の 影 響で 、 特 に 穀物 生 産 を 中 心 に 農業 生
産 が 低 下 し た 2011 年 と 、 北 部 地 域 で の 治 安 情 勢 の 悪 化 に よ り 経 済 パ フ ォ ー
マ ン ス が 大 き く 低 下 し た 2012 年 は 、 経 済 成 長 率 が 大 き く 低 下 し て い る が 、
A 平 均 )と 比 較 し て も 、
全 体 と し て は 、西 ア フ リ カ 地 域 全 体 の 平 均 値( UEMOA
西 ア フ リ カ 地 域 で は 良 好 な 経 済 状 況 を 維 持 し て き た 2。
図 1 マリ 共 和 国 の 経 済 成 長率 ( 実 質 )の 推 移
( 注 ) West Africcan Economi c and Monettary Union ( UEMOA) は 、 ベ ナ ン 、 ブ ル キ ナ フ
ァ ソ 、 コ ー ト ジ ボ ワ ー ル 、 ギ ニ ア ビ サ ウ 、 マ リ 、 ニ ジ ェ ー ル 、セ ネ ガ ル 、 ト ー ゴ の 平 均
で算出。
( 出 所 ) IMF, daata mapper よ り 筆 者 作 成 。
マ リ の 農 業 部 門 は GD
DP の 4 割 を 構 成 し 、人 口 の 8 割 が 従 事 し て
と は い え 、マ
い る 状 況 の な か で 、 天候 不 順 に よ る 生 産 性の 低 迷 は 国民 の 生 活 に 深 刻 な影 響
を 与 え た 。 20112 年 に は 、 360 万 人 の 居 住 地 域 に 相 当 す る 196 の 村 落 で 、 食 糧
)、
不 足 ・ 栄 養 不 良 が 深 刻 化 し 、 特 に 、 モ ー リ タ ニ ア 国 境 近 辺 の カ イ ( kayes)
Nara)、 モ プ テ ィ ( Mopti)
M
近郊 、北部地域
ク リ コ ロ ( Ko ulikoro)、 ナ ー ラ ( N
u)に お い て 、2 億 60
000 万 ド ル 相 当 の 緊 急 食 料 援 助 が
ト ン ブ ク ト ゥ ( Timbuktu
食 料 危 機 に 加 え て 、22012 年 か ら の 北 部 地 域 の 治 安 情 勢 の 悪 化 に
実 施 さ れ た 。食
国 内 全 体 で は 約 42 万 人
よ り 、北 部 人 口 の 約 3 分 の 1 が 避 難 を 余 儀 な く さ れ 、国
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の 避 難 民 が 発 生 し 、う ち 21 万 人 も の 難 民 が 発 生 し た( モ ー リ タ ニ ア 10 万 人 、
ニ ジ ェ ー ル 6.55 万 人 、ブ ル キ ナ フ ァ ソ 3.6 万 人 )。MNL
LA と 国 軍 と の 対 立 が 激
化 し た 北 部 三 州 ( ト ゥン ブ ク ト ゥ 、 ガ オ 、キ ダ ル ) では 、 イ ン フ ラ ( 電力 、
輸 送 、 水 ・ 燃 料 ) の 破壊 ・ 損 害 に 加 え 、 教育 施 設 の 破壊 や 略 奪 ・ 占 拠 がお こ
な わ れ た こ と に よ り 、国 民 の 生 活 基 盤 が 壊滅 的 な 打 撃を 受 け て い る 。
次 に 、マ リ 共 和 国 の 輸 出 構 成 に つ い て 概 観 し て み た い 。マ リ の 輸 出 構 成 は 、
0 年 代 ま で は 、 総 輸 出 ( 4 億 7 ,300 万 ド ル ) の 79%
% ( 3 億 7 ,200 万 ド ル )
1990
を 綿 花 が 占 め る モ ノ カ ル チ ャ ー 経 済 で あ っ た が 、2000 年 以 降 、金
金の輸出額が
徐 々 に 伸 び 始 め て い る 3 ( 図 2 )。 特 に 2004 年 以 降 は 、 金 の 輸 出 額 が 急 激 に
589
増 加 し て お り 、 2004 年 に 総 輸 出 に 占 め る 金 の 輸 出 額 は 51.14% ( 5 億 4,5
1 万 ド ル )を 大 幅 に 上 回 り 、首 位
万 ド ル ) と 、 綿 花 輸 出 の 35.8% ( 3 億 8,261
と な っ た 。 さ ら に 2005 年 に は 、 金 の 輸 出 額 は 、 10 億 ド ル を 突 破 す る よ う に
な り 、 こ れ ま で の 輸 出の 主 力 産 業 で あ っ た綿 花 ( 2 億ド ル ) を 大 き く 上回 る
12 億 5980 万 ド ル を 記 録 し 、輸 出 に 占 め る 比 率 は 75% に 達 す る な ど 圧 倒 的 な
シ ェ ア を 占 め る よ う に な っ た 。こ の 増 加 傾 向 は 2008 年 ま で 続 き 、2008 年 も
5% )、 綿 花 2 億 ド ル ( 11% ) と 大 き く 引 き 離 し て い る 。 以 降 、
14 億 ド ル ( 75
や や 減 少 す る が 、2012 年 に お い て も 10 億 ド ル( 輸 出 シ ェ ア は 443.6% 、20
012
年)強で推移している。
図2 マリに おける輸出の推移
( 出 所 ) UNCTA
AD, Handboo k of Statisticcs, 2002〜 20
014 年 度 ま で 各 年 度 の 主 要 輸 出 品 目
( SIT
TC Revision 3(3-digit lev
vel) か ら 筆 者 作 成 。
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マ リ の 金 輸 出 額 の 増加 は 、 国 内 に お け る金 産 出 量 の増 加 と と も に 、 金価 格
の 国 際 市 場 で の 高 騰 が 大 き な 後 押 し を し て い る 。 金 の 国 際 市 場 価 格 は 、 20
004
年 以 降 の 新 興 諸 国 経 済の 需 要 圧 力 の 増 加 等に よ り 上昇 ト レ ン ド を 記 録し 、
20044 年 で は 年 次 平 均 価 格 が 1 ト ロ イ オ ン ス 409 ド ル で あ っ た が 、2007 年 に は
696 ド ル を 超 過 し 、 2010
0 年 に 金 価 格 で 史 上 初 の 1,000 ド ル を 突 破 ( 原 油 100
1
ド ル 超 )、 20111 年 に 最 高 値 1,861 ド ル と な っ た 。 2013 年 以 降 は 、 落 ち 着 き を
み せ 、 1,200 ド ル の レ ン ジ で 推 移 し て い る が 、 依 然 と し て 高 い 水 準 で 推 移 し
て い る 。2008 年 リ ー マ ン シ ョ ッ ク 後 金 融 危 機 以 降 、他 の 主 要 な 鉱 物 資 源 の 国
際 価 格 は 値 崩 れ を 起 こす な か で 、 金 に お いて は 例 外 を保 っ て お り 、 国 際金 融
市 場 の 混 乱 の 最 中 に お い て も 、金 の 国 際 価 格 は 比 較 的 高 水 準 で 推 移 し て い る 。
一 方 で 、 世 界 に お け る 金 の 鉱 山 生 産 量 に つ い て は 、 2004 年 の 2,560 ト ン か
ら 20013 年 2,8000 ト ン 、2 014 年 2,8550 ト ン と 大 幅 な 増 加 は み ら れ て い な い 。表
1 に み ら れ る よ う に 、200
09 年 ~ 20113 年 に お け る 金 の 主 要 生 産 国 の 推 移 を み て
み る と 、 中 国 、 オ ー スト ラ リ ア 、 米 国 、 ロシ ア 、 南 アフ リ カ 、 ペ ル ー 、カ ナ
ダ の 上 位 7 カ 国 が 、年 間 100 ト ン 以 上 を 生 産 し て お り 、2013 年 で は 、全 体 の
56.7 % を 占 め る 。マ リ は 世 界 の 生 産 量 で は 、 第 19 位 の 位 置 づ け で 、中 規 模 の
金 生 産 国 の 位 置 づ け で あ る 。ア フ リ カ 諸 国 の な か で は 、南 ア フ リ カ 、ガ ー ナ 、
タンザニア、マリと、第 4 位の金生 産国である。
表1 主 要 金 生 産 国 の 生 産 量 の 推移
( 出 所 ) U.S.Geoological Surv
vey (USGS), 2013 Miner als Yearbook
k Gold, Octoober 2015.
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2.マリにおける外資主導による金資源開発の現状
マリの主要な主要な金鉱床は、マリ西部および南部(泥・砂質岩を主体と
するビリミアン系地質分布地域)の西アフリカ金鉱床に集中しており、セネ
ガ ル と マ リ の 国 境 付 近 の 金 鉱 で は 、数 百 年 前 か ら 金 採 掘 が お こ な わ れ て き た 。
最近ではバマコ南域シカソでも金の採掘が開始されている。マリ南部を中心
とする西アフリカ金鉱地帯は、さらにギニア、ブルキナファソ、コートジボ
ワール、ガーナへと広域にわたり広がっている。
1990 年 代 は 、 バ マ コ 南 東 に 位 置 す る シ ャ マ ( Syama) 鉱 山 に よ る 産 出 が ほ
と ん ど で 、 年 間 3〜 6 ト ン の 金 が 生 産 さ れ て い た ( 図 3)。 1990 年 代 後 半 か ら
は、鉱業法の改正にともなう外資による投資促進策が実施され、新たにサデ
ィ オ ラ ( Sadiola) 鉱 山 が 2001 年 に 開 山 し た 。 2000 年 以 降 に は 、 外 資 に よ る
金 鉱 開 発 が 活 発 化 し 、 2001 年 に は モ リ ラ ( Morila) 鉱 山 の 生 産 規 模 拡 大 に よ
る 増 産 、2001 年 に ヤ テ ラ( Yatela)鉱 山 、2005 年 に ル ロ( Loulo)鉱 山 で 生 産
開 始 、 2006 年 に は タ バ コ ト ( Tabakoto) 鉱 山 の 生 産 開 始 と 、 金 の 国 際 市 場 価
格の上昇にともなって、相次いで大規模金鉱開発が実施された。
マリでの金鉱開発に参入を果たしている企業は、南アのアングロゴール
ド ・ ア シ ャ ン テ ィ ( Anglogold Ashanti) が 最 大 で 、 ヤ テ ラ 、 サ デ ィ オ ラ 、 モ
リ ラ の 主 要 鉱 山 で の 権 益 を 40% 前 後 で 取 得 し て お り 、 中 心 的 な 存 在 で あ る 。
そ の ほ か 、 カ ナ ダ の イ ア ム ・ ゴ ー ル ド ( IAM Gold)、 イ ギ リ ス の ラ ン ド ゴ ー
ル ド ・ リ ソ ー ス( RandGold Resources)、エ ン デ バ ー ・ マ イ ニ ン グ( Endeavour
Mining, カ ナ ダ )、バ リ ッ ク ・ ゴ ー ル ド( Barrick Gold, カ ナ ダ )や ニ ュ ー モ ン
ト 社 ( Newmont, ア メ リ カ ) な ど の 北 米 メ ジ ャ ー 企 業 も 相 次 い で 参 入 を 果 た
している。
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図3 マリに おける金鉱の分布
(出所)各種資料から筆者作成。
19990 年 代 後 半 か ら 20 00 年 代 初 頭 に か け て 、 相 次 い で 外 資 に よ る 金 鉱 開 発
が 進 ん だ た め 、 マ リ にお け る 金 の 産 出 量 は増 加 し て いっ た 。 金 の 年 間 の産 出
量 は 、 1994 年 に は 6.2 ト ン で あ っ た が 、 200
00 年 に は 19.4 ト ン に 増 加 、 20
002
年 に は 66.2 ト ン の ピ ー ク に 達 す る 。 そ の 後 、 50 ト ン 前 後 で 推 移 し て お り 、
20122 年 の 産 出 量 は 50.2 ト ン で あ っ た 。
世 界 各 国 で 資 源 開 発が 活 発 化 す る な か で 、 資 源 採 取産 業 に か か わ る 開発 に
よ る 不 透 明 な 流 れ の 根絶 、 紛 争 予 防 を 目 的と す る 国 際的 な 枠 組 み と し て 、採
I
Transparenncy Initiati ve:
取 産 業 透 明 性 イ ニ シ ア テ ィ ブ ( Exxtractive Industries
EITI ) が 提 唱 さ れ て い る 。 こ れ は 、 2002 年 に 開 催 さ れ た 「 持 続 可 能 な 開 発 に
W
( 於 ヨ ハ ネス ブ ル グ )に て イ ギ リ ス の ブレ ア
関 す る 世 界 首 脳 会 議 」( WSSD)
首 相 の 主 導 の も と で 採択 さ れ 、 本 来 、 資 源国 の 国 民 の生 活 水 準 向 上 に 役立 つ
べ き 石 油 、 天 然 ガ ス 、鉱 物 資 源 が 、 し ば しば 、 汚 職 や紛 争 の 要 因 と な って お
り 、 資 源 国 に お け る 不適 切 な 資 源 管 理 に よっ て 、 む しろ 生 活 水 準 が 悪 化し て
い る 現 況 を 改 善 す る こ と を 目 的 と し て い る 。 EITI で は 、鉱 山 部 門 で の 操 業 会
社 へ の 課 税 額 、 政 府 機関 に お け る 収 益 漏 洩を 公 表 す るこ と で 、 採 取 産 業部 門
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で の 透 明 性 の 向 上 を 図 り、 資 源 管 理 の 効 率化 と 開 発 資金 ・ 収 益 の 透 明 化を 実
現することを重視している。
マ リ に お け る EITI の 実 施 状 況 を 考 察 し た う え で 、マ
マリにおける
以 下 で は 、マ
金 鉱 開 発 の 構 造 的 な 問 題 点 を 分 析 し て み た い 。マ リ 政 府 は 、20066 年 8 月 2 日
2 日 に は EITI
E
候補国 に正式承認
に E ITI へ の 参 加 を 表 明 し 、 翌 20007 年 9 月 27
さ れ た 。そ の 後 、4 回 の 暫 定 レ ポ ー ト を 提 出 し て 、2011 年 に「 資 格 国 」( p ays
confoorme) と し て EITI へ の 正 式 加 盟 を 果 た し た 。
EIITI 報 告 書 に 基 づ き 算 出 し た マ リ 政 府 の 鉱 業 部 門 に お け る 政 府 歳 入 の 割
合の推移を示したのが表 2 である。
表 2 マ リ に お け る 採 取 産 業 透 明 性 イ ニ シ ア テ ィ ブ ( EITI) に お け る 資 金 フ ロ ー 4
( 出 所 ) ITIE( Initiative
I
pou
ur la Transpaarence dans les
l Industiriees Extractivees) -Mali,
Réconnciliation dees flux de paiiement effecttués par les entreprises extractives
e
e t des revenu s
perçuus par l Etat pour luannéée 2012, rappport final, Déécembre 201 4.
EIITI の 報 告 書 か ら 、 マ リ 政 府 の 金 採 取 産 業 に お け る 主 な 収 益 は 、 課 税 ( 法
人 税 、 従 価 税 ) 収 入 、配 当 、 鉱 山 ロ イ ヤ リテ ィ 、 で ある こ と が わ か る 。表 2
に み ら れ る よ う よ う に 、調 整 後 の 政 府 受 取額 の 比 率 をみ て い く と 、 最 大の 歳
2.9% 、 配 当 12.9% ( そ
入 源 は 法 人 税 の 25.3% ( 約 1 億 ド ル )、 次 に 従 価 税 12
% ( 4,464 万 ド ル ) で 、 以 上 の 合 計 が 62.3
3%
れ ぞ れ 5,120 万 ド ル )、 関 税 11.2%
( 2 億 4,704 万 ド ル ) と な っ て お り 、 政 府 受 取 の 総 額 は 、 2,481 億 FCFA ( 3
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億 9,696 万 ド ル ) と な っ て い る 。
ノ ル ウ ェ ー の ク リ ス チ ャ ン ・ マ イ ケ ル セ ン 研 究 所( Chr. Michelsen Institute:
CMI)に よ る 試 算 に よ れ ば 、2011 年 の 金 の 生 産 額 の 推 定 は 29 億 ド ル 以 上 で 、
そのうち政府受取額は 4 億ドル程度であるとすれば、マリにおける金鉱山会
社から、課税、関税、配当等を通じてマリ政府に支払われる額は、全体収益
の 10〜 13% 前 後 と 推 算 さ れ る 5 。 ま た 、 他 の 報 告 資 料 か ら は 、 1994 年 〜 2004
年 の 10 年 間 で 、マ リ 政 府 は 、鉱 山 会 社 か ら ロ イ ヤ リ テ ィ 、課 税 、関 税 、配 当
に よ り 総 額 で 約 6 億 2,450 万 ド ル を 受 け 取 っ て い る の に 対 し て 、 2001〜 2003
年 に お け る 金 の 生 産 額 は 、「 年 間 」 5 億 3,600 万 ド ル に 達 し て い る 。
このようなマリ政府の受取額の低さの一因としては、
「外資への権益参加比
率 の 低 さ 」 が 指 摘 で き る 。 2012 年 2 月 27 日 に 公 布 さ れ た 鉱 業 法 に よ り 、 政
府 の 10% の 権 益 参 加 の 保 障 と 更 に 10% ま で の 追 加 権 益 の 取 得 を 保 障 し て い
る の で 、 国 内 で の す べ て の 金 鉱 開 発 に お い て 、 20% ま で の 権 益 参 加 を 確 保 し
て い る 。 し か し な が ら 、 他 の ア フ リ カ の 資 源 諸 国 と 比 較 し た 場 合 、 20% と い
う 権 益 比 率 は 、 決 し て 高 い 比 率 と は い え な い 6。
おわりに
以 上 で 見 て き た と お り 、マ リ 共 和 国 は 、1990 年 代 以 降 、鉱 業 部 門 の 市 場 開
放政策を進め、外資促進策を進め、金の生産量・輸出額を増大させてきた。
しかしながら、金鉱開発による利益が直接的にマリ国民一般に裨益される状
況にはほど遠い状況である。例えば、雇用面での不均衡の状況やインフォー
マルでの露天掘り金採掘現場における劣悪な労働環境が複数の報告書が指摘
し て い る 。外 資 企 業 が 進 め る 大 規 模 な 金 鉱 採 掘 で は 機 械 化 が 進 ん で い る た め 、
金 採 掘 部 門 全 体 で 1 万 人 程 度( 2012 年 11,958 人 、直 接 雇 用 は 3,862 人 )に 留
ま っ て い る が 、 露 天 掘 り 鉱 山 は 、 マ リ 国 内 350 カ 所 に 存 在 し 、 鉱 夫 数 は 40
万 人 に も 達 し て い る ( う ち 2〜 4 万 人 の 児 童 労 働 も 含 ま れ て い る と 推 算 さ れ
る )。国 内 に 散 在 す る 露 天 掘 り 採 掘 で は 、金 の 分 離 作 用 を 促 す た め の 水 銀 の 使
用による健康被害が生じたり、地下坑での採掘や鉱石の運搬作業、掘削作業
に加え、危険な立坑での滑落、崩壊等による過酷な労働環境も報告されてい
る 7。
本 稿 で は 、マ リ に お け る 金 鉱 部 門 に つ い て の 分 析 を 進 め て き た が 、EITI の
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報 告 書 か ら 明 ら か で あ る よ う に 、 多国籍企業と資源国政府間の資源収益の国外
分配比率の不平等により、国内での経済的不満が蓄 積・醸 成 さ れ る 可 能 性 は 否 め
ない。また、外国資本による金鉱開発が進む一方で、露天掘り鉱山では多く
の鉱夫が採掘をおこなっており、貧困状態から抜け出せない状況が続いてい
る 。本 来 、政府は資源開発を通じて得た収益を国内再分配しなければならないが、
その再分配をめぐっても、開発対象地域の住民等のステークホルダーとの間で経
済的不満が蓄積される可能性がある。 政 府 と 取 り 交 わ さ れ る 多 国 籍 企 業 に よ る
外部主導型の資源開発の契約は、途上国の民衆にとっては、資源収益を巡る
国 外 再 分 配 の 不 平 等 性 と 国 内 再 分 配 の不平等性による「二重の経済的不満」を
引き起こすことにつながり、「二重の経済的不満」の蓄積が、 マ リ 共 和 国 の政治
的不安定性を高める結果につながる可 能 性 が あ る だ ろ う 。
―注―
1
国 際 NGOs の Human Rights Watch の 報 告 に よ れ ば 、 イ ス ラ ム 武 装 勢 力 ( AQI M、
Al-Mourabitoun、 Front du Libération du Macina、 Ansar Dine な ど ) は 2015 年 で は 、 首 都
バ マ コ を 含 む 外 国 人 向 け ホ テ ル 、 ナ イ ト ク ラ ブ 、 軍 駐 屯 地 ( Sévaré) を 中 心 に 襲 撃 し 、
少 な く と も 44 人 の 市 民 を 殺 害 し て い る ほ か 、 マ リ 軍 側 に よ る 拘 束 と 拷 問 の 濫 用 、 暴 力
の 行 使 も 報 告 さ れ て い る 。Human Rights Watch,“Mali: Abuses Spread South, Islamist Armed
Groups’ Atro cities, Army Responses Ge nerate Fear”, February 19, 2016.
2
IMF Countr y Report No.14/166, Mali Poverty Reduction Strategy Paper-Progress Report,
2014., IMF, Mali Achieving Strong and Inclusive Growth with Macroeconomic Stability,
2013.
3
Claire Mainguy, Natural resources and development: The gold sector in Mali, Resources
Policy 36, pp.123-131, 2011.
4
従 価 税 : 採 掘 さ れ た 原 石 の 総 重 量 か ら 価 格 換 算 ( 精 錬 コ ス ト を 含 ま な い ) し て 、 3%
の賦課金で計算。
5
CMI( Chr. Michelsen Institute) , Socio-Economic Effects of Gold Mining in Mali, 2006.
6
例えば、アルジェリアなどのアフリカ産油国では上流部門における国営石油会社ソ
ナ ト ラ ッ ク の 権 益 比 率 を 51% 以 上 と 規 定 し て い る 。ま た 、ボ ツ ワ ナ で は 、ボ ツ ワ ナ 政 府
と デ ビ ア ス の 合 弁 会 社( Debswana)に よ る ダ イ ヤ モ ン ド 採 掘 が お こ な わ れ て い る が 、ボ
ツ ワ ナ 政 府 が 50% の 権 益 を 保 有 し て い る 。
7
Human Righ ts Watch, A poisonous mix child labor, mercury and artisanal gold mining in
Mali, 2010.
9