今日も残る6重苦の課題はエネルギー問題

リサーチ TODAY
2016 年 4 月 11 日
今日も残る6重苦の課題はエネルギー問題
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
原発事故によって転換期を迎えた日本のエネルギー・環境政策について、地球温暖化問題への対応も
含めた具体的な計画・戦略の取りまとめ作業が大詰めを迎えている。みずほ総合研究所では「エネルギ
ー・環境政策の再構築」と題するリポート1を発表し、強い経済とCO2排出抑制の両立に向けた課題を分析
している。昨年のCOP21で採択されたパリ協定等を踏まえた「地球温暖化対策計画」では、2030年度まで
にCO2排出を26%削減する目標の実現に向けた省エネ・低炭素化策が包括的に示される。今後は、
PDCA(政策を実施したら検証等を行い、その結果を踏まえて必要に応じた政策の後押しや改善を図るとい
うプロセスの繰り返し)を通じて必要に応じた諸施策の改善・見直しを図り、長期継続的な取り組みが求めら
れるエネルギー・環境政策において施策の実効性を高めていくことが肝要である。下記の図表は、2015年
7月に経済産業省が策定した「長期エネルギー需給見通し」における電力需要と電源構成である。徹底し
た省エネによってエネルギー需要や電力需要を最大限抑制したうえで、2030年度時点で総発電電力量の
うち、再エネルギーが22~24%程度、原子力が20~22%程度、LNGが27%程度、石炭が26%程度などと
する電源構成が示されている。
■図表:「長期エネルギー需給見通し」における電力需要と電源構成
電力需要
経済成長
1.7%/年
電力
9,066
億kWh
電源構成
総発電電力量
(省エネ相当分を含む)
徹底した省エネ
12,780億kWh程度 総発電電力量
1,961億kWh程度
(省エネ相当分を除く)
(対策前比▲17%) (送配電ロス等)
17%程度
10,650億kWh程度
省エネ
22~24%
19~20%
程度
省エネ
程度
再エネ
+再エネ
22~20%
18~17%
で約4割
原子力
程度
程度
電力
9,808
億kWh
程度
LNG
22%程度
27%程度
22%程度
26%程度
3.7~4.6%
程度
1.7%程度
7.0%程度
8.8~9.2%
程度
地熱
バイオマス
風力
太陽光
水力
石炭
石油
2013年度
(実績)
1.0~1.1%程度
2%程度
2030年度
2030年度
ベースロード比率
:56%程度
3%程度
(資料)資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し」(2015 年 7 月 16 日)よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表は2050年頃の実用化を目指す有望技術分野(8分野の特定とその評価軸)である。今
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2016 年 4 月 11 日
年1月25日に開催された総合科学技術・イノベーション会議の戦略策定WGでは、温暖化対策を進める観
点から特に研究開発を重点的・集中的に進めていくべき8つの技術分野の案が示されている。
■図表:2050年頃の実用化を目指す有望技術分野(8分野の特定とその評価軸)
中・長期的革新技術
創エネルギー
蓄エネルギー
1
2
省エネルギー
(次世代)太陽光発電
高効率石炭火力発電
(次世代)地熱発電
高効率天然ガス発電
3
高性能電力貯蔵
4
水素(等)製造
5
6
短期的技術・既に実用化が進展 等
風力発電
原子力発電
削減ポテンシャルが
技術優位性が
相対的に小さい技術 著しく高くはない
太陽熱利用
海洋エネルギー
バイオマス利活用
(次世代蓄電池)
蓄熱・断熱等
技術
水素(等)輸送・貯蔵
超電導送電
革新的製造(生産)
プロセス
次世代自動車(EV等)
省エネ住宅・ビル
次世代燃料電池自動車
メタン等削減技術
環境調和型製鉄プロセス
エネルギーマネジメント
高度道路交通システム
燃料電池
高効率航空機
高効率船舶
高効率鉄道
高効率エネルギー
産業利用
高効率ヒートポンプ
CO2
固定化・原料化
7
人工光合成(→CCU)
CCS
(CO2の回収・貯留)
革新的デバイス
情報機器等
システム
基盤技術
8
革新的デバイス
革新的デバイス
テレワーク
パワーエレクトロニクス
革新的構造材料
その他
(対象外)
温暖化適応技術
植生による固定
地球観測・気候変動予測
(注)ここに記載する 37 の技術分野は、地球全体の環境・エネルギー制約への対応と各国の経済成長に必要と考えら
れる革新的技術として、「環境エネルギー技術革新計画」(2013 年 9 月 13 日)において定められたもの。
(資料)総合科学技術・イノベーション会議
エネルギー・環境イノベーション戦略策定 WG(第 2 回)
(2016 年 1 月 25 日)提出資料 よりみずほ総合研究所作成
ここで重要になるのは、他のあらゆる政策と同様にエネルギー・環境政策でもPDCAを着実に進めていく
ことにある。地球温暖化対策計画では、これから毎年、地球温暖化対策推進本部が計画に盛り込まれた目
標の達成状況や施策の進捗状況を点検するほか、その結果等を踏まえて、少なくとも3年ごとに必要に応
じ計画そのものの見直しを行うことが定められている。また、低炭素型社会の実現が求められるなか、情報
通信技術(ICT)を活用して地域におけるエネルギー使用の効率化等を図るスマートコミュニティの動きも注
目され、すでに実証実験の段階から地域社会に「実装」する段階になっている2。
これまで、日本の産業の6重苦として、①超円高、②法人実効税率の高さ、③自由貿易協定の遅れ、④
労働規制、⑤電気料金の高さ、⑥環境規制の厳しさが挙げられてきた。すでに、①②③の半分は解決に
向かってきたなか、残る課題の多くはエネルギー問題である。今年4月1日から電力小売りの全面自由化が
実施され、日本の電力市場は新たな時代に入ることになった3。今後もエネルギー問題への対応が大きな
課題である。
1
2
3
野田彰彦 「エネルギー・環境政策の再構築」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 3 月 23 日)
上村未緒 「スマートコミュニティは実証から社会実装の段階へ」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 3 月 8 日)
内藤啓介 「新たな時代に入る日本の電力市場」 (みずほ総合研究所 『みずほリサーチ』 2016 年 4 月 1 日)
筆者の都合により、4 月 12 日(火)から 14 日(木)は休刊とさせていただきます。
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