更新日:2016/4/6 調査部:本村眞澄 公開可 ロシア:ロシアの対 OPEC 協調と石油増産凍結の見通し ・ロシアの 2016 年 1 月の石油生産は 1,088 万 bbl/d(1.54%増)で、ロシア連邦となって最高レベル。 ・2 月 16 日、ロシアはサウジアラビア、ベネズエラ、カタールと、他の産油国も賛同することを 条件に、原油生産量を 1 月の水準で据え置く(「増産凍結」)することで合意した。 ・但し、ロシアの 1 月の生産量はロシア連邦となって最高レベルであることから、増産凍結は容易 で、自らには痛みのない政策である。サウジアラビアも同様で、減産とは程遠い内容。 ・油価は、3 月中旬にかけて WTI が$40 手前まで上昇するなど、市場はある程度評価している。 これは、ロシアとサウジによる際限のない増産競争のような事態を回避できたため。 ・焦点は制裁が解除されたイランの扱いで、ロシアは他国と同レベルの増産凍結は酷との立場から、 例外扱いを指向。他の湾岸産油国にはこれに難色を示す向きもあり、15 産油国会議開催は難航。 ・4 月 17 日にドーハでの OPEC と非 OPEC の産油国会議の開催の見通し。 ・ロシアは、西シベリアの場合、原油に 2~4%のパラフィンを含み、生産を停止した場合には地 表設備の固結を招くことから、「減産」は技術的観点から受け入れられない。2003 年にサウジア ラビアから増産抑制の要請を受けた時は、石油輸出税の増税で投資意欲を抑え、生産抑制した。 ・よって、ロシアとしての対応は「増産凍結」までが限界で、これを各産油国に徹底させることで 対応しようとしている。 ・今回顕著だったのは、OPEC という組織が「無意味化」し、サウジアラビアが他の産油国に対 する影響力を殆ど失ったことである。ロシアが経済苦境にあるベネズエラやアゼルバイジャンを救 い、制裁解除間もないイランを擁護するために、全体の取り仕切り役を引き受け、各国の説得に当 たった。サウジアラビアは秩序構築者としての役割を放棄したも同然である。 1. 生産調整-対 OPEC 協議、増産凍結までの流れ (1)2016 年のロシアの石油生産の傾向 露エネルギー省中央配送センター(CDU TEK)によれば、2016 年 1 月のロシアの石油生産量 は、1,088 万 b/d(4,601 万 t)で前年同期比 1.54%と大きな伸びを見せた。これは、ロシア連邦と なってからの最大生産量である。 推進役となったのはBashneft, Gazprom Neft, Novatek, の3 社、 および PSA 案件、具体的には 2015 年 1 月から Arktun-Dagi 油田からの生産が開始となったサハ リン-1である。 –1– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 一方、サウジアラビアの1月の NGL を含む石油生産量は 1,030 万 b/d で、2002 年以来最大生 産量となっている1。 Gazprom Neft の Alexei Yankevich CFO によれば、ロシアの石油生産者は、生産コストが $3-6/bbl、輸送・掘削コストを入れても$15-16/bbl で、油価が$30/bbl であっても経済性があり、 健全な操業利益を挙げられる、更に、油価$20/bbl でも新規投資を控えることで耐えることができ るが、ただし投資の手控えは先行きに禍根を残すと述べた。ロシア政府は、油価$30/bbl の状況下 でも$12-$13 が国庫に入り、油価$20/bbl では僅かに$4 を得るのみであると、報道されている2。 (2)ロシア側からの減産情報のリーク 1 月 27 日、タス通信がトランスネフチ首脳の話として伝えたところでは、ロシアが原油価格の 引き上げを目指し、石油輸出国機構(OPEC)との協調減産の可能性について協議する見通しとな り、ロシアのエネルギー省と石油会社の幹部が OPEC との話し合いに合意したという3。トランス ネフチはパイプライン会社であり、その年の石油輸送量・輸出量を把握する立場ではあるが、ロシ アの各石油会社の生産計画に関与する訳ではない。より中立的な組織であるトランスネフチを使っ て、しかるべき筋が意図的な情報リークを行い、市場の反応を見た可能性がある。 翌 1 月 28 日になると、ロシアのノバク・エネルギー大臣が、サウジアラビアから OPEC として 各国が石油生産を 5%カットするという提案を受け、ロシアとしては来月の生産国会議に参加の意 向であると述べた4。これに対して、サウジアラビアは特段のコメントを避けた。ロシアの石油企 業としては、基本的に生産調整(減産)には反対であることを常々表明しているが、この時も、 Rosneft と Lukoil の社長は、OPEC との協調には反対であると明言した。一方、トカエフ・トラ ンスネフチ社長によれば、ロシアの石油生産者は一致団結して冬季の生産カットに反対するが、夏 季に関しては一部実施の可能性があると述べ、含みのある発言を行っている。ここでもトランスネ フチが議論を先導している印象である。 一方 2 月 10 日の、ロンドンで開催された International Petroleum Week で Rosneft のセチン 1 2 3 4 IOD, 2016/3/18 IOD, 2016/2/03 共同, 2016/1/28 IOD, 2016/1/29 –2– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 社長の発言は、ノバク大臣発言を支持すると同時に、石油会社の本音も述べるという、真意の掴み にくいものであった。即ち、以下の通りである。 「国際市場における過剰生産分の規模は現在、日 量 175 万バレルとなっている。日量 100 万バレルの協調減産を実施すれば、市場の不透明感を大 幅に払拭できる。市場のアンバランスは 2016 年末までに改善され、2017 年までに 50 万バレル/ 日の石油不足が生じる。但し、OPEC 加盟国(特にイラン、イラク)からの石油供給が増加した 場合と、米国の掘削済み坑井で新規にフラクチャリングが実施される場合は 50 万 bbl/d の増産が あり、改善が鈍化する。Rosneft の生産コストは$2.7/bbl に過ぎず、現状で不安はない。ただし、 生産者の内で一体誰が減産を行うというのだろうか」5。 (3) 「増産凍結」に向けた動き 2 月 16 日、サウジアラビア、ロシア、カタール、ベネズエラの4カ国の担当相は、ドーハで会 合を開き、原油の生産量を 1 月の水準に据え置き、増産をしないことで合意した。ほかの産油国も 同意することが条件で、イランやイラクなど増産を続ける国の協調が焦点となる6。 OPEC の原油生産量は過去最高水準で、1 月の生産量は昨年 12 月にくらべ、日量約 30 万バレ ル増えていた。ロシアも1月の生産量は 12 月より増えた。サウジのヌアイミ石油鉱物資源相は会 合後、今後数カ月間は状況を見たうえで「市場安定のために、ほかの方策が必要かどうかを決める」 とのみ述べた。イラク石油省のジハード報道官は取材に「価格安定化に向けた取り組みには基本的 に賛成だ」と回答し、アラブ首長国連邦(UAE)の政府関係者も「正しい方向だ」と前向きに検 討する姿勢を表明した。一方、1月の経済制裁の解除直後に増産を決めて、さらなる増産も検討す るイランのザンガネ石油相は 16 日午後、「イラン(の原油)に関する限りは需要が供給を上回っ ている」と、生産調整には否定的なコメントを出した7。 2 月 17 日、ベネズエラのデルピノ石油・鉱業相は、イランのザンギャネ石油相とテヘランで会 談し、増産凍結への協力を求めた。この会談にはイラクのアブドルマハディ石油相、カタールのサ ダ・エネルギー・産業相も出席した。会談後、ザンギャネ石油相は「原油市場の安定と価格回復に 向けたいかなる行動も支持する」、「石油輸出国機構(OPEC)の加盟国と非加盟国が生産上限を 維持する決定を支持する」と述べた。ただイランが増産凍結に加わるかは明言しなかった。そして、 5 6 7 RBK Daily、2016/2/11 Bloomberg, 2016/2/16 朝日, 2016/2/17 –3– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 市場の反応を見極めたうえで、必要に応じさらに協議する考えを示した8。このように、イランに よる支持発言で、期待感が醸成され、油価は WTI で$1.62 上昇し、$30.66 となった。 一方、ロシアのノバク大臣は 2 月 20 日、イランに関しては、1 月 11 日のレベルでの増産凍結を 求めるのはフェアではないとの見解を示した9。恐らく、GCC 諸国から、イランの増産凍結を強く 求める声が出ることを予測して、先に落としどころを提示したものであろう。また、ノバク大臣は 有力な産油国であるノルウェーとメキシコに関しても、建設的な立場を取り、生産調整に加わると の見通しを示した10。 3 月 1 日、プーチン大統領は石油生産量を産油国が 1 月レベルで凍結する案に関しては、すべて のロシアの生産者が賛同していると述べた11。1 月 27 日に、ノバク・エネルギー相が生産カットに ついて石油産業と話合った際に、猛反対に会っており、今回の動きは、大統領が石油業界に対する 説得に成功したことを示すものと言える。 同じ日、ノバク・エネルギー相は、生産者の各自予測から、2016 年の生産量は、2015 年の 1,072 万 bbl/d を超えることはない、との判断を示した。また、ノバク・エネ相は、 「増産凍結は 15 か国 以上の支持を得ており、イランの参加がなくとも機能する。イランは制裁の経緯から特別の状況に あり、別の取り扱いが必要である。なお、油価が$50-60/bbl を超えると、再び米のシェールオイル による過剰生産が生じる」と述べた。OPEC 加盟国では、Ecuador, Kuwait, UAE が増産凍結支持 を打ち出し、非 OPEC では Oman が支持、更にイランに対しても容認姿勢を示している12。 OPEC の 2 月の日産量は 28 万バレル減の 3,237 万バレル。これを受けて。3 月 1 日 20 時 30 分 時点での Brent 原油は$37 まで上昇した13。 OPEC と非 OPEC 生産国は、場所は未定ながら、3 月 20 日から 4 月 1 日までの間に会合を開 き石油価格の安定化について協議する予定であると、3 月 4 日にノバク・エネ相が述べた。これに は Azerbaijan と Kazakhstan、及び全 OPEC 加盟国(13 か国)が参加の意向である14。 3 月 13 日、イランのザンギャネ石油相は、ロシアのノバク・エネルギー相の訪問を受けて会談 8 日経,2016/2/18 IOD, 2016/2/23 10 共同、2016/2/21 11 IOD, 2016/3/02 12 PON, 2016/3/02 13 Vedomosti, 2016/3/02 14 Interfax, 2016/3/04 9 –4– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 した後、同国の原油生産量が日量 400 万バレルに達しない限り、原油の増産凍結に参加しない考 えを表明した。国際エネルギー機関(IEA)によると、イランの2月の生産量は 322 万バレル。1 月に欧米の経済制裁が解除され、50 万バレルの増産を決めたが、前月に比べて 22 万バレル増にと どまっている15。 翌 3 月 14 日、ロシアのノバク・エネルギー相は、産油国が原油生産量の凍結を話し合う追加協 議を 4 月 17 日にカタールの首都ドーハで開くとの見通しを明らかにした16。 当初は、 3 月 20 日に、 モスクワで開催されると見られていたが、前日のザンギャネ大臣の発言を受けて、産油国間での調 整に時間がかかると判断したものと思われる。 (4)市場の評価 油価は、2 月 11 日に、一時$26.05/bbl と 2003 年 5 月以来の安値を付けた。その後、2 月 16 日 の 4 か国会議では、減産期待から油価はジリ高となったが、合意内容が「増産凍結」で、 「減産合 意」でなかったことが報道されると、これを嫌気して油価は WTI で$0.4 下げた$29.04/bbl となっ た。しかし、他産油国の賛同の声が相次ぎ、少なくともこれからの際限のない増産競争のような事 態は避けられるとの観測から、翌日は$1.62 上昇し、$30.66/bbl となった。 その後、3 月上旬まで油価は回復基調を見せた。3 月 11 日には、国際エネルギー機関(IEA)の 石油市場月報が「原油価格が底打ちした可能性がある。コスト高の事業者の生産量が落ちている」 と指摘したことから、WTI の 4 月渡し価格は$38.50/bbl を付け、3 か月振りの高値となった17。そ の後、14 日にはイランの強硬発言を嫌気して$36.70/bbl にまで下がるなど、産油国間の生産調整 に関して、当面は進まないとの見方が強くなったものと思われる。 サウジアラビアは 2014 年 11 月の OPEC 総会で石油の減産見送りを表明して以来、具体的な発 言をすることは非常に少なく、市場との対話を行って来たとは言えない。1 月 28 日のロシア、サ ウジの 5%減産発言で、WTI は$0.92 上げて$33.22/bbl になるなど、市場は産油国側からのメッセ ージを渇仰していた様子がある。サウジアラビアは、従来からこのような対話に長けていた様子は ない。 ロシアが根回しに動いて、 OPEC と非 OPEC の産油国の総意をまとめあげようとしている。 15 16 17 共同, 2016/3/14 日経、2016/3/15 日経、読売, 2016/3/12 夕 –5– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 同様の動きは、2 月 27 日のシリア和平合意でも見られる。経済苦境にあるベネズエラやアゼルバ イジャンへの配慮もあり、ロシアは「秩序形成者」として振る舞おうとしているかのようである。 2.この 10 数年の油価の動向に関して (1)2000 年からの油価の動き 1)油価の上昇機運 2000 年代を通じての油価上昇の構造を見てみると、そのきっかけはベネズエラでチャベス政 権の発足した 1999 年末まで遡ることができる。 チャベスは大統領に就任すると、ベネズエラが OPEC の生産枠を遵守すること宣言し、これに よって OPEC はカルテル機能を回復した。1990 年代を通じて油価はバレル当たり$20 付近で低迷 し、更にはアジア通貨危機のあった 1998 年には一時期$13 程度まで下がっていた。ところが、2000 年から油価は上昇機運に乗り始め、同年のブレント価格は平均でバレル当たり$28.50 となった18。 しかし、翌 2011 年 9 月 11 日の米国同時多発テロで、一気に経済が冷え込み、油価を再び押し下 げた。低迷は 2002 年まで続き、再び上昇基調の乗ることができたのは 2003 年である。この年の 経済状況で、油価上昇に結び付く要因は特にない。むしろ、9.11 テロの記憶が薄まったことが理 由と思われる。 図1 2003 年~2016 年初頭までの油価の動き(出典:野神(2016)) 18 BP Statistics Review of World Energy, June 2015 –6– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 2003 年からの 14 年間の油価の動きを、図1に示す19。2007 年までの油価上昇は、石油市場へ の年金ファンドの参入と、この頃盛んに議論された石油の資源量の限界を説く「ピークオイル」論 がある。これはコインの両面のように表裏一体の動きとも言える。 2)QE と油価の高止まり状態 途中、2008 年のリーマンショックによる油価の乱高下があったが、2011 年からは、Brent 原油 と Dubai 原油がバレル当たり$110 という空前の高値圏で推移した。この要因として、リーマンシ ョック後に、米国でとられた 3 次にわたる量的緩和政策(QE: Quantitative Easing)がある。QE1 は、米連邦準備理事会が導入した米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量購入する政策で、1 年半に約 1.7 兆ドルもの資産を購入して、市中に資金供給を行った。これは、金融緩和ではなく量 的緩和と呼ばれた。更にリビア、イラン、シリアと目まぐるしく推移する地政学リスクが拍車をか けた。 図2 米国の油価、石油生産量と掘削リグ数の推移(JOGMEC 作成) 19 野神隆之、「原油市場他:OPEC 及び主要非 OPEC 産油国による原油増産凍結協議に対する市場期待等 –7– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 $100 超の高値圏を推移していた油価は、2014 年の 7 月から下降を始める。 これには、ファンダメンタルスとして、まず米国における毎年 100 万バレル/日が追加されると いう、旺盛なシェールオイルの増産基調が挙げられる。2011 年にはシェールオイルのみでの生産 量は 300 万バレル/日、米国全体の石油生産量はコンデンセートを含めて 786.1 万バレル/日であっ たものが、2014 年にはシェールオイルの生産量は 480 万バレル/日、米国全体の石油生産量はコン デンセートを含めて 1,164.4 万バレル/日となり、 石油市場の供給過剰感が強くなっていた (図3) 。 IEA によれば、2015 年に世界の石油供給は、需要を日量にして 200 万バレル上回っていた。2014 年年央には、世界の需要を日量約 100 万バレル上回っていると言われていた。 図3 2011 年と 2014 年の米国の石油生産量比較(BP 統計に拠る) 次いで、 ファイナンス面における動きとして、 2013 年 5 月にバーナンキ連邦準備金理事会 (FRB) 議長が QE の終了を示唆し、2013 年末から月$100 億ずつの量的緩和政策の縮小を開始した。2014 年 2 月 1 日には、バーナンキ路線を継承するイエレン新 FRB 議長が就任し、石油の大相場に、手 仕舞い感が出て来た。よって、2014 年の前半には油価が下落に転じる条件は揃っていたと言える。 しかしながら、2014 年前半において、油価は依然としてバレル当たり$100 以上の水準を維持し で上昇する原油価格」動向, 2016/3/13 –8– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 た。この理由としては、連綿と続く中東の地政学リスクがあると思われる。 特に、イスラム国(IS)というこれまでほとんど情報のなかった異形の集団が突如出現し、この 地域の地政学リスクはいやが上にも高まった。油価の動向は、地政学的な状況における予見不能性 (unpredictability)の影響を大きく受けると通常は理解されている。2014 年に入ってイラク西部の 主要都市モスールがこの一団のよって占領され、イラクの首都バクダッドに向かって進軍している という切迫した情報が油価の高値を維持させた。2014 年 7 月、ひとまずバクダッドの手前でこの 進撃が止められ、IS がイラクの西部の範囲内(およびシリアの東部)に閉じ込められたことで、 今後の展開が予見可能(predictable)になったことから、高値の油価を支える根拠が失われた。こ れを引き鉄に、油価は徐々に下降を始めた。 3)油価下落の加速 2014 年 10 月 29 日に、FRB は資産買い入れ額をこれまでの$150 億からゼロにし、QE3は終 了した。一方、米国では毎年 100 万バレル/日というペースでシェールオイルの生産が伸びて、国 際市場では原油の供給過剰状態が明確になっていた。 油価下落局面の中で開催された 2014 年 11 月 27 日の OPEC 総会において、湾岸産油諸国は減 産を見送る決定を行い、自らの市場のシェアを維持し、油価の更なる下落によって米国のシェール オイルを減産に追い込む策を選択した。この報を受け、油価は一気に$7.54/バレル(10.2%)下落 した。 その後、2015 年を通じて油価は低迷を続けた。 2016 年に入って、中国経済の不調が明らかになると、石油への需要減が強く予想されたことあ から、油価は更に弱含みとなり、2 月 11 日には WTI が一時$26.05 とリーマンショックよりもは るか以前の 2003 年 5 月以来の最安値を付けた。 2 月 16 日の 4 か国の増産凍結合意も、内容が発表される前までは、主要4か国の会合というこ とで、期待から油価が上がりだしたが、その内容が発表されると、減産が明記されなかったことか ら、反転して失望売りとなった。ところが、その後じわじわと値をあげて、3 月 11 日には WTI は一時$39.02 をつけた。同じ日に公表された IEA(国際エネルギー機関)の月報で、石油価格が 底打ちした可能性を指摘した20。これは、少なくとも、これ以上の増産はないという点が評価され たものと思われる。 20 各紙, 2016/3/12 –9– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (2)基本的な需給傾向 1992 年から 2014 年までの世界の原油生産の推移を図4に示した。途中、1998 年のアジア通貨 危機、2002 年の IT バブル崩壊、そして 2008 年の金融危機において、世界的にも原油の生産が落 ち込んだ時期があったが、基本的には右肩上がりに推移してきた。過去 20 年間の平均をとると、 毎年 110 万バレル/日増加しており、対前年同期比は平均で 0.8%増である。2016 年年初の経済的 な混乱から、この基調は若干の低下が予想されるが、今後も増加傾向が見込まれていることには変 わりはない。 2016 年初めの状況で、世界の石油需給は、175 万バレル/日の過剰(セーチン発言)と言われて いる。これを前提に考えれば、産油国が増産がない場合には 2 年で供給過剰な状態は解消できる見 込みが立つことになる。少なくとも増産凍結だけでも、近い将来に供給過剰を解消する目途は立つ ことが言われるようになった。 図4 年率約 0.8%(110 万 b/d)の需要増傾向続く(BP 統計から作成) – 10 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 3.石油減産におけるロシアの立場 (1)石油生産において政府に指導力はあるか? ロシアの石油企業は、常に減産に反対する立場であり、今回の 1 月からの一連の動きでも、当初 から減産に反対の意向を表明して来た。これには、ロシアの地下資源法において、石油の生産量を 政府がコントロールする規定がないことも根拠となっている。政府は、「協力要請」という形で石 油会社の生産量に対して若干の影響力を持つことができる程度である。 後述する 2003-4 年の増産抑制の時は、各石油会社に生産ライセンスを発給する天然資源省が、 ライセンスに記された石油生産量を遵守させるといったことがあったが、これとても増産を忌避す るための動きであって、例えばライセンスに記された生産量水準から一定パーセントの減産を「指 導」するといったことはできない。 仮に減産の協力要請を行う場合、全石油会社に対して一律に要請するのか、一定以上の生産規模 を有する油田のみを対象とするのか、国有石油のみに政府出身役員が半分を占める取締役会の意向 として減産を伝達するのか、様々なケースが考えられるが、今のところ、ロシア内でそのような論 争は行われていない。 (2)ロシアの石油生産の現状 ロシア連邦燃料エネルギー中央流通局(CDU TEK)によると、ロシアの 2015 年の原油・ガスコ ンデンセート生産量は前年比 1.4%増の 5 億 3,408 万 1,000t(1,072 万 6,000b/d)であった21。図 5 は主要 7 石油会社の生産量推移であるが、生産量を伸ばしているのは、Bashneft の 11%増、 GazpromNeft の 2%増、Tatneft の 2.7%増である。一方、最大の生産量を有する Rosneft は 0.89% 減、Lukoil が 1.06%減となっている。図 5 では、2014 年と 2015 年の生産量の合計値は、それぞ れ 4 億 3310 万 t と 4 億 3330 万 t と殆ど変らないが、イルクーツク石油(INK)をはじめ、中小 の石油企業で生産を大きく伸ばしたところがある。 最大の石油生産量を有する Rosneft は、TNK-BP を買収した年の 2012 年の前年から、4 年連続 で毎年対前年約 1%の減退傾向を示している。現在 Rosneft の生産子会社の中で生産量の約 1/3 を 占める西シベリアに操業の本拠地を置く生産子会社 Yuganskneft の減退が止まらず、2015 年は対 前年比 3.3%減の 6,240 万 t に留まった。西シベリアで主力であった Priob 油田がほぼプラトー生 21 Interfax, 2016/1/02 – 11 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 産の状況にあり、増産傾向に向かわせる有力な新規油田がないことが問題である。僅かに、2015 年 1 月にサハリン-1の Arktun-Dagi 油田が生産を開始し、2016 年末には、東 Messoyakha 油 田(埋蔵量 45 億バレル)、および Suzun 油田が生産開始となる見込みである。2015 年の政策と して、Rosneft は投資を増やし、成熟油田での掘削量を増加させたが、結果的に大きな成果はなか った。仮に減産の可能性を問われた場合、Rosneft としてはこのような新規の投資の手控えが考え られるが、既に減退傾向にある石油会社に更に減産を強要することはおよそ考えつらい。 Lukoil においても、同社の生産量の半分を占める子会社のルクオイル西シベリアの 2015 年の生 産量は対前年比 6.1%減の 4,100 万 t にとどまった22。こちらは、これまで西シベリアに重点を置い ていた分、減退が著しい。カスピ海の Flanovskoye 油田が生産開始となるが、これを減産の対象 とすることは、これまでの長期の投資を殆ど無意味にすることであろう。 対前年比で伸びの最も著しいのは Bashneft で、 創業地のバシュコルトスタンの事業のみならず、 チマン=ペチョラ地域のネネツ自治管区にある Trebs-Titov 名称記念油田、チュメニ州の Purnefte からの増産が加わった。当面は、主力となっている Trebs-Titov 油田の開発体制の整備が続くが、 これの減産は経営の根幹にかかわる問題となろう。 Tatneft も基本的にタタール自治共和国内で活動しているが、増産は主として Arlan 油田やその 周辺の重質油田を対象とした SAGD 法(Steam Assisted Gravity Darinage、水蒸気利用自重流動 法)による重質油開発に注力した成果である。他社と比較して、コスト高の傾向が見られることか ら、減産を強いなくとも、いずれ増産傾向が収縮するものと見られる。 GazpromNeft は、オレンブルグ州の事業に加え、2012 年に生産開始した北極ペチョラ海の Prirazlomnoye 海洋油田、2014 年に生産を開始したヤマル半島南東部の Novo Port 油田(埋蔵量 18 億バレル)などが同社の生産量を引き上げている。2016 年末に、Zapolyarie-Purpe 石油パイプ ラインが稼働を開始し、Zapolyarnoye ガス田の深部からのコンデンセートおよび原油、Russkoye 油田からの原油が生産開始となることから、GazpromNeft の石油生産量は一段の伸びを見せるも のと期待される。表1は、ロシアの主要石油企業の生産コストを比較したものであるが、Rosneft と Lukoil がどちらも$4/bbl 近くの値であるのに対して、GazpromNeft のそれは、$12-15/bbl と かなり高くなっている23(損益分岐点は定義が異なるせいか、大きな乖離が見られる) 。このこと は、GazpromNeft の、特に北極圏の事業が優先的に一時停止となる可能性があると言える。 22 Vedomosti, 2016/1/11 – 12 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 表 1 会社別コストと 2016 年の投資計画 Rosneft Lukoil 損益分岐点 $25 $24 生産コスト $4 $3.68 GazpromNeft $18-20 $12-15 (RBK Daily, 2016/1/13) 16 年投資予定 30%増 $85 億($50/b) $70 億($30/b) $55 億($20/b) 図5 ロシア主要 7 石油会社の石油生産量の推移(2003 年~2015 年)(各種報道から筆者作成) (3)減産における技術的問題点 ロシアの石油産業にとって、減産は技術的観点から選択肢に入っていない。 ロシアの油田は、中東のような高い油層圧力・生産性を持つ油田と異なり、概して油層圧は低く、 比較的早い時期に自噴が終了しポンプ井に切り替わる。中東に比べ1坑当たりの生産量は遥かに低 23 RBK Daily, 2016/1/13 – 13 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 く、これらを停止して生産調整をするには膨大な作業を必要し、生産調整が終わって井戸を再開す ることも同様に現場の負担が大きい。 更に、西シベリアの主力油田ではパラフィンの含有量が 2%~4%あり、寒冷地のシベリアにおい て冬季に生産を停止すると集油パイプライン内で原油が固化する。これを後から流動化させて再稼 働することは非常に困難であり、生産の停止は技術的選択肢に入っていない。よって、生産量を調 整するには、既存油田の坑井における自然減を本来補うための坑井改修や追加掘削といった新規投 資を制限することにより、多少時間をかけて全体の生産量を抑制する方法が取られる。ロシアが OPEC に加盟しない主な理由は、政治よりも技術的問題にある。 以上は、ことあるごとにロシアの石油企業が主張していることで、高い圧力と坑井当たりの生産 量を有するサウジアラビアの油井と、大きく異なる点である。 4.ロシアの対 OPEC 姿勢と今後の方針 (1)ロシアとサウジアラビアの協調関係 ロシアとサウジアラビアとの関係は、サウジアラビアが建国された 1932 年まで遡る。サウジア ラビアは最初に外交関係を持った相手がソビエト連邦で、この年、サウド皇太子(当時、第 2 代国 王)がモスクワを訪問している。ソ連が最初となった理由は、当初サウジアラビアが計画経済を指 向していたからと言われている。 71 年後の 2003 年 9 月、サウジアラビアのアブドラ皇太子(当時、前国王)がモスクワを訪問 した。プーチン大統領はこの時の共同声明の中でロシアの OPEC に対する協調姿勢を謳った。こ の時、現地テレビでは連日、アブドラ皇太子の動静を伝えており、最大級の関心を呼んだものと思 われる。 2007 年 2 月 10 日、プーチン大統領(当時)は、ミュンヘンで開催された NATO 北大西洋条約 機構の年次総会において、米国ブッシュ政権によるイラク戦争に対して厳しい批判を行った。翌日、 その足でサウジアラビアのリヤドへ飛んだが、リヤドの空港にはアブドラ国王、スルタン皇太子(国 防相、当時)、サルマン王子(リヤド州知事、現国王)が揃って出迎えるという熱烈な歓迎ぶりを 見せた。これは、アラブ社会に鬱積していた、米国の対中東政策に対する不満を暗喩として (implicit)、表したものと思われる。プーチン大統領は自身を「イスラム王国の友人」と称し、 今後の両国の関係強化に期待を滲ませた。 – 14 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 同年 11 月 23 日、スルタン皇太子・国防相は、答礼としてロシアを公式訪問した。 その後、両国はシリアにおけるアサド政権の評価を巡って、見解の相違があり、関係が若干冷却 していたが、2015 年 6 月 17 日から 18 日、ムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子が、ジュベイ ル外相、ヌアイミー石油相らとロシアを公式訪問した。同副皇太子は、プーチン大統領と会談し、 イラン情勢、イエメン情勢、シリア情勢などについて協議し、外交デビューとなった。 基本的に、両国は人的な繋がりも強固であり、かなり密接な関係にあると言える。 (2)2003 年のサウジとロシアの減産協議とその結果 2003 年のアブドラ皇太子(当時)の訪露の経緯とその後の動きについて見る。 ロシアはソビエト連邦の崩壊による経済の低迷により、1990 年代のロシアの石油生産は日量 600 万バレルとソ連時代の 2/3 の水準まで落ち込んでいたが、2000 年からのプーチン政権の発足 と折からの油価の上昇機運から、石油産業は劇的に復活を果たした。特に水平坑井掘削や水圧破砕 といった西側技術の導入に積極的であった Yukos と Sibneft(現 GazpromNeft)は、年率 15%~ 20%といった目覚ましい増産を実現し、ロシア全体としても 2000 年代前半には年率 10%近い良好 な増産基調にあった。 2003 年には中国の需要が対前年比 12%増、2004 年には 16%増となる一方で、サウジアラビア の生産量は日量 950 万バレルで推移し、増産余力の不足が油価高騰の根拠の一つとされていた。 この間は、ロシアの増産が中国を含むアジアの需要増を一手に引き受けていたと言える。サウジア ラビアは、2004 年には生産能力を日量 1,100 万バレルまで引き上げるという体制作りを急いでい た。これを踏まえ、サウジアラビアのアブドラ皇太子は、ロシアを訪問し、同国のあまりに急速な 増産は控えるよう要請したと言われている。 その後のロシアの対応を追ってみると、サウジが 1,100 万バレルの生産能力に引き上げた 2004 年において、ロシア側が 6 月 12 日に石油輸出税の税率を 45%から 59%へ引き上げた。輸出に重税 感が出たことから、それまで年率 10%近いロシアの石油の増産ペースは、1 年かけて 2005 年には 対前年比 2.5%と漸増基調へと転換し、その後緩い漸増基調となって行く(表2、図6参照)。 – 15 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図6 ロシアの対前年増産率の変化(1999 年~2014 年) (JOGMEC 作成) 前述の通り、ロシアにおいては、個別の坑井において技術的に石油生産の抑制を行うという選択 肢はない。増産率の低減化は、油田に対する新規投資を控えて各坑井での生産量の自然減を導入し たり、坑井における水圧破砕といった坑井刺激作業を控えたりした結果である。更には、原油輸出 税を引き上げて、石油会社の増産意欲を抑えたためであり、これは一種の政策的な誘導と言うべき ものであろう。ロシアは個別企業に対して生産枠を与えるのではなく、税制を通じて石油生産量を コントロールして来た例と言える。 表2 ロシアの石油・ガス生産量と石油生産の伸び率の推移(各種統計から作成) 単位\年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 石油百万 t 百万 b/d 305 323 348 380 421 459 470 480 491 488 494 505 511 518 523 527 6.18 6.54 7.06 7.70 8.54 9.19 9.41 9.61 9.83 9.78 9.92 10.2 10.3 10.4 10.5 10.6 伸び率(%) 0 6 8 9 11 9 2.5 2.2 2.3 -0.7 1.2 2.2 1.3 1.3 1.0 0.7 591 584 581 595 620 634 641 656 653 663 582 650 670 655 668 640 3 ガス Bm – 16 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (3)OPEC との関係強化へ 2008 年後半には、リーマン・ショックにより世界的に石油需要が減退し、油価は$40 レベルへ まで暴落した。この時、対 OPEC 協調としてロシアの生産制限が注目された。同年 9 月のウィー ンでの OPEC 総会には、初めて副首相クラスとして、エネルギー担当のセチン副首相(当時)が 出席し、対 OPEC 協調を明言し、日量 30 万バレルの削減を約束した。この時同席したシュマトコ・ エネルギー相(当時)の発言は、「ロシアは、OPEC のような個別生産者に対する生産量調整を 行うのではなく、生産目標をコントロールすることにより原油価格に影響を与えることが可能であ る」というもので、前述の通り、ロシアは短期的な生産調整には参加しないものの、税制等の活用 により長期の生産目標を調整することにより OPEC と協調できるという趣旨を述べた。 表2に見るように、実際には 2008 年のロシアの石油生産量は、対前年 0.7%の減少、通年で日 量 14 万バレル減といった程度にとどまり、当初、日量 30 万バレル減という OPEC との約束は履 行できていない。これは、実際の減産が容易でないことを示している。 よって、2016 年における減産の議論でも、ロシアにとっては、増産凍結というのは最も現実的 な対応であると思われる。 (了) – 17 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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