欧州 ~英国とEUの未来を占う国民投票が近づく

内外経済ウォッチ
欧州 ~英国とEUの未来を占う国民投票が近づく~
経済調査部 主席エコノミスト 田中
英国で高まる反EU機運
離脱の波紋は日本企業にも
英国が欧州連合
(EU)
に残留するか、離脱するかの是
世論調査では残留派と離脱派が拮抗しているが、昨夏
非を問う国民投票を6月23日に行うことが決まった。英国
に欧州で難民危機が深刻化して以来、離脱派の勢いがや
はEU加盟国でありながら、
これまで欧州統合から微妙な
や増している。態度を決めかねている有権者も多く、投票
距離を保ってきた。EUの共通通貨ユーロを採用せず、域
の行方は予断を許さない。
内の移動の自由を定めたシェンゲン協定も批准していな
万が一、
国民投票で離脱票が上回った場合も、
英国がす
い。日本からEU加盟国に旅行すると、一度EU内に入れば
ぐさまEUから離脱する訳ではない。他のEU加盟国との間
その後は入国管理が必要ない。
ドイツ、
フランス、イタリ
で、
離脱手続きや離脱後の英EU関係を協議し、
合意のう
ア、スペインを順に回っても、パスポートに押される入国
えで離脱することになる。協議期限は2年以内と定められ
スタンプは1つだ。ところが、
ドイツから英国に向かうと再
ているが、
これも合意に基づき延長することが可能だ。
度入管手続きが必要となる。ロンドンのヒースロー空港で
英国がEUを離脱した場合、
①関税や非関税障壁など単
「UK Border Controls」
と書かれた看板の前の長蛇の列
一市場のメリットを失う、
②EU内の進出拠点としての英国
内外経済ウォッチ
にうんざりした経験がある読者もいることだろう。
の魅力が薄れる、
③ロンドンの金融街
「シティ」
がEUの金
英国民のEUに対する不信感はサッチャー政権時代に
融センターとしての地位を失う、
④親EU派が多いスコット
高まったとされる。サッチャー政権は大胆な民営化と規制
ランドで独立気運が再燃し、
英国の分裂リスクを高めるな
緩和を推し進め、EUを無駄な規制を押し付ける非効率な
どの影響が懸念される。離脱後もEUとの間で何らかの自
官僚組織として目の敵にした。さらに近年では、①新たに
由貿易協定を結ぶとみられ、
金融業の空洞化が一気に進
EUに加盟した中東欧諸国から英国への移民が急増し、
む可能性は低い。だが、
投票結果が離脱となれば、
英国や
様々な社会的な軋轢が生まれていることや、②欧州債務
EUの将来に対する不安が広がり、
金融市場に衝撃が走る
危機を克服する過程で統合強化の動きが一段と加速した
ことは避けられない。日本企業にとって英国は欧州で最大
ことも、英国民の反EU機運を高めている。
の進出先の1つで、
国民投票の行方から目が離せない。
資料1 「あなたはEUを信頼していますか?」
資料2 英国のEU残留/離脱の世論調査
「どちらかと言えば信頼している」
と答えた割合
(出所)
欧州委員会資料より第一生命経済研究所が作成
7
理(たなか おさむ)
第一生命経済研レポート 2016.04
(出所)
YouGov資料より第一生命経済研究所が作成