「サッカー観戦」と

内外経済ウォッチ
欧州 ~
「天気」
と
「サッカー観戦」
と
「英国民投票」
~
経済調査部 主席エコノミスト 田中
国民投票を左右する態度保留者
内外経済ウォッチ
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理(たなか おさむ)
投票日には音楽祭やサッカー大会
いま英国民にとって最大の関心事と言えば、同国が欧
投票日には2つの大きな催し事がある。1つは6月22日
州連合
(EU)
にとどまるか、離脱するかの是非を問う国民
から26日に英国南西部で行なわれるグラストンベリー音
投票の行方だろう。キャメロン首相が率いる残留派、EU
楽祭だ。日本でも若者を中心にフジロックフェスティバル
懐疑論者が率いる離脱派の双方が、6月23日の国民投票
などが人気だが、そのモデルとなった世界最大の野外
での自陣営への投票を呼びかけている。連日のように発
ロック・フェスで、毎年15万人以上の集客を誇る。恐らくリ
表される世論調査は拮抗している。残留支持が上回るも
ベラルな若者
(残留支持)
が多く参加する音楽祭は、
ロン
のもあれば、離脱支持が上回るものもあり、デッドヒート
ドンから車や電車で3~4時間の田園地帯で催される。
を繰り広げている。
フェス会場から投票所へ梯子することも可能だが、毎年
ただ、
スコットランドの住民投票や前回総選挙での投票
フェスに行く同僚に聞いてみたところ、
「 汗まみれで歌っ
結果が、事前の世論調査と大きく食い違ったこともあり、
て踊った後に投票所に行く気力はないかもしれない」
との
世論調査の信頼性を疑問視する声も聞かれる。そこで注
答えが 返ってきた。昨 年 の 総 選 挙での 投 票 者 数は約
目を集めているのが、ブックメーカーの賭け率(オッズ)
3,000万人。フェスの参加人数は有権者の0.5%程度に
だ。英国は賭け事好きな国民性で知られるが、国民投票
相当する。それほど大きい訳ではないが、世論調査が拮
の行方も賭けの対象となっている。オッズから計算した確
抗しているだけに無視はできない。勿論、
フェス参加者の
率は
「残留」
が
「離脱」
を大きく上回っている。
全員が英国民ではないだろうし、英国にも不在者投票制
投票の行方を左右しそうなのが、
まだ態度を決めかね
度があることは付け加えておこう。
ている有権者の動向だ。スコットランドの住民投票では態
投票日は6月10日から7月10日にフランスのパリ郊外
度保留者の多くが
「残留」
という無難な結果を選んだ。そ
で開催される
「ユーロ2016」
サッカー大会とも重なる。
のため、投票率が上がり、
より多くの態度保留者が投票所
サッカー発祥国の特権で、連邦構成国が独自に代表を出
に足を運んだ方が、残留派に有利に働くと考えられてい
すことが認められている英国では、イングランド、
ウェー
る。ただ、英国で投票率が低いのは一般に若年層と労働
ルズ、北アイルランドの3チームが予選を突破して本選に
者階級だ。若年層は残留支持が多く、労働者階級は離脱
参加する。3月のテストマッチで前回ワールドカップ覇者
支持が多い。投票率が上がってどちらに有利に働くかは、
のドイツを撃破するなど上り調子のイングランド、近年急
正直なところ分からない。
躍進しダークホースと目されるウェールズの活躍に期待
投票率が高くなるかは、当日の天候や投票期間中の催
が集まっている。ちなみに、投票当日に試合はない。サッ
し事にも左右されそうだ。とある民間気象予報会社のサ
カー観戦に釘付けとなり、投票所に足が運べない事態は
イトで投票日のロンドンの天気予報を確認したところ、
避けられそうだ。ただ、投票日は予選リーグが終了した翌
「曇りときどき雨・雷に注意」
とある
(執筆時点)
。ロンドンっ
日。まさかの予選リーグ敗退で、失意の余りパブでヤケ酒
子はにわか雨には慣れっこだろうが、雷で外出を手控える
をあおり、投票所にいけないフーリガンもいるかもしれな
かは筆者の知るところではない。
い!
?さて注目の投票の行方はいかに。
第一生命経済研レポート 2016.05