堺市教育委員会 教育センター 導入事例

堺市教育委員会 教育センター
教員用タブレット端末を全小学校に整備し
大型デジタルテレビと組み合わせた
効果的な学習環境【堺スタイル】
を確立
導入の狙い
最新のICT機器を使って授業の改善
を図りたい
タブレット端末を活用した効果的な
授業スタイルを確立したい
導入システム
タブレット端末
(Windows8.1搭載)
タブレット対応授業支援ソフトウェア
『SKYMENU Class』
画像伝送対応無線LANアクセスポイント
『SX-ND-4350WAN』
導入効果
机間指導を行いながらICT活用が可
能となった
PC操作が苦手な教員でも、簡単に取
り扱えるようになった
調査では全授業の52%でタブレット
端末が活用されている
授業改善を促進するきっかけとなった
—USER
P R O F I L E ———————————————————
堺市教育委員会 教育センター
●業種:教育
●事業内容:堺市立の幼稚園、小・中学校、
高等学校などの教員研修、科学教育や
情報教育の推進、教育相談、適応指導
教室の運営など
●職員数:約80名
(2014年9月現在)
教員用タブレット端末を、堺市内の全ての小学校
に整備した堺市教育委員会 教育センター
2014年9月取材
堺市立深井西小学校の小笹 雅章先生による授業風景。教育現場へのICT環境整備に取り組み、独自の【堺スタイル】
を確立した
堺市教育委員会 教育センターは、教育現場のICT環境の整備に積極的に取り組
んでいる。2014年1月には、教員が指導用に使うタブレット端末を、堺市内全て
の小学校の普通教室に1台ずつ、合計1,500台を整備した。これにより、タブレッ
ト端末と大型デジタルテレビを組み合わせた【堺スタイル】
と呼ばれる効果的な学
習環境が整い、大きな成果を上げている。特筆すべき点は、導入するシステムを
ベンダー任せにせず、教育現場に最適な製品仕様を自分たちで定め、主体的に取
り組んだことだ。その先進的な取り組みを、詳しく紹介したい。
文部科学省の指針に基づき
授業と校務のICT化を推進
クションがあり、それぞれ専門的な立
場から各学校園をサポートしている。
こ のうち 、情 報 教 育 グ ル ー プ は
堺市教育委員会 教育センターは、
2004年に発足。文部科学省の学校
堺市内の幼稚園や小・中学校、高等学
教育におけるI C T活用の指針に基づ
校に勤務する教員の研修を一手に担っ
き、授業と校務のICT化を同時並行で
ている。さらに、教育センターの中に
進めている。2005年から、堺市内の
は研修グループのほかに、科学教育グ
校内LANの整備に本格的に着手。そ
ループ、教育相談グループ、情報教育
の後、2010年に国のスクール・ニュー
グループ、適応指導教室など複数のセ
ディール政策により、教育現場のICT
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堺市教育委員会 教育センター
整備に特別財源が計上されることに
市の方針を考えていった。
なった。これを受け、市内の全校に校
「本来、ICTは授業の効果を高める
内LANを一気に整備。さらに校務用・
ためのツールです。ところが、子ども
教育用ノートPC、大型デジタルテレビ
たちにタブレット端末を持たせると、
などを多くの学校に導入した。特に小
その活用方法を教えるための授業に
学校では、全ての普通教室に大型デジ
なりがちです。それでは、本来の目的
タルテレビを設置し、そこに教員が使
を果たせないのではないかと感じた
用するノートP Cの画面を映し出すこ
のです」
と藤本氏は語る。
とで効果的な授業を行うことができる
そこで、堺市は発想を転換し、タブ
環境を整えた。
レット端末を子どもではなく教員に活
「教員からは、ノートPCの教材を大
用してもらうことで、授業をより円滑
型デジタルテレビに映すと、子どもた
に行うことができる環境を整備しよう
ちの集中力が高まり、授業内容を理解
と考えた。
しやすくなるという意見が数多く寄せ
例えば、ノートPCを授業で活用して
られました。授業中によそ見をしてい
いたときは、電源ケーブルやLANケー
る子どもも、テレビをつければ自然と
ブ ル 、さらに大 型デジタ ルテレビと
目が向くからです」と総括指導主事の
接続するためのVGAケーブルなどを
藤本 慎也氏は語る。
ノートP Cにつなげておく必要があっ
ところが、一定の効果はあるもの
たので、事前準備に手間がかかってい
の、全校に浸透するまでにはいたらず、
た。その上、教員はノートPCを操作す
I C T活用に熱心な一部の教員の利用
るために教卓から離れることができな
にとどまっていた。その理由の一つは、
いので、子どもに寄り添って指導する
ノートPCはマウスとキーボード操作が
授業スタイルにそぐわなかった。
中心なので、操作に集中してしまうと、
しかし、ノートP Cをタブレット端末
子どもたちに話しかけながら授業を円
に置き換えれば、従来の課題は一挙に
滑に進めていくことが難しいからだ。
解消可能になる。堺市は、その点にい
そうした中、タブレット端末が世の中
ち早く着目した。
に普及し始め、国や自治体の中でタブ
「タブレット端末はケーブルレスで
レット端末を活用する動きが徐々に出
手軽に持ち歩けるため、教員は教室内
てきた。そこで、堺市では、教育現場
を自由に移動しながら、子どもに寄り
にタブレット端末を導入する利点など
添った授業が行えます。例えば、授業
を分析し、新たなICT整備の方針を打
で疑問をもっている子どもがいたら、
ち出すことにしたのだ。
その子どものそばに行って、タブレット
端末の教材を見せながら個別に指導
することもできます。また、カメラ機能
教員用タブレット端末で
従来のICT整備の課題を解消
を使って子どものノートを撮影し、そ
近隣の自治体では、タブレット端末
みんなでディスカッションすることも
を子ども一人一台環境の整備を進め
可能です」
と藤本氏は語る。
るという方針が明らかとなる中で、本
タブレット端末は起動時間が短いの
れを大型デジタルテレビに表示して、
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総括指導主事
藤本 慎也氏
「以前は、教員が黒板に文字を書いて授
業を進めていました。しかし、タブレット端末
上にある教材を大型デジタルテレビに映せ
ば、その無駄な時間が省けます。その分、
子どもたちと向き合う時間が増えるので効
果は大きいですね」
情報教育グループ 主任指導主事 浦 嘉太郎氏
「タブレット端末は持ち運びに便利な反面、
床などに落として壊れてしまうケースも起こ
り得るので、そうしたときに、大塚商会さん
に迅速に対応してもらえるとありがたいで
す。また、授業改善に役立つ情報提供に
も期待しています」
で、いつでもすぐに利用できる即効性
その後、具体的な製品選びを行い、
があり、操作も指だけで簡単に行える
モデル校に試験的に導入して試した。
ので、PC操作に不慣れな教員でも手
しかし、既存の製品だけで 【堺スタイ
軽に扱える利点もある。
ル】を実現することは困難であること
堺市では、数多くのメリットをもたら
が分かってくる。そうした中、
【堺スタ
すタブレット端末と大型デジタルテレ
イル】の要件を100%満たすもので
ビを組み合わせた授業形態を【堺スタ
はないが、それに近い製品と巡り合う。
イル】
と名付け、市内の全ての小学校
その一つが、サイレックス・テクノロ
へ水平展開することにしたのだ。
ジー社製の画像伝送対応の無線LAN
アクセスポイントだ。この製品は、もと
情報教育グループ 指導主事 小門 伸城氏
「現在進めている研究授業では、タブレット
端末は決して特殊なツールではなく、どの先
生でも手軽に扱えることがあらためて実証さ
れました。今後は、具体的な活用事例を増
やしながら、授業の質の向上に役立ててい
きます」
【堺スタイル】
は、いつでもすぐに使える即効性や、PC
操作に不慣れな教員でも手軽に扱えるなど、本当に
必要なICT環境を具現化することに成功している
自らICT機器の仕様を定め
【堺スタイル】の実現を目指す
もと工場の機械を遠隔制御するため
に作られたものだが、遅延の問題など
を改善すれば、教育現場でも十分活用
堺市では、
【堺スタイル】
を具現化す
できると考えたのである。そこで、サ
るために、実際の教室での活用シーン
イレックス社に堺市の要望を伝え、
【堺
をイメージしながら、必要とされるICT
スタイル】の要件を満たす製品につい
機器の製品仕様を詰めていった。これ
て相談した。
までにない活用方法だったので、自分
もう一つ、堺市が着目したのが、Sky
たちで主体的に活用シーンにあわせ
社製のタブレット対応授業支援ソフト
た仕様を考えた。
ウェア
『SKYMENU Class』である。
例えば、タブレット端末の画像を大
もともと堺市で活用していた実績があ
型デジタルテレビに転送するための無
り、ちょうどバージョンアップを検討し
線装置には、次のことが必須条件だっ
ている時期だった。そのタイミングに
た。①タブレット端末側に外付けのデ
堺市の要望を伝え、データを校内クラ
バイスを装着する必要がないこと、②
ウド上に保存できる機能を新バージョ
ほかの教室の無線装置と電波干渉が
ンに付加してもらうことにしたのだ。
生じないこと、③タブレット端末の画
このような経緯のもと、
【堺スタイ
像を遅延なく転送できること。
ル】を具現化するために必要なICT機
タブレット端末で活用する授業支援
器の設置や構築作業を、トータルにサ
ソフトウェアについては、特にデータ
ポートできるベンダーを入札で選定。
の取り扱いがポイントだった。堺市で
そのベンダーを通じて、サイレックス
は、セキュリティ上の観点からデータを
社とS k y社が新規に開発する製品を
ローカルに保存しないというルールを
調達することになった。その際、ベン
定めている。そのため、第三者がアクセ
ダーの1社に選ばれたのが、教育分野
スできない校内クラウド上にデータを
のI C T整備で豊富な実績のある大塚
保存できるものが必要だった。
商会だった。
また、タブレット端末については、デ
【 堺スタイル 】の構築プロジェクト
ジタル教科書が利用できるWindows
は2013年9月から本格的にスター
ベースのものを採用する方針を固め
トしたが、そのスケジュールはかなり
ていた。
タイトだった。というのも、堺市では、
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堺市教育委員会 教育センター
2014年1月から市内の全小学校で
ました」
と情報教育グループ 指導主事
一斉に運用を開始する計画を立てて
の小門 伸城氏は語る。
いたので、実質的な構築期間はわず
さらに、2014年1月に【堺スタイ
か4カ月しかなかったのだ。その間、
ル】の環境整備が終了した直後、全学
メーカーは新製品の製造を急ピッチで
校に
『SKYMENU Class』のインス
進めなければならない。また、タブレッ
トラクターを派遣し、操作方法に関す
ト端末は、2013年10月にリリース
る研修も実施した。
されたWindows 8.1を搭載したもの
その結果、タブレット端末と大型デ
を合計1,500台採用する予定だった
ジタルテレビを活用した【堺スタイル】
ので、最新OS上でICT機器が正常に
が、市内に93ある小学校の教室に一
稼働するか、検証する必要もあった。
気に浸透していった。2014年6月に
「【堺スタイル】の実現に協力してく
行った教員向けのアンケート調査で
れたメーカーさんや、システム構築の
は、2日間で行った全授業の中で、タ
経験が豊富な大塚商会さんがいなけ
ブレット端末を活用した割合は52%
れば、当初の予定どおりに【堺スタイ
という、極めて高い数値を示す結果と
ル】を全校展開することはできなかっ
なった。
たと思います」
と情報教育グループ 主
「最も大きな成果は、タブレット端末
任指導主事の浦 嘉太郎氏は語る。
教員が授業においてタブレット端末を活用した割合は
52%と、非常に高い結果が出ている。現在はさらに効果
的に活用していく第2ステップに入っている
の導入が授業改善の良いきっかけに
なっていることです。例えば、この部
事前研修で教員の意識を高め
【堺スタイル】
が全校に定着
分は口頭で説明すると分かりづらいの
で、タブレット端末を使って視覚的に
説明しようとか、より分かりやすい授
堺市では、
【堺スタイル】
を定着させ
業の進め方を考える機会が増えてい
るために、教員の研修にも力を入れて
ます」
と浦氏は語る。
いる。特筆すべき点は、2013年の夏
現在は、
【堺スタイル】
を授業で効果
休み期間中に、大規模な導入前研修
的に活用する方法を検証するために、
を実施したことだ。定員20名の集合
現場の教員による研究授業も行われ
研修を39回行い、個別の校内研修な
ている。研究授業には小学校の教員
ども含めると、約1,000名の管理職
18名が参加し、学年ごとにグループ
および教員が参加している。
を組み、お互いの授業を参観して意見
「タブレット端末を先行導入したモ
交換する場も設けている。2014年
デル校のVTRなどを見てもらいなが
12月には、その研究成果を含んだ研
ら、授業中の具体的な活用シーンを分
修会を全校で実施する予定だ。
かりやすく紹介しました。すると、
『な
堺市では、もはや授業でタブレット
るほど、これは確かに便利だ』と皆さ
端末を利用するのは当たり前となって
ん納得してくれたのです。校長先生た
いる。2014年10月には支援学級・
ちの後押しもあり、若い先生からベテ
特別教室用にタブレット端末500台
ランの先生まで、たくさんの方に参加
の追加整備を行っている。現在はさら
していただき、
【堺スタイル】の導入効
に効果的に活用していく第2ステップ
果を事前に実感してもらうことができ
の段階に入っている。
堺市教育委員会 教育センターのホームページ
http://www.sakai.ed.jp/
・会社名、製品名などは、各社または各団体の商標もしくは登録商標です。
・事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものであり、配付される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。
・この記事は2014年11月に作成されました。
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