木材の吸収・散乱特性の評価

飛行時間近赤外分光法による
木材の吸収・散乱特性の評価
(名大農)◯伴麻由香 (名大院生命農)稲垣哲也 土川覚 研究概要
光源
試料
木材の品質を非破壊で保証するプロセスが不可欠である。近赤外分光法は、低コストかつ迅速に非破壊測定
が可能である。しかし、通常の近赤外分光法で得られた結果には、吸収情報の他に木材内部での光の多重
散乱による情報が含まれるため、その解析には計量化学(ケモメトリクス)的手法が用いられており、得られた
結果の分光学・物理学的解釈が曖昧となるという点が問題である。この点を解決するため、発表者らは、散乱
情報と吸収情報を独立して得ることが出来る飛行時間近赤外分光法(Time of Flight Near-­‐Infrared Spectroscopy : TOF-­‐NIRS)に着目し、各種検討を行ってきた(Ryunosuke Kitamura et al. Op$cs Express, 24, (2016))。本研究では、木材の気乾状態におけるまさ目面の透過パルス波形を測定し、波形から得られる吸
光度および半値全幅と、厚さとの関係および密度×厚さとの関係を求めた。さらに、得られた波形を拡散方程
式にフィッティングすることで、吸収係数および等価散乱係数を算出した。
受光器
図1 実験装置の概観
実験
試料は、15種類のムク板材(図2:寸法R80×T6×L150mm3)を用いた。近赤外
パルスレーザ出力装置(波長:846nm、パルス時間幅:70ps)およびストリーク
カメラ(浜松ホトニクス社製)から構成される光学系を用いて(図1)、気乾状態
の試料におけるまさ目面の透過パルス波形を、各試料3回ずつ測定した。この
測定を、厚さを変化させながら(5mm, 4mm, 3mm, 2mm)繰り返し行った。さら
に、吸光度および半値全幅は下記式より算出した。吸収係数および等価散乱
係数は、輸送方程式から導出された、均一物質で成立する下記パターソンの
式にフィッティングすることによって算出した(PaPerson et al. Applied op$cs, 28, 図2 測定試料
(1989))。
パターソンの式
結果
理論波形
*実測波形 図3 フィッティング波形 T(d,t):時間分解光強度 d:試料厚さ t:時間 c:試料中の光速 μa :吸収係数 μs’:等価散乱係数
吸光度 木材内部での吸収現象に依存
吸収係数・等価散乱係数の算出
I:透過光出力
I0:リファレンス光出力
吸光度と厚さに線形関係が認められた
→Lambert-­‐Beer則が成立している。
半値全幅 木材内部での散乱現象に依存
図6 吸収係数および等価散乱係数と密度の関係
Df : 透過光の半値全幅 Rf : リファレンス光の半値全幅
半値全幅と厚さに線形関係が認められた
→物質内部で散乱が生じている。
図4 吸光度・半値全幅と厚さの関係
A = εcd
c : 密度 A : 吸光度
ε : 吸収係数 d : 光路長
Lambert-­‐Beer則 透過パルス波形から算出された吸光度お
よび半値全幅と試料厚さの関係を図4に示
す(赤:針葉樹、青:広葉樹散孔材、黒:広
葉樹環孔材)。吸光度および半値全幅は、
厚さと線形であることが確認できた。すな
わちLambert-­‐Beer則が成立していること
図5 吸光度と密度×厚さの関係 を示している。Lambert-­‐Beer則は散乱が 生じないことを前提として定式化されているが、同一樹種では散乱によ
る影響が一様であるため同式で近似することが可能となった(図4)。さ
らにLambert-­‐Beer則より、吸光度は試料の厚さおよび密度の両方と線
形関係を持つと予測される。そこで図5に、全ての樹種および厚さにお
ける、吸光度と密度×厚さの関係を示す。異なる樹種間では、樹種特異
的な組織構造由来の散乱情報が吸光度に加味され、Lambert-­‐Beer則で近
似できず、ばらつきが生じた。これらの結果より、パルス波形には吸収情報
の他に、組織構造に由来する散乱情報が反映されることが示され、本手法
による樹種判定法およびCT法への適応可能性が示された。
図6に、厚さ2mmにおける15樹種の吸収係数および等価散乱係
数と密度の関係を示す(赤:針葉樹、青:広葉樹散孔材、黒:広
葉樹環孔材)。吸収係数および等価散乱係数は、密度と正の相
関関係であった。木材の化学成分構成比率は、樹種間で当該
波長の光学特性に影響を与える程大きく異ならないため、化学
成分に由来する吸収および散乱現象は、異なる樹種間におい
ても密度と線形関係になると予測される。図6でみられるばらつ
きが生じた原因として、樹種ごとの組織構造の差が考えられる。
また、ゴムノキとアユースの2樹種の等価散乱係数は回帰線か
ら大きく外れた。この2樹種は組織構造が類似しているため、組
織構造が等価散乱係数にも大きな影響を及ぼしていると考えら
れる。 今後、試料断面の顕微鏡写真から空隙率、細胞直径や配列の
周期性などの組織構造を解析することにより、これらの違いが
吸収係数および等価散乱係数へ及ぼす影響を把握することを
試みる。これにより、本手法を用いた非破壊測定で算出された
吸収係数、等価散乱係数および組織構造の影響を評価するこ
とによって、木材の樹種判定法やCT法への展開が期待される。
広葉樹(散孔材)
針葉樹
広葉樹(環孔材)
0 1mm
アローカリア
スギ
図7 顕微鏡写真
バルサ
ゴムノキ キリ
タモ