Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
くりこみ理論の回顧と展望(追悼講演,基礎物理学研究所
の将来と物理学,基研シンポジウム)
宮本, 米二
物性研究 (1980), 34(2): 148-157
1980-05-20
http://hdl.handle.net/2433/90112
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
宮本 米二
く りこみ理論 の回顧 と展 望
筑波大
§1
宮
本
米
くりこみ理論 の誕 生 の思 い出
1944年 の秋 ,空襲 のかな り激 しくなって きた頃, 大学 3年 のゼ ミのテーマ を定 め るこ とにな り,夏 に
朝 永 先生 の講義 を聞 い て深 い感銘 を うけ ていた こ とと, かね がね素粒 子論 をや りたい と思 ってい ま した の
で,騰 曙 な く朝 永 先生 のゼ ミに参 加 させ て頂 くこ とをきめ ま した。仲 間 に故 木庭 さん,早 川 幸 男 さん,宿
田博 さんがい ま した。 この年 か ら東 大 の講 師 にな られ た先生 の指 導 を うけ る機 会 を得 た こ とは大変幸運 だ
った と思 い ます。 ゼ ミは大 変活 気 のあ る もので,我 々の愚 問 に も先生 の明 解適切 な答 を直 ちに得 るこ とが
出来, 我 々の勉 強意欲 は大 い にか りたて られ ま した。
He
i
t
l
e
rの福射 場 の量 子論 を教 科書 と して用 い,場
の理 論 の面 白 さ を教 えて頂 い たわ けで す。空襲 が次 第 に激 し くな り, ゼ ミも思 うに まかせ ず, や がて終 戦
をむか え ま した。
終 戦 当時,東京 は焼 野原 にな りま したが, 2, 3ケ月 もす ると, また勉 強 す る意欲 が少 しず っ戻 って参
りま した。一度 ゼ ミを して頂 い て, そ の ご指 導 に よ り, 木庭 さん,早川 さん と私 とで超 多時 間理 論 ,
Di
r
a
c
,
Foc
k,Podol
s
ky の多時 間理論 のゼ ミを数 回行 い ま した。
1.
1 超 多 時間理論 の具体化
1943年湯川 先生 の Di
r
a
cの一般 変換 関数 の議 論 に基 づい た, きわめ て野心 的 な場 の理論 が提 出 され た
ので すが,朝永 先生 は従 来の場 の理論 の枠 内 で,湯川 先生 のアイデ ア を定式化 の可能性 を追求 されて超 多
時間形式 を発 見 され ま した。
iHI(-yZ・tト
HI
♂
乙尤 盲
丁
(
1
)
)W -0
は場 の相互 作用 のハ ミル トニ ア ン。
湯川先生 の理論 は任意 の (四 次元 内 の )曲面上 での力学 変数 を観測 する確率 振 巾 を考 察 す るの に対 して
超 多時 間形式 は, 常 に空 間的 曲面 上 の確 率振 巾 を考 察 します。
く
湯 川型
=
超 多時間形式
図 1. 一般 変換 関数 の タイプ
-148-
追悼講演
場 の理論 の相対論 的不変性 の証 明 がきわめて複雑 だ った ものが,超 多時間理論 によ り一 目でわかるよ う
にな りました。
1946年 4月大塚 の焼残 りの北向 きの薄汚い一室 で,超 多時間理論 を具体 化 するゼ ミが始 ま りま した。
文理 大 か ら宮島龍興 先生,伊藤 大介 さん, 田地隆夫 さん,後藤捨男 さん等 がゼ ミに加 わ りま した。最初 の
i
ht
g
問題 は多時間理論 で縦波 の消去 を相対論的 に行 うことで したa 波 数ベ ク トル たp の他 に, もう一つ 1
l
i
keベ ク トル エ p ') 及び それに直 交す る二 つ のベ ク トル e乙 を用 いて偏 りを分解 す るとい うアイデアで
られ るこ とを示 したのが私 の最初 の仕事 にな りま した。その a
ppe
ndi
xに早川 さんの制動輯討 -の応用 と
私 の電子 の自己エ ネルギーの計算 に先生 の少 し手 を加 えたのがあ ります。今読み直 してみ ます と, くりこ
み の考 えの芽生 えが既 にそ こにあるのがわ か ります。つづいて超 多時間理論 と電子 と電磁 場- の応用 が先
生 と木庭 さん, 田地 さんに よ り行 われ ま したが,前年 よ り勉 強 してい たので理解 するのに, それ程 困琴 を
感 じません で した。先生 と後藤 さんの中間子 と電磁場 - の応用 は中々難問だったのですが,電子 の場合 と
nlに 新 しい項 をっ け加 え
こ とな り, 光 円錐 の近傍 か ら寄与 があるので積分可能条件 をみ たすために, Hi
ることによ り此 の間頓 を解 決 されたの を感 心 しなが ら拝 見 してお りま した。
1
.
2 場 の反作用 のゼ ミ
1947年春 頃 か ら場 の反作用 についてのゼ ミが始 ま りま した。今 か ら考 え ると, これは先生 が考 え抜 か
れ た後 に定 め られ たプログラムであ ったよ うに思 われ ます。坂 田先生 が電子 の電磁場 に よる自己エネルギ
ー を有 限 にするため導 入 され た スカラーの C 中間子場 が,散乱間軌 こ現 われる場 の反 作用 による発散 を除
くのに果 して有効 で あるか とい うのが先生 の出 された問題 です。 ゼ ミでは散乱 問題 の場 の反作用 を非相対
ul
i
Fi
e
r
zの論文,相対論 的 に取扱 った Da
nc
of
r の論文等が紹介 された のですが,同
論 的 に取扱 った Pa
ul
omb散乱 に対 する電磁場及び
時 に木庭 さん,伊藤 さんの電子 の原 子核 による Co
C 中間子場 の反作用 の
計算 が始 りま した。現在 は計算技術 が進 んでい るので, それ程 で もないのですが, 当時は場 の反作用 の計
算 は大変困難 だったわけで,計算 が出来上 るのに数 ヶ月 もかか りま した。 このゼ ミの始 まる前後 か ら,宿
田信之 さん,南部陽一郎 さん,谷純男 さん,武 田暁 さん, 山口嘉 夫 さん,藤本 陽一 さん,木下東一郎 さん
がゼ ミに参加 され, ゼ ミは大変活 気 を呈 して参 りま した。
電子 の電磁場 による自己エ ネルギーの発散 を如何 に解 決 す るか とい う問題 は,外国 で も大 きな問題 だっ
たわけで,一つには場 の反作用 をすべて無視 す るとい う He
i
t
l
e
rの考 えがあ りま した。Be
t
heと Oppe
n-
he
i
me
r は赤外発散 を救 うのに場 の反作用 を考慮 に入れ るこ とが必 要 であ る ことを理 由に He
i
t
l
e
rの考 え
に反対 してお ります。
1
.
3 La
mb Shi
f
tとく りこみ理論 の発 見
mb によ る水素原子 の 2Sl
/
2 と 2Pl
/
2の準位 のず れ の
場 の反作用 の問題解 決 の端緒 を与 えたのは La
発 見であ ります。 1947年 10月, それ に対 す る Be
t
he の理 論 のコ ピーが手 に入 りま した。
Di
r
a
c理 論 に よ る と本 来縮 退 してい る筈 の 2Sl
/
2と 2Pl
/
2状態 の準位 がずれ るのは,水素原 子 に束
* )
R2-L2-0 (RL)-1 (ReL)-(Lei)-0 e
ヱ
C- 1
-149-
宮本 米二
縛 してい る電 子 が仮 想光子 を放 出吸収 するこ とによ る束縛状 態 の 自己エ ネルギーに起 因 す る と考 えま した。
t
he は数値 計算 に よ り束縛状態 の 自己エ ネルギーか ら自由電子 の自己エ ネルギー を差 引 くと,
さ らに Be
2Sl
/2 と 2Pl
/2 の エ ネルギー準位 のずれ の実験値 にかな り近 い値 1
000MC が得 られる こ とを示 しま し
た。 ただ し彼 の計算 は 自己エ ネル ギー の発散 を有 限 にす るために,仮想 光子 の運動量積 分 を電子 の質量 で
切 断 してい るのですが,恐 らく相対論的 に きちん と計算 をすれば,積 分 は切断 しない で も有限 な値 が得 ら
れ るだ ろ うと Be
t
l
l
e は予想 してお ります。 この Be
t
l
l
e の論文 に刺激 され て,田地 さん と朝永先生 は,
非相対論近似 で接 触 変換 の方法 を用 いて, Be
t
he の計算 をや り直 し詳 しく分析 した結果 , く りこみ の考
えに到達 され まr
した。 く りこみ の考 え方 は 自由電子 の自己エ ネルギー を裸 の質量 に加 えた観測 質量 で色 々
な物理量 を計算 す るのですが, 計算 の途 中に現わ れ る自己エ ネルギTは引去 ってお くとい うものです。 こ
のこ とは 11月 の京 都 の学会 で発表 され ま した。南部 さん も似 た様 な考 え を発表 した ので, つづいて南部
さんの数式 を書 いた ビラ を借用 して, 先生 が話 をされた こ とを思 い起 され ます。水素原 子の準位 のずれ を
相対論 的 に計算 す るのに,木庭 さん,伊藤 さん の計算 と似 た方法 を使 え るわ けですが, ここで先生 は超 多
時間理論 を場 の反作用 の問題 に応用 す るこ とを考 えつかれ ま した。 このや り方 で木 庭 さん伊 藤 さん の計
算 を見直 してみ ます と, どうも見落 しがあ るのでは ないか とい うこ とに気 が付 かれ,木庭 さん,伊藤 さん
が自分達 の計算 をや り直 してみ ます と, く りこみ の考 えのみ な らず, C中間子場 の方法 で も散乱 問題 の場
の反 作用 によ る発散 が取 除 け るこ とがわか ったわ けです。その年 の大晦 日に木庭 さんか ら頂 いた速達 で こ
のこ とを知 り,早速 大久保 の研 究室 に行 き,お話 を伺 い ま した。 "大変 な こ とにな りま したね 〝 と申上 げ
ます と,先生 が満足 気に深 くうなず かれたこ とをつい昨 日のこ とのよ うに思 い起 され ます。 それ迄 は,場
の量 子論 は場 の反 作用 による発散 のた め, その有効性 に疑 問 が もたれ てい たわ けですが, この発 見によ り
場 の量子論 の有効性 に明 るい 見通 しが出 て来 て,水素原 子 の準位 のずれ の相対 論 的計算 も可能 に なったわ
けです。 この結果 は木庭 さん と朝永先生 の連名 で プ ログ レスの レター に発表 され ま したが, Sc
hwi
ng
e
r
も同 じよ うな レター をP
hys
.Re
v.
に発表 してい ますが,受理 の 日付 は全 く同 じ 1
2月 30日で す。
1.
4 水素原 子 の準位 のずれの計算
1948年,先生 の指導 の Fに福 田博 さん と水素原 子 のずれ の計算 を超 多時間形式 でや るこ とにな りまし
た。
(V・HI一茂
(
1
)′
)wlc]-o
Hlは電子 と電磁場 の相互作 用, Vは外場 Bと電子場 の相互作用
f
′ニ ー 乙 C やr
〟やB〟
(
1
)′に接触変換 W[C]-exp-L
Ic
d4-xHJWlc]を行 い
t
v・L/C
d
バ HI
V]一三Ic
d
x,
r dx〝l
HI[
Hl
y
v]]・A-乙
去
A- 芸Ic
dx′[
H′・H]-∂m毎
もう一度接触 変換 を行 い,
W
が得 られ ますO
l[C]- exp-乙r dx′A′w
I
[C ]
- 150-
)w llc]-0
(
2
)
追悼講演
(V。.a/dx′
[
H;V]言 ′cdx,r dx〝[
H,lH〝
+
乙
了 dx′[ A′,V
]
・・・
・・・
)
g
I
,V]
]
lc]
とな ります。第 3項 と第 4項 に Wi
c
kの or
de
r
i
ng を行 い , 1電 子に関 する部 分 を取 出 す と水素原 子の準
位 のずれが計算 出来 ます。何 分新 しい方法 な のでわか らない こ とが多 く大変苦労 しま した。は じめは相 対
論 的 計算 を目指 したので す が,成功 せず, やむ な く普通 の摂 動 に近 い方法 で, 計算 す るこ とにな りました。
形式 的 な基礎 づけについ ては,先生 自 ら鉛筆 を取 って計算 され,色 々教 えて頂 きま した。 しか し計算 は大
変面倒 で福 田 さん との計算 がなかなか合わ ず, や っと合 ったのが半 年以 上 もた ってか らです。計算 途 中で
Ne
ws
we
e
k が Sc
hwi
ng
e
r も似 た様 な計算 を してい ると報道 され て,彼 の計算 の方 が先 に出 るのでは な
いか と大変 気 をもみ ま したが,彼 も大変手 こず った様 子で, なかなか発表 されず,一応我 々 の計算 が ま と
e
t
t
e
r に して Phys
.Re
v.に発
ま り,安堵 の胸 をなでお ろ しま した。先生 は く りこみ理論 の構想 を短 い l
e
nhe
i
me
rが コメ ン トをっ けて,論文 中に述 べ られてあ る光子 の 自己エ ネルギー が零
表 され ま した が,Opp
に な らない とあ るのは, ゲー ジ共変性 と矛 盾 するこ とを指摘 され ま した。 この間題 には先生 は相 当頭 を悩
まされ てお られ る様子で したO準位 のずれ の計算 に も光子 の 自己エ ネルギー に似 た もの があ るので,我 々
の計算 について もそれ をど うするか大分議 論 しま した。 とにか く有限 の部 分 は残 してお こ うとい うこ とに
な ったので すが,残 した方 が実験 と もよ く合い,今 では我 々の計算 の結果 は一般 に認 め られてい る様 で,
ほ っと してい る次第 です。我 々の結果 は,
α Z¢2
E (2Sl
/2ト E(2Pl
/2)-蒜 こ
万コーiln
m
23
1
÷
-÷
)
+
67
n
2a3LH 2(En-E,
a)AV T
2
4 5
(
4
)
で,プ ロ グ レスに 1948年 9月 に受理 され て お ります ,Kr
ol
1
La
mbの計算 結果 と全 く一致 してお ります。
彼 らの結果 は P
l
l
yS
.Re
v.に 10月 に受 理 され てい ます。 La
mb が準位 の ずれの実験 のみ な らず,理論
的 計算 を も行 ってい る土 とには驚 か され ます。
1948年秋 , Ra
biが来 日 し,東 大で水素原 子 の準位 のずれ の実験 の話 を しま した。 その際彼 が Col
umbi
a 大学 で教 えた ことのあ る Sc
hwi
ng
e
rの論 文 の pr
e
pr
i
nt を持参 しま した。 それ を見 ます と,先生
の超 多時間理論 を借用 して, 電子 の異常磁 気能率 を巧 みに導 い てい るのに感 心 す ると ともに,私 が何度 も
試 み て出来 なか った相対 論 的 計算法 に成功 してい るのには相 当 シ ョ ックを受 け ま した。 しか し肝心 の準位
のずれ の計算結果迄 は出 てい ない のでい ささか拍 子抜 けの感 じで した。後 でわか ったこ とですが, S
c
h-
wi
ng
e
r や Fe
ynma
nの様 な相対論 的計算 では, 計算途 中に現 われ る赤外発散 を Be
t
he の計算値 でお き
ynma
nの論文 の pr
eか える点 が うま くゆ かず,進位 のずれ の計算 は成功 してお りません。 ついで, Fe
ynma
nダイア グラム の方法 といわ れ る ものを用 い て, 朝 永 先 生 や ,
pr
i
ntが 手 に 入 りま した。現 在 Fe
sc
hwi
I
l
g
e
r と重 く異 った観 点 か ら見事 に結果 を出 してい るのに皆感 心 させ られ ま した. しか し証 明 が完
全 では ないので, Op
pe
nhe
i
me
rがなかなか首 をた てに振 らなか った といわ れてい ます。 しば らくして,
Dys
on によ り朝 永先生 の方法 と Fe
ynma
nの方法 との同 等性 が証 明 され;今 日では Fe
ynma
nの方法 が
もっ ともよ く使 われ てい るこ とは よ く知 られ てい る通 りで す。
ー151-
宮本米二
光子 の 自己エ ネルギーについ ての
Opp
e
nl
l
e
i
me
rの批判以 来, かな り長 い間 "光子 の 自己エ ネルギーは
ど うもよ くわ か らない 〝とい うのが先生 の口癖 にな りま した。 それ な ら中性 パ イ中間子 の二光子崩壊 に も
同様 な こ とがあ るのでは ないか とい うわけで, 計算 した所 , 同様 に ゲー ジ不 変 と矛盾 す る項 と, 同時 に現
在
a
noma
l
y と呼 ばれ る もの を副産物 と してみつ け ましたo a
nOma
l
y項
eiJ
kAI
F,k を残 すべ きか
否 か色 々議論 があ ります が,現 在 では 7
T
O- 2γの寿 命 を説 明 す るのには残 した方 がよい こ とにな ってい
ますが, この
a
nOma
l
y項 を残 す と,擬 ベ ク トル メ ソン十)
の 2r崩壊 をい かに禁止 するかが問堰 にな りま
す 。現在 これ が ど うや ら解 決 され てい るか よ く知 りませ んo
ふ りかえってみ ます と,先生 のゼ ミや研 究 を進 め られた方向 が, あたか も水 素原 子 の順位 のずれ の実験
の出現 を予知 す るよ うに行 われ た とい うこ とは,偶然 とは言 え, 学問に対 す る深 い 見通 しに何 か天賦 の も
のがあるよ うに思 わ れ ます。
§ 2 くりこみ理 論 不遇 の時代 (1
9
50-1
9
7
0)
2.1 中間子理論 - の応 用
量 子電磁力学 に対 す る く りこみ理論 の成功 につ づい て, 当時 パ イ中間子 が加速器 で生成 された の を契機
に, く りこみ理論 が果 して中間子論 に適用 出来 るか否 かが興味 の対象 にな ったのですが,事情 はそれ程簡
単 では あ りませんで した。パ イ中間 子 と核 子 の相互 作用常 数
92
/
方 C が 可成
り大 きい ので,摂 動論 が使 え
s
o
nは く りこみ理論 に従 っ
ず,近似 をど うするか とい う難 しい問題 に直面 す る破 目に なったか らです cDy
て
7
卜N散乱 に ついて大掛 りな数値 計算 を試 み たが成功せ ず, か え って接 触 変換 によ る沢 田 さん の方法,
朝永先生 の中間結 合理論, C
he
wの理論 の方 が成功 を収 め ま した (1
9
52-3)。 これ らの理論 は何 れ も仮
想 中間子の運動量積 分 で切断 を用 いてい るので, くりこみ理論 は中間子論 に は適用 出来 ない のではない か
とい う疑 が もたれ, それがェ スカ レー トして, く りこみ理論 不信 (不遇 )の時 代が長 く続 くこ とにな りま
した。
2
.
2 く りこみ理論 の/、イゼ ンベ ル グ表示 によ る研究
しか し, そ の中 にあ って, く りこみ理論 を地道 に研 究 してい る一群 の人 々がいたこ とは注 目に価 しますO
くりこみ理論 を
r
e
nor
ma
l
i
z
e
dc
oupl
i
ngc
o
ns
t
a
ntのみ を用 いて, -イゼ ンベル グ表示 に よ る定式化 が試
み られたわ けです。私 に とって く りこみ理論 の最 初 の印象 が強烈 す ぎて,此 のよ うな考 えには思 い到 りま
せ んで した。
西 島 さん,L
e
hma
nn,S
yma
nz
i
kらの研 究 は よ く知 られ てい る ところで,梅 沢 さん,亀淵 さん,Le
hma
nn,
s
yma
nz
i
k ′7
)表示 お よび高橋 I Wa
r
dの恒等式 はそ の当時 の研 究 の成果 であ ります。
2.
3 分散式
この表示 を用 いた重要 な研究 は
Go
l
db
e
r
g
e
r,宮沢 さん らのパ イ中間子核 子散乱振 巾 の分散式 の研 究 が
あ ります。散乱振 巾 の実数部 と虚 数部 を,散乱振 巾 をェ ネルギーの複 素 関数 とみ た とき上半面 で正則 で あ
るこ とを用 い て関係 づ け る もので, この関係式 を分散式 と呼 ば れ,実験 ときわ めて良い一致 を示 してい ま
・) ∴ - 2rは
c
ol
orの 自由度 の導 入 で禁 止 で きます。
- -
1 52-
追悼講演
す。散乱振 巾 がェ ネル ギー複素平面 の上半 面 で正則 であ るこ とは c
a
us
a
l
i
t
y (作用 が光速 よ り早 く伝 わ ら
ない )が成立 してい るこ とを意味 し, くりこみ理論 が, 中間子理論 について も成立 してい るこ とを強 く暗
示 していたわけです。
2.
4
La
nda
uの批判 と Re
nor
ma
l
i
z
a
t
i
on g
r
oup
しか し他 方 で, く りこみ理論 に対 す る La
nda
uの批判 があ ,
ります。 La
nda
uの批 判 は一言 に してい うと
発散 を くりこんで,発散 をか くしお おせ た と思 って も,高エ ネル ギー散乱 を行 うと, その発散 が再 び露呈
す るとい う ものです。エ ネルギー が低 く, 大 きな波長 の光 で電 子 のまわの仮想電子陽電子対 の雲の振舞 を し
らべ ると,裸 の電荷 + まわ りの雲 を合わせ た もの をく りこんだ荷電 と して観測 しますが, エ ネル ギーが高
く,波長 が短 い光 で しらべ ると, 電子 の まわ りの雲 の中央 に局在 す る裸 の無限 大 の荷 電 のみ を観測 す るこ
とに な り, したがって再 び発散 が姿 を現 わ すこ とになるわ けです。 La
nda
uは発散 の困難 を除 くには重力
場 の影響 を考 えに入れね ば な らぬ と予想 してい ます。此 の La
nda
uの議 論 を数 学 的 に精 密 化 した の が,
Ce
l
l
-Ma
nn と Low ですO観測 する光 の波長 のかわ りに, く りこみ を行 うエ ネルギー を色 々か えた とき
e
f
f
e
c
t
i
v
ec
ha
r
g
eが どのよ うに変 るか とい うよ うに定式化 す るこ とによ り, 彼 らは
Re
nor
ma
l
i
z
a
t
i
on
g
r
oupの考 えに到 達 した わ け で す。この方法 が現 在粒 子物理 のみ な らず,物性物 理 に於い て も大 きな役
割 を演 じてい ることはよ く知 られ てい る通 りです。
2
.
5 流 れ代数 と Chi
r
a
ldyna
mi
c
s
- イゼ ンベル グ表示 の振 巾 に PCAC を仮定 した流 れ代数 の方法 によ り,低 エ ネル ギーパイ中間子, K
中間子に関 す る現 象 はよ く説 明 され てい ます。更 に現 代では c
hi
r
a
ldyna
mi
c
sと して きれい な形 で整理 さ
dr
onの現象 は c
hi
r
a
ldyna
mi
c
sに集約 され てい る とい って も過
れてい ます が,此 の時代に 見出 された ha
言 ではない と思 い ますo c
hi
r
a
ldyna
mi
c
sを dyna
mi
c
a
lに 導 き 出 すのは 可成 り難 しい未解 決 の問題 と
して残 され てお ります。
2.
6 公理 的な場 の理論
Dys
on の く りこみ 可 能 性 を証 明 した論 文 を読 む とす ぐにわか るこ とは, く りこみ理論 が, きわ めて
数学的 に完結 した体系 で あ るこ とです。古典解 析 力学 が一 つ の完結 した体系 であ るこ とと事情 が きわ めて
よ く似 ています。 く りこみ理論 を公理系 か ら再構 成 しよ うとす る数学的 な試 み が あ って も不思議 では ない
よ うに思 わ れ ます。
2.
7 素粒 子 モデ ルの発展
場 の理論 が低滞 してい る一方 で,素粒 子 のモデ ルが素晴 ら しい発 展 を とげた こ とは よ く知 られ て・、る過
りで す。
表
モデルの発展 の年代譜
1953
St
r
a
ng
e
ne
s
s
西島, Ce
l
l
-Ma
nn
1956
坂 田モデル
坂田
1958
SU(
3)群
小川 , 山 口
1964
Qua
r
k
Ce
l
l
-Ma
nn
1964
Cha
r
m qua
r
k
原 ,敬
-153-
宮本 米二
1964
SU(
6)
崎田
1965
C
OI
Qr
Ha
n,南部,宮本
1972
t
,b qua
r
k
小林,益川
か く して,次 に来 るべ き理論 の発展 の素材 は全 く整 ったこ とにな ります。
§3 く りこみ理論 の復興 (1971-
)
3
・1 We
i
nbe
r
g-Sa
l
am 理論 と Q.F.D.
南部 さんが素粒 子 の超 伝導 モデ ル を提案 され たこ とがあ ります (1
962)。 それは超 伝導 の B.C.S理論
hi
r
a
ls
ymmet
r
yの s
pont
a
ne
ous
l
y br
e
a
k
i
ngをひ き起 させて, P・C・
A・C・ を説 明 しよ
にな らって, c
うとする ものです。 この南部 さんの研 究 に示唆 を うけて s
ymme
t
r
yの s
pont
a
neous
l
y br
e
a
ki
ng を く りこ
g
g
s(可換 ゲー ジ場 1964年 )と Ki
bbl
e (非 可換 ゲー ジ場 1967年 ) に
み 可能 な形 で行 う試 み が, Hi
よ り行 われ ま した。他方 で Fe
r
mi 以来,電磁場 と弱 い相 互作用 を統 一 しよ うとい うアイデ ィアが, 西欧
の物理学者 に くちづ てに伝わ って いたよ うに見受 け られ ますが, We
i
nbe
r
gと Sa
l
a
m は独 立 に Hi
g
g
s
-
Ki
bbl
e 理論 に もとづ い て, このア イデ 1ア を定式化 す るのに成功 しま した (1967). しか し, この理 論
の くりこみ可能性 の証明 はかな り難行 して, 数年後 t
'
Hoof
tが, di
me
ns
i
ona
lr
e
g
ul
a
r
i
z
a
t
i
onを用 い て,
971)。今迄 長 い間 くりこみ不 可能 と信 じられ てい た弱 い相互作
は じめてその証 明 に成功 したわ けです (1
i
nbe
r
g-Sa
l
a
m 理論 で くりこみ可能 とな り, くりこみ理論が再び脚光 を浴び るに到 りました。 We
i
n用 が we
r
k,l
ept
onに拡張 さ
be
r
g 理論 は, は じめは電子 とニ ュー トリノのみ を扱 ってい ま したが, すべ ての qua
イ
ー
F・D と呼 ばれ てい るこ とはよ く知 られ てい る通 りで す。 Hi
g
g
sスカ ラー 中間子, W-, Z 中間子
れ, Q・
i
nber
gSa
l
a
m 理論 の予言 は,すべ て実験 的 に確立 してい るよ うに思 われ ます 。
の未発 見 をのぞ けば, We
(:)
(
; )
( ニ )
Qua
r
k
( e
ye)
(
ニ
p)
(
:T)
e pt
L
on
表
W土,
Z
・A
H
iggs
Vect
orMe
s
on,Sc
a
l
a
rMe
s
on
Q.F.Dに現 わ れ る粒 子
3.
2 Q・C・D
e+pの de
e
pi
ne
l
a
s
t
i
cs
c
a
t
t
e
r
i
ngの実験 か ら,qua
r
kは高 エ ネルギー で 自由粒 子 のよ うに振舞 うこ と
os
sと Wi
l
c
z
ek は r
e
nor
ma
l
i
z
a
t
i
on g
r
oup の方法 を用 い て, c
ol
orl
oc
a
l
が知 られていた のですが, Gr
s
ympt
ot
i
cf
r
e
edom を証 明 し, 上述 の事 実が理解 出来 るこ とを示 しま した (1973)o更
g
a
ug
ef
i
e
l
dの a
l
i
t
z
e
rは e十pの de
e
pi
ne
l
a
s
t
i
cs
c
a
t
t
er
i
ngを wi
l
s
on の oper
a
t
orpr
oduc
te
xpa
ns
i
onの方法 を用
に Po
いて分析 し, きわ めてよい実験 との一致 を得 てい ます。 Q・C・Dは Q・F・D と異 な りe
xac
tl
oc
a
lg
a
ug
e
s
ymme
t
r
yを保持 します が, やは りく りこみ 可能 です。長 ら く強 い相 互作用 をや って来 た ものに とっては
ha
dr
on の相互作用 には摂動 計算 は使 えぬ もの と信 じこんでい ただけに,摂 動 計算 が有効 な Q.C.D の
出現 を, あ る種 の感慨 を もって受取 らざるを得 ません。前出 の c
l
l
i
r
a
ldyna
mi
csは, Q.C.D に対 す る
-
15 4
-
追悼講演
qua
r
ka
nt
i
qua
r
k の補 正 と して理解 され るので しょ うが, 可成 り難 しい問題 と思 い ます。 か くして, く り
こみ理論 は, Q.E.Dにつづ いて, Q.F.D と Q.C.D と,重 力 を除 い た, 現在知 られてい る素粒 子 の
すべて の相互作用 に大 きな成功 を収 めた こ とに な ります。
3
.
3
Fl
a
v
or と Col
ol
・
.Gr
and uni
f
i
c
at
i
on
orは一休 ど う異 な るのか。qua
r
kが現在未 発 見で すか ら,qua
r
kの概念 が 将 来 変 更 を う
Fl
a
vorと Col
la
vorは量 子数 と して確 立 してい ます0
け るこ とがない ともい えませ んo Lか し, それ が ど う変 ろ うと, f
ol
orは qua
r
kの存在 に強 く結 び つい てお り,quar
kの概念 とともに変わ り得 る可能性 を含んでい ます 。
-育, c
c
ol
orを支持 す る事 実 を列記 してお きます。
表
Col
orを支持 す る事実
1. 7
TO- 2γ
2
. SU(
6)による Bar
yonの 56次元 表現
3
, R- o(e+e - h'+ h-)/a(e+e - 〟+j
t)
4
. quar
kの閉 じ込 め
qua
r
k,お よび, くりこみ理論 を信 ず る立場 に立 てば, 見掛 上 の違 いに もかかわ らず, f
l
a
vorも c
ol
orも
一 つ の群 の中に一緒 に してみ よ うとい う考 えがで きるわけです。一つ の思 考実験 です が, そ の試 み は,
g
r
a
nd uni
f
i
c
a
t
i
on といわれ てい ます。更 に,将来 の高 エ ネル ギー加速器 の発 見す るすべ て の粒 子 を一 つ
r
a
nduni
f
i
c
a
t
i
onの壮 大 なプランです。
の群 に統 - す るのが g
3.
4
く りこみ理論 に限界 があ るか ?
く りこみ理論 で素粒 子論 の すべ てのこ とが理解 出来 るので あろ うか。それ とも何 か限界が あ るので あろ
うか。以下 に くりこみ理論 の限界 にな りそ うに思 われ る もの を, あげてみ ます 。
(
A) qua
r
kの閉 じ込 めが, く りこみ理論 の範 囲 で可能 か。
その可能性 を列挙 しよ う。
a. Ⅰ
nr
r
a
r
ed di
ve
r
g
e
nc
eを用 い る もの (
Cor
nwa
l
トTi
kt
opoul
ous
)
b. Ma
g
ne
t
i
cConf
i
neme
nt(
Ni
e
l
s
e
n-01
e
s
s
e
n)
at
t
i
c
ega
ug
et
heor
y(
K.G.Wi
l
s
on)
C. L
d. El
ec
t
r
i
cc
onf
i
ne
me
ntby Ma
nde
l
s
t
a
m Dua
l
i
t
y
e. I
ns
t
a
nt
on a
nd Mer
r
on
Ca
l
l
a
n,Da
s
he
n,Gr
os
s
(C), (d)が最 も注 目され てい るが,果 して Q.C.Dの範 囲 で実現 可能 で あろ うか, 未解 決 で あ りま
す。一番簡単 な解 決 は 自由 qua
r
kを発 見 するこ とであ るこ とはい うまで もあ りませ ん。
e
+p の
de
e
p
i
l
l
e
l
a
s
t
i
cs
c
at
t
e
r
i
ng の精密 な実験 か ら何 か新 しい事実 が見えて来 る可能性 もあ ります。
(
B) Hi
g
g
sSc
a
l
arは あ る か 。
日i
g
g
sSc
a
l
a
rが な く,南部 さんの超 伝導 モデルのよ うに, フェ ル ミ粒 子 と反 フェル ミ粒 子 の束 縛状
態 のよ うな ものではない か。 (例 えば最近 の寺沢 さん の議 論 ) この場 合, くりこみ理論 U)
範 囲内 で,
Q.F.D. Q.C.D を再構 成 するこ とが 可能 であろ うか。Dynami
c
a
l
l
ys
yml
l
l
et
r
y br
eaki
ng(
Cor
nwa
l
トNor
t
on)の可能 性 も見逃 しては な らない と思 い ます。
- 155 -
宮本 米二
(
C) Qu
ant
um Gr
a
vi
t
y
gr
a
nd uni
f
i
c
at
i
onのプ ログラムが上述 (
A)(
B)の条件 をみ た し, 重 力 を除 いたすべ て の素粒 子の相 互
作用 の理解 を可能 に す るのであろ うか。 さ らには重 力場 もく りこみ可能 にな し得 るのであ ろ うか。
朝永先生 は, く りこみ理論 は完全 でな く, 限界 があ る もの と考 えてお られたよ うです。最 後に くりこみ
理論 に限界 が現 われ た ときに役 に立 っ と思 われ る朝 永先生 の御言葉 を引用 して此 の話 を終 りたい と思 い ま
す。
『ぱ くぜ ん と してい ますが,僕 の考 えでは時 間空 間 は無限小 まで考 えられ ないのでは ないですか。或 いは
時 間空間 の方 の自由度 が封 じられ て くるわけです。 そ して, そ の見返 りみ たい な ものがあ る。 そ の分 だ
け別 の 自由度 であ らわれ ざるを得 ない。』
長年 にわた り色 々御指導 を頂 いた朝 永先生 に感謝 しなが ら,謹 んで先生 の御 冥福 を祈 りたい と思 います。
講演 の際, 時間 の都合上, 3.
4(
B), 3.
4(
D), 2.
5を省略 しま した。
佐藤 : あ りがとうご ざいま した。それでは御質 問があ りました ら。
敬
: 最後に見せTい ただいた朝永先生 の言葉 についてですが,同 じ趣 旨のことを基研 15
周 年 シ ンポ ジ ウム
で も発言 してお られた と思 い ます。 陸)
(
注)
「
基礎物理 学 の進展」 (基礎物 理学研 究所 15周年 シ ンポ ジ ウム 1968.10.
28-31, 理論物 理 学
刊行会, 19
69年 ) p43に朝 永先生 の コメ ン トがあ る。
「--・
ついでに私 もあい まいな こと を言 った ことがあ るんで,無限大 が出 て来 るのは ど うも時間空
間 の Cont
i
nuum で自由度 が多す ぎるか らだろ うと,自由度 が無 限にあ るとい うところか ら場 の量 子論 と
い うのは,普通 の粒子 の量子論 み たいに量 子化 して うま くゆかない 。で すか らなんか この空 間 の自由
度 を- らす必 要 があるん じゃない か。 ところが, それ を- ら十 と- らした分 だ け どこかに現 われなく
ち ゃ い けな い Oそ の現 れ が素粒 子 の数 い っぱ い出て来 た とい うこ とで は なか ろ うか と言 ったこ とが
あるんです。けれ ど も, これは ただ言 っただけで, ど うした らそ うい うことが出来 るか とい うところ
までは行 ってないんですけれ ども,ど うも私 の予言 が適 中 するん じゃ なか ろ うか と も思 う。 もし湯川理
論 が成功 すれば で すよ, で ももし成功 した ときには私 もそ う言 った こ とがあ る とい うこ とを申 し上 げ
ますか らど うぞ悪 しか らず 。」
なお, 「素粒 子 の本質 」 (武谷 ,坂 田, 中村編
の座談会 「これ か らの方向 につ いて
岩波書店 1963年 )の p31
8(朝永,坂 田, 中村
Ⅲ」 )に宮本 氏 の引用 された言葉 が出 て くる。前後 をふ くめて こ
こに再録 してお こ う。
-156-
追悼講演
「
今 の考 えの ままでは矛盾 な しにいか ない とい うこ とは確 か らしいで すね。 ですか ら, それが矛 盾
な しにいかない とい う, そ のいかな さの ところで何 かある らしい。ぱ くぜん と してい ます が僕 の考 え
では時間空 間 を無限 小 までは考 え られ ない のでは ないか。あ る意味 では時 間空 間 の万 の 自由度 が封 じ
られ て くるわ けで す。 そ してそ のはね返 りみ たい な ものがある。 その分 だけ別 の 自由度 であ らわれ ざ
るをえない-・
-0
とにか く,対応原理 とい うのは古 い理論 にあ った要素 が増 しも減 りもせ ず新 しい理論 の中に入 って
くることで しょ う。 こ うい うフ イロ ソフ イをとれば, 時間空 間 とい う自由度 をあ る小 さい とこ ろか ら
捨 てよ うとすれば,捨 てた ものがな くな っちゃ うん じゃな くて, どこかにそれに対応 す る ものが残 っ
てい る。 そ うい うものが何 か とい うこ とが新 しい 自由度 とい え るか もしれ ない。」
この座談 会 の行 われ た 日付は 1
962年 7月 31日と記 してあ る。先生 は 「あい まい」とか 「ぱ くぜん」
とか言 ってお られ るが,両者 は全 く同趣 旨 の考 えであ り,単 な るそ の場 の思 い付 きの ご発言 では ない
のであ ろ う。
川 口 : く りこみ が出来 る とい うこ とは理論 をっ くる うえで指導原理 にな りうるか ? 出来 ない理論 は ど
う考 えるのか。
宮本 : このごろの統一理 論 GUTでは どこまで もくりこみ が出来 ると考 えて,や れ るところ までや る と
い う立場 です。
中西 : 重 力場 では くりこみ が出来 ない。
宮本 : そ の場 合に,朝永先生 の言葉 が役 に立 っ か もしれ ない。
-157-