東日本大震災と生産回復のダイナミクス

ESRI Discussion Paper Series No.330
東日本大震災と生産回復のダイナミクス
乾
友彦、枝村一磨、一宮央樹
March 2016
内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものでは
ありません(問い合わせ先:https://form.cao.go.jp/esri/opinion-0002.html)
。
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研
究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究
機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し
て発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解
を示すものではありません。
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
東日本大震災と生産回復のダイナミクス
学習院大学教授、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官
科学技術・学術政策研究所研究員
東京工業大学大学院修士課程
乾友彦
枝村一磨
一宮央樹
1. はじめに
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は、日本経済・社会に大きな影響を与えた。震災につい
て、住宅や建造物に関する直接被害額の推計は数多く行われている一方で、震災後の経済のダイナ
ミクスを、被災地の地理的要因を考慮して分析する研究に関しては、今後の復興政策や被災地域の
産業政策を考える上で重要であるものの、従来研究ではほとんど行われていない。東日本大震災の
ような自然災害は予防することができず、発生した場合は経済・社会に多大な影響をもたらすため、
災害発生後の迅速な復興を促すために経済ダイナミクスの研究蓄積が急がれる。特に電気やガス等
のエネルギーや道路、鉄道、港湾等の交通、銀行等による資金供給といった経済活動における基本的
なインフラが損害を受けた時の生産活動に与える影響の研究は、自然災害による直接被害のみでは
なく、生産活動の停滞による間接被害の程度を推計するうえで重要である。
そこで本稿では、事業所の地理情報を考慮し、東日本大震災が非被災地域に立地する事業所の生
産額のダイナミクスに与える影響について、経済産業省による「生産動態統計調査」及び「企業活動
基本調査」の個票データを用いて分析を行う。生産動態統計調査の個票データを用いることで日本
の製造事業所に関する月レベル、事業所レベルの生産金額のデータを使用して、事業所の生産回復
のダイナミクスに事業所、企業の特性がどのように影響したかについて定量的な分析を行う。
本稿では、自動車・同部品製造業と半導体製造業に焦点を当てて分析を行う。日本の自動車メーカ
ーは世界でもシェアが高く、日本の基幹産業といってよい。そこで、自動車・同部品製造業に注目し
た分析を行う。また、全国に占める被災 4 県のシェアが高い製造業である半導体製造業にも注目し
て分析を行う。
2011 年の製造業における被災 4 県 1 のシェアは、
事業所数で 6.4%、
従業者数で 7.9%、
製造品出荷額でみると 6.9%である 2 。一方、半導体製造業を含む電子部品・デバイス・電子回路製
造業における被災 4 県のシェアは、事業所数で 10.1%、従業者数で 9.9%、製造品出荷額等で 8.9%
であり、事業所数、従業者数、製造品出荷額のどれをとっても製造業全体より被災 4 県のシェアが
高くなっている。製造業の中でも特に半導体製造業では震災の影響を強く受けたと考えられる。
2010 年 1-3 月期から 2012 年 10-12 月期の 2 年間における各四半期の実質 GDP(2005 年基準、
93SNA、連鎖方式)による前年比伸び率をみると(図 1 参照)
、2010 年各四半期が3%を上回り堅調
な成長率を示しているのに対して、2011 年 1-3 月は 0.0%、4-6 月期は-1.5%、7-9 月期は-0.5%
10-12 月期は 0.1%と 1 年にわたって経済成長率は低迷し(2011 年実質 GDP の成長率は-0.5%)、2012
年 1-3 月期から成長率が 3.5%に回復する。被災4件の GDP のシェアは日本全体の 6%(県民経済
計算の名目 GDP のシェア)に過ぎないが、1 年間にわたって日本経済全体の生産活動に大きな影響
を与えた。
1
2
津波の被害を特に受けた太平洋側に位置する岩手県、宮城県、福島県、茨城県を被災 4 県とした。
平成 22 年度経済センサス活動調査による。
1
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
自動車・同部品製造業と半導体製造業において、東日本大震災が日本全国に立地する事業所の生
産ダイナミクスに与えた影響を分析するため、震災前後での生産金額の変化を事業所レベル、年月
レベルで整理し、分析を行った。具体的には、各事業所と震源地との距離を算出し、事業所の生産の
回復過程と各事業所の特性、震源地までの距離の関係を分析する。
図 1 実質 GDP(2005 年基準、93SNA、連鎖方式)成長率の推移 (2010 年第 1 四半期~2012 年
第 4 四半期)
(出所) 内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算確報
分析から得られた主な結果は以下のとおりである。事業所やその本社が被災地に立地しているか
否かは、事業所の生産に影響を与えない。震源地からの距離については、震源から遠い事業所ほど回
復が早い傾向があるものの、本社の特徴をコントロールするとそのような影響は観測されなかった。
また、本社の研究開発集約度が高く、本社従業員数が多く、流動資産比率が高く、企業の事業所数が
多い企業の事業所は回復が早いことが観測された。さらに、宮城県や東京都に立地している事業所
の方が、他の県に立地している事業所よりも、生産の回復が早いことも観察された。これらの結果
は、自然災害が発生した際に、本社の生産体制がしっかりしており(ハイテク型企業、企業規模が大
きい、流動性制約が少ない、企業全体で代替取引先を確保できる)
、産業集積が進んでいる地域に立
地している事業所ほど、生産の回復が速やかに行われることを示唆している。
本稿の構成は以下のとおりである。2 節で主要な先行研究をレビューし、本稿の貢献と仮説を提示
する。3 節では、推計に使用したデータの説明を行う。4 節でモデルと推計結果を示し、考察する。
2
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
5 節で結論と政策的インプリケーションを述べる。
2. 先行研究 3
大規模な自然災害に関する被害を考察する際には、被災地の人的被害、物的被害である直接被害
に関する想定に加えて、被災地及び経済全体に与える経済的影響(所得、雇用、産業別の生産、イン
フレーション等への影響)である間接被害に関しても推計することが期待される。しかしながら、
Cavallo and Noy (2010)による自然災害の経済効果のサーベイ論文でも指摘されているように、工学等
の分野における直接被害(人的被害、作物被害、建物・構造物等のインフラへの被害)の推計に関す
る研究は進展しているものの、間接被害の推計に関する経済学的研究は限られている。Cavallo and
Noy (2010)は、間接被害の推計例として、自然災害が経済に与える影響を短期、長期に分けて分析し、
短期的には経済成長率にマイナスの効果をもたらすものが大半だとしている。ただ、どのようなチ
ャンネルを通じて経済成長にマイナスをもたらすのか、またこのマイナス効果をもたらすチャンネ
ルが一時的なものなのか、恒久的なものなのかの検討が必要であると指摘している。長期的な経済
成長に与える効果は、研究結果によって異なるが、効果を計測する上での問題点としては、災害がな
かった場合に想定される成長率と実際の成長率を比較することが困難である点である。Skidmore and
Toya (2002)は、自然災害が長期の経済成長に与える効果を分析し、災害による資本ストックの毀損
は、新設備の導入により新技術が採用され、また人的資本への投資への収益率を相対的に高めるこ
とにより人的資本の蓄積が進み、経済全体の全要素生産性の向上、経済成長の上昇することを実証
的に確認している。
Hochrainer (2009)は、災害がなかった場合に想定される GDP の成長率を時系列モデルによって求
め、災害後の現実の成長率との比較を行った。ベルギーのルーベンカトリック大学疫学災害研究所
(CRED)の自然災害に関する統計データ(EM-DAT)等を用いて 1960 年~2005 年における 225 の
自然大災害のデータを使用して、災害後の災害がなかった場合に想定される経済成長率と現実の成
長率を比較した結果、災害後から 5 年後においては現実の成長率が、災害がなかった場合に想定さ
れる経済成長率に比して概ね4パーセントポイント低くなるとの結果を得ている。Fujiki and
Hsiao(2015)は、阪神淡路大震災後の兵庫県の GDP 及び一人当たり GDP 成長率の低迷は震災の影響
よりも、兵庫県が国際競争力を失ったことによる構造変化の影響が大きい可能性があることを指摘
している。
自然災害後の被災地企業の回復過程に関するダイナミクスを分析した数少ない試みが、De Mel,
McKenzie and Woodruff (2011)、植杉他(2012)である。De Mel, McKenzie and Woodruff (2011)は、自然災
害からの企業の回復プロセスを研究した数少ない研究例の一つである。彼らはスリランカの零細企
業のデータを使用して、2004 年 12 月に起きた津波からの復興過程を研究した。この研究での重要な
発見は、被災企業の利益や資本ストックの水準は、被災を免れた企業のそれらより 3 年経ても低く、
また資金制約がこれらの企業の再建の遅れに重要な影響をもたらすことである。また、資金制約の
緩和がより効果を発揮するのは流通業であり、製造業等は資金制約が解消されてもサプライチェー
ンの寸断により回復が遅れることを指摘している。
植杉ら(2012)は、1995 年 1 月に発生した阪神淡路大震災における被災地域に立地する企業につい
3
樋口他(2012)においても、自然災害の経済的影響に関する分析がサーベイされている。
3
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
て、パネルデータを用いて分析を行っている。彼らによると、震災後の企業の倒産率は、被災地がそ
うでない地域を下回っているという。また、被災地にある金融機関との取引関係の有ることで被災
地企業の震災後の倒産確率を上昇させているという。
間接被害に関して、被災企業の被害にとどまらず、被災企業と取引のある企業に与える影響、企業
間のネットワークを通じて与える影響に関する最近の研究が進んでいる。この分野の最近の研究例
として Henriet et al. (2012)、若杉・田中(2013)、Todo, Nakajima and Matous (2015)がある。Henriet et
al. (2012)は、自然災害がネットワークを通じて与える効果の理論的モデルによる分析を行い、取引先
を絞り、在庫を少なくする近年の企業の生産体制は平時には効率的であるが、災害時にダメージが
大きくなることを示している。若杉・田中(2013)は、東北地域におけるアンケート調査を使用して、
比較的短期に復旧した事業所にとっては電力供給の寸断が大きな障害となった一方、復旧に要する
期間の長期化している事業所ほどサプライチェーンの寸断がもたらす影響が大きかったことを実証
的に明らかにした。Todo, Nakajima and Matous (2015)は、若杉・田中(2013)と同様東北地域におけ
るアンケート調査を使用して、被災地企業の回復に要した期間を分析し、取引先企業が被災地にあ
る場合は回復までの期間が長期化する傾向がある一方で、取引先企業が被災地以外にある場合には、
期間が短縮される傾向があることを見出している。
Carvalho, Nirei, and Saito (2014)は、被災地における災害を通じたショックが、サプライチェーンを
通じて伝播するメカニズムを研究している。外生的なショックが起きた前後のパフォーマンスの差
について、ショックを受けたグループ(実験群)と受けなかったグループ(対照群)の平均差(
「差
の差」の推定法(Difference-in-differences; DID)と呼ばれる)をとることで、ショックが企業パフォー
マンスに与える効果を測定している。その結果、サプライチェーンを通じて取引企業の売り上げが
被った影響は、被災地企業を販路としていた川上企業の場合はマイナスの影響があるものの、被災
地企業から供給を受けていた川下企業の場合は影響を受けていないことが判明した。被災地企業が
退出した際には、川上、川下企業の両者にマイナスの影響がある。
Tokui, Kawasaki, and Miyagawa (2015)は、地域別産業連関表、日本生産性データベース(JIP データ
ベース)を使用して地域間の産業連関を通じての震災の影響を検証し、サプライチェーンの寸断の
被害は、GDP 比にして最大 0.41%に及ぶ可能性があると論じている。
以上のように最近は自然災害による間接被害の推計の研究の蓄積が進んでいる。本研究は、Todo,
Nakajima and Matous (2015)と同様、自然災害からの事業所の生産回復に与える要因を分析するもので
あるが、Todo, Nakajima and Matous (2015)と異なり、被災地のみならず、被被災地においてもサプラ
イチェーンの寸断の影響等により生産活動にマイナスの影響を受けたものと考え、日本全体の事業
所の回復期間に与える影響をハザード分析により検証した。
3. データ
本研究では、生産動態統計調査及び企業活動基本調査の個票データと災害救助法適用に関する情
報を用いて、事業所レベル、年月レベルのパネルデータを構築し、分析を行う。分析を行う際には一
定程度の期間が必要であることから、2009 年 1 月から 2011 年 12 月を分析期間とする。また、生産
動態統計調査に企業活動基本調査をマッチングし、本社の特性を考慮した分析も行う。
4
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3.1. 生産動態統計調査
生産動態統計調査は経済産業省の基幹統計であり、毎月対象事業所に対して鉱工業生産の動態を
調査している。調査対象は全国の鉱産物及び工業品を生産する事業所のうち有意抽出された事業所
で、調査対象事業所数は約 2 万、有効回答率は 94%である。生産動態統計調査は鉄鋼・非鉄金属・
金属製品統計、化学工業統計、機械統計等、製品別の調査で構成されている 4 。
生産動態統計調査の個票データを事業所レベル、年月レベルでパネルデータとする。個票データ
についている事業所コードと、調査年月に関する情報を用いてパネル化を行う。1 つの事業所で複数
の製品を生産している場合は、当該製品に該当するフラグを付与し、事業所レベルに集約する。パネ
ル化できたサンプル数は 515,388、事業所数は 15,176 である。
3.2. 企業活動基本調査
企業活動基本調査は 1992 年に開始された経済産業省の基幹統計である。調査対象は、該当業種の
事業所を持つ企業のうち、従業者 50 人以上かつ資本金又は出資金 3,000 万円以上の企業である。調
査対象数は 2014 年調査で約 37,025 社、回収率は 85.6%である。企業の名称や所在地に加え、従業者
数や事業所の状況、売上高、研究開発支出額等を調査している。
企業活動基本調査を企業レベル、年レベルのパネルデータに整理した上で、生産動態統計調査の
本社情報とマッチングする。生産動態統計調査と企業活動基本調査とのマッチングに必要な企業コ
ンコーダンスはないため、生産動態統計調査の本社企業名、本社所在地、本社電話番号と、企業活動
基本調査の企業名称、本社所在地、電話番号の情報を用いてマッチングを行う。結果、2009 年から
2011 年で生産動態統計調査 6,714 事業所に、企業活動基本調査の企業情報をマッチングした。
3.3. 災害救助法適用地域
災害救助法とは、
「災害に際して、国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力
の下に、応急的に、必要な救助を行い、災害にかかつた者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目
的とする」 5 法律である。災害により市町村の人口に応じた一定数以上の住宅が滅失した場合や住民
の生命・身体に危害が及ぶ場合等に、国が救助を行うという法律である。具体的には、避難所や応急
仮設住宅の設置、食品、飲料水、医療の供与等である。
本稿では、東日本大震災による災害救助法適用地域を被災地域と定義する 6 。災害救助法が適用さ
れるのは、ある程度の住宅が被災し、住民の生命に危害が及ぶまたは及ぶ可能性がある場合である。
したがって、災害救助法が適用されている地域は被害が大きく、被災地域と言える。加えて岩手、宮
城、福島 3 県沿岸部の津波被害が特に多かった地域と原発事故による影響が大きいと考えられる福
島県に焦点を当てた分析も行った。
表 1 は東日本大震災による災害救助法適用地域である。市町村単位で適用地域が定められる。
4
生産動態統計調査ではこの他に、窯業・建材統計、繊維・生活用品統計、紙・印刷・プラスチック・
ゴム製品統計、資源エネルギー統計がある。
5 災害救助法第 1 条より抜粋。
6 東京都は除く。
5
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表 1 災 害救助法適用地域(東京都を除く)
青森県
岩手県
宮城県
福島県
茨城県
栃木県
千葉県
八戸市
宮古市
上閉伊郡大槌町
九戸郡野田村
遠野市
岩手郡雫石町
紫波郡矢巾町
気仙郡住田町
仙台市
名取市
栗原市
柴田郡川崎町
宮城郡利府町
牡鹿郡女川町
伊具郡丸森町
福島市
須賀川市
南相馬市
伊達郡川俣町
耶麻郡猪苗代町
西白河郡泉崎村
石川郡石川町
田村郡三春町
双葉郡川内村
相馬郡新地町
南会津郡只見町
大沼郡金山町
水戸市
下妻市
笠間市
鹿嶋市
神栖市
東茨城郡茨城町
稲敷郡阿見町
稲敷市
宇都宮市
那須烏山市
芳賀郡市貝町
旭市
習志野市
上北郡おいらせ町
大船渡市
下閉伊郡山田町
九戸郡洋野町
一関市
岩手郡葛巻町
和賀郡西和賀町
九戸郡軽米町
石巻市
角田市
東松島市
亘理郡亘理町
黒川郡大和町
本吉郡南三陸町
黒川郡大郷町
会津若松市
喜多方市
伊達市
安達郡大玉村
河沼郡会津坂下町
西白河郡中島村
石川郡玉川村
田村郡小野町
双葉郡大熊町
相馬郡飯舘村
耶麻郡北塩原村
大沼郡昭和村
日立市
常総市
取手市
潮来市
行方市
東茨城郡大洗町
那珂市
北相馬郡利根町
小山市
さくら市
芳賀郡芳賀町
香取市
我孫子市
久慈市
下閉伊郡岩泉町
盛岡市
二戸市
岩手郡岩手町
胆沢郡金ヶ崎町
九戸郡九戸村
塩竃市
多賀城市
大崎市
亘理郡山元町
黒川郡富谷町
刈田郡七ヶ宿町
加美郡色麻町
郡山市
相馬市
本宮市
岩瀬郡鏡石町
河沼郡湯川村
西白河郡矢吹町
石川郡平田村
双葉郡広野町
双葉郡双葉町
南会津郡下郷町
耶麻郡西会津町
東白川郡塙町
土浦市
常陸太田市
牛久市
常陸大宮市
鉾田市
東茨城郡城里町
稲敷郡美浦村
陸前高田市
釜石市
下閉伊郡田野畑村 下閉伊郡普代村
花巻市
北上市
八幡平市
奥州市
岩手郡滝沢村
紫波郡紫波町
西磐井郡平泉町
東磐井郡藤沢町
二戸郡一戸町
気仙沼市
白石市
岩沼市
登米市
刈田郡蔵王町
柴田郡大河原町
宮城郡松島町
宮城郡七ヶ浜町
黒川郡大衡村
遠田郡涌谷町
柴田郡村田町
柴田郡柴田町
加美郡加美町
遠田郡美里町
いわき市
白河市
二本松市
田村市
伊達郡桑折町
伊達郡国見町
岩瀬郡天栄村
耶麻郡磐梯町
大沼郡会津美里町 西白河郡西郷村
東白河郡棚倉町
東白河郡矢祭町
石川郡浅川町
石川郡古殿町
双葉郡楢葉町
双葉郡富岡町
双葉郡浪江町
双葉郡葛尾村
南会津郡南会津町 南会津郡檜枝岐村
河沼郡柳津町
大沼郡三島町
東白川郡鮫川村
石岡市
龍ヶ崎市
高萩市
北茨城市
つくば市
ひたちなか市
かすみがうら市
桜川市
つくばみらい市
小美玉市
那珂郡東海村
久慈郡大子町
稲敷郡河内町
筑西市
真岡市
那須塩原市
塩谷郡高根沢町
山武市
浦安市
大田原市
芳賀郡益子町
那須郡那須町
山武郡九十九里町
矢板市
芳賀郡茂木町
那須郡那珂川町
千葉市美浜区
3.4. データの特徴
本節では、生産動態統計調査について、生産額の推移を被災地域およびその他の各地域について
整理する。
図 2 は、生産動態統計調査に 2008 年 9 月または 2011 年 3 月に回答しており、かつ各時点から過去 12
ヶ月分を回答している事業所の生産額を、各月ごとに平均し、その推移を見たものである。東日本大震災
によって被災地域に立地する事業所だけでなく、他の地域に立地する事業所の生産額も減少したことが
わかる。リーマンショック後も各地域で生産額の落ち込みが見られるが、東日本大震災によってリーマン
ショック直後の水準まで再び生産額が減少している。ただし、東日本大震災が事業所の生産額に与えた影
響は、リーマンショックの時とは異なる。東日本大震災後に震災直前の水準に戻るまでの期間が 6 ヶ月
6
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
未満であるのに対し、リーマンショック後にショック前の水準に戻るのは約 1 年 6 ヶ月である。東日本
大震災からの回復期間の方が、リーマンショックからの回復期間よりも圧倒的に早い 7。
図 2. 地域別生産額平均の推移
生産額平均
2000
リーマンショック
東日本大震災
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
被災事業所
北海道
東北(非被災事業所)
関東(非被災事業所)
中部
近畿
中国
四国
九州
(出所) 生産動態統計調査より筆者作成
図 3 は、生産動態統計調査に 2008 年 9 月または 2011 年 3 月に回答しており、かつ各時点から過去 12
ヶ月分を回答している事業所の生産額について、各時点から過去 12 ヶ月の変動を計算し、メディアンの
推移を見たものである 8。どの地域においても、事業所の生産額の変動は東日本大震災後に上昇している。
特に、震災の 2 ヶ月後には、被災地域に立地している事業所の生産額の変動が最も大きくなっている。
また、被災地に立地している事業所の生産額の変動は、震災 2 ヶ月後に、リーマンショック 1 年後(2009
7
この回復の速さの一因として、被害が甚大で生産動態統計に回答できない企業が除かれていることが
考えられる。ただし、本分析で使用した生産動態統計調査においては、各年の 1 月に調査対象事業所が
設定され、当該 1 年間は調査が行われる。回答がなく欠損値となっている月は、退出して回答できない
状況にあると仮定し、生産額を 0 としている。くわえて、震災後の生産額を 0 として回答している企業
も含まれている。以上より、被災による退出の影響というサンプルセレクションバイアスは小さいもの
と判断した。
8 具体的には、生産額の変動を以下のように計算している。
�
1
12
𝑡𝑡
� (𝑌𝑌𝑖𝑖𝑖𝑖 − 𝑌𝑌�𝑖𝑖𝑖𝑖 )2
𝑘𝑘=𝑡𝑡−11
ただし、𝑌𝑌𝑖𝑖𝑖𝑖 は事業所 i の t 期における生産額、𝑌𝑌�𝑖𝑖𝑖𝑖 は t-11 期から t 期までの𝑌𝑌𝑖𝑖𝑖𝑖の平均であるを示す。
7
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
年 9 月)と同等の値になっている。震災の方がリーマンショックよりも生産額の変動に短期間で影響が及
んでいることが示唆される。ただし、ショック前の水準に戻る期間についても、震災の方がリーマンショ
ックよりも短く、震災による影響は短期間で収束している。
図 3. 地域別生産額変動の推移
生産額変動
0.35
リーマンショック
東日本大震災
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
被災事業所
北海道
東北(非被災事業所)
関東(非被災事業所)
中部
近畿
中国
四国
九州
(出所) 生産動態統計調査より筆者作成
図 4 は、自動車産業に属する事業所について、生産額の変動の推移を見たものである。四国や北海道、
九州、近畿、中国地方に立地する事業所では、被災地に立地している事業所よりも生産額の変動が大きく
なっている。被災地域にある事業所だけでなく、震源から遠くに位置する九州、四国、中国、近畿地方の
事業所にも震災の影響が及んでいることがわかる。
8
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
図 4. 地域別自動車産業における生産額変動の推移
生産額変動
0.8
リーマンショック
東日本大震災
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
被災事業所
北海道
東北(非被災事業所)
関東(非被災事業所)
中部
近畿
中国
四国
九州
(出所) 生産動態統計調査より筆者作成
図 5 は、半導体素子製造業に属する事業所について、生産額の変動の推移を見たものである。震災後、
被災地だけでなく、中国地方に立地する事業所についても、生産額の変動が大きくなっている。一方、東
北地方の非被災地域や、中部地方、北海道では、変動がそれほど大きくない。また、九州や近畿地方では、
震災直後に変動は大きくなっていないものの、徐々に大きくなっており、上昇傾向にある。
9
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図 5. 地域別半導体素子製造業における生産額変動の推移
生産額変動
0.5
リーマンショック
東日本大震災
0.45
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
被災事業所
北海道
東北(非被災事業所)
関東(非被災事業所)
中部
近畿
中国
四国
九州
(出所) 生産動態統計調査より筆者作成
図 6 は、集積回路製造業に属する事業所について、生産額の変動の推移を見たものである。被災地に
ある事業所の生産額の変動が他の地域に比べて特に大きくなっている。一方、被災地を除く各地域では、
東日本大震災の方がリーマンショックよりも変動が小さい。
10
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「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
図 6. 地域別集積回路製造業における生産額変動の推移
生産額変動
0.45
リーマンショック
東日本大震災
0.4
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
被災事業所
北海道
東北(非被災事業所)
関東(非被災事業所)
中部
近畿
中国
四国
九州
(出所) 生産動態統計調査より筆者作成
以上より、東日本大震災が事業所の生産に与えた影響をデータ上で確認した。また、震災が生産に与え
る影響は地域や産業で異なっていることも示唆されている。震災が事業所の生産に与える影響をより詳
細に分析するには、事業所の立地や産業の他に、本社の被災状況や当該事業所の震源からの距離、当該事
業所の特性、本社の特性も考慮する必要がある。そこで次節では、上記の事項を考慮して、震災が事業所
の生産に与えた影響を分析する。
4. モデルと推計結果
4.1. モデル
事業所の属性や震源地からの距離が生産回復に与える影響を推定するため、生産が落ち込んでい
る状態から生産回復というイベントが起きるまでにかかる時間を用いてハザード分析を行う。回復
の定義は、事業所ごとに 2009 年 1 月から 2011 年 12 月の生産金額に対して Hodrick Prescott Filter を
適用して得られた各月の生産金額のトレンド成分の推定値を、実際の生産金額が上回ることとする 9 。
回復をどのように定義するかは様々な方法が考えられるが、Hochrainer (2009)の考え方に従って、震
災以前の生産のトレンドに復帰する時点を回復と定義した。Hodrick Prescott Filter により推計される
トレンド成分は以下の最小化問題の解として得られる。
9
このように回復を定義することは、たまたまある月に回復したことをもって回復と定義することにな
る。そこで、例えば2から3か月連続でトレンドを上回った時を回復と定義することも可能であるが、
様々の定義による推計結果の頑強性の検証は今後の課題としたい。
11
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
𝑇𝑇
𝑇𝑇 − 𝑦𝑦 𝑇𝑇 ) − (𝑦𝑦 𝑇𝑇 − 𝑦𝑦 𝑇𝑇 )]2
min �(𝑦𝑦𝑡𝑡 − 𝑦𝑦𝑡𝑡𝑇𝑇 )2 + 𝜆𝜆[(𝑦𝑦𝑡𝑡+1
𝑡𝑡
𝑡𝑡
𝑡𝑡−1
{𝑦𝑦𝑡𝑡}𝑇𝑇
𝑡𝑡=1
𝑡𝑡=1
本稿では月次データを使用するため、𝜆𝜆 = 14400とする。
本稿のハザード分析では、事業所の生産が落ち込んでいる状態を生存、回復をハザードとみなす。
時間 t まで事業所の生産が回復しない確率を表す生存関数をS(𝑡𝑡 )とする。時間 t まで生産が回復せ
ず、t+1 期に回復する確率を表すハザードℎ(𝑡𝑡|𝑋𝑋)は以下のようにかける。
𝑑𝑑�𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙 (𝑡𝑡 )�
𝑆𝑆(𝑡𝑡 ) − 𝑆𝑆 (𝑡𝑡 + ∆𝑡𝑡 ) 1
=−
∆𝑡𝑡→0
𝑑𝑑𝑑𝑑
∆𝑡𝑡
𝑆𝑆 (𝑡𝑡 )
ℎ(𝑡𝑡|𝑋𝑋) = lim
本稿では分析の頑健性を得るために、生存関数の分布を仮定しないセミパラメトリックなコック
ス比例ハザードモデルを用いた分析にくわえ、生存関数S(𝑡𝑡 )が Weibull 分布であると仮定したパラメ
トリックな分析を行う。コックス比例ハザードモデルでは時間 t 、共変量 X のときのハザードℎ(𝑡𝑡|𝑋𝑋)
を以下のように定式化する。
ℎ(𝑡𝑡|𝑋𝑋) = ℎ0 (𝑡𝑡 )exp(𝑋𝑋𝑋𝑋)
ℎ0 (𝑡𝑡)は時間 t のみに依存する基底関数であり、exp(𝑋𝑋𝑋𝑋)が回復発生確率に影響を与える事業所の属性
の関数である。コックス比例ハザードモデルの推定は基底関数を特定せずに、部分最尤法により行
われる。
生存関数S(𝑡𝑡 )が Weibull 分布であると仮定した場合、ハザードは以下のように表され、係数ベクト
ル𝛽𝛽、分布パラメータ𝑝𝑝は最尤法により推定される。
ℎ(𝑡𝑡|𝑋𝑋) = 𝜆𝜆𝜆𝜆𝑡𝑡 𝑝𝑝−1
λ = exp(𝑋𝑋𝑋𝑋)
以上の分析を二つのデータセットで行う。一つは生産動態統計調査の 2009 年 1 月から 2011 年 12 月
までを用いたデータセット、もう一つは、生産動態統計調査に企業活動基本調査より本社情報をマッチン
グさせたデータセットである。生産動態統計調査では、事業所の生産額、従業員数、業種、災害救助適用
地域に立地しているか否か、震源地からの距離
10、本社が災害救助適用地域に立地しているか否か、とい
う情報を用いる。企業活動基本調査では、本社の従業者数、研究開発集約度、本社に属する事業所の数に
関する情報を用いる。生産動態統計調査のみを用いる分析についての記述統計量は表 2、生産動態統計調
査と企業活動基本調査をマッチングさせたデータを用いる分析についての記述統計量は表 3 に整理して
いる。
10
事業所と震源地との距離は、事業所住所と震源地の GIS 情報(緯度経度)を用いて測っている。
12
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 2 生 産動態統計調査データセット記述統計量
Variable
回復時間
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
小規模事業所ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社が災害援助地域
事業所が災害救助適用地域
本社・事業所ともに災害救助適用地域
津波浸水地域ダミー
福島県ダミー
震源地からの距離(Km)
震源地からの距離(対数)
Obs
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
13482
Mean
6.03
0.03
0.01
0.01
0.16
0.70
0.14
0.30
0.04
0.09
0.04
0.00
0.03
641.19
6.34
Std. Dev.
3.95
0.17
0.08
0.07
0.37
0.46
0.35
0.46
0.20
0.29
0.20
0.06
0.16
444.87
0.49
Min
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
138.19
4.93
Max
9
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
14343.77
9.57
表 3 生 産動態統計調査と企業活動基本調査をマージさせたデータセット記述統計量
Variable
回復時間
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
小規模事業所ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社研究開発主役度
本社本店従業者数
流動資産割合
本社事業所数
本社が災害援助地域
事業所が災害救助適用地域
本社・事業所ともに災害救助適用地域
津波浸水地域ダミー
福島県ダミー
震源地からの距離(Km)
震源地からの距離(対数)
Obs
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
6714
Mean
5.41
0.04
0.01
0.01
0.07
0.71
0.22
0.25
0.02
389.86
0.56
14.20
0.04
0.10
0.04
0.00
0.03
629.27
6.33
Std. Dev.
4.07
0.20
0.11
0.09
0.25
0.45
0.41
0.43
0.03
945.54
0.17
36.53
0.19
0.30
0.19
0.07
0.16
407.37
0.48
Min
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0.04
1
0
0
0
0
0
138.19
4.93
Max
9
1
1
1
1
1
1
1
0.27
23350
1
415
1
1
1
1
1
14343.77
9.57
4.2. 推定結果
本稿では、生産動態統計調査のみ用いる推定と、生産動態統計調査と企業活動基本調査をマッチ
ングしたデータを用いる推定を行う。推定にはそれぞれ、生存関数の分布を仮定しないセミパラメ
トリックなコックス比例ハザードモデルと、生存関数の分布として Weibull を仮定したモデルを用い
る。
推定を行う際には、事業所の産業特性を考慮するため、産業ダミーをモデルに含める。特に、本稿
13
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
で焦点を当てている自動車・同部品製造業、半導体素子製造業、集積回路製造業について、産業ダミ
ーをモデルに含める。また、事業所の規模を考慮するため、事業所規模に関するダミーをモデルに含
める。中小企業基本法の定義を参考に、小規模事業所、中規模事業所、大規模事業所をそれぞれ従業者
数 20 人以下、21 人以上 300 人以下、301 人以上である事業所と定義する。推定の際には小規模事業所
をベースにし、中規模事業所、大規模事業所であれば 1 を取り、そうでなければ 0 をとるダミー変数を
分析に含める。さらに、事業所の特性として、事業所と本社が同一であり、日本に 1 カ所しかない場合に
1 を取るダミー変数(単一事業所ダミー)をモデルに含める。くわえて、事業所が立地する地域の特性を
考慮するため、立地している都道府県のダミー変数をモデルに含める。
まず、生産動態統計調査のみを用いたハザード分析の結果を示す。表 4 は生存関数の分布を仮定
しないセミパラメトリックなコックス比例ハザードモデルの推定結果であり、表 5 は生存関数の分
布に Weibull を仮定したモデルによる推定結果である。また、表 6 は事業所が災害救助地域に立地し
ているか否かのダミー変数と、小規模ダミー、産業ダミーとの交差項を含めたモデルによる推定結
果である。表 7 は事業所が津波浸水地域に立地しているか否かを考慮したモデルによる推定結果で
ある。
表 4 生産動態統計調査を用いたコックス比例ハザードモデルによる推定結果
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社が災害救助地域ダミー
(1)
1.311***
(0.0569)
0.918***
(0.190)
0.799***
(0.209)
1.070***
(0.0879)
1.729***
(0.0962)
0.550***
(0.0446)
0.0567
(0.109)
cox比例ハザードモデル
(2)
(3)
1.311*** 1.311***
(0.0569) (0.0569)
0.914*** 0.916***
(0.189)
(0.189)
0.801*** 0.800***
(0.209)
(0.209)
1.070*** 1.070***
(0.0879) (0.0879)
1.728*** 1.728***
(0.0962) (0.0962)
0.554*** 0.552***
(0.0436) (0.0446)
(4)
1.312***
(0.0570)
0.911***
(0.189)
0.804***
(0.208)
1.068***
(0.0879)
1.727***
(0.0962)
0.555***
(0.0435)
0.0365
(0.138)
事業所が災害救助地域ダミー
0.0313
(0.109)
本社・事業所ともに災害救助地域ダミー
都道府県ダミー
yes
yes
yes
0.366***
(0.142)
yes
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
10,452
10,452
10,452
10,452
距離(対数)
14
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 5 生産動態統計調査を用いて、生存関数に Weibull を仮定したモデルによる推定結果
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社が災害救助地域ダミー
(1)
1.553***
(0.0654)
1.015***
(0.225)
0.948***
(0.251)
1.102***
(0.0897)
1.815***
(0.0996)
0.581***
(0.0476)
0.0616
(0.117)
Weibull分布
(2)
(3)
1.553*** 1.553***
(0.0654) (0.0655)
1.011*** 1.013***
(0.224)
(0.224)
0.951*** 0.949***
(0.250)
(0.251)
1.102*** 1.102***
(0.0897) (0.0897)
1.814*** 1.814***
(0.0996) (0.0996)
0.586*** 0.584***
(0.0465) (0.0476)
0.0425
(0.148)
事業所が災害救助地域ダミー
0.0353
(0.117)
本社・事業所ともに災害救助地域ダミー
距離(対数)
定数項
都道府県ダミー
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
(4)
1.553***
(0.0656)
1.009***
(0.223)
0.953***
(0.250)
1.099***
(0.0897)
1.814***
(0.0996)
0.587***
(0.0465)
0.413**
(0.169)
-5.076*** -5.077*** -5.076*** -7.683***
(0.181)
(0.181)
(0.181)
(1.081)
yes
yes
yes
yes
10,452
15
10,452
10,452
10,452
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 6 生産動態統計調査を用いて、生存関数に被災地と産業ダミー、事業所規模ダミーとの交差
項を含めたモデルによる推定結果
cox比例ハザードモデル
(2)
(1)
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
事業所が災害救助地域ダミー
事業所が災害救助地域かつ
小規模事業所ダミー
1.311***
(0.0569)
0.915***
(0.189)
0.801***
(0.209)
1.081***
(0.0931)
1.739***
(0.101)
0.554***
(0.0436)
0.0330
(0.138)
1.317***
(0.0602)
0.862***
(0.233)
0.764***
(0.245)
1.069***
(0.0878)
1.727***
(0.0962)
0.555***
(0.0436)
0.0225
(0.143)
Weibull分布モデル
(4)
(3)
1.553***
(0.0654)
1.012***
(0.224)
0.951***
(0.251)
1.112***
(0.0950)
1.824***
(0.104)
0.586***
(0.0465)
0.0394
(0.148)
0.100
0.0919
(0.273)
(0.279)
事業所が災害救助地域かつ
自動車産業ダミー
事業所が災害救助地域かつ
半導体製造産業ダミー
事業所が災害救助地域かつ
半導体集積製造回路産業ダミー
-0.0295
-0.000803
(0.126)
(0.151)
0.334
0.395
(0.337)
(0.407)
0.428
0.525
(0.356)
定数項
都道府県ダミー
yes
yes
-5.086***
(0.182)
yes
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
10,452
10,452
10,452
16
1.556***
(0.0690)
0.950***
(0.271)
0.908***
(0.290)
1.100***
(0.0896)
1.813***
(0.0996)
0.587***
(0.0465)
0.0219
(0.153)
(0.426)
-5.075***
(0.181)
yes
10,452
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 7 生産動態統計調査を用いて、事業所が津波浸水地域に立地しているか否かを考慮したモデ
ルによる推定結果
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
福島県ダミー
事業所が災害救助地域かつ
津波浸水地域ダミー
事業所が災害救助地域であるが
津波浸水地域でないダミー
cox比例ハザードモデル
Weibull分布モデル
1.309***
(0.0569)
0.911***
(0.189)
0.803***
(0.208)
1.070***
(0.0878)
1.728***
(0.0962)
0.554***
(0.0435)
0.768***
(0.232)
1.551***
(0.0655)
1.008***
(0.223)
0.953***
(0.250)
1.102***
(0.0897)
1.814***
(0.0996)
0.586***
(0.0465)
0.793***
(0.246)
-0.344
-0.369
(0.365)
(0.384)
0.0394
0.0459
(0.138)
都道府県ダミー
yes
(0.148)
-5.077***
(0.181)
yes
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
10,452
10,452
定数項
生産動態統計調査のみのデータセットによる推定では、生産額が捕捉できる 13,482 事業所のう
ち 3030 事業所が 2011 年 3 月時点で回復とみなされ、推定から除外されている。推定結果はコック
ス比例ハザードモデル、生存関数に Weibull 分布を仮定したモデルともに同じような結果となった。
事業所の産業ダミーはすべてのモデルで正に有意であり、自動車産業、半導体素子製造産業、半導
体集積回路製造産業は他産業に比べ、生産回復が起きやすいという結果となった。推定された係数
は自動車産業、半導体製造産業、半導体集積回路製造産業の順に係数が大きく、特に自動車産業は急
速に生産を回復させたことがわかる。
事業所の従業員規模ダミーもすべてのモデルで正に有意であり、小規模事業所に比べ中規模事業
所、大規模事業所のほうが、回復が起きやすい。規模の大きい事業所は回復が早いことがわかる。一
方、通常は比較的小規模な事業所が多いものの、単一事業所ダミーもすべてのモデルで正に有意で
あり、本社と事業所が一体となっている事業所では回復しやすいことが示唆されている。
本社が災害救助地域ダミーと、事業所が災害救助地域ダミー、本社・事業所ともに災害救助地域ダ
ミーはすべてのモデルで有意ではなかった。事業所や本社の被災が、事業所の生産の回復に与える
17
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
影響は統計的に確認されなかったことから、被災地の立地する事業所は他の地域に立地する企業に
比して回復が早くも遅くもなく、被災地に立地する事業所は十分な経済的な支援を受けていたこと
が窺われる。
震源地からの距離の対数値に関する係数は、正に有意であった。すべてのモデルにおいて事業所
が立地する都道府県のダミー変数を含めていることから、震源地からの距離の効果を統計的に抽出
していると考えることができ、震源地から遠い事業所ほど回復しやすいことが示唆されている。
事業所が災害救助地域に立地しているか否かのダミー変数と、小規模ダミーとの交差項の係数は
有意ではない。復興支援は中小企業を対象に進められているが、大中規模の事業所に比べて小規模
事業所の回復にはある程度の時間が必要であることがうかがわれる。
事業所が災害救助地域に立地しているか否かのダミー変数と、津波浸水地域に立地しているか否
かのダミー変数との交差項の係数は有意ではない。災害救助地域に立地している事業所は、津波浸
水地域か否かによって回復に差はないことが示唆されている。
表 4 の震源地からの距離をコントロールした Cox 比例ハザードモデル(4)の結果を用いて、8 地域
(東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州)の主要都府県である宮城県、東京都、愛知県、大阪
府、広島県、香川県、福岡県の回復ハザード曲線を示したのが図 7 である。宮城県の回復ハザード
確率が時間を通じて最も高い結果となった。この理由として、震災後に政策的な援助があった可能
性が考えられる。次いで東京都が高い回復ハザード確率を示している。東京都は産業が集中してお
り、日本においてネットワークの中心であることから、生産の回復が早まったと考えられる。
18
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
図 7 主要都府県の回復ハザード曲線(生産動態統計調査のみ)
(出所) 推定結果より筆者作成
次に、生産動態統計調査と企業活動基本調査を用いて、本社の特性を考慮したハザード分析の結
果を示す。表 8 は生存関数の分布を仮定しないセミパラメトリックなコックス比例ハザードモデル
の推定結果であり、表 9 は生存関数の分布に Weibull を仮定したモデルによる推定結果である。ま
た、表 10 は事業所が災害救助地域に立地しているか否かのダミー変数と、小規模ダミー、産業ダミ
ーとの交差項を含めたモデルによる推定結果である。表 11 は事業所が津波浸水地域に立地している
か否かを考慮したモデルによる推定結果である。
19
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 8 生産動態統計調査と企業活動基本調査を用いたコックス比例ハザードモデルによる推定結果
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社研究開発集約度
本社従業員数(対数値)
流動資産割合
本社事業所数
本社が災害救助地域ダミー
(1)
1.120***
(0.0675)
0.733***
(0.233)
0.302
(0.279)
0.498***
(0.141)
0.913***
(0.146)
0.605***
(0.0628)
3.233***
(0.955)
0.120***
(0.0254)
1.253***
(0.157)
0.00121*
(0.000693)
0.0905
(0.145)
cox比例ハザードモデル
(2)
(3)
1.118*** 1.119***
(0.0676)
(0.0675)
0.730*** 0.731***
(0.232)
(0.232)
0.304
0.303
(0.279)
(0.279)
0.498*** 0.498***
(0.141)
(0.141)
0.914*** 0.913***
(0.146)
(0.146)
0.613*** 0.610***
(0.0614)
(0.0627)
3.212*** 3.220***
(0.958)
(0.956)
0.122*** 0.121***
(0.0254)
(0.0254)
1.258*** 1.256***
(0.157)
(0.157)
0.00119* 0.00120*
(0.000695) (0.000694)
(4)
1.118***
(0.0676)
0.729***
(0.231)
0.304
(0.279)
0.498***
(0.141)
0.913***
(0.146)
0.613***
(0.0614)
3.215***
(0.957)
0.122***
(0.0254)
1.258***
(0.157)
0.00118*
(0.000695)
-0.00326
(0.165)
事業所が災害救助地域ダミー
0.0352
(0.144)
本社・事業所ともに災害救助地域ダミー
都道府県ダミー
yes
yes
yes
0.0947
(0.280)
yes
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
4,890
4,890
4,890
4,890
距離(対数値)
20
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 9 生産動態統計調査と企業活動基本調査を用いて、生存関数に Weibull を仮定したモデルによる
推定結果
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社研究開発集約度
本社従業員数(対数値)
流動資産割合
本社事業所数
本社が災害救助地域ダミー
(1)
1.354***
(0.0781)
0.811***
(0.272)
0.391
(0.324)
0.537***
(0.149)
1.008***
(0.155)
0.650***
(0.0685)
3.586***
(1.062)
0.111
(0.0688)
0.127***
(0.0274)
1.348***
(0.168)
0.0840
(0.158)
Weibull分布モデル
(2)
(3)
1.352*** 1.353***
(0.0783) (0.0782)
0.809*** 0.809***
(0.271)
(0.271)
0.394
0.393
(0.323)
(0.324)
0.537*** 0.537***
(0.149)
(0.149)
1.009*** 1.009***
(0.154)
(0.155)
0.658*** 0.655***
(0.0669) (0.0684)
3.568*** 3.573***
(1.063)
(1.062)
0.116*
0.114*
(0.0679) (0.0688)
0.129*** 0.128***
(0.0274) (0.0274)
1.354*** 1.352***
(0.168)
(0.168)
-0.0112
(0.179)
事業所が災害救助地域ダミー
0.0268
(0.157)
本社・事業所ともに災害救助地域ダミー
距離(対数値)
定数項
都道府県ダミー
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
(4)
1.352***
(0.0783)
0.807***
(0.271)
0.395
(0.323)
0.536***
(0.149)
1.009***
(0.154)
0.658***
(0.0669)
3.569***
(1.063)
0.115*
(0.0679)
0.128***
(0.0275)
1.353***
(0.168)
0.102
(0.291)
-5.793*** -5.806*** -5.802*** -6.451***
(0.287)
(0.286)
(0.287)
(1.845)
yes
yes
yes
yes
4,890
4,890
21
4890
4890
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 10 生産動態統計調査と企業活動基本調査を用いて、生存関数に被災地と産業ダミー、事業所規
模ダミーとの交差項を含めたモデルによる推定結果
cox比例ハザードモデル
(1)
(2)
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社研究開発集約度
本社従業員数(対数値)
流動資産割合
本社事業所数
事業所が災害救助地域ダミー
事業所が災害救助地域かつ
小規模事業所ダミー
1.117***
(0.0675)
0.732***
(0.232)
0.305
(0.279)
0.566***
(0.154)
0.982***
(0.158)
0.613***
(0.0613)
3.235***
(0.959)
0.122***
(0.0254)
1.256***
(0.157)
0.00117*
(0.000690)
-0.0174
(0.165)
1.115***
(0.0725)
0.618**
(0.286)
0.283
(0.309)
0.495***
(0.140)
0.904***
(0.145)
0.617***
(0.0616)
3.268***
(0.952)
0.124***
(0.0254)
1.267***
(0.157)
0.00124*
(0.000685)
-0.0415
(0.170)
Weibull分布モデル
(4)
(3)
1.351***
(0.0781)
0.810***
(0.271)
0.395
(0.324)
0.612***
(0.163)
1.083***
(0.167)
0.658***
(0.0669)
3.591***
(1.065)
0.129***
(0.0274)
1.350***
(0.168)
0.00122
(0.000763)
-0.0262
(0.180)
0.455
0.502
(0.354)
(0.378)
事業所が災害救助地域かつ
自動車産業ダミー
事業所が災害救助地域かつ
半導体製造産業ダミー
事業所が災害救助地域かつ
半導体集積製造回路産業ダミー
本社事業所数
22
1.345***
(0.0836)
0.681**
(0.325)
0.375
(0.352)
0.534***
(0.149)
0.998***
(0.154)
0.663***
(0.0671)
3.618***
(1.055)
0.131***
(0.0275)
1.364***
(0.168)
0.00130*
(0.000757)
-0.0593
(0.185)
0.0561
0.0927
(0.154)
(0.182)
0.742**
0.883*
(0.368)
(0.466)
1.076**
1.360***
(0.421)
(0.478)
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
表 11 生産動態統計調査と企業活動基本調査を用いて、事業所が津波浸水地域に立地しているか
否かを考慮したモデルによる推定結果
自動車産業ダミー
半導体製造産業ダミー
半導体集積回路製造産業ダミー
中規模事業所ダミー
大規模事業所ダミー
単一事業所ダミー
本社研究開発集約度
本社従業員数(対数値)
流動資産/資産合計
本社事業所数
福島県ダミー
事業所が災害救助地域かつ
津波浸水地域ダミー
事業所が災害救助地域であるが
津波浸水地域でないダミー
cox比例ハザードモデル
Weibull分布モデル
1.114***
(0.0676)
0.727***
(0.230)
0.306
(0.278)
0.497***
(0.141)
0.913***
(0.146)
0.614***
(0.0613)
3.196***
(0.960)
0.122***
(0.0254)
1.263***
(0.157)
0.00118*
(0.000694)
3.196***
(0.960)
1.347***
(0.0784)
0.805***
(0.269)
0.397
(0.322)
0.536***
(0.149)
1.008***
(0.154)
0.659***
(0.0669)
3.544***
(1.066)
0.129***
(0.0275)
1.359***
(0.168)
0.00122
(0.000767)
3.544***
(1.066)
-0.586
-0.651
(0.474)
(0.499)
0.00134
-0.00619
(0.164)
都道府県ダミー
yes
(0.179)
-5.811***
(0.286)
yes
Observations
Robust standard errors in parentheses
*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
10,452
10,452
定数項
生産動態統計調査と企業活動基本調査がマッチされた 6714 事業所のうち、1824 事業所が 2011 年
3 月時点で回復とみなされ、推定から除外されている。各モデルで得られた係数について、コックス
比例ハザードモデルと生存関数に Weibull 分布を仮定したモデルとで同様の結果となっている。
産業ダミーは自動車産業、半導体製造産業で正に有意となり、他産業に比べ、生産が回復しやすい
という結果となった。一方、半導体集積回路製造産業ダミーは、生産動態統計調査のみを用いた推定
と異なり、有意な係数を得られなかった。事業所の規模ダミー、単一事業所ダミーの効果は正に有意
であり、生産動態統計調査のみを用いた推定と同様の結果となった。
企業活動基本調査から抽出した本社研究開発集約度、本社従業員数(対数値)、流動資産割合、本
23
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
社事業所数は正に有意となった。本社における研究開発集約度が高く、研究開発活動を積極的に行
っている企業の事業所は、生産が回復しやすいことが示唆されている。また、本社従業員数や本社事
業所数が多く、企業規模が大きい事業所も、生産が回復しやすいことが示唆されている。資金制約の
程度を示す流動資産割合の係数も有意に正であることから、流動性の高い資産を比較的多く持つ企
業の事業所において、生産が回復しやすいことが示されている。
本社が災害救助地域ダミーと、事業所が災害救助地域ダミー、本社・事業所ともに災害救助地域ダ
ミーの係数はすべて有意ではなかった。生産動態統計調査のみを用いた推定結果と同様である。本
社の特性を考慮しても、事業所や本社の被災が、事業所の生産の回復に与える影響は統計的に確認
されなかった。
震源地からの距離の対数値に関する係数は、有意でなかった。生産動態統計調査のみを用いた推
定とは異なり、本社の特性を考慮すると、震源地からの距離が事業所の生産回復に与える影響は統
計的に確認されない。
事業所が災害救助地域に立地しているか否かのダミー変数と、小規模ダミーとの交差項の係数は
有意ではない。復興支援は中小企業を対象に進められているが、大中規模の事業所に比べて小規模
事業所の回復にはある程度の時間が必要であることがうかがわれる。一方、事業所が災害救助地域
に立地し、かつ属している産業が半導体製造業または半導体集積回路製造業である場合、その係数
が正で有意であった。被災地に立地する半導体製造業または集積回路製造業は回復が起きやすいこ
とが示唆されている。
事業所が災害救助地域に立地しているか否かのダミー変数と、津波浸水地域に立地しているか否
かのダミー変数との交差項の係数は有意ではない。本社特性を考慮しても、災害救助地域に立地し
ている事業所は、津波浸水地域か否かによって回復に影響がないことが示唆されている。
生産動態統計調査のみを用いた分析と同様に、表 8 の震源地からの距離をコントロールした Cox
比例ハザードモデル(4)の結果を用いて、8 地域の主要都府県である宮城県、東京都、愛知県、大阪
府、広島県、香川県、福岡県の回復ハザード曲線を示したのが図 8 である。生産動態統計調査のみ
を用いた推定結果と同様に、宮城県や東京都の回復ハザード確率が時間を通じて高い結果となった。
本社の特性を考慮しても、震災後に政策的な援助や産業の集中が事業所の生産の回復を早める可能
性が示唆されている。
24
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
図 8 主要都府県の回復ハザード曲線(生産動態統計調査と企業活動基本調査をマッチさせたデータ)
(出所) 推定結果より筆者作成
5. まとめ
本稿では、2011 年 3 月の東日本の震災の影響と、事業所の回復に事業所の特性(立地地点、事業
所の特性、本社の特徴)が与える影響について分析を行った。この結果、事業所の立地に関しては被
災地企業の回復が他の非被災地に立地する企業に遅れている傾向が見出せなかった。政府や周辺企
業の様々な支援を受けて、被災地に立地する事業所は速やかに回復したものと推察される。加えて
震源地からの距離に関しては、震源地から離れているほど速やかに回復する傾向があるものの、本
社の特徴をコントロールすると、その影響は観測されない。被災地に直接立地していなくとも、被災
地に相対的に近く、被災地におけるサプライヤー等が大きく生産体制が毀損して生産ネットワーク
を通じて大きな影響を受ける可能性が高いはずであるが、この効果は観察されなかった。これは本
社の生産体制がしっかりしていれば(ハイテク型企業、規模が大きい、流動性制約が少ない)
、代替
的なサプライヤーを他の地域から確保して生産を速やかに回復させたものと推察される。このこと
は東京等の生産の集積の進んでいる地域においては回復が速やかであることも、柔軟にサプライヤ
ーや仕入れ先を変更できる環境にあることが企業の回復に寄与することを示唆しているものと考え
られる。
柔軟にサプライチェーンの変更が難しい企業にとっては、自然災害等によるサプライチェーンの
寸断による影響が大きい。東日本大震災のケースにおいては、政府及び自助努力による被災地の企
業も速やかに回復したが、これらの被災地の企業の回復が遅れていれば、サプライチェーンが固定
的な企業の回復は長期を要した可能性がある。発生予測が困難である自然災害が経済に与える影響
を最小限にするには、被災地の企業を速やかに回復させることにくわえ、被災地の事業所と取引し
25
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
ている企業の動向を確認することも重要である。被災地の企業や事業所への必要十分な政策的バッ
クアップと、被災地や非被災地を問わず、被災地の事業所と取引している事業所への政策的バック
アップが、日本の産業政策や復興政策として有効である可能性がある。
最後に、本稿の課題を 5 つあげたい。まず、本稿では事業所における生産の回復に注目してハザ
ード分析を行ったが、東日本大震災による企業の倒産または事業所の閉鎖に注目したハザード分析
も行う必要がある。震災後に従業員数及び生産額が 0 または欠損値となる現象が 3 ヶ月以上継続す
る事業所を閉鎖されたものと見なして分析を試行したところ、閉鎖した事業所が全体の 0.6%と少な
く、ロバストな統計分析を行うことができなかった。生産動態統計調査は従業員規模により裾切り
を行う有意抽出調査であることから、一定規模以上の事業所がサンプルとなっており、閉鎖が少な
いと考えられる。今後、規模の比較的小さい事業所も調査対象とするような統計調査の結果が蓄積
され、実証研究が行われることにより、本稿の分析を補完することが可能となろう。2 つめの課題と
して、被災地の定義方法があげられる。本稿では被災地として災害救助法適用地域や津波浸水地域
を考えたが、福島原子力発電所からの距離等の情報を用いて事業所の被災状況を定義し、回復状況
が異なっているか否かを様々な視点から検証することで、被災による影響とその後の原発事故によ
る影響をより詳細に議論することが可能となる。3 つめの課題として、生産動態統計調査と企業活動
基本調査をマッチングさせる際に大量の事業所データが脱落してしまうことがあげられる。本稿で
は企業名称や住所を可能な限りクリーニングしてマッチングを行ったが、技術革新によってクリー
ニングの精度が上がれば、本稿の分析はより精緻になる。4 つめの課題として、企業の資本関係を考
慮できなかったことがあげられる。事業所が被災した場合、本社だけでなく、親会社や子会社も被災
した事業所の回復に努力すると考えられる。親会社または子会社の規模及びネットワーク等を考慮
した分析を行うことは、本稿の分析結果をより頑健にするだろう。5 つめの課題として、変動の決定
要因分析の必要性があげられる。本稿では、事業所の生産額の変動を確認したが、事業所の特性、本
社の特徴、親企業の特徴等を考慮した変動要因分析をすることによって、本稿の分析結果はより頑
健なものとなる。
26
ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
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ESRI Discussion Paper Series No.330
「東日本大震災と生産回復のダイナミクス」
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和、有光 建依、(2012)「統計からみた震災からの復興」、ESRI Discussion Paper Series, No.286
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