この公表資料は当店ホームページに掲載しています。 ホームページアドレス http://www3.boj.or.jp/kagoshima/ 2016 年4月1日 日本銀行鹿児島支店 鹿児島県経済の構造変化と人手不足 鹿児島県では、景気が緩やかに回復しつつあるもとで、労働需給がタイト化 してきている。例えば、有効求人倍率は 0.94 倍1と 1991 年以来の高水準となっ ているほか、県内の多くの企業からは、人手不足との声が聞かれる。もっとも、 こうした人手不足は、県内の全ての地域・業種において一様に広がっているわ けではなく、業種や地域のミスマッチがみられる。本レポートでは、そうした 雇用環境のミスマッチをもたらした当地経済の構造変化について整理した。 雇用環境のミスマッチをもたらしている経済構造の変化として大きなものは、 高齢化と人口集中である。こうした変化は、いずれも当地に限ったものではな いが、当地の雇用環境の実情を理解するうえで重要である。 1.高齢化と専門的・技術的人材の不足 鹿児島県では、全国と同様に高齢化が進展しており――2014 年 10 月時点で の高齢化率2は 28.6%――、医療・福祉施設に対する需要は年々高まっている。 実際、県内の医療・福祉関連の事業所数をみると、ここ最近でも+940 と大幅 に増加している(図表1)。地域別の医療・福祉施設数をみても、ここ2年 程度で何れの地域も+15%程度の増加となっている(図表2)3。この結果、 1 2016 年2月時点(鹿児島労働局「雇用失業情勢」より)。 2 「高齢化率」とは、総人口に占める 65 歳以上人口の割合を指す。2014 年 10 月の全国 の高齢化率は 26.0%(総務省「人口推計」より)。 3 本レポートにおける地域区分は以下の通り:鹿児島地域(鹿児島市、日置市、いちき 串木野市、鹿児島郡)、南薩地域(枕崎市、指宿市、南さつま市、南九州市)、北薩地 域(阿久根市、出水市、薩摩川内市、薩摩郡、出水郡)、姶良地域(霧島市、伊佐市、 姶良市、姶良郡)、大隅地域(鹿屋市、垂水市、曽於市、志布志市、曽於郡、肝属郡)、 熊毛地域(西之表市、熊毛郡)、奄美地域(奄美市、大島郡)。 1 鹿児島県は、他の都道府県と比べ、人口一人当たりの医療・福祉施設数や、 看護師・准看護師数が多く、充実しているとも言えるが4、その分、看護師や 介護福祉士の需要が高まっている。鹿児島県での医療・福祉関連の雇用吸収 力は高く、同分野での就業者数は他の産業と比べても多いが5、求人の増加に 対し、求職者数が追い付いておらず、人手不足が深刻化している(図表3)。 このように、医療・福祉部門の求人増加に対して求職者数が追い付いてい ない背景の一つには、医療福祉関連の専門学校卒業生の県外への流出も挙げ られる。例えば、看護師についてみると、県内看護学校の卒業生数は年 800 名程度で推移しているが、そのうち2割強が県外へ就職している(図表4)6。 なお、職業別の人手不足の状況をみると、医療・福祉を含む専門的・技術 的職業での不足感が強く、求人側と求職側のニーズに大きなミスマッチが生 じている。例えば、当県で求職が最も多いのは事務的職業(特に「一般事務」) で、有効求職者数は 9392 人と、職業別内訳の中では最も多い。一方、企業側 の求人をみると、事務的職業の求人は 2918 人にとどまり、有効求人倍率は 0.31%となっている7。その意味で、医療・福祉施設を含む専門的・技術的職 業に関するミスマッチは大きく、今後も拡大していく可能性がある。 4 鹿児島県における人口 10 万人当たり介護老人福祉施設数は 9.4(全国平均は同 5.7) であるほか、人口 10 万人当たりの看護師・准看護師数は、1,652 人(全国平均は同 1030) と、いずれも全国トップクラスである(厚生労働省「介護・サービス施設・事業所調査」、 厚生労働省「国勢調査」、日本看護師協会より)。 5 鹿児島県の産業別就業者数ウエイトをみると、2016 年1月現在、医療・福祉分野は 22.0%と最も高い(鹿児島県 毎月勤労統計調査)。 6 鹿児島県は、看護学校だけでなく、例えば高校卒業生の県外就職率が全国で最も高く、 若者の県外流出が大きい。文部科学省「高等学校卒業者の就職状況に関する調査」によ れば、2014 年の都道府県別県外就職率(高校卒業生)をみると、当県は 42.9%と、全 国平均(18.2%)を大きく上回り、全国で最も高い。 7 2016 年2月時点(鹿児島労働局「雇用失業情勢」より)。 2 2.人口・産業の集積 鹿児島県では、鹿児島市など一部地域への人口集中が進んでいるが(図表 5)、これに呼応するかたちで、前述した医療・福祉施設のほか、卸・小売 や宿泊・飲食業の事業所も、鹿児島市など一部地域で大きく増加している。 実際に、卸・小売業と宿泊・飲食業について、地域別事業所数の動向をみる と、鹿児島地域、姶良地域で大きく増加している一方、それ以外の地域では 減少している(図表6)。地域別の求人数・求職者数をみても、4割以上が 鹿児島地域に集中しており、鹿児島地域と姶良地域を合わせると、求人と求 職それぞれの半分以上を占めるに至っている。この結果、有効求人倍率では、 鹿児島地域が 1.14 倍と最も高い8。 なお、鹿児島県全体で卸・小売業の事業所数は減少しているが、労働者数 が増加しているほか、従業員 50 名以上の事業所数が増加しており、大型化あ るいは大型事業者の参入が示唆される。こうした動きが、鹿児島市および姶 良市における有効求人倍率の高さにも繋がっているとみられる。 一方、当地の基幹産業である食料品製造業や農林水産業については、県全 体として事業所数は増加しているほか、大隅地域や北薩地域に事業所を集中 する動きがみられている(図表7)。これらの地域においても有効求人倍率 は上昇を続けているが、その背景には、天然資源の豊富な地域に事業を集積 することで、競争力の向上や事業の効率化を推進する企業の取り組みがある と考えられる。 以 8 2016 年2月時点(鹿児島労働局「雇用失業情勢」より)。 3 上 図表編 事業所増減数 (図表1)産業別事業所数の変化 1000 800 600 400 200 0 -200 -400 2012~2014 年における民営事業所数の変化 出所:経済センサス 事業所数 (図表2)医療・福祉の地域別事業所数の変化 3500 2012年 2014年 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 鹿児島 姶良 北薩 大隅 南薩 奄美 熊毛 出所:経済センサス 人 (図表3)医療・福祉における人手不足の高まり 4000 3000 医療・福祉 求人数 2000 有効求人倍率(右目盛) 1000 10 11 12 13 14 15 倍 1.60 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 (年) 求人数は各年 12 ヶ月分の新規求人数の平均値 有効求人倍率は、医師・薬剤師等、保健師・助産師等、医療技術者、 その他の保健医療、社会福祉専門の職業の各年1月時点の合算値 出所:鹿児島労働局 4 (図表4)看護学校卒業生数と県外就職率 人 卒業者数 1,000 % 県外就職率(右目盛) 40 800 30 600 20 400 10 200 0 0 10 11 12 13 14 15 (年) 看護学校2年課程・3年課程の卒業生の合計値 出所:厚生労働省 (図表5)鹿児島市の人口 千人 鹿児島市の人口 650 600 550 500 450 400 350 300 250 200 県全体に占める割合(右目盛) % 40 35 30 25 20 15 10 55 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 14 (年) 出所:鹿児島県 (図表6)卸・小売、宿泊・飲食業の集積 事業所増減数 150 100 卸・小売 宿泊・飲食 50 0 -50 -100 -150 鹿児島 姶良 北薩 大隅 5 南薩 奄美 熊毛 2012~2014 年における民営事業所数の変化 出所:経済センサス 事業所増減数 (図表7)食料品製造業の集積 100 80 食料品 60 製造業(除く食料品) 40 20 0 -20 -40 鹿児島 姶良 北薩 大隅 南薩 奄美 熊毛 2012~2014 年における民営事業所数の変化 出所:経済センサス 6
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