2016 年 4 月 1 日 市場営業統括部 FOREX WEEKLY チーフ・エコノミスト 山下えつ子 Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク) [email protected] Global View 「財政出動余地を考える」 → p.2 金融政策の限界の認識と同時に、各国における財政出動が解禁された。 だが、依然として大型の財政出動はどの国にも難しく、各国の総和が世界経済を上向かせる ことで精一杯だろう。 US View … 再び、ハト → p.3 複数の地区連銀総裁のタカ派発言で、利上げ観測がいったん高まった。 だが、イエレン議長の講演はハト派で、相場は巻き戻された。 FX Outlook … ドル円のレンジは下抜けの可能性 → p.5 イエレン議長の講演を受けて、ドル売り。 円安やユーロ安の材料を見い出せず、ドル安の流れが継続しそうだ。 今週のレンジ 来週の予想レンジ 6 月末の予想レンジ 12 月末の予想レンジ ドル/円 112.02-113.80 円 111.50-113.50 円 110.00-115.00 円 110.00-120.00 円 ユーロ/ドル 1.1152-1.1412円 1.1250-1.1400ドル 1.0000-1.1500ドル 1.0000-1.1500ドル ユーロ/円 125.96-128.22円 126.00-128.00 円 120.00-130.00 円 120.00-135.00 円 (今週のレンジは先週金曜日東京 9 時~本日東京 9 時、予想レンジは本日東京 9 時~来週金曜日東京 9 時) ・今週号本文はニューヨーク時間木曜日15時までの情報をもとに作成しています。 ・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。 ・FOREX WEEKLYは弊行ホームページでもご覧頂けます。(http://www.smbc.co.jp/ 外国為替情報→フォレックス・ウィークリー) 本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レ ポート作成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合がありま す。データ・資料等については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが 投資のご判断をされた結果に基づき生じた損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関す る最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コ ピー使用はご遠慮ください。 1 FOREX WEEKLY 2016/4/1 Global View … 「財政出動余地を考える」 G20 財務相・中銀総裁会議では、経済成長をサポートするためには金融政策のみでは困難であるた め、金融、財政、構造改革の三つの政策を駆使する必要がある、と合意された。金融政策の限界(政 策ツールや技術的な限界だけではなく、追加的な政策の効果の限界が意識されていると思われる)が 共通認識として表明されただけではなく、これまで各国で封印されてきた財政政策が解禁となったこ とが重要な点である。 2008 年のリーマン・ショックの直後、やはり G20 会議において各国は財政出動によって対応する ことを合意した。あの時、真っ先に大型支出(4 兆元)を決定し、実行したのが中国だった。これは 世界景気の浮揚に奏功し、国際政治の舞台における中国の位置づけの向上にも大いに寄与した。だが その後、中国は供給過剰問題に苦しむことになり、先進諸国も財政緊縮を続けねばならなくなった。 今回、長期化する世界経済の低迷に対して、再び財政出動が合意されるに至り、では財政状況はど こまで改善したのかを知りたくなる。下図のように、米国では金融危機によって財政赤字の対 GDP 比は 10%まで拡大したが、その後の緊縮財政によって約 2%まで赤字は縮小した。ドイツは赤字の程 度は小さめだったが、更に改善して財政は黒字である。一方、中国では財政赤字の対 GDP は昨年は拡 大、日本では縮小はしているが米国と比べれば改善の程度は小さい。政府債務残高の対 GDP 比は米国 でも依然として大きく、言うまでもなく日本では債務比率は突出して大きいままだ。 過去数年と比べると、財政出動の余地は出てきたものの、世界経済を牽引できるだけの大規模な政 策を打ち出すことが出来る経済大国は皆無である。財政出動解禁によってグローバル経済がドラスチ ックに改善することは期待しにくい。各国が出来る範囲の対応をすることで、その総和が世界経済を 上向かせる、というところまでが精一杯のようである。 財政収支/GDP % 日本 米国 ドイツ 中国 2 日本 ドイツ 300 米国 中国 250 0 200 -2 -4 150 -6 100 -8 50 -10 (資料)IMF, Bloomberg (資料)OECD, Eurostat, Bloomberg 2 2015 2013 2011 2009 2007 2005 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2003 0 -12 2001 4 政府債務残高/GDP % FOREX WEEKLY 2016/4/1 US View … 再び、ハト 29 日のイエレン Fed 議長の講演は 16 日の FOMC 時と同様のハト的な内容だった。直前 1 週間余り、 複数の地区連銀総裁から 4 月にも利上げの可能性がある、とのタカ派発言が相次ぎ、マーケットは利 上げ織り込みを増していたが、議長のスピーチを受けて巻き戻した。 直前には 4 月もしくは 6 月の利上げの可能性は約 40%織り込まれていたが、講演後の現在は 20% となっている。2 年債利回りは 16 日の FOMC 直前に 1.00%手前まで上昇、FOMC 後に 0.80%台前半へ 低下していたが、講演後は一段と利回りは低下し、31 日には 0.7%台前半。一方、株式市場は議長の 講演前に、 利上げ観測の高まりからダウは 17600 近辺から 17400 近辺まで小幅ながら下落していたが、 利上げに慎重な議長のスタンスを好感し、17800 近くまで一時上昇した(年初来の高値を更新して堅 調)。為替相場もドル安方向へ戻している。 米2年債利回り 1.1 米ダウ 18000 1 17500 120 0.9 17000 118 0.8 16500 116 0.7 16000 114 0.6 15500 112 110 15000 0.5 1/1 2/1 3/1 為替ドル円 122 1/1 2/1 3/1 1/1 2/1 3/1 (データ)Bloomberg イエレン議長の講演は「The Outlook, Uncertainty, and Monetary policy」と題するもので、米 国経済と金融政策を正面から取り上げている。FOMC とほぼ同じスタンスだったが、直前にタカ派警 戒が高まっていたため、マーケットには非常にハトに聞こえたようだ。地区連銀総裁の視点は国内重 視で、一方、議長など Fed の中核メンバーは国際情勢や金融市場に対する目配りが相対的に大きい。 この違いが利上げに対するスタンスの違いに反映されている。底固い米国内景気と不透明感の強い海 外経済の違いを映している、という言い方も出来るだろう。 イエレン議長自身も、12 月の FOMC と 3 月の FOMC で大きく変わった点は米国経済の見通しではな く、グローバル経済の減速だ、と指摘している。また、中国が経済をコントロールできるかどうかと いう点に不確実性が大きい、と 2 月の議会証言で披露した見解を維持した。このグローバル経済の減 速と金融環境の悪化(株の下落や社債スプレッドの拡大)のマグニチュードが 2016 年に 4 回の見込 みだった利上げが 2 回の見込みに減った分に相当する。こうした状況の中、イエレン議長はマーケッ トにおける利上げ見通しの後退は長期金利の低下に繋がり、金融環境を幾分サポートしたと評価して いる。つまり、Fed が示す金利予想通りにマーケットが織り込まないことを許容している。筆者の計 算では、昨年秋以降の金融環境の悪化の約 30%分は長期金利の低下によって緩和された。 議長は「利上げ実施は慎重に判断する」との方針を繰り返し、ゆっくりとした利上げのみが正当化 3 FOREX WEEKLY 2016/4/1 される、と言う。25bps の小さな利上げであっても、海外経済から直接・間接にブーメランのように 米国経済にも負の影響が跳ね返ってくるリスクが現状、高い。利上げが必要となれば引き締める余地 は十分にあるが、利下げが必要となった場合に余地が限られる。このため様子見が賢明である、とい うわけだ。6 月の利上げの可能性は排除されていない。だが、次回利上げは 6 月である必要はなく、 また極論すれば、今年の利上げが結果的に 1 回あるいはゼロ回となろうとも、イエレン議長は大きな 問題があるとは思っていないようだ。世界経済や金融市場の持続的な改善を確認してから利上げを決 定するとすれば、6 月の FOMC までに判断を付けるには時間が足りないと思われる(3/18 号参照)。 米国内の経済指標も必ずしも良い数字ばかりでもない。10-12 月 GDP の確定値は前期比年率+1.4%。 改訂前の+1.0%から上方修正された。また、当初の速報値は+0.7%だったため、速報値発表時点での 「1%割れ!」は振り返ると実はそのような事実はなかった、ということになった。ただ、潜在成長 率を下回る。また、1-3 月の出来上がりも気になるが、アトランタ連銀が作成する GDP-Now は+0.6% と計算している。再び「1%割れ!」という話である。1-3 月 GDP 速報は 4/28 に発表される。米国経 済がリセッションか否かといった議論は的が外れている。だがリセッションではないが、低成長であ ることは問題である。少しでも下押し圧力が加われば、利上げではなく利下げが必要となるほどの低 い成長率しかない。だから、利上げには慎重なのである。 1 日には雇用統計の発表、および製造業 ISM の発表がある(本レポートは指標発表前に執筆)。雇 用統計も製造業 ISM も良好な数字が予想される。30 日に発表された ADP 雇用調査など関連指標は良 好で、NFP は 20 万人増程度の数字が見込まれる。前回、マイナスだった時間当たり賃金は今回はリ バウンドが予想されるため、全体に良好な印象となるだろう。製造業についても 3/25 号に記載の通 り、地区ごとの製造業企業景況感指数は下げ止まりの様相。5 ヶ月連続で 50 割れだった ISM も今回 はリバウンドして 50 超えするというのが市場予想中心である。イエレン議長のハト派なスピーチの 後、6 月の利上げの織り込みが 20%程度まで後退したが、1 日の経済指標が両方とも上振れれば 30% 程度まで戻ると予想される。債券相場もやや反応が行き過ぎの感があり、主要経済指標の発表を受け て、修正されるだろう。ただし、株式相場は指標が良好であれば、素直にこれを好感して上昇すると 思われる。 4 FOREX WEEKLY 2016/4/1 FX Outlook … ドル円のレンジは下抜けの可能性が高い ドル円は今週、議長の講演を前に、じりじりと上昇し続け、講演の前には 113 円台の後半まで上昇 していた。だが議長のスピーチが FOMC 時と同じく利上げに対して慎重なトーンであったため、数日 間のドル上昇を巻き戻し、一時 112 円手前まで下落した。FOMC の際に思ったよりもハトだとドル安 になった後、巻き戻し、再びドル売り、とスイングしているが、年初来のリスクオフでドル安・円高 となった後、2 月終わりの G20 会議を経て、ドル円のレンジは 112 円~114 円と比較的狭いレンジで 3 月を通過した。 議長は、グローバル景気の減速を受けて、ネガティブな影響が米国に跳ね返ってくることを懸念し て利上げには慎重である必要がある、との見解を述べた。このため、次回の 4 月の FOMC はもちろん、 6 月の FOMC でも利上げが実施される可能性は低くなった。当面、雇用統計など米国の景気指標には 利上げ実施を正当化できるデータもあり得るが、グローバル経済の不透明感が晴れなければ、自信を 持って利上げに臨むことは困難だろう。そのような Fed の慎重なスタンスを前にして、ドルの上値は 重いと考えられる。112 円から 114 円のレンジは必ずしも固いものではないが、114 円を上抜けるに は Fed の慎重スタンスの解除を伴う利上げ観測の高まりが必要だ。逆に 112 円を下回るケースはグロ ーバルな金融市場が再び混乱した場合や米国の景気指標が下振れた場合だろう。議長の講演後、6 月 の利上げは 20%程度の織り込みしかなく、ドル売りには限度があるようにも見える。しかしドル売 りがじわじわと続き、このレンジは 112 円を割る可能性の方が高いようだ。 日本の景気指標の悪化は日銀の追加緩和期待に繋がるかもしれない。またマイナス金利の拡大とい った措置がもし採られれば、サプライズとなる可能性もある(ただし来週のことではない)。だが、 G20 会議の声明文にあったように、金融政策のみでの対応から財政政策も使用する方向に世界は向か っている。日本でも経済対策の実施がアナウンスされている。景気指標の悪化がこれまでのように日 銀の追加緩和への期待に直結するのではなく、財政政策など他の政策への注目度が上がることで、金 融政策への注目度は相対的に下がり、結果として為替相場の動き方もかつてほどボラタイルではない、 と考えられる。日本にとって現状、厳しいのは、追加緩和に頼らない為替相場は円安よりも円高に力 が加わりやすく、それが株式相場の下押しにも繋がってしまうことだろう。 G20 会議の後、金融政策と為替レートのリンクは緩くなったと見えるが、代わりとなる一つの大き なテーマはまだ見当たらない。こうした中で目先は円売りやユーロ売りの材料はないのか、と材料探 しの中で、ドルを売るマーケットの流れが継続し、円やユーロが思った以上に通貨高となる、という 相場の傾きが予想される。 5 FOREX WEEKLY 2016/4/1 (円) 126 124 122 120 118 116 114 112 1/1/2015 2/1/2015 3/1/2015 4/1/2015 5/1/2015 6/1/2015 7/1/2015 8/1/2015 9/1/2015 10/1/2015 11/1/2015 12/1/2015 1/1/2016 2/1/2016 3/1/2016 110 (ドル) ユーロ/円 1.30 150 1.25 145 1.20 140 1.15 135 1.10 130 1.05 125 1.00 120 (円) 1/1/2015 2/1/2015 3/1/2015 4/1/2015 5/1/2015 6/1/2015 7/1/2015 8/1/2015 9/1/2015 10/1/2015 11/1/2015 12/1/2015 1/1/2016 2/1/2016 3/1/2016 128 ユーロ/ドル 1/1/2015 2/1/2015 3/1/2015 4/1/2015 5/1/2015 6/1/2015 7/1/2015 8/1/2015 9/1/2015 10/1/2015 11/1/2015 12/1/2015 1/1/2016 2/1/2016 3/1/2016 ドル/円 (データ出所:Bloomberg) ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア) 週 2 月 22 日~ 29 日~ 3 月 7 日~ 14 日~ 21 日~ 28 日~ 4 月 4 日~ 予想 ±0 -4 +1 -3 -8 +1 -4 実績 中立 中立 中立 ベア ブル 中立 ≪見方≫ 当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、 ドルブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ド ルブル人数-ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。 6 FOREX WEEKLY 2016/4/1 各種相場の動き 債券(日本国債・10 年債利回り) 債券(米国債・10 年債利回り) % 株(日経平均株価) 2016/1/1 2015/10/1 2015/7/1 2015/1/1 2015/4/1 % 2.6 2.4 2.2 2.0 1.8 1.6 1.4 2016/1/1 2015/10/1 2015/7/1 2015/4/1 2015/1/1 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 -0.1 -0.2 株(米ダウ) 22000 20000 20000 19000 18000 18000 17000 16000 16000 原油(WTI 先物(期近物):ドル/バレル) 2016/1/1 2016/1/1 2015/1/1 2016/1/1 2015/10/1 2015/7/1 1500 2015/10/1 2500 2015/7/1 3500 2015/4/1 13000 12000 11000 10000 9000 8000 4500 2015/4/1 2015/10/1 株(ドイツ DAX 指数) 5500 2015/1/1 2015/7/1 2015/1/1 株(上海総合指数) 2015/4/1 15000 2016/1/1 2015/10/1 2015/7/1 2015/4/1 2015/1/1 14000 金(NY 先物(期近物):ドル/トロイオンス) 70 60 50 40 30 20 2016/1/1 2015/10/1 2015/7/1 2015/4/1 2015/1/1 2016/1/1 2015/10/1 2015/7/1 2015/4/1 2015/1/1 1400 1300 1200 1100 1000 900 (データ出所:Bloomberg) 7 FOREX WEEKLY 2016/4/1 今週のプライスアクション(ドル円) (出所:Reuters) ① イエレンFRB議長のハト 派な発言を受けて、米利上げ 期待が後退したため、ドル円 は 113 円台後半から 112 円台 後半まで下落。 ② この地合いを引き継ぎ、一時 112.02 円までドル円は下 落。 ③ 米雇用統計等の重要指標を 控えて、ドル円はレンジ内で 推移。 ① ② ③ 来週のチャ-ト分析 (出所:Reuters) 日足 EUR=EBS 2016/01/29 - 2016/04/19 (TOK) 価格 1.14 1.135 1.13 1.125 1.12 1.115 1.11 1.105 1.1 1.095 1.09 1.085 1.08 自動 01日 08日 15日 22日 29日 07日 2016年 2月 14日 21日 2016年 3月 28日 04日 11日 2016年 4月 <ドル円、日足、一目均衡表> <ユーロドル、日足、一目均衡表> ・現在雲の下を推移。 ・現在雲の上を推移。 ・4/8 の雲上限は 1.1044 ドル、下限は 1.1020 ドル。 ・4/8 の雲上限は 116.34 円、下限は 114.57 円 18日 来週の主な材料 4/4(月) (日)3 月マネタリーベース(米)3 月労働市場情勢指数、2 月製造業受注 4/5(火) (日)2 月毎月勤労統計(米)2 月貿易収支、3 月非製造業 ISM (欧)2 月独製造業受注、3 月ユーロ圏サービス業 PMI(確報) 4/6(水) (米)FOMC 議事録(3/15-16 分)(欧)2 月独鉱工業生産 4/7(木) (日)日銀支店長会議(欧)ECB 議事録(3/10 分)、ドラギ ECB 総裁講演 (米)イエレン FRB 議長講演 4/8(金) (日)2 月国際収支、3 月消費者態度指数、3 月景気ウォッチャー調査 (時間は全て現地時間) (本ページの担当:阿部) 8
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