中国の石油産業改革と独立系精製企業などの動向

JPEC レポート
2015 年度
第 32 回
平成 28 年 3 月 29 日
中国の石油産業改革と独立系精製企業などの動向
2015 年 中国の経済成長率は 6.9%
で、25 年ぶりの低水準となった。同年
中国政府は、国有企業改革の推進に向
けた指導意見を発表し、
2020 年までに
決定的な成果を得るとの決意を表明し
ている。
また中国は、
2014 年からこれまで国
有企業が独占してきた分野に民間企業
または異業種に開放するという「混合
所有制」の推進を打ち出している。同
国経済が「新常態」へ移行するなか、
こうした国有企業改革および規制緩和
が、新たな安定成長に向けて大きな課
題となっている。
1「新常態」へ移行した中国経済
2
2 石油・ガス産業改革
3
3 国有石油会社における混合所有制
導入の動向
4
3-1 Sinopec
4
3-2 PetroChina
5
3-3 CNOOC
6
4 規制緩和の動き
6
4-1 探鉱開発分野への民間企業参入
6
4-2 ガスインフラへの第三者アクセス
7
4-3 LNG 事業への新規参入
8
5 原油輸入の規制緩和と独立系製油所の動向 9
5-1 国家貿易と非国家貿易
9
5-2 輸入原油使用権
10
5-3 原油輸入権
10
6 石油精製事業への新規参入
11
7 まとめ
12
中国石油化工集団公司(Sinopec)
、
中国石油天然ガス集団公司(CNPC)
および中国海洋石油総公司(CNOOC)
という巨大国有企業を有する同国石油・ガス産業においても、
国有企業改革および規制緩和
に向けた動きが、大きなうねりとなって押し寄せてきている。
一方 かつては、
大半が淘汰されるかまたは国有大手企業に吸収される運命にあるとみら
れていた地方独立系精製企業(別名:Teapot)が、
「輸入原油使用権」および「原油輸入
権」を獲得して、事業拡大の基盤を整えつつある。また、民営ガス会社および電力会社な
どの異業種企業も LNG 輸入に乗り出そうとしている。このほか、石油製品やガスの価格
決定メカニズムの改革も実施されている。石油製品販売事業やパイプライン事業の混合所
有制導入、油田開発やシェールガス開発などへの民間企業への開放が矢継ぎ早に打ち出さ
れている。
こうした一連の動きは、
1998 年の石油開発から石油精製および石油化学までを統合した
二大集団(Sinopec、CNPC)への再編、行政と企業の分離という徹底した体制改革から
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20 年近くが経過した中国石油産業に、再び抜本的な改革をもたらすものとみられている。
本稿では、中国石油・ガス産業の改革の動きと、そのなかで新たな事業展開を模索する独
立系精製企業を中心とした民営企業の動きを報告する。
1「新常態」へ移行した中国経済
2012 年以降 中国経済は、成長の鈍化傾向が顕在化してきている。2014 年 同国の GDP
成長率が、前年比 7.4%と減速するとともに政府目標の 7.5%を下回った。同成長率が政府
目標を下回ったのは、アジア通貨危機以来 実に 16 年ぶりのこととなった。
さらに 2015
年の同成長率は、より低い 6.9%と 25 年ぶりの低成長となり、同国経済は完全に「新常態」
に入ったといえる。
図 1 中国の経済成長率の推移 (出所:IMF)
「新常態」とは、景気低迷が構造的に固定化された状況を示す米国の「New Normal」
を中国語訳したとされている。中国政府は、同語を 2014 年から使用しているが、実際は
異なるニュアンスが含まれているといわれる。
2014 年 中国政府は、中央経済工作会議において同国経済に下記 9 項目の大きな変化が
起きていると発表している。
1)消費の多様化
2)新分野への投資拡大
3)低コスト輸出の優位性の消失
4)産業構造の新分野への移行および生産設備の小規模化・多様化
5)生産要素の優位性が低コストの労働力から技術革新へ移行
6)経済の量から質への転換
7)資源と環境への配慮
8)成長鈍化に伴う経済リスクの顕在化
9)従来の景気刺激策の効果減少に伴う、市場原理による成長戦略の必要性
これらの変化を受け中国政府は、下記 4 点が進行する状態を「新常態」と定義した。
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1)高成長から安定成長
2)量的拡大から高品質・高効率への転換
3)経済構造の転換
4)経済発展のイノベーションによる主導
こうした認識に基づいて、習近平指導部は、7%前後の安定成長を維持しながら、市場経
済化、国有企業改革および内需主導経済への転換により、持続可能な成長モデルの構築を
目指している。
2 石油・ガス産業改革
2013 年 中国共産党 第 18 期中央委員会 第 3 回全体会議(略称:三中全会)は、混合
所有制など国有企業改革に向けた歴史的な決議「改革を全面深化する重大問題の決定」を
採択した。
続いて 2014 年 11 月 国務院は、
「エネルギー発展戦略行動計画(2014~2020 年)
」を
策定し発表した。その戦略指針としては、エネルギー市場開放、国有エネルギー企業改革、
石油・ガスパイプランおよび電力網の分離・独立、エネルギー料金体系の改革などを示して
いる。
同年 7 月、国務院 国有資産監督管理委員会は、改革項目を発表した。改革内容は、同
委員会が直轄する中央企業の中から 6 社を選び、国有資本投資会社の設立、混合所有制の
推進、企業制度の現代化などである。なお中央企業とは、同委員会が監督管理する企業で、
2015 年 3 月時点で 112 社ある(表 1 参照)
。
表 1 国務院が監督管理する中央企業 112 社 (出所:東西貿易通信社)
石油関連企業としては、Sinopec、CNPC、CNOOC、中国中化集団公司(Sinochem)
、
中国化工集団公司(ChemChina)
、珠海振戎公司(Zhuhai Zhenrong)のほか、航空燃料
販売の中国航空油料集団公司(CAOHC)
、エンジニアリング業の中国化学工程集団公司
(CNCEC)などが属している。同国政府は、混合所有制導入とともに 112 社を 40 社程
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度に再編するという構想を持っているといわれる。
2015 年 9 月 国務院は、中国共産党中央委員会と合同で「国有企業の改革深化に関する
指導意見」を発表し、国有企業の改革推進にあたっての指針を示した。混合所有制に関し
て国家発展・改革委員会は、石油、電力、鉄道、通信および資源開発といった参入障壁が高
い分野にも民間資本の導入を進めると強調している。
2013 年の国有企業改革に向けた決議から 2 年近く経過したが、この間 保守勢力からの
反発もかなりあったと推測される。対抗策として習主席は、強力な反腐敗キャンペーンで
「石油閥」などの抵抗を封じてきた。いわゆる「虎もハエもまとめて叩く」という方針で、
2014 年 7 月に胡錦濤前政権で中央政治局常務委員(当時の党内序列 9 位)を務めた大物
政治家の周永康氏「重大な規律違反の疑い」で摘発されたことは特筆される。
また、中国石油産業における国有企業の占有率は、極めて高くなっている。Sinopec、
CNPC、CNOOC の 3 社(三桶油)のシェアは、原油生産の約 90%、天然ガス生産の約
85%および原油処理量の約 70%を占めている。
こうした状況に対し国家能源局は、
「民間資本のエネルギー分野への投資のさらなる拡大
の奨励と指導に関する実施意見」を策定した。民間資本によるエネルギー分野への投資拡
大を奨励し、競争原理を導入することでエネルギー構造の改革を促し、エネルギー産業を
規模から質へと転換を推進していく方針を発表した。また商務部は、
「民間資本の商業・貿
易流通分野への参入を奨励・誘導することに関する実施意見」の中で、民間資本が国内の石
油製品市場に参入するのを支援するとの方針を打ち出している。
3 国有石油会社における混合所有制導入の動向
3-1 Sinopec
2014 年 2 月 Sinopec は、石油製品販売事業の再編開始および社会・民間資本の受入れに
よる混合所有制経営の実現を目指すことを発表した。同年 9 月 中国石化銷售有限公司
(Sinopec Sales)の第三者割当増資に伴う約 30%の株式引受に関して、計 25 社と総額約
1,071 億元(約 1 兆 8,700 億円)の出資契約に調印した。
出資企業には、新奥集団(ENN Energy、都市ガス)
、復星国際(FOSUN、石油ガス探
鉱開発)
、騰訊控股(Tencent、IT)
、海爾集団(Haier Group、家電メーカー)
、匯源果汁
集団(Huiyuan Juice、飲料)および中国銀行など多様な業界が参加している(表 2 参照)
。
Sinopec Sales は、31 の省クラスの販売分公司および香港や航空燃料公司を統合・再編し
て設立された石油製品販売企業である。同社は、石油関係では石油製品パイプライン(総
延長 1 万 km 以上)
、製品貯蔵タンク(約 400 基)
、サービスステーション(3 万ヶ所以上)
を運営している。油外事業としては、コンビニエンスストア(約 2.3 万店)およびマクド
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表 2 中国石化銷售公司への出資企業(出所:東西貿易通信社)
ナルドやコカコーラとの合弁事業も進めている。しかし石油製品以外の販売は、全体の 1%
未満しかなく、今後の物品販売事業の展開には巨大なポテンシャルを秘めている。
例えば、Sinopec Sales のコンビニ店網で Haier 社が冷蔵庫や洗濯機など白物家電を販
売している。一方 同社は、Haier 社が流通網で使用する車輌に、軽油など石油製品を独占
的に供給するという業務協力協定を結んでいる。
また Sinopec Sales は、Tencent 社とも協力協定に調印し、同社 SS 店頭でのスマートフ
ォンなどモバイルによる電子決済、地図情報を使ったナビゲーションサービスなど幅広く
提供している。新業態の開発において、Tencent 社のインスタント・メッセンジャーアプリ
「微信(WeChat、利用者 4 億人以上)
」を活用するという。
こうした単なる資本出資に留まらない民間企業の活力と Sinopec Sales の巨大な SS 網
を組み合わせた新たなビジネスの展開が、混合所有制の狙いの 1 つだとみられる。
2015 年 7 月 Sinopec は、新疆ウイグル自治区の重点共同出資プロジェクトとして、同
社が 99%、新疆国有資産投資公司が 1%を出資して、中国石化新疆新春石油開発公司を設
立した。これにより石油産業改革が探鉱・開発分野にも拡大した。さらに、2016 年 2 月
Sinopec 西北油田分公司およびバインゴリン・モンゴル自治州政府は、共同出資協力協定に
調印し、西北油田での混合所有制改革を開始することとなった。
3-2 PetroChina
2014 年 3 月 PetroChina は、第 12 期全人代 第 2 回会議で混合所有制経済体制発展へ
の方針を発表した。同社は、石油・ガスの探鉱・開発、非在来型資源(シェールガス、タイ
トオイル)探鉱・開発、パイプライン、石油精製、海外事業などに民間資本を受け入れてい
く予定である。
発表では、PetroChina の寡占状態にあるパイプライン事業が焦点となった。同社は、
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西気東輸とカザフスタンやトルクメニスタンを結ぶ中央アジア天然ガスパイプラインを、
現在までに 1〜3 線(A/B/C ルート)建設して年間 550 億 m3 という巨大エネルギー回廊を
構築し、さらに第 4 線(D ルート)の建設を進めている。このうち操業中の A/B/C ルート
について、保有する中亜天然気管道公司の株式 50%を中国国新控股有限責任公司の子会社
に最大 155 億元(約 24 億 2,600 万ドル)で売却することになった。
2015 年 12 月 PetroChina は、国内パイプラ
インの最重要幹線である西気東輸について、中
石油管道公司(中油管道)をパイプライン事業
のプラットフォームとして、東部管道公司、管
道聯合公司、西北聯合管道公司の 3 社を統合す
ると発表した。
表 3 中油管道への出資企業
西気東輸の第 1~3 線は、この 3 社が運営し
ているが、すでに宝鋼集団や全国社会保障基金
が出資している。東部管道は、PetroChina の
全額出資だが、管道聯合は 50%、西北聯合は
52%の出資となっていた。
(出所:東西貿易通信社)
3 社を統合して、PetroChina は中油管道の株式約 72%を保有し、残りは北京国聯能源
産業投資基金を筆頭に 11 社が保有することになった(表 3 参照)
。中国政府は、石油・ガ
ス産業改革の一環として PetroChina のガスパイプライン事業分割を目指しているとされ、
こうした動きはその前哨戦ではないかと推測される。
PetroChina は、在来型資源の探鉱・開発分野では新疆ウイグル自治区政府および新疆生
産建設兵団と紅山油田公司を、非在来型資源ではカラマイ市の地元企業とオイルサンド探
鉱開発の新彊金戈壁油砂砿開発公司を設立している。また、重慶市でもシェールガス探鉱
開発の合弁企業を設立している。
3-3 CNOOC
CNOOC は、混合所有制導入に関して目立った動きがない。2015 年 8 月 同社は、改革
深化指導小組 第 7 回会議で、石油化学事業の改革に関するコンセンサスが形成されつつ
あり、前向きに検討する時期に入ったと説明している。
4 規制緩和の動き
4-1 探鉱開発分野への民間企業参入
中国では、これまで探鉱開発事業には国有企業のみが参加できた。しかしながら、同国
政府の進める石油・ガス産業改革の一環として、
一定条件を満たしている民間企業にも参加
できる道が開かれた。
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2012 年 シェールガス鉱区 第 2 次入札(外資の応札不可)では、資格審査を通過した
のは国有企業(52 社)
、外資との合弁企業(5 社)および民営企業(34 社)であった。落
札したのは、国有企業(14 社)および民営企業(2 社)となった(表 4 参照)
。第 3 次入
札も検討されており、外資の参加を認めるかどうかが注目される。
表 4 第 2 次シェールガス鉱区入札の落札企業(出所:東西貿易通信社)
2015 年 7 月 国土資源部が行なった新疆石油天然
ガス探査地区の入札において、国有 4 社(Sinopec、
CNPC、CNOOC および陜西延長石油)以外の中国
国内企業に初めて石油ガスの探査が開放された。
入札には 14 社が参加し、
5 鉱区のうち計 3 鉱区を
北京能源が、1 鉱区を山東寶莫生物化工が落札(な
お 1 鉱区は流札)した。
図 2 新疆の入札鉱区
(出所:東西貿易通信社)
4-2 ガスインフラへの第三者アクセス
これまで中国の LNG 輸入(2013 年輸入実績:530 億 m3)は、Sinopec、CNPC およ
び CNOOC の国有 3 社が独占してきた。2014 年 12 月 新奥集団(民間ガス会社)は、ス
ポットで調達した LNG を PetroChina の江蘇 LNG ターミナルを通じて受け取った。こ
れが、中国初のターミナル余剰を活用した第三者によるスポット輸入となった。
こうした第三者による LNG 輸入は、広匯能源や北京燃気集団も実施している。2015 年
11 月 北京燃気は、提携先の Engie 社(旧 GDF Suez)から PetroChina の唐山曹妃甸タ
ーミナルを通じて 15 万 m3 をスポット輸入した。
中国政府は、こうした LNG 輸入ターミナルなど天然ガスインフラ余剰能力に対する第
三者の利用を推奨している。2014 年 発展・改革委員会が「天然ガスインフラ建設および運
営管理弁法」を、国家能源局が「石油ガスパイプライン施設 公平開放監督管理弁法」を公
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布している。
4-3 LNG 事業への新規参入
スポット輸入に続いて、各社は長期売買契約に基づいた LNG 輸入も計画している。
1)新奥集団
新奥集団は、LNG バンカリング事業を進めるため、舟山 LNG ターミナル(浙江省)建
設を進めている。合わせて LNG 購入契約も急いでおり、2016 年 1 月 同社は、Chevron
との間で Gorgon プロジェクト(豪州)から LNG 購入契約(年間 50 万トン・10 年間)基
本合意した。さらに同年 2 月 同社は、Total との同契約(年間 50 万トン・10 年間)およ
び Origin Energy 社(豪州)との同契約(年間 50 万トン・5 年間)に基本合意した。
2)中国華電集団
2014 年 Sinopec は、Progress Energy 社(カナダ)が British Columbia 州で進めてい
る Pacific Northwest LNG に 15%の資本参加し、年間 LNG を 180 万トン(20 年間)の
購入することに合意した。合意の際に華電集団は、15%の権益のうち 5%を引受け、LNG
60 万トンを引き取ることになった。
2015 年 10 月 華電集団は、BP との間で LNG を年間 100 万トン(20 年間)購入する
契約に調印した。この契約とほぼ同時期に、Pavilion Energy 社(シンガポール)と年間
100 万トンの LNG 売買に関する覚書を交わした。
2015 年 12 月 華電集団は、Chevron との間でも 2020 年から 10 年間にわたり年間 100
万トンの LNG を購入する基本合意文書に調印した。Chevron の Gorgon LNG(豪州)お
よび Wheatstone LNG(豪州)から供給される見通しである。
3)北京燃気集団
前述したように北京燃気は、PetroChina の唐山曹妃甸 LNG ターミナルを通じて受け入
れが、今後 Engie 社との取引を長期売買契約に発展させる可能性もある。
4)中油潔能集団
中油潔能集団は、汕頭市(広東省)で LNG 受入ターミナル建設を計画しており、2011
年 3 月、傘下の汕頭中油潔能天然気有限公司が Icon Energy 社(豪州)との間で、20 年
間で合計 4,000 万トンの LNG 長期売買に合意した。しかしながら計画の進展がなく、売
買契約締結は 2018 年 6 月末まで延長されている。
5)山東東明石化集団
2015 年 3 月 東明石化は、Investment & Development(カタール)および Hamad Bin
Suhaim Enterprises(カタール)との間で、同社の株式 49%を 50 億 US ドルで譲渡する
との協定に調印した。
両者は、
山東省を含む6 省において約1,000 ヶ所のLNG またはCNG
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(圧縮天然ガス、Compressed Natural Gas)サービスステーション開設と欽州(広西チワ
ン族自治区)での年間 300 万トンの LNG 受入・再ガス化ターミナル建設をしており、実
現すればカタールが LNG を供給する予定である。
一方 中国では、2008 年頃から小規模な LNG プラントが数多く建設され、多くの民間
企業も参入している。2000 年 同国では、平湖ガス田(東シナ海)のピークセービング用
(需給 GAP 調整)として建設されたが、最近では炭層ガス(CBM)やシェールガスなど
非在来型ガスを液化するプラント、さらに石炭やコークス炉ガス(COG)由来の代替天然
ガス(SNG)の液化を目的としたプラントも建設されている。
特に 2010 年以降、小規模 LNG プラント建設が急増し 2015 年末段階で稼働している
LNG プラントは 148 基、総ガス処理能力は日量 8,012 万 m3 で LNG 年産 2,088 万トンに
達している。 プラント 1 基あたりの平均生産能力は 14 万トンと小規模だが、総生産能
力としては、世界の大型プラントの 2~3 基分に相当する。しかしながら、プラント稼働
状況は 50%以下と芳しくなく、LNG 生産量は 711 万トンである(表5参照)
。
表 5 国有石油 3 社以外の主要 LNG 輸入計画(出所:東西貿易通信社)
5 原油輸入の規制緩和と独立系製油所の動向
5-1 国家貿易と非国家貿易
中国では、Unipec(Sinopec 傘下)
、ChinaOil(CNPC 傘下)
、CNOOC、Sinochem お
よび珠江振戎のみが、国家貿易(国および国の関係機関から特権を与えられた企業によっ
てほぼ独占的に行われる貿易)として 90%以上の原油を輸入している。
2001 年 中国の WTO 加盟にあたり、石油分野においても関税障壁の段階的撤廃や割当
制廃止などの確約に基づき、
2002 年から国家貿易以外の原油輸入が非国家貿易として認め
られた。
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非国家貿易の原油輸入は割当制であり、2002 年の 828 万トンから毎年 15%ずつ引き上
げられ、2011 年で 2,910 万トンにまで拡大した。しかしながら、割当量の 3 分の 2 程度
は、国有大手の貿易子会社が占めており、民間の貿易会社の割当量は少ない。また、民間
貿易会社は、製油所を保有していないため輸入した原油は Sinopec や CNPC などに売却
している。
この非国家貿易割当は、2011~2014 年までは 2,910 万トンで増量がなかったが、2015
年は 3,760 万トン、2016 年は 8,760 万トンと一気に拡大している。
5-2 輸入原油使用権
2015 年 2 月 国家発展・改革委員会が「輸入原油使用管理の問題に関する通知」を発表
した。この通知により、これまで輸入原油を使用していない独立系石油精製企業も、単系
列の処理能力が年間 200 万トン以上の蒸留設備を持ち、製品品質、エネルギー消費量、工
業用水消費量、環境保全および安全管理システムが国家基準を満足するなどの条件を満た
していれば、輸入原油を使用できることになった。一方 対象企業が年間 200 万トン未満
の処理能力を保有している場合は、その設備を廃棄することが求められる。
これまで原油調達能力の劣る独立系中小製油所は、低稼動を強いられ輸入重油を処理す
る事業者もあった。今回の通知により、多くの独立系製油所が輸入原油使用権を取得して
いる。
5-3 原油輸入権
輸入原油使用権だけしか持たない中小製油所は、
国有企業などから購入する必要がある。
2015 年 7 月 商務部は、
「原油処理企業の非国有貿易輸入資格申請に関する工作通知」に
より、輸入原油使用権を有する企業に原油輸入資格を付与すると発表した。これにより、
多くの独立系精製企業が続々と輸入資格を取得している(表 6 参照)
。
2016 年 2 月 原油輸入を目指す独立系精製企業の 16 社(山東省 14 社、江蘇省、河南省各
1 社)は、共同で「石油採購聯盟」を設立した。同聯盟は、原油の一括購入、価格交渉、
集中決済などを行ない、
輸入原油使用権に基づいて調達した原油を各社に割り当てている。
こうした独立系製油所のリーダー役となっているのが東明石化公司である。同聯盟は、
東明石化が設立した太平洋商業公司(シンガポール)を基盤として原油の一括購入を進め
ている。同社は、輸入原油使用権と原油輸入権の両ライセンスを取得した最初の独立系精
製企業である。2015 年 11 月 東明石化は、独立系製油所として初の外国企業との長期原
油供給契約になる BP との契約に調印した。前述したように同社はカタール企業と協力し
て SS 事業および LNG 輸入事業なども検討しており、規制緩和の中で新たな事業展開を
打ち出している。
このほか独立系製油所は、原油輸入を進めるために小規模設備の廃棄ならびに二次処理
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設備(国Ⅴ規格製品などの高品質の石油製品生産のため)の増強・近代化を急いでいる。
表 6 輸入原油使用権と原油輸入権の取得状況(出所:東西貿易通信社)
6 石油精製事業への新規参入
中国では、地方独立系製油所以外に石油化学企業、特に化学繊維産業から石油精製事業
への参入が注目されている。
1)浙江恒逸集団
浙江恒逸集団は、高純度テレフタル酸(PTA)からポリエステル繊維まで一貫生産する
民間企業である。同社は、ブルネイで 2 期に分けて製油所(年間処理能力 800 万トン)
、
石油化学工場(ベンゼン 50 万トン、パラキシレン(PX)150 万トン)
、埠頭および発電所
などを建設する計画である。処理原油はブルネイ産およびカタール産原油を使用し、精製
された石油製品は主に中国に輸出される予定である。同社は、すでに中国およびブルネイ
両国政府の承認を取得しており、第 1 期計画は 2018 年に操業を開始する計画である。
2)恒力集団
恒力集団は、PTA およびポリエステルメーカーであり、最新鋭の大型製油所建設を計画
している。同社は、製油所建設にあたって恒力石化(大連)煉化公司を設立している。計
画では、大連市に年間処理能力 2,000 万トン(40 万 BPD)という中国最大級の製油所お
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よび世界最大級の PX-PTA 一貫生産基地を計画している。2015 年 12 月 同社は、起工式
を行ない、計画の完成は 2018 年の予定である。なお、UOP と Chevron Lummus
Technology が基本設計を担当している。
恒力石化は、Axens 社との間で国Ⅴ規格のガソリンおよび軽油を生産できる水素化分解
(H-Oil RC)
、溶剤脱瀝(Solvahl)
、連続触媒再生式接触改質(CCR)
、メタキシレンの
異性化技術(Oparis)および PX 精製(Eluxyl 1.15)などの技術ライセンス導入契約を結
んでいる。
この他、潤滑油基油の異性化脱ろう技術、CB&I Lummus のプロパン/イソブタン脱水
素(Catofin)なども導入する。前者は GroupⅡ・Ⅲ基準の潤滑油基油を生産するととも
に、高付加価値のホワイトオイル(流動パラフィン)の生産も行う。後者は、1 トレイン
としては世界最大の脱水素プラントとなる。
生産した PX は、親会社の恒力石化が建設した年産 240 万トンの PTA プラントで使用
する予定である。これにより、世界最大の PX–PTA 一貫生産基地が誕生することになる。
7 まとめ
これまで中国の石油・ガス産業は、
「三桶油」と称される国有石油 3 社の支配下にあり、
民間企業や異業種の参入は限定されたものでしかなかった。しかしながら、習近平指導部
の誕生(2012 年)ならびに中国経済の新常態への移行(2014 年)により、石油・ガス産業
改革の動きが一気に加速している。
水面下では、巨大な権力を持つ「石油閥」の抵抗も予想されるため、その方向が明確に
なるのは、もう少し時間がかかるものとみられる。中国政府も、2020 年までには改革の成
果を上げたいとしており、2016 年からの第 13 次 新 5 ヶ年計画の推移を見守る必要があ
りそうである。
しかしながら、国有企業の混合所有制に続いて、独立系製油所への原油輸入権付与など
は徐々に進行しており、
新たな原油マーケットに海外の原油サプライヤーも注目している。
さらに原油輸入権の取得とともに、これらの独立系製油所は設備の増強・近代化にも乗り
出しており、日本企業には技術協力の可能性もある。
また、中国国内市場の伸びが限定的なものに留まるなか、
同国石油企業は石油製品の輸出
にも力を注いで来るものとみられ、
石油製品輸出の面で日本と競合することも考えられる。
なお、すでにその一端が東南アジア市場において現れはじめている。
日本としては、
上流から下流まで巨大化した中国の石油・ガス産業の改革の動向を今後と
も継続注視する必要がある。
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<参考資料>
・中国の石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社)
・East & West Report 各号(東西貿易通信社)
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分
析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
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今回の JPEC レポート 第 32 回をもちまして、平成 27 年度の JPEC レポートの配信は
終了させて頂きます。1 年間 JPEC レポートをご清覧賜り御礼申し上げます。
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