NIA Letter vol.7 (2016年発行)...2.2MB ・多文化

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■多文化共生社会にいがたを
めざして
~
ユニバーサルデザインの視点 .7
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V 016.3
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特 集
C O N T E N T S
に立った外国人支援~
○寄稿「新潟県内における社会のユニ
バーサルデザイン化」
新潟大学国際センター 准教授 足立 祐子 氏
◯対談 多文化共生社会を実現させるために 2
長岡市国際交流センター長 羽賀 友信 氏
柏崎地域国際化協会事務局長 清水 由美子 氏
■NIA活動レポート
■NIAインフォメーション
発行元/公益財団法人新潟県国際交流協会 Niigata International Association
多文化共生社会にいがたをめざして
~ユニバーサルデザインの視点に立った外国人支援~
様々な違いに関わらず、できるだけ多くの人が利用できる施設や製品の設計を「ユニバーサルデザ
イン」といい、少子高齢化が深刻化する現代社会において広く浸透しています。この考え方は物理的
な障壁を取り除くだけでなく、言葉や文化、考え方など社会的な差異を乗り越える多文化共生社会の
実現のためにも重要です。文化や生活様式が多様化する現在、外国人を含む様々な人とより良い関係
性を築きながら共生していくことは、地域コミュニティを活性化させる大きな力となるからです。
「地域発の国際協力の意義」
今号では、多文化共生社会の創造に精通されている方々にお話を伺いながら、ユニバーサルデザイ
ンの視点に立った外国人支援を考えます。
サルデザイン化」
「新潟県内における社会のユニバー
新潟大学国際センター 准教授 足立 祐子
ユニバーサルデザインとは、1980 年代にアメリカのロナルド・メイスが提唱した考えで、高齢者や身体障がい者という特定
の人に限定せず、「できるだけ多くの人々が利用可能であるように、製品、建造物、生活空間等をデザインすること」と定義さ
れています。また、ユニバーサルデザインには、1. Equitable use(公平性)、2. Flexibility in use(柔軟性)、3. Simple and
intuitive(単純で直観的)
、4. Perceptible information(分かりやすい情報)、5. Tolerance for error(誤使用に対する寛容
性)、6. Low physical effort(軽い身体的負担)
、7. Size and space for approach and use(アクセスや利用のための適切
な空間)という7つの原則がうたわれています。最近多くの地方自治体で、社会資本整備においてこの原則や考え方が取り入れ
られています。昔は、若くて行動に制約のない成人を基準に作られた「ものづくり」や「まちづくり」でしたが、すべての人が
利用しやすい施設、空間、サービスを考慮し、設計や基準の見直しがはじまっています。お年寄りや障がいのある人にとっての
バリア(使いにくさ)をなくすために特別な対策をたてるという考えがバリアフリーでした。これは、あるグループの人を特別
扱いする(=普通の人と区別する;社会的排除)おそれがあるのに対し、ユニバーサルデザインでは、そんなおそれはなく、
「年
齢、性別、体の自由・不自由、知覚・行動能力の違いに関係なく平等に生活することが当たり前である」というノーマライゼーショ
ンの考えとなじみます。
新潟県でも、ユニバーサルデザインの考えを発展させ、異なる社会文化、個人的特質などが原因で起きる暗黙的な排斥や区別
をなくし、外国出身者を含む誰もが対等な関係で社会や組織に参加できるまちづくりができればいいなと思います。最近、ヨー
ロッパやアメリカではテロの脅威からシリア等の難民に対する排斥の動きがあります。私はこの動きをしかたのないことだと思
いたくありません。罪のない難民の子どもたちが亡くなるニュースを聞くたびに世界中どこにいても平等に生活することが当た
り前の環境を作っていきたいと思います。せめて私たちの地元-新潟-をさらに居心地のいい社会にしていきたいと思います。
「私には関係がない」、「だれかがやってくれる」ではなく、私たち自身が立ちあがって社会のユニバーサルデザイン化のために
何かをしたいです。なぜなら、私たちも昔は、難民の子どもと同様に無力な子どもでしたし、将来は今ほど活発に動けない老人
になるのですから…。
足立 祐子 氏
新潟大学 国際センター 准教授
1990年大阪外国語大学大学院修了(日本語学)。1990年より1992年まで
富山県でビジネスマンや外国語指導助手(ALT)に日本語を教える。日本
語学校の教員を経て1994年より1996年まで財団法人新潟市国際交流協会日
本語講師。1994年よりボランティアグループ「ニイガタヤポニカ」で活動を
している。群馬大学や新潟大学の非常勤講師の後、1999年より現職。専門
は日本語教育学、異文化間教育学。多文化理解や多文化社会のための言語政
策・地域の日本語教育などの研究に関わっている。(写真左から2番目)
多文化理解講座(ミャンマーについて/ミャンマーの踊り)
1
羽賀 友信氏×清水 由美子氏 対談
(長岡市国際交流センター長)
(柏崎地域国際化協会事務局長・多文化共生マネージャー)
多文化共生社会を実現させるために
全ての人々が対等な立場で、互いに尊重しあってともに暮らしていく多文化共生社会。いまだにその理想と現実には大きな隔たりが
残されています。今どんな問題が起こっていて、どうやって解決していけばいいのか、新潟県内のみならず全国で多文化共生の地域づ
くりの分野で活躍されるお二人にお話を伺いました。
「言葉が通じた」
「心が通じた」という感動が原体験としてある。
お互い
じゃなくて
事務局:お二人が多文化共生の地域づくりに取り組まれるようになったきっかけをお聞かせ
ください。
羽 賀:海外で生活していて困ったとき、信頼できる知り合いがいて、その人を中心に言語
も覚えていくし、社会のシステムも覚えていく。私が以前いたオーストラリアは、
多言語に対する支援体制がたくさんあって、テレビ番組のニュースなども多言語で
やっている。移民の一代目は金と刺激を持ってくる、二代目はこの国の重要な国民
として活躍してくれる、違うからいいんだという考え方がオーストラリアの多重文
化政策です。それが刺激になって社会を活性化して、イノベーションになってい
く。だからオーストラリアでは一度も差別を受けたことがありません。
清 水:私は以前、全国的な国際交流団体に属していました。米国サウスダコタでホームステイをした時、ホストファミリーが初めて会った私にな
ぜこんなに優しくしてくれるんだろうと思ったのが原点です。私を色々なところに連れて行って、様々な人に引き合わせてくれました。私
も嫌な思いを一度もしたことがなかったんです。だから、外国出身の方が「柏崎に来て良かった」と感じてほしいと思いこの仕事を続けて
います。それはモノや設備ではなく心。多言語支援をする一番の目的は、その人に、
「あなたのことを心配している、あなたのことを忘れ
ていないよ」というメッセージを渡すことで安心してもらうということじゃないかと思います。
羽 賀:お互いの原体験は「言葉が通じた」じゃなくて「心が通じた」という感動。それが今もずっとつながっている。
清 水:せっかく縁があってここにいる人たちにいい思いを持ち続けてほしいです。
羽 賀:オーストラリアで最初に衝撃を受けたのは、「おまえどこから来た?」って聞かれて「日本。
」
て答えたら「そんなことは聞いてない。ここ
にいる奴はみんなオーストラリア人だ。オーストラリアのどこから来た?」って聞かれたことです。
清 水:私も旅行者でしたけど同じようなことがありました。(笑)
羽 賀:多重文化ってそういうことなんだなって、すごく感動したことを覚えています。
清 水:私もその時、受け入れられたんだなってすごくうれしくなりました。
外国につながる子どもたちのアイデンティティの問題。
羽 賀:多文化共生を推進するうえで、言語・教育・医療・福祉・防災が大きな柱になっていきま
す。この中の教育の面で最近増えているのが、外国籍の子どもの呼び寄せの問題です。外国
出身の女性が日本で再婚して、しばらくしてから地元においてきた子どもを日本に呼び寄せ
る。その時中学生くらいになっていたりすると、もう受験には遅いんです。生活言語は1年
で覚えられるけれど、学習言語は数年かかる。生活言語のレベルで学習言語を見てはいけな
い。そこを明確に定義づけしていかなければいけないし、受け入れる学校としては、段階的
にどうフォローしたらいいのか考えていかなければいけない。
清 水:小さい頃日本にいたけれど一度母国へ帰り、また高校に入る頃再び日本に来た子どもがいま
す。ある程度日本語で普通の会話はできるけれど、読むことができない。一番心配だったの
は日本語だけでなく母国の言語能力も欠落していたこと。将来のことを考えると本当にここでどうにかしてあげなきゃと思いました。
羽 賀:今社会問題になっているのは、アイデンティティを見失ってしまった子どもたちが、居場所をなくして破壊行動に出てしまうこと。そうい
うドロップアウトする子どもたちをなくすためにもサポートをしていかなければならない。不登校の問題など日本人への支援はあるのに、
外国出身の子どもたちへの支援は別物にされている。
清 水:日本語教室に来ているのになかなか日本語を覚えない子どもがいました。家ではずっと母語でYouTubeを見ていたり、家族関係もあまり
良くない。そして受験の時期になり、学校側からの要請で、お母さんと日本語の先生を交えて、今後どうしたいのかを話し合いました。そ
こでお母さんが「この子はずっと日本にいさせたい」と思いを語ったんです。その一言でその子はすごく意欲が出た。その子が日本語を覚
えなかったのは、自分が将来どこでどうなるのかわからなくて居場所もなく不安だったからなのだと分かりました。
からなのだとわかりました。
文化通訳の重要性。
羽 賀:外国人に関わる医療の問題も非常に難しい。医療の考え方自体が国や地域、宗教でものすごく変わるんです。必ずしも先端医療だけが良
いのではなく、拝んだ方が効く場合もある。医療は文化学なんです。アフガン出身の患者と医師との間に入ったことがあるんです。胎児
に難病があることが分かり、生まれてから何度も手術しなければならないので、あきらめる選択肢もあることを医師が提案したことに対
し、患者はすごく怒っている。医師は合理主義で言っているのですが、患者はイスラム教徒なので運命がそう出たらそれは神の意志だか
ら全部受け入れるつもりなんです。だからそこのお互いの思いを通訳したらやっと納得した。それが文化通訳で、言語だけじゃないんで
2
す。そういうことができる人材を地域が育成していくことが、誰にとっても住みよい地域
づくりにつながるんです。
清 水:日本の少子高齢化と同時に、在留外国人の高齢化の問題も深刻になってきていますよね。韓
国出身で普段日本語を話していた人が、病気になって日本語を忘れてしまった。二世の娘さ
んたちは韓国語が話せないので、家族でさえ意思疎通ができなくなってすごく困ったという
ことがありました。
羽 賀:老人福祉施設も多言語でやらないといけなくなってきている。
新潟県の現状。
事務局:新潟県は全人口に対する外国人登録者の割合が0.58%と、全国平均1.67%を大きく下回っています(平成26年12月末日現在)。
羽 賀:じゃあ障がい者も少ないわけですが、それをほっといていいんですか。要援護者の中に外国人が入ってる以上は少数派の社会参加として
ちゃんとやるべきです。単に人口の多い少ない、経済的メリットの有り無しで見てはいけない。今まずやらなければならないのは、行政が
中心になって色々な人の意見を聞いて、今地域でどんな問題が起きていて、どう解決すれば互いに住みやすい地域になるか皆で考えるこ
と。そして地域住民は彼らを理解しようとすること。そうすることで言語を超えていけるんです。コミュニケーションにおいて言語情報が
人に影響を及ぼす割合は7%という説があります。だから非言語の部分が本当のことを伝えているってことも知ってほしい。
清 水:新潟県は中越・中越沖地震を経て、外国人のパワー、存在を地域の財産にしようってすごく動いていると思うんです。集住してないからこ
そ活かせる。変にカチカチになってないのでかえってやりやすいのかなと思います。
なにじん
羽 賀:
「何人」から「なになにさん」になるということが共生・協働の最大の目標なんですね。彼らが地域のエンジンに替わってくれる可能性も
いっぱいあるんだから。
「同化」
「住み分け」
「共生」
か
か
か。
羽 賀:外国人の定住化が進めば、これは人口問題ではなく人権問題なんです。同化政策をとって日本に全部合わせてもらうのか、それとも住み分
けにするのか、それともいわゆる多重文化型・共生型にするのかで地域づくりの視点が変わってきちゃう。この三つのどれを選択するかと
いうと、日本の制度を理解しなければ日本には住めないので、ある程度「同化」もしていただかなければいけないが、基本的には個性を活
かしながら地域にもなじめる「共生」社会づくりをしていかなければいけない。言語的弱者であっても肉体的には強者である場合が多いの
で、守り神になってくれるケースがたくさんあるんです。「してあげる」目線で勘違いしてることがあるけど、実は僕らにとってものすご
く心強いパートナーになるんですよね。
清 水:ホントそうです。災害時に避難所で高齢者の代わりに留学生たちが重い水のタンクを運んでくれたんです。その留学生の国にはボランティ
アという概念がなく、後でこれがボランティアだったのかということがわかったと話していました。
羽 賀:定住化がどんどん進んでいる現在、担い手として留学生もとても良いパートナーになる。だから彼らの居場所と役割、出番を設けることが
すごく大事になってきます。この町に来て良かったと思ってもらえて、住民として早く定住できる環境づくりを進めることで彼らに地元の
ファンになってもらうことは、地域の今後にとってとても大切なことです。
ユニバーサルデザインの町づくりにはファシリテーターが必要。
羽 賀:僕が長岡市に提言しているのはユニバーサルデザインの町づくり。高齢者や障がい者だけ
のものではなく、違う文化の人たちも理解できる普遍的なことをもっともっと進めていき
たい。
清 水:国際の分野で考えるとどうしても、「日本人対外国人」、「仲良くしましょう」、というこ
とになるけれど、そうじゃなくて、いろいろな方を全部包んでいくのが多文化共生じゃない
かと思います。皆それぞれでいいけれど、どう一緒に地域を創っていくか、だれが何をする
か一番気にしていかなきゃいけない分野かなと。
羽 賀:だから偏見や差別をなくすため、コミュニケーションの取れる人材の育成がとても大切なん
です。多民族国家ならあたりまえに「分からない」という前提で話しますが、日本の場合主
流派が日本人なので「分かるだろう」という前提で話すわけで、このパラダイムシフトをど
う解決するかというと、やはり相手の思いを引き出して、それを上手く伝えていくことがで
きるファシリテーターの育成が必要です。そうすると課題をあぶり出し解決に向けたアイディア出しができる。
清 水:
「郷に入れば郷に従え」も大事だけど、ちょっと配慮してあげればということもあります。外国の人が「お通し」の文化が分からなくて、
「私は注文していない」とトラブルになる。説明すれば分かるのに一切説明しないで持ってくるからそうなるんです。
羽 賀:ちゃんと説明してくれたらうれしいわけで、その違いを面白いって思える。それが日常的にできるか、今日本は問われてる。
羽賀 友信 氏
長岡市国際交流センター「地球広場」センター長。1950年長岡市生まれ。世界66カ国を訪問し、1980年カンボジア難民救援医療プロジェクト(現国際緊急援助
隊)では、主任調整員として国境地帯で病院を運営。帰国後は長岡市を拠点に多文化共生社会を目指した地域づくり・グローバルな人づくりに携わり、協働による地
域力を世界に向け発信している。長岡市教育委員。まちなかキャンパス長岡学長。NPO法人市民協働ネットワーク長岡代表理事。ながおか・若者・しごと機構代表
理事。中越地震、中越沖地震、東日本大震災の際は外国人被災者の救援に尽力。外務大臣感謝状、JICA理事長賞、地域づくり総務大臣表彰、長岡市長表彰など受賞
歴も多数。
清水 由美子 氏
公益財団法人柏崎地域国際化協会事務局長、多文化共生マネージャー。地域での各種世界大会の通訳ボランティアを務めた後、1991年柏崎市役所国際交流推進室
の嘱託となる。中越沖地震で自宅が倒壊し自ら被災しながらも、地震の翌日から柏崎に住む外国籍住民向けに柏崎災害多言語支援センターを立ち上げる。地域の国際
化を進め、国際理解・多文化共生の意識の涵養に努めている。
3
新潟県国際交流協会の取り組み
2006(平成18)年総務省は、地域における多文化共生を「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等
な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義しました。これは、県民や来県者の誰もが住んで
よかったと実感する地域社会の形成を目指す新潟県国際交流協会の理念と一致しています。多文化共生社会実現のため当協会が取り
組んでいる事業の一部をご紹介します。
野
教育分
【外国につながる児童生徒等就学支援事業】
社会・経済のグローバル化の中、新潟県でも外国にルーツを持つ児童生徒は年々増加しています。これらの子どもたちの教育場面
において大きなハードルのひとつとなるのが高校進学のようで、通常学校で行われる進路説明会や三者面談だけでは必ずしも十分で
はないとか、外国出身の保護者が日本の教育に対する考え方や制度等を十分に理解していな
いため、保護者と学校間だけでなく、親子間でのコミュニケーションもままならないなどの
問題もあるようです。新潟県国際交流協会では、日本の教育に対する考え方や学校制度、高
日本の学校について
校入試などに関して解説した
高校への進学など
ガイドブックを、ふりがな入
り日本語を含めた10言語で
作成し、関係機関に配布する
とともに、ホームページで公
開しています。
また、このガイドブックを
活用しながら、教育関係者、地域国際交流協会、日本語教室等と連携
した進路ガイダンスを県内各地で開催しています。ガイダンスでは、
日本での高校進学の重要性を認識してもらい、将来の進路設計に必要
な情報提供を行っているほか、参加した児童生徒や保護者と学校関係
者等との意見交換の場ともなっており、日ごろ抱いている不安や疑問
進路ガイダンスの様子(新発田市)
の解消をとおして、親子間で進路に関するコミュニケーションを図る
きっかけづくりにもなっています。平成27年度は、8月30日(日)に上越市で、11月15日(日)に新発田市でそれぞれ開催し、外
国にルーツを持つ親子だけでなく、学校関係者や日本語指導ボランティアなど多くの方々に参加していただきました。
年度版
にっぽん
こうこう
がっこう
พิมพ์ ปี
タイ
語
しんがく
野
医療分
【医療通訳育成支援事業】
日本語力が十分でない外国人の方々が困る場面の1つに、医療機関の受診が挙げられます。患者が自身の症状を的確に医師等に伝
えること及び医師等の指導を患者が明確に理解することが検査や治療では不可欠となりますが、言語が壁となって外国人患者と日本
人医師等とのコミュニケーションがうまくいかないケースが少なからずあります。そこで、両者の間に入ってコミュニケーションを
図る医療通訳が求められています。
新潟県内では、これまで一部地域を除き医療通訳育成の取り組みは未着手でした。今般、民間団体「外国籍住民のための医療相談
会実行委員会」を母体に新たに組織された「医療通訳実行委員会(仮称)」が医療通訳育成に取り組むこととなり、新潟県国際交流
協会もこの取り組みを支援することとしました。平成28年度に一連
の医療通訳育成研修を実施して英語と中国語の医療通訳者の育成を目
指します。
医療通訳者には、身体機能や疾病、医療制度についての知識はもち
ろん、いかなるやりとりも冷静に正確に通訳する技能、患者に寄り添
いながらも中立・客観的立場を貫く姿勢、患者の秘密の保持等の高度
な見識が求められます。医療通訳は多文化共生社会において、誰もが
等しく健康を享受するという根幹部分を支える重要な役割を担ってい
ます。
医療通訳に関心をお持ちの方は、ぜひ育成研修にご参加ください。
また、多くの方々から医療通訳へのご理解とご協力をお願いします。
外国人に対する医療支援の先進例に関する勉強会の様子
4
野
防災分
【災害多言語支援ボランティア育成事業】
在住外国人の中には、言葉や文化の違い、防災に関する知識の不足により、災害時に支援が必要とされる人が多く存在します。
災害が発生した場合、外国人には次の「5つの壁」が障害になると考えられます。
・言 葉 の 壁…難しい災害用語や行政用語を理解できない
・文 化 の 壁…宗教や生活習慣の違い
・経 験 の 壁…防災訓練の経験や災害への知識不足
・制 度 の 壁…日本の法律規定や保険制度が分からない・在留資格や職業制限
・心 の 壁…日本人からの偏見・差別、避難所での孤立
災害時には、まず「言葉の壁」を壊し、外国人被災者の状況に応じて必要な情報を提供しな
がら、他の壁も壊していく支援が大切です。また、これらの壁は、外国人が日本で日常生活を
おくる上でも障害となっているものであり、災害時にはこれらの壁が特に鮮明になってあらわ
災害時外国人支援研修でのセミナーの様子
れる傾向にあるため、普段から、地域に住む外国人の文化や風習、言葉の違いを理解し、多文
化共生の地域づくりを目指すことが重要です。
新潟県国際交流協会では、災害時、外国人要援護者へ災害情報等を翻訳・通訳して発信する
ため、災害多言語支援ボランティアの確保と育成を行うとともに、県内で災害が起きた際に円
滑な外国人支援が行えるよう「災害時外国人支援研修」を実施して、関係者やボランティアの
意識啓発を行っています。
平成27年度は、今年1月9日(土)に新潟市で「平成27年度災害時外国人支援研修」を実
施しました。研修には、行政担当職員、社会福祉協議会職員、国際交流協会担当者、当協会の
災害多言語支援ボランティア、外国人支援に関心のある県民の方々が県内各地より集まり、災
害時の外国人支援について知識を深め、参加者が協働して行う模擬訓練では、活発に意見を出
災害時外国人支援研修での模擬訓練の様子
し合いました。
やさしい日本語豆知識
災害発生時、被災した外国の方々に多言語で情報を提供するには時間がかかります。一刻を争う状況下で、国籍や言語が異なる人々にできるだけ迅速に、
正確に情報を伝えるため、どの国の人にも理解できる「やさしい日本語」での情報提供が必要です。
でんしゃ
うご
【例文】★「電車は不通です」→「電車は 動いていません」
読みことばでは、同音や音が似ている語はなるべく使わないようにします。(「不通」?「普通」?)
よ しん
あと
く
じ しん
★「余震」→「余震<後から 来る 地震>」
災害時に知っておいた方が良い言葉はそのまま使い、その後に言い換えます。
談
生活相
【外国人生活相談事業】
文化や習慣の違いなどから日本での生活に問題や悩みを抱えている外国人の方々の不安を減らすため、新潟県国際交流協会では外
国語による生活相談窓口を開設しています。専任の生活相談員と通訳員が、来所はもちろん電話やスカイプでも相談に対応していま
す。電話は三者通話にも対応しており、相談者が通訳を介して相談先とやりとりすることも可能です。もちろん、相談は無料で秘密
は厳守されます。
ここに寄せられる相談内容は、暮らし、在留手続き、結婚・離婚、労働、教育など多岐にわたります。中でも外国人特有の事項で
ある在留手続きに関する相談が最も多く寄せられるため、原則として毎月第4水曜日には在留資格及びその手続きに精通した行政書
士が相談員や通訳員とともに相談に対応しています。また、東京入国管理局や新潟県行政書士
会と連携した外国人相談会も実施しています。
最近は外国人の定住者が増加しているためか、年金や介護についての関心が高まっているよ
うに見受けられ、在住外国人も日本人と同じような問題に直面していることがわかります。
「外国人ならでは」と「日本人と同様」の両方をふまえ、よりよい支援の提供を心がけなが
ら、これからも生活相談に対応していきます。
なお、
(公財)新潟市国際交流協会、長岡市国際交流センター、
(公財)柏崎地域国際化協会、
(公社)上越国際交流協会、民間団体「新潟ヘルプの会」でも、幅広い言語で外国人生活相
談に対応しています。詳しくは、新潟県国際交流協会ホームページhttp://www.niigata-ia.
新潟県行政書士会と共催した外国人相談会の様子
or.jp/jp/index.htmlの「生活相談窓口」をご覧ください。
新潟県では広い県土に外国人が散住しているため、周囲に同じ母国語を話す人がいない外国人の方は一人で悩みごとを抱え込んで
心細い思いをしているかもしれません。そんな方には、ぜひこの外国人生活相談窓口を教えてあげてください。
火曜日
タイ語、日本語
水曜日
午前10時~午後2時
中国語、日本語
木曜日
英語、日本語
場所:新潟県国際交流協会 相談窓口専用電話:025-241-1881 Skype ID:nia21c
※対応言語や日時は変更される場合があります。
5
ート
NIA活動レポ
「新潟・国際協力ふれあい基金」平成27年度助成プロジェクト決定!
「新潟・国際協力ふれあい基金」は、
「新潟からの国際協力」の推進を目的に、新潟県と
の連携のもと、平成7
(1995)年度に新潟県国際交流協会に創設されました。この基金
では、新潟県からの寄付金と県民の皆様等からお寄せいただいた募金を積み立て、その
運用益により、海外の開発途上地域や災害被災地域等で活躍されるNGOの皆さんの人道援助活動等に対し財政的支援を行ってい
ます。この基金による平成27年度の助成プロジェクトが次のとおり決定しました。
申 請 者
対象国
(特活)新潟国際ボランティアセンター
ベトナム
(特活)新潟県対外科学技術交流協会
モンゴル
タイ山岳少数民族支援の会
タイ
事業名
事業内容
孤児院に線香製造技術を
マダグイ子どもセンター自立支援事業
伝授し自立を支援
中小企業等への技術協力に係る研修生受 ものづくり技術の研修を
入事業
実施
現地パートナーNGOに車輌を
四輪駆動車買替え事業
提供
(特活)フィル・ジャパン・フレンドシップ フィリピン 救急艇造船事業(救急体制の確立)
黒龍江省におけるかんがい技術改善協力事
業実行委員会
南魚沼アジア交流会
教育と環境の「爽」企画室
メコン川流域地下水ヒ素汚染研究グループ
(特活)日本歯科ボランティア協会
中国
モンゴル
インド
ベトナム
無医島に救急艇を整備
ほ場整備やパイプかんがい等に
協力
日本文化(衣・食)を伝えるフォーラム 現地大学で日本文化を紹介する
&ワークショップ
イベントを開催
児童・生徒が使用するスポーツ用具・設 学校グラウンドで使用するス
備の購入及び設置事業
ポーツ用具等を提供
メコン川流域地下水ヒ素汚染対策フォ 安全な水の維持管理体制
ローアップ事業
づくりを支援
黒龍江省における農業農村整備協力事業
ミャンマー 歯科医療支援事業
口腔衛生指導等を実施
NIAインフォメーション
平成28年度 個人・団体賛助会員募集
新潟県国際交流協会では、国際協力・国際交流等の事業を支えてくださる個人と団体の賛助会員を募集しています。加入を
希望される方は、当協会ホームページをご覧いただくか、下記までご連絡ください。
■加入資格:当協会の目的に賛同される個人または団体
■会 費:個人会員 1口3,000円/年度、団体会員 1口10,000円/年度(いずれも1口以上)
■会員期間:平成28年4月1日~平成29年3月31日
■加入特典:
◯個人・団体会員共通特典 ・当協会の刊行物、イベント案内チラシ等の送付 ・イベント、セミナー等への優先参加
・国旗、民族衣装、図書等の貸し出し ・国際交流プラザでのパネル展示
◯個人会員特典 ・県立美術館入館助成券の進呈 ・県内施設、レストラン等の割引利用
◯団体会員特典 ・研修室の無料貸出 ・国際化推進活動助成金の利用 ・印刷機の利用
編集後記
今号も最後までお読みいただきありがとうございました。
ニューカマー(1980年代以降に日本に来て定住した外国人)と呼ばれる人々が多く暮らす外国人集住地域では、多文化共生に
関する先進的な取り組みが行われ全国的にも注目されており、地域間のネットワークも構築されています。その一方、外国人散在
地域は支援が遅れがちだと言われています。しかし散在地域だからこその「ゆるやかなつながり」を絶やさず、「ささやかな居場
所」を提供し続けることが、多文化共生社会にいがたに近づく第一歩なのだと感じます。
最後に、今回記事作成にご協力いただきました皆様に、この紙面を借りてお礼申し上げます。
■発行:公益財団法人新潟県国際交流協会 〒950-0078 新潟県新潟市中央区万代島5番1号 万代島ビル2階
電話:025-290-5650 FAX:025-249-8122 E-mail:[email protected] HP:http://www.niigata-ia.or.jp/
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