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カレント・トピックス No.16-10
平成28年3月31日
16-10号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
New Normal を迎えた中国銅需要と、需給変化に対応する世界各国のプレイヤー
―2016 年春季国際銅研究会(ICSG)参加報告(2)―
<金属企画部企画課 堀 琢磨 報告>
はじめに
2016 年 3 月 9-10 日にかけて、ポルトガル・リスボンにて国際銅研究会(ICSG)の春季定期会合
が開催され、今次会合に併せて、3 月 8-9 日に、国際銅会議が同市内で開催された。本稿では、各
国関係者のプレゼンテーションや意見交換をもとに、世界各国の動向について報告する。
1. 中国
1)消費と在庫(Jinrui Futures の講演)
①“New Normal”へ:年率 10%の消費拡大を続けてきた中国銅市場は、拡大のペースを 5%程度
に減じるものの、引き続き銅の消費は増加する。
②分野別消費動向:2011 年頃から、不動産建設に関係する建材・家具・家電や、金属・機械・
化学関係工場の設備投資に関係する需要の伸びが緩やかになり、中には、管継手のように、
マイナスに転じているものもある。エアコンの年間需要は、中国国内向けと輸出向けが半々
であり、年間需要の半分(すなわち中国内需向けに相当)の中間在庫が生じた。他方、5 か年
計画のもと、発送電分野の需要は、堅調に推移する。
③取引所在庫の変化:世界における主要取引所の在庫(LME、SHFE、中国保税、COMEX の合計)は、
2014 年ピークの 1.3 百万 t から、2015 年末に 0.9 百万 t へ、約 3 割減じた。2016 年 1 月末におけ
る中国保税倉庫の在庫は、2014 年のピークと比べて、半分程度の 0.41 百万tまで下がってきた。
一方で、上海取引所(SHFE)の在庫は、2016 年1月末時点で 0.27 百万tまで積み増されている。
2)供給面(安泰科の講演)
①調達形態:精鉱の輸入が急増しており、2015 年の輸入は、地金(3.5 百万 t 超)、精鉱(3.5 百万
t)が拮抗している。一方、スクラップはやや減少傾向にあり、2015 年の輸入は 1.5 百万 t である。
②国内精鉱の供給計画:2015 年 1,558 千 t→2020 年 1,780 千 t に増産する。増加の要因は、チベ
ット Qulong 鉱山(2017 年~、100 千 t/年)、Xioncun 鉱山(2016 年~、60 千 t/年)である。
③国内銅資源循環の見通し:銅スクラップについては、2019 年から、中国国内スクラップの供
給量が、スクラップの輸入量を超える見通しである。2020 年には、中国国内スクラップ 1,800
千 t、輸入 1,600 千 t になると予想される。
1
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2. インド(Vedanta の講演)
1)インドの銅産業
①主要企業:インド最大の非鉄会社Vedanta 傘下の Starlite Copper 社(インド銅市場の 3割シェア、
製錬能力年産 400 千 t、Konkola 銅鉱山(ザンビア)を保有)、Birla グループの Hindalco 社(製
錬能力年産 500 千 t)、Hindustan Copper(政府系)である。
②スクラップ:スクラップの輸入は、52.6 千 t である。ブラックロッドの年産は、130~140 千
t であり、原材料に占める輸入スクラップの割合は 34%である。
2)今後の動向
①消費:2015 年 588 千 t が、2020 年 902 千 t(世界 4 位)に伸びると予測する。年率 8%であ
り、成長率では、同時期の中国銅市場の成長率を上回る勢いになる。この背景には、都市化、
住宅需要(Housing for all キャンペーン)、インフラ需要(電力網、鉄道)、内需を中心と
する製造業の発展(自動車、電機機器)があり、需要が喚起される。1 人あたりの銅消費量は
0.5 ㎏(世界平均 3.1 ㎏)であり、市場拡大の余地が十分ある。
②供給:国内鉱山は非常に少ないが、インド政府は、2016 年末までに、12 の銅鉱山(可採埋蔵
量計 10~15 百万 t)について、オークションを行う予定である。
3. チリ(COCHILCO(チリ銅委員会)の講演)
1)供給
①想定価格の下方修正と生産調整:COCHILCO では、世界の価格動向を踏まえ、1 年前に想定し
ていた 2016 年の銅価格 280¢/lb(重量ポンド)を、220¢/lb に下方修正した。チリの銅輸出
先(2014 年)は、中国 40%、日本 13%、欧州 13%、韓国 8%、インド 6%であり、現在、中
国需要の伸びが緩やかになっている。2015 年の探鉱費について、前年比を見ると、世界では
18.3%減少したが、チリの減少率は 13.1%にとどまっている。
②今後の動向:上述の状況に伴い、プロジェクトの見直しを進めている。鉱石生産約 600 万tの
うち半分程度が、200¢/lb 以下のコストであり、大勢に影響がない。一方、Ampliacion Los
Pelambres Ⅳ 6,500 百万 US$、Collahuasi Expansion Fase Ⅲ 7,000 百万 US$等について見直
しを進めている。価格は、長期的には 287¢/lb に上昇すると予想している。
2014 年 5.75 百万 t(精鉱 68%、カソード・SxEw32%)から、2026 年 6.16 百万 t(精鉱 88%、
カソード・SxEw12%)に伸び、その構成はカソード・SxEw の割合低下に特徴づけられる。
2)操業環境
①ユーティリティー:世界の鉱山では、2010 年頃から運営費の伸びを引き離すように、資本支
出が著しく上昇した。しかし、チリでは、高い電力コスト等を背景に運営費も上昇している。
電力使用量の低減に加えて、乾燥地ゆえに水の使用量削減が課題である。電力消費量は 2015
年 22.15TWh から 2026 年 34.00TWh に上昇する見込みであり、発電能力を上げる必要がある。
水の利用は、2015 年 13.3 ㎥/s(うち海水 2.5 ㎥/s)から、2026 年 10.8 ㎥/s(うち海水 10.7
㎥/s)となり、水消費量の削減と海水への転換を図る。
②機能強化:鉱業の付加価値向上(Valor Minero 等のイニシアティブ)を図るとともに、チリ
環境基本法への対応が重要である。排ガス環境規制については、3 つの製錬所が 2016 年の亜
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硫酸ガス削減対象であり、2018 年に 4 つの製錬所について亜硫酸ガスの削減を行う。また、
氷河地域周辺の環境保護に関する議論が進んでいることにも留意する必要がある。
4. DR コンゴ(鉱山省の講演)
1)カッパーベルトの復活
ザンビアとの国境地帯の Katanga 州と、首都 Kinshasa 西部の海岸に近い地域が産銅地帯であ
る。歴史的に振り返ると、1970 年半ばから 1980 年代後半まで 400 千 t を超えた。その後、混乱
下で生産は低迷を続ける。過去 10 年間で、銅鉱石の生産は、2005 年 28 千 t から、2010 年 500
千 t、2015 年 1,069 千 t に増加している。鉱石の半分は国内で SxEw 等の処理を行い、残りの半
分は隣国ザンビアへ輸出している。
プロジェクト名
主な所有者
Tenke Fungurume Mining,
TFM Sari
Ivanhoe Mines,
紫金鉱業集団
Freeport Mc Moran,
Lundin/TMC
SICOMINES Sarl
Gecamines, Chinese Consortium(中国五鉱集団等)
Katanga Mining Limited
Katanga Mining (TSX)/Glencore
Frontier Mining Limited
Ruashi Mining
Eurasian Natural Resources Co.ltd
Metorex Pty Ltd(金川国際集団等)
Kamoa Copper Project
鉱山名
可採埋蔵量
百万t(Cu)
Kamoa
15-
Kwatebala, Tenke,
Fwaulu
10.5
Aggr.
6.9
Kamoto, KOV,
Tilwizembe
Lufuna/Kishiba
Ruashi
1.5
1
1
2)今後の懸念材料
2014 年に、7,874 百万 US$に達した銅の輸出は、2015 年には半分以下に下がる見込みであり、
今後の輸出低迷を懸念している。重量ベースで、最近の輸出動向を月別に見ても、2015 年の月
平均は 83 千 t であったのに対し、2015 年 12 月は 70 千 t、2016 年 1 月は 68 千 t へと下降気味
である。輸出先の需要変化に加えて、電力の安定供給も懸念材料である。Inga3 プロジェクトを
はじめ、水力発電のポテンシャルが大きい地域がある。電力分野は従来と比べて参入しやすく
なった。新規の発電機需要のみならず、古い設備の更新需要も発生する。
5. イラン(NICICO(イラン銅公社)の講演)
1)これまでの動向
①イランの銅鉱山:西はルーマニアから、イラン、チベットを経由し、東はスマトラ島まで、金属
鉱床の発達が良好な“Tethyan Metallogenic Belt”が伸びている。イランには、西の Sungun エリ
ア、中央部の Sarcheshmeh エリアを中心に、全国 7 つの産銅地域、すなわち、East Azerbaijan、
Ardabil、South Khorasan、Sistan & Baluchestan、Kerman、Isfahan、Yard が広がる。
②NICICO の概要:イラン最大の銅企業であり、可採埋蔵量において、世界シェア 3~4%を占めている。
その傘下に、Kerman copper(Sarcheshmeh 鉱山・製錬所、Miduk 鉱山・製錬所等)と、Azerbayjan
copper(イラン西部のSungun鉱山・製錬所)を抱えており、年間生産量は、2015年107万tに達した。
Sarcheshmeh 及び Miduk 鉱山の可採埋蔵量は、1,500 百万 t であり、800 千 t の銅精鉱プラン
ト、7 千 t のモリブデンプラント、13 千 t の SxEw プラント、電解工場、加工工場(ワイヤー
ロッド、スラブ、ビレット)を保有する。一方、Sungun 鉱山は可採埋蔵量 800 百万 t であり、
300 千tの銅精鉱プラント、3.3 千 t のモリブデンプラントを持つ。
3
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2)今後のプロジェクト
NICICO は、2020 年までに、鉱石 420 千t(2015 年 251 千t)、製錬 365 千t(2015 年 236 千
t)、電解 300 千t(2015 年 185 千t)に生産能力を増強する予定である。NICICO は、1970 年
代に海外大手と協力してきた実績があり、Dar Aloa 鉱山、Darehzar 鉱山等への投資を歓迎し、
協力して開発を進めていく。これまで、ペルシャ湾、中国、トルコ、アフリカに限られてきた
販路を、欧州、中国、米州等にも広げる方針である。
イランにおける今後の開発プロジェクト
プロジェクト名
Dar Aloa Copper Mine & Plant
Darehzar Copper Concentrator Mine & Plant
Chah Firozeh Copper Mine & Plant
Taft Copper Mine & Plant
Chehel Kooreh Copper Mine & Plant
地域
Kerman
Kerman
Kerman
Yard
Systan & Baloochestan
プロジェクト
開始
2015
2015
2012
2011
2010
生産開始
2019
2018
2019
2019
2016
生産量
千 t/a
100
150
100
106
16.7
精鉱中
銅成分
26%
26%
25%
26%
20%
まとめ
国際銅研究会の動向と、世界動向のポイントは以下の通りである。
国際銅研究会の動向
10
年
前
世界動向
① 非鉄研究会の拠点統合:2006
① 指標:LME 価格と LME 在庫の相関関係。
年、銅研究会(リスボン)、鉛亜
② ICSG 統計(単位:千t)
鉛研究会(ロンドン)、ニッケル
2005 年 鉱石 14,925、地金生産 16,572、消費 16,564
研究会(アムステルダム)の拠点
集約、事務局長及び総務部門の兼 ③ 需要:輸入ポジションの中国では、内需向け(電力インフラ関係
等)及び輸出製品向け(電気・電子部品等)の需要が急増、SHFE
務化等、ユニークな統合。
(Shanghai Futures Exchange)における取引の活発化。
② 日本人の役職:資源エネルギー庁
鉱物資源課 朝日課長(当時)が ④ 供給:採鉱対象鉱床の低品位化・深部化・奥地化。鉱山開発コスト
の上昇。
2006 年総会議長
統合の効果:組織機構、予算執 ① 指標:在庫は LME+SHFE+中国保税倉庫+COMEX。
行、調査業務(地域動向、環境規
② 資金流入・流出の影響:コモディティーとして同一視される銅。LME
制)等のシナジー効果を発揮。
銅は、英 ICE 原油、米 CME 原油に続く市場サイズ。COMEX 金市場よ
り大きい。他コモディティーが好調な時は銅にも資金が集まり、他
② 加盟国・地域国:豪州、ベルギー、
方で、需給状況に関わらず、資金が去る。青島以降の投資変化。価
チリ、中国、フィンランド、EU、フ
格のボラティリティーが高まるかどうかは見方が分かれる。
ランス、ドイツ、インド、イタリ
①
現
在
ア、日本、ルクセンブルク、メキシ
③
コ、ペルー、ポーランド、ポルトガ
ル、ロシア、セルビア、スペイン、
スウェーデン+過去 2 年にザンビ
④
ア、イランが加盟。
③ 加盟国のシェア:世界鉱石生産の
75%、地金生産の 85%、地金消
費の 86%シェア。
ICSG 統計(単位:千t)
2015 年 鉱石 19,138、地金生産 22,821、消費 22,878
需給バランスは均衡状態。2015 年実績 -57 千 t。
需要:中国消費は世界の半分となり、建設、電力、家電等に関する消
費増に伴う精鉱、地金、スクラップの輸入増。欧米日におけるリサイ
クルの進展(欧州銅需要の 55%はリサイクルによる。ICA によれば、
1900 年以降に採掘された銅の 2/3 は今なお利用されている)。
⑤ 供給:鉱石生産の 3 割はチリ。銅の探鉱費(2015 年)は、南米 838
百万 US$、欧・北米・豪 804 百万 US$、アジア・アフリカ 430 百万
US$。新規案件は、モンゴル Oyu Tolgoi、チリ Los Pelambres 拡
張、Sierra Gorda、ペルーToromocho、Las Bambas。川上に特化した
メジャーの経営変化。生産調整や資金難によるプロジェクト遅延
は、減産に直結。実需給のタイト化を懸念。
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① 指標:地金で取引が生じる産業構造を持つ、消費地の取引所に注目。
② 需給:2020 年までに供給不足の感等、見方は様々。
10
年
後
③
需要:中国は、内需増の緩やかな伸び+為替相場に影響される輸
出、国内銅資源循環増(スクラップ使用量に占める国内スクラップ
の使用率は 5 割強へ)。国内鉱に乏しいインドやブラジル需要が増
加。中東は地場のアルミニウム指向か。インドと中国は都市化率や
銅製品輸入に違いあり。分野別には、材料置換の進展により、建築
配管、情報通信、ラジエーターの伸びは緩やか。
④
供給:産銅国における製錬能力増強、精鉱品位の更なる低下。新規
案件は、米 Pebble、ペルーLas Bambas、Cobre Panama、DR コンゴ
Kamoa、露 Udokan、フィリピン Tampakon、チリ Andina 等。
加盟の可能性:オブザーバーとして今
次会合に DR コンゴ、モンゴルが出
席。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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