実験を進めるにあたって 1. 目的 近代自然科学は種々の実験結果の上に築き上げられたもので、これまで学んできた学問の多 くは実験によって普遍性が検証され体系づけられている。これらの学問を講義で学ぶことは知 識を身に付ける上で重要であるが、講義で習った現象を観測・測定を通して目前で体感するこ とは,研究者あるいは技術者としての五感を磨く上で非常に重要である。本実験の目的として 次の6つの項目があるので、実験をする際には常に頭に入れておく必要がある。 本実験の目的 1.講義の内容の理解を助ける。 2.測定装置の取扱い方法を習得する。 2.測定装置の取扱い方法を習得する。 3.共同実験者とのコミュニケーション能力を育成する。 4.データの扱い方を習得する。 5.良い実験ノートを作るための訓練をする。 6.説得力のある報告書(レポート)を書く訓練をする。 2.本実験の進め方 2.1 実験の準備・評価 (1) 実験室に入る前に本実験指導書を読んでおくこと。 (2) 持ち物として、実験ノート、電卓、筆記用具、定規、グラフ用紙などを準備する。実験ノ ートはページが綴じてあるものを使用し、ルーズリーフなとの挿抜できるものを用いない。 (3) 実験中に出席を確認する。無断で休むと共同実験者に迷惑を与えるので、欠席をする事情 のある場合は原則として事前に担当教官に届け出ること。 (4) 報告書を提出した段階でその実験への出席・完了とみなす。報告書提出期限は、原則とし てその実験の最終時間割日の1週間後とする。報告書の内容が不備であるものには書き直 しを求める。 (5) 実験の評価は、すべての実験に参加して報告書を完成させることが前提である。参加しな かった実験、報告書を提出しなかった実験が1つでもあった場合の評価は不可である。 2.2 実験手順 以下の手順で実験を進める。 実験の進め方 (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g) (h) (i) (j) (k) (l) 何を測定してどんなデータを得ようとしているのかを理解しておく。 何を測定してどんなデータを得ようとしているのかを理解しておく。 必要なデータの数と精度を決めておく。 測定されるデータがどれくらいの値になるのが妥当なのかを理解しておく。 計器類の零点調整などが必要かどうかをチェックする(3章参照)。 機器の測定精度、誤差などから測定データの精度を頭に入れておく(4章参照)。 実験装置、実験方法をノートに書き込む。 3,4点データを取ってみて解析し、 3,4 点データを取ってみて解析し、実験が期待どおりに進んでいるかを確認する。 期待どおりに進んでいない場合は、その原因を探して測定回路あるいは想定方法 を改善する。 期待どおりに進んでいる場合は、データ数を妥当な数に増やして測定する。実験 ノートには、測定データだけでなく実験中に起こった出来事も詳細に記録する。 測定結果を解析する(5章参照)。データの整理、プロットはできるだけ実験中 に行う。データの不足、測定ミスなどが直ちにわかるので、必要ならば再実験を 行う。 実験終了後は後片付けをし、実験器具の電源を全て切って帰る。 実験結果を報告書にまとめる(6章参照)。 3.測定機器の調整と較正 3.1 調整 機器を正しい使用状態にすることを調整と言う。例えばオシロスコープのプローブの調整、 機器類の零点の調整などである。機器類では目盛り板を水平にして使うものと、垂直にして使 うものとがある。その指示は普通目盛り板に記載されている。そのような指示に従って正しく 設置することも調整の一種である。基本的にすべての機器は使用前に調整が必要である。マイ クロコンピュータが内蔵されている機器では、電源投入時に自己診断を行ないメッセージを表 示するものも多いので、このメッセージやエラー表示ランプ等に十分注意する必要がある。 3.2 較正 目盛りを正しくすることあるいは目盛り定めを較正と言う。較正を正しく行なうためには何 か基準が必要である。オシロスコープでは較正器(calibrator)と称して方形波の基準電圧が でている。直読目盛りがついていない場合、例えば発信器ダイアルに目盛りはあるのだが周波 数とは関係ない場合、その周波数を別の周波数カウンタで測定してダイアル目盛りとの関係を プロットして曲線を描く。その曲線を用いてダイアル目盛りを読んで周波数を知る。このよう な曲線を較正曲線と称する。 4.測定精度と測定誤差 4.1 測定精度 実際に測定機器にはその測定機器で測定しうる 0.5 1.5 最小限度がある。図1のようにものさしで物体の 1.0 長さを測定する場合を考える。物体の長さXは、 1. 2と1.3の中間にきているので、1mmの目盛りの 図1 ものさしで長さを測る 間を目分量で読みとって、12.5mmと測定できる。 しかし、三桁目の5は正確に5であるという補償は ないので12.5mmは真の値ではない。そこで、もっと精密に測定できるマイクロメータを用いて 同じ物体を測り直したところ、長さの指示が12.56と12.57の間にきて、やはり、最小目盛りの 間を目分量で読んで、12.563mmを得たとする。この12.563mmも、真値であるとは言えない。こ の例ではものさしでは真値の三桁目まで、マイクロメータでは五桁目まで測定したということ になる。測定機器には測定しうる最小量があり、それ以下の微小量は判別できないので、測定 値には必ず誤差が含まれることになる。 Xという長さをδXの詳しさで測定できるとき、δX/Xを測定精度と呼ぶ。測定を行なう 際には、使用する測定機器の精度をあらかじめ検討して、目的の実験に適した測定機器である かを吟味することが望ましい。上述のものさしの場合、δXは0.1mmであり、Xは12.5mmであ るから、測定精度は0.8%となる。ちなみに精度という言葉の定義は曖昧に使われることも多 く、測定値の誤差を論じる場合に、測定値のバラツキの程度を指して精度と言っている場合も あるので、注意を要する。ここでいう測定精度は、後述の測定値の有効数字の桁数を決定する ための目安となる量である。 普通の測定器にはそれぞれ目盛りがついている。その測定器に狂いがなければそれらは真値 と一致している。実際には機器により多少の狂いはつきものであり、その差を器差と呼んでい る。広く使われている測定器を製品として市販する場合には計量法や日本工業規格(JIS)に よって、製品に対して許される最大の器差(公差)が定められている。 電流計、電圧計の計器類では目盛り板に0.5級とか1級とかの表示がある。n級と称する場 合その計器の公差が最大目盛りのn%であることを示している。オシロスコープのような計測 器では、精度はその「取扱説明書」に示されている。 それが何をみるための測定器であるかに十分注意するべきである。例えば通常のオシロスコ ープは゛波形″の概要をパターンとしてみるための機械であり、電圧や時間スケールも読める ようになっているが正確ではない。交流電圧計は電圧の実効値を示す計器であり、正弦波電圧 に対して意味を持つことに注意する。 4.2 測定誤差 (1) 規則的誤差 規則的に起こる誤差である。したがってその規則を見抜くことにより、この種の誤差を取り 除くことができる。例えば計器の零点が狂っている場合には、その狂いを含めて計測してしま うが、このような誤差は極力取り除くべきである。実験の上手、下手はこの種の誤差にどう対 処するかにかかっている。また、これに属するものとして個人誤差と称するものがある。同じ 測定装置を用いて、同じものを複数の人に測定させると、偶然とは言えない測定者による違い が見いだせることがある。最小目盛りの1/10までの値を読みとるとき、8と読むべきところを9 と読む癖のある人がいる。 規則的誤差を取り除く作業を補正と言う。例えば水銀温度計はその全体を一様な温度にした ときに正しい温度になるように作られている。ガラスと水銀との熱膨張係数の違いを考えると、 少なくとも水銀柱の上りきったところまでを測定温度に保つべきである。しかし、測定すべき 液体の量が少ない時にはそこまで温度計を入れることができない。水銀柱の一部は室温になっ ている。このような時は熱膨張係数の違いから理論的にどの程度の誤差が生ずるかを計算でき る。そのような考察を行なって測定値をより正しい値にすることを補正を行なうという。 (2) 過失 1.01と読むべきところを1.1と読んだり、2間隔の目盛りを1間隔の目盛りと間違えて読ん だりするのは測定者の過失である。このような過失は測定値を正しく書き並べたり、図上にプ ロットすることにより容易に発見できる。発見したらただちに訂正すべきで、過失を含めたま まで平均などの処理を行なうべきではない。実験ノートは過失の発見に役立つ。 (3) 偶然誤差 上記の二つを完全に取り除いたあとに残る誤差である。一定条件での多回路の測定値の最下 位桁の値が違っているのはこの種の誤差である。雑音、電源変動、台の振動、気温の変化など 種々要因が重なったものである。あるものは正、あるものは負に働いていてその結果がこの誤 差となる。多くの測定値の平均をとるのは、この誤差を取り除くためのものである。単に誤差 といえばこの種の誤差を指すのが普通である。過失等も含めて誤差とすることのないように注 意する。 5. 測定した数値の取り扱い 5.1 有効数字 位取りのために用いる0以外で、確からしさを考えて並べた意味のある数字を有効数字とい う。普通最後から2桁目の数字までは信頼でき、最後のものは不確かさを持つようにする。例 えば303mmという場合、300mmまでは確かだが最後の桁は3に近いと思われ、2あるいは4かもし れないということを意味している。したがって303mmと303.0mmとでは意味が異なる。 有効数字はどこまでかということを常に念頭におくべきである。電卓による実験値の剰余計 算の場合、最終結果は有効数字を考えて記すべきである。例えば、有効数字3桁同士の剰余計 算では、計算結果も有効数字3桁である。 5.2 単位の接頭語 単位の接頭語 大きな数値あるいは小さな数値を表現するために、表1のように単位記号の頭につける係数 が準備されている。例えば、0.0036mは3.6mmのように書くべきである。また、1100Ωと書いた 場合、有効数字の0か位取りの数字かを明示するために1.10kΩのように書く。×10nというよ うな表現も同様の場合によく使われる。単位記号の大文字と小文字は使い分けられているから 注意が必要を要する。kはキロであり、Kはケルビンである。sは秒であり、Sはジーメンスであ る。大文字は人名に由来するものが多い。 表1 読み方 テラ(tera) ギガ(giga) メガ(mega) キロ(kilo) ミリ(milli) 記号 T G M k m 倍数 1012 109 106 103 10-3 単位の接頭語 読み方 マイクロ(micro) ナノ(nano) ピコ(pico) フェムト(femto) アト(atto) 記号 μ n p f a 倍数 10-6 10-9 10-12 10-15 10-18 6. 報告書の書き方 実験ノートをもとに報告書を作成して実験は完了する。実験ノートは自分のメモであるから 記入法は自由であるが、他人が読んでも分かるように必要な情報を全て記入する習慣をつける。 テーマ、日時、協力者名、データ、測定条件等、報告書作成に必要なものすべてを記入してお く。 報告書を書くことは自分の考えをまとめるのに大いに役立ち、論理性、表現力、注意深さ等 を育てるためにも役立つ。報告書を長く書く必要はない。本実験指導書の内容を報告書の頁数 を増やすために写すことは不要である。その労力分だけ簡潔にまとめて、要を得た短い報告書 にまとめる工夫をした方がよい。 6.1 報告書の構成 実験の種類によって報告書の書き方は異なるが、通常の報告書では次のような構成になる。 1. 2. 3. 4. 5. 目的 実験装置・方法 実験結果 考察 参考文献 ゛1. 目的″では実験の意義、目的などを述べる。゛2. 実験装置・方法″では実験装置およ び実験の方法を記述する。実際の報告書ではこれらの2項目については簡潔に要点を記述す る。゛3. 実験結果″では得られたデータを図、表などに表示し、明らかになったことを客観 的に簡潔に記述する。゛4. 考察″では実験結果、方法、測定精度などに考察を加える。自分 の考えを記述できる章である。゛5. 参考文献″では報告書を書く際に参考にした文献のリス トを書く。 6.2 報告書を書くポイントABC (a) 報告書の文章は自分の文章であること。 (b) 主語と述語(動詞)のつながりを正しく明確に記述する。 (c) 受動文より能動文の方がよい。「・・・が行われた」よりも「・・・を行った」の方 が自分たちが行ったという積極性が感じられる。 (d) 誤解を与えぬ文章にする。ただし、誤解を与えぬためといって長たらしい修飾語句を 付加することはよくない。単文をつなげる方がよい。 (e) 話し言葉と文章言葉は異なることに留意する。 話し言葉と文章言葉は異なることに留意する。 (f) 用いた図、表については本文中で必ず言及する。 (g) 報告書内のすべての算用数字には単位をつける。番号のようなもの、無名数、0 報告書内のすべての算用数字には単位をつける。番号のようなもの、無名数、0、∞は 例外である。 (h) 理論があれば必ず実験結果と比較し、矛盾や大きな違いがあれば、その点を必ず考察 する。それを誤差だと断定する場合には定量的にその誤差原因を論ずる。 (i) 定性的な議論は、必ず定量的な議論にするように努力する。 (j) 引用文、引用図表は原則として変えないで引用し、引用文献、参考文献を示す。 (k) 本書の「グラフ作成上のポイント」をよく読んで、作成したデータをチェックする。 安全のための注意事項 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) 周囲の環境,安全を確認,対象機器の仕様を確認する。 実験指導書中の機器の取扱いに関する注意事項をよく読み、あらかじめ十分把 握しておく。実験機器の構成・配置を考慮する。 スイッチ等の開閉機器をみだりに操作しない。 配線は負荷側から電源側へ,最後に電源開閉機器端子へ接続する。 電流回路(直列回路)を先に配線し,これを確認した後、電圧回路(並列回路) の配線を行う。 電流計は直列、電圧計は並列に接続する。 電流回路、電圧回路に用いる電線の色分け、太さの区別をする。 配線確認後にスイッチを入れる。 ヒューズ溶断事故の際は、原因を確認後に適正容量のヒューズと交換する。 電源スイッチは万一に備え開放できる体勢で投入し、安全確認後に手を離す。 電源スイッチの開閉は責任者の指示で行い、勝手に操作しない。 実験中、発熱、発煙、臭気、振動などに注意する。 緊急時は速やかに電源スイッチを切る(緊急時の対応を検討しておく)。 不明な点は指導教官の指示を受ける。 実験装置、機器が壊れたときは、速やかに指導教官に申し出る。
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