人口動態の変化からみた温泉地の役割 2015年7月31日 産業調査部 関口陽一 目次 日本の人口動態の変化 …………………………………………… P. 2~3 高齢者の実態 …………………………………………… P. 4~5 観光旅行の動向 …………………………………………… P. 6~8 温泉地のポテンシャル …………………………………………… P. 9~11 超高齢社会における温泉地の役割 …………………………………………… P.12~16 著作権(C)Development Bank of Japan Inc. 2014 当資料は、株式会社日本政策投資銀行(DBJ)により作成されたものです。 当資料は、著作物であり、著作権法に基づき保護されています。著作権法の定めに従い、引用する際は、必ず出所:日本政策投資銀行と明記して下さい。 当資料の全文または一部を転載・複製する際は著作権者の許諾が必要ですので、当行までご連絡下さい。 お問い合わせ先 株式会社日本政策投資銀行産業調査部 Tel: 03-3244-1840 E-mail:[email protected] 1 日本の人口動態の変化 ①総人口と人口構成 総人口 総人口が減少に転じる一方で高齢化がさらに進 む 今後、人口が増加するのは75歳以上のみ 2048年 1億人を下回る 2057年 9,000万人を下回る 2060年 8,674万人 【年齢4区分別人口及び高齢化率の推移】 160,000 ←実績 140,000 人 口 ( 千 人 ) 推計→ 120,000 高齢化率 40% 30% 100,000 80,000 20% 60,000 40,000 1970年 1億人を超える 2010年 1億2,806万人まで増加 1970年 高齢化社会(高齢化率7%以上) 1995年 高齢社会(高齢化率14%以上) 2010年 超高齢社会(高齢化率21%以上) 2060年 高齢化率39.9% 10% 75歳以上人口 20,000 0 0% 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 年 0~19歳 20~64歳 65~74歳 75歳以上 高齢化率(右軸) 75歳以上比率(右軸) 1950年 100万人を超える(総人口比1.3%) 2005年 1,000万人を超える(総人口比9.1%) 2010年 1,418万人(総人口比11.1%) 75歳以上人口のみ2055年まで増加 (備考) 総務省統計局 『国勢調査報告』(1960~2010年) 国立社会保障・人口問題研究所 『日本の将来推計人口(平成24年1月推計)』(2015~2060年) 2 2060年 2,336万人(総人口比26.9%) 日本の人口動態の変化 ②少子高齢化 合計特殊出生率 合計特殊出生率が人口置換水準を上回る水準 に回復することは考えにくい 平均寿命は男女とも2060年までにさらに4年延 びる 晩婚化とそれに伴う晩産化、生涯未婚率の 上昇により低下 1974年 2.05 この後、人口置換水準(2.08)以下が定常化 【平均寿命及び合計特殊出生率の推移】 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 1947 1953 1959 1965 1971 1977 1983 1989 1995 2001 2007 2013 2019 2025 2031 2037 2043 2049 2055 2060 平 均 寿 命 ( 年 ) 1947年 4.54 平均寿命(男性) 平均寿命(女性) 2013年 1.43 合 計 特 殊 出 生 率 ( 人 ) 年 2060年 1.35 平均寿命 1947年 男性50.06年、女性53.96年 生活環境の改善、栄養状態の改善、医療技 術の進歩による死亡率の大幅な低下などに より長寿化 2013年 男性80.21年、女性86.61年 合計特殊出生率 (備考) 厚生労働省 『簡易生命表』(平均寿命)、『人口動態調査』(合計特殊出生率)(1947~2013年) 国立社会保障・人口問題研究所 『日本の将来推計人口(平成24年1月推計)』(2015~2060年) 3 2060年 男性84.19年、女性90.93年 高齢者の実態 ①平均寿命と健康寿命 90 85 健康寿命は、日常的に介護を必要とせ ず、自立した生活ができる生存期間 寿 80 命 ( 年 75 ) 男女とも、平均寿命の延びと並行して 健康寿命も増加しているが、平均寿命 70 と健康寿命の差は、男性約9年、女性 65 2001年 2004年 2007年 平均寿命(男性) 2010年 2013年 約12年から、なかなか縮まらない また、男女ともに健康寿命は75歳には 健康寿命(男性) 到達していない 90 政府は、2013年度から10年間の計画 85 である健康日本21(第二次)において、 寿 80 命 ( 年 75 ) 2032年に平均寿命の増加分を上回る 健康寿命の増加を目標にしている 70 左図表 【平均寿命及び健康寿命の推移】 65 2001年 2004年 平均寿命(女性) 2007年 2010年 2013年 健康寿命(女性) 4 (備考) 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会 第2回 健康日本21(第二次)推進専門委員会(2014年10月1日開催) 資料1 健康日本21(第二次)各目標項目の進捗状況について 高齢者の実態 ②日常生活 【日常生活に影響のある人の割合(2013年)】 50% 日常生活に影響のある人の割合は、 40% 64 歳 以 下 7.1 % に 対 し 、 65 ~ 74 歳 30% 17.7%、75~84歳32.0%、85歳以上 20% 47.8%と年齢を重ねるにつれて増加 基本的な行動である起床、衣服着脱、 10% 0% 総数 日常 生活 動作 64歳以下 外出 65~74歳 仕事 家事 学業 75~84歳 運動 その他 食事、入浴などの日常生活動作、外出 において、特に75歳以上の人々の日 常生活に影響が生じている 85歳以上 (備考)厚生労働省 『国民生活基礎調査』 影響のある日常生活は複数回答 増加を続ける75歳以上の人々の健康と日常生活を改善、向上させていく取り組みが不可 欠と考えられる 5 観光旅行の動向 ①温泉地の動向 第二次世界大戦後、高度経済成長期 【温泉地の宿泊施設数等の推移(1957年度=1)】 に温泉地は盛り場的な色彩を強めて 5.0 4.5 対 1 9 5 7 年 度 比 ( 1 9 5 7 年 度 = 1 ) 一泊二日宴会型の宿泊観光地となり、 4.0 3.5 社内慰安旅行、企業の招待旅行など 3.0 の団体旅行の受け皿として、大浴場と 2.5 2.0 宴会場を備えた大規模な旅館・ホテル 1.5 1.0 の建設が相次いだ 0.5 宿泊施設数 収容定員 2011 2008 2005 2002 1999 1996 1993 1990 1987 1984 1981 1978 1975 1972 1969 1966 1963 1960 1957 0.0 年 度 年間延宿泊利用人員 バブル崩壊後、経営が悪化して多くの 旅館・ホテルが廃業に追い込まれた 一方で、自然環境や丁寧なもてなしに (備考)環境省 『温泉利用状況経年変化表』 より規模を追求してこなかった温泉地 は堅調だった 近年は、各温泉地が個の旅館の魅力 とともに、高度経済成長期からバブル 期に失われた温泉街の活気の復活等、 地域としての魅力を高めることにより、 温泉地再生を目指している 6 観光旅行の動向 ②高齢者と観光旅行 50% 70歳以上は、「健康上の理由」から 40% 宿泊観光旅行をしなかった割合が 30% 高い また、70歳以上は、「優先的にお金 20% を使いたいもの」として「健康維持 10% や医療介護のための支出」を挙げ る割合が高い一方で、「旅行」とす 0% 経済的余裕がない 全体 時間的余裕がない 60~69歳 健康上の理由 る回答の割合が低い 70歳以上 50% 70歳以上の人々は、健康上の理 由から旅行を躊躇してしまうので はないか? 40% 30% 20% 左上図表【宿泊観光旅行をしなかった理由】 10% (備考)公益社団法人日本観光振興協会 『平成26年度版 観光の実態と志向』 0% 健康維持や 医療介護の ための支出 旅行 左下図表【優先的にお金を使いたいもの】 子どもや孫の ための支出 (3つまでの複数回答) 全体 60~69歳 (備考)内閣府政策統括官(共生社会政策担当) 『高齢者の経済生活に関する意識調査結果』 2012年3月 70歳以上 7 観光旅行の動向 ③訪日外国人 【訪日外客数の推移】 85% 80% 75% 70% 65% 60% 55% 50% 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 訪 日 外 客 数 ( 人 ) 17,000,000 16,000,000 15,000,000 14,000,000 13,000,000 12,000,000 11,000,000 10,000,000 9,000,000 8,000,000 7,000,000 6,000,000 5,000,000 4,000,000 3,000,000 2,000,000 1,000,000 0 韓国 中国 台湾 香港 その他アジア ヨーロッパ 米国 その他北米 その他 訪 日 外 客 数 に 占 め る ア ジ ア か ら の 訪 日 客 の 割 合 (備考)日本政府観光局 『訪日外客数の動向』 右下図表 訪日外国人数は、政府により2003年にビジット・ ジャパン事業が開始された後、2009年(リーマン・ ショック)、2011年(東日本大震災)を除き増加 近年は、韓国、中国、台湾などアジアからの訪日 客の増加が顕著 アジア太平洋地域では域内からの外国人観光客 数のさらなる増加が見込まれている 1,000 発 地 別 外 国 人 観 光 客 数 ( 百 万 人 ) 【アジア太平洋地域発地別外国人観光客数の推移】 ←実績 900 8 90% 800 80% 700 70% 600 60% 500 50% 400 40% 300 30% 200 20% 100 10% 0 0% 1980年 1990年 域内 (備考)国連世界観光機関(UNWTO),“Tourism Towards 2030 Global Overview” 100% 推計→ 2000年 域外 2010年 2020年 域内比率(右軸) 2030年 温泉地のポテンシャル ①温泉の効能 温泉の含有成分、入浴の温熱作用、周辺環境や気候などが総合的に働き、心理反応、生 体反応をひき起こすことで温泉の利用が効能を発揮 泉質別適応症 一般的適応症 • 筋肉、関節の慢性的痛み、こわ ばり(関節リウマチ、変形性関節 症、腰痛症、神経痛など) • 運動麻痺による筋肉のこわばり • 冷え性、末梢循環障害 • 軽症高血圧 • 糖尿病 • 自律神経不安症やストレスによ る諸症状(睡眠障害、うつ状態な ど) • 病後回復期 • 疲労回復、健康増進(生活習慣 病改善など) (備考)環境省 『平成26年8月 あんしん・あんぜんな温泉利用のいろは』 症状 泉質 便秘 塩化物泉、硫酸塩泉 胃十二指腸潰瘍 炭酸水素塩泉 胆道系機能障害 硫酸塩泉 痛風 炭酸水素塩泉、放射能泉 きりきず 塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸 塩泉、二酸化炭素泉 皮膚乾燥症 塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸 塩泉 アトピー性皮膚炎 酸性泉、硫黄泉 鉄欠乏性貧血 含鉄泉 9 温泉地のポテンシャル ②高齢者と温泉 70% 60% 60歳以上は、現 在も宿 50% 泊観光旅行先で「温泉を 40% 楽しむ」割合が全体より 30% 20% も高く、また、「温泉を楽 10% しむ」旅行を希望する割 0% 食を楽しむ 温泉を楽しむ 全体 自然の風景や 季節の花見を楽しむ 60~69歳 歴史や文化的な 名所に訪れる 社寺・仏閣に 訪れる 70歳以上 合も全体を上回っている 温泉地は、「自然の風景 や季節の花見を楽しむ」 70% こと、「歴史や文化的な 60% 名所に訪れる」こともでき 50% る、高齢者の志向に合っ 40% た旅行先 30% 20% 左上図表 10% 【宿泊観光旅行先での行動(積上)】 0% 温泉を楽しむ 食を楽しむ 全体 自然の風景や 季節の花見を楽しむ 60~69歳 歴史や文化的な 名所に訪れる 社寺・仏閣に 訪れる 左下図表【希望する旅行の目的】 (備考)公益社団法人日本観光振興協会 『平成26年度版 観光の実態と志向』 70歳以上 10 温泉地のポテンシャル ③訪日外国人と温泉 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 今回したこととして「温泉入浴」を挙げる訪 日外国人の割合が32.7%だったのに対し、 次回したいこととして「温泉入浴」を挙げる 回答は44.9%で、次回したいことの中では、 「日本食を食べること」56.1%の次に選択率 が高かった 日本食を 食べること ショッピング 繁華街の 街歩き 今回実施した活動 自然・ 景勝地観光 温泉入浴 次回したいことの割合から今回したことの 割合を引くと、「温泉入浴」は12.2%であり、 次回実施したい活動 「四季の体感」19.1%、「スキー・スノーボー 90% ド」13.6%に続く水準だった 今回の日本滞在中にしたことの満足度をみ 85% ると、「温泉入浴」は84.6%で、「日本食を食 べること」87.6%に次いで高かった 80% 左上図表【今回したことと次回したいこと(複数回答)】 75% 日本食を 食べること 温泉入浴 自然・ 景勝地観光 ショッピング 繁華街の 街歩き 満足した人の割合 左下図表 【今回した人のうち満足した人の割合(複数回答)】 (備考)国土交通省観光庁 『訪日外国人の消費動向 平成26年 年次報告書』 11 超高齢社会における温泉地の役割 人口減少・少子高齢化 訪日外国人の増加 高齢者の健康問題 健康上の理由 から旅行を躊躇 温泉を楽しむ旅 行に高い関心 温泉入浴に 高い関心 高齢者・訪日外国人の受け皿となる温泉地 健康づくりの場 夢の実現の場 12 世界の人々が 交流する場 超高齢社会における温泉地の役割 ①健康づくりの場 江戸時代の湯治 現代湯治(野口冬人氏提唱)へ 農漁村の人々が2~3週間滞在 週末に日帰り、1泊2日の短期間の湯治を繰り返す 図表【健康づくりを支援する温泉地の取り組み】 温泉地 所在地 泉質 取り組み 肘折温泉郷 山形県大蔵村 炭酸水素塩泉 温泉療養相談所開設 いわき湯本温泉 福島県いわき市 硫黄泉 水中運動体験プログラム 温泉保養士によるアドバイス 増富温泉 山梨県北杜市 炭酸水素塩泉 健康教室 熱海温泉 静岡県熱海市 塩化物泉 運動プログラム(熱海養生法) 関金温泉 鳥取県倉吉市 放射能泉 湯中運動教室 三朝温泉 鳥取県三朝町 放射能泉 岡山大学病院三朝医療セン ターと連携した滞在プラン 長湯温泉ほか 大分県竹田市 二酸化炭素泉ほか 温泉療養保健システム (備考)各種資料より株式会社日本政策投資銀行作成 13 超高齢社会における温泉地の役割 ②夢の実現の場 高齢者の旅行(移動、滞在)を後押しする取り組みの充実 図表【高齢者の旅行(移動、滞在)を後押しする取り組み】 事業者 概要 SPIあ・える倶楽部 1997年にバリアフリー旅行部門を設置 全国で約800人登録しているトラベルヘルパー(介護技術と旅行 の業務知識を備えた外出支援専門員)がオーダーメードの旅行 に添乗 クラブツーリズム 1998年より車いすや杖の人を対象にした専用のツアーを販売 介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)以上の資格を持 つトラベルサポーターが同行 エイチ・アイ・エス 2002年にバリアフリートラベルデスクを開設 バリアフリーツアーには介助の訓練や専門知識の研修を受けた 添乗員が同行 ジェイ・ティー・ビー 2013年に従来の取り組みを高齢者や透析治療の必要な人などを 対象とするユニバーサルツーリズム商品に再編 (備考)各種資料より株式会社日本政策投資銀行作成 14 超高齢社会における温泉地の役割 ③世界の人々が交流する場 訪日外国人は主にインターネット、口コ ミを情報源として日本の情報を得ている 訪日外国人のためのインターネットによ る情報発信の重要性が増大 図表【出発前に得た旅行情報源で役に立ったもの】 図表【日本滞在中に得た旅行情報源で役に立ったもの】 (複数回答) (複数回答) 検索サイト 個人のブログ 旅行会社ホームページ 日本政府観光局ホームページ その他インターネット 宿泊施設ホームページ 宿泊予約サイト SNS 航空会社ホームページ 地方観光協会ホームページ YouTube 日本在住の親族・知人 自国の親族・知人 旅行ガイドブック 旅行会社パンフレット テレビ番組 新聞・雑誌 日本政府観光局の案内所 28.0% インターネット(スマートフォン) 49.8% インターネット(パソコン) 31.5% 日本在住の親族・知人 18.4% 観光案内所(空港除く) 15.7% 宿泊施設 空港の観光案内所 旅行ガイドブック 18.4% 8.9% フリーペーパー 16.6% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% (備考)左右とも国土交通省観光庁 『訪日外国人の消費動向 平成26年 年次報告書』 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 15 超高齢社会における温泉地の役割 ③世界の人々が交流する場 図表【日本滞在中にあると便利な情報】(複数回答) 出発前、日本滞在中の訪日外国人に求 められている情報をインターネットを通じ て適切に発信 無料Wi-Fi 交通手段 飲食店 宿泊施設 買物場所 観光施設 土産物 イベント ATM 両替所 現地ツアー 0% 10% 20% 30% 40% 50% 訪日外国人の滞在中の活動の充実と 満足度の向上につなげる (備考)国土交通省観光庁 『訪日外国人の消費動向 平成26年 年次報告書』 図表【訪日外国人受け入れのために充実が期待されるDMO(Destination Management Organization)】 DMOの業務 具体的内容 国内の主なDMO マーケティング プロモーション、予約オペレーション Hakuba Tourism 宿泊施設主導 現地での対応 イベント開催、受入側の研修 環境の整備 インフラ整備、人材研修、商品開発 田辺市熊野ツーリ ズムビューロー ブラッド・トウル 氏(カナダ)採用 (備考)株式会社日本政策投資銀行・株式会社日本経済研究所 『地域のビジネスとして発展するインバウンド観光』 2013年3月 16 特徴
© Copyright 2024 ExpyDoc