御神渡りで見る気候変動

御神渡りで気候変動
を知る
教育学部
学校教育教員養成課程 2年
0602010017
上條 隆志
「御神渡りって何?」という人のために
• 御神渡り(おみわたり)とは、冬季の厳しい寒さに
よって全面が結氷した湖面の上の割れ目に沿って、
氷列が鋭くせり上がってジグザグに走っている状態
を言います。
• 一般にはこの現象は、
「丘氷列」
(プレッシャーリッジ)
と呼ばれています。
北海道の屈斜路湖等、冬の寒さが厳しいと
ころでも見られますが、長野県の諏訪湖の
御神渡りが有名で、諏訪湖の御神渡りを
指して単に「御神渡り」ということが多いです。
正確には諏訪湖
畔の諏訪大社の
上社から下社の
方向へ向かうも
のを御神渡りと言
います。
一説には諏訪大社の上社に住む男神
の建御名方命(タケミナカタノミコト)
が…
下社の女神である八坂刀売命(ヤ
サカトメノミコト)のもとへ通った跡
と言われています。
イメージ図
上社
下社
ハニー!
御神渡り
男神様
※あくまでイメージです
右
り 湖
手
が 面
(
生北 左
じ) 手
るへ
(
と南
の御
)
で神 か
す渡 ら
• この神様の通った跡ともいわれるほどに神
秘的な御神渡りですが、出現のメカニズム
は解明されています。
• 簡単に御神渡りのでき方を説明すると・・・
御神渡りができるまで(1)
氷
湖
強い寒気が湖上空に流れ込むと・・・
湖面が全面結氷する
御神渡りができるまで(2)
夜間~早朝の冷え込みで氷が
縮んで亀裂が入る
亀裂に水がしみこみ、そこに薄い氷が張る
御神渡りができるまで(3)
気温が上がると氷が膨張して割れ、
押された氷面の一部が隆起する
御神渡りの出来上がり
すでにわかった人もいる
と思いますが・・・
• 御神渡りの出現の有無はその冬の気温に大
きく依存します。
• 諏訪湖では最低気温が氷点下10℃を下回る
と湖面が全面結氷します。
• しかし、冬(12、1、2月)の平均気温が0.8℃
高くなるだけで御神渡りは出現しません。
• さらに、1.6℃以上高くなると「明け海」と呼ば
れる全面結氷しない状態になります。
つまり
• 御神渡りが早く出現すればその年の冬は寒
さが厳しいということになり、
• 出現しなかったり、「明け海」になればその年
は暖冬ということになります。
しかも
神様が通った跡とも言われる現象
なので、昔から人々はその年の作
上社
下社
物の収穫高を占うために御神渡り
の観測・記録をしていたのです。
御神渡り
ハニー!
男神様
※あくまでイメージです
ここで問題です。
•
こうして記録されてきた御神渡りですが、現
在まで何年間分の記録があるでしょう?
1.
2.
3.
4.
約250年(江戸時代の後期から?)
約350年(江戸時代の前期から?)
約450年(江戸時代の初めから?)
約550年(戦国時代から?)
正解は、4. 約550年でした。
正確には
最古の公式記録は、室町時代の応永4年(1397)に
諏訪神社の神官が幕府に報告した文書の控え(御
渡注進状扣)として残っています。
連続した記録
• それから約50年後の嘉吉3年(1443)から現
在(2007)に至るまで、564年間に渡り、御神
渡りは記録され続けています。(全く記録が
残っていないのは5回だけ)
そして、気象学的にこの資料は
もの凄く貴重なものとされています。
で、
この記録のどこが凄いのか
というと・・・
すごい
ニャン
1.観測期間が非常に長い
• 550年以上に渡る気象の観測記録
は世界的に見ても稀。
なが~い
ニャン
2.記録が細かい
• 全面結氷が起こった日時、最初に御
神渡りが観測された日を「第一御神
渡り」、次の寒波で起こった御神渡り
の日を「第二御神渡り」とするなど、
細かに湖面の様子を記録している。
細かい・・・
3.客観的な記録
暖かかった、寒かったという主観的な記
録ではなく、湖の上に起こる自然現象
の有無を客観的に記録しているので、
長期間の気候の変動をほぼ同じ基準
で知ることができる。
客観的ニャン
そういうわけで、
日本の冬の寒さを長期に渡り、同じ基
準で、正確に記録しているこの資料
は、気候変動の資料としては第一級
品の価値を持つ古文書なのです。
第一級
なのニャン
このことに最初に
気がついたのは、
第五代中央気象
台長で、地元出身
のお天気博士こと
藤原咲平氏で…
中央気象台長
の頃の
藤原咲平氏
「御神渡りと黒点、豊作、凶作との関
係」を調査したのが始まりです。
藤原氏は帝国学士院賞を受けた際の
褒賞金の一部を割いて御神渡りの
資料収集を始めた程、熱心にこの研究に
取り組んでいました。
しかし
• 当時は御神渡りに関する資料もかなり
分散していてなかなか一堂に見られる
状態ではありませんでした。
• また、兵乱もあって資料が散逸していて
伝わっていない年もありました。
困った・・・
藤原氏は帰郷するたびに諏訪神社の
宮司をしている諏訪家などを訪ねては
資料の発掘を続けましたが、大変手間と
根気のいる作業でした。
その後、
• 荒川秀俊博士が藤原氏の遺稿を気候
変動の視点で整理して、「結氷日」「第一
御神渡り」 「第二御神渡り」等の研究が
進められました。
例えば
• 1783年はアイスランドのラキ火山の噴火と、
浅間山の天明の大噴火が重なり、噴出した
大量の火山灰が北半球を覆い、日射量が減
少し、世界的に気候が寒冷化しましたが・・・
「浅間山夜分大焼之図」
• 諏訪湖でも、1784年12月12日に過去二
番目に早く御神渡りが認められました。
• 当時の寒さは相当だったようです。
寒っ!
また、
• 世界的に温暖だったといわれている16世紀
の初めごろには・・・
• 全面結氷しない「明け海」の年が8年間続い
たり、御神渡りが出現しても時期が遅くなって
いたりして、日本の気候も温暖だったことが
わかります。
ほんわか
ニャン
• このように御神渡りの記録は当時の
気候をそっくり映し出しているのです。
そりゃぁ
すごい
ニャン
そして、
• 近年、南米ペルーのスペイン植民地時
代から400年以上続く降水量記録と、
500年分を超える御神渡りの記録を比
較する研究を行った結果・・・
• 両者がエルニーニョ現象で結ばれてい
ることが判明したのです。
どういうことかというと・・・
エルニーニョ現象とはご存知のようにクリスマ
ス頃のペルー・エクアドル沖の海水温が異常
に高温になる現象です。世界的な異常気象を
起こすといわれています。
• このエルニーニョ現象が起こると、
ペルーでは降雨量が多くなり、日
本では暖冬になるといいます。
そこで
• ペルーの降水量と、御神渡りの発生時期を
400年分比較したところ・・・
• ペルーで多雨だった年は、ほとんどの場合諏
訪湖でも御神渡りの発生時期が遅れたり、
「明け海」だったりと、暖冬の兆候を示したの
です。
雨降り
・ こうして、日本から遠く1万km離れたペ
ルーで起こるエルニーニョ現象と、日本
の暖冬との因果関係がわかり、エル
ニーニョ現象が地球規模で気候に影響
を与えていることがわかってきたのです。
わかった
ちゃったの
ね・・・
• こうして古気候学の重要な資料として様々な
気候変動の調査に利用されている
御神渡りの記録。
• 男神様の愛の力が今日の気候変動の研究に
役立っているのです。
逢いに
来たよ・・・
終わり。
上社
下社
ハニー!
御神渡り
男神様
※あくまでイメージです
出典
• 諏訪市博物館ホームページ
http://www.city.suwa.nagano.jp/scm/
• 気象庁ホームページ
http://www.jma.go.jp/jma/index.html
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『天気の100不思議』 村松照男 東京書籍
『一般気象学』 小倉義光 東京大学出版会
『Newton 別冊』 ニュートンプレス社
『お天気博士 藤原咲平』
和達清夫・高橋浩一郎・根本順吉
日本放送出版協会