ダイキン工業の国内回帰 2015年10月7日 2112-509 林 修平 目次 1. はじめに 1. 前回までのあらすじ 2. 今回の課題 3. 研究の方法と事例企業の決定 2. ダイキン工業の事例 1. 概要 2. 国内回帰への道 3. 財務分析 3. おわりに 1. まとめ 2. 課題 3. 今後の予定 2 はじめに 3 これまでのあらすじ① 90年代:安い労働力を求めて大企業の海外移転が進む 海外への技術流出 国内技術者の減少 大企業と中小企業の生産性の格差が拡大 ⇒製造業全体の生産性が低下 投資の減少⇒経済の停滞 日本の立地競争力と生産性の低さが問題‼ 2011年:日本企業の六重苦(厳しい経営環境) 2012年:アベノミクスによる円安 マクロレベルの回帰が生じる可能性はあるのだろうか? 4 前回までのあらすじ② 米国の国内回帰は、シェール革命と国内企業に対する政府の優遇政策が背景にあった。 また、日本の生産コストを国際比較した結果、人件費、生産性、エネルギーコスト、税制のいず れにおいても日本の競争力は低く、大規模な国内回帰が生じるとは考えづらい。 しかし、一部の企業は国内へ生産を拡大させている企業も存在する。 こいつら一体何なんだ!? 5 今回の課題 課題① なぜ国内での生産を拡大したのか?(目的) • 生産コスト以外に国内が海外で優れているのは? 開発力と生産技術? 質の高い労働者とサプライヤー? 国内需要の増大? • 製品や業界の特性が影響しているのでは? 課題② なぜ回帰できたのか?(要因) • 生産性を高めることができたのではないだろうか? • コストは度外視しても残すべきだと考えている可能性も? 6 ストーリーの枠組み A社 回帰事例 B社 回帰事例 目的 要因 目的 要因 共通点の抽出と差異の分類 国内回帰企業(事例は少ない) 目的:なぜ回帰したのか 要因:なぜ回帰できたのか 回帰予備軍のモデルを作成 ①どのような企業が回帰する可能性が高いのか? ②どのような企業が回帰に成功するのか? 第1次スクリーニング ①、②をもとに定量的に実施 7 方法 事例企業の決定 • 日経テレコンで「国内回帰」に関する記事を5年分収集 ⇒回帰傾向の強さと情報量を考慮して事例研究を行なう企業を2社決定 目的と要因の検証 • 日経BP雑誌記事検索を会社名で5年分検索し、生産に関する情報を収集 • 会社ウェブサイトからIR資料(5年分) 有価証券報告書 事業報告書 アニュアルレポート 会社説明会資料 • 中期経営計画 • 経営者の発言など ⇒これらをもとに、回帰の目的と要因を明らかにする 8 事例企業一覧① 会社名 業種 時期 製品 東芝 電気機器 2011 フラッシュメモリー 形態 海外工場 増強 - 国内工場 三重県四日市市 需要増と技術流出の懸念 富士通 電気機器 2011 PC NECPC - 2012 ThinkPad 移管 中国 山形県米沢市 東ソー 化学 2012 電解二酸化マンガン 増強 - 宮崎県日向市 堀場製作所 電気機器 2012 制御機器 増強 - 阿蘇工場 ケーヒン 輸送用機器 品質確保と納期短縮 2014 四輪車向けRGRバルブ 移管 移管 中国 宮城県角田市 機械 JVCケンウッド 電気機器 2015 高級ホームオーディオ 移管 マレーシア パイオニア 電気機器 2015 車載機器 移管 タイ 青森県十和田市 埼玉県川越市 ガラス・土石製品 2015 衛生陶器 新設 - 大分県中津市 TOTO 家庭用エアコン 中国 ダイキン工業 2014 目的 滋賀製作所 山形県 備考 全自動化により新規雇用はゼロ 投資額 300億円 多機能ロボットの導入 2013年度に2011年度の3倍にあたる 220万台を輸出 3人1組で作業し5日で納品(中国の半 分) 63億円 マザー工場 マザー工場 20億円 ロボットの活用により工員を1/4に 生産性は中国の5倍 2万7千個/月の生産 中国の人件費高騰への対応 中国最大手珠海格力電気との提携後 需要変動への対応力強化 にコスト低減 マザー工場 75万台中25万台を生産 円安対策 マレーシア工場を閉鎖 既存の生産ラインを活用 年間約35万台の生産 設備更新 なし 143億円 9 事例企業一覧② 会社名 業種 時期 製品 形態 海外工場 国内工場 アステック - 2015 省力化設備 新設 - 愛知県豊明市 アテクト 化学 2015 半導体の保護テープ 移管 韓国 小林製薬 化学 2015 芳香消臭剤 移管 中国 宮城県大和町 円安対策 海外生産比率を14年度22%から15年度 15%へ ソニー 電気機器 2015 画像センサー 増強 - 長野・山形 需要拡大 生産能力を1割増強 半導体製造装置部品 増産 - 長野県松本市 需要拡大 1.5倍に生産を拡大 - タカノ その他製品 2015 金属製品 2015 自動車用金型 新設 パナソニック 電気機器 2015 日本向けLED 移管 インドネシア パナソニック 電気機器 2015 空気清浄機 移管 中国 本田技研工業 輸送用機器 2015 50ccスクーター 移管 中国 熊本製作所 本田技研工業 輸送用機器 2015 北米向け小型自動車 移管 メキシコ 寄居工場 - 山形県三川町 輸送用機器 2015 北米向けの自動車用金型 増強 特記事項 需要拡大 大阪府東大阪市 内需と円安対応 東プレ ヨロズ 目的 5.5億 国内生産を2011年に停止 月産400万メートルの増産 福岡県久留米市 賃金上昇や技術流出を考慮 240個/年の生産 伊賀工場 投資額 なし 450億円 25億円 円安対策 愛知県春日井市 円安対策 稼働率の向上 リードタイムを4割短縮 国内生産比率を1割から5割に 数億円 2016年に7万台の増産 マザー工場 熟練技術者の必要性 米国への輸出向け 700個/年を倍増 30億円 情報が多いダイキン工業とキヤノンを調査する⇒理由は後付けする 10 ダイキン工業の事例① 概要 11 概要 会社概要 商 号 主な事業 主な拠点一覧 ダイキン工業株式会社 本社 大阪府大阪市 空調・冷凍機、化学、油機及び特 機製品の製造・販売 本社江坂ビル 大阪府吹田市 東京支社 東京都港 国内拠点 創 業 1924年10月25日 東京支社 草加事業所 埼玉県草加市 代表者 取締役社長 兼 CEO 十河 政則 東京支社 日本橋T&Dビル 東京都中央区 資本金 85,032,436,655円 堺製作所 金岡工場 大阪府堺市北区 堺製作所 臨海工場 大阪府堺市 淀川製作所 大阪府摂津市 滋賀製作所 滋賀県草津市 鹿島製作所 茨城県神栖市 環境技術研究所 大阪府堺市 ソリューション商品開発センター 滋賀県草津市 化学研究開発センター 大阪府摂津市 上場市場 決算期 東証1部 3月末 国内工場 従業員数 単独 6,845名 (2015年3月31日現在) 連結 59,179名 本 社 大阪府大阪市 グループ会社数 連結子会社 210社 (2015年3月31日現在) (国内28社、海外182社) 研究開発拠点 ダイキンマッケイアプライド開発センター ミネソタ州 空調機売上高で世界首位 フッ素化学でも世界屈指のシェアを持つ 12 事業内容(報告セグメント) 平成27年3月31日現在 製品 セグメント売上高(百万円) 空調・冷凍機事業 化学事業 その他 合計 空調・冷凍機製品 フッ素化合物など 油圧機器など - 1,598,030 148,083 50,267 1,915,013 セグメント利益(百万円) 139,848 14,318 2,375 190,587 セグメント資産(百万円) 1,847,343 190,046 2,037,390 2,263,989 53,918 (6,479) 3,431 (301) 1,157 (273) 59,179 (7,110) 従業員数(人) (注)「その他」の区分は報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、油機事業、特機事業、電子システム事業を含んでいる。 (注)従業員数の括弧内は平均臨時従業員を外数で記載。合計は全社共通 673 (57)人を含む。 (出所)『2014年度有価証券報告書』ダイキン工業 13 セグメント別構成比(2014年度) 売上高 8% 3% セグメント利益 9% 2% 空調・冷凍機事業 化学事業 89% 89% その他事業 (出所)有価証券報告書(2014年度) 空調事業が9割。エアコン製造の技術をもとに関連多角化をしている 14 売上高と利益の推移(十億円) 2,500 2007年1月 OYLインダストリーズ社買収 250 2012年11月 グッドマン社買収 2,000 200 1,500 150 1,000 100 500 50 0 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (計画) 売上高(左軸) 営業利益(右軸) 当期純利益(右軸) (出所)2014年度決算説明会資料 2度の大型M&Aによって大きく拡大しており、10年前の約2倍 15 地域別売上高(十億円) 2,000 海外売上高比率 2014年度:74% 2005年度:46% 1,500 1,000 500 43 25 32 163 119 164 127 186 137 224 206 195 182 216 235 447 475 2010 2011 102 240 115 272 359 432 247 244 323 353 494 513 499 2012 2013 2014 0 日本 中国 欧州 米国 アジア・オセアニア その他 16 Thousands 地域別売上高(十億円) 600 500 400 300 200 100 0 2010 2011 日本 2012 中国 欧州 2013 米国 2014 アジア・オセアニア 2015(計画) その他 (出所) 2014年度決算説明会資料、有価証券報告書(2010~2014年度) (注)2015年度計画の全社およびその他事業の地域別データがなかったので、2014年度のその他の事業の地域別売上高貢献度を基に推測 アメリカ・中国・アジアの成長が著しいが、日本も安定成長している 17 ダイキン工業の事例② 国内回帰への道 18 国内回帰への道 第1話 珠海格力電気との提携 第2話 提携の効果 第3話 空調売上高世界一の達成 第4話 滋賀製作所の窮地とうるさら7の開発 第5話 滋賀製作所における生産性の向上 第6話 いざ国内回帰へ 第7話 開発拠点の集約 19 第1話 珠海格力電器との提携 2008年3月に中国空調製造大手、珠海格力(じゅはいかくりき)電器と業務提携 • 日本のエアコンメーカーが現地大手と手を組むのは初めて • ダイキンの省エネ技術と格力の低コスト生産力を融合させたインバータ普及機の拡販への布石 • インバータ空調機の普及率は、日本で100%、中国で7%、北米ではほとんど普及していない 日本で販売する小型のインバータルームエアコンの一部(50万台)を生産委託 2009年3月には2つの合弁会社を設立 • 珠海格力大金機電設備有限公司(格力51%、ダイキン49%)⇒基幹部品の生産 • 珠海格力大金精密模具有限公司(格力51%、ダイキン49%)⇒金型の生産 (出典)「2008年度 Annual Report」ダイキン工業 20 第2話 提携の効果 コストをかけてでも生産を自動化しようとするダイキンと低コストでの生産にこだわる格力 • 格力本社工場のダイキン用ラインは、両社の力を合わせることで従来の半分の期間と40%の コストで立ち上げられた。室外機を1日当たり3500台生産することができる。 • 2010年4月に稼働した珠海格力大金機電設備有限公司では、労働コストが安いために不良を許 して検査を徹底するという日本とは逆の発想も導入。 (出典)「ダイキン工業 風起こし、市場丸取り」『日経ビジネス』 2011年7月11日号 21 第3話 2010年度に空調売上高世界一を達成 新興国のボリュームゾーンを重要視し、グローバルに開発拠点を設けていく • 「いまや成長市場としてグローバル経済を牽引しているのは、中国、インド、ブラジルなどの 新興国にほかなりません。すでに空調市場で大きな実績をあげている中国のほか、2009年度 からインドで業務用エアコンの生産を開始し、2011年4月にはブラジルで販売会社の営業を 本格化させました。最適な商品をスピーディに開発し、他社に先駆けて市場投入していくた め、グローバルな商品開発体制を刷新します。」 M&Aや提携を積極的に活用して圧倒的な技術的優位性を構築 • 「日本、欧州、中国での空調事業は今後も安定成長が見込まれ、「空調グローバルNo.1」の ポジションをより強固にすると同時に、次の高い目標達成への土台になると思います。しか し、チャンスを先取りしグローバル市場をリードし続け、メーカーとして勝ち残っていくに は、技術力の圧倒的な優位性が必要です。(中略)技術者を自前で育成していく方針は守りま すが、すべてを自前主義にこだわることには限界もあり、今後は「技術を買う提携・連携、M &A」にも注力し、世界中から有望な技術をグループに取り込みたいと考えています。」 (出典)「2010年度 Annual Report」ダイキン工業 22 第4話 「うるさら7」の開発 ルームエアコンのマザー工場である滋賀製作所は、格力との提携によって窮地に立たされた • 2007年度には145万台あった生産台数は、2009年度には約半分の75万台まで落ち込んだ。 • 「つくるものが無くなっていく」という事態に対して、トップから現場のスタッフまで全員が 強い危機感を抱いていた。 2010年1月 開発期間を通常の2年から3年に延ばした新型エアコン「うるさら7」を構想 • 目標は、これまでにない「凄いエアコン」をつくること • 開発はもちろん、製造、生産技術、調達、商品企画、原価企画に加え、総務部長や労組幹部ま でが一同に会して新商品の方向性を決定 • 省エネ性のAFPを6.0から7.0にする(従来は毎年0.1~0.2ポイントの向上) • 地球温暖化係数が従来品の約3分の1と低い新冷媒「R32」をルームエアコンに初めて採用 (出典)「Documentary ルーム・エアコン『うるさら7』の開発」『日経エレクトロニクス』 2013年2月号 23 「うるさら7」の特徴 コンカレント(部署横断)による性能とコストダウンの追求 • 月に一度の管理者会議や3年で71回開催された実務者会議 サプライヤーも巻き込んだ課題解決 • 中空構造のフラップを開発 3年の開発期間を経て、2012年11月に発売 • 省エネ大賞で最高賞を受賞 ● ダブル吸い込み構造 ● サーキュレーション気流 ※室内機の厚さが約300mmから370mmに 24 第5話 滋賀製作所における生産性の向上 滋賀製作所では、従来から作業者の熟練による生産性の向上に取り組んできた • 「滋賀にある室内機と室外機の各3つのラインにはそれぞれ、90~150機種が1台ずつ淀みな く流れる。1個流しはもはやダイキンの常識で、ロット生産と違って仕掛かり在庫はほとんど 無い。多能工の作業者は顔色ひとつ変えずに部品を組み付けていく。トヨタ自動車のベテラン 技術者に指導を受け10年がかりで確立した滋賀の「PDS(ダイキン生産方式)のハイサイク ル化」は、繁忙期である7月初旬のタクトタイムが31秒。その中で4~5種の作業を繰り返 し、1日800~900台を生産する。それでも流れの確からしさを表す直行率は99%以上」 • 「ここまでするのは、いつでも滋賀の生産台数を増やせるようにしておきたいからだ。(中 略)滋賀は2007年の150万台をピークに、2012年は85万台まで減らす。だが生産改革の成果 をより多く享受するためにも「滋賀の生産台数は100万台はほしいところ」と小倉部長は本音 を漏らす。それを受け入れられるコスト基盤を先に作る。」 • 「『格力との提携で中国の原価をベンチマーキングできるようになった。目標ははっきりし た』(小倉部長)。そのためにも滋賀の生産改革を続行する。」 (出典)「『少人数』『多品種』『短納期』で国内回帰 製造業リショアリング」 『日経情報ストラテジー』 2012年10月号 日経BP社 25 第5話 滋賀製作所における生産性の向上 滋賀製作所では、従来から作業者の熟練による生産性の向上に取り組んできた • 室内機と室外機の各3つのラインにはそれぞれ、90~150機種が1台ずつ淀みなく流れる。 • 1個流しはもはやダイキンの常識で、ロット生産と違って仕掛かり在庫はほとんど無い。 1個流し ● ロット生産 ● A ① ① ① ② ② ② ③ ③ ③ A ① ② ③ B ① ① ① ② ② ② ③ ③ ③ B ① ② ③ • 多能工の作業者は顔色ひとつ変えずに部品を組み付けていく。 • トヨタ自動車のベテラン技術者に指導を受け10年がかりで確立した滋賀の「PDS(ダイキン 生産方式)のハイサイクル化」は、繁忙期である7月初旬のタクトタイムが31秒。 • その中で4~5種の作業を繰り返し、1日800~900台を生産する。直行率は99%以上 (出典)「『少人数』『多品種』『短納期』で国内回帰 製造業リショアリング」 『日経情報ストラテジー』 2012年10月号 日経BP社 26 滋賀製作所の想い 「ここまでするのは、いつでも滋賀の生産台数を増やせるようにしておきたいからだ。(中略) 滋賀は2007年の150万台をピークに、2012年は85万台まで減らす。だが生産改革の成果をより 多く享受するためにも「滋賀の生産台数は100万台はほしいところ」と小倉部長は本音を漏ら す。それを受け入れられるコスト基盤を先に作る。『格力との提携で中国の原価をベンチマーキ ングできるようになった。目標ははっきりした』(小倉部長)。そのためにも滋賀の生産改革を 続行する。」 (出典)「『少人数』『多品種』『短納期』で国内回帰 製造業リショアリング」 『日経情報ストラテジー』 2012年10月号 日経BP社 27 組立容易性が向上した「うるさら7」 (図1) (図2) (図3) ラインとセルとを適宜組み 合わせたインラインセル方 式が特徴。31秒に一台のス ピードで組み上げる。 棚にある部品を、作業台に下ろす方向の手の動きで、本体に 組み付けられる。本体の方向を変えたり、部品を取るために 体をひねったりする必要はない。無駄のない動きは作業の効 率化と身体への負担低減を両立する。(図2) (出典)「中国に負けない工場 生産時間は10年で9割減」 『日経エレクトロニクス』 2013年7月8日号 28 生産リードタイムの推移 (出所)「ダイキン工業が製造の日本回帰推進 生産リードタイム、『夢の4時間』へ」『 日経情報ストラテジー』 2015年11月号 日経BP社 29 組織学習のプロセス ③ シングルループ学習 危機 ② ダブルループ学習 既存の価値や目標などの枠組み を超えて行う断続的で全社的な 学習活動 ① シングルループ学習 既存の制約条件や枠組みの中で行う 漸進的な修正・学習活動 危機感が大胆な目標設定を生み、部門横断的な開発活動や生産性の向上に繋がった 30 第6話 いざ国内回帰へ 2015年7月、家庭用エアコン生産の一部を中国から 日本国内に戻すと発表 • 滋賀製作所は家族向けで20万円以上する高機能品 に特化し、10万円前後の普及品は2008年から中 国の格力電器に生産を移した。それが15年度は中 国生産していた日本向けの機種の約2割に当たる 15万台を滋賀で生産する。(日本経済新聞朝刊 2015年7月4日) 国内向けエアコンの生産台数 65 80 2014年度 日本生産 50 100 2015年度 中国生産 (出所)『 日経情報ストラテジー』 2015年11月号 31 回帰の目的と要因 目的 市場との近接性 • ダイキンはエアコンの供給リードタイムを極力短くして在庫を切らさないようにするため、消 費地の近くで開発・生産する「市場最寄り化生産」を掲げる。国内消費分は日本で生産し、短 納期で“地産地消”するのは理にかなっている。 要因 生産回帰が可能になったのは格力との提携後に取り組んだコスト削減がある。 • 委託を始める前の2007年のリードタイムは10時間近くかかり仕掛品が多くあった。工場内に 部品の無人搬送機を導入、生産ラインの配置を見直し仕掛品の待ち時間を減らした。製造時間 は5時間を切り15年度には4時間になる見通し。 • 生産時間の短縮によってコストが下がり1台数千円あった生産原価の差もほとんどなくなっ た。(日経産業新聞2015.7.9) 32 第7話 開発拠点の集約 2013年6月に、300億円を投じて淀川製作所内にコア技術開発拠点を設立することを決定 • 新設する技術開発拠点「テクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)」に国内3拠 点の研究・開発技術者約700人を集約し、ダイキンのコア技術であるヒートポンプやインバー ター、フッ素化学などの開発の効率化を図る。 阪大、奈良先端大に続き、京大と連携 • TICでは、世界中の大学や建築・エネルギー・センサー・制御などの異業種企業の研究者が常 駐するためのオフィスを設けるなどして、社内外の異分野に携わる技術者同士の交流を促す。 • こうした社外との連携の一環として、ダイキンは2013年6月21日、京都大学と3年間の包括連 携協定を締結した。連携協定に基づき、ダイキンは京大の教員3000人と協力し、文理の区別 なく、新たな社会価値を創出する研究開発テーマに取り組む。 (出典)「ダイキン300億円投じ大阪にコア技術開発拠点、11月着工」日本経済新聞電子版 2013/6/22 6:30 製作所内で閉じていた研究が社内や社外へ広がりを見せている 33 地域別有形固定資産(十億円) 120 100 80 60 40 20 0 2010 2011 日本 中国 2012 欧州 米国 2013 アジア・オセアニア 2014 その他 (出所)有価証券報告書(2010~2014年度) 日本は減少傾向にあったが、2013年度に増加に転じている 34 製作所別の状況 設備合計(十億円) 従業員数(人) 40 2500 2000 30 1500 20 1000 10 500 0 0 2010 堺製作所 2011 滋賀製作所 2012 2013 淀川製作所 2014 鹿島製作所 2010 堺製作所 2011 滋賀製作所 2012 2013 鹿島製作所 2014 鹿島製作所 (出所)有価証券報告書(2010~2014年度) 2013年度までほぼ横ばい。2014年度の増加は建設中のTICであると思われる。 35 財務分析 36 短期安全性 流動比率(%) 当座比率(%) 250 250 200 200 150 150 100 100 50 50 0 0 ダイキン工業 その他機械 ダイキン工業 その他機械 37 長期安全性① 固定比率(%) 200 固定長期適合率(%) 140 120 150 100 80 100 60 40 50 20 0 0 ダイキン工業 その他機械 ダイキン工業 その他機械 38 長期安全性② 自己資本比率(%) ICR(営業キャッシュフロー、倍) 50 25 40 20 30 15 20 10 10 5 0 0 ダイキン工業 その他機械 ダイキン工業 その他機械 39 使用総資本事業利益率(%) 12 10.3 9.33 10 8 6 4.25 4 2 0 2005 2006 2007 2008 2009 ダイキン工業 2010 2011 2012 2013 2014 その他機械 2009年までに大きく減少したがその原因はなにか? 40 ROS 35 34.04 売上高総利益率(%) 33.94 売上高営業利益率(%) 15 9.95 12 30 31.18 9 8.39 6 25 3 20 4.30 0 ダイキン工業 その他機械 ダイキン工業 その他機械 総利益率が非常に高いが、販管費が大きい ROAの低下は、リーマンによって総利益率が悪化したことが大きな原因であると思われる 41 使用総資本回転率(回) 1.4 1.19 1.2 0.90 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 2005 2006 2007 2008 2009 ダイキン工業 2010 2011 2012 2013 2014 その他機械 2005年以降、長期的に悪化傾向にある 資産の項目別の効率性を見てみる 42 キャッシュ化速度(日) 180 160 140 120 100 97 94 80 60 40 20 0 2005 2006 2007 2008 2009 ダイキン工業 2010 2011 2012 2013 2014 その他機械 43 固定資産回転率と有形固定資産回転率 固定資産回転率(回) 3 有形固定資産回転率(回) 2.74 8 2.5 6 2 5.92 4.32 4 1.5 1.72 1 0.5 2 0 0 ダイキン工業 その他機械 ダイキン工業 その他機械 固定資産回転率は低下しているが、有形固定資産回転率は予想通り上昇 無形固定資産が増大している可能性がある 44 資産構成の変化 資産構成比(十億円) 無形固定資産(十億円) 800 100% 80% 600 60% 40% 400 20% 200 0% 2005200620072008200920102011201220132014 当座資産 棚卸資産 その他の流動資産 有形固定資産 無形固定資産 投資その他の資産 0 無形固定資産 二度の買収によって無形固定資産が増大しており、資産回転率を引き下げる一因となっている 45 ここまでのまとめと生産性分析について 安全性 • 短期安全性は改善 • 長期安全性も特に問題なし 収益性 • リーマン時にROSが一時的に悪化したが、現在はリーマン前の水準に回復 効率性 • 有形固定資産回転率が上昇しているが、M&Aの影響による無形固定資産の増大が、資産回転 率を引き下げている 生産性分析について • 労働生産性(円)=付加価値額÷従業員数(一人当たり付加価値) • 労働生産性(円)=(有形固定資産÷従業員数)×(付加価値額÷有形固定資産) • 労働生産性(円)=労働装備率(円)×設備生産性(%) 46 売上高原価率(%) 単体 連結 90 85 85 80 80 75 75 70 70 65 65 60 60 55 55 50 50 ダイキン工業 業種集計値 ダイキン工業 その他機械 47 棚卸資産回転日数(日) 単体 連結 150 150 100 100 50 50 57 53 0 66 64 0 ダイキン工業 業種集計値 ダイキン工業 その他機械 棚卸資産回転日数に大きな変動は無い 在庫や仕掛品の削減を実施したということだったが…(要塞調査) 48 生産性指標 単体 連結 18 120% 16 100% 14 12 80% 10 60% 8 6 40% 4 20% 2 0 0% 労働生産性 労働装備率 設備生産性 18 120% 16 100% 14 12 80% 10 60% 8 6 40% 4 20% 2 0 0% 労働生産性 労働装備率 設備生産性(右軸) 49 全要素生産性の推移 1.7 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1.0 2005 2006 2007 2008 2009 ダイキン工業 2010 2011 2012 2013 2014 平均 50 おわりに 51 まとめ 目的 • 第一に、投資方針が大きく転換したわけではない • しかし、エアコンは需要予測が立てづらく、かつ季節商品のため欠品が売り上げに直結する • そのため、供給リードタイムを極力短くして在庫を切らさないようにすることが重要である ⇒よって、日本向けの製品は極力日本で生産する 要因 • 格力との提携や国内工場での改善活動を通してコスト格差が縮小した • 大幅な拡大は見込めないものの安定成長にある国内市場の存在も一因 回帰するに当たっては求められるリードタイムなど製品特性がポイントとなる。また、成功させ るためには生産性の向上が不可欠‼ 52 課題 課題 • 単体での分析を引き続き行っていく • モデルを作るのに必要な指標や製品特性を表す指標を調べる 今後の予定 • 2社目の事例研究を実施(航大さん・再来週) 自動化による生産性の向上に取り組んだ事例はないだろうか(ダイキンとは異なる方法での回帰) • モデルを作る(~10月末) • スクリーニングおよびアンケート調査(11月初旬) • 投資先決定(~11月21日) • 投資比率の決定(~11月30日) 53 参考文献 「ダイキン工業 風起こし、市場丸取り」 『日経ビジネス』 2011年7月11日号 日経BP社 「エコ論人 ダイキン工業会長兼CEO 井上礼之」 『日経エコロジー』 2012年1月号 日経BP社 「インタビュー 井上札之 [ダイキン工業代表取締役会長兼CEO]」 『日経情報ストラテジー』 2012年1月号 日経BP社 「時事深層 日の丸エアコン、海外で好調」 『日経ビジネス』 2012年8月6日号 日経BP社 「『少人数』『多品種』『短納期』で国内回帰 製造業リショアリング」 『日経情報ストラテジー』 2012年10月号 日経BP社 「経営新潮流 ダイキン工業井上札之の経営教室」 『日経ビジネス』 2013年1月7日号~2013年1月28日号 日経BP社 「Documentary ルーム・エアコン『うるさら7』の開発」 『日経エレクトロニクス』 2013年2月18日号~4月1日号 日経BP社 「中国に負けない工場 生産時間は10年で9割減」 『日経エレクトロニクス』 2013年7月8日号 日経BP社 「ダイキン、国内工場のスピード向上リードタイムを9時間から5.6時間に短縮」『 日経ものづくり』 2014年9月号 日経BP社 「ダイキン工業が従業員を早期に育成できる秘密」 『日経ものづくり』 2014年10月号 日経BP社 「ダイキン工業が製造の日本回帰推進 生産リードタイム、『夢の4時間』へ」『 日経情報ストラテジー』 2015年11月号 日経BP社 「ダイキン300億円投じ大阪にコア技術開発拠点、11月着工」 日本経済新聞電子版 2013/6/22 6:30 54 ご清聴ありがとうございました 55
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