障害学生支援と合理的配慮提供の 実際 2015年11月7日 障害学会第12回大会 静岡県立大学教授 内閣府障害者政策委員会委員長 石川 准 2 差別解消法の基本方針と対応要領・対応指針 基本方針とは障害を理由とする差別の解消の推 進に関する施策の基本的な方向等を定めるもの。 また、対応要領・対応指針は、行政機関等ごと、 分野ごとに定められるもので、不当な差別的取扱 いになるような行為の具体例や合理的配慮として 考えられる好事例等を示す。 footer 3 (図)基本方針のやくわり① 障害者差別解消法 基本方針 対応要領 対応指針 footer 4 (図)基本方針のやくわり② 障害者権利条約 基本方針 補充的解釈 障害者差別解消法 footer 5 不当な差別的取扱い(1) (1)不当な差別的取扱いの基本的な考え方 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由と して、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は 提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者 でない者に対しては付さない条件を付けることなどに より、障害者の権利利益を侵害することを禁止してい る。 footer 6 不当な差別的取扱い(2) (2)正当な理由の判断の視点 障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機 会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な 目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむ を得ないと言える場合。 障害者、事業者、第三者の権利利益及び行政機関等の事 務・事業の目的・内容・機能の維持等の観点を考慮 行政機関等及び事業者は、正当な理由があると判断した 場合には、障害者にその理由を説明し、理解を得るよう努 める。 footer 7 合理的配慮 (1)合理的配慮の基本的な考え方 ①合理的配慮とは: 合理的配慮を提供すべき場合:障害者から現に社会 的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があ り、社会的障壁の除去に伴う負担が過重でないとき。 権利条約の合理的配慮の定義をふまえる 留意点:合理的配慮は、本来の業務に付随するもの、 同等の機会の提供を受けるためのものであり、その事 業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばない。 footer 8 ②合理的配慮の多様性 合理的配慮は、具体的な状況に応じて異なる。双方の 建設的対話による相互理解を通じて、柔軟に対応がな されるもの。 合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場 合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、そ の都度の合理的配慮の提供ではなく、後述する環境 の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコスト の削減・効率化につながる点は重要。 footer 9 ③意思の表明 言語のほか、障害者が他人とコミュニケーションを図る 際に必要な手段(通訳を介するものを含む)により伝え られる。 本人の意思表明が困難な場合には、支援者が本人を 補佐して行う意思の表明も含む。 本人からの意志の表明がない場合でも、当該障害者 が社会的障壁の除去を必要としていることが明白であ る場合には、建設的対話を働きかけるなど、自主的な 配慮に努めることが望ましい。 footer 10 合理的配慮のわかりやすい例 視覚障害者が、紙の書籍を購入した上で、出版者にテ キストデータの提供を求める場合 車椅子で入れる試着室がないため、テナント外の多目 的トイレに未購入の商品を持ち込んで試着することを 求める場合 footer 11 過重な負担の基本的な考え方 個別の事案ごとに、状況に応じて総合的・客観的に判 断することが必要。 考慮すべき要素 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内 容・機能を損なうか否か) 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制 上の制約) 費用・負担の程度 事務・事業規模 財政・財務状況 footer 12 合理的配慮から環境整備へ 合理的配慮要求に基づいてたとえばスロープを 設置し、それを常設すればその後は環境整備と なる 二人目からは反射的利益として環境整備によ る社会的障壁の除去から利益を得られる 合理的配慮として実施した人力による配慮も、 その後ルール化して接遇マニュアルに書いて業 務として徹底すれば、その後は環境整備 footer 13 環境の整備と合理的配慮 合理的配慮は現場でできる配慮 環境整備がないと合理的配慮でできることには 限界がある 行政と事業者による環境整備の努力はとても 重要 環境整備政策を推進する必要 footer 14 大学での体制整備 対応要領策定に向けて 相談窓口(≒障害学生支援担当部署)の設置 ニーズの把握,具体的支援の提供,教員やその他関係部署での 合理的配慮を調整するコーディネートなど専門性のある体制 学内での第三者的組織の設置 障害学生等と大学との紛争を学内調停する機能 ウェブページ等での情報公開 適切な情報の公開による説明責任を果たし,障害学生等の権利を 保証する footer 法務局,地方法務局,人権擁護委員による人権相談 障害者差別解消支援地域協議会 図2. 国内の高等教育機関での 紛争調停に向けた体制整備例 文科省相談窓口 学 外 組 織 に よ る 相 談 ・ 調 停 AHEAD Japan 大学 監督 学長 監督 副学長 学内委員会 (ハラスメント委員 会的な調停組織) • 配慮申請 • 証明の提出 • 配慮内容の 異議申立て • 支援室や教員に 関する異議申立て 専門知識・経験と 経験知の共有 監督 障害学生支援室 ・大学での合理的配慮内容の合意形成の 中心的役割 障害学生 自立 自己決定 移行支援・ 教育ニーズ (一社 全国高等教育障 害学生支援協議会)等 の専門リソース • 配慮申請 • 交渉 配慮義務・内容に関する通知・仲介 教職員 ・担当する授業等での配慮の可否を検討 16 学外のリソースとの連携 障害学生支援に関する知見・専門性の共有 支援の具体的方法論,学内体制整備や調停・コーディ ネート等の知識とスキル 全国高等教育障害学生支援協議会(AHEAD JAPAN http://ahead-japan.org/)による蓄積と共有 その他のリソース 各地域の障害者支援・権利保障リソースとの連携 日本学生支援機構の活動(研修,マニュアル,データ ベース) footer 17 高等教育に関する対応要領・対応指針 の準備状況 国立大学協会による対応要領ひな形の策定 11月7日現在では確定版を公表していると思われる AHEAD-Japanの案を元に、ワーキンググループによる検討 が行われた 文科省 対応指針のパブリックコメント 2015年8月19日~9月17日に意見募集を実施 各公立大学および公立大学協会の準備は概して遅れ ている footer 18 不当な差別的取扱いに当たり得る具体例 障害があることを理由に受験を拒否する 障害があることを理由に入学を拒否する 障害があることを理由に授業受講を拒否する 障害があることを理由に研究指導を拒否する 障害があることを理由に実習、研修、フィールドワーク 等への参加を拒否する 障害があることを理由に学生寮への入居を拒む 介助者をともなっての授業出席を履修条件とする footer 19 合理的配慮に該当し得る配慮の具体例 物理的環境への配慮 車いす利用者のために段差にスロープを渡す 車いす利用者が段差を越えられない場合に、段差を 乗り越えるための補助を行う 移動に困難のある学生が参加している授業で、使用 する教室をアクセスしやすい場所に変更する 易疲労の障害者からの別室での休憩の申し出に対し、 休憩室の確保が困難な場合、教室内に長いすを置い て臨時の休憩スペースを設ける footer 20 意思疎通の配慮(1) 授業や実習、研修、行事等のさまざまな機会において、手話通訳、 ノートテイク、パソコンノートテイク、補聴システムなどの情報保障を行 う ことばの聞き取りや理解・発声・発語等に困難を示す学生のために、 必要なコミュニケーション上の配慮を行う シラバスや教科書・教材にアクセスできるよう、学生の要望に応じて 電子ファイルや点字・拡大資料等を提供する 聴覚障害のある学生の受講している授業で、ビデオ教材に字幕を付 与して用いる 授業中教員が使用する資料を事前に提供し、事前に一読したり、読 みやすい形式に変換したりする時間を与える 事務手続きの際に、教職員や支援学生が必要書類の代筆を行う footer 21 意思疎通の配慮(2) 障害のある学生で、視覚情報が優位な者に対し、手続きや申請 の手順を矢印やイラスト等でわかりやすく伝える 間接的な表現が伝わりにくい場合、より直接的な表現を使って 説明する 口頭の指示だけでは伝わりにくい場合、指示を書面で伝える 授業でのディスカッションに参加しにくい場合、発言しやすいよう な配慮をしたり、テキストベースでの意見表明を認めたりする。 入学試験や定期試験において、点字や拡大文字等による情報 保障を行う 入学試験や定期試験、または授業関係の注意事項や指示を、 口頭で伝えるだけでなく紙に書いて伝達する footer 22 ルール・慣行の柔軟な変更の具体例(1) 入学試験や定期試験において、個々の学生の障害特性に応じて、試験時間を延長し たり、別室受験や支援機器の利用を認める 成績評価において、本来の教育目標と照らし合わせ、公平性を損なわない範囲で柔 軟な評価方法を検討する 本来、部外者の立ち入りを認めていない教室等においても、介助者等の立ち入りを 認める 大学行事や講演、講習、研修等において、適宜休憩を取ることを認めたり、休憩時間 を延長したりする 移動に困難のある学生に配慮し、車両乗降場所を教室の出入り口に近い場所へ変 更する 教育実習等の学外実習において、合理的配慮の提供が可能な機関での実習を認め る 外国語のリスニングが難しい学生について、リスニングが必須となる授業を他の形態 の授業に代替する 障害のある学生が参加している実験・実習等において、特別にチューターを配置する footer 23 ルール・慣行の柔軟な変更の具体例(2) ICレコーダー等を用いた授業の録音を認める 授業中、ノートを取ることが難しい学生に、板書を写真撮影することを認める 不随意運動等により特定の作業が難しい障害者に対し、教職員や支援学生を配置し て作業の補助を行う 感覚過敏がある学生に,サングラスやノイズキャンセリングヘッドフォンの着用を認め る 体調が悪くなるなどして、レポート等の提出期限に間に合わない可能性が高いときに、 期限の延長を認める 治療等のため学習空白が生じる学生等に対し、補講を行うなど、学習機会を確保す る方法を工夫する。 移動支援は第一義的には自治体の支援を受けることを旨とするが、困難な場合は大 学が支援することも考慮する 学内移動や授業出席に介助者が必要な場合には、介助者が授業の受講生でなくと も入室を認める 視覚障害や肢体不自由のある学生の求めに応じて、事務窓口での同行の介助者の footer代筆による手続きを認める 24 合理的配慮の妥当性について考慮が必要 な変更・調整の具体例 目的・機能を損なうような変更・調整 成績評価において、公平性を損なうような評価基準の変 更を行ったり、合格基準を下げたりする 本来、授業において求めている教育目標を達成していな いにもかかわらず合格とする例:コミュニケーションスキル の獲得を目的とした語学の授業で、授業の主目的となる 実技をすべて免除し、代替手段を考慮せずに単位を付与 する。 授業の進め方の変更を行うことで、他の受講生の学習機 会が著しく損なわれる場合例:ディスカッションへの参加 が困難な学生に配慮して、本来計画していた授業中の ディスカッションをすべて無くし、講義だけで授業を行う footer 25 過重な負担 大学による生活面全般の保証例:一人暮らしが困難 な学生の生活を支えるために、年間を通じた専属の 支援者をつける) 大学による通学の保証例:学生の自宅からの通学に、 毎日補助者をつける) 財務計画を無視した、要求のあるすべての施設設備 の短期間におけるバリアフリー改修工事の実施 授業への出席が難しい学生のために、履修登録した すべての授業を1対1で行う footer 26 その他 提供することにより、他の学生と比較して明らかに有 利となる支援例:機能障害の状態と試験内容から不 必要と思われる試験時間の延長、個人的な物品・ サービスの提供など) 障害とは直接関係がない変更調整例:書字、聴覚記 憶、視覚情報処理など、ノートテイクに関連する認知 機能や運動機能に障害が見られない状況での、ノー トテイカーの利用) footer
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