Chapter 8 ナレッジ・マネジメント

ナレッジ・マネジメント
ナレッジ・マネジメント
• ナレッジ・マネジメントとは、組織が学習するプロセスについ
ての理論を現場で実際に活用できることを目的に開発された。
• 企業や組織の中に存在するナレッジおよび社外にあるナレッ
ジをいかに有効活用するかという方法論であり、伝統的な人
を組織の中で単に労働力ととらえるのではなく、その人間の
持つ知識に着目し、それを重要な企業の資産ととらえ活用す
ることを目的とした理論である。
組織学習
• Organization Learningとは組織における諸活動の中で組織として
獲得した新たな知識や価値観を、既存のものと融合させたり、すで
に妥当性を欠いたものと置き換えたりした上で、必要な時いつでも
取り出せるような形で記憶しておく、一連のプロセスをさす。
• 個人学習と組織学習の明確な違いは、目的・役割の違いと性質上
の違いがある。
• 組織学習の目的は組織目的を達成するためで、純粋な個人目標
追求とは異なる。つまり、組織というコンテキストや関連性の中で
おこなわれる。
• 性質上の違いは、ヘドバーグによる学説によると、組織学習には
シナジー効果により個人学習よりも大きな成果を期待できる。さら
に、組織学習したことはたとえその構成要員が入れ替わっても伝
達・共有され、時にすべての組織の要因が入れ替わった後でも
脈々と受け継がれていくことである。
2種類の組織学習
• シングル・ループ学習
– 目標と実際の結果にギャップがあるときや組織行動にエラーがあると
きに、その解決のため、既存の組織価値の枠組みの範囲内で行わ
れる組織行動の修正や転換をさす。Lower-Level Learningとも呼ばれ
る。改善活動や効率性を向上する活動がここに分類される。
• ダブル・ループ学習
– 組織行動の基盤となる組織価値という、より深いレベルの見直しを行
う組織行動の転換をいう。組織に大改革や非連続的な向上、高い創
造性をもたらすような根本的な学習であることから、High-Level
Learningとも呼ばれる。
知識
• データ、情報、知識の関係は、欧米では3層のピラミッド構造
で表わされてきた。あらゆるところに存在する 「データ」は第
1層であり、データを使える形に変換 (情報化) した 「情
報」が第2層。さらに情報を利用する人間が記憶に取り入れ
ると「知識」となる(知識化)。これが第3層であり、「知恵」 を
このピラミッドの上に第4層として載せれば図のようになる。
知恵
知識
情報
データ
• 行動と融合した使える知識
• 価値ある情報
• 意味のあるデータ
• 事実・数字など
知識
• 価値のある情報とない情報
– 企業にとって重要な知識は、①顧客情報、②市場動向、③製品とサービスの内容、
④技術革新、⑤競争相手の状況、⑥従業員の能力、⑦経営変革手法、⑧業務プ
ロセスなどである。
• ピーター・ドラッカーが 「ナレッジとは組織のなかで活用できる情報であ
る」としているように、知識は、企業目的を達成する上で価値のある情報、
または価値が認められている情報であるが、この情報や知識は企業内
外のどこにでも存在している。しかし、ほとんどの情報は有効に活用され
ていない。
• 知識は何かに利用できる価値のある情報であり、①パソコンの使い方、
②電子データや情報の説明の仕方、③何かをつくる方法論、④搬送の仕
方、⑤顧客に対しての説明の仕方、⑥顧客満足経営を目指したリーダー
シップ発揮の仕方など、企業経営の品質を向上させるものはすべて知識
といえる。つまり、意味のあるデータ (情報) を特定の目的のために活
用することで、組織にとって価値が出てきたものが知識となる。
• 一方、知恵とは知識をプロセスに投入した結果であり、知識とプロセスの
合算となる。すなわち、戦略経営資源を最適に活用することを意味する。
ナレッジとビジネス
• 顧客が買っているのは物やサービスではない
– 企業や組織の業績向上を目的に、個人と組織の有機的結合を目指すナ
レッジ・マネジメントにとって、知識が企業活動と禿離していては、まったく
意味がない。ナレッジマネジメントが企業活動と有機的に結びつくために
は、顧客はお金を払って物やサービスを買うのではなく、物やサービスを
介して機能や価値など、その本質を買っていると考える必要がある。たと
えば、テレビやインターネットによって 「情報や知識」を、高級自動車は
「機能プラス豊かさや安全性」を、コンビニは「便利さや安さ」を、花は
「美しさや安らぎ」を、といったようにとらえる必要がある。
• 知識創造のプロセス
– 企業経営が目指す物の販売やサービスの提供プロセスの本質は、マー
ケティング・商品開発・製造・販売・アフターサービスという流れに沿って
物やサービスに関わる価値や知識が移転しているものと考えられる。つ
まり顧客の二-ズ・ウォンツという知識を社内に取り込み、社内の知識を
結集・移転し、また外部の知識を導入・活用し、商品やサービスを開発・
製造する。そして開発された商品やサービスは、流通の知識を使い顧客
の望む価格や方法により、知識を体現した商品・サービスとして販売され
ることになる。このように、知識を生み出し移転し活用することに焦点を
当てた経営の仕組みがナレッジマネジメントである。
ナレッジとビジネス・プロセス
ナレッジ・マネジメント
• ナレッジ・マネジメントとは,組織が学習するプロセスについての理
論を現場で実際に活用できるよう,実践レベルに落とし込んだ理
論である。多くの企業でその考え方を取り入れようという動きが見
られる。著名なものでは,2000年に世界中の企業を対象として実
施された知識経営企業調査で日本企業では第1位の評価を獲得
した富士ゼロックスや,営業に関する情報や知識,ノウハウを社内
で一元管理し,社員全員でそれらを有効に活用したことで非常に
高い評価を受けたアサヒビールの取り組み例が知られているうえ,
その名を冠した日本ナレッジ・マネジメント学会も設立されている。
• 統一的な定義はないが,ナレッジ・マネジメントとは「1人1人の組
織成員がばらばらに保有する情報や知識を,最新の情報技術な
どの手段を用いて共有を図り,その必要性や目的に応じて,成員
がいつでも自由に知識を移転・再利用できる組織コンテクストや仕
組みを作り上げること」をいう。
ナレッジ・マネジメント
• 企業がナレッジ・マネジメントを進めていくうえで,非常に重要と位置づけ
る知識創造理論のコア・アイディアが,図のSECI(セキ)モデルである。
• 知識創造が可能になるとき,まず組織成員個人が他者と直接経験を共
有することでその暗黙知を共有する共同化(Socialization)から始まる。続
いて,その暗黙知を対話や思索によって形式知に変換する表出化
(Externalization),表出化された既存の形式知を組み合わせて組織の知
とする連結化(Combination)が起こり,最後に,体系化された形式知を個
人が活用する中で,新たな暗黙知の獲得を行う内面化(Internalization)
へと至る。そしてふたたび共同化から始まる学習サイクルへとつながると
いうわけである。
• ナレッジ・マネジメントとしてこのモデルを利用するにあたり,真っ先に着
手されたのは,連結化のフェーズであった。組織資源として十分に活用さ
れないまま,組織に点在する個人知識があまりにも多く,その共有化が
急務であることが認識されたことに加え,ちょうど加速度的な進歩を遂げ
てきた情報技術が,共有化の実現に大いに貢献しそうだと考えられたの
である。その結果,現在見られるように,多くの企業や組織が挙ってその
導入に取り組むこととなった。
ナレッジ・マネジメント
暗黙知は、文字どおり暗黙のうちに持っていたり共有していると推測すること
はできても、他人には見えない知識のことである。一方の形式知は、形になっ
ている、つまり表に出てきている知識であり、誰でも容易に認識することがで
きる。つまり言葉や文字などの形で表わすことのできる知識である。この個人
が持っている暗黙知と形式知が、ナレッジマネジメントの源泉である。
暗黙知と形式知
• 暗黙知は日本人の得意な分野といわれ、形式知はアメリカ人の得
意な分野とされる。これは村社会的社会構造で 「同じ釜の飯を
食って生きてきた」経験の共有がベースとなっている日本と、多民
族国家のため自分の意思を明確に主張しなければ生き残れない
米国という社会環境の違いからきているものと思われる。
• 日本の場合、暗黙知を形式知化するときに困難さを伴うことが多
い。とくに、「職人や匠の技」 といわれる知識は表出化することが
難しい。また、多くの人が暗黙のうちに共有しているとされている
知識についても、形式化しなければ本当に共有しているかどうか
を確かめることはできない。
• 暗黙知と形式知の理論(知の創造4モード) をそのまま経営に取
り入れ、〝知識創造経営″を実行している企業が乳薬会社のエー
ザイである。他方、組織変革によって暗黙知の形式化が進み、知
識の共有が進んだケースも多く出てきている。NTT東日本の 「3人
寄れば文殊の知恵」と呼ばれる知識共有システムはその成功例
の一つである。1600人のスタッフ全員が個人のホームページを持
ち、個人の知識を組織に公開している。
学習する組織
• センゲによれば,学習する組織とは,革新的で発展的な思
考パターンが育まれる組織,共同して学ぶ方法をたえず学
習し続ける組織のことをいう。つまり,ここでも「継続的な,創
造性と効率性の好循環」が重視されているのである。先のナ
レッジ・マネジメントが知識ベースの考え方であるのに対して,
学習する組織では,システム・ベースであらゆる組織現象を
とらえ説明しようとしている点に,その特徴を見出すことがで
きる。
• 個々の事象に振り回されるのではなく,その事象に関わる複
数の要因間の相互作用まで考慮しながらシステム全体を概
観し,そこでネックとなっている問題を解決することから始め
ねば,組織学習はうまくいかないというのが,「学習する組
織」研究者の根底を流れる基本的な価値観である。
学習する組織
• この考え方の重要性を示す一例として,アメリカにおけるピープル・エクス
プレス社のケースがよく取り上げられる。ピープル・エクスプレス社は,
1978年のアメリカ航空規制緩和以降はじめて設立された航空会社である。
高品質のサービスと業界最低価格を売り物にし,わずか数年で業界最
大規模の利益を上げ,飛躍的な成長を遂げた。だが,その成功は長くは
続かなかった。設立から5年で迎えた業績のピーク後,その売上高は低
下の一途をたどり,いったん赤字転落をすると,そのまま最後まで赤字か
ら抜け出すことはできなかった。そしてまもなく,この会社は破綻するので
ある。
• システム・アプローチは,この成功と失敗の理由を同時に説明するのに
役立った。図で描くように,ピープル・エクスプレス社は当初,低価格にも
かかわらず添乗員が親切できめ細かいサービスを行う点で高い評判を
獲得し,これが輸送客数の増加につながった。この増加が添乗員たちの
モティベーションにはたらきかけ,さらに高いサービスを提供する,という
好循環につながっていた(サイクル1)。
学習する組織
だが,顧客の増加が会社としてのキャパシティを超えはじめたときから,問題は始
まった。顧客の増加分に応じて航空機を用意する必要性とともに,添乗員の数も確
保しなければならなくなった。至急その補充採用が行われ,ただちに現場に投入さ
れたが,数だけは十分なものの質の低い添乗員が増える結果となったため,その判
断は顧客の会社に対する評価や満足度をじわじわと下げる結果をもたらした(サイ
クル2)。いつしか顧客離れが進み,それは添乗員のモティベーションに作用してさら
なるサービスの悪化を招くという悪循環を引き起こすこととなった(サイクル1)。
インフォーマル・コミュニティ
• 暗黙知が創造の源泉であるとすれば、暗黙知は企業にとって、ヒ
ト・モノ・カネ・情報と同じく重要視すべき資産・資源である。この資
源を活用するために、1998年に米国で開催されたAPQC (米国生
産性品質センター)主催のナレッジマネジメソト・シンポジウムで、
多くの欧米企業が強調していたのが、「コミュニティ」という言葉で
ある。
• たとえば、98年度の「最も賞賛される知識企業」 (英国テレオス社
発表) の19位にランクされたエネルギー・化学会社のシェブロン
は、「企業の成功に寄与することを目的として、知識共有、経験の
活用、個人およびその集合的な能力を向上させるために集まった、
共通の業務機能を持ったインフォーマルな人のネットワーク」を組
織し、「プラクティスのコミュニティ」と名づけている。このコミュニ
ティの概念は、日本のお家芸であったチームワークや互助の精神
に通じるものと言えなくもないが、環境変化と世界のスタンダード
に合わせて体系化されているのが異なる点である。
インフォーマル・コミュニティ
• もちろん、チーム内では個々人の知識を表に出さなければ
意味がない。そのためには知識の共有化が大事になるが、
従来のいわゆる村社会型チームワークではその効果が限ら
れたものになる。異端者の排除やのけもの扱いのないオー
プン型チームワークが求められる。市場のグローバル化は
急速に進み、競争環境がますます厳しくなっているため、全
精力を傾注した企業の活性化が企業の重要な成功要因とな
る。そのためには、あらゆる知識を結集するオープン型チー
ムワークの精神が最も重要となる。
ナレッジ・マッピング
• 知識は、広く全社の経営システムに活用できるものや、業務の種
類やタイミングによって利用価値があったりなかったりするものな
ど非常に多様であるため、有用な知識にたどりつけるようにどんな
知識がどこにあるかを常に理解しておくことが重要である。
• 知識はまた、経営環境の変化に応じて陳腐化しやすい経営資源
でもある。そこで企業の競争力を維持するためには、知識の共有、
創造に加えて、所有している知識の棚卸を定期的に実施すること
が重要となる。知識の棚卸は、定期的な知識データベースの更新
と知識レビュー(検査)によって行なう。
• この場合に、古くなった知識をどうするかが問題となる。通常は使
えない知識であっても、突如として、その価値が光りだすことがあ
るからである。そこで、いかに知識を分類し、知識データベースに
格納しておくかがその後のマネジメントの成否を決めることになる。
ベンチマーキング
• 激しい社会環境の変化は、内部知識の共有だけでは競争力を向
上できない可能性を示唆している。ここに外部知識を導入するベ
ンチマーキングの意義が存在する。ベンチマーキングとはベスト・
プラクティス(外部の知識)に学ぶことをいう。ベンチマーキングの
対象としたいベストの例を二つ見てみよう。
• KOAの自然に配慮する経営
– 電子部品メーカーのKOAは、自然との融合を成し遂げた企業文化が模範
となる事例である。KOAは、少量の受注に合わせたムダな機械投資を避
け自前の機械を開発するなど、ムダのないものづくりを徹底的に追求し、
自然に配慮した経営を行なっている。農耕民族として自然と共存してきた
日本人だからこそ可能な経営かもしれない。
• ミスミのアウトソーシング戦略
– ビジネスパートナー活用の好事例として、金型部品メーカー、ミスミのア
ウトソーシング戦略が挙げられる。ミスミは可能な限りの機能をアウト
ソーシングすることにより、外部の知識を活用するとともに、徹底したコス
ト削減を達成している。
ベンチマーキング
• 社外の知識を取り込むためには社内以上の努力が必要とな
る。なぜなら、外部の企業が他社に情報や知識をいつでも出
してくれるとは限らないからである。そのため、外部から常時、
情報・知識が流れ込んでくるようなインフラの整備が重要とな
る。たとえば、業界紙・誌、経済紙・誌、一般紙・誌、学会文
献やインターネットによる情報収集、異業種交流会、技術研
究会や学会への参加、国内や海外の先進企業視察、先進ビ
ジネススクールやシンクタンクへの人の派遣・提携、コンサル
ティング会社の利用など、積極的かつ継続的な活動が必要
となる。こうしたチャネルを通じたベンチマーキングによって
導入した、外部の知識や知恵などの知識資産については、
その価値を変化する現状に合わせて評価し、経営の仕組み
のなかに取り込んでいく。
知識共有
• 知識共有の効果としては、次のようなものが考えられる。
– 他人の知識を活用できるため、社員が会社により多く貢献できるようになる
– 各人の業務や努力の重複をなくせる結果、コスト削減ができる
– 経験を共有できるため、社員の能力を飛躍的に向上させることができ、業務
のクオリティが向上する
– 参加者意識、当事者意識が向上し、従業員満足につながる
– ベスト・プラクティスに学び業務プロセスを抜本的に改革できる
– 顧客ニーズへの迅速な対応が可能になり顧客満足向上につながる
• このように知識共有は、組織能力を向上させ、市場での競争優位確立を
結果としてもたらすことになる。知識共有の方法論としては、APQC(米国
生産性品質センター)の「組織知マネジメント・モデル」 (図表参照) が
参考になる。つまり知識の①創生、②特定、③収集、④整理、⑤共有、⑥
適用、⑦活用の7ステップのプロセスである。漫然と知識を共有するので
はなく、このようなプロセスを踏み、進んで知識を発見・収集し共有する努
力が必要である。
知識共有
知識共有
•
知識共有が難しいのは、人に属しているため他人には見えない知識(暗黙期)
を共有するには、見える形(形式知)にする必要があるからである。さらに、形式
知化された個人の知識を進んで他人に移転することも重要なことである。
•
そのためには、組織的なインセンティブの仕組み (次項参照)が重要となる。こ
れをイネイブラー(促進要因) と呼び、APQCの 「組織知マネジメント・モデル」
では、リーダーシップ・戦略・企業文化・テクノロジー・評価の4つを挙げている。
•
知識共有を進めるには、それを会社として支援する「リーダーシップ」と知識共有
の「戦略」が重要である。戦略を展開し全社に浸透させるには、情報技術を前提
としたイントラネットなどのネットワークインフラが効果を発揮する。もちろん技術イ
ンフラが整備されたからといって100%知識共有がうまくいくとは限らない。なぜな
ら、知識は人が持っており、その個人が知識を出さなければ意味がないからであ
る。また価値のない知識を共有しても意味がない。価値があるかどうかをチェック
するのが「評価」制度である。
•
たとえば、英国において発表されている「最も賞賛される知識企業」 でナンバー
ワンと評価されているルーセントテクノロジー社も、その経験から、誰でも納得す
る評価制度を持つことの重要性を報告している。現在、急激に進んでいる情報
ネットワーク革命は、情報技術革命というよりも、知識革命と呼ぶのがふさわしい。
それは、情報ネットワークを通じた個人の知識の交換・共有がその中心にあるか
らである。
アサヒビールのケース
◆ピール業界を襲った流通変革
• ビール業界における、ビールと発泡酒を合わせた国内市場は、ここ数年、
横這い状態が続いている。そのなかで、ビール販売の主役が酒販店から
スーパーやコンビニエンスストアなど量販チェーン店に大きくシフトしてい
る。酒販免許は段階的に規制摸和され、2003年には完全に自由化され
ている。酒販店の数は激減し、ビール販売の主役は完全に量販チェーン
店に移ることが予測される。こういった変化のなかで、ご用聞きのような
従来型の営業手法は通用しなくなってきており、顧客の売上・利益につな
がる提案型営業が求められている。
◆全社員参加型の経営スタイル
• アサヒビールの経営で特徴的なのが「社員一人ひとりが変化の兆しを敏
感に感じ取り、素早く対応する」という考え方だ。つまり、顧客や市場に常
にアンテナを向けてニーズの変化を敏感に感じ、社員一人ひとりが知恵
を出しあって、市場の変化に対し俊敏に手を打っていくということである。
• このため同社では、社長をはじめ全社員が常に現場に赴き、変化情報を
共有し、全社員で業務改善の可能性を探っている。こういっ環境を支える
ため、多様な情報システムを用意し、可能な限り情報を共有できる仕組
みを構築している。
アサヒビールのケース
◆現場の知恵を共有し、活用するシステム
• 従来型の営業手法から提案型の営業手法へと変革していきながらも、量販チェーン店
や酒販店にする提案は営業担当者一人ひとりのノウハウにとどまっていた。アサヒ
ビールではこの知恵を、情報システムを基盤として共同活用することで、迅速で最適
なソリューションを提供し「お客さまの満足」を追求している。取組みの一部を紹介しよ
う。
• 業界一の営業ネットワークを誇る同社は、約900人の営業部員を抱えている。営業部
員は常にノートパソコンを持ち歩いており、現場での 「気づき情報」をその日のうちに
報告している。これは「情報カード」といって、登録されるとイントラネットを通じて瞬時
にその内容が研究所や工場も含めた全社、全社員と共有できる仕組みである。この
カードには他の人がコメントを入力できるようになっており、互いの知恵を高めることを
可能としている。現在では1日当たり200件ほどの情報カードが全国から上がってきて
いる。さらに、1999年末には提案型営業のノウハウや成功・失敗事例を盛り込み、各
営業部員がさまざまな局面で参照し、応用できるようにした「営業情報玉手箱」 という
システムを導入した。毎日の営業日誌や情報カードで上がってきた情報をデータベー
ス化し、「チェーン本部情報」 「広告・宣伝情報」などの項目ごとに、ノートパソコンなど
の携帯端末で検索できるようにした。「量販店企画書ライブラリー」 では、業界全体の
動向や最近の傾向など、提案によく使う情報をまとめた基礎情報と、営業担当者が実
際に商談に使った企画書のなかから、内容が優れたものを抜粋し、営業担当者が引
き出して活用できるようにしている。こういった環境を整備し、同社では営業担当者の
提案力の強化を狙ったナレッジマネジメントを展開している。
アサヒビールのケース
参考文献
• よくわかるナレッジマネジメント、高梨智弘、日本実業出版社、
2000年5月
• はじめて経営学を学ぶ、田尾雅夫、他、ナカニシヤ出版、20
05年11月