1 2015・11・8 @関西学院大学 障害学会 12回大会 日本の鉄道・バスにおける 障害者割引の現状と課題 (全事業者調査の報告) 原昌平・三田優子 (大阪府立大学 人間社会学研究科) 2 調査の目的 • 鉄道、バスには、障害者手帳の提示による割引制度がある。 身体障害者、知的障害者の場合、普通運賃が半額になる。 • けれども、精神障害者保健福祉手帳については、JRをはじ め、割引の対象にしていない事業者がかなりある。 • 身体障害者・知的障害者でも、鉄道に単独で乗る場合は、長 距離でないと割引対象にしない事業者が少なくない。 • つまり、事業者によって制度に差がある。 • しかし、全国的な状況の調査報告は見あたらない。 • そこで、鉄道と一般路線バスを運行する日本国内すべての事 業者について、障害者割引の制度を調査した。 3 調査の対象と方法 • 鉄道は、路面電車、モノレール、新交通システムを含めて 158社すべてを調査した(公営を含む) 。 • <ケーブルカー、トロリーバス、ロープウェイは除外> • バスは、一般路線バスを営業する全国450社すべてについ て調査した(公営を含む) 。 <高速バス、空港バス、福祉的コミュニティーバスは除外> • 各事業者のネット掲載情報を確認するとともに、都道府県の 障害者福祉部門やバス協会に状況を尋ねた。 • それでわからなければ、個別の事業者に電話やメールで問 い合わせ、2014年8月時点の状況を確認した。 4 倫理的配慮、補足資料について • 各交通事業者の障害者割引の内容や条件は、一般に公表され るべきことであり、個人情報や企業秘密を含まない。 • 調査結果のあらましは、今年7月発行の『社会福祉研究』第123 号(鉄道弘済会発行)に報告したが、その際は個別の事業者名 を掲載することが認められなかった。 • 今回は、鉄道・バスとも、個々の事業者の割引制度の要点がわ かる補足資料を、障害学会大会のHPに掲載する。 5 鉄道の調査結果(1) 精神障害者への割引 • 全国158社のうち、割引適用は、45社(28.5%)にとどまる。 • JR6社、大手私鉄16社は、ともにゼロ。 • 大手や大都市圏の鉄道は、精神障害者にも割引する事業者の割 合が低く、地方の私鉄や3セクのほうが高い。 • 公営交通の福祉予算による住民だけの割引は、適用と考えない。 6 鉄道の調査結果(2) • • • • 障害者の単独乗車 条件なしで短距離でも割引するのは82社(51.9%) 100km超など長距離に限定するのが48社(30.4%) 単独乗車は、割引対象にしないのが25社(15.8%) JRや大手私鉄の大半は長距離限定で、短距離でも割引するの は西鉄だけ。地方や中小のほうが、条件なしの割合が高い。 7 鉄道の調査結果(3) 介護者同行時の割引 • • • • 手帳の等級などで限定せずに割引するのは、27社(17.1%) JR方式(身体・知的の第1種の手帳に限定)は、87社(55.1%) 「JR方式+精神1級」が、18社(11.4%) その他の等級などによる限定が26社(16.5%) 8 一般路線バスの調査結果 全国450事業者のうち、 • 精神障害者にも割引を適用するのは、333社(74.0%) • 一部の地域または路線で適用するのは、 7社(1.6%) • 精神障害者には割引しないのが、110社(24.4%) • 鉄道に比べて適用率は高いが、地域差が大きい。 • この10年間で、県内の全事業者が割引する地域が増えた。 • 割引の場合、バスは単独乗車でも、短距離でも、半額。 9 バス:精神障害者への割引適用率 (事業者数ベース) 100% 26都県 90%台 群馬、千葉、長野 80%台 石川、和歌山 70%台 北海道 60%台 佐賀、宮崎、鹿児島 50%台 滋賀 40%台 栃木、京都 30%台 大阪、兵庫 20%台 岩手 10%台 高知 10%未満 神奈川、福岡 ゼロ 愛知、愛媛、大分 今年4月に鹿児島、10月に愛知で進展 10 現状の問題点 1: 精神障害者への割引が、鉄道の多くと、一部地域のバスで 遅れている。 (手帳の創設時期が遅かったのが大きな要因だが、精神障害者 だけを除外する合理的な理由は見あたらない) 2: 障害者が単独乗車するときの割引を、長距離に限定している 鉄道が、大手を中心にかなりある。 (旅行にしか使えず、日常的な利用の負担は軽減されない) 3: 介護者同行時の割引条件がまちまちである。 (第2種の手帳では割引する事業者が少ない) 4: 新幹線を含む有料の特急券に割引がない。 (急行券は割引になるが、JRはほとんどが特急主体の運行) 5: 割引制度の広報が不十分な社が多い。 11 各地の取り組みと運動 • 精神障害者への割引が一般路線バスで拡大し、地方の中小私 鉄・3セク鉄道で増えた要因の一つは、都道府県の障害者担当 部門による地元の鉄道やバス協会への働きかけである。 (最も早いのは広島県。1998年から広電と主なバスが割引適用) • 精神障害の当事者や家族会の運動も大きい。 (奈良県では、奈良交通バスへの申し入れ、街頭宣伝) (北海道精神障害者回復者クラブ連合会は、道議会へ請願) • 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会(障全協)は精神障 害者への割引適用などを求め、国会請願、関係省庁へ要望。 • 精神障害者の家族会の集まりである「全国精神保健福祉会連合 会」(みんなねっと)は2014年6月、本格的な運動に乗り出した。 • 全国腎臓病協議会は、単独乗車や2種の場合の割引拡大などの 要望を続けている。 12 国の動向 • 1987年の国鉄分割民営化の後、障害者割引に法律上の定 めはなく、事業者の内部規則で行われている。 • 国土交通省は、各地方の運輸局を通じ、交通事業者に割引 拡大を要望している。(船、タクシーにも) • 同省自動車局は、2012年7月末、バスの「一般乗合旅客自 動車運送事業標準運送約款」を改正し、精神障害者を割引 対象に加えた。標準運送約款に強制力はないが、この改正 は、バスでの精神障害者割引の拡大に寄与した。 • 同省鉄道局は、「精神障害者や、短距離の単独乗車にも割 引を適用するのが望ましいが、強制や行政指導はできない。 鉄道には標準約款のような制度もなく、事業者にお願いする しかない」と、筆者の問い合わせに説明した。 13 事業者はどう考えているか(精神障害者への割引) ●JR・大手私鉄は、消極姿勢 • 「障害者への割引は、国鉄時代から行われているが、本来は 福祉政策として実施されるもの。拡大は考えていない」 • 「事業者の企業努力よりも、国や地方公共団体によって実現 されるもの」「新たな割引は国等の負担でやるべき」 • 「新たな割引は運賃収入への圧迫になる」 • 「割引の拡大は他の利用客への負担にもつながる」 • 「公的機関が助成するなら検討の余地はある」 • 「今後の社会的環境を見ながら、必要に応じて検討する」 ●割引している中小の私鉄・3セク、バス事業者の一部 • 「行政からの働きかけもあり、身体・知的と同じ扱いにした」 • 「割引しても、なるべく多くの人に乗ってもらうほうが路線の維 持にプラスになる」 14 障害者手帳と運賃割引の歴史 • • • • • • • • • 戦傷病者(傷痍軍人等)の鉄道の無料扱い(日露戦争後) 身体障害者福祉法が制定され、手帳制度が設けられた 国鉄運賃法が改定。身体障害者と介護者に半額割引 運賃割引規定が改定。1種、2種の区別がつくられた。 100km超の単独乗車の割引も始まった。 (他の鉄道も国鉄に準じる扱いになっていく) 1973 療育手帳が設けられた(まだ運賃割引の対象外) <この間、内部障害者や、知的障害者の親たちの運動> 1990 内部障害者に、JRと航空機の運賃割引が実現 1991 知的障害者に、JRと航空機の運賃割引が実現 1995 精神障害者保健福祉手帳が設けられた 2006 精神障害者の手帳も、写真貼付が原則になった 1908 1949 1950 1952 15 考察(1) 歴史的に見て • 交通機関の障害者割引は何のためにあるのか、これまで議 論が未整理だった。当事者や家族などによる割引の要求運 動でも、障害者割引を行うべき理論的な根拠については、あ いまいである。 • もともとは身体障害者に介護者が同行して乗る時に、運賃が 余分にかかることを重視し、障害者に低所得者が多いことも 考慮して、制度が設けられたとみられる。 <過重な負担の軽減という考え方にとどまる> <単独乗車の割引は、今でもかなり限定されている> • 身体障害者への割引から始まった。内部障害者、知的障害 者への割引は大幅に遅れた。精神障害はなお遅れている。 <見た目の障害にとらわれている> <鉄道関係者は、障害についての知識が乏しい> 16 考察(2) 現代の障害者観から見て • 障害者権利条約の第20条は「障害者自身が、自ら選択する方法 で、自ら選択する時に、かつ、負担しやすい費用で移動すること を容易にすること」を求めている。 • 障害者への所得保障が不十分な現状では、「移動する権利」を 経済面から保障するという観点が重要だろう。 • 「自立生活と社会参加を保障する手段」としても、割引を位置づ けるべきではないか。 • 精神障害者の除外は、2016年度施行の障害者差別解消法との 関係でも課題になりうる。<障害の種類による差別> • 自動車運転免許について2014年6月から、精神疾患など一定の 病気を持つ者への制限・チェックが強化されたことも考慮される べきである。 <自動車移動を排除するなら、公共交通の利用を提供すべき> 17 ご清聴ありがとうございました。 ご質問、ご意見をお願いします。
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