平成26年度社会福祉法人東京緑新会事業報告

平成26年度社会福祉法人東京緑新会事業報告
この1年間を振り返って
平成26年度当初、障害者権利条約批准の意義と、社会状況課題としての貧困化や格差
問題について、福祉に携わる側からの視点により注意喚起した。また、社会福祉法人改革
問題にも触れたが、平成26年度に課税化まではとりあえず行き着かなかったものの、社
会福祉法人のあり方が全面的に変えられる方向性が固められ、平成28年度からは退職金
制度も公的支援がなくなる見通しとなった。
とりわけ、利用者や待機者の重度・病弱化問題が進行する中、入所施設の縮小化政策が、
その理念とは裏腹に様々な問題を当事者にもたらすことも指摘していたが、福祉現場の声
はなかなか行政には届き難い状況であった。
この1年間、社会保障費の伸びに対する国の否定的な考え方が益々強まり、報酬改定は、
高齢分野ほどの削減はなかったが、実質的な改善を図ることは出来なかった。
社会福祉法人の社会貢献活動が義務化され、今後どのように取り組むのかが課題とされ
る中、最重度障害者を支援する当法人にとっては、本業にも注力しなければならない。そ
れは、障害者の高齢化等年齢構成実態からも伺い知ることが出来るが、東京都の福祉施設
等におけるセーフティーネットの質と量の改善対策が益々緊急性を帯びて来たと言える。
課題となる狭間に置かれた最重度障害者とその家族の実情を踏まえ、かつ支援主体であ
る職員の人員確保と育成をより一層意識し、次年度の事業に繋げて行かなければならない。
1
法人全体で取組むべき課題
(1)
ア
法人事業の拡大
新たな生活介護事業所の開設に向けて
平成26年度の生活介護施設整備費申請は、他の社会福祉法人を先行させると
の日野市における方針を踏まえ、経営会議で検討した結果、他法人との競合は
避けるべきで、当初の事業計画で予定していたプロジェクトの設置は中止した
方が良いとの判断に至った。
イ
新規グループホームの開設に向けて
新規事業に関する複数法人合同PJの会議が前年度5回ほど持たれた。この
枠組みで重度重複障害者のグループホーム(GH)を開設するということが当法
人の目標である。この間の課題と取り組みは、①各法人の意向集約と複合施設
の図面化は進められたが、オーナー方式か各法人が建設するのかは不明確な状
況であること、②地元市の都市計画に乗せていく必要があること、③対象地域
住民との関係を作ることに取り組んだこと、④対象地域住民自治会との話し合
いが持たれたこと等である。
他方、当法人としては東京都や利用希望者家族と継続的に協議を行いながら、
1
利用者と共に GH の見学等を実施した。平成26年度に法人としてのプロジェ
クトを立ち上げ、具体的な GH 設立の課題整理等をする予定であったが不確定
要素も多く踏み込んだ対応は出来なかった。この課題は、次年度に引き継ぐ。
ウ
東京都からの委託事業「東京都地域移行促進コーディネート事業」の推進
東京都は施設利用者の地域生活移行を促進するため、一定のブロック内に「地
域移行促進コーディネーター」を配置し、ニーズ調査、啓発活動、移行支援等
の取組強化を図った。当法人は、この事業に応募し平成26年 1 月から東京都
より受託している。平成26年度においては、協力関係4施設(日野療護、み
ずき、八王子療護、楽)との連携でアンケート調査を実施し、その結果分析に
基づき各施設の地域移行に向けた課題を探るようにした。また、アンケート報
告等各施設のニーズ状況を交えた情報提供等学習会を開催し、地域生活移行促
進を模索しつつある。当法人では、この事業に1人の職員を専従で配置し(地
域生活相談室「おあしす」に配属)
、相談支援事業と連携して取り組んでいる。
具体的には、平成26年7月に第2回ブロック会議を開催し、アンケートの
進捗状況報告及び中間報告を行った後、10月に最終集約を行った。調査結果
からは、かつての在宅生活が本人・家族の努力や福祉サービスでは立ち行かな
くなり、苦労の末施設に入所することが出来たと考える利用者・家族が多いこ
とが分かる。そして、入所後は、重度・病弱化が進行し、職員は利用者の潜在
的あるいは顕在化した医療的ニーズ・アプローチに優先順位を奪われ、介助量
も増加している実態が分かった。このことは、利用者が地域への関心や学習の
機会を失いつつあり、職員が地域移行支援を積極的に行う余裕もなくなってき
ている様子がとらえられる。こうしたことを考慮して、地域資源の一つである
GH の見学会を平成26年10月と12月に実施した。また3月には施設から地
域に出てアパート暮らしをする元利用者の日常生活ビデオ上映・学習会を本人
の協力を得て行った。そうした中、CIL で長年自立生活プログラムの受講や自
立体験質を利用してきた利用者の1人がようやく次年度には自立生活を始める
状況に来ている。本人は成年後見制度の利用対象者で、かつて家裁から判断さ
れた「後見」の妥当性をめぐる裁判まで行い勝ち得た『自立生活』であり、本
人の自己決定を尊重して長年寄添ってきた職員のプロ意識も投影されている。
(2)
法人としての人材育成
ア 法人研修
7月の末に第38回全国身体障害者施設協議会研究大会が横浜で約1500
人を集め開催された。大会実行委員会が身障協・関東甲信越地区ブロックで、担
当が東京都身体障害者施設協議会(東障協)となり、平成26年度前半は、多摩
療護園が東障協・事務局を担当している関係から、殆どこの研修大会の対応に追
われた。
2
法人研修は12月に「障害者虐待防止・権利擁護研修」のテーマで開催し、
20名の職員が参加した。法務省が平成26年における障害者施設の権利侵害
は246件あり、過去最多であったことから東京都も再三注意を呼び掛けてい
る中、次年度も引き続きこの課題やテーマについて継続する。
イ
雇用情勢の変化に対応した人材確保の強化
平成24年度から平成26年度までの3年間に正規職員は26人が退職し、
採用も26人であった。入退職率は8.8%となっている。平成26年度にお
ける最終欠員状況は、正規職員については何とか対応できたが、産休・育休者
が5名おり、その代替え職員(正規職員で募集も)がなかなか採用出来なかっ
た。介助班女性職員の勤務体制が内部確認の最低人員を割り(事業基準レベル
でははるかに上回る)、超勤等で何とかしのぐという状況となった。
ウ
人事考課制度の見直しと再構築
予定では、平成23年度から人事考課制度を導入し、評価による昇給制度の
実施に取組んできたが、評価基準の明確化や様々な職種に対応した研修システム
の確立ができず、定期昇給は一律3000円の暫定措置を図ってきた。しかし、
これでは生活設計が描けないとの声が出る中、平成26年度後半から集中的に新
給料表における賃金カーブのあり方や定期昇給幅の再検討を行ってきた。その結
果、給料表については、150,000~351,000までを1年に1号昇給
し、かつ1級から3級まで比較的早い次期に昇格するシステムを構築した。改定
給料表は、東社協モデル、同業他事業者の給料表、また東京都中小零細企業賃金
実態調査結果等との比較においても遜色ない内容であり、これに各種手当て類が
付くことになる。実施した場合の人件費上昇分は、平成27年度に1,100万
円程度が必要となる。
この改定定期昇給制度を平成27年度から平成31年度の5年間実施した場
合の試算では、法人全体の収支差額合計が13,490万円で、その際の人件費
比率は、72.8%~75.3%と予測される。当法人として設定している人件
費比率の範囲内に収まってはいるが、ギリギリの状況である。これではまだ安定
的とは言えないので、平成27年度においても収入増や効率化等の検討を行うこ
とに含みを持たせ、この賃金改定を実施することとした。
エ
拡大リーダー会議の一部復活による多摩療護園事業運営の改善
平成26年度から各月で6回実施してきた。法人として全体的な取組を徹底し
たり、情報を共有したりするという点からも実施した意味はあるが、運営につい
てはもう少し工夫が必要である。
2
障害者支援施設多摩療護園
(1) 施設入所支援・生活介護・短期入所・日中活動
3
ア
施設入所支援
(ア)
ADL実態調査から業務整理を行い、パート職員導入を図る
ADL業務量は1999年から2011年の12年間に推定25%増加して
いた。障害の重度化等による支援状況の変容をとらえるならば意外に少ない。
介助班の人員は都の方針で2003年に3年間かけ2割削減となっており、そ
の他様々な環境変化を考慮してみると、この業務量の増加率は実質2割の削減
分を長い年月を掛けて取り戻してきたわけでそれ自体大変なことでである。し
たがって、職員は介助の優先順位を取捨選択しながら自らがオーバーヒートを
しないよう、業務量の増加を抑えながら対応してきた数字と言える。やはり煮
詰まった状況の中では、人員に対応した枠組以上の急激な支援の拡大は難しく、
時々の変動はあるものの、総体として見たときに平均値では徐々に上がってき
たことがわかる。
その結果、調査データからは医療的ケア等の増加に伴い介助場面でのQOL
的関わりが減る傾向があり、日常生活のアクティブさに欠ける利用者への支援
時間が、医療的ケア等の定時ケアを除き全般的に減少していることが推察され
る。一方、比較的アクティブな利用者の支援は、かつてのような自立生活等社
会性の獲得にエネルギーが向っていた状況から、日常生活上の「不適応」とし
て現れるニーズへの対応に苦心する事態へと入れ替わっている。
平成26年度の前半はナースコールの業務整理を中心に検討したが、ナース
コール連打による業務への支障を避けるため、特定の利用者について必要最小
限の範囲でナースコールを外す課題があった。その際、本人・家族への十分な
説明と了解を得ることや、個別生活支援計画に盛り込むことを確認し実施した。
業務の見直しが具体的に進んでいないため、10月から労使間で「多摩療護
園の業務等全般にわたる見直し検討委員会」を設置した。会議は全体で7回実
施された。①勤務体制及び一日の稼働人員の整理、②欠員補充のルールについ
て、③年休取得のルールについて、④共通業務時間帯の延長と男女共助、部署
間支援体制、業務標準化、⑤利用者支援のあり方の変更・入浴、⑥利用者支援
の変更・個別支援体制、⑦利用者支援の変更・定型的作業から状況に応じた支
援の実践と業務標準化、⑧運動担当職員の変更等、⑨新たな勤務分担の創設と
日中活動の豊富化等の課題を検討・整理し年度末に報告書をまとめ、利用者、
職員への説明会を行うこととした。業務整理のポイントは、常態化した欠員状
況を念頭におき独自の職員配置基準の縮小検討を行い、これに見合った業務の
見直しを進めた。その結果、夜間入浴から昼間入浴へ利用者の一部をシフトす
ることによって、各フロアー男女1名づつ計4名の日勤者(夕食まで対応する
日勤者 10:00~18:30)を遅出の職員から移行し、併せて遅出の職員2名を削減
する方針を打ち出すこととした。施設改革以来23年ぶりの勤務シフトの変更
4
である。新たな日勤者の活用により、重度・高齢化した利用者に対する日中活
動支援のバリエーションの豊富化や、昼間入浴等定型的業務の一部パート職員
導入への道が拓けてきた。人員状況が厳しさを増す中での加齢等生活変化に合
わせた一定の工夫である。次年度には環境を整備し、試行実施に漕ぎ着けたい。
(イ)
第三者評価の分析と改善
平成26年度第三者サービス評価は、6月末に2日間調査を行った。評価結
果は12月に施設へ郵送されてきため、分析等が遅れてしまった。利用者調査
項目では、
「利用者同士のいさかいやいじめ等があった場合に職員の対応は信頼
できますか」や「あなたの計画やサービス内容についての説明はわかりやすい
と思いますか」等で肯定的評価が低く、職員自己評価結果では、
「事業所業務の
標準化を図るための取り組みをしている」の項目が、一般職員とリーダー層と
の評価の差が著しかった。こうした結果について職員間や利用者・職員懇談会
で情報の共有と意見交換を行ったが、改善等の取組みは次年度に継続する。
(ウ)
利用者への適切な医療的支援の実施
吸痰等研修については8月で予定通り終了したが、基本研修の一部を受けて
いない職員や新規職員等が残っており、そうした一部の職員については次年度
に実施する。
健康診断結果を踏まえた医師による本人・家族向け説明は、少人数に留まっ
た。急変時の対応準備等についても、個別に確認しておく必要があるが、まだ
かなりの対象利用者が存在する。しかし、一部利用者の緊急時対応例では、個
別支援計画に内容が記載されていたので、救急への対応が円滑に行われた。
利用者・家族が延命を希望しない場合、病院搬送が困難になる現状を踏まえ、
施設内での看取りについて検討を行ったが、結論を出すには至らなった。
(エ)
総合的利用者支援の追求
『意見交換会』については4月に「異性・異フロアを知る機会を作る」、11
月に「男女の業務内容見直し」のテーマで意見交換を行った。業務における男
女のスタンスの違いが見えてきたことから、相互に改善できる部分を探り今後
の業務見直しに繋げることとした。
『介助検討会』は、6月に男女別で実施した。男性は意思疎通困難者とのコ
ミユニケーシヨンの取り方、女性は立位可能な利用者の介助方法についてPT
の協力を得ながら注意点等の確認を行った。10月には介助技術ではなく、利
用者への接遇面の対応方法について話し合った。特に呼称や言葉による暴力性
について注意する点を確認した。
『支援検討会』は12月に実施した。「看取り」をテーマに医師や看護師の経
験談や資料に基付き、介助職員が園で看取りを行うことについての是非や不安
等の意見交換を行い理解を深めた。次年度は、医師等医療職と介助職とが連携
5
して、介助上留意すべき疾患の特徴等の知識を得て支援の向上を図る。
(オ)
自立生活センター等との連携による利用者の地域生活移行支援
当園自立支援推進委員会とCIL昭島から派遣のピアカウンセラーとの連携
により、月3回年36回の園内ピアカウセリングと園内ILP(自立生活プロ
グラム)を実施した。特に、○○利用者には出身地近くの自立生活センターと
地域移行促進コーディネーター、個別支援担当者等との連携により、地域移行
に向けた支援を行ってきた。後見人を巡る裁判も決着し△△区でのアパート探
しを進め、いよいよ次年度に地域移行を実現するところまで進んでいる。また、
園内ILPではホットケーキ作りや、利用者3名が公共交通機関を利用した外
出を行った。3月には、地域移行促進コーディネーター事業担当者との連携で
学習会を開催し、元利用者で自立生活に移行した体験者を招き、地域生活の実
状について理解を深めた。
(カ)
障害支援区分認定調査への対応
「園内情報共有サイト」内に、障害支援区分関連スレッドを立ち上げ、意見・
情報交換を行い、障害支援区分を学習していく環境を整えた。その結果、認定
調査未経験のサブ・リーダーも無難に認定調査の対応ができた。サブ・リーダ
ー間の意見交換を行いつつ、シミュレーション作成の取り組みを進め精度も向
上してきている。この1年間の取り組みで4人のサブ・リーダーが、認定調査
については概ね同等のレベルで対応できるようになった。このスレッドは、引
き続き情報交換の場として活用していく。
(キ)
サービス等利用計画作成へのコーディネート支援
当法人運営の相談支援事業「おあしす」では、利害関係が絡む要素のある法
人内施設入所利用者の計画は原則作成しないことを基本スタンスとした。外部
相談支援事業所へのコーディネートは生活部チーフ・リーダーが担当している。
平成26年度のサービス等利用計画の作成はコーディネートにより20名、そ
れ以外で3名の計23名が完了している。これまで協力をしていただいている
市外相談支援事業所だけでは7名が精一杯ということなので、次年度は新たな
市外相談支援事業所を開拓する。
イ 生活介護(通所)
(ア)
①
通所生活介護事業(単位Ⅱ)の拡大と安定的運営について
特別支援学校との連携強化及び近隣市のニーズ把握と、平成26年度の利
用率目標、利用者支援
平成26年度の延べ利用者数は6,247人(前年度比約1.03倍、内、
土日入浴243人、年末年始入浴29人)1日当りの平均利用率は22.74
人、利用予定者数に対する実利用者数割合は89%、対象利用者は49人とな
った。なお、4月3人、11月2人、3月1人の新規利用者を受け入れた。
6
昨年に引き続きニーズの高い土日、年末年始入浴を継続的に実施したが、土
日入浴に対する在宅障害者のニーズは依然高いものがあり、1日平均10.1
人が利用。また、年末年始の事業所閉所に伴い入浴が困難になる利用者を対象
とした特別営業も延べ29人(前年度比90.6%)が利用した。
特別支援学校との結びつきが強まる中、平成26年度は特別支援学校の実習
生を延べ16人受入れ(うち高校3年生1人)、うち1人が進路先として多摩療
護園を希望した。後期の実習、移行支援会議等を経て重症心身障害者の通所枠
に登録することが決まっている。この間、特別支援学校との連携強化を追求し
てきた結果と言える。
利用者増加の中、平成26年度は園小型リフト車1台を追加購入し、マイク
ロバス3台、及び園小型リフト2台、普通乗用車1台の体制で利用者の送迎を
実施した。このうちマイクロバス2台は日野市からの補助事業を受け、1台は
重心事業の都加算部分を財源とした。八王子市、多摩市在住で、重症心身障害
者通所事業に登録していない利用者から、送迎に関する自己負担をお願いする
ことを利用者懇談会、家族会で説明し、平成27年度から実施することとした
(片道100円、同一世帯で二人以上の利用者がいる場合は半額)。なお、小型
リフト車3台体制を次年度から実施する計画で準備を行った。
② サービスの質の向上
利用者が希望するニーズの多様化等から、新たな企画を平成26年度は積極
的に実施した。重症心身障害者通所事業では、家族からの要望を受け宿泊企画
(お泊り会)の実施を検討したが、職員配置体制上困難との判断から企画内容
を夕涼み会に変更し実施した。また、生活介護事業所全体を通じてこれまでよ
りも比較的遠方の施設(スカイツリー、葛西臨海水族園)等に出かける1日企
画外出を行った。また、年始外出として大國玉神社や東京競馬場等新たな外出
先も開拓した。
③ 家族との連携強化と相談支援体制の充実
生活介護事業利用者を対象とした「利用者懇談会」を年3回、家族会も年3
回それぞれ実施した。それぞれ利用日、時間が異なる中で、当日参加できない
利用者が多いことに配慮し議事録を速やかに配布する等の対応も行った。なお、
「家族同士が連携できる関係作りをしよう」との意見により、家族会で連絡網
を整備し自主的な連絡が実施されている。また、利用者の死亡や退園について
も一定のルールを定め、全体に周知する仕組みを確認し実施した。
(イ)
新たな事業展開に向けて
内容は1法人(1)アと同じ
ウ
短期入所事業
(ア)
短期入所事業の継続的運営
7
① 利用率100%達成に向けての取り組み
平成26年度の短期入所事業(併設型)の延べ利用者数は123人、延べ日
数は710日、対象利用者48人(男29人、女19人)利用率97.3%で
あった。11月、12月、2月、3月の利用率が落ち込んだ。各月とも、利用
直前でのキャンセルが出たことによる。なお、例年年末年始に短期入所用居室
1室をグループホームのバックアップ事業として運用しているが、平成26年
度の実施はなかった。
②
備品購入による利用者支援の向上について
短期入所事業用の寝具類、備品の痛みが激しくなっている。このため物品更
新に向けた予算を平成25年度に計上、平成26年度に備品類を更新した。こ
のことにより利用者の満足度は向上したものと思われる。なお、備品類の更新
は今後も適宜実施していく。
(イ)
空床利用型短期入所事業の積極的利用について
空床型は延べ3居室を使い、延べ24人が利用した。なお、実利用者は2人
(男)であった。延べ利用者数が平成25年度は72人、平成24年47人の
比較から見て平成26年度の実施率は大きく落ち込んでいる。これは、慢性的
な「欠員状況」のため、現場負担感が大きい空床型短期入所事業の実施を結果
的に抑えたことが要因と言える。他方で平成26年度収入は対前年度比約20
0万円の減収となった。入所利用者の入院、外泊、欠員日数は全体で683日
であり、うち欠員が例年になく多い405日であったことを考えれば、空床型
短期入所事業の実施をセーブした判断の是非が問われる。また、空床型を実施
したくとも、入所対応可能な女性スタッフが配置できない現状(男性はリーダ
ー層が対応可能だが、女性はリーダー層が少なく対応できない)を改善しなけ
れば空床型短期入所事業の利用率向上に繋がらないこともある。
(ウ)
緊急一時保護事業の実施について
短期入所事業は、3か月前の予約制でかつ利用率がほぼ100%となってい
る。緊急一時保護利用は実質的に空床利用型短期入所事業として行われるのが
実情であり、空床型への対応と併せて今後も追求して行かなければならない。
平成26年度は、比較的安定した夜間のバイパップ装着利用者の受入等ハード
ルが多少上がりつつあるものの、緊急一時保護の受入れケースはなかった。
エ 施設支援事業における日中活動
(ア)
園内行事の充実と利用者個々人に適した活動の提供
4月は小川さんによるコンサート、5月は滝波先生のギターコンサート、府
中能力開発センター校実習生15名によるレクリェーション、7月は首都大学の
学生と芸術クラブとの人形劇、10月はハンドベル、ギターコンサート、木の実
祭り、11月はふれあいステージ、12月はもちつき大会、1月は新年会、2月
8
は中央大学演奏会、スマイル楽団演奏会、3月は墓参り等の行事を実施した。
(イ) 地域行事へ積極的に参加し地域住民との交流を図る
8月は百草団地盆祭りに利用者2名が参加。9月は八王子生活実習所の祭りに
利用者1名参加し、他施設職員との交流を図った。9月はボランティア東京が開
催している「昭和記念公園バーベキュー大会」に利用者4名が参加した。また、
みんなの音楽会に音楽クラブ員10名、ボランティア5名、学生6名で参加。
10月は高幡台団地の芋煮会及び日野療護園秋祭りにそれぞれ2名の利用者が参
加。11月には日野市産業祭り、高幡台団地うどん作りにそれぞれ1名の利用者
が参加。平成26年度は、園内行事や催し物への参加が56回実施された。
(ウ) 地域住民にボランティア活動の場を提供しつつ、日中活動の充実を図る
日野社協・ボランティアセンターとの連携は図れているが、ボランティア募集
のインフォメイションには掲載されていなかったので、
掲載するように手配した。
古紙回収作業や粘土細工をボランティア及びパート職員と一緒に行った。
(エ) 職場体験、ボランティア、介護等体験、介護実習等の受け入れ体制の充実
平成26年度介護実習については、大学、専門校等含めて10団体23名で延
べ261人、介護体験については63名で延べ315人となっている。特に年々
物足りなく思われる学生の取り組み姿勢や質の変化については、大学・施設双方
が共通認識を持っており、連携を図りながら人材育成に努める。
オ
施設の地域開放体制の充実
毎週木曜日の午後には地域開放の一つとして、PT相談及び運動訓練を実施し
ているが、他に平成26年度は七生特別支援学校中等部の職場体験と高等部の職
場実習を受入れ実施した。今後も地域住民ニーズに合った施設の地域開放体制作
りを継続して取り組む。
カ
利用者及び職員に対するストレスマネジメント体制の充実
平成26年度は、他法人施設の見学を行いながら、利用者、職員に対するスト
レス対処方法等の状況を聞き、現場へ報告した。
キ
障害者雇用事業サポート体制の充実
七生福祉園職員と意見交換を行いながら、対象利用者のできる作業を模索して
きた。
ク
各施設間・ネットワーク作り
引き続き平成26年度も3月に「地域交流会」を開催(17施設31名が参加)
し、施設間の情報交換等を行った。この取組みは今後も継続する。
(2) 障害者の権利擁護
ア
オンブズパーソン活動について
平成26年4月に4名のうち1名の委員が交代した。利用者からの重大な苦情
は上がってこなかったが、未だ職員の一部に言葉使いが良くない人がいるとの声
9
もあり、心理的虐待とならないよう、注意していく必要がある。身障協の権利擁
護・虐待防止スローガン『虐待は
しない、させない、許さない』の立場を貫く
ことが求められている。また、日野市の監査の中で、オンブズパーソンの連絡先
を現行の1ヶ所から2ヶ所以上とするよう指摘がなされ、改善を図った。平成2
6年度も毎月の利用者・職員懇談会への参加と開催日の相談活動、定例会を実施
した。定例会では、介助職員欠員による利用者支援への影響に対する懸念や、業
務検討委員会による業務改善の提案内容についての質疑と意見交換を行った。
イ
情報管理・共有化
(ア)
ホームページの再構築・更新等適切な運用について
平成26年度もホームページの一部更新は、現行PC管理担当者が必要時に
対応したが、今後のホームページの運営管理については、1人の職員に頼って
いる状況を変えていく。そのため、専門Gの中に、新たに情報推進委員会を設
置した。役割は、①ホームページの運用管理、②園広報紙の発行、③情報ネッ
トワークの管理で、男女2名づつ計4名で行うこととした。具体的活動は次年
度からとなる。
(イ)
ミーティングの活用
生活部リーダー会議での論議を踏まえ、日勤者が基本的に参加しない土、日、
祝日はミーティングを開催せず、記録を含む日常業務に専念することを試行し
実施した。また、平日のミーティングを活用して、利用者の状況変化における
介助方法の検討、職員の言動のあり方、看取りについて、業務改善についての
意見交換、新給与制度について等々の情報共有と意思統一を図ってきた。今後
もこのミーティングの場を最大限活用する。
3
地域生活相談室「おあしす」
(1)事業環境の変化
ア 2014(平成26)年 1 月から2名体制
イ いわゆる2015(平成27)年度問題について
計画相談支援等の必須化への現実を受け、計画相談支援等の依頼が殺到してオー
バーフロー状態となり、残念なことに以下の点により新規知的障がいの成人の方に
ついて依頼をお断りする事態となった。
(ア) 知的障がいの方の担当利用者数が、身体障がいの方担当の担当利用者数のほぼ
2倍となっていること
(イ) 日野市内の障害児相談支援事業所が3か所しかないこと
(ウ) おあしすに基本相談支援で繋がる方々が、順次計画相談等に移行していること
(2)2014(平成26)年度事業計画の実施・達成状況
ア 基本スタンスについて
10
2名体制となったが、下記周知・共有のための議論は時間を取って出来なかった。
(ア)
利用者や家族にとって、相談支援との出会いが、利用者・家族・環境・支
援の底力(ストレングス:利用者本人については、思い×能力×自信=底力
ととらえる)の発見・実感に繋がり、サービスを活用しながら、人生を切り
開いていく自信を獲得(エンパワメント)できるよう支援を行う。
(イ)
また、家族内、利用者や家族とサービス提供者、利用者や家族と地域環境
等の間に横たわるコンフリクト(葛藤)については、利用者の最大利益の確
保を基本にすえるとともに、修復的対話を促進する視点(修復的アプローチ)
に立って支援を行う。
イ
手法について
下記に関しては計画どおり実施できた。
(ア) アセスメントにおいては、障害状況等を見極めつつ、よりふさわしいアセス
メント票をベースに実施するとともに、底力(ストレングス)を発見していく
視点に立って実施する。
(イ)
サービス等利用計画、障害児支援利用計画については、「本人中心計画」の
作成という視点に立って、行政の書式をもって作成する。
(3)地域生活相談室「おあしす」の運営体制
ア
運営体制について
(ア)
会計・経理、勤怠管理、安全衛生、防災、苦情解決、施設内情報共有システ
ム(サイボウズ)等は従前通り多摩療護園の一部として取り扱うことについて
計画どおり実施した。
(イ) 法人内の意思決定及び連絡調整のため、おあしす室長が、多摩療護園リーダ
ー会議にオブザーバー参加することは困難であったが、経営会議に出席するこ
ととなった。
イ
人員体制について
(ア) 2014(平成26)年度は、やっと2名体制で事業執行に当たれた
1名:常勤・専任:管理者(おあしす室長)、相談支援専門員を兼務。主に
知的障害、視覚障害の方を担当し、その他請求業務を担当した。
1 名:常勤・兼任(地域移行促進コーディネーターとの兼任)
:相談支援専門
員、地域移行および地域定着支援担当を兼務。主に全身性身体障害の方を担当
することについては計画どおり実施した。
(イ)2014(平成26)年度途中からさらに人員増について検討した
2013(平成 25)年下半期以降、業務量の急激な増加に見舞われており、2014
(平成 26)年度は、補助要員について模索してきた(次年度人員問題要検討)。
ウ
持続可能な組織体制の確立
(ア) 管理者兼相談支援専門員が雇用延長者であることから、体調面等も考慮し持続
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可能な組織体制のあり方を視野に入れながら検討することとなった。
エ サービスの質の確保と効率的な運営体制確保のための方策
(ア) 法人として以下の体制整備を進めることについて、基本的には不十分であった。
①
国保連請求体制の確立は、管理者(おあしす室長)が担当した。
②
相談支援業務システムソフトの導入の検討は行えなかった。従前通りエクセ
ルを基本として計画書面等の作成を行った。
③
電話連絡体制、面談時の電話への配慮については、従前どおりとなった。
④
緊急時連絡体制の整備(業務用ケイタイ電話の導入とその対応体制)につい
ては、年度の終期に地域移行及び地域定着支援業務に着手したが、体制整備段
階には至らなかった。
⑤
接遇のレベルアップ、資料、図書等の拡充についても対応が出来なかった。
(4)障害者総合支援法・児童福祉法による事業について
ア
市指定特定相談支援事業(サービス等利用計画作成支援とモニタリング)
2014(平成 26)年度末の利用者は 68 名となった(通所サービスを利用しない
障害児も含む)
。次年度からは、100 名単位での増加もあり得るので、対応策を引
き続き検討しなければならない。
イ
市指定障害児相談支援事業(通所サービス利用援助とモニタリング)
2014(平成 26)年度途中より、日野市が障害児の家族に対しては全員セルフ
プランでの作成要請を出したため、依頼件数の大きな伸びはなかった。しかし、
2014(平成 26)年末には 19 名程度となり、通所サービスを利用する障害児の相
談支援が必須となることから、増加への対応を検討することとなった。
ウ
都指定一般相談支援事業(地域移行支援と地域定着支援)
2014(平成 26)年度は始めて地域移行支援対象者が 1 名となった。次年度から
実質的に始動する。これについては、「地域移行促進コーディネーター」業務との
調整を図りながら進めることとした。
エ
障害程度区分認定調査受託
2014(平成 26)年度中の契約・実施件数は、6自治体6件であった(愛知県豊
田市、静岡市、岩手県葛巻町、長野市、岩手県大船渡市、福島市:いずれも日野
市内の施設入所支援利用者)。
オ
基本相談支援
2015(平成 27)年 3 月 10 日現在、64 名(計画相談支援、障害児相談支援、地
域相談支援の利用者を除く)。基本相談は相談支援の要であり、積極的に受け入れ、
計画相談支援、障害児相談支援、地域相談支援への移行・継続を図っていきたい
ところである。しかし、急激な業務量の増大は、当事者や家族に寄り添った丁寧
な相談・支援に取り組む余裕を奪ってしまうため、人員体制、役割分担等の再検
討が必要となった。
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(5)地域連携・資源開発・ネットワーク
ア
日野市地域自立支援協議会
(ア)2014(平成 26)年度においても、相談支援部会委員を継続して派遣した。
イ
東京都立七生・八王子・八王子東特別支援学校
(ア) 上記 3 校からは、一定数の家族・生徒・卒業生が相談に繋がっているだけでなく、
学校におけるケア会議への相談支援専門員の出席要請、事業説明会への出席要請、
PTA・生徒・卒業生への勉強会・授業の講師派遣依頼をいただく等、連携が形成さ
れてきた。
①
七生特別支援学校:相談支援説明の講師派遣で、個別移行支援計画会議に出席
した(教員対象)
。
②
八王子特別支援学校:生活管理についての勉強会に講師を派遣(生徒授業、卒
業生対象)
、卒後の生活についての情報提供で講師を派遣した(保護者対象)
。
③
八王子東特別支援学校:2014(平成 26)年度は、特になし。
④
多摩桜の丘学園:相談支援説明の講師派遣で、個別移行支援計画会議に出席し
た(教員対象)
。
ウ
当事者ソーシャルアクションへのサポート
(ア)日野に重度・重複障害者のグループホーム創り隊(仮称)
当初おあしすで行ってきた標記サポートは、2014(平成 26)年度においても、
推移を見ながら適宜必要な支援を行うこととしており、担当の常任法人理事と情報
確認を行ってきた。
(6)
ア
苦情解決について
多摩療護園の苦情解決の仕組みを援用して対応することになっているが、2014
(平成 26)年度の苦情案件は 0 件であった。
(7)
ア
(ア)
広報活動について
以下の媒体を活用して広報活動を実施.。
ホームページ
法人、多摩療護園のホームページ活用により、
「おあしすのページをみて」と
いう声が何件か寄せられた。おあしすのパンフレットがアップされているので、
道案内を簡略にすることができた。
おあしすは、東京都の障害福祉情報にも、基本的スタンス等を詳細に記入し
ており、
「それを見たので・・」とおあしすを選んでくださる方もあった。
(イ)
パンフレット
知的障がいの方にもわかりやすいパンフレットの作成に取り組む予定であっ
たが、実施できなかった。
(ウ)
ポスター
掲示場所 1 か所(七生特別支援学校)からの拡大を図る予定であったが、七
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生特別支援学校掲示のポスターは新しいものに取り換えたものの、掲示場所拡
大は新規依頼をお断りしている状況の中、積極的な取り組みは行わなかった。
(8) 研修・スーパービジョン
ア
2名体制になったのを機に、職員の支援技能向上に向けた研修参加を積極的に進
めるという方針は、日々の業務の処理に追われ、相談員 1 名のみ2回に留まった。
イ
最低限、相談支援専門員の資格失効になることのないよう、現任研修の受講を行
うということについては、2014(平成 26)年度の該当者はなかった。
ウ
2名体制を機に、スーパービジョンの仕組みづくりを開始するという方針は、特
に「仕組みづくり」までには至っていないが、それぞれが担当する個別の相談支援
について相互に相談しながら進めることが力量を高め、大きな蓄積となり得た。
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