愛知県の八丁味噌を事例として - 中部経済学学生コンソーシアム

2015/11/11
はじめに
1.問題の背景
地理的表⽰制度と伝統⾷品
ー愛知県の⼋丁味噌を事例としてー
愛知学院大学 関根ゼミナール
近年、和⾷がユネスコの無形文化遺産に登録→国内外が注目
しかし、日本では味噌などの伝統⾷品の⽣産量が減少(図1):⾷の洋風化
伝統⾷品製造を支える中小零細企業の経営は課題に直面
2015年6月に地理的表⽰制度施⾏:Cf.)2006年施⾏の地域団体商標制度
2.本報告の課題
2015年11月21日(土)
①複数存在する「地域ブランド」制度と地理的表⽰制度の違いを明らかにする
中部経済学インターンゼミ分科会:地域経済1
②愛知県の⼋丁味噌を事例として、地理的表⽰制度の課題を探る
於南山大学
③地理的表⽰制度は、伝統⾷品産業や地域農業の振興につながるか検討する
2
はじめに
900
⽣産量
800
3.研究方法
図1 味噌の⽣産量と1⼈当たりの消費量
(1000t)
(kg)
10
消費量
資料・統計収集およびインタビュー調査(2015年6〜7月に実施)
調査対象:①野田味噌商店(豊田市):愛知県味噌溜醤油⼯業協同組合に加盟
調査対象選定の理由:地理的表⽰制度をめぐり、2社(2組合)の主張が対⽴
調査のポイント:2社の⼋丁味噌の作り方、定義、地理的表⽰制度への対応、他制度の活⽤を⽐較
9
②カクキュー(岡崎市):⼋丁味噌協同組合に加盟
8
700
7
600
6
500
5
400
4
300
4.報告の構成
3
200
2
100
1
0
0
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2013
(年)
出所:農林⽔産省「⾷料需給表」各年版より作成
Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
Ⅲ.事例2:カクキュー(岡崎市)
3
はじめに
Ⅰ.地域ブランド制度と地理的表⽰制度
おわりに
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Ⅰ.地域ブランド制度と地理的表⽰制度
1.地域団体商標登録制度
Ⅰ.地域ブランド制度と地理的表⽰制度
1)地域団体商標制度とは
「地域ブランド」として⽤いられることが多い
「地域の名称+商品(役務)の名称等」からなる文字
商標について登録要件を緩和するもの
2005年 通常国会で商標法の一部を改正する法律が成⽴
2006年4月1日 同法が施⾏され、地域団体商標制度がスタート
2014年末現在、570件以上が登録されている
1.地域団体商標制度
2.本場の本物:⺠間組織の認定制度
3.地理的表⽰制度
2)登録要件
(1)出願⼈が主体要件を満たすこと
(2)構成員に使⽤させる商標であること
(3)商標が使⽤された結果、周知となっていること
(4)商標が地域の名称及び商品などの名称からなること
(5)商標中の地域の名称が商品などと密接な関連性を有していること
(6)第三条一項の一部の規定を除き、通常の商標の登録要件を満たすこと
5
Ⅰ.地域ブランド制度と地理的表⽰制度
Ⅰ.地域ブランド制度と地理的表⽰制度
2.本場の本物
2)制度の目的
1)地理的表⽰法の施⾏
EU制度を参考に特定農林⽔産物等の名称に関する法律(地理的表⽰法)を制定(2014年)
2015年6月1日から地理的表⽰法施⾏
伝統的な「本場の製法で、地域資源となっている当該地域特有の⾷材を⽤いることにより、
「本物」の味として消費者からの支持を得ている地域⾷品をブランドとして確⽴する
2.地理的表⽰制度
1)認定主体:一般財団法⼈⾷品産業センター(⺠間組織)
6
3)制度の成り⽴ち
2)地理的表⽰とは
歴史や風土、文化に裏付けされた農産品の高付加価値化を後押しする制度
農産品の品質を公的機関が保証する制度
2005年に「地域⾷品ブランド表⽰制度(本場の本物)」創設
EUでは1992年から実施(例:パルマハムやシャンパンなど)
同年の地域団体商標法制定を受けて、EU型の地理的表⽰制度を模して⺠間で制度化
世界貿易機関(WTO)のTRIPS協定で知的財産の一種として認められている
Ⅰ種(原料も地元産)とⅡ種(原料は国内産)がある:EU制度のPDOとPGIに該当
4)認定数
2015年現在、46品目:草加せんべい、三河産大豆の⼋丁味噌
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8
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Ⅰ.地域ブランド制度と地理的表⽰制度
2.地理的表⽰制度
3)ラベル制度
地理的表⽰が認められた商品にはGIマークを添付⇒市場の信頼
認証カテゴリーは1種類:「本場の本物」のⅡ種に相当
偽装表⽰は国が取り締まりを⾏う
Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
4)高付加価値化
1.野田味噌商店の概要
2.原料調達
3.製造・加⼯・販売
4.⾷育の取り組み
5.地理的表⽰をめぐる主張
フランスの「ブレス鶏」:一般品の4倍の価格で取引
イタリアの「トスカ―ノ・オリーブオイル」:20%のプレミアムを確認
(農林⽔産政策研究所調べ)
5)農村地域の活性化
地理的表⽰を守るための取り組み⇒地域住⺠のエンパワーメント(能⼒開発)
地域の伝統を再自覚、絆の形成、地域のアイデンティティーを再構築
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Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
1.野田味噌商店の概要
2.原料調達
1928年創業:野田清一氏の個⼈経営、味噌⽣産量は年間6トン
1959年:合資会社に移⾏
現社⻑は3代目の野田清衛氏、味噌⽣産量は年間6,000トン
会社のキーワード:「伝統的未来」
塩・・・味噌の種類によって使い分け
味噌⽣産の近代化
(機械化)
⽔・・・地下⽔(メリット:低コスト、高品質)
社員数:正社員30名 パート11名 合計41名
経営目標:お客さんから「良い味噌だね」「美味しいね」といわれること
経営課題:味噌の需要の低下
愛知県味噌溜醤油⼯業協同組合の副会⻑
1)原料:大豆・・・北⽶(カナダ、アメリカ)産70%、国産30%
2)国産大豆の調達
⽣産者:JA岐阜、JA安城、JA豊田
課題:⽣産量が少ない(自給率5%)、⽣産量と価格が不安定
買い付け価格:規格により変化:1等=12,000円、2等=11,000円
※ただし、1等のみ買い付けることは不可
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Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
3.製造・加⼯・販売
1)味噌製造:木桶で18ヶ月天然醸造
2)味噌をつかった加⼯⾷品
4.⾷育の取り組み
うずらたま5くん:ゆでたウズラの卵の味噌漬け
農林⽔産省⾷料産業局⻑賞を受賞(2013年)
3)主な販売先
⽣協(東海コープ、トヨタ⽣協)、矢場とん
4.⾷育の取り組み
2000年頃から味噌蔵⾒学ツアーを開始。
⾒学料:無料、所要時間:1時間30分、参加者:年間約3000⼈(観光客の⾒学は受け付けない)
参加対象者:小学⽣以上の団体(10〜50名)
内容:①仕込み前の「味噌玉」の試⾷、②味噌蔵に設けられた教室で聞く講義、
③味噌の世界を切り⼝に、⾷べることや⽣きることの本質に迫る
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Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
Ⅱ.事例1:野田味噌商店(豊田市)
⼋丁味噌の定義:愛知県産の豆味噌によってつくられた味噌
⽣産可能な地理的ゾーン:愛知県内全域、原料の産地にはこだわらず
「⼋丁味噌」は地理的表⽰ではなく一般名称と主張:「愛知県の⼋丁味噌」
5.地理的表⽰をめぐる野田味噌商店(愛知県味噌溜醤油⼯業協同組合)の主張
5.地理的表⽰をめぐる野田味噌商店(愛知県味噌溜醤油⼯業協同組合)の主張
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愛知県味噌溜醤油⼯業協同組合の概要
※豆味噌とは、大豆を蒸煮して、こうじ菌を培養したもの(豆こうじ)に
⾷塩を混合し、発酵、熟成させた半固体状のもの
1953年設⽴
事業内容:①⽶、⻨の共同購入、②醤油の分析、③組合員の企業活動上の支援
④愛知県産味噌、溜醤油、醤油のPR活動
組合員数:44社
組合の課題:廃業するメーカーが増加の一途。新規参入メーカーがない。
地域団体商標登録に申請
2005年:出願をめぐって岡崎市の味噌蔵カクキュー、まるやの2社と対⽴
2006年:2つの組合がそれぞれ地域団体商標登録に出願⇒双方とも出願が却下される
2社は県協同組合を脱退して、⼋丁味噌協同組合を設⽴
カクキューとまるやの⼋丁味噌(三河産大豆使⽤)は「本場の本物」に認定
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地理的表⽰制度に申請
2015年:2つの組合がそれぞれ地理的表⽰制度に出願⇒審査結果はいかに???
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Ⅲ.事例2:カクキュー(岡崎市)
1.カクキューの概要
Ⅲ.事例2:カクキュー(岡崎市)
1.カクキューの概要
2.原料調達
3.製造・販売
4.地理的表⽰をめぐる主張
所在地:愛知県岡崎市
1645年創業、1892年から宮内庁へ味噌を納める
現在の社⻑は19代目
カクキューの商標は初代の早川久右衛門の久の字に由来
事業内容:⼋丁味噌の製造販売
従業員数:54名
年間15万⼈ほどの団体ツアー客が訪れる
NHKの連続テレビ小説「純情きらり」(2006年)の主な舞台となった年は年間35万⼈の観光客が訪れた
今後の目標:伝統製法を守る
大正末期に建てられた本社事務所と味噌蔵は1996年12月20日に国の登録有形文化財に登録
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Ⅲ.事例2:カクキュー(岡崎市)
Ⅲ.事例2:カクキュー(岡崎市)
2.原料調達
出来上がった⼋丁味噌の特徴
1)原料:大豆・・・北海道産トヨマサリ、愛知県産フクユタカ・矢作、中国産
塩・・・精製塩、シママース、海⽔100%の塩、天日塩
色が濃く、濃厚な旨味があり少々の酸味と渋味のある独特の風味
塩味は控えめで、植物性不飽和脂肪酸が多く含まれ、
⾷品添加物は不使⽤、加熱処理もしていない→⽣きた自然⾷品
⽔・・・⽔道⽔(味に影響はないという)
大豆蛋白質もアミノ酸に分解→消化吸収に良い
2)大豆の調達:「矢作」のみ契約栽培で取引
2) 販売
3.製造・販売
1)製造
味噌桶に大豆6トンを仕込み、
3トンの石をピラミッド状に積み上げる
石積みには職⼈技が必要
課題は設備の⽼朽化
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価格は取引業者との相対価格
日本全国で販売されている:東海・関⻄地方が最も多く、東北地方は少ない
年間40〜50トンは商社を通して輸出
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おわりに
Ⅲ.事例2:カクキュー(岡崎市)
1. 地理的表⽰制度の特徴
4.地理的表⽰をめぐるカクキュー(⼋丁味噌協同組合)の主張
⼋丁味噌協同組合の概要
2005年設⽴:2006年に地域団体商標登録申請のため
事業内容:⼋丁味噌のPR・ブランドの維持
組合員数:4社(カクキューとまるやの2社が、⾒学・販売を⾏う⼦会社2社の計4社)
公的品質保証、偽装表⽰の取り締まり強化、地域活性化
課題:EU制度に⽐べて基準が緩やか(原料は輸入品でも可)
2.⼋丁味噌の事例からみえる地理的表⽰制度の課題
⼋丁味噌の定義:徳川家康公の⽣誕地、愛知県岡崎市の岡崎城より⻄へ⼋丁(約870m)
地理的ゾーンをめぐる対⽴をいかに解決するか
農産品や加⼯⾷品と地理的ゾーンの密接な関係を証明する必要がある
⾏政の公正な審査とサポート体制の構築、専門家によるアドバイスが重要
にある旧⼋丁村(現:岡崎市⼋帖町)で作られた豆味噌
⽣産可能な地理的ゾーン:岡崎市⼋帖町
「⼋丁味噌」は地理的表⽰と主張
3.地理的表⽰制度は、伝統⾷品産業や地域農業の振興につながるか
日本で⼋丁味噌を作っている会社はカクキューとまるやの2社だけ
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参考文献
・市田柿 ブランド推進協会 http://www.ichidagaki.org/brand/mark.html
・地域団体商標制度 | 経済産業省 特許庁 http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm
・地域ブランドの定義-ブランド総合研究所 http://tiiki.jp/column/brand_manual/manual_v01.html
・本場の本物-⾷品産業センター http://www.shokusan.or.jp/honbamon/about/index.html
・農林⽔産省 地理的表⽰保護制度(G1) http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/
・岡本憲明、松田隆、松尾哲司、船越純一(2015)「『地理的表⽰』きょうから」『日本経済新聞』
2015年6月1日朝刊、29面
・志田富雄(2015)「⾷品などに地理的表⽰制」『日本経済新聞』2015年7月16日朝刊、23面
・関根佳恵(2012)「野菜の地理的表⽰をめぐる動向」『野菜情報』独⽴⾏政法⼈農畜産業振興機構、
p.2-3。
・関根佳恵(2015)「GI制度はどのような役割を果たせるか」『農業と経済』第81巻、第12号、p.62-70。
・出村克彦(2005)「地域ブランド戦略の意義と課題」『農業と経済』p.5-79。
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原料に輸入品を認めているため、地域農業と伝統⾷品産業の結びつきを発展させられるか?
TPPなどさらなる自由化に対応するための輸出戦略としての地理的表⽰制度にしてはならない
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