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低周波騒音の対策事例
○ 青木雅夫(青木応用音響(株))
奈良崎 克美((株)大和環境分析センター)
北本 孝((株)公害環境技術研究所)
1. はじめに
振動体から発生する低周波音の対策において、振動方向の前後において音圧の位相が 180 度異
なることに着目すれば、互いの音波を干渉させて消音することができる。今回、1 階と 2 階の中
間部に設置された振動乾燥機の低周波音対策において、1-2 階を仕切る鋼板をエキスパンション
メタルに変更することによって音波の干渉の促進を図る方法や、共鳴型吸音体の設置による対策、
ANC 技術の適用などの検討を試みたのでその結果を報告する。
2. 騒音の発生状況
低周波音の発生源は、図 1 に示すように 1 階と 2
階の界床の開口部に設置された振動乾燥機である。
振動機構は、2台の振動モーターを本体側面に取付
け、斜め上方の半楕円状の振動を発生させる構造で
ある。
完全な鉛直方向の振動ではないが、上下階の低周波
音と乾燥機の鉛直方向の振動との位相差の分布を
測定した結果、図 2 に示すようにおおむね 180 度
の位相差が確認された。
したがって、この上下方向に放射されている逆位
相の音波を効率よく相殺させる方法を検討すれば
よいと考えられる。
屋根、壁:スレート波板
振動乾燥機
床:鋼板
壁:ボード張
閉じられた部屋
図 1 発生源の状況
3. 界 床 を鋼 板 からエキスパンドメタルに変 更
― 第 1 ステップ ―
180
鉛直振動との位相差(度)
90
1 階と 2 階の界床(鋼板)を、通気性のエキ
スパンドメタルに変更し、上下に放射される音
波の干渉を積極的に促す。すなわち、スピーカ
システムから、箱の部分を取り外し音の放射の
能率を低下させるのと同じ方法であるといえる。
工法として最も安価であり、効果も大きいと
考えられる。
0
測定位置1
-90
測定位置2
測定位置3
-180
-4
-3
-2
-1
0
1
1F-2F界床からの高さ(m)
2
3
図 2 振動乾燥機上下振動と発生騒音の位相差
4
4. 2 階に界壁を設置
― 第 2 ステップ ―
また、2 階部分には外壁はあるものの室
内に解放されている。そこで 2 階部分の民
家側に界壁を設置し、民家側への伝搬を抑
制するとともに、界床上下の音波の干渉を
さらに促す構造とした。
天井側及び民家反対側については開放
のままとしている。したがって、いわゆる
遮音対策による対策とは異なっている。
屋根、壁:スレート波板
新設内壁
ボード+チャンネル+ボード
振動乾燥機
床:エキスパンドメタル
5. 共鳴管による吸音対策
― 第 3 ステップ ―
次に、特定の周波数の音を吸音する吸音
構体の設置について検討した。吸音体とし
ては、ヘルムホルツの共鳴体、波長を考慮
した 1/4 波長の音響管などが考えられる。
ヘルムホルツ型の共鳴体の場合、構造が
複雑で低周波領域まで剛性を保ったもの
を作成しようとすると大規模なものにな
る場合が多い。今回は、構造が簡単な塩ビ
管を用いた 1/4 波長の音響管によるもの
を検討した。
そこで、実際に施工する前に模型実験に
よって検討した結果、音響管による吸音に
ついて、次のようなことが分かった。
壁:ボード張
閉じられた部屋
既設内壁
ボード+同縁+ボード
この面開放のまま
振動乾燥機
民家側
1階 既設内壁
ボード+同縁+ボード
新設内壁
ボード+チャンネル+ボード
既設外壁
スレート波板
図 3 界床の変更および2階内壁の増設
1) 音響管の開口部を音源に近づけることにより吸音効果は大きくなり、空間的にも広範囲に
及ぶ。
2) 音響管底部の気密性、剛性によって共鳴の度合い(Q)が大きく変わり、効果も変化する。
3) 開口部に吸音材などの抵抗成分をつけると共
鳴の度合い(Q)が非常に小さくなる。
4) パイプ底部に吸音材を付加すると共鳴現象が
広帯域化し(Q が低下)、周波数も低域にシフ
トする。
5) 同径の音響管を複数配置すると共振の度合い
が低下するとともに広帯域化する。各音響管が
干渉することが考えられ、配置によっても効果
が変化する
6) 開口端補正係数は、内半径の 0.62、外半径の
0.58 であった。
図 4 音響管による吸音実験
相対音圧レベル(dB)
図 5 は底部に吸音材を付加
した音響管 2 本を音源直前に配置した
時の吸音効果を示したものである。
70
設置する音響管の数は、その開口部面
底部に吸音材(綿花 40mm厚)
積が乾燥機の断面積の 1 割程度を確保
できるように上下各 3 本とした。
60
管の長さは、工場内の気温の1年間の
変化を 0℃から 40℃として求めた。
20Hz
の 1/4 波長での共鳴周波数は、直径
吸音材無
50
298mm の開口端補正を施して 4052~
吸音材有(1)
4357mm となる。そこで、
規格品の 4000mm
吸音材有(2)
のパイプ、ソケット、エルボー、調製
40
用尾管を組み合わせて現地で長さを調
70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85
整することとした。季節の気温変化に
周波数(Hz)
ついても、振動数の調整、全長の調整
で対応することとした。
図 5 音響管2本による吸音効果(音源より 1m正面での効果)
6. 対策効果の一覧
表 1 対策ステップと効果 単位:dB
20Hzの音圧レ 前ステップか 無対策からの
ベル
らの低減分
低減分
対策のステップ
無対策
界床エキスパンドメタルまで
2階界壁の増設追加
80
72
67
8
5
8
13
音響管の配置追加
無対策
音響管の追加まで
61
84
63
6
-
19
21
90
無対策 2台稼働
無対策
80
界床をエキスパンド
メタルに変更
70
2階界壁を設置
60
音響管を上下階そ
れぞれ3本設置 2台
稼働
音響管を上下階そ
れぞれ3本設置
50
物理的苦情の参照
値
40
心理的苦情の参照
値
80
63
50
40
25
31.5
20
16
12.5
8
10
5
6.3
4
3.15
2
2.5
30
A.P
音圧レベル(dB)
以上、3 段階のステップを踏み 稼働
対策を進めてきた。それぞれの 台数
ステップでの民家前における低
1台
周波音の変化を
表 1、
図 6 に示す。それぞれの対策工
が有効に働いている様子がよく
2台
わかる。特に、界床を通気性の
エキスパンションメタルに変更
した効果が大きい。
また、同図には、環境省の「低
周波音問題対応のための「評価
指針」」に示されている参照値
を同時に示したが、対策後では
この参照値を充分下回っており、
2台駆動時でも十分であった。
1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)
図 6 対策のステップと音圧レベルの変化
7. ANC による対策の試み
― オプション ―
振動する板からの放射音の対策として、上下 180 度の位相の異なる音源(ダブレット)の特徴
に着目し、上下の音波を ANC 技術を用いて相殺する方法を検討した例があり、縮尺模型実験にて
その大きな効果(20~35dB)がみられている(http://www.eonet.ne.jp/~aoki-appl-acoust/shindouanc.html)。
ここでは、ダクト等の設置の制約上、この方法ではなく、2 階床をエキスパンドメタルに改修
した後に、通常の ANC を試みた。この場合、2 階部分に放射される低周波音は室内の空間に放射
される構造になっている。
ANC 装置の概要を図 7 に示す。逆相の信号を作成するための参照信号として振動体の鉛直方
向の振動を用い、対策を行いた
い方向に音源中心から約 4m離
3850
低周波音発生装置
音響管型スピーカ
れた位置にエラーマイク(音圧
振動乾燥機
を消去する地点)を設置した。
エラーマイク
エキスパンドメタル
使用したスピーカシステム
は、4360mm の音響管を用いた
参照信号 鉛直方向振動加速度
構造で、20Hz の音を 108dB
(55W,1m)程度まで再生可能で
コントローラ
パワーアンプ
ある。
図 7 ANC 装置の概要
110
界床をエキスパンション
に変更後実施した実験
100
26.5dB
90
Off エラーマイク
80
3.0dB
70
On エラーマイク
60
Off 民家前
50
On 民家前
2
2.5
3.15
4
5
6.3
8
10
12.5
16
20
25
31.5
40
50
63
80
40
AP
音圧レベル(dB)
ANC によるコントロール
の有無(On-Off)による制
御点(エラ-マイク位置)、
民家前の音圧レベルの変化
を図 8 に示す。
制御点では 25dB を超え
るレベルの低下がみられる
が、民家前では 3dB の効果
にとどまっている。
制御点の位置の選定を十
分に行う必要があると考え
られるが、対策のひとつの
方法として有効であること
が確認された。
1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)
図 8 ANC による対策効果
8. まとめ
今回実施した振動体の低周波音の対策において、位相に着目した対策が非常に有効であること
が分かり、音響管による吸音効果もみられた。また、ANC による対策の可能性を示すことができ
た。