別紙1 - JICAナレッジサイト

【別紙1】
案件概要
1.案件名
国 名:タイ国
案件名:和名 効率的な税関手続きのための原産地規則に係る能力向上プロジェクト
英名 Project for Capacity Development on Rules of Origin for Efficient Customs
Procedures
2.事業の背景と必要性
(1)当該国における経済政策分野の開発実績(現状)と課題
タイ経済は、2008 年後半の世界経済危機もあり、2009 年はマイナス成長となったものの、
その後は輸出・生産の反転に伴い、家計部門にも回復が波及したことで、2010 年は実質
GDP7.8%の成長を実現した。しかし、2011 年後半には洪水の影響等により、輸出や生産、消
費等が落ち込むなど景気は悪化した(2011 年の実質 GDP 成長率は 0.1%)。2012 年に入ると
洪水からの復旧・復興もあり、民間消費や民間投資を中心に経済は着実に回復し,6.5%の成長
を記録。2013 年は,自動車購入者への減税措置の終了に伴う自動車の反動減,洪水からの復旧・
復興投資の一巡により,2012 年に成長を牽引した内需が低迷し,2.9%の成長に止まった。2014
年の実質成長率は 0.7%となり、2013 年を下回った。国家経済社会開発庁(NESDB)によれば、
世界経済の回復に伴う輸出の増加などで、2015 年の GDP 成長率を 3.5〜4.5%と見込んでいる。
東南アジア地域(ASEAN)各国では、域内への旺盛な外国直接投資も奏功し、他地域に比べ
力強い経済成長をみせており、輸出入量も飛躍的に増大している。特に域内の中核国に位置づけ
られるタイは、日系企業をはじめとする産業の集積とサプライチェーンの構築が進むにつれ、貿
易の面でもますます重要な拠点となっている。
域内各国では、域内経済統合に向けた動きも加速化させており、ASEAN 域内における物理的、
制度的、および人と人との連結性の強化を図る「ASEAN 連結性マスタープラン」を 2010 年の
ASEAN 首脳会議において採択する等、2015 年末の ASEAN 共同体実現のための取り組みを進め
ている。
2015 年 1 月現在、タイでは、日本、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー(いずれも
発効済み)、インド(枠組み協定に基づくアーリーハーベスト(早期収穫)措置のみ発効)、チリ
(締結済み・未発効)との間で 6 件の 2 国間 FTA を締結している。また多国間の枠組みでも、
ASEAN 加盟国間の ASEAN 物品貿易協定(ATIGA)に加え、ASEAN 中国 FTA(ACFTA)、ASEAN
インド FTA(AIFTA)、ASEAN 韓国 FTA(AKFTA)、日 ASEAN 包括的経済連携協定(AJCEP)、
ASEAN オーストラリア・ニュージーランド FTA(AANZFTA)と 6 件の FTA が発効している。
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これらの FTA により、タイでは他の ASEAN 加盟国や中国、韓国との間で、一部の例外品を
除く品目の関税撤廃が既に実現しているほか、インドとの間では 2013 年に総品目数の 7 割超で
双方の関税が撤廃されている。このうち、日本との間では、多国間(AJCEP)と、2 国間の日
タイ経済連携協定(JTEPA)の両方の枠組みに従い、前者については 2008 年 12 月 1 日の発効
から 10 年以内、後者は 2007 年 11 月 1 日の発効から 10 年以内にノーマルトラック(通常の品
目)の関税を撤廃するため、順次、関税の引き下げを行っている。
こうした状況の下、タイ税関は、関税分類・関税評価における事前教示制度の統括機能の強化
を通じて、地方税関における適切かつ迅速な通関手続きの実施体制を強化するなど、貿易の円滑
化・迅速化に向けた取り組みを進めている。一方、国境を越えた円滑な物流網の形成には、タイ
税関が適正な関税実務を行う必要があるが、日系企業からは、原産地規則の運用に係る手続き上
の問題や制度・ルールの解釈の相違が日常的に発生するなど適正な実務が実施されるよう望む声
が多い。
(2)当該国における経済政策分野の開発政策と本事業の位置づけ
1961 年以降、タイは国家経済社会開発庁(NESDB)が発表する 5 か年の経済社会開発計画
を国家の中期的な開発計画としている。2011 年 10 月の第 11 次計画(2012-2016)では、「6
つの戦略」として、以下のとおり開発の重点分野を設定している。
ア 公正な社会推進のための戦略
イ 生涯学習社会促進に資する人的資源開発のための戦略
ウ 均衡ある食料およびエネルギー安全戦略
エ 知識基盤型経済および実行可能な環境の創造のための戦略
オ 経済および安全保障の強化に関する地域内協力の戦略
カ 天然資源の管理および持続可能な環境への戦略
タイは、現在 12 の自由貿易協定を締結・発効しており、各協定の原産地規則の適用に関し円
滑化が図られることで、域内貿易の活性化につながり、上記開発計画のうち、「経済および安全
保障の強化に関する地域内協力の戦略」に資することが期待される。
(3)経済政策分野に対する我が国及び JICA の援助方針と実績
当該事業は、
「対タイ王国 国別援助方針」
(2012 年 12 月外務省)における重点分野「ASEAN
地域共通課題への対応」のうち、「ASEAN 共同体推進プログラム」に位置づけられる。
なお、2007 年 11 月に発効した日・タイ経済連携協定(EPA)は、日本としてはシンガポール、
メキシコ、マレーシア、フィリピン、チリに続く 6 番目に発効した EPA であり、税関手続の改
善による貿易円滑化を図るため、関税関係法令の公表による税関手続の透明性の向上、並びに国
際標準への調和や情報通信技術の利用等による税関手続の簡素化及び調和等を規定している。
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(4)他の援助機関の対応
タイ税関局内に世界税関機構(World Customs Organization: WCO)の地域事務所があり、ア
ジアオセアニア地域内の関税研修等を実施中。
3.事業概要
(1)事業目的(協力プログラムにおける位置づけを含む)
当該事業は、
「対タイ王国 国別援助方針」
(2012 年 12 月外務省)における重点分野「ASEAN
地域共通課題への対応」のうち、「ASEAN 共同体推進プログラム」に位置づけられ、原産地規
則に係るタイ税関の能力向上を通じて、税関手続きの効率化を図り、もって正当な貿易(合法的
な)及び貿易円滑化の促進に寄与するものである。
(2)プロジェクトサイト/対象地域名
バンコク市
(3)本事業の受益者(ターゲットグループ)
直接受益者:タイ税関職員
間接受益者:タイ国民、(日本を含む)海外企業
(4)事業スケジュール(協力期間)
2015 年 10 月 29 日~2018 年 6 月 22 日を予定(計約 32 ヶ月)
(5)総事業費(日本側)
1.0 億円(予定)
(6)相手国側実施機関
和名 タイ税関
英名 Thai Customs Department
(7)投入(インプット)
1)日本側
①専門家派遣
長期専門家(チーフ・アドバイザー及び原産地規則):32 M/M ×2 名(64M/M)
短期専門家(原産地規則):0.25M/M×2 名×2 回×3 年(3M/M)
②研修員受入
迂回輸入を防止し、経済連携協定に基づく特恵貿易を適切に運用するための原産地規
則に係る知識・知見を得るための研修。
0.25M/M×15 名×3 回
③在外事業強化費
④機材(必要に応じて)
2)タイ国側
①プロジェクト・ディレクター:タイ税関 Deputy Director General
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②プロジェクト・マネージャー:タイ税関関税分類部 Director
④プロジェクト事務所:日本人専門家執務室の設置
⑤その他:諸経費負担
執務室、事務用機器
(8)環境社会配慮・貧困削減・社会開発
1)環境に対する影響/用地取得・住民移転
① カテゴリ分類(A,B,C を記載):C
② カテゴリ分類の根拠:本事業は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010
年 4 月)公布上、環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため。
2)ジェンダー平等推進・平和構築・貧困削減:特になし。
3)その他:特になし。
(9)関連する援助活動
1)我が国の援助活動
【ASEAN 共同体推進プログラム】
ASEAN 連結性の向上のため、政策提言・制度づくり支援、税関等の物流システム改善に資す
る支援を行う。また、日・ASEAN 間の大学間ネットワークを活用した工学高等教育の支援を行
う。ASEAN 統合イニシアティブ 1(IAI)支援としてタイに強みがある分野において、日タイ協
働に基づく第三国研修等による支援を行う。
【これまでの税関行政案件】
・メコン地域における税関リスクマネジメントプロジェクト(2008 年~2011 年)
・関税分類及び関税評価における透明性及び予見性向上プロジェクト(2012 年~2015 年)
2)他ドナー等の援助活動
タイ税関局内に世界税関機構(World Customs Organization: WCO)の地域事務所があり、ア
ジアオセアニア地域内の関税研修等を実施中。
4.協力の枠組み
(1)協力概要
1)上位目標と指標
【目標】
正当(合法的)な貿易及び貿易円滑化が強化される。
【指標】
タイにおける EPA 及び DFQF を利用した貿易取引量
2)プロジェクト目標と指標
【目標】
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ASEAN 統合イニシアティブは、2000 年 11 月の第 4 回 ASEAN 非公式首脳会議において ASEAN 域内の格差
を是正し、地域的競争力を高めることを目的として立ち上げが合意された協力枠組み。
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効率的な税関手続きのための原産地規則の全国における適切かつ統一的な適用能力が強化
される。
【指標】
原産地規則の事前教示申請数
原産地規則に関する虚偽申告数
* 虚偽申告の定義についてはおって協議する。
3)成果
【成果】
1. 税関行政の原産地規則に係る検証能力が向上する。
2. 効率的な税関手続きのための原産地規則に係る税関職員の能力及び民間企業の理解が向
上する。
【指標】
1.1 原産地規則の統一的な適用に関する規則・ガイドライン・ハンドブックの作成
1.2 (タイ税関内外に)提供した情報量
1.3 タイ税関内外の相談数
2.1 税関職員のための研修教材の作成
2.2 税関職員のための研修コース数
2.3 関連職員の効率的な税関手続きに係る理解度の向上
2.4 民間を対象としたセミナー数
2.5 税関職員及び民間に提供した税関手続きの予測性向上のための情報及び知識
2.6 将来の活用に向けた戦略的な研修計画
4)活動
1.1 ベースライン調査の実施及び現状分析に基づくアクションプランの作成
1.2 原産地規則の全国における統一的な適用に係る枠組みの検討
1.3 当該枠組みに基づく関連活動の実施
1.4 原産地規則の統一的な適用に関するマニュアル(案)・ハンドブック(案)の作成
2.1 現状分析に基づく研修計画の策定
2.2 日本の経験及び現状分析に基づく研修教材・ミニテストの開発
2.3 効率的な税関手続きのための税関職員への研修実施
2.4 民間企業向けセミナーの実施
2.5 効率的な税関手続きに関する税関職員・民間企業向け教材の開発及び公表
2.6 将来の活用に向けた戦略的な研修計画の作成
5.前提条件・外部条件
(1)前提条件
カウンターパートが頻繁に異動しない。
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(2)外部条件(リスクコントロール)
【プロジェクト目標から上位目標に至る外部条件】
・タイ税関は原産地規則の適用を継続する。
・タイ税関は原産地規則及び事前教示の活用に係る職員の能力向上への努力を継続する。
・プロジェクトが作成した原産地規則に係るガイドラインの草稿がタイ税関によって正式に承認
される。
6.評価結果
本事業は、タイ国の開発政策、開発ニーズ、日本の援助政策と十分に合致しており、また計画
の適切性が認められることから、実施の意義は高い。
7.過去の類似案件の教訓と本事業への活用
(1)類似案件の評価結果
マレーシア国「関税システムの高度化:リスクマネジメントシステム」
(協力期間:2006 年 7
月 27 日~2008 年 7 月 26 日)の教訓では、プロジェクト開始当初の課題として、マレーシア関
税庁におけるリスクマネジメントシステム構築を主導する部門が不明確であり、情報システム部
門を協力先としたものの、同部門の所掌はシステム開発の側面であり、リスクマネジメントの中
味を検討する部門が明確ではなかった点が挙げられている。
(2)本事業への教訓
本事業のカウンターパートは原産地規則課(Rules of Origin Division)のみであり、同課は特
恵関税制度に係る原産地規則を所掌しているものの、非特恵の原産地規則や一般通関業務につい
ては所掌していない。また、同課が地方税関の通関部門等を含む所掌の異なる部局に関与する仕
組みが十分に構築されていない。縦割り意識の強いタイ税関において、カウンターパート部署を
超える支援のあり方については留意が必要であり、当面は原産地規則課の業務分掌を超えない範
囲でいかなる支援が可能か確認を進める。
8.今後の評価計画
(1)今後の評価に用いる主な指標
4.(1)のとおり。
(2)今後の評価計画
事業開始後6か月 ベースライン調査
事業終了6か月前 エンドライン調査
※小規模技術協力プロジェクトであるため、事後評価は実施せず。
(3)実施中モニタリング計画
事業開始 2 回/年 モニタリング・シートによる相手国実施機関との合同レビュー
事業終了 終了 1 ヶ月前 事業完了報告書による相手国実施機関との合同レビュー
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9.広報計画
(1)当該案件の広報上の特徴
1)相手国にとっての特徴
2015 年末に予定される ASEAN 経済共同体の発足に向け、加盟国は関税撤廃を含む市
場の統合等を推進しており、適切な関税の徴収や効率的な通関業務の実施はタイ政府に
とっても関心が高い。
2)日本にとっての特徴
タイの対日貿易額は輸入は第 1 位、輸出は第 2 位であり、現地に進出している日系企
業においても適切・効率的な通関業務実施の実現は関心が高い。
(2)広報計画
本プロジェクトへの支援を促進するため、タイ税関はタイ国民一般に広く本プロジェ
クトを周知するため適切な措置を講ずる。(R/D に記載)
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