「NRPシリーズパワーパッケージ」 三輪 哲郎・熊本 克英・小倉 祐二

NACHI
TECHNICAL
REPORT
Components
29B5
Vol.
June/2015
■ 新商品・適用事例紹介
省エネ・低騒音・コンパクト
機能部品事業
「NRPシリーズパワーパッケージ」
Saving Energy, Low Noise and Compact
"NRP Series Power Package"
〈キーワード〉
間欠運転による省エネ・コンパクトで低騒音
樹脂タンク・ノンリーク弁
油圧事業部/技術部
三輪 哲朗
Tetsuro Miwa
油圧事業部/技術部
熊本 克英
Katsuhide Kumamoto
油圧事業部/技術部
小倉 祐二
Yuji Ogura
省エネ・低騒音・コンパクト
「NRPシリーズパワーパッケージ」
要 旨
これまでの油圧ユニットは、可変容量ポンプを
採用することでポンプの軸トルクを下げたり、イン
バーターやサーボモーターでポンプの回転数制御を
1. 間欠運転油圧ユニット
「NRPシリーズ
パワーパッケージ」
行なうことで、余剰エネルギーを低減することにより
これまでNACHIは、ポンプの損失低減と電動
省エネ化をはかっている。
「NRPシリーズパワーパッ
機の負荷特性の見直しにより、従来の標準油圧
ケージ」は、油圧力をアキュムレーターに蓄えて、動力
ユニットに対して40%の省エネを可能にした
「NSP
が不要な場合には、電動機を
「止める」システムを
ユニット」や、さらなる省エネ性能を追求したイン
採用。必要なときに必要な分だけ油圧力を使用し、
バーター駆動型の
「NSP-iユニット」を商品化して
保圧時にはノンリーク弁の採用によりエネルギー
きた。
損 失を最小限に抑えた。また、コンパクトなパッ
これらの省エネ油圧ユニットシリーズは、いず
ケージングと間欠運転によって、従来の油圧装置の
れも連続運転仕様の油圧ユニットであり、たとえ
イメージを変える分散型の油圧装置となっている。
油圧装置が省エネモードになっている場合でも、
消費電力は必ず発生する。
Abstract
Conventional hydraulic power units conserved
energy through the use of variable displacement
pumps as well as speed controlling inverters
and servo motors which reduced mechanical
and electrical losses. The new“NRP series
power package”stores hydraulic pressure in the
accumulator and“stops”the motor. By discharging
just enough hydraulic pressure on an as-needed
basis and utilizing a leak-free valve during pressure
maintenance, the new“NRP series”keeps losses at
a minimum.
This hydraulic system of the distributed
type which changes appearance of a conventional
hydraulic system by compact packaging and
intermittent operation.
1
これに対して、
「NRPシリーズパワーパッケージ」
は間欠運転仕様の油圧ユニットであり、アキュム
レーターとプレッシャースイッチをポンプブロック
に取り付けて電動機を間欠運転することにより、
省エネモード時の消費 電力がゼロとなる、究極
の省エネ油圧ユニットである。
また、これまでの油圧装置は、連続運転される
ことを考慮して、タンクサイズやアクセサリーを選
定することから、比較的大きな
“油圧ユニット”の
イメージがあった。
それに対し、開発品の「NRPシリーズ」は、コン
パクト性を重視し、機能を一体化したイメージを
持たせるため、
“パワーパッケージ”の名称にした。
2.「NRPシリーズパワーパッケージ」の構造
「NRPシリーズパワーパッケージ」のシステム概念
今回、開発した
「NRPシリーズパワーパッケージ」
を図1に示す。
のポンプキットの構造図を図2に示す。
運 転時には、油 圧タンクから吸い上げた油を
ポンプは固定容量のギヤポンプを使用している。
チェック弁を介してアキュムレーターに送り込み、
ポンプブロックにはリリーフバルブや圧抜弁が設
ポンプブロック内の圧力がプレッシャースイッチの
けられており、最高使用圧力を制限したり、
アキュム
上限圧力になると電動機を停止し
(母機側の制御
レーターに蓄 圧された油をタンク側 へ開 放 する
回路が必要)
、
アキュムレーターに蓄えた油で、
バルブ
役割を果たしている。
やシリンダーからのリークを補償する。
また、ポンプブロックに、ノンリーク減圧弁を取
また、このアキュムレーターは、シリンダー動作時
付け、バルブ側にノンリーク電磁切換弁を取り付
のポンプ吐出流量を補うための機能
(動作補償)も
けることで、回路リークが極めて小さくなることか
併せ持っている。
ら、電動機の動作頻度が下がり、さらなる省エネル
ギーが可能となる。
(図3)
ノンリーク
電磁切換弁
b
アキュムレーター
油圧シリンダー
P/S
動作補償
プレッシャースイッチ
リーク補償
a
内部リーク
M
ノンリーク
減圧弁
:低圧ライン
:高圧ライン
圧抜弁
吐出ライン
(バルブへ)
タンクライン
(バルブから)
P/S
図1 システム概念
プレッシャー
スイッチ
ノンリーク減圧弁
リリーフバルブ
アキュム
レーター
プレッシャー
スイッチ
アキュム
レーター
フィルター
キット
ギヤポンプ
チェック弁
図2 ポンプキット構造図
NACHI TECHNICAL REPORT
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Vol.
M
図3 ノンリーク弁によるクランプ回路構成例
2
省エネ・低騒音・コンパクト
「NRPシリーズパワーパッケージ」
3.「NRPシリーズパワーパッケージ」の特長
1)省エネ
連続運転仕様のNSPユニットは、ワークをクラ
「NRPシリーズパワーパッケージ」の省エネ効果
ンプしている時にも常時0.5kWの消 費 電力が発
を確認するために、NACHI工場内の加工ライン
生しており、1サイクル運転時の平均消費電力は、
(マシニングセンター)
で消費電力の比較を実施した。
0.46kWであった。
このマシニングセンターでは、ワークの穴あけ加
これに対し、マシニングセンターの油圧ユニット
工を行なっており、サイクルタイムはおよそ13分で、
を
「NRPシリーズパワーパッケージ」に置き換え、
ワーククランプ用として、NACHIのコンパクト省エネ
同じサイクル運転での消費電力波形を測定した。
ユニットを搭載している。
その結果、
ワークをクランプしている間は、アキュム
コンパクト省エネ油圧ユニットであるNSPユニット
レーターに蓄圧された油でクランプシリンダーなど
と
「NRPシリーズパワーパッケージ」との仕様比較
の回路内のリークを補償しており、回路圧がプレッ
を表1に示す。
シャスイッチの下限 圧力以下となった時のみ、電
また、
実際にNSPユニット搭載時の油圧ユニット
動機を起動させる間欠運転となっている。
(図5)
の消費電力の測定結果を図4に示す。
表1 実機試験品の仕様比較
NSP−20−15V1A4
NRP−10−12−AFP
1.5kW−4P
1.2kW−4P
連続(S1 定格)
反復(S3 定格)
ポンプ容量
16cm3/rev
3cm3/rev
タンク油量
20リットル
10リットル
無し
アキュムレーター
プレッシャースイッチ
ノンリーク減圧弁
電動機出力
定格
オプション
消費電力
(kW)
3.0
2.5
消費電力
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
測定時間
(min)
図5 「NRPシリーズパワーパッケージ」の
実機消費電力波形
消費電力
(kW)
3.0
2.5
2.0
この時の「NRPシリーズパワーパッケージ」の
1.5
消費電力波形
1.0
平均消費電力は、0.04kW
(1サイクルあたり)
であり、
従来の油圧ユニットに対し、90%以上の省エネ効
0.5
0.0
0
2
4
6
8
10
12
14
測定時間
(min)
図4 NSPユニットの実機消費電力波形
16
果が得られている。
この省エネ効果は、間欠運転の負荷運転時間
の比率により異なるが、NSPユニットとのベンチ比
較試験では、負荷時間率10%で運転した場合で
60%以上の省エネ効果が得られることを確認して
いる。
3
2)低騒音
油面異常
(変動)
が一目で判断できるようにした。
次に、
「NRPシリーズパワーパッケージ」の第2の
樹脂タンクは、成形方法を回転成形で行なうこと
特長である低騒音について紹介する。
で、タンクの肉厚を4mmと均一にしている。また、
「NRPシリーズパワーパッケージ」では、シリン
成形品での耐 衝撃性や耐薬品性についても切削
ダーの動作や、回路からのリーク補償は、アキュム
液浸漬後の引張強度評価を行ない、問題のない
レーターに蓄圧された油で行なっていることから、
ことを確認しており、従来ユニットの鋼板製タンク
電動機は停止しているため、
「NRPシリーズパワー
と同等の雰囲気内で使用することができる。
パッケージ」からの騒音はない。
「NRPシリーズパワーパッケージ」では、圧力調
また、ポンプは低脈動な外接ギヤポンプを採用
整や、圧抜き操作をはじめ、電気配線、油圧配管、
しており、吐出側にアキュムレーターを装着するこ
作動油の張り込みなどの作業も、正面から行なえる
とで、運転時に発生する油圧ポンプからの脈動も
ようにして、
メンテナンス性にも考慮した。
(図6)
小さくなることから、クランプ用途のマシニングセ
ンターでは、加工部品の精度向上が期待できる。
電動機が動いている時の
「NRPシリーズパワー
パッケージ」の騒音は、60dB
(A)
以下であり、サン
プル品の実機評価においても、非常に静かである
と好評をいただいた。
4)省スペース
「NRPシリーズパワーパッケージ」のレイアウトは、
タンクの上にポンプキットを設け、
その上に電動機を
設けていることから、標準品で、従来のNSP油圧
ユニットに対し、
30%以上設置面積を小さくしている。
3)メンテナンス性
さらに、油 圧タンクを鋼 板 製 にし、電 動 機に
脚を取り付けることで、壁面への取り付けを可能に
「NRPシリーズパワーパッケージ」のタンクは、樹
したタイプを用意し、お客様の機械にコンパクトに
脂タンクを採用している。これは、油圧装置で重要
組み込むことを狙っている。
(図7)
な作動油のメンテナンス性に考慮したものであり、
白色の樹脂タンクにすることで、
作動油の劣化状況や、
図6 「NRPシリーズパワーパッケージ」標準
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29B5
Vol.
図7 壁取付タイプ「NRPシリーズパワーパッケージ」
(タンクサイズ3リットル)
4
省エネ・低騒音・コンパクト
「NRPシリーズパワーパッケージ」
4. ノンリーク弁使用による さらなる省エネ化
「NRPシリーズパワーパッケージ」は、アキュム
蓄圧された油圧力を減少させてしまう。
これを防止
レーターに蓄圧された油圧力でアクチュエーター
するため、ノンリーク減圧弁は、アクチュエーター
を作動させるので、使用される油圧バルブの
「内
側が設定圧力に到達した後、高圧が流れ込まな
部漏れ
(リーク)」が多い場 合は、蓄圧された油
いよう流路を遮断する構造を採用し、ドレン流量
圧力の減 少が 早くなり蓄 圧 回数が増えるため、
の発生をなくした。
「NRPシリーズパワーパッケージ」の省エネ性能を
(特許出願中)
低下させてしまう。
また、バルブ内の流 路面積を大きく設計した
そこで、内部漏れによる損失を最小限にする
ことで、ノンリーク減圧弁としては最高レベルの
ため、
「NRPシリーズパワーパッケージ」と同時に
低圧力損失特性を実現できた。
(図9)
「ノンリーク減圧弁」と
「ノンリーク電磁切換弁」を
内部漏れ量が極めて小さく、これらを油圧回路に
追加することで高い省エネ性能を維持することが
できる。
損失圧力
(MPa)
どちらのバルブも、ノンリーク弁として実績があ
るSNHシリーズの構造をもとに設計しているため、
NACHI
8
新たに開発した。
(図8)
他社品
6
4
2
0
0
5
10
15
20
流量
(L/min)
図9 ノンリーク減圧弁圧力損失特性
2)ノンリーク電磁切換弁
アクチュエーターの方向を切り換える電磁切換
弁は、スプール形が一 般的であるが、本体とス
プールの隙間から内部漏れが発生してしまうとい
う欠点がある。そこで、ノンリーク電磁切換弁を
使用して内部漏れを最小限に抑え、保圧時におけ
る油圧力の低下を抑えた。
このバルブの特長は、
「小型かつ低圧力損失」
図8 ノンリーク弁を搭載した
「NRPシリーズパワーパッケージ」
1)ノンリーク減圧弁
5
である。それにより、 「NRPシリーズパワーパッ
ケージ」にバルブブロックを搭載する場 合でも、
実機での取り付けスペースを大幅に変更する必要
がない。
このバルブは、アキュムレーターに蓄圧された
また、圧力損失が低いので、アクチュエーター
油圧力
(高圧)を、仕事に必要な圧力
(設定圧力)
を作動させたときの損失が小さく、油温上昇を抑
まで減圧するはたらきをしている。
える効果がある。
(図10)
一 般的な減 圧弁は、圧力制御 状 態において
尚、このバルブは表2に示す3種類から選択で
ドレン流量が発生するが、これは内部漏れ同様、
きる。
表2 ノンリーク電磁切換弁の流路形態
NACHI
損失圧力
(MPa)
6
他社品
作動記号
JIS記号
A12
4
A
b
P T
2
A21
0
0
5
10
15
A
b
P T
20
流量
(L/min)
C6
b
図10 ノンリーク電磁切換弁
(三方弁)
圧力損失特性
A
B
P
T
a
5.「NRPシリーズパワーパッケージ」の用途
NRP−10−12−AFGP−10
「NRPシリーズパワーパッケージ」の用途は、圧
力を保持する時間の長い、マシニングセンタや研
デザイン番号
削盤などの、
ワーククランプ装置への適用が効果的
プレッシャースイッチオプション
P:プレッシャースイッチ付き
無記号:プレッシャースイッチ無し
である。
また、省スペース性をいかして、組立ライン内の
減圧弁オプション
G:ノンリーク減圧弁付き
無記号:減圧弁無し
小さな圧入機などのプレス機械や、コンパクター用
の油圧源としての応用が考えられる。
フィルターオプション
F:高圧ラインフィルターキット付き
無記号:フィルターキット無し
ただし、
「NRPシリーズパワーパッケージ」は
連 続 運 転の油 圧ユニットではなく、搭載できる
アキュムレーターオプション
A:アキュムレーター付き
(ガス圧7.0MPa)
無記号:アキュムレーター無し
アキュムレーターにも制限があることから、
チャック
ドレンがあるなど、回路リークが多いシステムや、
パッケージ最高出力
(ポンプ組み合わせ)
12:1.2kW−3cm3/rev
24:2.4kW−5cm3/rev
シリンダーのサイズが大きい場合には、使用時の
制限を受ける。
タンク油量 10L
「NRPシリーズパワーパッケージ」の標準品の形
図11 形式説明
式説明を図11に、仕様を表3に示す。
表3 「NRPシリーズパワーパッケージ」の仕様と形式説明
(標準品)
ポンプ容量
電動機出力−極数
負荷運転時間率
(1分間当たり)
タンク仕様
NRP−10−12−10
NRP−10−24−10
3.0cm3/rev
5.0cm3/rev
備 考
1.2kW−4P
2.4kW−4P
S3:反復運転
15%
(9sec)
10%
(6sec)
S2:運転時間は最大で3min
樹脂タンク
(10Lit)
オプション仕様
プレッシャースイッチ
アキュムレーター
ノンリーク減圧弁
タンク仕様
出力1点
(オープンコレクタ)
圧力固定式
0.7Lit
圧力調整範囲:2.0∼7.0MPa
鋼板製タンク
(10Lit)
鋼板製タンクは特殊図番となります
※備考 負荷運転時間率
(%)
=
(電動機ON時間合計 sec)
÷
(サイクルタイム sec)
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29B5
Vol.
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6. 今後の商品展開
産業活動において、地球温暖化への影響をおよ
ぼす温室効果ガス低減の要求は、近年さらに大き
くなってきている。これらのニーズに対し、油圧装
置への省エネ化の要望は、今後さらに加速すると
考えられる。
油圧装置を省エネ化するための方法は、油圧機
器の改良・開発の他に、油圧回路・機器サイズの見
直し、電動機・制御方法の見直し、配管・継手類の
見直し、作動油の見直しなど、多岐にわたる。
今後、日本のものづくりがますますグローバル化
してゆく中で、お客様のニーズにマッチした使い易
い省エネ油圧装置の開発にとり組んでゆく。
NACHI TECHNICAL REPORT
Vol.29B5
June / 2015
〈発 行〉2015 年 6 月 15 日
株式会社 不二越 技術開発部
富山市不二越本町 1-1-1 〒 930-8511
Tel.076-423-5118 Fax.076-493-5213