医療法人三幸会 北山病院

医学フォーラム
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<病 院 だ よ り>
医療法人三幸会
院長代行
院
は
じ
め
長
澤 田 親 男
谷
直 介
に
平成 26年 11月に医療法人三幸会北山病院(以
下,当院)は,創立 60周年を迎えました.わず
か 37床で開設された当院はその後増築や改築
を繰り返し,今日に至りました.最近では平成
10年に「いずみ棟(60床)
」を新築し,平成 14
年には「本館(186床)
」の増改築をしました.
平成 23年 3月からは,未改修のまま残された
「みなみ棟」の増改築を行い,平成 25年秋に無
事竣工を迎えました.前々回1),前回2)の病院だ
よりでは老人性認知症疾患療養病棟「いずみ」
の現状,
「みなみ棟」の増改築工事の計画などに
ついて報告しましたが,本稿では,新しい病棟
構成を中心に当院の紹介をします.
病
院
概
要
所 在 地:〒 606
‐0017
京都市左京区岩倉上蔵町 123
電話番号(代表)
075
‐791
‐1177
FAX 075
‐712
‐4085
URL:ht
t
p:
www.
s
a
nk
o
ka
i
.
j
p/
開設年月日:昭和 29
(1954
)年 11月 17日
診 療 科 目:精神科,心療内科,内科
総 病 床 数:
448床
精神一般病床(15
: 1) 284床
( 6病棟単位)
精神療養病棟
104床
( 2病棟単位)
老人性認知症疾患療養病棟 60床
( 1病棟単位)
〒 606
‐0017京都市左京区岩倉上蔵町 123
北山病院
敷 地 面 積:13
,
301
.
46愛
延 床 面 積:約 10
,
754
.
17愛
職 員 数:医師 21名
(そのうち非常勤 13名)
,
薬剤師 6名( 3名)
,看護師 96名
(39名)
,准看護師 62名
(34名)
,看
護補助 46名( 8名)
,作業療法士
9名,臨床心理士 3名( 3名)
,精
神保健福祉士 6名,臨床検査技師
3名( 2名)
,管理栄養士 1名
精神保健福祉法指定病床
精神科作業療法施設
精神科デイケア施設
京都市応急入院指定病院
京都府立医科大学学外実習協力病院
臨床研修協力病院(京都第二赤十字病院,京都
鞍馬口医療センター,洛和会丸太町病院)
日本精神神経学会専門医研修施設
日本心身医学会研修診療施設
日本老年精神医学会専門医制度認定施設
日本認知症学会専門医教育施設
関 連 施 設:
第二北山病院(324床)
からすましめいクリニック
三幸会うずまさクリニック
訪問看護ステーションからすましめい
介護老人保健施設紫雲苑(一般 40床,認知症
対応 60床)
ケアサポートセンターけいほく
ケアサポートセンター宝ケ池
ケアサポートセンター吉祥院
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ケアサポートセンター市原野
ケアサポートセンター岩倉長谷
ケアサポートセンター鷹峯
ケアサポートセンター壬生
ケアサポートセンター千本今出川
三幸会生活サポートセンター
ホームヘルプ事業所北山
ホームヘルプ事業所からすましめい
ケアプラン事業所北山
相談支援事業所北山
グループホーム北山
医療法人三幸会ホームヘルパー養成校
就労支援センター・ヒューマンプラス
病 院 の 沿 革
当院はわが国の精神医療の歴史上重要な「京
都の岩倉」に存在します.当院の開設は昭和 29
年ですが,この地では千年近くも前から精神科
の医療の歴史があります.岩倉大雲寺信仰と精
神疾患の治療の関係は 1072年(延久 4年)
,後
三条天皇の第三皇女佳子内親王がこころの病に
罹られた時,大雲寺に籠られて,そこの霊泉を
飲み治療されたことに由来します.その後,貴
族たちが精神疾患をはじめとしてあらゆる病気
を治療するためにこの地に参拝していたのです
が,一般の人々は治療のために訪れるように
なったのは数百年後からだったようです.17
世紀からは大雲寺や隣接する実相院に各地から
多数の一般の精神病者と家族が参詣・参集する
ようになったようです.そのころから周辺に参
詣者の宿泊施設(旅籠・茶屋・保養所)が営ま
れるようになりました.1818年(文政元年)に
当時岩倉の宿泊施設の管理をしていた岩倉実相
院がくるまや(今井家)
,ふじや(岡山家)
,わ
かさや(城守家)
,まつや(上田家)という四軒
の茶屋の宿泊営業を許可し,これを四軒茶屋と
よびました.これら茶屋と呼ばれた宿泊施設
は,昭和初期には保養所と名前を変え,精神科
病院とは違った家族的看護・家庭看護に加え,
養鶏や花園栽培といった作業を通じ,
「生活療
法」と名付けられた,今でいう精神科リハビリ
テーションが存在していたとのことです.
「わ
かさや(若狭屋)
」は岩倉大雲寺の門前に建てら
れており,その場所と旧大雲寺の跡地が現在の
当院の敷地に当たり,
“不動の滝”や“閼伽井
(あかい)の井戸”はほぼ当時のまま残っていま
す.床紅葉で有名な実相院の観光のついでにそ
の滝や井戸を写真に収めるため当院敷地内に立
ち寄る観光客もここ数年よく見かけるようにな
りました.上に述べましたような岩倉地区で江
戸時代から終戦直後にかけ精神障害者を民家で
預かった歴史を伝える資料館として「城守保養
所資料館」が当院の東側にあり,当時の地域の
住民と精神疾患を持つ患者さんたちとが地域で
共存していた様子をうかがうことができます3).
昭和 29年に「わかさや」の各室を病室に改修
し,37床の病院として開設された当院は,翌年
には 44床に,その後増築・改築を繰り返して病
床を増やし,昭和 52年には 321床,昭和 60年
には 417床となり,平成 10年にはこれに加えて
認知症療養病棟 60床が開設され総病床数 477床
となりました.これをピークに,その後少し病
床を減らし,現在は 448床となっています.
広がるニーズとチーム医療
北山病院には認知症疾患療養病棟「いずみ棟」
があり,物忘れ外来もあるため,近隣の病院や
診療所から認知症の患者さんが紹介されてくる
ことも多く,入院患者さんも高齢者が多いので
すが,精神科病院の敷居が低くなってきたこと
に伴いホームページなどを見て心療内科受診希
望で来る若い人なども多く,若年層から高齢者
まで幅広い年齢層の患者さんの外来や入院に対
応しなければなりません.このためにはハード
面の改善はもちろん,医師や看護・介護職員を
はじめとした職員の研鑽も大切です.チーム医
療においては多職種が協働して医療・介護サー
ビスを行うことが最も重要です.院内の多職種
の協働はもちろん,上記の法人内関連施設や近
隣の病院や診療所との連携も含めたチーム医療
を行い,
「話をよく聞き,ともに歩む」という我
が医療法人の理念を実践すべく努力しています.
医学フォーラム
「みなみ棟」増改築工事と
新しい病棟構成に関して
限られた敷地内で,かつ京都の風致地区でも
あるため高さの制限や建物の構造や外観にも制
限が加えられるなどから,
「みなみ棟」増改築の
設計や建築計画は簡単なものではありませんで
したが,入院患者の高齢化に伴う身体合併症へ
の対応のニーズが大きくなってきたことや施設
の老朽化や耐震性の問題もあり,平成 23年 3月
から平成 25年 10月まで約 2年半かけての工事
を行いました.
新しくできた「みなみ棟」
(図 1,2)には,
身体合併症対応病床を含む開放病棟( 6病棟)
,
急性期の受け入れ閉鎖病棟( 7病棟)
,認知症の
周辺症状などにも対応できる閉鎖病棟( 8病
棟)
,社会復帰準備のための開放病棟(10病棟)
,
の 4つの病棟(合計 202床)ができました.そ
のうち身体合併症病棟と急性期(入院受け入れ)
病棟と浴室に関して簡単に紹介します.
身体合併症病棟:当院は精神科単科病院であ
り,身体合併症の治療のために新たに入院して
くる患者さんはいません.しかし,当院に精神
科治療のため入院している患者さんが,入院後
に身体合併症を発症した場合は,他の病院に転
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院して他院で治療を受けてもらう場合もあれば,
当院で身体的治療を行う場合もあります.入院
患者さんの高齢化に伴って身体合併症の発生頻
度は年々増えており,当院で治療するケースも
増加しています.このような患者さんの身体的
治療のため,備品の整備やベッドのレイアウト
などハード面の改善を工夫しました.
急性期(入院受け入れ)病棟:急性期の対応
で必要となる保護室に関しては,患者さんを頻
繁にかつ安全に観察できるような裏廊下(職員
用の通路)のついた保護室に変更しました.
浴室に関して:各病棟に少人数ずつが入れる
比較的小さな一般浴室を作り,それとは別に 3
人から 4人が同時に入れる介護浴室,臥床での
機械浴と座位での機械浴を備えた特殊浴室を作
りました.
さらに,平成 25年の工事では,これまでは病
院内の各所に設置されていた CT室,レントゲ
ン室,心電図室,脳波室,胃カメラ室,エコー
室,臨床検査室など検査部門を「みなみ棟」の
一か所にまとめたり,外来受付と異なる別棟内
にあった院内薬局を外来受付や診察室と同一の
建物である「本館」に移転させたりと,患者さ
んや職員にとって使いやすいハードになるよう
な改築もおこないました.
図 1 平成 25年に増改築された「みなみ棟」
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図 2 病棟構成 (三幸会ホームページより)
当院は,
「みなみ棟」の他に「本館」と「いず
み棟」があります.これら 3つの棟で構成され
る当院の病棟配置図をご参照ください(図 2)
.
「本館」は 4階構造で 1階に受付,事務,外来,
薬局があり, 2階は精神科療養病棟, 3階は急
性期(入院受け入れ)病棟と精神科療養病棟,
4階は慢性期病棟が配置されています.
「いずみ
棟」は 1階が作業療法室,精神科デイケア,2
階と 3階が認知症疾患療養病棟です.入院患者
さんの病状や患者さんや家族のニーズに応じて
病棟を移動していただくこともあります.
臨床研修協力病院として
当院は臨床研修医の研修病院として京都第二
赤十字病院,京都鞍馬口医療センター,洛和会
丸太町病院,などと連携し,研修医の育成に協
力しています.将来精神科医になる予定の研修
医はもちろんですが,研修終了後に精神科以外
の科で臨床を行う医師にとっても精神科の診療
経験というものは必ず役に立つものと考え,指
導医が熱心に教育しています.特に研修医たち
が将来出会うことが多いであろう認知症やせん
妄に対する環境調整やケアの工夫といった非薬
物療法の重要性を経験してもらうように努めて
います.
お
わ
り
に
創立 60年を迎えた当院は,改築や増築を繰り
返し,ハード面のリニューアルを行いました.
高齢化に伴う疾病構造の変化をはじめとし,精
神科医療を取り巻く環境は大きく変化していま
す.広がるニーズの変化に応えるべく,院内は
もちろん,地域の社会資源と有機的に連携した
チーム医療を行い,患者さんや家族の QOLの向
上を目指したいと考えております.
文
献
1)谷 直介,澤田親男.医療法人三幸会北山病院紹介
―老人性痴呆疾患専門棟「いずみ」の現状を中心に―.
京府医大誌 2001;110:11281131
医学フォーラム
2) 澤田親男,谷 直介.病院だより 医療法人三幸
104
会北山病院.京府医大誌 2011;120:101-
57
3) 城守茂右衛門.岩倉と障害者の絆.蓮華―仏教文
38
化講たより― 2014;87:35-