学科共通科目(2015年度) 第15回 倫理的な正しさとは何か 質問に対する回答とディスカッション 今日の予定 • • • • レポートの返却 前回の質問に対する回答 ディスカッション 学生による授業評価アンケートの実施 アナルコ・キャピタリズムと福祉制度・刑罰制度 • 国家がない社会は本当に自由なのだろうか。 リバタリアニズムの中のアナルコ・キャピタリ ズムは最小限の国家ではなく、国家、つまり 政府のない社会が良いと考える。しかし、リバ タリアンが考えるように政府なしに、人々が人 格的な関係を結んだり、経済的な取引が自由 にできるとは考えにくい。やはり政府という一 定の抑止力が無ければ、個人が利益を追求 しようと思えば追求できるし、利益が一ケ所に 集中してしまい貧困層に利益が回らなくなって しまうかもしれない。民間の福祉サービスを認 めるというが、そのサービスを運営している企 業が、利益のために都市に集中してしまえば、 地方の貧困層に福祉サービスを提供できない。 また、刑罰制度を法執行には誤りの可能性が あるという理由で否定しているが、刑罰制度は 必要ではないだろうか。犯人の逮捕も民間が行 うとなると、もしも民間の企業の力が強まってし まえばその民間の会社の利益のために罪のな い人が逮捕されたり、財産の乏しい者の発言は 社会に届かなくなってしまうのではないか。民 間が暴走してしまえば、個人の自由は守られな いのである。 ・福祉を提供するのが民間の企業になれば、 当然利益中心にかんがえることになるでしょう。 そうすると都市の富裕層に向けたサービスをま ず考えるでしょう。また問題のある警備保障会 社が人を逮捕するようなこともあるかもしれませ ん。 リバタリアニズムと福祉 • リバタリアニズムは最小国家を目指していて、 リバタリアンの中には国家のない社会を考え る論者もいる。私も今の軍備をおしすすめる ような国家は必要ないのではないかと時々考 える。ただ、国家がなくなって全てが民営化し 市場に委ねられると、不正が行われた際の 抑制力が弱まるのではないかと考えた。「ア ナルコ・キャピタリズム」の考えは徹底してい るが、自由市場経済に対するゆるぎない信頼 だけで成り立っている。自由市場経済が混乱し たら、全てが駄目になってしまいそうだ。・・・・。 さらにリバタリアニズムでは国家による強制的 な福祉の供給に反対している。しかし、民間企 業やボランティア団体だけで福祉の全てを提供 するには無理がある。私は経済面においても、 福祉面においてもやはり政府は必要ではない かと考える。 • 不正が行われた際の抑止力といったものは なくなるでしょう。 • リバタリアンは市場を全面的に信頼していま すが、このこと自体に根拠はありません。彼ら は自由市場が混乱することを想定していませ ん。 刑罰制度と損害賠償制度 • リバタリアニズムは最小国家を目指しており、 福祉の面でも、福祉国家は非効率的で個人 の自由を侵害するとして、国家主導で行うこと を批判している。またリバタリアニズムでの刑 罰は、刑罰制度を廃止して損害賠償制度一 元にしようとする考え方を持っている。しかし、 私は損害賠償制度では処罰として軽いので はないかと考える。現在、日本には死刑など があり、少しは犯罪抑止に繋がっていると考 えられる。だから、損害賠償制度では、犯罪抑 止に繋がらないだろうし、被害者の人にとっても 物足りないだろう。またリバタリアニズムでは、 民間企業が損害賠償額を取り立てることになる と学び、それは問題があると考える。国家という のがないと、犯人に何かしらの罪を下すのは難 しい。自分たちよりも力を持っている存在でない と裁けないはずだ。 ・損害賠償一元論がユニークで目を引いた。 このリバタリアニズムの思想は極端ではあるが、 ある意味現行の刑罰制度の盲点をついている。 まず、国家刑罰権への批判であるが、確かに 刑罰が誤って執行される可能性があることは否 定できない。しかし、刑罰の執行を誤る可能性 で国家の刑罰権全体の正当性を否定すること はできないと考える。次に現行刑罰制度が被害 者の損害回復を考慮していないという批判はあ てはまる。被害者の損害の大きさは加害者に 課す量刑に影響を与えるものの、加害者に損 害賠償を課そうとする発想は刑法の中にはな いので重要な批判であると思う。現在、交通事 故犯罪において民事上の損害賠償ができてい れば量刑で情状酌量されることなどに鑑み、 刑法の中に被害者への損害賠償を取り入れて もいいのではないかと考える。例えば積極的に 被害者への償いをするということであれば早期 の仮釈放という手法もとれると思われる。次に 本題であるが、犯罪抑止力と刑罰が不明確な ため刑罰制度を廃止して損害賠償に一元化す るという試みはナンセンスであると考える。刑罰 はすべて個人の法益を保護するため存在して いるのではなく、社会や国家の法益を守ろうと するものもある。放火犯を損害賠償だけで寛恕 することはできない。また、損害賠償に一元化 すると金持ちの道楽息子の犯罪などまったく防 ぐことができなくなる。さらに問題なのは、犯罪 被害者やその遺族は損害賠償よりも因果応報 を求めている場合が多いことである。刑罰の意 義は一般論としては一般予防や特別予防にあ ることは当然として、今なお加害者への因果応 報で実質〔的〕な意義を保っていると考えられる。 • 現行刑罰制度と損害賠償一元論の問題を的 確に指摘した良い意見です。 • 被害者にもっと配慮すべきだという意見が最 近よく聞かれるようになりましたが、これは損 害賠償を刑罰制度に一部取り入れることに よって対処できる可能性があるでしょう。 • しかし、おっしゃるとおり刑罰制度を完全にな くせば、損害賠償しさえすれば、犯罪を犯して も構わないというモラルハザードが起きる恐 れも否定できません。 「哲学・思想の基礎」ディスカッション 7月31日(金) • テーマ:「能力のある者、努力をした者にはそれにふ さわしい報酬を受け取る権利があるが、能力のない 者、努力を怠った者が不遇な状態に置かれるのは 当然である」という自己責任の考え方について、現 代リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニ ズムに関連づけ、新自由主義、現代の格差社会、 機会均等、能力主義(成果主義)、社会保障(税制や セーフティネット)、社会の連帯性などにも触れて、自 分の意見を述べなさい。 自己責任論の問題点 • 自己責任の考え方は、リバタリアニズム(新自由主 義)を極めて通俗化した風潮であろう。この風潮は、 現代の格差社会のあり方から人々の目を反らす役 割を果たしているのではないか。 • 公正な社会を目指して、このような風潮を是正したり、 そこから脱するには、どうしたらよいであろうか。こ のとき、リベラリズムやコミュニタリアニズムはこのこ とにどう関わりうるであろうか。 • 公正な社会を目指して格差を是正するとすれば、ど のような政策が有効であろうか。 • 授業評価アンケートの回収 • 一言カードの回収 • 発言した人は一言カードのどこかに「発言し ました」と書いてください。 • 授業は今日までです。総括授業はありません。
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