18H-02 金属材料の照射下組織発達のモデル化と表面改質 研究テーマ代表者(東大・工) 実験参加者 (東大・工)阿部 楊 坂口 運民、土井 関村 直人 弘亨、岩井 荘一、 劉 直史、仮屋崎 岳夫、沖田 暁陽、篠原 誠、中村 泰良、 靖周、 真季 1. 緒言 現在、軽水炉の燃料被覆管材料としては、ジルコニウムに若干の微量元素を添加したジ ルカロイが使用されている。今後、燃料の高燃焼度化、出力アップ、運転サイクル最適化 など原子力プラントの効率的運用を視野に入れると、特に燃料被覆管に対する負荷が増大 すると考えられる。一方で、燃料被覆管は原子力プラント中で核分裂生成物を内包すると いう安全性確保上極めて重要な役割を有している。原子力発電の安全性を確保しかつ経済 性も向上させるために、燃料被覆管の照射下における劣化機構を解明し、適切な安全裕度 を有した合理的な使用基準の設定を行うことが求められている。 本研究では、燃料被覆管の材料劣化のうち、通常運転時の燃料破損の要因となる延性低 下に関して、その支配因子の中で水素化物析出挙動に注目し、その過程についてミクロな 観点から基礎的な検討を行った。 2. 実験方法 本研究に用いた材料は、PWR用実機アーカイブ材、ジルカロイ-4 である。被覆管の一部 から湾曲部を研削し、直径 3mm、厚さ約 0.25mmの透過型電子顕微鏡(TEM)用ディスク材 を打ち抜き、機械研磨、フッ酸+硝酸による酸洗いを行った。その後、高真空中(~10-6Pa) で 700˚Cに保持し再結晶させ、酸洗いにより表面酸化膜を除去した。更に、過塩素酸 10%+ エタノール 90%の電解液により-40˚Cでツインジェット電解研磨を行い、TEM観察可能な薄 膜試料を作成した。 この試料を用いて、室温に於いてH2+イオン照射下TEM内その場観察実験を行った。H2+イ オンの加速電圧は 150keVであり、イオン飛程は 1μm以下となる。また、微細なミクロ組織 観察を行うため、熱電子放出型電子顕微鏡を用い加速電圧は 400kVで実験を行った。 3. 実験結果と考察 図 1 には、その場観察実験におけるミクロ挙動のスナップショットを示す。水素化物は、特 定の方向にのみ成長速度が大きく((a)~(d))、この方向は 1 1 20 方向であり、一般的な水素化手 法である気体吸収法によるものと同様の成長方向であることがわかった。また、水素化物の成 長に伴い、先端の内側方向に転位組織が発達することが確認された((d)~(g))。観察された転位組 織のうち、水素化物から遠いものが初期に形成された転位である。更に照射を続けると、水素 化物は層状に成長するような様相が確認された((g)~(j))。大きく成長した水素化物は、他の水素 化物と接近し、水素化物間の相互作用により、個々の水素化物の成長速度は低下することがわ かった((k),(l))。 本研究により、水素化物析出挙動に関して、時間発展の系統的な形態を把握することができ た。今後は、析出物密度と径の定量化、照射欠陥と水素化物の相互作用に関する基礎的な知見 を得ることで、延性低下のミクロメカニズムの解明を行っていく。 (a) (b) 100nm (d) (c) 100nm (e) 100nm (g) (f) 100nm (h) 100nm (j) 100nm (i) 100nm (k) 100nm 100nm 100nm (l) 100nm 図 1. H2+照射下その場観察試験によるミクロ組織発達形態 (試料:ジルカロイ-4 薄膜、室温照射、観察面(0002)) 100nm
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