オーストラリア国立大学 非線形物理センター

Annual Report No.29 2015
磁気弾性メタマテリアルによる新規光学デバイスの開発
Development of Novel Optical Devises Based on Magnetoelestic Metamaterials
H26海自46
派遣先 オーストラリア国立大学 非線形物理センター
(オーストラリア連邦・キャンベラ市)
期 間 平成26年11月10日~平成26年12月19日(40日間)
申請者 国立大学法人三重大学 大学院工学研究科
准教授 松 井 龍 之 介
(2013)
)
。両グループは平成25年度より研究交
海外における研究活動状況
流を重ねて来ており、それぞれのグループの技
研究目的
術を融合させた新規なメタマテリアルの開発を
近年、天然材料では得られない新規な光学
検討してきた。今回の海外派遣では、三重大
機能を発現する材料・技術として、メタマテ
学の研究グループが作製した導電性高分子に
リアルへの関心が益々高まり研究も活発化し
よるソフトアクチュエーターを活用した、隣接
ている。近年は、入射光(電磁波)の磁場と
スプリットリング共振器の位置の調整によるテ
の相互作用により系の弾性変形までが可能と
ラヘルツ帯およびマイクロ波帯において動作す
なるようなメタマテリアルも様々報告されてお
る電気的に共鳴周波数可変なメタマテリアルの
り、共同研究者であるオーストラリア国立大学
開発を目的に共同研究を実施した。
のKivshar教授は、
“磁気弾性メタマテリアル”
として提唱している(M. Lapine et al., Nature
海外における研究活動報告
Materials(2012)
、他)
。同グループでは、隣接
近年、天然材料では得られない新規な光学
スプリットリング共振器の位置あるいは配向の
機能を発現する材料・技術として、メタマテリ
調整による共鳴状態の制御や、入射電磁波に
アルへの関心が益々高まり研究も活発化して
よるメタマテリアルの共鳴応答の非線形な動的
いる。共同研究者であるオーストラリア国立大
制御などを実現してきた(Liu et al., Phys. Rev.
学非線形物理センターのグループでは、隣接
B(2013)
)
。これは、メタマテリアル研究の新
した複数のスプリットリング共振器の位置ある
たな応用展開を示唆するものであり、極めて重
いは配向の調整による共鳴状態の制御や、入
要なパラダイムシフトである。一方で、三重大
射電磁波によるメタマテリアルの非線形な動的
学の研究グループは、これまで導電性高分子
制御などを実現してきた(Liu et al., Phys. Rev.
や液晶などの有機機能性材料を駆使した様々
B(2013)
、他)
。当研究室とは平成25年度よ
なメタマテリアルに関する研究に従事してきて
り研究交流を重ねて来ており、メタマテリア
おり、光照射によるテラヘルツ電磁波の変調素
ルにおける電磁誘導透明化現象の入射電磁波
子などを開発してきた(Matsui et al., Opt. Lett.
による動的制御などを実現してきた(Matsui et
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The Murata Science Foundation
al., Appl. Phys. Lett.(2014)
)
。一方で、当研究
グ共振器も準備した。これらを組み合わせるこ
グループはこれまで、導電性高分子や液晶な
とで素子を作製した。
どの有機機能性材料を駆使した様々なメタマ
テラヘルツ周波数において動作するスプリッ
テリアルに関する研究に従事してきた経緯があ
トリング共振器アレイの格子定数は100μm程
り、次のステップとしてそれぞれのグループの
度であり、積層アレイの相対的な位置変化によ
技術を融合させた新規なメタマテリアルの開発
り十分に大きな共鳴周波数シフトを得るには、
を検討してきた。そこで今回の海外派遣では、
数十μm程度の位置シフトが望まれる。Okuzaki
三重大学の研究グループが準備した導電性高
等の報告では数%程度の変形が得られており、
分子によるソフトアクチュエーターを用いた、
数十mm程度の高分子フィルムが適当であると
隣接スプリットリング共振器の位置の調整によ
見積もられる。そこで10mm角のポリピロール
る電気的に共鳴周波数可変なメタマテリアルの
薄膜をリニアアクチュエーターとして用いるこ
開発を目的に共同研究を実施した。6週間の日
とを検討した。素子の透過スペクトルの評価に
程で滞在し、テラヘルツ帯およびマイクロ波帯
はテラヘルツ時間領域分光法を用いた。一方
において動作する素子の作製と分光評価なら
で、マイクロ波領域において共鳴応答を示す
びに数値シミュレーションを行った。
スプリットリング共振器のサイズは数mm程度
導電性高分子によるアクチュエーターでは
になる。このような素子において十分なスペク
電気化学的なドープ・脱ドープを動作原理と
トルシフトを得るためのアクチュエーターとし
するものが多く、電解液あるいは高分子系の
ては、Okuzaki等の報告したアコーディオン型
電解質を必要とする。そのようなアクチュエー
の折り紙アクチュエーターの採用を検討した。
ターを当共同研究グループが目標とするような
作製した素子をマイクロ波導波管に封入し、
電気的に共鳴周波数可変のメタマテリアルへと
ベクトル・ネットワーク・アナライザーにより
適用するのは容易ではない。一方で、Okuzaki
透過スペクトルの評価を行なった。両素子に
等は、高ドープした導電性高分子ポリピロー
おいて数V程度の電圧印加により十分なスペク
ルが電流を流すことにより変形(縮む)ことを
トルシフトが得られた。これらは、動的なメタ
報告している(Okuzaki et al., Adv. Funct. Mater.
マテリアルの実現法として高分子アクチュエー
(2013)
、他)
。これは、水分の吸脱着により動
ターを適用した世界初の試みとして興味深い
作するものであり、大気中においても動作する
ものである。
電解液の不要なポリマーアクチュエーターとし
今回の滞在にあわせて、本学工学研究科に
ての利点がある。そこで本研究においてもポリ
よる大学院学生対象の「海外留学支援事業」を
ピロール薄膜によるアクチュエーターを採用す
利用して、当研究室所属の大学院学生を1名同
ることとした。オーストラリア国立大学訪問に
行させた。当該学生にとっては初の海外経験
先立ち、三重大学グループでは低温電解重合
であり、国際性を涵養する良い契機にもなっ
によりポリピロール薄膜を作製した。オースト
たものと思われる。滞在期間中には所定の目的
ラリア国立大学グループでは、テラヘルツ周波
を達成し、十分な研究成果を得ることもでき
数領域で共鳴応答を示すスプリットリング共振
た。このような貴重な機会を与えて下さった、
器アレイを微細加工により事前に準備し、マイ
村田学術振興財団に感謝申し上げます。
クロ波領域にて共鳴応答を示すスプリットリン
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Annual Report No.29 2015
“Tunable terahertz and microwave metamaterials based
この派遣の研究成果等を発表した
著書、論文、報告書の書名・講演題目
on π-conjugated polymer actuators”,
[原著論文]
META’15 - The 6th International Conference on
Metamaterials, Photonic Crystals and Plasmonics,
T. Matsui, Y. Inose, D. A. Powell, and I. V. Shadrivov,
“Tunable terahertz and microwave metamaterials based
on π-conjugated polymer actuators”
City College of New York, NY, USA, August 4 – 7, 2015
(発表予定)
(投稿準備中)
その他、平成27年度秋季応用物理学会、電子情報通
[国際学会口頭発表]
T. Matsui, Y. Inose, D. A. Powell, and I. V. Shadrivov,
信学会有機エレクトロニクス(OME)研究会等の国
内学会・研究会にて発表予定
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