Document

研究の背景及び目的
家族の「食と健康」基盤と「絆」構築の食育プログラムを開発するにあたり、宮崎県の伝統食や乳幼児を取り囲む家族がどのような食の基盤を形成しているか
を明らかにするために、基礎的調査としてフィールドワーク(調査研究)を行った。本年度においては、宮崎県の豊富な食材を活用した良質な食および食の伝承
を調査し、生活の基本である食についての教育や妊娠期(胎児期)からの家族や地域における食を調査する目的で、西米良地区、椎葉地区、五ヶ瀬地区を中心に
フィールドワーク(調査研究)を行った。
実施状況
1.調査対象者は、70~80歳代の女性9名、80歳代男性1名に聞き取り調査を行った。調査場所以下の通り、西米良村・椎葉村・五ヶ瀬町である。
2.基本食や味覚について
西米良村および椎葉村は、九州山脈のほぼ中央にある急峻な山々に囲まれた山村で耕地がわずかしかなく、焼畑などで作るひえ、あわなどの雑穀が昭和初期~中期までは、食生活
の中心であった。また、五ヶ瀬町は、山と谷の傾斜地に人が住み、水係の良い土地に米を作り、坂なりの耕地に麦やとうもろこしを作り、米を食いつなぐために麦やトウモロコシを混ぜ、
それらに飽きる場合は、芋や季節の山菜の混ぜ飯が中心である。
西米良村および椎葉村は、3割塩の味噌や醤油を使い、だしは煮干しやシイタケ、初夏には鮎の火干しを使用している。甘味については、昭和初期などは砂糖が貴重品であり、蜜蜂の
うと(養蜂箱)で蜜を取っており、現在も山の斜面に置かれている。砂糖や蜂蜜は、貴重品であり、甘味として芋や栗などを食材としてよく利用している。西米良村では、砂糖は貴重品で
あったため、干すことで甘味が増すことを利用し、干した小豆、うずら豆、栗(かち栗)、サツマイモ、もち米を一緒に炊いた「煮干し」を農作業の合間に食していた。五ヶ瀬町は、2割塩の味
噌や醤油を使い、だしは西米良村や椎葉村と同じく煮干しやシイタケが主である。甘味については、同じく砂糖は貴重品であり、家庭によっては黒砂糖などを使用していた。また、五ヶ瀬
においては、四季折々の食材を活用している「四季の御膳」があり、山菜などを上手に使っている。
西米良の「煮干し」
砂糖を加えずに、干し
た小豆、栗、サツマイ
モの甘味のみにすれ
ば、離乳食とでき、炭
水化物や葉酸などの
ビタミン類、カリウム、
マグネシウム、マンガ
ンなどが摂取できる。
5月端午の節句膳
ちまき、(さるかけのだご)、とろろ汁、
あざみ飯、いたどりの炒め物、
わらび・のびるの酢味噌和え
8月看護膳
栗の渋皮煮、蓮殻の天ぷら、
かんごめし、煮豆、山野草ごま和え、
ゆでだご汁
五ヶ瀬町 「四季の御膳」(一部抜粋)
「四季の御膳」は、地域の食を伝承していくために、四
季折々に作られている五ヶ瀬町の食をまとめたもの。
山菜がふんだんに使われ、季節によって採取できる食
材をうまく利用している。
あざみなどの山菜は、灰汁を抜き利用すれば、離乳時
期でも食べられる。離乳時期に不足しがちなカルシウム
や鉄分も多く含まれている。
3.子・孫世代と食生活について
西米良村、椎葉村、五ヶ瀬町いずれにおいても、調査対象者の食生活は、野菜、山菜類や芋類を使った煮物類が主なようであった。昭和初期などは、イノシシ肉や鹿肉
などを食すこともあるが、鶏肉など晴れの日にしか食すことはなかった。現在の食卓に上がるものとしては、前記のような品もあるが、西米良村における4世代同居の調査
対象者の話では、何かしら子や孫・曾孫などが好むから揚げなどが必ず一品出されるということであった。
4.女性9名の調査対象者の母乳育児期間は、いずれも1年以上であった。なかには、2年以上に渡り、母乳育児を経験していた。粉ミルクが全国的に普及したのは1950年代以降であり、
第2次世界大戦前や戦中においては、一般的ではなかった。そのため、粉ミルクに頼ることなく、当たり前に母乳育児を行っていたようである。母乳不足などの場合、重湯や米粉を煎った
香煎を熱湯で溶かし、与えていたということである。また、芋やカボチャなどを入れた味噌汁に、かゆや白飯を混ぜた物を与えており、その点は現在とさほど変わりはない。また、あざみ
などをよく使い、かゆなどに混ぜており、山菜を取り入れていたようである。
離乳食の開始の目安は、歯の萌出する時期であった。調査対象者が育児を行っていた時期は、戦中もしくは戦後の物資・食糧不足の時代であり、育児用品なども現在の様に充実はし
ていなかった。スリングなどの抱っこひもやチャイルドカーなども少なく、自宅においては、寝かせていたことが多いということであった。発達が進むと、這うことやつかまり立ち、歩くことを
よくさせており、よく動くことで食事をきちんと摂り、食糧難の中でもよく成長したと話されていた。
5.地域の救荒食について
山間地区である西米良・椎葉・五ヶ瀬などは、台風などで平野部との道が遮断されることがあり、現在の様に道が充実していないため、救荒食を工夫している。特に、
粉にして貯蔵することが多く、小麦、大麦、米、そば、きび、とうきび(とうもろこし)、からいも(さつまいも)などを貯蔵していた。煮て日干しにして貯蔵するものには、
大根、ぜんまい、かんぴょう、たまねぎ、たけのこ、なば(しいたけ)などがある。特に、離乳時期にある児の救荒食としては、うるち米やもち米、からいも(さつまいも)を
熱湯で練ったものなどを食べていたようである。
西米良町 「あずきの香煎」
小豆を黒っぽくなるまで、もち米が少し茶色くなるまで煎り、粉引器(フード
プロセッサーでは、うまく粉にならない)で粉にし、ふるいかける。砂糖・塩を
混ぜお湯で溶いたもの。
かつては、石臼で粉にしており、臼引きは、子ども達の仕事でもあった。
粉にしているため、保存がきき、砂糖や塩を加えなければ、離乳食に活用
できる。
6.食の伝承や家庭における教育について
食の伝承は、村におけるコミュニティの中で行われており、作業をしながら食物について伝え聞き、実際に手に取ることで覚え、習得しているようであった。食物を実際に見て、栽培し、
収穫することで手に取り、収穫したものを実際に調理することを幼い頃から経験していた。このように、実際に自らが体験することで、興味や好奇心を抱くことが重要であり、食育の一環
として日常の生活の中で経験していく必要がある。
目標の達成度及び成果
今後の課題及び展開
西米良・椎葉・五ヶ瀬における伝統食・食文化を調査し、四季折々の豊
かな食材の活用が見られた。また、伝統食や食文化は、土地や気候、お
よび時代背景によって影響を受けていた。
それぞれの地域における伝統食は、季節の物を上手に使っており、栄
養価が高く、加工方法なども離乳食などへの活用が期待できる。また、
豊かな食生活を送るには、食材を知り、その活用方法を知っておく必要
があり、これら地域ではコミュニティにおける食の伝承が日常的に行わ
れていた。
豊富な食材を活用した良質な食および食の伝承を調査し、生活の基本
である食を調査することができ、目的は達成できた。
今回、西米良・椎葉・五ヶ瀬地区の伝承的な食および食習慣、そして
食の伝承についてフィールド調査を行った。今後、同様に宮崎県におけ
る他地域の食および食習慣についても調査をしていきたい。今回の調
査内容を元に、現在育児を行っている母親などを対象にした質問紙調
査を行っていき、現在の食や食習慣、食の伝承について明らかにし、比
較検討を行っていきたい。また、食の伝承については、伝承を受ける側
からの視点より、現代の伝承方法の問題などを調査し、家族の「食と健
康」基盤と「絆」構築の食育プログラムを開発する一助とし、プログラム
開発を進めていく。
医学部看護学科
母性(助産専攻)看護学講座
専門領域:母性看護学,助産学
平成26年度 地域志向教育経費
地域志向教育研究経費区分:自由公募型
対象となる領域:地域志向教育領域
助教
松岡 あやか
<問い合わせ先>
みやだい COC 推進機構
住所:宮崎市学園木花台西1-1
Tel: 0985-58-7250
E-mail: [email protected]